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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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1.  愛と哀しみの果て
美しい撮影や壮大なロケーションに支えられた重厚長大な時代劇。オスカーを獲るために作られたんじゃないかと思うようなザ・ハリウッドな作品であり、その思惑通りに同年のアカデミー賞では主要部門を独占したのですが、これが名物に旨い物なしみたいな仕上がりとなっています。 冒頭から確かに見ごたえはあるものの、まったく心に刺さらない時代劇がダラダラと長時間続くわけです。見ていることがここまで苦痛に感じる作品も久し振りであり、最後まで完走できた自分が誇らしくなりました。 あと、邦題がおかしくありませんか?確かに愛も哀しみもあったけど、それがすべての映画でもないような。
[インターネット(吹替)] 2点(2018-03-24 03:12:16)
2.  ナイロビの蜂 《ネタバレ》 
本作への評価って、妻・テッサの行動を肯定的に見られるかどうかがポイントではないかと思います。レイチェル・ワイズのオスカー受賞から察するに欧米では彼女を英雄視する向きが強いのだろうと推測するのですが、日本人的な感覚で言うと、彼女の行動はちょっと受け入れ難く感じました。 外交官である旦那・ジャスティンの職業的な立場や評判を気にせず、市民運動家的な活動にのめり込むテッサ。この時点で私はダメでした。目の前の社会問題を許せず、自分が何とかしなければと意気込む動機こそ理解可能ではあるものの、活動に走る彼女の目にはジャスティンの姿がまるで映っていないのです。原題が示す通り庭いじりくらいにしか積極的な姿勢を見せない温厚・朗らかな旦那が、これではあまりにも可哀想すぎます。 この手の市民運動家的な活動には、のめり込み過ぎると当事者から正常な判断能力を奪ってしまうという問題があります。死産をきっかけとして現実逃避するかのように活動にのめり込んでいったテッサからは、どこまで手を出していいのかという判断能力が失われ、自分とその協力者の惨殺という最悪の結果を招きました。そして、自分の身を守るという観点が欠落した運動は、家族までを巻き添えにします。私はこれを英雄的な行動として受け取ることができませんでした。 全体的な物語の整理もよくできていなくて、目だけで演技ができるレイフ・ファインズに無口なジャスティンの感情表現をまかせっきりにしているために、盛り上がりどころをことごとく逃しています。特にラストでの行動については、陰謀の存在を世界に対して証明するために自身の殺害というセンセーショナルなイベントをあえて仕込んだという構図が分かりづらく、死をもって妻の仕事を完成させようとした彼の壮絶な自己犠牲の精神や、死地へ赴く際の決断の重さがまるで伝わってきませんでした。ある目的を達成するためにはそうせざるをえないという背景が事前に描かれてこそ自己犠牲の物語は盛り上がるのですが、これでは他にも方法があったのに無策にも死へ飛び込んでいった人に見えてしまっています。 そもそも、ちょっと調べるだけで次々と出てくる悪だくみの痕跡や、問い詰めればアッサリと内幕を話してくれる敵方の関係者など、全体として捜査の過程が緩すぎたことも、ラストの決断を軽くしているように感じました。一流の俳優・一流の撮影に支えられているため見てくれだけはいいものの、どうにも中身の伴っていない作品であると感じました。
[インターネット(吹替)] 5点(2018-02-20 19:07:57)(良:1票)
3.  わたしは生きていける 《ネタバレ》 
ルックスも演技力も存在感もあって同世代のスターのトップになってもおかしくない逸材なのに、なぜか作品に恵まれないシアーシャ・ローナンの、何作目かの残念作品でした。 原作は世界的ベストセラーになったヤングアダルト小説なのですが、同様の出自を持つ『ハンガー・ゲーム』や『ダイバージェント』と同様に、本作の監督や脚本家は思いっきり手を抜いています。雇われ仕事感全開というか、原作に書いてある事をとりあえず実写化しとけばいいんだろという姿勢が透けて見えてくるのです。 よくある少年少女の恋愛物語によくある終末SFをミックスしただけの内容であり、そのどちらの構成要素も突き抜けていません。観客が予想した通りにロマンスは進行していき、感情表現も紋切り型で特に感動を呼びません。世界観の描写の甘さは致命的なレベルに達しており、どうやら世界大戦の危機にあるようだが、その脅威の正体は外国の軍隊なのか、大規模テロなのか、国内の反乱分子なのかすら判然としません。世界観の説明に時間を割くべきタイプの作品でないし、むしろ何が起こっているのか分からないというシチュエーションこそが思春期の混乱を投影していることは分かるのですが、それでも主人公の危機を観客に伝えるためには、目の前の脅威を見分けるための最低限の情報は必要だったと思います。
[インターネット(字幕)] 4点(2018-01-16 23:17:07)
4.  サバイバー(2015) 《ネタバレ》 
