Menu
 > レビュワー
 > なんのかんの さんの口コミ一覧
なんのかんのさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 2336
性別

表示切替メニュー
レビュー関連 レビュー表示
レビュー表示(投票数)
その他レビュー表示
その他投稿関連 名セリフ・名シーン・小ネタ表示
キャスト・スタッフ名言表示
あらすじ・プロフィール表示
統計関連 製作国別レビュー統計
年代別レビュー統計
好みチェック 好みが近いレビュワー一覧
好みが近いレビュワーより抜粋したお勧め作品一覧
要望関連 作品新規登録 / 変更 要望表示
人物新規登録 / 変更 要望表示
(登録済)作品新規登録表示
(登録済)人物新規登録表示
予約データ 表示
評価順123
投稿日付順123
変更日付順123
>> カレンダー表示
>> 通常表示
1.  ぼんち
訃報を目にし、つい市川崑のベストは何か、なんて不毛なことを考えてしまった。おそらく何本もの作品が気分に応じて入れ替わり立ち現われてくることだろう。今の気分だと「ぼんち」だな。崑の女性映画のエッセンスが詰まっている。今なら誰もが船場吉兆の女将を思い出すであろう毛利菊枝、おとなしい役が珍しい山田五十鈴、ただただ「お嬢さん」な中村玉緒、しっかりしている指輪コレクターの若尾文子、ひたすら尽くす草笛光子(彼女のシーンで芥川也寸志はのちのNHK大河ドラマ「赤穂浪士」のテーマを使用)、モガの越路吹雪、色気なら京マチ子、女中の倉田マユミも大映時代の崑作品の貴重な配役だ。これら最強キャスティングに、男は雷蔵と船越英二で対抗。強い女に対する弱い男の抵抗のドラマは、当然のように男の敗北で終わり、女性への畏れと賛仰が後に残る。演出スタイルはもう完成しており、崑の一つの頂点だと思う。
[映画館(邦画)] 9点(2008-02-14 12:24:30)(良:1票)
2.  ホット・スポット 《ネタバレ》 
暑いスモールタウンにブラッとやってきたワルの男が、悪女と運命的に出会ってしまう。清らかな娘に惹かれてマットウに生きかけるが、やはりワルはワル同士の腐れ縁。ついに男をキャッチした女が一瞬見せる切実な表情、堕ちるとこまで堕ちてやろうじゃないかと開き直った男の表情、そこらへんに酔いました。「上辺は酷薄だけども…」「一皮剥けばもっと酷薄さ」。盲目の黒人やゆすり男が不意に立ってるとこ。J・コネリーの靴を見て、すべてを悟る瞬間。悪の魅力が透明感・清潔感にまで高まった純度を持ったフィルム・ノワールの醍醐味。
[映画館(字幕)] 8点(2013-07-21 09:25:02)
3.  北北西に進路を取れ 《ネタバレ》 
007シリーズはいかに本作に負ってるものが多いことか。列車・飛行機からの襲撃・謎の女・女中…。ただこちらはあくまで「退屈な男」が巻き込まれていること。それと悪玉にも心があって、女をめぐる嫉妬があったりする。つまりこちらは最後は愛国心ではなく恋愛なの。退屈な男という設定のユーモアが、冒険に継ぐ冒険を対象化し、映画を外から微笑んで見ているようなゆとりが生まれた。絵葉書になるような名所で何かをやらかしたい、という姿勢はヒッチコックの基本で、かつては自由の女神あり、『めまい』はサンフランシスコの観光案内でもあった。本作では国連ビルからラシュモアまで行く。その一方に無名にトウモロコシ畑を本作最大の見せ場として置いた。うまいのは、まず飛行機が奥を横に飛んでるシーンがあって「これは背景なんだ」と思わせてるとこで、それが無作法にも、こっちに・スクリーンから垂直に向かってくるから観客はショックを受けるわけ。これは『裏窓』での、背景と刷り込まれてたアパートへG・ケリーが、やはりスクリーンに垂直な運動で入っていくショックと同じだろう。
