1.確かに、ありわせのビデオをデジタル化したような最悪の画質。へんな雑音も入ってるし。
この映画にヒッチコックのいわゆるどんでん返しに次ぐどんでん返しのサスペンスを期待すると失望する。
イングリッドバーグマンの精神を患ってるのかと思ったら、ただの酔っ払いだったという演技のまずさもイマイチ。
ではなぜそんな作品が9点かというと、それはひとえにヒッチコックの群を抜いた演出力に捧げた点数。
これはサスペンスというよりは、愛憎劇だ。
それもイタリアの巨匠ヴィスコンティなどが描く愛憎劇に似ているが、ヴィスコンティなどよりはるかに演出技巧が高度。
ワンカットで、外から女中部屋を通ってダイニングへ、さらに居間へ移動して、またダイニングへもどってくるとか・・・
どうやって撮ったんだろうとおもわれるような、あのワンカットの息の長さ。しかも息が長いだけでなく
登場人物の心理に合わせて巧みにカメラサイズを変え、役者を自在に出入りさせている人物さばきのうまさ。
こういう卓越した演出が自然の流れの中で随所に見られ、愛憎劇に深みを与えている。
普通ならこれは重い悲劇に終わる話だが、それをしないで軽いハッピーエンドに終わらせているところが、
いかにもヒッチコックらしい。
結局ヒッチコックは、どんでん返しのサスペンスストーリーに頼らなくても十分重量級の悲劇を撮れる巨匠なのだが、
生涯、観客へのサービス精神に徹した、超一級の職業監督だったんだな、と思った。