スターといっても過去の人達が顔を揃えたVシネなので大して期待はしていなかったのですが、その下がりまくったハードルも越えられないほどの無残な出来でした。 主人公が極端な行動をとらざるをえなくなる理由づけが物凄く弱いので、序盤から躓いています。例えば1993年の『逃亡者』では、「俺は無実だ」の主張に対して「知ったことか」と返すジェラード捜査官の一言により、これは逃げる他ないということが主人公と観客との間の共通認識として成立していました。他方、本作はあのような端的なやりとりがないまま本編を始めてしまうので、頭には疑問符しか浮かびませんでした。 そもそも、世界最高クラスの殺し屋に命を狙われており、しかも目の前で同僚や上司を殺され「敵は本気だ」ということが明白な状況で、自力で事に当たる奴なんています?第一容疑者に上がっており自分にとっては不利なシチュエーションかもしれないが、それでも殺されるくらいだったら警察に駆け込み、少なくとも口封じはされない環境下で身の潔白を証明するという行動がもっとも合理的だと思うのですが。 その後、度重なる殺し屋の追撃を交わし、国際指名手配犯であるにも関わらず国際線で移動してついに母国まで帰ってくる主人公。あまりに無茶な展開が多いので、実はCIAという設定でもあるのだろうかと思っていたのですが、ただの事務系職員のまま通すので悪い意味で驚かされました。さすがに無理ありすぎでしょ。 NYに着いたら着いたで、さっさと捜査機関に駆け込んでテロの警告をすればいいものを、またしても一人で事に当たろうとする主人公。もはやバカにしか見えませんでした。プロフェッショナルであり、しかも複数人である敵側が、そんな主人公相手に敗退するという展開にも何らカタルシスが宿っておらず、短い上映時間をごまかせるほどの内容もない作品でした。
[インターネット(吹替)] 3点(2017-11-30 18:13:44)(良:1票)
5.  スパイ・レジェンド 《ネタバレ》 
ロジャー・ドナルドソンは『スピーシーズ』や『ハングリー・ラビット』のようなどうしようもない映画を撮る一方で、たまに『追いつめられて』や『バンクジョブ』のような異常な切れ味の娯楽作を作ってしまう人物であり、有能なんだか無能なんだかよく分からない監督なので、とりあえずこの人の作品は自分の目で確かめるしかないなと思っているのですが、今回のドナルドソンはハズレの方のドナルドソンでした。 元はダニエル・クレイグ主演の予定がキャンセルされ、ドナルドソンが『ダンテズ・ピーク』で仕事をしたことがあり、かつ、クレイグの”前任者”であるブロスナンに白羽の矢が立てられたというプロダクションの経緯があるのですが、これがそもそもブロスナンのために準備されていた映画ではないかと思うほどよくハマっており、ブロスナンはとにかく最高でした。主人公は格闘でも銃撃でも無双状態の強さを誇り、情報収集能力にも長けて、美女からも惚れられる。こんな浮世離れしたスパイをこの時代に演じられる俳優はブロスナンくらいのものであり、常に必死さが付きまとうクレイグでは、こうはいかなかったと思います。 ただし、二転三転する物語の割には、大半の観客が最初に怪しいと感じた人物がやはり悪の元締めだったという展開に意外性がなかったり、これまた大半の観客が「何かあるな」と思っていたヒロインにやはり過去がありましたという展開にも面白みがなく、謎の隠し方が総じてうまくありません。さらには、ブロスナンの個性があまりに強すぎて、彼と張り合うこととなる元教え子(本来の主人公は彼なのでは?)や、ロシア側の女殺し屋の個性がほぼ埋没しており、これならばブロスナンの活躍を見せることに専念して物語を極力シンプルにした方が良かったのではないかと思います。
[インターネット(吹替)] 5点(2017-11-15 23:58:30)
6.  エイリアン:コヴェナント 《ネタバレ》 
プリクェルではないという微妙な立ち位置で多くの観客に混乱を与えた『プロメテウス』から一転し、本作では『エイリアン』の看板が戻り、全体としては原点回帰の作風となっています。怪しげな星に立ち寄った宇宙船がどえらい目に遭わされるという物語であり、血もドバドバ出ます。これぞエイリアンです。ただし、バカな人間がバカなことをしでかしたために余計に事態が悪化するという、この手の映画でやって欲しくない展開が非常に多くて登場人物に感情移入できなかったことが、観客の恐怖心を和らげるという悪い影響をもたらしていますが。 コヴェナント号が航路を外れてまで舞台となる星にやってくるという基本的な部分から、説明がうまくいっていません。「我々の生存に必要な要素が揃っている。当初の目標である植民星オリガエではなく、こちらの星に移住しよう」という突拍子もない意思決定が実にアッサリとなされるのですが、こんな重要事項に関する判断があまりに軽すぎやしないかと驚きました。一応、この意思決定を下した艦長代理には「信仰心が厚すぎる余り、合理的な判断をできない可能性のある人」という人事評価があり、そのために艦長への昇進を見送られてきたという設定もあるにはあったのですが、ならばなぜ他のクルー達は艦長代理に反対の声を上げないのかと思いました。