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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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221.  ザ・ウォーク
IMAX3Dにて鑑賞。 3D映画の第一人者と言えばジェームズ・キャメロンという風潮がありますが、10年以上前、2時間の映画を3Dで撮るという試みにもっとも熱心だったのはロバート・ゼメキスでした。彼の努力は技術的には一定の成果を挙げ、従来は数分間のアトラクション用だった3D技術を本格的に映画館へ持ち込み、ストーリーテリングと両立させることに成功しました。私は『ベオウルフ/呪われし勇者』を公開時に映画館で鑑賞したのですが、遊園地で見るような3D映像が2時間も続くことに大興奮したものです。ただし、ゼメキスが撮った3本の3D映画は高コストを回収できず、2009年の『クリスマス・キャロル』を最後にゼメキスは3D映画から離れてしまいました。その後、3D映画がどのように発展したのかは周知の通りです。 そんなゼメキスが3D映画に戻ってきたのが本作ですが、研究開発段階から3D技術に関わってきた御大だけあって、そこいらの監督の仕事とはレベルが違います。キ○タマが縮みあがるような映像の連続で、鑑賞後には手汗も凄いことになっており、特殊な状況を観客に疑似体験させるという点で、本作は究極のライド映画となっています。その没入感は『ゼロ・グラビティ』にも並ぶほどであり、これは史上最高クラスの3D映画と言えるでしょう。 脚本・演出は思い切ったもので、ドラマというものをほとんど描こうとしていません。自らの命をかけ、逮捕されるリスクを冒してまでもWTCで綱渡りしようとする男の気持ちなど観客に伝わるわけがないので、彼の心境を描くということを監督は完全に放棄しているのです。また、彼には多数の協力者が現れるのですが、彼らがどういう意図で集まったのかも詳しく描かれておらず、何となく人が集まってWTCに綱を張ったという荒っぽい展開となっています。とはいえゼメキスは『フォレスト・ガンプ』や『フライト』を撮った監督なのでそもそもドラマの扱いには長けており、適度にユーモアを入れながら、それなりに見られる形にドラマの体裁を整えているので、件の荒っぽさは鑑賞中にはさほど気にはなりませんが。
[映画館(字幕)] 7点(2016-01-23 22:59:22)
222.  インベージョン 《ネタバレ》 
原作未読、1956年版未見、1978年版・1993年版は鑑賞済です。 おおよそ15~20年毎に映画化され、それぞれの製作年代の社会背景を色濃く反映するこの企画ですが、私が過去に鑑賞した1978年版・1993年版と比較して世相がもっともストレートに反映されたのがこの2007年版だという印象です。 「自我を捨てれば暴力も混乱もない平和な世界が待ってるよ」と言う侵略者に対して、「自我を失えば私は私じゃなくなる。そんな平和に価値は見いだせない」として断固抵抗するのが主人公なのですが、ここで興味深いのが、侵略者側の理屈ってアメリカ合衆国がイラクやアフガンでイスラム教徒に対して言ってることで、「民主主義は良いよ。男女平等は良いよ。欧米の価値観でみんな幸せになれるよ」と宣伝して回り、一見不合理であるイスラム教徒の価値観を頭ごなしに否定して紛争国を無理矢理にでもハッピーにしてやろうとする姿そのものだということです。一方、それに断固対抗する主人公は、「私たちには私たちの価値観があるのだ。それは何ものにも代えがたい」と言って一歩も引かないイスラム教原理主義者の姿と重なります。 思想による侵略の恐怖を描いた1956年版に始まって、この企画はアメリカ社会を被害者の位置に据えることが暗黙の了解となっているのですが、本作は初めてそこを逆転させ、アメリカ合衆国が他国に対して行っている侵略行為をSFというフィルターを通して描く企画となっています。SFを現実社会の合わせ鏡として考えると、これは最高のSF映画ではないでしょうか。さらには、過去の映画化作品を利用して観客の側に先入観を抱かせ、それとは正反対のものを見せてくるという裏切り方もよく、観客の知的好奇心を刺激するという点で、きわめて優れた作品だと思います。この驚天動地の発想の転換は、第二次世界大戦後にアメリカによる占領政策を受け、前世代のやってきたことを全否定する代わりに平和と繁栄を得たドイツ人監督ならではのものではないでしょうか。 ただし、上記の趣旨が上層部の逆鱗に触れたのかどうか分かりませんが、本作は完成後にワーナーから大幅な撮り直しを命じられ、それを拒否した監督は解雇。当時『Vフォー・ヴェンデッタ』でワーナーと仕事をしていたチームがピンチヒッターとして雇われ、ウォシャウスキー兄弟が脚本を、ジェームズ・マクティーグが監督を担当して後半部分をまるまる撮り直すという措置がとられました。その結果、スケールの大きな見せ場は追加されたものの、社会的な考察は薄められたように感じます。前半と後半で作風がまるで変わってしまうことの違和感は相当なもので、これだけ不自然な映画はブライアン・ヘルゲランド監督が解雇された『ペイバック』以来です。オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督が最初に完成させたディレクターズ・カット版を見てみたいのですが、興行的にも批評的にも大敗した本作では、それも難しいのでしょうか。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2016-01-19 15:01:08)(良:1票)
223.  SF/ボディ・スナッチャー 《ネタバレ》 
