3.《ネタバレ》 名匠シドニー・ポラック撮った唯一のこの戦争映画は、私が今までに観た戦争映画の中でも群を抜いて変わっています。町山智浩氏は本作と並べて『僕の戦争』『まぼろしの市街戦』『キャッチ22』をヘンテコな戦争映画として紹介していましたが、このチョイスには私はもろ手を挙げて賛同いたします。 監督シドニー・ポラック・主演バート・ランカスターとくれば典型的なハリウッド映画という布陣に見えますが、撮影監督がアンリ・ドカエ・音楽がミッシェル・ルグラン、ジャン・ピエール・オーモンまで出演しているので映画前半のテイストはまるでクロード・ルルーシュが撮った戦争映画みたいな錯覚を覚えます。舞台はバルジ戦間近のアルデンヌの森にある古城と血筋が古いだけが取り柄の伯爵、そこにいかにもアメリカンな米軍の補充兵たちがやって来る。古城には名画や美術品が山の様にあって、伯爵はこの家宝と伯爵家の血統を守ることだけが関心ごとで、大戦の推移にはまるで無関心。たった八人しかいない米兵もなぜか少佐や大尉から一等兵までいて、これもどこか奇妙な集団。アルデンヌの森の中の村なのになぜかド派手な娼館があってけっこうゴージャスな娼婦がそろっている。伯爵は性的不能で妻(なんと伯爵の姪!)をバート・ランカスターの少佐に寝取らせて無事に妊娠、なんとか世継ぎを創ることに成功。ピーター・フォークが演じる軍曹は本業がパン職人、未亡人がやってる村のパン屋に入り込んで戦争そっちのけで大好きなパン焼きに精を出す。村の目抜き通りでは部隊から脱走した兵士たちがキリスト教伝道団を結成して説教している。とても戦争映画とは思えないフワフワした設定で、ほぼおとぎ話だととらえた方がよい前半部です。中盤からは独軍が怒涛のごとく攻め込んで来て血で血を洗う壮絶な攻防戦と一変してしまいます。独軍の戦車は鉄十字をつけただけのもろT―34(これでロケ地がユーゴスラビアだと判ります)、撮ってる側は「これはあくまでパンサー戦車のつもりです、脳内変換お願いします」なんですけど、この場違いなT-34の登場がおとぎ話チックなテイストを強調する予想外の効果を生んでいる気がします。そして夜になって城に攻めてくる独軍が使う兵器(?)にはたぶんこの映画を観た人すべてに強烈なインパクトを与えるでしょう、なんとサイレンを鳴らしたハシゴ消防車が登場するんですから!城壁を乗り越えるのにハシゴ車を使うというのは理にかなってはいますけど、その絵面はあまりにもシュールです。 本作は小説の映画化ですが、幻想的な雰囲気の中で史実の戦闘を描くところなんかは、ヴォネガットの小説に通じるところもあると感じました。この映画がどれだけ原作の意図を伝えているのかは、私にはわかりませんけど。