会社命令で行かざるをえなかったノストロモ号のクルー達と比較すると、事の発端部分に自業自得の要素があるため、コヴェナント号のクルー達には感情移入できませんでした。 惑星に降り立った後も、生命に必要な水と空気があり、植物も生い茂っている環境であれば未知の病原体等のリスクを考えなければならないのに、防護服なしで普通に探検を始めるものだから、この人達はバカなのかと思ってしまいました。いよいよバックバスターに襲われる場面では血で足を滑らせて転倒、一心不乱に撃った弾丸が可燃物を直撃して着陸艇大爆発と、こちらも愚かなキャラクターが事態を悪化させるという形で物語が進んでいくため、怖いというよりも呆れてしまいました。 そして、『プロメテウス』で活躍したデヴィッド登場により、場はさらに混乱します。隠れ家としてデヴィッドに案内されたのは未知の巨人の死体がゴロゴロ転がる、見るからに怪しい場所であるにも関わらず、「ここは安全だ」というデヴィッドの言い分を全面的に鵜呑みにするクルーのみなさん。また、一か所に固まって救援を待てばいいものを、単独行動でどんどん戦力を消耗していくものだからイライラさせられました。彼らの持つ銃火器はエイリアンに対して効果を持つようだったし、用心深く対処していれば全員で生き残ることも可能だったと思うのですが。 一応、エイリアンの起源も説明されます。前作でエンジニアが作り出したものをデヴィッドが品種改良して完成させたのがみなさんご存知のエイリアンでしたという、それを知ったところで「へぇ~」とも何ともならない、実にありがたみのない説明ではありましたが。起源を描けば描くほどエイリアンの存在は矮小化しており、「偶然出会った訳のわからん凶悪生物」という第一作のまま放っといてあげればよかったのにと思いました。 リドリー・スコットによると、次回作『エイリアン/アウェイクニング』は『プロテウス』と本作の間の時期を舞台にした作品となるようですが、エイリアンの起源に関する興味はあまりないので、これ以上の続編はもういいかなという感じです。
[映画館(字幕)] 5点(2017-09-16 12:35:20)(良:4票)
7.  少年は残酷な弓を射る 《ネタバレ》 
私は3人の子育てをしているのですが、子供は決して天使ではないし、必ずしも親の愛情に応えてくれるわけでもなく、親との折り合いの悪い子、どうやっても出来の悪い子もいます。我が家の場合は、手をかけて丁寧に育てているつもりの長子が気難しいひねくれ者になり、一方でほとんど放置状態にあって親として申し訳なさを感じている次子の方が素直な気質を持つなど、親の努力と子供の有り様がうまく整合しないことに子育ての難しさを感じています。世間的には「あなたの育児方法が悪い」と切って捨てられるのかもしれませんが、他の家庭を見ても、これが子育ての実態なのだと思います。 本作は育児に失敗した親の物語なのですが、完全に母親目線のみで作られていることが大きな特色となっています。結果的にケヴィンは凶悪事件を起こし、エヴァは社会的制裁を受けました。確かにエヴァはケヴィンの異常性から逃げ続けており、”We need to talk about Kevin.”と旦那に伝え、ようやく動き出そうとした段階では時すでに遅し、まさにその当日に事件を起こされてしまいます。妹の片目を潰された時、ハムスターを殺された時、もっと遡ると「死ね!死ね!」と幼児らしからぬ言葉遣いでゲームをしていた時など、息子の凶暴性を示すシグナルはいろんな場面で出ていたにも関わらず、彼女はそのタイミングを悉く逸していたのです。ただしこれとて外野の意見であり、精神的に追い込まれた状態で子育てをしていたエヴァには「日々何事も起こらぬように」と祈ることしかできず、問題対処までの余力はなかったこともまた事実でした。 家族とは厄介なもので、常に顔を合わせる共同体だからこそ波風が立たないことを祈り、時が解決してくれることに期待するという一面があります。子の犯罪に対して親の責任が問われる時、「なぜいつも一緒に居るのに放置したのか」などという意見もよく聞かれますが、いやいや、いつも一緒に居るからこそ口を出しづらいということもあるのですよ。子の問題の核心を突いてしまうと、ギリギリで保たれている家庭内の均衡が崩れ、状況がより悪化してしまうかもしれないという恐怖。これは問題のある子を持つ親に共通する心理ではないでしょうか。ここで母親目線という本作の建付けが活きてくるのですが、エヴァと同様に観客の目にもケヴィンは手の付けようのない悪魔として映る仕掛けとなっており、大上段からあるべき論で関係者を裁くという安易な方法をとらせません。私だって子供の欠点すべてに向き合っているわけではなく、「子供なんてこんなもの」「親が口を出し過ぎるべきではない」「いつか自分で気付いて直すはず」などと自分を言い聞かせて妥協をしている部分があります。凶悪殺人事件という極端な題材を扱いながらもこれを対岸の火事とさせず、世の親に共通する恐怖心を的確に突いていることが、本作のうまいところなのです。 そして、話のオチの付け方も見事なものでした。冒頭より、なぜエヴァは事件のあった地元を離れて自分だと気付かれない場所へと引っ越さないのだろうかという点が引っかかっていたのですが、最後の最後、自分自身はソファを寝床にしながらもケヴィンの帰る部屋をきれいに整えているエヴァの姿から、この親子には尋常ではない絆が存在し続けていたことが判明します。