1.両思いでありつつ、主役の二人は真正面から直に向き合う事がない。奥ゆかしく振り向きあい、寄り添いあい、面を介して肩越しに覗き込み合う。両編通じて、優雅な円の動きによって二人のエモーションが描出される。二人の逢瀬、祭りの輪、多人数掛けの殺陣と、それぞれに活かされる円のアクションはひたすら優美である。多人数が入り乱れる驚異的な長まわしの殺陣においても画面が安定感を失わないのは、鶴田浩二の重心を落とし摺り足を基本とした能あるいは合気道に近い円運動とキャメラの滑らかな水平移動の組み合わせの絶妙さによる。そして緩から急へのうねりの見事さ。鈴木静一の音楽と相俟って盛り上がる殺陣終盤のショット繋ぎの力強さと流動感は圧倒的だ。能に絡んで、霧の漂う木立や墓地の美術セット等、何れもまさに幽玄を感じさせる素晴らしさである。