過去4度の映画化作品の中でも最も印象的で、『ボディスナッチャーズ』と言えば本作を連想する人が恐らく最も多いであろう作品。確かにその完成度には素晴らしいものがあります。 問題が顕在化する前でも不安定なカメラワークや耳障りな環境音、薄気味の悪いキャラクターの挿入等で観客に何ともいえない不快感を与えており、この内容にふさわしい雰囲気が醸成されています。社会が変貌していくことの恐怖、知り合いが別人格となっていくことの恐怖、そして自分自身も望まぬ変化に襲われるという恐怖の描写は克明かつ的確だし、睡眠不足に耐えながらの逃避行という主人公たちの疲労感までが観客に伝わってくるため、一種のライド映画としても機能しています。70年代の社会派SFでありながら見世物映画としての面白さも兼ね備えており、さらには観客を絶望感で打ちのめすオチのつけ方も秀逸で、極めて上質な娯楽作となっているのです。 ただし話の展開は遅く、「すでにネタが割れてるんだから、早く次に行ってよ」という部分でも相変わらずもったいぶった演出をされて、説明的な部分では少々退屈させられることがマイナス。製作年代を考えれば仕方のないところではありますが、もう少しテンポアップして欲しいところでした。
[DVD(字幕)] 7点(2016-01-19 15:00:00)
224.  イングリッシュ・ペイシェント 《ネタバレ》 
文芸作品としての上品な風格とハリウッド映画らしい大作感を両立した作品であり、そのルックスはほぼ完璧。「これは何か賞をやらなければ」と思わせるだけの仕上がりだし、一方で同年には他に突出した作品がなかったこともあって、作品賞を始めとするオスカー大量受賞には納得がいきます。アカデミー会員が求めるものを、ほぼパーフェクトに充たした作品なのですから。ただし「面白いか?」と聞かれると、これはちょっと微妙と言わざるをえません。 ざっくり言うと不倫で身を持ち崩した男の話なのですが、その舞台が第二次大戦前夜というキナ臭い時代だった上に、登場人物達の背景に国際的な諜報戦も絡んできたことから悲劇は雪だるま式に折り重なっていき、最終的には大勢の人の死に繋がっていくという劇的な展開を迎えます。そのまま映画化すればさぞや面白かろうという内容なのですが、厄介なことに、監督とプロデューサーは恐らく意図的に娯楽性の高くなりそうなポイントを外してきています。本作の評価はこの点をどう受け止めるかにかかっており、この手の文芸作品が好きな人にとってはストーリーテリングにおけるこの独特な取捨選択がハマったのかもしれませんが、それ以外の観客にとっては、盛り上がりそうで盛り上がらない中途半端な展開にフラストレーションが溜まる結果となっています。 具体的には、足を負傷したキャサリンを砂漠の洞窟に残して救助を求めに出て行ったアルマシーが、その国籍ゆえにスパイ容疑をかけられてキャサリンを助けに戻れなくなるというくだり。タイムリミットサスペンスの要素とも相まって、詳細に描けばかなり面白くなったであろう展開なのですが、監督は驚くほどアッサリとこのパートを流してしまいます。その過程において売国行為にまで手を染めるという、アルマシーにとって分岐点となったイベントも簡単なナレーションのみで片付けられており、その意思決定の時点でアルマシーが抱えていたジレンマはほとんど描かれません。監督によるこの取捨選択には大きな疑問を持ちました。 他方、無駄に感じたのが看護師ハナの物語全般です。映画は現在パート(1944年)と回想パート(1938年)を行き来しながら進行するのですが、現在パートにおけるハナと爆弾処理兵キップとの恋愛が本筋にうまく絡んでいない上に、この物語がさして面白くもありません。ハナとキップは登場させず、間接的に加害者となってしまったアルマシーと、アルマシーの売国行為によって重大な損害を受けたカラヴァッジョの対話を現在パートの基礎とした方が全体的な話の通りは良くなったような気がします。
[ブルーレイ(吹替)] 6点(2016-01-18 19:18:00)
225.  リピーテッド
『メメント』と同様に前向性健忘(新しいことを覚えられなくなる記憶障害)を扱った作品なのですが、本作ではさらに設定が追加され、主人公は40歳であるが意識は20歳の状態で、間の20年間の記憶がないというお話となっています。新しいことを覚えられない上に、過去の記憶も大幅に失われている。これはなかなか怖い設定で、例えば私は30代なのですが、朝目覚めた時には自分は中学生だと当然に思い込んでるわけですよ。でも鏡を見ると、確かに自分なんだけど異常に老けた顔があると。そして隣で寝ていた知らない人から「君はもう30過ぎなんだよ。で、うちらは夫婦なんだよ」と言われる。さらに、いかにも怪しい医者から電話がかかってきて、「僕らは秘密の治療をやってるから、今日も迎えに行くね」と言われる。何を信じていいのか分からないが、疑っていても物事が進まないから、とりあえず言われるがままに動く。しかし、自分は良いように操られているだけではないのかという不安は常に付きまとう。自分のバックグラウンドを解明しようとしても、記憶は一日しかもたないから情報の積み上げができない。本作冒頭は、この「何が何だかわからん」という空気感や主人公の抱く不安が見事に描写されており、なかなかの滑り出しとなっています。 ただし本編に入ると、短い上映時間の割には退屈さを感じさせられる内容となっており、サスペンス映画特有の緊張感も作り出せていません。序盤の素晴らしい空気感は維持されているし、メインキャスト3名の演技も素晴らしいので作品は破綻していないものの、大きな山場を作り出せておらず、すべてが淡々と進んでいくのです。 本作の問題点のひとつとしては、寝ると記憶がリセットされる主人公に焦りがないという点が挙げられます。寝たら終わりというサスペンスは、過去にキッドマンが主演した『インベージョン』と同様のものなのですが、生物にとって避けられない睡眠というイベントからどうやって逃げるのかにフォーカスしてなかなかの緊張感を生み出していた『インベージョン』と比較すると、本作の主人公は睡眠を普通に受け入れているため、ひとつの山場を逃しているのです。 また、上記の通り記憶の積み上げができない以上は、一日で真相まで辿りつかねばならないというタイムリミットサスペンスの要素も持った作品でもあるのですが、そんなおいしい部分も素通りしてしまっています。過去20年間の主人公の歴史を辿る物語に重きを置いてしまったために、前方性健忘というもうひとつのコンセプトが希薄化したという印象を受けました。
