1.《ネタバレ》 アナ・ムグラリスが車で出かけるのを、窓辺から見つめるイザベル・ユペール。
今回公開された『甘い罠』・『最後の賭け』・『悪の華』いずれにも共通して、屋内から窓外の事象を捉えるショットが特徴的だ。
窓一つを介した世界の隔たりと奥行きが、それだけで映画に波乱の予感を呼び込む。
そのフレーミングはルノワールの継承を感じさせる。(劇中では『十字路の夜』もチラリと登場。)
ピアノの置かれた応接間と居間を繋げた重層的な空間つくりの妙。そこにさらに鏡が配置されており、人物のさりげない映り込みが幾重にもサスペンスを増幅させる。
石垣の連なる暗い坂道をヘッドライトが照らしながら、危うげに車が下っていくシークエンスの緊迫感が素晴らしい。この前進移動ショットはまさに『十字路の夜』だ。
そして、イザベル・ユペールがみせる仮面的表情とソファにうずくまる彼女の背後にレイアウトされた蜘蛛の巣の刺繍。隣室から聞こえてくる葬送曲の調べ。
それらが醸しだす不穏なラストの余韻まで緊張が途切れない。