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1.  野性の少年 《ネタバレ》 
トリュフォーが演じるイタール博士が幾度か立ち寄るレムリ一家は、クロード・ミレール監督一家のカメオ出演だという。 そのクロード・ミレールが、ヴィクトール少年(ジャン=ピエール・カルゴル)にせがまれ手押し車に乗せて遊んでやるシーンがあるのだが、 そこでの彼はちょっと強張ったようなぎこちない表情を見せる。職業俳優なら間違いなくもっと楽しそうな笑顔を演じるところだろうが、 逆にその芝居気無しの無骨な表情が何ともいい味を出しているのである。あわせて、夫人の素朴な佇まいも生来的だろう清楚さを醸し出している。  自然と文明を区分するかのように、窓辺や玄関戸といったルノワール的ショットが頻繁に登場し、ヴィクトール少年はその境界の窓辺に立って窓外を見やる。 ミルクを意味する「レ」をようやく少年は発音する。その感動的なシーンを引いた位置から見守るカメラの慎ましさがいい。
[DVD(字幕)] 8点(2016-10-27 21:46:44)
2.  柳川堀割物語
映画の冒頭、緩やかに進む平底舩の船首低位置に据えられたカメラが 掘割の景観を映し出していく。 木々から漏れた陽光が水面で反射し、 水路沿いの民家の軒下に光の揺れを作り出している。 子供たちが戯れ、ご老人が寛いでいる。 また夕焼けの水田では、逆光の中で一人の男性が足踏み水車を回し続けている。 かつては映画の最初期にも撮影されたそれらの風物は、柳川の景観として以上に 映画の被写体として、動的かつリズミカルで尚且つ美しい。  古くから培われた掘割の合理的なシステムが、アニメーション・図版を活用して 解説されるのも勿論アニメーション監督の特色だろうが、 大半を占める実写部分のレイアウト、動きの捉え方にその資質が表れている。  高度成長期の危機に瀕した掘割。その汚れきった死相は、静止した一枚写真の 数々で提示されるのも高畑流の演出だろう。  流れ、巡ってこそ生きる水が、動きあってのフィルムを通しての生として語られる。     
[DVD(邦画)] 8点(2014-07-24 15:51:08)
3.  闇の子供たち
どこそこのディティールが「現実的にありえない」だの、 「突っ込みどころ」だのというのは 概してフィクションというものを理解出来ない者の常套句だが、 映画作家は「その不自然さを前提にしたところで、それとは別のところに ドラマを作り出しているのだから、それを見なければ映画を見たことにならない」 (上野昴志「映画全文」)わけで、 Wikipediaあたりの拾い読み程度の薀蓄に頼った批判など、 物語に対しては有効でも、映画に対しては決して届かない。  少女を詰めた黒いビニール袋は、『トカレフ』でのそれのように、 あるいはペドロ・コスタの『骨』のように、 その生々しい物質感の露呈として映画内に要請されているのは云うまでもないだろう。  宮崎あおいは、その異質なビニール袋を目撃するや、とっさに走り出す。 無我夢中に。非現実的に。だからこそ映画的に。その走りと横移動のカメラワークがいい。  そして本来、映画の批評として肝要なのは上野氏が「非対称の視線―『トカレフ』論」ですでに書かれている、登場人物の視線の劇としてのあり方だろう。  建物の二階部から屋外を見下ろす主観構図の反復。その一方向的な視線の不穏な感覚。 江口洋介が、妻夫木聡が見詰める鏡。そこに反映する自身を見つめる眼差し。 クライマックスの取材現場での複雑な視線の交錯。そこに漲る形容不能な情感。  そうした視線によるドラマ作りを継承する本作は、劇中で幾度も主題を強調する。 具体の視線によって「見ること」を。 
[映画館(邦画)] 8点(2013-02-09 01:28:43)
4.  弥太郎笠(1952)
両思いでありつつ、主役の二人は真正面から直に向き合う事がない。奥ゆかしく振り向きあい、寄り添いあい、面を介して肩越しに覗き込み合う。両編通じて、優雅な円の動きによって二人のエモーションが描出される。二人の逢瀬、祭りの輪、多人数掛けの殺陣と、それぞれに活かされる円のアクションはひたすら優美である。多人数が入り乱れる驚異的な長まわしの殺陣においても画面が安定感を失わないのは、鶴田浩二の重心を落とし摺り足を基本とした能あるいは合気道に近い円運動とキャメラの滑らかな水平移動の組み合わせの絶妙さによる。そして緩から急へのうねりの見事さ。鈴木静一の音楽と相俟って盛り上がる殺陣終盤のショット繋ぎの力強さと流動感は圧倒的だ。能に絡んで、霧の漂う木立や墓地の美術セット等、何れもまさに幽玄を感じさせる素晴らしさである。
[映画館(邦画)] 10点(2008-11-26 22:57:21)
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