[ブルーレイ(吹替)] 5点(2016-01-15 12:03:37)
226.  ラスト・リベンジ
元はニコラス・ウィンディング・レフン監督、ハリソン・フォード主演で製作される予定だったものの、レフンが離れたことからポール・シュレイダー監督、ニコラス・ケイジ主演に落ち着いたという本作。メンバーのグレードが下がったことの影響は作品にはっきりと表れていて、「もうちょっと何とかならんかったかなぁ」という結果に終わっています。 まず、ニコラス・ケイジがミスキャスト。主人公の設定年齢とケイジの実年齢があまりにかけ離れているため、ドラマへの感情移入が難しくなっています。50代になったばかりのケイジではまだまだ若々しくて、死の迫ったヨボヨボの老人が国際テロ組織に潜入するというサスペンスがまったく表現できていません。銃を撃つ時の立ち姿なんて『フェイス/オフ』の頃からさほど変わっておらず、あれだけシャキっとアクションをこなされると、作品の趣旨を見失いそうになります。他方、かつてのジャック・ライアンであり、現在は小走りするだけでも「大丈夫か」と心配になってしまうハリソン・フォードが主人公を演じていればどれほどハマっただろうかと考えるにつけ、このキャスティングが残念で仕方ありません。 ポール・シュレイダーの演出も、相変わらず垢抜けしません。脚本家としては一流でも監督としては残念なことの方が多い御大ですが、本作についても主題を効果的に描くということができていません。健忘症で怒りっぽい主人公が、たまに目的そのものを忘れながらも私怨からテロリストを追いかける様は、対テロ戦争を戦う現在のアメリカ合衆国の暗喩なのだなぁということは分かるのですが、「だから何?」という、暗喩の先にある主張がよく伝わってこないので、意義のある鑑賞にはなりませんでした。作品の要となるような印象的な見せ場も作れていないし、ドラマとしてもアクションとしてもまるで見所のない作品となっています。監督は、スタジオから作品を取り上げられて勝手に編集されたことを嘆いていましたが、出来上がったものを見る限りではそもそも高いポテンシャルがあったようにも感じられず、この出来であれば監督自身が仕上げてもスタジオが仕上げても、どちらにしても大したものはできなかったのではないかと思います。
[ブルーレイ(吹替)] 4点(2016-01-15 12:02:25)
227.  チャイルド44 森に消えた子供たち
スターリン政権下のソ連を舞台としたサイコサスペンスという極めて異色の作品なのですが、言論の自由がなく、うっかり正論を言えば強制収容所送りが待っているという閉塞的な雰囲気作りには成功しており、設定はきちんと活かされています。 舞台となる1953年はスターリンが死去した年に当たり、そのスターリンは当時のソビエト連邦を社会主義の完成形として位置付け、そこは理想的な社会なのだから社会問題などあるはずがなく、不平不満を訴える者は須らく反革命分子であるとの対応を行っていました。他方、彼の死後に政権を引き継いだフルシチョフは現実路線をとっており、社会問題の存在を認識した上で、それをどう解決するかという方向性での国家運営をしていました。外形上のジャンルは刑事ものでありながら、こうした国家体制の大きな流れも作品内に取り込んでおり、なかなか含蓄ある作品に仕上がっています。当初はリドリー・スコットが監督することを想定して企画が進められていただけに、決して甘い作りにはなっていないのです。 ただし、ファーストカットの上映時間は5時間30分を越えていたという噂が示す通り、膨大な構成要素の処理に失敗してあらゆることが不完全燃焼のまま終わってしまい、いろいろと納得感の薄い仕上がりとなっています。連続猟奇殺人の捜査、官僚達によるパワーゲーム、仮面夫婦だった主人公夫婦が真の絆を獲得する物語、これらが作品の3本柱となっているのですが、そのすべてを2時間強で収めることには相当な無理があったようです。 そもそも、身の危険を冒してまで主人公が殺人捜査にこだわる動機付けがないため、ドラマへの感情移入が難しくなっています。主人公の上司となるゲイリー・オールドマンにしても、彼は「将軍」と呼ばれ、かつては実力者だったが何らかの理由で権力者と衝突して閑職へと追いやられたことが仄めかされるものの、その背景については具体的に説明されないため、こちらもどう捉えていいのか分からないキャラクターとなっています。敵役となるジョエル・キナマンが主人公を陥れることに固執する理由もよく分からず、その奥さんに色目を使い始めることも唐突であり、すべてのドラマがうまく流れていません。 クライマックスではトム・ハーディ、ゲイリー・オールドマン、チャールズ・ダンスという良い顔の男達が揃って殺人課が新設され、これがエピソード1だったことが判明するのですが、本作が興行面でも批評面でも成果を挙げられなかったことを考えると、シリーズ化は難しいようです。このメンツであれば続きを見てみたい気もするだけに、本作の不発は残念でした。
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2016-01-12 20:24:30)
228.  日本のいちばん長い日(2015) 《ネタバレ》 