ケヴィンは母親への反発という感情、エヴァは息子への当惑という感情しか持ち合わせていなかったが、その根底には愛情ともやや違う強力な絆があったということを、取り返しのつかない大事件の後になって二人はようやく認識します。この熱いんだか冷たいんだか分からない親子関係のどうしようもなさが判明した時、私は物凄く胸が熱くなりました。「出来の悪い子ほどかわいい」という言葉がありますが、悪しき一面を持つ子供って、親のある要素を強烈な形で引き継いでいる場合が多く、親としては憎くて仕方ないんだけど憎みきることができなかったりします。本作はこれを容赦のない形で描いてるんですね。本編中には、この親子は似ているという点を示す描写がいくつかあります。ケヴィンの問題行動を受けたエヴァの感情は「なぜこんなことを」ではなく、「理解できなくはないが、なぜここまでやるの」だったのではないでしょうか。 個人的には、今まで見てきたすべてのドラマの中でも最高レベルの感動がありました。ただし、プロデューサーを務めたソダーバーグの影響か、過去と現在を行き来する編集が少々ウザかったので、一点減点とします。凝った編集もほどほどであれば効果的なのですが、全編これでは疲れてしまいます。
[インターネット(字幕)] 9点(2017-09-14 19:00:22)(良:1票)
8.  ダンケルク(2017) 《ネタバレ》 
IMAXにて鑑賞。IMAX撮影されたノーラン作品は、IMAXで鑑賞するのが正しい見方ですね。 戦争映画は群像劇と結びつきやすい素材である上に、監督は幾重にも重なる物語を描き続けてきたクリストファー・ノーランだけに、現場や司令部を横断的に描く重厚な作品になるのかと思いきや、なんと話らしい話がないという意表を突いた作風となっています。本作はノーラン版『マッドマックス/怒りのデスロード』とでも言うべき内容なのですが、「ある地点からある地点へ移動する」という単純なストーリーに見せ場をてんこ盛りにした『怒りのデスロード』と同様に、本作も「救助を待つ兵士」「救助に向かう船」「敵を排除する戦闘機」という極めて単純な図式にまで各構成要素を落とし込んだ上で、冒頭からエンドクレジットまで絶え間なく見せ場が続くという男っとこ前な作風となっています。 しかしそこはノーラン、ただ単純な物語を描くのではなく、陸での1週間・海での1日・空での1時間を交互に見せ、ラストですべてのタイムラインを合流させるという恐ろしく難しいことをやっており、相変わらずその構成力には驚かされます。さらには、タランティーノ辺りみたいに「どうどう、凄いでしょ?」というこれ見よがしな見せ方ではなく、こういう難しい芸当をサラっとやってのけてみせるんですね。この余裕に巨匠の貫禄を見ました。 また、戦場での友情とか、個々の兵士の物語や、生きて帰らねばならない背景といった、戦争映画にありがちなドラマ要素がほぼ排除されているという点も、本作の特色となっているのですが、かといって感動的な要素がないというわけでもなく、目の前の描写の積み重ねのみできちっと感情的な山場を作れています。チャーチルの演説が引用されるラストはさすがに甘々すぎやしないかと思いましたが、それでも「良い映画を見たなぁ」という余韻を残してくれます。
[映画館(字幕)] 9点(2017-09-09 15:00:45)(良:3票)
9.  コンカッション(2015) 《ネタバレ》 
極限まで肉体を酷使するスポーツがアスリートの健康を害しているなんて、当たり前のことじゃないです?特にプロスポーツ選手は好きなことを職業にした上で、普通の人では一生見ることのできない金額を数年で稼ぐのだから、肉体を捧げることに対する見返りは十分に受け取っているわけです。そんな特殊な世界を指さして「アメフトは体に悪い。選手は被害者だ」とした主人公の主張にあまり賛同できなかったため、作品全体への共感は低くなりました。 例えば日本の大相撲だって、無理やり大食いをさせることで力士達の体格を作っており、おそらくは成人病リスクは滅茶苦茶に高いはず。寿命だって短いと思います。しかし、そのことを咎めて「力士には健康的な食事をさせましょう。肥満は厳禁」とやってしまうと、大相撲という競技は消滅するか、存続するにしても形を大きく変えるかしかなくなります。主催者・選手・観客の間での暗黙の了解が成り立っていることをわざわざ突っついて一体誰が得するのかというのが、本作の主人公を見た私の率直な意見です。また、本編の最後には元選手5,000人がNFLを提訴したというテロップが出てきますが、さんざん稼いだ後になって「自分たちに十分なリスク説明がなかった」として主催者を訴えるなんて、いかにもアメリカ的だなと思ってしまいました。 また、物語の構成もよろしくないと感じました。このテーマであれば、正義一直線のオマル医師ではなく、かつて身を寄せていた業界と敵対せざるをえなくなったバイレス医師を主人公とし、大儀と人間関係の間で苦悩する姿を描けば面白くなったと思うのですが。
[DVD(吹替)] 5点(2017-08-05 23:30:11)(良:1票)