[映画館(字幕)] 8点(2013-02-05 10:22:25)(良:1票)
4.  ホット・ショット 《ネタバレ》 
『トップガン』のパロディということで、あまり期待してなかったんだけど、そうパロディに頼ってなかったんじゃないか。本家を必ずしも必要としない笑いになっていた。いいぞいいぞと思い出したのは、馬上の美女が枝につかまって鉄棒の離れ業を見せるあたりからか。あと順不同で思い出すと、窓の外で訓練していた兵士たちが踊り去っていくとこ、表情が見えないのがいい。二枚目が「おごってやるぜ」と言うと、ドアやロープからワーッと人々がなだれ込んでくるとこ。二人が険悪になると店中が険悪になり、和解すると店中が和解する。吹き替えの歌が続いている間に、水を一口。唐突に歌いだすオンリーユー。猫が走り過ぎ、梯子の下をくぐい、鏡が割れ、ケネディ暗殺の真相をポケットに秘めたまま明るく離陸していく奴。サダムが出てきたのは仕方ないのかなあ、純度が少し落ちた。固い軍隊と柔らかなものを単純に対比したギャグはさして面白くないが、完全にドタバタやってるシュールな「有り得ない世界」が具体的に展開しているのが、面白い。
[映画館(字幕)] 8点(2012-12-15 09:58:02)(良:1票)
5.  炎のランナー 《ネタバレ》 
高貴な映画。光線が美しい。それも室内や曇天など翳りを含む光が絶品(海辺だけじゃなく、妹に決意を述べるとこも)。これだけでも参ってしまうのに、さらに時代色が濃厚。ほんのワンカットのために車用意したり、衣装も大変だったんだろうな。そして選手たちの走り。最後の100mなんか、スタートしたらすぐスローモーションになるんじゃないか、と思ってたらそのままのスピードで走ってきた。走ることの神々しさが、小手先でなく出た。とにかくまったく自分のために走った二人の物語ってのがすがすがしい。学校の名誉や国の名誉をコケにするからと言って別にイキがってるわけじゃなくて、自分の信念を守っているだけなの、またそこがスポーツマンシップであるところが皮肉。彼らもクヨクヨ悩みはするけど、信念そのものに対する疑いは生まれてこない。こういう信念の人間は本当は苦手なんだけど(歴史を見ればそういう人が危険な場合のほうが多かった)、すがすがしく好感が持ててしまったのも事実。リデルのほうは中国で死んだっていうのは、日本兵にやられたってことなんだろうか、遠くの美しい物語が急にナマナマしく感じられた。ラストで冒頭部分が繰り返されるんだけど、曇天のなか過去の亡霊たちがニコニコと笑いながら走り来たり走り去っていく感じで、味わいもひとしお。
[映画館(字幕)] 8点(2012-06-20 09:43:28)(良:1票)
6.  ボブ★ロバーツ/陰謀が生んだ英雄
徹底して頭で作った映画だけど、底には今の社会の「なんとはない嫌な感じ」があるから、アタマ倒れになっていない。架空の青年政治家という焦点を一つ設定することで、その「嫌な感じ」があきらかになってくる仕掛け。「ファシズム」とまでは言えないが「前ファシズム」的雰囲気。漠然とした保守回帰、清潔やプライドの強調、またカントリーソングってのがそういうのに合ってるんだ。ファンの三人兄弟が、ホンモノらしくて怖かったなあ。初めて会って緊張し切っている目つき。考えてみれば「ファン心理」ってのは「絶対希求」であって、もともとファシズムに流れやすい状態になってるんだろう。眼が澄んできてる。病院で立ち尽くす人々。テレビが批評的な役割りを期待されてたのが意外だった。日本だったら一番に流されるメディアだろうし、あちらではよく新聞がこういうときには出てくるんだけど。対話のインタビューワーが怒ったり、アホなテレビショーのキャスターが意外と固く拒んだりと、単純化していない。保守的に見える人物がリベラルだったり、若者が反動だったり(これが怖かった)。
