1. フルメタル・ジャケット
戦場において人間性を描くことをきっぱりと拒絶したキューブリックの誠意を賞賛したい。このような題材でこそ、彼の皮肉は素晴らしく光り輝く。この映画の前半部はフルメタル・ジャケット(完全鉄鋼被覆弾)の製造過程、後半部は消費過程として見ることができる。前半、「デブ」は殺人マシーンとして完成することなく人間のまま死んでいった。彼の狂気は正に人間としての狂気だった。後半、その秀逸なカメラワークによって、狂気の満ちた戦場に立ち会わされる私たち観客は、ジョーカーやカウボーイやあの少女といったかつて人間だったはずの彼らが「消費」されていく様に、ただ圧倒されれば良い。なぜならばそれだけが唯一の戦争の本質だからである。そして「それがまた人間の本質だろ?」とでも言いたげなキューブリックに、今回だけはやられた感じ。 10点(2003-05-21 13:36:01)(良:6票) |
2. フル・モンティ
好きな男→フラれて強がりを言う寅さん、曙と立ちあう舞の海。私は満身創痍戦う男が根っから好き。ゆえに彼らの滑稽な一生懸命さとおどける悲哀に、のっけからハート鷲掴み状態。声をあげて笑いながら、涙が止まらない。そしてラストの一瞬のカタルシス。そうか、私が求める「男らしさ」ってのは、どん底で笑ってみせる男意気なんだな、と気付いた。それにしても、ブラス!、リトルダンサーにも見られる当時の炭鉱・鉄鋼労働者に襲い掛かった不況って、本当に深刻だったんだなぁ。さあ、今度は日本が不況を乗り越える番だ、がんばろう。 10点(2003-05-18 11:17:15) |
3. フラガール
《ネタバレ》 独創性や目新しさはなんにもない、型通りの直球映画。 「揉め事や悲劇なんかが色々あって最後にダンス見せるんでしょ?」はい、その通り。 「ブラス!」とか「リトルダンサー」とか、ああ、裸で踊るって言ったら「フルモンティ」とか、「ウォーターボーイズ」とか、似たような映画いっぱい観たし、と、あんまり気乗りせず観賞したんだけど、中盤の夕張へと旅立つ早苗の「一生で一番楽しかった」あたりから、泣けてしょうがない。 ここまでベタな内容なのに多くの人の心を打ったのは、まずやっぱり役者陣の演技の質の高さがあるように思う。 人生にちょっと疲れたダンサー役の松雪泰子はただ立っているだけで佇まいを感じさせるし、早くも大女優のオーラを漂わせる蒼井優がダンスだけでなくきっちりいい演技を見せてくれる。 トヨエツの不器用な男や、富司純子の凛とした母も素晴らしいし、しずちゃんもなかなかの存在感。 無駄なセリフの少ない脚本も、時代感あふれる映像も、どこをとっても真面目さがにじみ出ている。 奇をてらったりしなくっても作り手がここまで大真面目に良い仕事をすると、こんなに上質な娯楽映画が完成するわけですね。 そう言えば子どもの頃家族で行ったな、常磐ハワイアンセンター…という私のノスタルジーも点数にプラスしときましょう。 [DVD(邦画)] 9点(2011-05-26 10:04:56)(良:1票) |
4. フォレスト・ガンプ/一期一会
素晴らしいストーリーにリアリズムなど要らない、と言い切ってしまいたくなる名作。追い風も向かい風もかわりなく、愛して身に受けるフォレストの生き方は、ある意味人間のあるべき姿を示しているようにも思う。一方ジェニーの抗う姿もまた人間そのもの。冒頭の羽のシーンと「ダン中尉は、神様と仲直りしたんだと思う」この短く深い台詞。これだけでも充分すぎるくらい映画的。CGの使い方、音楽、そして映画界の至宝トム・ハンクスの演技も素晴らしいの一言だ。 9点(2003-06-10 13:30:40)(良:2票) |
5. ブラス!