10.  ベルファスト71
ベルファスト市街に入った直後の殺伐とした空気、イギリス軍を見たおばちゃん達がゴミ箱のフタをガンガン叩き始めた辺りからの「これは本格的にヤバイところに来てしまったな」という雰囲気作りには素晴らしいものがありました。 ただし、本編はマンハントものをやりたいのか、アイルランドの複雑な社会背景を描きたいのかがイマイチ判然とせず、ドラマもサスペンスも途中で途切れてしまいます。タイトな上映時間なのだから、ひたすら逃げ回る主人公を描くサスペンスアクションに振り切ってしまった方がよかったように思いました。
[DVD(吹替)] 5点(2017-01-21 22:26:29)
11.  アフガン・レポート
ジャンル的には戦争映画に分類されていますが、戦闘シーンはほとんどなし。地雷原にはまってしまった部隊が救出されるまでの数時間を描いた作品なのですが、その緊張感はハンパなものではありません。スリルという点では、オスカーを受賞した『ハート・ロッカー』をも凌駕しています。 この監督が今までどこで何の仕事をしてきた人なのかは知りませんが、その演出力は確かなものです。本作はある種のライド映画であり、常に観客が想定していないタイミングで地雷を爆発させるために、どこに地雷が埋まっているか分からないという登場人物たちの緊張感を観客も共有することとなります。一歩踏み出すことがこれほど怖い映画はかつてなかったと思います。集団ドラマとしても優れています。大ケガをした仲間に対して冗談を言ってリラックスさせようとしたり、弱気になった仲間を叱責したりといったやりとりがイチイチ熱いのです。また、当初は混乱していた主人公が、その目と鼻の先で何発目かの地雷が爆発して重傷者がさらに増えたことから腹を括り、冷静な指示を出し始めるという作品の転換点にはかなりの躍動感があって、見ている私も興奮させられました。 スタッフ・キャストともに無名揃いであるため日本では劇場未公開、B級映画っぽいジャケットでレンタル屋の片隅に眠っていますが、無視するには惜しい力作です。
[DVD(吹替)] 8点(2017-01-16 22:10:38)
12.  スロウ・ウェスト 《ネタバレ》 
新人監督の長編第一作目ながらマイケル・ファスベンダーとベン・メンデルソーンという信用できる俳優が揃って出演しており(ファスベンダーは製作総指揮も兼任)、低予算ながら光るもののある作品かと思ったのですが、私にはあまり良さが伝わってきませんでした。 情け無用の西部に暮し、「この土地は強くないと生きていけないのだ」と信じてきた賞金稼ぎ・サイラスが、強さとは対極にいるロマンチストの青年・ジェイと行動を共にする中で腕っぷし以外の強さを学んで人間的に成長する物語。そのコンセプトだけを見ると男泣き必至の激熱ドラマを期待させられるのですが、本編はどうにも盛り上がりきりません。そもそもサイラスは登場時点である程度善人であり、殺しに疲れている様子も見せるため、ジェイの存在が決定的に彼を変えるきっかけになったようには見えないのです。ほっといても、サイラスは作品のクライマックスで行き着いた境地に達したように思います。また、このテーマであればサイラスとジェイの価値観の違いや、それに起因する衝突をもっと見せるべきだったのに、二人の間であまりに波風が立たなさ過ぎていることも、作品からドラマ性を奪っています。 さらには、基本設定に納得いかない部分が多かったことも、ドラマへの没入感を阻害しています。被害者の親族であるジェイが許している中で、ローズ親子に賞金を懸けていたのは一体誰だったのか。ジェイは、なぜローズ親子の潜伏先を知っていたのか。サイラスは、なぜジェイについていけば賞金首のローズ親子に辿り着けることを知っていたのか。あまりに情報が端折られすぎていて、話がよくわからないことになっています。また、だだっ広い西部で登場人物が容易に出会うことができるというご都合主義も、作品の説得力を奪っています。 そんなメタメタな内容でしたが、唯一胸に刺さったのが移民親子による強盗のくだりでした。ジェイとサイラスが立ち寄った雑貨店に男女二人組の強盗が押し入ってくるのですが、明らかに不慣れな様子なので容易に反撃に遭い、彼らは撃ち殺されてしまいます。その後、ジェイとサイラスは店の外で待たされている子供二人を発見。このことから、男女は子供を食わせるために仕方なく悪事を働いたということが明らかになります。彼らは死ぬか奪うかの他に選択肢がないというところにまで追いつめられていたのです。また、子供が外国語を話していることから、この親子はつい最近アメリカに移住してきたということが推測されます。夢を抱いてアメリカに渡ってきたものの、弱肉強食の世界に飲まれてしまった移民の馴れの果て。サイラスは、俺らではこの子達を救えないのだから、そもそも手を差し伸べる必要はないという態度をとります。そして、冷酷ではあるがそれが事実である以上はサイラスに従わざるをえないジェイ。単純な善悪では割り切れないこの非情な展開は、当時の西部の混乱状態を見事に表現していたと思います。
[DVD(吹替)] 5点(2017-01-13 00:23:05)
13.  レジェンド 狂気の美学 《ネタバレ》 