[映画館(字幕)] 8点(2011-07-10 12:10:41)
7.  ホームワーク(1989) 《ネタバレ》 
最初のうちはシンプルなインタビュードキュメントだ。子どものアップ、それを捉えるカメラ、そしてたまにキアロスタミ本人、の三つのカット。このカメラのカットは、自分たちが子どもに与えている威圧感を意識して見せているのかもしれない、ほとんど尋問というイメージがある。子どもをインタビューしつつ、子どもの視点も入れているわけ。インタビューで繰り返されるのは罰についての質問、そこからイラン社会の状況へ滑り込んでいく。戦争と喧嘩は違うのかなあ、といった呟き声。海外教育をつぶさに見てきたというオッサンも割り込んでくる、日本の子どもの自殺にまで言及して。でも見どころは泣き虫小僧の登場からだ。少しずつ醸し出されていた「罰」のモチーフが前面に出てくる。定規が折れるほど叩かれて、怯え切ってしまっている少年、友人が一緒にいないと不安になる、パニックになる。その親へのインタビューがあって、外での儀式。音が絞られていく。監督は、子どものざわつきで儀式が非礼になるからとタテマエを言っていたが、もちろん生き生きとして子どもたちを見せるためであろう。そしてもう一度泣き虫君の登場、もう怖くないと言いながらだんだん危なくなってくる、そして奇跡の瞬間、後ろの友人に支えられた心で朗々と宗教詩を朗読するんだ。こっちが泣けた。世界に対してハリネズミのようになっていた子どもの心の中にも、やはり詩があったってことか。このストップモーションの的確さ。イランではNoのとき「チッ」っと音を立てるんだね。
[映画館(字幕)] 8点(2009-12-19 11:56:23)(良:1票)
8.  ホーホケキョ となりの山田くん
ディズニーがひたすら縮小再生産しているのに対し、ジブリはあえて困難な企画で実験作品を手がける。この心意気を買いたい。冒頭の、イメージが次々と横滑りしていく感覚は見事だし(ボブスレーからウェディングケーキに至ったり、街を練っていくカタツムリとか)、エピソードによって画質を変えたりしている(暴走族のときは粗く)。夫婦のチャンネル争いや、遅く帰ってきてバナナをボソボソと食べるあたりの「演技」も的確、アニメにおける人物の演技がこれほど丁寧に為されるのは珍しい。ただ、一本の作品としてのウネリは当然ないわけで、そのぶん印象は希薄になるが、あくまで実験映画と思えば、健闘していたのではないだろうか。 
[映画館(邦画)] 8点(2008-11-12 12:10:14)
9.  ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ
男性的な楽器チェロと女性的な楽器フルートとの対比があって、男社会に乗り出した女性の挫折、というフェミニズム的解釈も可能、またこの二つの対比を、平凡で安定した人生と芸術を極めて狂気に至る人生と見ることも可能。ただそう単純に割り切れるものではなく、そのとき姉妹という設定がいい。二つがまだ一つだった少女時代をも描けるので、対立が図式にならない。いろいろ細かなエピソードがあって、B♭の音とか、妹用に買った車で姉がフルート練習しようとすると窓につかえるとことか、シナリオがすごく丁寧だ。それにしても、いまさら難病もので泣かされるとは思わなかった。少女時代に姉妹でたどたどしく合奏した“モーツァルトの子守歌”を、エンディングで深々とチェロで奏でだされた日にゃ、ただただ落涙。
[映画館(字幕)] 8点(2008-10-14 12:14:07)
10.  ホーム・アローン
