301. 大地(1937)
《ネタバレ》 名著原作未読。オスカー受賞異議無しのルイーゼ・ライナー演ずる女の一生が描かれています。夫に「大地はお前だった」と言わしめる土地に対する意地を貫き通した生き様をあの桃の木が表しているようで鳥肌が立ちました。ただ、野暮な事を言うようですが、乞食に身をやつしていたのが、内乱の最中宝石を拾った事をきっかけとして大地主への道を歩むのに、今で言えば宝くじ1等当選したようなもので何だかなぁとひっかかるところであります。 「民族の精神は底辺の人々の生活に、より顕著に表れる。この中国の農民の物語に見い出せるのは、中国の魂……つつましさと勇気、古い伝承と明日へのたゆまぬ努力である」冒頭の一文偽りなしな内容の昭和12年製力作です。 蝗害の恐怖が生々しい映像も桃の木同様に忘れ難い。 [DVD(字幕)] 8点(2021-05-29 00:59:53)(良:1票) |
302. 月蒼くして
女性が「処女」「妊娠」「キス」を連発するヘイズコード(男性ならお咎め無しというのが何とも・・・)を盾に介入するアメリカ映画製作者協会を脱退し反骨心剥き出しで強行上映したオットー・プレミンジャー作品。大部分が三人による室内会話劇で、お目当てデヴィット・ニーヴンは気品あるチャラ男の持ち味発揮で且つゲスでなし。ウィリアム・ホールデンも同様で且つ35歳には見えない落ち着きある包容力にウットリと。そんな二人を手玉にとるオヤジ殺しマギー・マクラマナのヘップバーンを思わせる姿が特筆モノ。(オスカーにヘップバーンと共にノミネートされたのが何とも不運・・)硬派にも程がある監督作とは思えない洗練された粋な語り口でのロマンティック・コメディに釘付けでした。 [DVD(字幕)] 8点(2021-05-25 15:35:39) |
303. モガンボ
野生動物が息づくアフリカを舞台に繰り広げられるジョン・フォード監督らしからぬ恋の鞘当てモノ。本作のMIPならぬMVPであるエヴァ・ガードナー。お顔もさることながらウエストラインの美しさには呆れる程の美しさで目が釘付け。いなせ且つコミカル且つポロリと見せる女心に惚れ惚れした現時点でのベストパフォーマンスが素晴らしい。現地民の歌声以外の音楽皆無の演出も空と大地の雄大さを感じるものでした。相変わらずの俺様振りを見せるクラーク・ゲイブルは52歳には見えなかった老けっぷりでしたが、エヴァ・ガードナー&グレース・ケリーの両手に花状態で、そんな旨いハナシがあるのか! なラストもご愛敬といったところでしょう。巨匠の異色作にして秀作です。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-05-23 00:15:55) |
304. 影なき狙撃者
冒頭の洗脳シーンはイマイチ退屈でしたが、以降は冷戦の最中で共産圏上映禁止措置はさもありなんといえる見応え充分の展開。シナトラは、意味不明だけど迫真の格闘シーン(指は大丈夫かと思ったら折れていたという)を見せるものの、物語上浮いていたジャネット・リーとの絡みも併せて、母と息子の引き立て役の感が。MIPアンジェラ・ランズベリーは、今、私が観ても血圧計が振り切れるどす黒さであり、息子(ローレンス・ハーヴェイ)のこれ以上無い哀れな姿と併せて、当時の観客の憎悪を一身に浴びていたのだと想像します。反共を声高に叫ぶ者の正体を見るのは、映画の絵空事でないものを感じた秀作です。 [DVD(字幕)] 8点(2021-05-19 23:47:02) |
305. シーザーとクレオパトラ