良くも悪くもトム・ハーディのアイドル映画。トムハは出ずっぱりの上に、一人二役なのでボリューム2倍。しかも彼が得意とするエキセントリックなキャラクターと、珍しい二枚目キャラを同時に見せてくれるのでお得感倍増です。男前で芸達者なトムハを見るだけで2時間強の上映時間はもっており、旬な俳優の持つオーラや勢いってやっぱり凄いのだなということを再認識させられました。 ただし、ヤクザ映画としてはパンチ不足で物足りない内容でした。クラブの店内をカメラが流れるように移動しながら主要登場人物を順番に見せていく冒頭や、BGMの選曲センスにはモロに『グッドフェローズ』の影響が見られてちょっと期待させられたものの、スコセッシ映画ほどのドギツさはなし。ヤクザ映画の醍醐味って、「よくそんな怖いことを平気でできるな」というえげつない描写を垣間見ることだと思うのですが、本作はとにかく大人しいのです。しかも監督のブライアン・ヘルゲランドといえば、主人公が奥さんの死体と一晩添い寝したり、足の指を金づちで一本ずつ潰される拷問を受けたりと荒れた描写が目白押しだった『ペイバック』を撮った立派な方。そんな監督がマックス・ロカタンスキーと組んだヤクザ映画となれば物凄いバイオレンスを見られるものだと期待するところですが、とんだ肩透かしでした。 さらには、一貫して男性映画のみを作ってきたヘルゲランドが、女性の描写を不得意としていた点も作品の弱点となっています。本作の語り手はレジーの奥さんであるにも関わらず、とにかくこの奥さんの存在感が薄いのです。夫婦関係の破綻には唐突感があったし、このキャラの最期も「え、自殺するほど悩んでたっけ?」という印象しか受けず、どこか重要な場面を見落としたのだろうかと思ってしまったほどでした。
[DVD(吹替)] 6点(2017-01-13 00:16:31)
14.  疑惑のチャンピオン 《ネタバレ》 
ダイアナ元皇太子妃死亡事故の裏側を描いた『クィーン』ではかなり突っ込んだ描写をして稀に見る傑作に仕上げたスティーブン・フリアーズ監督ですが、他方、不正発覚からほとんど期間を空けずに映画が製作されたことや、少々行き過ぎた描写があっても文句を言って来ない英国王室とは違い、事件関係者から名誉棄損等の訴訟を起こされるリスクがあったことから、本作は公になっている事実の積み重ねのみに終始し、面白みに欠ける内容となっています。当事者達が何を思っていたのかを描写することが実録もの映画の意義であるはずなのですが、本作は第三者の推測を極力排除する仕組みとしているために、ドラマ性がかなり薄まっているのです。その再現度の高さから自転車競技のファンからは好評を得ているようなのですが、本作で初めてランス・アームストロングという選手を知った私のような門外漢からすると、起伏に欠ける退屈な映画でしかありませんでした。 また、本作はドーピングをしたアームストロングに対して批判的な視点で製作されていますが、果たしてこれはアスリート個人に責任を押し付けるべき問題なのかということが気になりました。アームストロングは7年も競技のトップに君臨していましたが、その間、ドーピングは発覚していません。すなわち運営のチェック機能が正常に働いていなかったということであり、問題が顕在化していないだけで、他の選手もドーピングをしていた可能性が非常に高い状態にあったと言えます。そのような荒れた場においてトップを獲りたければ、他の選手を圧倒するほどの実力を持っているか、他の選手がやっているのと同じレベルの不正をやるかのどちらかしかありません。勝利への執念が強い選手ほど、自身が好むと好まざるとに関わらず、ドーピングをせざるを得ない状況に追いやられていたのです。これについては問題に気付かなかった、もしくは気付いていたが放置してきた運営者こそがA級戦犯であり、アームストロングは一番メジャーな選手だったためにスケープゴートにされているように感じました。
[DVD(吹替)] 4点(2017-01-11 16:56:19)
15.  ハイネケン誘拐の代償
『ドラゴン/怒りの鉄拳』みたいなタイトルですが、ハイネケンは個人名。しかも犯罪被害者の名前であり、なんだかハイネケンさんが中心になって悪いことをしたかのような邦題はどうかと思いました。また、作品紹介を見ると誘拐されたアンソニー・ホプキンスが未熟な誘拐犯達へ心理攻撃を仕掛け、徐々に形成を逆転させるような内容を連想させられたのですが、こちらも映画の内容とは全然違いました。日本の配給会社によるおかしな売り方は、ちょっと問題だと思います。 本作は金がなくてバカをやってしまった若者達のドラマであり、犯罪サスペンスという要素はかなり薄くなっています。誘拐計画は驚くほどうまくいっているものの、何がきっかけとなって捕まるか分からないというプレッシャーと、素人集団ゆえに「自分以外の誰かがミスを犯しているのではないか」という不安から全員が徐々に精神をやられていき、人間関係が崩壊する様がなかなかリアルでした。主犯を除く全員が「金なんて要らないから元の生活に戻してくれよ」と思っているものの、一度しでかした過ちから逃れることはできないのです。捜査当局や被害者側のドラマはすべて捨て去り、加害者の視点のみで構成されていることからドラマは非常に分かりやすく、また、捜査当局にどの程度追い込まれているのかが分からないという点がスリルを高めていました。この構成は正解だったと思います。 ただし、会社をクビにされたにも関わらずハイネケンを慕い続けている父親や、妊娠した奥さん絡みのエピソードまでが落とされているという点はいただけませんでした。これらは、主人公の背景を理解するためには必要なパートだったと思います。