子どもが家に残ってしまう、という設定をこしらえる部分が丁寧。目まぐるしく走り回って、屋根裏に追いやられ、停電があって、あわただしい出発があって、近所のガキがうろうろしてて勘定の中に入っちゃって、飛行機の座席がバラバラで…、とにかく設定をこしらえてしまえばいいんだ、というテキトーさがなく、そういう設定へ持っていくところを楽しんで作っている。これ大事よ。で一人になったケビンがワーイと喜ぶのがイキる。にいちゃんの部屋を探検できる、甘いものを頬張って暴力番組を見られる。荷造りも一人で出来ないと思われてたケビンが洗濯機を回す。チビとノッポの泥棒二人組が登場。昔のディズニー実写映画にでもありそうな懐かしさ。これが執念で、盗むことより少年を追い詰めることに熱中するのも、トムとジェリーみたいで懐かしい。後半は前半ほど丁寧さは感じられなかったが、クリスマスを背景にすればある種のまろやかな雰囲気が生まれる。ポルカってのは映画ではいつもあんなふうに使われるな(『グッドモーニング・ベトナム』)
[映画館(字幕)] 7点(2013-07-22 09:17:33)
11.  ホワイトファング 《ネタバレ》 
ジャック・ロンドンって、イデオロギーの枠に囚われることのなかった(枠を超えてしまった)優れたプロレタリア文学作家だったんじゃないか、と「荒野の呼び声」読んだとき思った。底辺労働者の擬人化としてでなく動物を描くことに徹して、労働の底辺部を描ききった。この映画観たら、それに「恋愛作家」という称号も与えられそう。水飲みながら向かい合うイーサン・ホークと「白い牙」、ほとんど一目惚れの電気が走る感覚。それから出会うごとにチロチロと互いに気にしながら惹かれ合っていくなんて、恋の描写ですよ。愛さえあれば種の壁なんて、と言うか。なんか恋愛映画として堪能してしまった。といって擬人化しているわけではない。『小熊物語』なんかよりもちゃんと動物に対する視線があります。母の死の後で世間へ出ていくあたりはいいですな。凶暴になった白い牙がジャックのところで優しさを知るあたり、もっと新鮮な感動を生み出せそうなのに、ディズニー映画の限界内での味わい止まりだったのが残念。ラスト白い牙が現われるとこはジーンとするけどね。究極の純愛映画。
[映画館(字幕)] 7点(2012-04-16 10:04:54)
12.  ポセイドン・アドベンチャー(1972) 《ネタバレ》 
ひっくり返るシーンは、当時はとてもドキドキさせられた。「普段でないものを見せる」というエンタテイメント映画の基本を確認させてくれた。今見ても「天井」のテーブルにぶら下がる人たち、ってのはインパクトある。でも脱出行になると、あんまり「さかさま」が生きてこないんだ。いちおう非常灯が脱出行の床(つまりかつての天井)で照ってるんだけど、この時代のフィルムの感度ではその光だけをくっきりとは印象づけられなかったのか、あるいは当時の映画作法として画面を暗めにするのは客に対し礼儀に欠けるということだったのか、全体がぼんやりと明るくなってて、光源による「さかさま」感は出せていない。ま、そんなことはともかく、一番懐かしかったのは牧師の感じ悪さ。もしかするとこの映画を観たおかげで、私の「信念の人嫌い」が決定的になったのかも知れない。根拠のあまりはっきりしない自信満々で次々行動を決定していく。いや、一応言ってるんだ、「海水が流れ込んでくる」とか。でも「という考えもあるなあ」じゃなくて、確信になってる。ほとんど信念。ベトナム戦争で自信喪失してたアメリカにとって、こうパッパ決断していく強いリーダー願望みたいなものが、下地としてあったんでしょうな。アメリカ精神の基本を「感じ悪さ」とともに納得させられたという点で、私にとって名作でした。救助隊の人に「船首に逃げた人は助からなかった」ってまでわざわざ言わせて牧師の行動を補強するシナリオにしてんなら、ついでのもひとつ「皆さんがここまで来て船底をドンドン叩いてくれなかったら帰っちゃうとこでした」ぐらい言ってもらいたい。あそこまで行ったことに意義がなくちゃ、刑事の妻リンダのどたんばでの死があまりにも不憫じゃないか。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2012-03-14 10:15:46)
