4.《ネタバレ》 内田吐夢が農民たちの生活を極限まで突き詰めた作品。
キング・ヴィダーの「麦秋」でもここまで地味じゃなかった。
これほどリアリティを持った農民は「七人の侍」にもいなかっただろう。
「七人の侍」で息子を野武士に殺された婆さんがいた。
その人も戦火で家族を失った辛い中を生きてきたという顔だ。
このように軍役や戦中・戦後の混乱をくぐり抜けた面構えの俳優が多かったが、この「土」に出てくる爺さんオッサン連中の面付きはもっと凄い。
辛い農民生活を身を削りながら耐えてきたという、そういう面付きの連中が多い。
フィルムは歳月を経て劣化が進んでいる箇所もあり、画質や音の悪さ、さらに冒頭とラストのシーンが欠如してしまっている。
欠如した部分は字幕で補われているが、劇中の絵で語る場面は言葉を必要としない凄味が伝わって来る。
物語はある農村の家族の生活を辛辣に描いていく。
主人公は祖父が残してしまった借金の完済に追われる身だ。
家を残してくれた父親を敬う反面、借金を残した父を恨んでもいた。
まるでドキュメンタリー映像でも見るかのような農村の様子。
ボロボロになった衣服、干からびた大地、多少の水ではすぐに渇いてしまう大地。
そこに大粒の雨が振り再び田は潤う・・・。
更には雷鳴のような音を立てて開く農家の戸。
娘がこっそり とうきびを狩りに行く場面。
ガラリと空く戸が緊張感を引き上げる・・・。
嫁入りで賑わうささやかな宴会。
火災の映像も凄い。
家が燃えてしまった残念だが、命あっての物種だ。
終盤で主人公が落ち込む様は情けないとも思ったが、自分の家が焼けたら誰でもああなってしまうだろう、抜け殻のように。
父を恨む息子、理由を知らない周りの人々は「なんんと親不孝な」と主人公を詰る。
しかし父親も責任を感じていた。
死が迫る父親、父親のために立ち直る主人公。
ラストの部分が欠如していたのは残念だが、恐らく感動的なラストで締めくくったのだろう。字幕がそう補完しているし。
内田吐夢はよく作品のテーマが余り「受けるイメージが無い」のでいつも資金繰りで困ったらしいが、映画仲間や知人から余ったフィルムや費用の援助をしてもらっていた。
それは毎回映画をヒットさせるという事と、何より人々に与える感動が内田吐夢の信頼となっていたからだろう。