太平洋戦争を描いた戦争映画として見ると不満が出るようですが、政治劇としてこれを見ると、なかなかの完成度で満足させられます。本物志向のセット、質の高い演技、時系列に沿って丁寧にまとめられた脚本と、映画としてよくできているのです。本物志向すぎて一部よく分からないセリフがあり、私はブルーレイで日本語字幕を表示しての鑑賞としたのですが、そのような難解なセリフは本編における重要性の低い部分に集まっており、肝心な部分でははっきりと聞き取れる言葉が選択されているという配慮もありました。実に丁寧に作られた作品なのです。 本編中、もっとも感情的となるであろう阿南の自害場面においても大袈裟な音楽などは流さず、また、その死に際して部下にも家族にも感傷的なことを言わせず、全員が涙も流さずに死を受けいれた辺りに、本作の姿勢がよく表れています。戦争もの、特に太平洋戦争を扱った作品では情緒を全面に出したものが多い邦画界において、ここまで淡々と事実(と思われる事項)の描写に特化した作品は稀少であり、その点は非常に高く評価できます。 結論は明らかであるが、実行者がいない。本作は意思決定のプロセスを描いた映画でもあります。満身創痍の海軍は一刻も早い終戦を望むが、一方で本土決戦用に温存されていた一部の陸軍将校達は、自分たちだけが無傷であることへの負い目もあってか、本土決戦を主張します。しかし、本土決戦をやったところで戦況は好転せず死者が増えるだけであることは誰の目にも明らかであり、こうした一部の過激派の暴発を抑えながら、どうやってあるべき結論にまで辿りつくかが作品の焦点となります。毎日大勢の死者が出ている中で、意思決定機関は何を悠長なことをやって時間をムダにしていたんだと虚しくなりますが、日本人の国民性って、結構こんなもんだったりします。冷静な判断が必要な局面に限って、精神論を唱える一部のグループの意見が優先され、あるべき結論が遠のいていく。仕事で自分自身が出席している会議等に置き換えて本作を鑑賞すると、果たして自分は鈴木貫太郎や阿南惟幾のような立場をとれるだろうかと不安になります。 以上、基本的にはよくできた作品なのですが、不満を挙げるならば、陸軍将校によるクーデターの経過が分かりづらかったという点でしょうか。陸軍将校達は首都圏に所在している様々な軍にクーデターへの参加を求めますが、軍同士の力関係や、それぞれの組織が誰に意思決定を支配されているのかという説明、陸軍将校達がどの軍を味方に引き入れればクーデターの目的が達成されるのかといった成功ラインの提示がなかったため、ラスト30分は劇中で何が起こっているのかを掴み損ねました。
[ブルーレイ(邦画)] 8点(2016-01-12 20:21:36)
229.  ブリッジ・オブ・スパイ
視覚的な見せ場が売りの作品ではないものの、それでも時代の再現度は壮絶なレベルに達しているし、U2偵察機撃墜場面やベルリンの壁構築場面の迫力は凄まじく、スピルバーグはスペクタクルの巨匠であることを再認識させられました。 他方、肝心のお話しの方はイマイチでした。正義漢でもない主人公が、なぜ汚名を着せられてまでソ連のスパイの弁護を引き受けたのか。命の危険を冒してまで東ベルリンへと飛んだのか。その辺りが明確に描かれないため、掴みどころのないドラマとなっているのです。 また、法廷闘争や人質交換交渉においては、目的に対して何が問題になっているのか、そしてそれをどうクリアーするのかという形で論点が整理されていないため、そこにスリルやドラマを醸成しきれていません。主人公があっちからこっちへと動き回って、何人かの人と話しているうちに何となく問題が解決していくという流れであるため、感情的な引っ掛かりが少ないのです。この辺りは、もっと引き締まった作りにして欲しいところでした。
[映画館(字幕)] 6点(2016-01-09 02:44:50)
230.  ブラックハット 《ネタバレ》 
マイケル・マンと言えば昔気質の職人的な犯罪者の描写を得意とする、というかその手のキャラクターしか扱えない監督であるにも関わらず、本作では遠隔操作での戦いが見せ場のハッカー映画を撮るという大冒険をしていますが、結果は「やべ、俺向いてねぇわ」という監督の脂汗が見えてきそうな映画になっています。 内容は支離滅裂。とはいえ元からこれだけおかしい企画が通ったとは思えず、そもそもはちゃんとした内容だったが、監督が素材を扱いきれなくなったことから突貫での書き換え作業が始まってメチャクチャになったのではないかと推測します。つっこみどころがあまりに多いため、以下に箇条書き。 ・囚人ハッカーに捜査協力を依頼するなら、レクター博士みたいに鉄格子の向こう側で作業させればいいのでは。なんでわざわざ現場に出すの。 ・FBIは、囚人ハッカーと中国から送り込まれた女プログラマーに国内捜査をほぼお任せ状態で、彼らに対してロクに監視も付けない ・NSAは、いま時うちの母親でも騙されないようなフィッシング詐欺に引っかかって極秘扱いのスーパーコンピューターを不正使用される ・香港にスリーマイル島と同じ型の原発がある。アメリカ人がイメージする原発は須らくあの形なんでしょうか。 ・中国政府は、原発事故の現場に外国人の囚人ハッカーを出入りさせて、状況を丁寧にレクチャー。原子炉の管制室に入って極秘情報がたっぷり詰まったサーバーを回収するという作業まで外国人にお任せする。 ・テロリストの行動が、そもそもの目的と一致していない。インドネシアの錫鉱山を水没させる計画の予行演習で中国の原発をメルトダウンさせようとか、どういう判断基準してるの。普通逆でしょ。 ・そもそも金儲けが目的なら全世界の証券取引所をハッキングし、目立たぬよう広く薄く稼げばいいのでは。アメリカ政府と中国政府を同時に怒らせるという、地球上で最大のリスクをとった理由が分からない(一応、敵ハッカーにはドでかい事件を起こして世界に存在をアピールしたいという個人目標があったようなのですが、そんなものに付き合ってリスクを冒すテロ集団なんていないでしょ)。 ・テロリスト、市街地で銃撃ちすぎ。対戦車ロケットランチャーまで持ち出すし、香港は無法地帯か。これではテロ捜査関係なく、地元警察に普通に逮捕されるでしょ。 ・米中双方の捜査官が全滅した後、なぜか犯罪捜査に関してはド素人の囚人ハッカーとプログラマーカップルが勝手に捜査を引き継ぐ。両国の捜査機関に駆け込んで事情を説明する方が早くて確実なのでは?捜査官が殺された以上、捜査機関も真剣に動くし。 ・お尋ね者の囚人ハッカーが、捜査機関からのバックアップもなしに簡単に入出国する ・戦闘については素人のはずの囚人ハッカーが異常に強い。銃を持った複数人のテロリスト相手にドライバー一本で勝利してしまうという、どこのジェイソン・ボーンですかという大活躍。 主人公が囚人であることと、ハッカーであることという企画の骨子部分が製作途中で邪魔になったのか、普通のFBI捜査官を主人公にしてしまった方がスッキリしたのではという仕上がりに落ち着いたことはマズかったと思います。また、米中が共同で捜査をするという設定をとった以上、相容れぬ立場にある者同士の確執や、捜査の壁等も織り込むべきだったと思うのですが、中国政府の製作協力を取り付けたいという事情でもあったのか、劇中の中国当局がとにかく物分りがよくて何にでも快く応じてくれるため、本来あるべき展開がスッポリと抜けてしまっています。これではアメリカ国内に舞台を限定しても、同様の作品ができてしまいます。 確かに『コラテラル』にだっておかしな点は多くありましたが、あの映画は男の寓話であり、設定の整合性やリアリティを多少犠牲にしてでも語りたいドラマがちゃんと見えたので、一本の映画として評価できました。しかし本作には、そういったものすらありません。一応はアメリカ人ハッカーと中国人プログラマーのロマンスが作品の要になっている様子なのですが、二人がどうやって惹かれあったのかが不明確で、いきなり関係がスタートするため、感情移入は難しいものになっています。結果、ちょっと長めの上映時間で、ありえない話を延々と見せられる。これはしんどかったですね。
[ブルーレイ(吹替)] 3点(2016-01-05 14:08:15)
231.  フォーカス(2015) 《ネタバレ》 
思いもよらぬオチを用意するだけでなく、直前までオチの存在に気付かせないこともドンデン系の映画には必要だと思いますが、その点で本作は完全に赤点。本編中に盛り込まれた仕掛けの数々は確かに凄くて、よくぞこれだけ考えたものだと感心したし、伏線の回収にも成功していて決して甘い作りの映画ではないのですが、冒頭から小細工の連続では観客側もすべてを疑ってかかるため、ドンデンをかまされても「ああ、そうですか」としか思えません。そもそも、これだけウソが横行し、「さっきのやりとり、実は○○でした」みたいなことを短時間のうちに何度も何度もやられてしまうと、映画を真面目に見ようという気が失せてしまいます。私の集中力が継続したのは前半のニューオーリンズパートまでで、後半のブエノスアイレスパートになると完全に飽きてしまいました。 本作には詐欺師とカモとの間でのウソと、詐欺師同士のウソのふたつがありますが、後者のウソはドンデンまで伏せておくべきでした。詐欺師同士の会話では真実を語っていると見せかけておいて、最後にこれをひっくり返す。こういうメリハリが必要だったと思います。 また、ロマンティックコメディとしてもイマイチ。せっかく詐欺師を主人公にしているのだから、いくら相手に思いを伝えても額面通りに受け取ってもらえないというすれ違いのドラマにすればいいものを、主人公二人はアッサリと恋に落ちてしまうため、これといった見せ場がないのです。一般人にとっては感情移入の難しい詐欺師カップルがくっついたり離れたりを何度か繰り返して、最終的に一緒になれてめでたしめでたしというお話では、何の面白みもありません。 最近パッとしないウィル・スミスは得意とする伊達男役に復帰し、22歳も年下でフェロモン全開のマーゴット・ロビーの隣に立っても見劣りしないほどの色気を漂わせているものの、映画の出来がこれでは、せっかくの彼の存在感と必然性がないのに執拗に強調される肉体美がムダになっています。
[ブルーレイ(吹替)] 4点(2016-01-04 15:48:24)(良:1票)
232.  誘拐の掟
『96時間』の大ヒット以降は暗い過去を抱えた暴力オヤジ役をひたすら演じ続け、もはやどれがどれだか分からなくなりつつあるリーアム・ニーソン。本作の主人公マット・スカダーもその系統のキャラクターであるためニーソンはいつものニーソンではあるのですが、80年代にもジェフ・ブリッジス主演で映画化されたことのある人気ハードボイルド小説を原作とし、『アウト・オブ・サイト』や『マイノリティ・リポート』で知られるスコット・フランクが脚色を担当したことから、作品のクォリティは従前のニーソン作品と比較して格段に優れたものとなっています。 ひょんなことから舞い込んだ依頼や、思わぬ相棒の登場など、前半部分は探偵ものの定石に当て嵌めた作りとなっており、これら一種の様式美が微笑ましく感じられます。点と線をつないでいく捜査過程にはビジュアル的な刺激が少ないため少々退屈させられるのですが、この部分ではかなりの情報量がコンパクトにまとめられており、ひとつのセリフを聞き逃すと全体を見失うおそれがあるため、まったく気が抜けません。この辺りはただ情報をまとめるだけではなく、もっと動きのある展開にしてくれると良かったのにという点が不満でした。 ただし、新たな誘拐事件が発生し、犯人との直接交渉が始まると、映画は急速に熱くなっていきます。ゲスな犯人に対抗する主人公のタフネゴシエーターぶりがとにかくかっこよく、切れ味抜群な言葉の応酬戦だけで、ド派手なアクションを見せられているような高揚感があるのです。この辺りはスコット・フランクの面目躍如、素晴らしいものをみせていただきました。クライマックスに向けて妙に説教臭くなっていくのが玉にキズですが、事件が解決しても「めでたしめでたし」では終わらない陰鬱な空気感は最後の最後まで維持されており、探偵ものとしては優れた作品だったと思います。