13.  僕らはみんな生きている 《ネタバレ》 
同時代と渡り合おうとしている邦画は、このころ貴重だった。ただの自虐趣味に終わってないところがいい。当時の日本、たとえば60年代末の政治的興奮のヒステリーは遠のいたが、そういう安穏ゆえになにやら鬱屈を蓄積している。エコノミックアニマルぶりを自嘲してはいるんだけど、これしかできない、という哀しみもある。そういう鬱屈を抜けてラストのヤマザルとの対決で「君たちが政治的・軍事的に体を張ってるように、我々は経済で体を張ってるんだ」という手応えに至る。けっきょくこの時代の日本人が最後に拠りどころにできる手応えは、この「頑張ってるんだ」ということだけなの。しかし少なくともそれだけはある。それなら嫌と言うほどある。実は、日本は戦後平和でやってきた、って言っても、今ではどんなものでも半軍事的商品になってしまう、という後ろ暗さもある。井戸では儲からない。なかなか同時代と向き合うってのは単純なことではない。そういう日本の鬱屈とわずかな誇りが、パスポートをかざしながら市街戦の中を「我々は日本のサラリーマンです」と叫びつつ横断していく戯画に集約された。発展途上国の人々を、変に目が澄んだ理想像にしてないのもいい。
[映画館(邦画)] 7点(2011-12-02 09:47:06)
14.  ホッファ
なんかフランチェスコ・ロージあたりが好みそうな題材。喜劇人は、ほんとの僕はお笑いとは違うんだよ、と言いたがる。D・デヴィートの監督作。アメリカ人には、ホッファと聞いただけでもうイメージが出来てるような人なのかな。人を組織する楽しさにのめり込む男。労働者労働者と叫びつつ本人は労働者と一線を引いている男。組合を大きくしていくためにはマフィアの手も借りるが、決して企業側・経営側と裏取引きはしない男。まあ、J・ニコルソンが演じてるってだけで、そういうアクの強い男だってのは分かるけど。組合のプレジデントたることを目指し、そしてそこから転落する哀愁。哀愁でもないか、じたばたしながら没落していく。クレーンで動いていたカメラがそのまま狭い倉庫の中に入り込んできたり、と演出はやたら凝る。イメージのディゾルヴ。雪の足跡→ゴルフボール、水たまり→雨上がりの月、壁の影→デヴィート、テーブル→ダーツの的と、ちょっとくどかったかな。アメリカ映画はこのころ「実録・男の世界」が流行ってたんだ。
[映画館(字幕)] 7点(2011-08-25 09:53:29)
15.  僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ 《ネタバレ》 
面白いのは主人公が誰からも愛されてしまうこと、何となく助けてしまいたくなる。彼自身が必死に新しい環境に適合しようと努力しなくても、周囲が歓迎してくれちゃう。ドイツからロシアに投降しようとして、逆に英雄になるあたり笑える。投降ってのは本来、味方から敵への質的変化を伴った移動のはずなのに、彼にとっては等価のAからBへの衣装替えにしか過ぎなかったわけだ。「演じる」以前に、国家なんてものも仮に所属しているだけって感覚だったんだろう、ユダヤ人にとっては。これで民族からも自由になれればいいのだけど、ああそうか、割礼ってのは民族を拘束する儀式なんだな。20世紀の二大独裁者の間でピンポンされた青年。どうしようもないピンチになると、悪の根源であったはずの戦争の破壊によって(散乱する書類)救われる皮肉。医学的にユダヤ人とドイツ人の違いを教える授業が怖い、と思いつつ、本当に困ったことなんだが、ナチのマークの存在する画面って、なにか身が引き締まる清潔感を感じてしまうんだな。ユダヤという「病気」を外部に捏造した社会の、幻の清潔感なのは重々分かっていても。