[インターネット(字幕)] 6点(2017-01-09 19:22:50)(良:1票)
16.  リリーのすべて 《ネタバレ》 
トム・フーパー監督との相性は悪く、どの作品も盛り上げ方がうまくなくて退屈してしまいます。本作も同じくで、例えば前例のない性転換手術を決意するくだりなんて多くの葛藤があり、そこに重大なドラマが宿ったはずなのに、実にサラっと流されるわけです。性転換手術後のリリーが百貨店に就職したことにしても、当時の社会がリリーを受け入れるかどうかという重要局面であったはずなのに、こちらもアッサリと流されてしまいます。また、リリーがヘンリクと浮気しているかもしれない場面をゲルダが目撃してしまったことは夫婦関係における深刻な問題だったはずなのに、こちらは結論が有耶無耶にされてしまう。本作のテーマを扱うのであれば当然盛り上がるべき部分が、ほぼ切り捨てられていることが気になりました。 また、本作は夫婦愛の物語として宣伝されていましたが、果たしてこれが美しい愛の形だったのかは疑問です。ゲルダからはアイナーでいることを求められていたにも関わらず、アイナーは「私はリリーよ」と言ってゲルダの心情や都合をまるで無視してどんどん突き進んでいくわけです。アイナーはアイナーなりに葛藤を抱えていたのならまだしも、自分の都合しか主張しないのだから身勝手にしか見えませんでした。せめて社会的な体裁くらいは取り繕おうという努力すら放棄しているのでは話になりません。それを受けるゲルダにしても、自分の軽はずみな行動で夫を開花させてしまったことへの責任感と、リリーによって画家としてのキャリアが開けたことへの感謝から、運命共同体の如くリリーに協力している様子であり、そこに夫婦愛という要素は薄く感じました。彼女はアイナーの幼馴染ハンスと浮気してるし。 エディ・レッドメイソンは男性役でも女性役でも美しくて驚いてしまいました。そんなレッドメイソンを際立たせるためか、アリシア・ヴィキャンデルは化粧も髪型も地味で、5年前ならケイト・ウィンスレットがやっていたような強い女性役を演じているのですが、今までの彼女が演じてきたものとはかなり違う役どころながら、見事これをものにしています。ヌードも披露して熱演アピールもバッチリ。果たしてオスカーに値するほどのパフォーマンスだったかどうかに疑問符が付かないわけでもありませんが、彼女の演技は本作の重要な見せ場となっています。
[インターネット(字幕)] 4点(2017-01-08 03:28:41)(良:1票)
17.  エクス・マキナ(2015) 《ネタバレ》 
つい最近も経産省が国会答弁をAIに作らせる実験を開始したというニュースがあって、AIはかなりホットなテーマと言えるのですが、ことSF映画においては随分昔からの定番ネタでもあります。映画に登場するAIキャラには大きく2種類あって、ひとつは暴走して人間に危害を加えちゃう系。『2001年宇宙の旅』のHAL9000、『地球爆破作戦』のコロッサス、『ターミネーター』のスカイネットがこれに当たります。もうひとつは、人間と同じ自我や感情を持っているのに機械扱いされて可哀想系。『ブレードランナー』のロイ・バッティや『A.I.』のデイビッドがこれに当たります。本作が面白いのは、AVAは人間に似た姿に作られていることから観客に可哀想系AIを連想させるものの、実は危害を加えちゃう系でしたというオチの作り方であり、定番ネタの折衷に成功しています(裏を返せば、本作は世間で言われているほど斬新な内容ではなく、伝統的によくあるネタの見せ方を変えているだけとも言えるのですが)。 さすがはアレックス・ガーランドの作品だけあって物語は緻密に考えられており、サスペンスとしての大ネタもきちんと仕込まれています。ケイレブが呼ばれた目的はチューリングテストではなかったという話のひっくり返し方は特に面白いと感じました。人間と遜色ないレベルのAIはキョウコ以前のモデルで既に完成しており、社長はAIと接触した人間側の反応を見ようとしていたのです。 この社長の人物造形も理詰めでよく考えられています。社長はムキムキに体を鍛えており、さらには格闘技の特訓までやっているのですが、オチまで見ればAIの抵抗に備えてのものであることが分かります。また、キョウコは社長の理想像を投影したモデルと考えられますが、キョウコが言葉を発することができない仕様にされていることから考えると、研究開発過程において社長もまたキョウコに愛着や同情心を抱いたために何度か危険な目に遭わされてきたということが推測されます。社長は自分自身と同じ失敗を他人も犯すのかどうかを見るために被験者としてケイレブを選び、ケイレブの理想像を投影してAVAを作ったのです。 そんな理想の女性像を映像化するにあたっては、誰からも文句のつかない美貌を持つ女優さんをキャスティングする必要がありましたが、そんな要望に完璧に応えてみせたアリシア・ヴィキャンデルの美しさには本当に驚かされました。さらにはただのお人形さんにはならず、抜群の演技力、人を超えた雰囲気、必要な時にちゃんと脱ぐ女優魂も見せており、あらゆる点でこの人は突出していると思います。
