1. トラベラー
《ネタバレ》 題名からプロサッカーの国際試合を見に行きたい少年のロードムービーだと思っていたが、 そこまで尺を割いておらず、むしろあの手この手であくどい資金調達を行う悪童のバイタリティには驚かされる。 サッカー狂で後先や周囲のことなどお構いなし、それなのに如何にして一つ一つの問題をクリアしていくのか、 シンプルで淡々とした展開ながらサスペンス調の緊張感を持っていくキアロスタミの手腕の良さを感じられた。 テヘランに辿り着いたのは良いが、チケットは売り切れでダフ屋で資金使い果たすわ、 寝過ごして試合を見逃すわで踏んだり蹴ったり。 欲望のために家族にも仲間にも顔を見せられないレベルでやらかしたのだから、 帰れば体罰どころでは済まないが、そもそも有り金使い果たした彼は帰れるのか? 反面教師的なメッセージはあれど、瑞々しさと迸るエネルギーに説教臭くないバランス感覚があり、 律儀で大人しくなった現代日本から見るとその逞しさに羨ましさはある。 [インターネット(字幕)] 6点(2024-06-10 22:42:08)《新規》 |
2. 桜桃の味
《ネタバレ》 点数付けづらい…。男が何故自殺をしたいのかは判明されず、そこはマクガフィンだとしても全編単調な作品なため睡魔との闘いになる。唯一引き締まるのは老教授の説教であり、宙ぶらりんなラストもまた衝撃である。そこで伝えたいことが嫌味なく自然体で集約されていたから。 [ビデオ(字幕)] 5点(2022-03-14 22:34:02) |
3. ある過去の行方
《ネタバレ》 二番目の夫が始末をつけるために元妻のいるフランスに到着する冒頭からの演出、 お互いに何を喋っているのか、その空白が不穏な空気と意識のズレを作り出す。 根幹となるのは三番目の夫となる男の前妻が何故自殺未遂を図ったのか。 その過去を調べれば調べるほど、全員が不幸になっていくスパイラルに陥るのは、他のファルハディ映画と同じ。 過去と未練に縛られて誰もが面倒臭くて被害者意識が強い。 酔っているとさえ思えてくる、演出上の作為が透けて見えてしまうのは欠点か。 フランスが舞台なのだから、もっと自由に撮れば良いのに。監督は本当に生真面目なのだろう。 [DVD(字幕)] 6点(2020-05-19 01:04:09) |
4. セールスマン
《ネタバレ》 性暴力を描いた作品。だが、アスガー・ファルハディ監督だけあって、そういう描写は一切描かず、悲惨な状況に滅入る暇もなく、病院のシーンに切り替える。直接的な表現も用いらず、常に台詞が遠回し。確かに力量は高いと言えるが、正しくは"描きたくても描けない"のだ。一見、西洋化が進んでいるようで、イスラム教国家イランならではのしがらみが全編を支配する。恥の観念が強く、被害を公にされることを恐れる女性の立場の低さや貧困が表面では浮かばないように描いているし、劇中劇でも検閲が入る。常に息苦しく緩慢な展開が続く。終盤で犯人が見つかったときから物語は急変する。夫は加害者の老人の家庭を破壊するような方法で復讐をしようとするが、病気持ちの老人の容態が急変したタイミングで家族が駆けつけてくる。幸福な家庭を持つ老人と泣き叫ぶ家族により、完遂しようにもできない宙ぶらりん状態。皮肉にも復讐を望まぬ妻との関係に亀裂が広がっていく。何て後味が悪いのか。あのとき~していればの後悔が、劇中劇の『セールスマンの死』とリンクする。この作品も非情な資本主義に呑まれていく男の悲劇を描いていた。そのアメリカ的資本主義にイラン社会がついていけていない不安と苛立ちが付きまとう。 [インターネット(字幕)] 6点(2020-05-19 00:36:41) |
5. 別離(2011)
《ネタバレ》 誰が悪く、誰に責任があるのか。言葉の応酬が繰り広げられ、家族を守るための嘘が双方の傷口を大きく広げていく。追い出した際に階段まで転げ落ちたのか、それ以前に自動車と接触していたのか、家政婦の流産の原因は明かされることはない。そう、真の主人公は、高度成長で一見普通に生活しているように見えて、イスラム教による厳しい戒律が根底にあるイランだということ。息苦しく閉鎖的で下手に身動きしたら状況を拗らせる複雑な社会構造が垣間見える、ありのままのイランの姿。国外脱出する母親と、イランに残る父親のどちらを娘は選ぶのか。断絶を象徴するラストカットに沈黙する。 [映画館(字幕)] 8点(2018-06-20 19:13:53) |