戦闘模様で血湧き肉躍るクロード・レインズの雄姿を拝む事は叶わず。規模の小さい戦闘シーンは戦時中に於いて精一杯の撮影だったのでしょう。しかし、衣装・セット装飾の豪華さは目を奪われるものがありました。どちらかと言うとコミカルな味わいがする舞台劇と言える本作で、初の100万㌦(当時で!)actor となったクロード・レインズはバーナード・ショーが彼をイメージして書き上げた脚本の一言一句を風格漂う演技で魅せてくれます。 「貴方を裏切ってません」クレオパトラに「お前を信頼した事は一度も無い」百万の罵詈雑言に上回る刺し殺すかのような一言。 何時もながらの瞬間芸に「クロード!!!」かけ声かけたお姿でした。 ヴィヴィアン・リーは幼さ漂う姿はまずまずといったところですが、シーザーに見守られて女王に成長するなかでその風格が皆無で、ひたすら「無礼者が」「首を刎ねるぞ」を連呼するのに白けてしまうのが残念。撮影中ローレンス・オリヴィエの子を宿し医師の助言を聞かず流産し精神不安定で5ヶ月間撮影中断したという、空襲下と併せて作品以上にドラマチックな舞台裏に驚きます。 制作費1,278,000ポンドに見合う秀作を堪能しました。 [DVD(字幕)] 8点(2021-05-10 15:52:06) |
306. デッドゾーン
《ネタバレ》 オープニングのシベリウス交響曲第2番2楽章モチーフそのままの旋律に早くも惹き込まれます。 「夜は千の眼を持つ」が浮かぶ特殊能力を授かった者の苦悩と悲劇。本作では更に孤独感と諦念が際立つジョニーの姿がクリストファー・ウォーケンの絶品名演も相まってやるせなく、彼の心を抉るサラの残酷なおためごかしに腸が煮える。名優を配しながらぶつ切りのエピソードが勿体ないのですが、鮮やかすぎる着地が余韻を残します。坂上忍、もとい、マーティン・シーンのトランプ氏を思わせる怪演にも拍手。超苦手な監督作品とは思えない傑作。 [DVD(字幕)] 8点(2021-05-09 00:57:15) |
307. 誘拐 狙われたハイネケン
《ネタバレ》 アンソニー・ホプキンス版はサッパリでしたが、ルトガー・ハウアー版の本作は見応え満点の秀作です。ハイネケン生還まで1時間。後1時間もあるのかと意外に思っていたら、そこからのハイネケン逆襲と言える展開に釘付け。事件後実際に警備会社を立ち上げた富と権力を持つ者が見せる執念は監禁中に便器に頭突っ込まれるを始めとした数々の屈辱を晴らす為だったのか。また愛人と手を切りトラウマの恐怖を妻に支えて貰う人間臭い姿も見られます。更に自身は承知していなかった営業部員5人に1人が不文律による営業活動でアルコール依存症になっていたという犯行動機の一つも描かれています。その依存症の父を持つトニー・モンタナを気取る犯人の1人も印象深い。outlaw & madness が持ち味のルトガー・ハウアーは地味なキャラクターに於いても強烈な印象を刻みつける名演でした。 [DVD(字幕)] 8点(2021-05-07 12:48:02) |
308. 愛情物語(1956)
実在人物エディ・デューチンの物語。脚色が加えられているにしてもドラマとして見応えがありました。希望と絶望に遊ばれるような人生でもその魂は永遠に生きる事を思わされるラストショットはまさに愛情物語。本作の2年後の早逝が惜しまれるタイロン・パワーの名演が沁み入る名作です。 [DVD(字幕)] 8点(2021-05-06 00:23:05) |
309. ナイル殺人事件(1978)
初見。人が死なないと成り立たない点と謎解きに強引な点がままある推理小説モノ。後々浮かんでくるツッコミどころが鑑賞中には押さえ込まれる力業があった本作。「ザ・ジェントルマン」デヴィッド・ニーヴンを筆頭に華のあるキャストの格調高い演技のお陰でしょう。お目当てベティ・デイヴィスと渡り合い一歩も退かないマギー・スミスに+1点。 [DVD(字幕)] 8点(2021-05-05 01:22:01) |
310. ゾラの生涯