[DVD(吹替)] 7点(2016-01-03 01:38:27)
233.  パージ:アナーキー 《ネタバレ》 
前作には低い評価を下したものの、続編である本作は実にいけるバイオレンス映画として仕上がっていました。 籠城戦だった前作からは一転して、本作では無法地帯となったロス市街地が舞台となり、ガトリング砲で人をミンチにするわ、固まって避難していたホームレスを火炎放射器で焼き殺すわのやりたい放題。主人公は射撃や格闘に精通し、状況判断にも長けたザ・ヒーローという感じの男で、その活躍は文句なしにかっこよく、「そう、こういうのが見たかったんだよ!」と頑固なバイオレンスファンを納得させるだけのビジュアルを叩きつけてきます。お話の方もユルユルだった前作からは一転してソリッドな仕上がりとなっており、なかなか気が抜けません。状況が悪化し、観客側のフラストレーションが最高潮に達したところで反撃!というテンポの作り方もよく、なかなか見入ってしまうのです。また、これだけの残虐ショーを繰り広げておきながら、クライマックスでは暖かさすら漂うというドラマ部分の味付けも絶妙であり、前作で感じた不満がほぼ解消されてお釣りがくるほどの仕上がりとなっています。 あえて不満点を挙げるなら、政府による介入や、反政府組織の登場など、ちょいと世界観を拡大しすぎで扱いきれていない設定があったかなということは気になりましたが、これについては現在企画中の『The Purge3』の仕上がり次第でしょう。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2016-01-02 00:24:06)(良:1票)
234.  パージ 《ネタバレ》 
1年に一度、12時間だけあらゆる犯罪が罪に問われないという着想は独創的で素晴らしかったし、年一度のガス抜きにより残り364日の治安が飛躍的に向上するという社会的な利点や、自己防衛手段を持たない弱者の間引き手段でもあるという裏の機能までがきちんと考えられており、突飛な基本設定でありながら、あの世界では受け入れられた法律であるということを観客に納得させるに至っている点でも感心しました。 ただし、良かったのは設定がテンポよく説明される冒頭15分のみであり、よくできた設定とは裏腹に本編の方はユルユルでガッカリさせられました。バカな奴がバカなことをしでかして事態が悪化していくという、この手の映画で一番やって欲しくない方法で物語が進んでいくため、いちいちストレスが溜まります。娘の恋人が突如親父に発砲してきた。さらには正体不明の人間が家に紛れ込んでどこに潜んでいるか分からないという状況で、娘が一家からはぐれてしまった。こんな逼迫した局面でありながら、残された一家はチンタラと会話をしたり、バラバラに行動して隙を作りまくったりで、見ていてイライラさせられっぱなしなのです。一刻も早く娘を回収して防御態勢を築くべき状況にありながら、一向にそれを実行に移さないというのはどういうことなのかと。 そもそも、一家の息子がホームレスを匿ったために惨劇が始まるのですが、あの子が見ず知らずの人を助けようとした背景がまったく描かれないため、「なぜそんなことを」と誰しもが思ってしまいます。本作では人命の扱い方がメインテーマとなっているにも関わらず、主要登場人物が元来それをどのように捉え、そして極限状態でどう変わっていったのかが明確に描かれていないためそこにドラマが発生しておらず、納得できなかったり、突飛に感じたりする展開が多くなっています。もっとも不自然に感じたのは主人公たる親父の心変わりで、このままではパージャーの群れに襲われてホームレスも一家も皆殺しにされるという状況下にあって、いったんはホームレスを突き出そうという意思決定を下すものの、直後にそれを覆します。この判断がどう考えても不合理であり、ショットガンや自動小銃で武装した十数人の若者を相手にした戦いに嫁・子供を巻き込んでまでホームレスを守ろうとした理由がサッパリわからないため、本編中もっともドラマチックであるべき箇所で疑問符の嵐となってしまいます。
[ブルーレイ(吹替)] 5点(2015-12-31 01:10:26)(良:1票)
235.  スター・ウォーズ/フォースの覚醒
IMAX3Dにて鑑賞。 全銀河に及んだ戦争もスカイウォーカー家のドラマもEP6で綺麗に終わり、これから先にどんなドラマがあるんだと不安だったEP7ですが、相変わらず銀河は内紛状態で、依然として権力を掌握しているのは暗黒の勢力であるという基本設定には少々ガックリきました。EP6のラスト、帝国倒れてよかったね!のお祭り騒ぎは一体何だったのかと。 しかし、そんな苦しい基本設定を流せば、本編はドラマとアクションが見事に調和した、完成度の高い娯楽作に仕上がっています。物語の大枠はEP4をなぞったものなのですが、ドラマと見せ場の密度、話のテンポは70年代とは比べ物にならないほどのレベルであり、やや長めの上映時間にも関わらずダレ場は一切なし。演出の絶倫ぶりには驚かされました。新キャラクター達はみな魅力的だし、事前の予想以上に旧キャラクター達の見せ場も多く、キャラクター劇としてもよくできています。また、劇中いくつか提示される謎についてもおかしな引っ張り方はせず、本作である程度ネタを明かしてくれるのでストレスなく鑑賞することができました。EP6の続きを作れと言われて出て来る、ベストの作品が本作ではないでしょうか。それほど面白かったです。 細かい点で言うと、兵器やガジェットのデザイン、世界観や用語についてはEP6まででルーカスが構築したものを基礎としており、本作オリジナルの要素を極力持ち込まなかったという点も良かったと思います。EP1~3が不評だった理由をきちんと分析し、ファンが望むスターウォーズを作り上げているのです。 失敗した点としては、観客の興味を引くほどの強烈な悪役がいなかったという点でしょうか。予告の時点で期待されていたカイロ・レンは、登場場面こそ死ぬほどカッコよかったのですが、その後どんどんヘタレキャラと化していき、ラストでは『マイティ・ソー』のロキをも下回るほどの醜態を披露。投影でのみ登場するファースト・オーダーの大親分にもかつてのパルパティーンのような重厚さがなく、頼みのルークが出て来てくれれば簡単に勝ててしまうのではないかという無用な安心感があります。