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2017-01-07 23:28:19)(良:1票)
18.  グランド・ブダペスト・ホテル
監督のスタイルや美意識が全面に出ており、ドラマの高揚感やリアリティなどは意図して切り捨てられていることから、見る人を選ぶ作品だと言えます。そのビジュアルセンスの良さや、何か深いことを語っていそうなインテリな雰囲気から、「この映画が好き!」と積極的に言いたくなるようなオーラが漂っており、それゆえにウェス・アンダーソン作品には一流俳優がこぞって出演したがるのだろうと思うのですが、私にはピンときませんでした。
[インターネット(字幕)] 5点(2017-01-07 04:31:53)(良:2票)
19.  エリザベス:ゴールデン・エイジ
英国史に馴染みのない人にとってはハードルの高かった前作からは一転して、本作はアルマダ海戦という大きな山場に向かって一直線に走る内容だったので、かなり見やすい作品となっています。物語は徹底的にシンプルにまとめられており、エリザベス女王の苦悩を描き出すことのみに専念。さらには、王族出身者ならではの苦悩という特殊事情は控えめとし、仕事をバリバリこなしているもののプライベートでは孤独を抱える女性という切り口に徹して現代の観客にも共感可能なドラマを目指しており、観客にかなり配慮して作られた作品だということが伝わってきました。 しかし映画とは難しいもので、こうした配慮が概ね裏目に出ており、かえってドラマ性が薄まっています。イングランドを王族同士の婚姻を通じて飲み込もうと迫ってくる周辺諸国と、「結婚する気はございません」の一点張りでのらりくらりとかわすエリザベス。彼女が背負っていたものは現代のキャリアウーマンのそれとはまるで異なるため、これを大衆的な価値観で理解しようとすることにはそもそも無理があったのです。ここは定石通りに当時の国際情勢や、彼女の母・アン・ブーリンが辿った末路といった切り口から彼女の心情に迫る方が分かりやすかったはずなのに、おかしな形で一般化しようとしたためにかえって感情移入が難しくなっています。 また、ウォルター・ローリー卿と侍女・ベスとの三角関係にも、特に感じるものがありませんでした。自由に恋愛ができないエリザベスは、侍女の恋愛話を聞くことで自分自身の欲求をごまかしていたのですが、その侍女の一人がよりにもよって意中のローリー卿に手を出した。彼女からすればやってられない状況なのですが、前述した通り「なぜエリザベスは恋愛をしないのか」という政治的な背景が描かれていないために、パブリックな立場とプライベートな感情の間で板挟みになった彼女の苦しみがピンとこないのです。 当時の国際情勢が描かれていないため、山場となるアルマダ海戦にもさほどの興奮が宿っていません。弱小国だったイングランドが、世界最強のスペインから仕掛けられた喧嘩に受けて立って大勝利したというドラマチックな戦だったはずなのに、当時のスペインがいかに強かったかという煽りや、イングランド側が戦いを受けて立とうと決意するまでの過程、絶望的な戦力差の中でいかにしてアルマダを破ったのかという戦略面での説明などがことごとく抜け落ちているのです。これは勿体ないと思いました。
[ブルーレイ(吹替)] 5点(2016-12-26 19:08:31)
20.  エリザベス 《ネタバレ》 
父・ヘンリー8世と母・アン・ブーリンの愛憎劇を描いた『ブーリン家の姉妹』がなかなかの面白さだったので、その子・エリザベス1世の初期統治を扱った本作も連続で鑑賞しました。 いつ殺されてもおかしくない状況からの女王就任に、宗教問題で分断された国家の統合、王位簒奪を狙う周辺国家との駆け引き、国内最有力貴族による反逆未遂など、映画として面白いイベントてんこ盛りのエリザベス治世なのですが、これが実に盛り上がりに欠けるという残念な内容となっています。どうやら本作は当然に英国史を知っている人たちを対象として作られているようであり、各イベントについては観客の側で脳内補完してもらえることが前提となっているため、英語文化圏以外の観客にとっては各登場人物の行動原理が分かりづらい、大した煽りもなく大事がさらっと流されていくという不親切な仕上がりとなっています。 また、エリザベスのメロドラマが作品の横軸となっているものの、物語開始時点ですでにエリザベスとロバートとの関係性が出来上がってしまっているため、こちらも感情移入が難しくなっています。 美術や演技など見どころは多いものの、アカデミー作品賞ノミネートの割にはドラマ部分に力がなく、「名物に旨い物なし」を地でいくような仕上がりとなっています。
[DVD(吹替)] 5点(2016-12-05 15:29:18)(良:1票)
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