1.SFスリラーの秀作。ただし観る人を選ぶ。
まず観終わって出てきた感想が、映画とはこういう機能もあるのだな、ということ。
例えて言うのであれば、週刊連載漫画の連載中の面白さと、実際に完結した後に一気に読んだ面白さは、たぶん違う。
同じように、映画を観ている最中の面白さと、全部観終わった後に作品として優れているかは、たぶん違う。
この映画は、前者の、映画を観ている最中の面白さという点では、結構優れていると思う。
まず、映画の冒頭から「あれ?SFを観に来たはずだけど劇場を間違えたかな?」と不安になるような、美しいロード・ムービーがスタートする。
遠くの大学に行ってしまう彼女の引っ越しの為に、彼女と彼氏(主人公)とその親友の男友達の3人で、長距離ドライブ。
米国の片田舎、ガソリンスタンドのコーヒー、障害を持つに至った主人公と、彼女の不安定な関係。
その二人の親友であるオタクな学生の執着。3人の道中は、非常に情緒的に美しく描かれる。このまま一本撮れてしまいそうだ。
それが一転して……という展開がこの後何度も起こる。一本の映画を見ていて、間違いなく連続しているのに、その瞬間瞬間で映画の種類が違う。
ずっと同じテイストなので、違和感は無い。違和感は無いのに、間違いなくジャンルが変節していく。
そういう、どこに連れて行かれるのかわからない、ジェットコースターのようなスリラーとしては間違いなく秀作だと思う。
ただし、恐らくは若者向けにまとめあげた監督は、半端に芸術的なものにするよりも、きちんと「映画として楽しめる」用に作っている。
これは間違いなくよく出来た丁寧な作品だけれども、どうしても一歩「若者向けの娯楽映画」の枠を出ない。
ただ、その枠に当てはめるところまでも監督が意識したところなのだと思う。
だから、傑作のSFを期待するのであれば違うし、トータルで整合性のとれた物語として観るのも違う。
ボーイフレンドやガールフレンドと、ポップコーンを頬張りながら観るSFスリラーとしては、良く出来ている。
たぶんそれがこの映画の良い点であり、同時に欠点でもあると思う。