2.《ネタバレ》 雷蔵も大映も予期していなかったでしょうが、『眠狂四郎』シリーズも終盤ラス前になってきました。冒頭からエログロな雰囲気が濃厚、今回の狂四郎の敵はまたもや将軍家斉の不肖の庶子である紫姫(例の菊姫ではない)と家武の兄妹です。紫は「血の伯爵夫人」エリザベート・バートリーの江戸時代版という設定、屋敷に若い男女を監禁してなぶり殺しにするサイコキラーで、妙に現代的な髪形の緑魔子がキャラにドはまりで今まで観てきたシリーズ中でいちばん妖艶でした。兄の川津祐介とは近親相姦の関係であることも匂わせており、要はドロドロというわけです。本作では狂四郎の個人情報も織り込まれており、舞台とされる甲州には母親の墓参りで立ち寄るという設定で、つまり狂四郎は甲斐の生まれだったというわけです。家武誅殺を狙う幕閣が接触してくるところやお馴染みの狂四郎へのハニートラップ攻撃はシリーズでの定番ですが、今までのとはちょっと違う風味で面白かったかなと思います。狂四郎が毒矢にあてられるシーンもあり、幕閣・渡辺文雄に解毒してもらわなければ死んでしまうというシリーズ最大のピンチもありました。まあ女にもめっぽう強い狂四郎も健在で、狂四郎に執心の紫姫までちゃんと肉欲を満足させてやり、「女は抱くもの」がモットーの狂四郎本領発揮でした。 それまでのシリーズで垣間見えた狂四郎の人間的な一面はほとんどなく、死屍累々となった現場を立ち去ってゆく狂四郎の姿は最高にニヒルで痺れます。ラスト、呪いの言葉を吐きながら燃え盛る屋敷に飛び込んで果てる紫姫は、『海底軍艦』のムウ帝国女王の最期が思い出されてしまいました。