[映画館(字幕)] 8点(2015-12-19 14:06:46)(良:2票)
236.  ワイルドカード(2014) 《ネタバレ》 
情に厚い用心棒が、女に暴力を振るう極悪マフィアと全面戦争!かと思いきや、ギャンブル依存性のステイサムが、「人生って何じゃろねぇ」とか言いながらラスベガスを彷徨う珍妙な映画でした。マフィアとのトラブルは意外とアッサリ片付くし、ラストでは、数日行動を共にして仲良くなった優しいIT成金から50万ドルをポンともらって(お前は猪瀬元知事か)人生のやり直しをさせてもらうという超ご都合主義。アクション映画としてもドラマ作品としてもこれといった見所がなく、見て損したと思うレベルの作品でした。 気の良い悪人役のステイサムはいつもながらのハマり具合であり、抜群の安定感で作品の基礎となっていますが、本作についてはステイサムが演じるからこその不満点もありました。いつものステイサムなら大暴れして敵をなぎ倒し、観客に溜飲を下げさせる場面であっても、本作では実力行使にためらいがあって、見ている側からすると何ともスッキリとしないのです。この辺りの欠点は、監督が作品のカラーを決め兼ねたことが原因ではないかと思います。例えば『ハミング・バード』も本作と同傾向の作品でしたが、そちらはドラマ畑のスティーブン・ナイト監督の色がはっきりと出ており、「これはアクションを見るための映画ではありません」という共通認識が作り手と観客との間で自然と出来上がったおかげで物足りなさは感じませんでした。他方、本作の監督はサイモン・ウエスト。よほど気が合うのか『メカニック』『エクスペンダブルズ2』に続きステイサムとは三度目のタッグとなりますが、そのフィルモグラフィを見ればわかる通り、アクション映画しか撮れない監督です。裏街道の人間模様を描くことには不慣れだったし、たまに出てくる殴り合いも血生臭いバイオレンスではなく、ステイサムの身のこなしをカッコよく見せるための華麗なアクションとして撮られているため、ドラマの方向性と見せ場の印象がバラバラになっているのです。ラストの大立ち回りなんか最悪で、主人公があれだけ強いのなら最初から暴れてればよかったのにと、余計にモヤモヤが残る結果にしかなりませんでした。 唯一面白かったのは冒頭。ハゲのステイサムが他人のヅラをむしり取り、ハゲ頭を笑いものにするという倒錯したやりとりのみ楽しめました。
[ブルーレイ(吹替)] 4点(2015-11-30 09:16:10)
237.  ブラック・ラン<TVM>
『ショーシャンクの空に』のフランク・ダラボンが書いた脚本を、後に『イーグルアイズ』を撮るD・J・カルーソが監督したという、現在から振り返ると何とも豪華な布陣によるTV映画。 『ショーシャンクの空に』でオスカー作品賞にノミネートされ、『プライベート・ライアン』の脚本のリライトにも呼ばれるなど(冒頭のノルマンディー上陸はオリジナルにはなく、スピルバーグからの依頼によりダラボンが書き加えたもの)、当時すでにハリウッド有数の脚本家だったダラボンがなぜ低予算のTV映画に関わることとなったのかは分かりませんが、ロミオとジュリエットのような主人公とその恋人との関係や、警察から犯人だと勘違いされ、主人公が孤立無援の中で戦わざるをえなくなるというシチュエーションなど凝った設定が多く、そこいらのB級アクションとの差をまざまざと見せつけられました。さらには、多くの要素がひしめく作品でありながら大した混乱が起こっておらず、無駄な登場人物がいないためストーリーテリングは極めて滑らか。ダラボンがどれほどの熱量をもってこの企画にあたったのかは分かりませんが、うまい人に作らせれば、一度見で消費されるだけのTV映画でもそれなりのものができるんだなと感心させられました。 ただし、演出の方は安っぽさ全開でイマイチ見栄えがしません。当時流行っていたジョン・ウー風にしたかったのか、いちいちスローモーションになるアクションには古臭さを感じさせられるし、車を使った追っかけがメインの作品なのにスピード感の演出にも失敗しており、結果的にそこいらのB級アクション映画群に紛れてしまう程度の仕上がりに終わっています。せっかく脚本は良かったのだから、もうちょっと丁寧に撮って欲しいところでした。
[ビデオ(字幕)] 6点(2015-11-30 09:14:19)
238.  エベレスト 3D