[映画館(字幕)] 7点(2011-07-19 10:07:56)
16.  放射能X 《ネタバレ》 
キチッと楷書で書かれたような、正しいモンスターもの。最初は人里離れた地での異変、無表情の少女が人形を抱いて荒れ地を歩いてるってのが導入として見事。やがて『キングコング』式に、脅威は都会へ拡散してくる。漠然とした謎ではなく、砂糖という具体物に焦点を当てているのも、現実と通じあっていていい。科学映画の蟻の生態のフィルムによっても、空想科学の空想を現実に繋ぎ止めている。現実との見立ては、最後で蟻の巣と都会の雨水路が重ねられる。戒厳令はものものしく、ちゃんと美人科学者も出てくるし、これで巨大蟻の造形がもうちょっと良かったら申し分ないんだけど…、と若干の不満を思ったが、モンスターをショボくしか作れないという欠点を意識していたからこそ、気配や予兆で話を持っていく「怪奇もの」の文法ってのが練り上げられたのではないだろうか。いまは技術の発達により、造形に凝ることが可能になって、それが映画の売りになるまでになった。ギーガーなど、モンスターの造形家の固有名詞が宣伝材料になる。それはそれでいいことだ。しかしモンスターがショボい時代があったからこそ、それ用の文法が出来た。これは、映画が最初にサイレントの時代があったからこそ、独自の芸術を生み出せたってことと同じで、だからこのショボい巨大蟻にも、我々は感謝しなければならないのだ。
[DVD(字幕)] 7点(2011-01-08 10:19:34)(良:1票)
17.  螢川
雪・桜・蛍とくれば、ディスカバージャパン的な定型の情景が連続するんではないかと心配していたが、そこは避けてある。雪はボタ雪と違い湿り気のないサラサラしたもので清潔。桜もそれらしい観賞用のカットはなく、自転車の車輪に貼りついた花びらがカラカラと宙を回転している。色も白・黒・赤という日本の伝統的な美意識に通じる三色の配置がしばしば使われるが、白い雪に黒い学生服、そこに赤い血や赤い傘が飛び込んでくるというような感じで、驚きのある新鮮な使用法。とても日本的な気分にあふれている物語を、情緒に流れないようにと監督は細心の注意を払って進めている。奈良岡朋子のエピソードなども、十分に溜めてから激情を爆発させるので、ジメジメしない。こういった演出上の抑制が、まわりの善意に溺れまいとしている少年の爽やかさと重なった。ただラストの蛍のシーンでの合成音は安っぽかった。赤い傘につけた鈴の音の効果などが素晴らしかっただけに残念。
[映画館(邦画)] 7点(2010-08-26 09:47:01)
18.  ボーン・アルティメイタム 《ネタバレ》 
巨大な組織と個人の対比を見せるためにこのシリーズがしばしば採用するのは、監視網の中で逃げ切る主人公。同じような趣向の繰り返しではあり、CIAがマヌケに見える ギリギリの線なのだが、サスペンスとしては楽しい。本作では、ウォータールー駅のシーン。携帯で指示を出しながら、ボーンと記者が動き回る。へたなアクションよりも、映画の楽しみが満ちていた。そこでしゃがんで靴の紐を結び直せ、とか。周囲に配置されたカメラの目と、個人とのかくれんぼ。敵が潜んでいるかも知れない群衆だが、そこに隠れることもできる群衆の海。終盤、アメリカに帰還してからは、CIAのオフィスががら空きとか無理が目立つが、その「いよいよアメリカに帰ってきた」という舞台設定自体が、「大詰め近し」のワクワク感を盛り上げてくれているので、許そう。シリーズ全体としては、マリー、ニッキー、パメラと、主要女性キャスティングにハリウッド的美人をいっさい排除した姿勢がよろしい(M・デイモンに合わせたのか)。どれも「美人」としてでなく「顔」としてインパクトがある。ラストのニッキーの笑顔なんて、アン・ハサウェイだったらちっとも効果なかったでしょ。
