26.《ネタバレ》 キャロル・リードは「二つの世界の男」と「フォロー・ミー」は文句なしの傑作だと思うが、この「第三の男」はやや完璧すぎるし、影の演出のあざとさも気になる。
淡々と謎を解き明かしていく流れ、オーソン・ウェルズの登場シーンや地下水道での追走劇も計算され尽くしている。
加えて、プロデューサーのデヴィッド・O・セルズニックの演出。
この男はどんな作品でも必ずと言っていいほど三角関係をねじ込んでくる。
「キングコング」で怪獣、男、女の三角関係を描いた男だ。当然「第三の男」も小説家、女、闇の住人の三角関係に発展していく。
第二次大戦後の暗い影が付きまとうこの映画。
戦後の新しい時代の白い「光」、社会の黒い「闇」の世界。
日夜問わずにこの白と黒がせめぎ合うサスペンス。
そこにシンプルな音楽の調べが何とも言えない雰囲気を作り出す。
友人の不可解な「謎」を追ってウィーン市内を渡り歩く主人公。
事件の真相を追うのは友情か、それとも作家としての好奇心か。
途中で出会った謎の女性。
友人について知っているらしいが、彼女にも暗い影が見え隠れしている。
様々な国が入り乱れて統治するウィーンの街は、戦後の混沌を表す良い見本だ。
そして主人公の前に現れる「第三の男」。
音楽のリズムが一気に変化し、暗闇から姿を表す。
こんなにドキドキする登場シーンはそうそうないぜ。
主人公と「第三の男」との駆け引きは徐々に激しさを増し、下水道を縦横無尽に駆け巡るラストまでの流れは惚れ惚れする。
光の中に生きる者と、闇にしか生きられなくなった者、それぞれの顛末。
それはコインの裏表のように、常にひっくり返される存在なのだ。
ラストの舗道のシーンは良いね。何度見ても。