《ネタバレ》 極貧から文豪として富と名誉を得たゾラがアカデミー会員の地位を捨てドレフュス事件に関わる事を決めた時に見たのは、別れた親友で「芸術家は貧しくあるべきだ、腹の膨らみと共に才能に贅肉がつく、足下が見えなくなる」と諫めたセザンヌの肖像画だったのが感慨深い。ゾラの法廷での演説、ドレフュスのあの「悪魔島」からの釈放シーン、ゾラの葬儀での弔辞、煽動者を使う権力者と容易く煽動される者達等見どころ満載で、ポール・ムニ驚きの重厚な演技に喝采を送る名作です。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-04-30 22:58:07) |
311. They Made Me a Criminal(原題)
《ネタバレ》 世界戦を制したその夜に殺人事件に巻き込まれたボクサーが無実の罪で逃走。辿り着いたのはアリゾナの農場。更生中の少年達とその中の一人の姉との触れ合いの中で賞金稼ぎの試合に出場することに。リングサイドで観戦する彼を執拗に追う刑事に見守られての一戦で。 クロード・レインズが気に入らなくて断った役を無理矢理引き受けさせられて生涯に亘って最も嫌いだという本作。彼の演ずる過去の過ちから上司同僚から蔑まれている刑事は少ない出番の大半が屈辱的なものですが、試合会場に辿り着いてからラストまでは、負け組だけど負け犬ではない姿で場面をさらっており、ラストシーンにいたっては「カサブランカ」の元ネタのようで胸熱激痺れ。彼の役者としての凄みを見せつけられた秀作。 [DVD(字幕)] 8点(2021-04-30 22:18:18) |
312. 最後のギャング
《ネタバレ》 エドワード・G・ロビンソンは最初の10分そこそこは何時もながらの「世界は俺様を中心に回っとるんじゃ!」ご意見無用!という Gangster オーラを放ちまくりでウットリと。そこからラストまで囚人仲間、妻、かつての手下等に手酷く裏切られいたぶられるというトホホな展開。身も心もズタボロ状態で見せる入獄中に生まれた息子への一念は「エドワード! 日本一・・もとい、ハリウッドナンバーワン!」な絶品演技。まさに因果応報なラストショットに思わず合掌してしまいました。29歳瑞々しいジェームズ・スチュアートは「アメリカ国民の良心」を示す好演に好感。無法者の末路そのままのタイトル通りの秀作を堪能しました。 [DVD(字幕)] 8点(2021-04-30 15:30:23)(良:1票) |
313. シェフ! ~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ~
作品全体が味わい深いコース料理のよう。ヒリヒリする殺気・迫力に魅せられてきたジャン・レノの丸くなった姿を始めとした敵役も含めた登場人物全員が実に味わい深い。仕事とプライベートの塩梅、ユーモアとシニカルの塩梅、それぞれ絶妙な起承転結が心地よく魅入ってしまいます。好きだから楽しいからだけでする仕事はプロではないとする「ワシはタイル職人の時、歩く人の喜びを考えた」はピリリと効いたスパイスであり忘れ難い台詞です。掘出物の秀作を堪能しました。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-04-24 18:04:32) |
314. 都会の牙(1950)
《ネタバレ》 警察署廊下を歩く男の後ろ姿に被さるオープニングクレジット、ディミトリ・ティオムキンの音楽も相まって漂うノワールの雰囲気に「これは当たりかも」 冒頭での「殺人事件がありました」「何時?」「昨日」「被害者は?」「私です」に「これは大当たりかも」 遅効性の毒物を盛られ余命1日、長くて1週間の宣告を受ける迄はモタつきを感じましたが、そこからの怒濤の展開は目が離せなく(集中していないと話に置いてきぼりにされます)見た目冴えない田舎の会計士なのに探偵ばりの活躍は、死ぬ気になれば何でも出来るを超えた死が確定した者のそれを成し遂げなければ死んでも死にきれないという気迫が度々の全力疾走に表れて胸熱に。ラストショットの D.O.A. が切な過ぎます。 本作で唯一知っていたネヴィル・ブランドは病的な小悪党を演じさせたら右に出る者無しの持ち味発揮でノワールを盛り上げてくれました。名匠ルドルフ・マテの秀作であり掘り出し物の逸品です。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-04-13 03:54:19) |
