1.《ネタバレ》 大学受験の合否通知であろう電報を郵便局員が高橋知美さん宅に運んでいくのを背後からカメラが追う。
緊張しているはずの知美さんを気遣って、クルーは家の外で郵便配達車をずっと待っていたのだろう。
獣医になった知美さんが実家の牛の出産に立ち会うシーンも、彼女が語るように「何日も辛抱強く待ち続けて、出産はあっという間」だが、
その感動的な出産シーンを撮るためにスタッフも粘り強く付き添ったのだろう。
勉学に勤しむ彼女に差し支えないように、撮影を控える場面も多々あったろう。
そうした画面に映らぬ部分・映さぬ部分にこそ、スタッフの誠実さを見る。地道な長期取材と関係づくりあっての「素」の表情であり、佇まいである。
正味86分にそれが結晶している。
合格の通知に突っ伏して歓びを噛みしめる姿のいじらしさ。彼女を支える父母と妹さん二人の働きぶり、祖母の朗らかな表情。
獣医師として成長し、暴れる牛にも動じることなく冷静に処置できるようになった姿の頼もしさ、それぞれに魅せられる。
元がテレビ素材ゆえに表情に寄りがちなのが玉に瑕でもあるが、その子供たちのまさに純真そのものの表情と涙を目の当たりにすれば
グリフィス的クロースアップの欲求を抑えがたいのも無理はない。
画面の解像度もまた26年の歳月を感じさせるが、ラストはより映画を意識したのだろう。
土本監督の水俣シリーズが海の光で人々を包むように、牛舎から外へと凛々しく向かう知美さんを雪の白と輝く逆光で包ませる。
子牛を抱き寄せ、頬ずりして慈しむ幼い知美さんの印象深いショット。生きる姿勢の素晴らしさと共に、映画の被写体としても稀有の素晴らしさなのである。