IMAX3Dにて鑑賞。 邦題に3Dを冠した作品だけあって3D効果には素晴らしいものがあって、エベレストの美しさと恐ろしさを存分に味わわせてくれます。急斜面から下を見下ろすショットが何度か出てくるのですが、これが高所恐怖症ではない私でも脇汗をかかされるほどのド迫力であり、『ゼロ・グラビティ』にも匹敵するライド映画となっています。その視覚効果の凄さは、設備の整った映画館で見なければまったく無意味と断言できるほどであり、もし迷っているならすぐに映画館へ足を運ばれることをオススメします。 他方、ドラマの方はかなり淡泊です。比較的最近の事故であるため存命中の関係者が多く、さらには生存者間でも事実認識が割れている点がいくつかあることから、脚色にあたって相当な制約を受けたことがその原因のようで、いろいろと無難に収められています。登山ガイドの隊長、顧客の医師、なけなしの金を持って参加した郵便局員の3名が物語の中心となるのですが、これら中心人物達ですら背景の描写は最小限にとどめられており、その豪華キャストから『ポセイドン・アドベンチャー』のような濃いドラマを期待すると、少なからずガッカリさせられます。 また、登場人物が多いことに加えて、吹雪の中では顔の判別が付きづらいこと、途中からパーティーがいくつにも分割してそれぞれの位置関係の把握が難しいこともあって、誰が何をやっているのかの把握が非常に困難であり、内容を正確に理解しようとするとかなり混乱します。ラスト30分で突如救助隊の中心人物となるサム・ワーシントンなんて、「あなた、いましたっけ?」と言いたくなるほどの唐突感だったし、総じて登場人物の交通整理はうまくいっていません。「少々のことはわからなくても大丈夫」と早めに割り切り、登山の追体験に専念することが正しい鑑賞姿勢だったのかもしれません。
[映画館(字幕)] 6点(2015-11-09 15:34:13)
239.  オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分 《ネタバレ》 
内容やトーンは違うものの、私はトム・クルーズの『ザ・エージェント』を思い出しました。通常の映画がテーマとする人生の選択は冒頭で早々と処理され、選択の後に待ち受ける厳しい現実との戦いが本編になるという特異な構成が両作に共通しているのですが、結局は綺麗ごとに着地した『ザ・エージェント』にはなかったものが本作にはあり、私にはそこが刺さりました。 主人公・アイヴァンの立場は絶望的なものです。出産予定日より2か月も早く破水し、産婦の状態も良くない。根回しをしながら対応策を固めていくというプロセスはとれなくなり、今ここで、自分の判断のみで選択しなければならないという状況に叩き込まれます。しかも、産婦はたった一度関係を持っただけのおばさんで、彼女を愛しているわけでもない。むしろ、男性からすればお近づきになりたくない性格の女性であり、彼女の元に走ったとしても、その先に幸せな将来など待ってはいません。それでもアイヴァンは不倫相手の元へ行くという、一見すると不合理な道を選択するのですが、その選択の背景は劇中で徐々に明かされていき、物語への興味は途切れません。この辺りの構成の妙には唸らされました。 アイヴァンの意思決定の背景には、父の存在がありました。家庭を蔑ろにした父をアイヴァンは憎んでおり、今回の選択は、そんな幼少期の経験が大きく影響したものですが、その選択の後に襲い掛かってきた厳しい現実を前に、「自分も父と同じ末路を辿るのかも」という恐怖が過ります。かつての父と同じく家庭人失格の立場に置かれたことで、「父にも家庭に帰れない事情があったのかも」ということが見えてしまったのです。 立場が変わったことによる価値観の逆転は、仕事においても発生します。ソリが合わず陰で「クソ野郎」と呼んでいた上司が、この騒動にあたってはもっともアイヴァンの立場を心配してくれたし、彼は仕事に対する思いが強い、良い人間だったことが判明するのです。失った後になって、その有難みを知る。これには辛いものがあります。 起こったことを正直に話し、責任をとる。アイヴァンがとった方法は倫理的には正しいものでしたが、その告白がもたらした影響、彼が失ったものはあまりに大きく、正しい行いが必ずしも良い結果を導くわけではないという、冷酷な現実を突きつけてきます。見る者の人生観にも影響を与える、素晴らしいドラマだったと思います。
[DVD(吹替)] 8点(2015-11-04 21:09:50)(良:1票)
240.  LEGO ムービー 《ネタバレ》 
本作は全編CGで描かれているのですが、本物のレゴにしか見えない質感、コマ撮りかと思わせるような絶妙なギクシャク加減など、限りなく手作りに近いビジュアルには感動しました。よくぞここまで作り込んだものです。 子供向けを装いながら、実際には大人をターゲットにしたウェルメイドな作りとした点は、さすがハリウッド。これだけしっかりとした作りであれば、子供たちは何年も本作と付き合うことができるし、大人になってこれを見返した時には、「子供の頃に楽しんだ映画が、これほど深いことを語っていたのか」と感動するはず。使い捨ての娯楽作とはせず、耐用年数の長い芸術作品として作ったクリエイター達の真摯な姿勢には感銘を受けました。 一方で、子供心を忘れていないことも、本作の良いところです。ガンプラは見てもいいけど触るなと子供達に言い聞かせている私にとっては、身につまされるお話でした。レゴもプラモデルもその本質は玩具であり、楽しんでこそ意味があるのに、それをルールで雁字搦めにして遊び心を奪ってしまうという本末転倒。息子達よ、本当に申し訳ない。バットマンがミレニアムファルコン号に乗り、スーパーマンとグリーンランタンがなぜか中つ国に居て、ガンダルフとダンブルドア校長が言い争いをする。ルールに縛られない本作の闇鍋感は最高だったじゃないですか。「νガンダムの隣はサザビーに決まってるでしょ!」と狭いことを言ってた自分が恥ずかしくなりました。 作品全体の主張も面白いと感じました。没個性的な主人公の生き方がいったん否定され、「個性が大事!」とディズニー映画みたいなことを言い出した時にはとても残念な気がしましたが、その後の展開で個性の塊であるヒーロー達が事態に対処しきれなくなり、主人公が小市民ゆえの強さを発揮し始めた時には胸が熱くなりました。これこそが「♪ありの~ままの~」ですよ。
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2015-10-14 15:46:51)(良:1票)
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