1.《ネタバレ》 この映画には60年代の台湾の全てがある。市井の人々の暮らしと、政情、文化、天気までも。
クールなアングルが印象的な固定カメラと、夏の夜の匂いまで運んできそうな夜の闇。画が本当に格好いい。
何より、背景である20世紀半ばの台湾の暮らしの細部、特に日本統治の名残である日本家屋のノスタルジックなことは日本人である私の琴線をかき鳴らすこと半端なかった。この懐かしさ、祖父母の家かと思うほどにセットなどではない本物の生活感がある。低い天井、コンクリの流し台、使い込まれた机の木の黒光り具合。緑の羽根の背の低い扇風機、大きなラジオで知る合格者、型紙から縫い上げるワンピース。小物ひとつ取っても郷愁であふれる張一家の暮らしなのだった。
青春を生きる世代とその親の世代、二つを交互に描くことでその距離も浮かび上がる。本土から来て十二年も経つのに未だ生き辛い外省人の大人たちと安定しない社会に漂う漠然とした不安。徒党を組んで虚勢を張ることでアイデンティティを維持する男の子らはどの時代どの国でも見られる青春群像なんだね。
男子も女子も、見事にスクリーンの中で生きていて、これが演技であるということを途中忘れて観ていた。
役者が最後まで決まらなかったというヒロイン、魔性の少女小明。この娘がじわじわと凄い。ぱっと見絶世の美少女ではなくとも、話を追ううちに彼女の放つ毒にヤラれている自分がいた。ましてや常識的な家庭に育った我が小四にはアクが強すぎた。恋をしてはいけない娘だったのだ。清楚な佇まいとラインの綺麗な首、でも強すぎる眼の光。
彼女の薄幸な境遇を思えば、小明が「自身の心身を預けられる相手」を本能でキャッチするようになっていったのも無理からぬ気がする。私は彼女を責められないが、地域のボスまたは№2、バスケ部のエース、若い医者、司令官の息子、と指折り数えてあわわわ・・、と呆然となっちゃった。
そしてなだれ込む悲劇の夜。青春の視野狭窄と愚かさと純情が混じって暴走した末の、やり切れない結末。
この上なく苦い切なさが、もはや関係の無いラストのラジオからの合格者を告げる声と合わさっていつまでも消えなかった。
観た事を忘れない、半世紀前に生きた家族の比類の無い物語。