「威風堂々」の調べでendrollを眺めつつ、「こんな映画が観たかった~」という幸福感に包まれました。未来の見えない彼らに、それでも音楽があったという幸福を、過剰な演出や派手なエピソードもなく、ひたすらに温かに描いた、良い映画でした。 9点(2003-04-22 14:22:18) |
6. プライベート・ライアン
スピルバーグ作品の中では最もメッセージ性の強い作品と感じた。第二次世界大戦をはじめとする幾多の困難の歴史を越えて、今を生きる私たちすべてがライアンであり、守られた現代の幸福をどう生きるのか、どう次世代に繋げていくのか、ということを、強烈に問いかけている作品。ゆえに、休日の夕方、だらけた気分で鑑賞した私は、ちとげんなりしたので(笑)マイナス1点。 9点(2003-04-06 12:20:56)(良:1票) |
7. 冬の小鳥
幼いころ施設に容れられ、その後フランスの里親の元に養子に行ったという監督の自叙伝的な作品であるせいか、主人公ジニの目線で綴られる物語は、徹底的にリアリズムを貫いている。 劇中に起こる周囲の出来事も細部が説明されることはなく、ジニの知り得る事実だけが断片的に描かれるが、その最小限の表現で孤児になった女の子たちの現実が十分に突きつけられる。 冒頭の数シーンで見せるジニの子どもらしい無邪気な笑顔と、最愛の父に置き去りにされて以降の笑顔を失った頑なな表情、どちらもキム・セロンの演技が本当に素晴らしく、非常に惹きつけられた。 私は最後まで、もう一度屈託なく笑うジニの笑顔が見たくって、瞬きさえ忘れて見入っていた。 そうしてラストの記念撮影で笑顔を作って見せるジニを見て、もう決してあどけない子どもには戻れなくなった彼女の決定的な喪失感に胸をかきむしられるような気がした。 アップの表情が印象的なラストシーンでは、新しい人生を歩み始めたジニの幸福を祈らずにはいられない。 [CS・衛星(吹替)] 8点(2011-11-05 20:14:40) |
8. フローズン・リバー
田舎のトレーラーハウスに住むタトゥーを入れたおばさんの涙で始まるこの映画は、どん詰まりの女たちの様子を雄弁に映像が物語ってくれる。 ドアの穴に埋めた布切れ、水垢のこびりついたシャワー、捨てられた妻が繰り返し録音し直す留守電のメッセージ。 どれも、身の置き所のない哀しみで溢れてる。 そうして犯罪に手を染めてもなお、捨てきれない母性という名の連帯感を感じさせる中盤のシーンは感動的だ。 断熱材の入った暖かいトレーラーハウスを、子どもたちは喜んだろうなと、ほのかに温かい余韻を残すラストもいい。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2011-08-26 19:29:48) |
9. プリティ・リーグ
キャッチボールのこぼれ球を見事な強肩で投げ返す黒人女性。 彼女は驚く選手達に、得意げに微笑む。 まだ、黒人が白人と共にプレイすることが許されなかった時代であることを、こんなにサラリとしたエピソードで示すこの監督が好き。 このいただけない邦題の野球映画は、スポコンでもあり、コメディでもあり、痛快なエンターテイメントであると同時に、奔放に生きることが難しかった頃の女性を、女性監督ならではの視点で丁寧に描いている、実は秀逸な人間ドラマ。 ジーナ・デイビスは思わず惚れてしまうくらいカッコよく、この役のために10キロ以上太ったというトム・ハンクスは、抑えた演技で上手いのひとこと。 マドンナもこの映画ではとってもキュートです。 ラスト、現在の彼女達の勇ましくも達者なプレイ姿には、どんな人でも元気をもらえるはず。 [ビデオ(字幕)] 8点(2007-09-13 13:40:52)(良:1票) |
10. ブラザー・ベア
まだ幼い、甥っ子たちを連れて吹き替え版で鑑賞。 母親と会えると信じているおませなコーダが可愛くて、いじらしくて、切なくて一人で大泣き。ストーリーもなかなか深い。 報復誓う人間と熊との関係は、そのまま国家や民族の対立する姿。 これは、この神話のようなお話しを、私たちの現実社会で起きている現象に当てはめ、報復はやめよう、相手を理解しよう、と優しく語りかけている反戦映画なのだと思う。 遠い異国で言葉も通じぬ、風習も価値観も私たちとは異なる人々も、私たちと同じように誰かを愛したり、ささやかな幸せを感じたり、泣いたり、笑いあったりして、一生懸命生きている、という当たり前の、しかし、忘れがちなことに気付かせてくれる。良作。 8点(2004-04-30 14:20:04) |
11. フィラデルフィア
デンゼル・ワシントン演じる弁護士の「独立宣言には『すべての人は生まれながらにして平等であり』と記されているのであって『すべての<普通の>人は~』とは書いていない」という言葉が非常に印象的だ。もちろん誰であれ差別などされていいわけがないことは自明だが、時として異質なものに対する嫌悪感や恐怖感、偏見を拭いきれないのが人の常である。その微妙な心の揺れをデンゼル・ワシントンは実に見事に演じ切っていたと思う。もちろん、言うまでもなくトム・ハンクスも素晴らしい。彼以外の役者が主役を演じていたなら、あるいは薄っぺらな作品になっていたのではとも思えるほどだ。いずれにしても人権問題というのは取り扱いが極めて難しいテーマだが、エイズに真っ向からゲイを絡めて彼らマイノリティーの「人権」を問うた本作の姿勢を評価したい。 8点(2003-12-23 14:33:57)(良:1票) |