315. ラスト・ムービースター
「ロンゲスト・ヤード」での雄姿が忘れられないバート・レイノルズの遺言とも思える作品。浮き沈みはあったとしてもハリウッド大スターの悔恨模様は、我が身の沈みっぱなしで間違いだらけの人生を思い知らされて堪らなかった。最後に救いの手を差し伸べてくれてはいるものの・・・・・・・・ [DVD(字幕)] 8点(2021-04-06 04:33:30) |
316. ウエストワールド
1973年での着想に感嘆します。冒頭で「見たことあるけど誰だったか?」気になって一旦停止して確認した「シーラ号の謎」でジェームズ・メイソンと渡り合っていたリチャード・ベンジャミンは可も無く不可も無く。そのまんまクリスのユル・ブリンナーの彼ありきで作られたかのような圧倒的な存在感に尽きます。少し腹が出てはいますが騎乗姿はビシッ!と決まっていて、猛禽類の眼差しは相変わらず強烈。「ターミネーター」の元ネタ(に違いない)姿で何処までも迫り来る様は忘れられない恐ろしさ。テクノロジーの暴走を考えさせられた秀作です。 [DVD(字幕)] 8点(2021-03-26 06:32:23) |
317. カナディアン・エクスプレス
テンポ良く起承転結が展開され、スーパーマンではない検事補のビリー・ワイルダーを思わせる一言一言の台詞でもっての機転を利かせた理詰めな奮闘ぶりに手に汗握ります。ラスボスだろうとの予感が当たった人物との対決に脱力させられたのが非常に残念です。 [DVD(字幕)] 8点(2021-03-21 15:08:35) |
318. ホブスンの婿選び
お金と時間を湯水のように使う超大作監督の小品は、小粋でカラリとした物語で流石のクオリティ。チャールズ・ロートン通常運転の名演でもってこれ以上ない程の憎まれ口での暴君ぶりを見せる父親に笑わされ、彼と彼の長女に腰が引けながらも徐々に男らしさを増してゆくジョン・ミルズの好演にも魅入りました。後味も爽やかな秀作です。 [DVD(字幕)] 8点(2021-03-19 03:10:19) |
319. 風をつかまえた少年
《ネタバレ》 最貧国を襲った大干魃。武装による殺し合いが無いのが救いと言えば救いですが、追い詰められてゆく様子は怖いものがありました。無い無いづくしの中で風力発電で井戸水を畑に供給する事を実現させたというのが僅か20年前の実話だというのが信じられません。水が出た瞬間のキウェテル・イジョフォーに泣かされました。 比べてというのではなく、自分の置かれた状況を嘆くだけ、拗ねるだけ、では状況は同じままですよ。というのを実感させられた秀作です。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-03-03 01:45:38) |
320. 夜の来訪者<TVM>
原作未読。1912年英国。紡績?工場社長バーリング一家幸せ絶頂とも言える晩餐会での一家と訪れた警部の会話劇。自殺女性に全員が関わっている事を順々に追求する警部に途中から違和感が。女性の親族なのではとの見当は・・・ ミランダ・リチャードソンを筆頭に一家&婚約者の乙に澄ました偽善者ぶりはこれぞブリカス(ごめんなさい)と言えるもの。ただ、悲劇のヒロインも下の階級なりのしなやかさやしたたかさに欠けていてイマイチ支持できない人物でした。 大オチまで片時も目の離せない秀作です。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-02-28 19:35:31)(良:1票) |