[DVD(吹替)] 7点(2010-08-05 09:42:07)(良:1票)
19.  ボーン・スプレマシー 《ネタバレ》 
製作会議では以下のような会話が交わされたのではないか。「今回は一匹狼を前面に出しましょう」「だとマリーが邪魔になるなあ」「開始早々殺しちゃえばいいんですよ、すると復讐のドラマにもなりますから」「でもボーン自身殺し屋みたいなもんだろ、正義の復讐って言ってもなあ」「それなら釣り合いを取って、彼の贖罪の旅を重ねればいいでしょ」「なるほど、深みっぽくなるなあ」「舞台はどうする」「前回が女連れの花のパリでしたから、もっと寒色系の街がいいですな、いかにも女っけに乏しい都市、ベルリンとかモスクワとか」「あ、それ両方いただき」「じゃあ冒頭でマリーに消えてもらうのは、反対に暑い街ですね、インドのゴアあたり行っちゃいますか」「ヤマちゃん、今日冴えてるねえ」、…などといった感じであったろう。アレキサンダー広場のシーンは、もっと面白くできそうだったが、その禁欲的なところがこのシリーズの魅力なのか、とも思わせられてしまう。それなりにドキドキした。カーチェイスっていつもはだいたい退屈するものだが、今回のモスクワはけっこう引き込まれた。こちらの車にパトカーが横からぶつかってくるのを車内から捉えたところの、驚きの効果と迫力。それと望遠で覗きながらのパメラとの電話、ああいうシーンはドキドキさせる、「ニッキーならあんたの隣に立っている」。黒澤の『天国と地獄』で、捜査員一同がパッと窓の視野から隠れて身を伏せる名場面を思い出した。見えない相手と耳元の声とのギャップから来るスリル。
[DVD(吹替)] 7点(2010-08-03 10:07:35)(良:1票)
20.  ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン! 《ネタバレ》 
全部で何カットあったんだろう、「キビキビしている」と「目まぐるしい」の間ぐらいの感じでずんずん進む。正直言って前半は「目まぐるしい」が優勢でいささか疲労気味だったが、だんだんテーマが見えてくると、ノレた。そうすると映画もキビキビ感じるのだから、いいかげんなものだ。どってことないコメディかと思っていたら、しだいにツインピークスめいた空気が流れ出し、銃が似合わぬ人たちとの壮絶な銃撃戦にまで至ってしまう。あの国は伝統のある保守的な国だから、かえって保守的なものへの警戒が強いのだろう。“公共の利益”という怪物に支配された“安全な町”、それを作っている“近隣監視同盟”。荒唐無稽ではあるが、よそ者への敵意を秘めた地方都市の現実と、どこかでちゃんとつながっている。この荒唐無稽は、やたら安全が叫ばれるようになりだした国の民としては、けっこう迫る。そこを押さえているから、ラストもただのアドレナリン系の発散ではなく、ブラックユーモアに満ちた納得のある痛快さになっていた。ただ、子どもたちや警官仲間があっさり主人公側に付くのがちと緩く、おそらくこういう風土ではまっさきに子どもたちが組織されて“愛郷防衛少年団”にされてるだろう。それとラストが一つ余計だったと思うが、いかにも英国ならではのハスに構えた姿勢が嬉しく、楽しめた。
[DVD(字幕)] 7点(2009-07-10 12:11:44)(良:1票)
000.00%
100.00%
200.00%
320.09%
4331.41%
52279.72%
691439.13%
773931.64%
834314.68%
9682.91%
10100.43%

全部

■ ヘルプ
© 1997 JTNEWS