12. ブレイブハート
ハリウッドでしか撮れないであろうスケールの大きな歴史大作。イングランドの支配から自由と独立を求めて立ち上がる、実在したヒーローという題材も良い。戦闘シーンの映像も迫力満点。複雑な英国史もわかりやすくまとめている。でもな~。全体の出来が良いゆえに、なんで主演まで自分でやっちゃったんだ、メル・ギブソン!と言いたい。年齢的にも設定上無理があるし、どこを切ってもメル・ギブソンのバリバリのヒーローものになっちまいました。中盤いらないロマンスシーンを描くなら、望まずして英雄になったウォレスの苦悩や、後に彼の意志を継ぐことになるロバート1世との関係を描いてくれ!と切に思った。監督として作品を俯瞰に眺めたら、ああはならんだろ。 8点(2003-05-22 13:03:58) |
13. 普通の人々
極めて美しく、哀しい作品。地味だけれど丁寧に、そしてゆっくりと家族が壊れていく様を描いた秀作。パッフェルベルのカノンもその旋律が象徴的。思春期の危うさ、母性への幻想、絆の脆さ、そのすべてを静かに描ききっていました。こういうしみじみと後をひく映画、好きです。 8点(2003-05-11 10:57:19) |
14. フィールド・オブ・ドリームス
極めて上質な、大人のためのファンタジー。手放しで心地よく泣けた作品です。ケビン・コスナーの作品の中では間違いなく№1ではないでしょうか。 8点(2003-04-29 17:29:24) |
15. プラダを着た悪魔
あんまり期待していなかった作品だっただけに、出だしの着替えシーンから「おおっ?いいじゃない♪」と、上々の滑り出し。 ファッション誌の編集部もありえなきゃ、鬼上司ミランダもかなりデフォルメされたキャラクターだが、メリル・ストリープの存在感と、演技力で有無を言わさぬ説得力あるものになっている。 特に、「ファッションなんて…」という主人公に対して、彼女自身が何気なく選んだセーターの青をとりあげて、ファッション界の奥深さを思い知らせるシーンで、この役にグッと厚みが加わったと思う。 仕事と私生活のバランス問題に関して言えば、圧倒的に「ジャーナリスト」の方がハードだとわたしは思うけど、若く優秀でとっても可愛いアン・ハサウェイに、思わず“good luck”を言いたくなる、さわやかなラストもいい。 [DVD(字幕)] 7点(2009-03-27 13:12:14)(良:1票) |
16. ブリガドーン
まず、スコットランドの伝説だという、100年に一度しかむ現れない村という設定が楽しい。セットが、素晴らしい。この時代のものはオールセットの作品が多いが、本作はとりわけ美しい。踊りが文句なく素晴らしい。そしてシド・チャリシーはこの世のものとは思えないほど美しい。ストーリー自体は大甘だが、楽しく美しく、ミュージカルとしては十二分に魅せる。フィルムのどこを切り取っても絵になるというのは、実はもの凄いことだと思う。 7点(2003-11-26 21:41:57)(良:1票) |
17. ブラック・レイン
狂気に満ちた松田優作の演技は、明らかにマイケル・ダグラス、高倉健を圧倒していた。後に知ったインタビューで、「ハリウッドに小さくてもいい、風穴を開けたい」というようなことを語っていた松田優作の渾身の演技に惜しみない拍手とこの点数を贈りたい。それにしても遺作となったこの映画、リドリー・スコットの巧みな映像技術と彼の演技以外観るべき点がないのが残念。 7点(2003-11-19 11:42:04) |
18. プリシラ(1994)
テレンス・スタンプさん。わたしゃオンナですが、負けとります。あなたの可憐さ女らしさにとてもかないません、と頭下げて退散するしかない。音楽も良い。 7点(2003-06-03 12:05:18) |
19. ファイナル・デスティネーション
素直に楽しかったです。テンポも良いし、飽きずに最後まで観られました。ホラーはあまり得意じゃないけれど、storyも楽しめたので。ラストも好きです。 7点(2003-04-08 11:06:58) |
20. フライトプラン
《ネタバレ》 舞台設定が面白く、娘を思うジョディ・フォスターのキレっぷりもすっごく良かったのに、なんで中盤でネタばれさせちゃうんだろう? そこから先はもう惰性以外のなにものでもないし、なにが悲しくて映画見ながら犯行計画の粗を数え上げなきゃならないのかがっかり。 だいたい、客室乗務員に共犯がいるってのに、なぜ事前に無用な殺人まで犯さなきゃならないのか不明だし、一体どうやって口座からお金引き出すつもりだったんだろうか、この犯人(この他にも数え上げたらキリがないくらいの粗が・・・)。 まぁサスペンスとしてはイマイチだけれど、孤軍奮闘、娘のためになんでもするフォスターの強い母には思いっきり感動できたので6点献上。 [地上波(吹替)] 6点(2011-09-27 10:00:27) |