5.《ネタバレ》 非常にセンスのある作品に仕上がっている。
ミュージック、ファッション、作風・世界観いずれにも見応えがあり、アメリカ作品とは異なるイギリス作品らしいユーモアセンスも抜群だ。
下ネタがかなり多いが、下品になっておらず、こちらも絶妙なユーモアとセンスで上手く調理されている。
「板垣死すとも自由は死せず」という有名な言葉があるが、「海賊ラジオ死すとも、ロックは死せず」ということだろうか。
ロックを語れるほど、ロックに傾倒しているわけではないが、その自分にも「ロック魂」「ロック愛」のようなものが十分伝わってきた。
政府に禁止されようとも、船が沈没しようとも、最後の最後までロックを流し続ける、ラジオを流し続ける“魂”が熱い。
当時の人々が熱狂したかもしれないという理由が分かる気がする。
見ているうちに次第に、個性のあるイカれた野郎どもと1人の女性コックが愛おしく感じてくる。
自分もこの船の乗客になったかのように、アットホームで仲間内な雰囲気に飲み込まれていく。
それぞれの個性は強烈であり、キャラクターも生きているとは思う。
しかし、何度か見れば、当然感想も変わると思うが、初見では乗員それぞれの内面というものまでもは完全には伝わりきれていない。
ただ、それぞれのキャラクターに変なエピソードを設け過ぎると、その世界観や映画としての個性が崩れる可能性があるので、難しいところだ。
ロックを愛する訳の分からない連中が騒いでいるだけの映画でも、本作にとってはよいのかもしれない。
長所でも短所でもあるのが、この“ユルさ”である。
バカバカしいようなところでも、そのユルさによって、バカバカしくは感じさせない。
しかし、前半はその独特な世界観にハマるが、ストーリーらしいストーリーがなくキャラクター及び世界観依存型の映画なので、中盤は多少ダレてくるところがあったような気がする。
個人的には、船の沈没間近でも革パンを履いてくるところや、命よりも大事そうなレコードを「これはクソだ」と放り投げるようなところが気に入った。
『それぞれのキャラクターの内面が伝わらない』とは書いたが、このようなどうでもいいシーン一つ一つに、各キャラクターの余裕と生き様を感じられるので、何度も見て深く堪能して、それぞれのキャラクターの内面を感じ取っていく作品かもしれない。