301. ブリキの太鼓
《ネタバレ》 これほど重苦しい暗黒史を体感した映画は他にはない。ただ性や暴力を過剰で陰惨に描けば良いのではなく、皮膚感覚で訴えるタールみたいな異臭と粘り気が正確なのだ。大人の醜い世界を覗き、成長を拒んだ少年はいびつで異質な存在。いつまでも大きくならず、太鼓と奇声でガラスを割る光景がどれほど不気味なことか。馬の頭で鰻を獲ることの不気味さ、"子供同士"で性交していることの不気味さ・・・現実と寓話の区別が曖昧だからこそ"不気味"で、如何に不安に覆われた時代かを物語っている。第二次世界大戦後、少年は大人になることに再び向き合い、家族と共に西側の新天地に向かう。ハッピーエンドになるとは限らないが、姑息な社会不適合者が如何に現実と折り合いを付けるかを一定の距離間で見届けているようだった。 [DVD(字幕)] 7点(2017-08-02 22:52:36) |
302. プレッジ
《ネタバレ》 真犯人捜しのサスペンスものに見えて、実は妄執に囚われているだけの、仕事以外に生き甲斐がなかった、引退した老刑事の悲劇。生活のために働くだけの人、家族を養うために私生活を犠牲にしてきた人を見るに、いろんな生き甲斐や逃げ場を持っていないと、行き詰って絶望してしまうのだろう。性格的に家庭が持てなかったと思うが、顧問として続けさせる道があったら違っていたのかもしれない。短い出演時間ながらもベニシオ・デル・トロの存在感が抜群。 [地上波(字幕)] 7点(2017-07-11 19:15:28) |
303. 1900年
《ネタバレ》 ベルトリッチの代表作は『ラストエンペラー』よりこちらじゃないか。ファシズムの盛衰を5時間以上かけて、一気に描いた演出力には舌を巻く。政治色が強く見難いように見えて、メロドラマをふんだんに盛り込んで見易い。かと思えば、農村の営みと紙一重なエログロもふんだんに盛り込んで見難くて、どっちなんだか。DVD化に時間がかかったのは児童ポルノ要素が少なくないからで、土を掘って腰を振ったり、裸マントで"皮"を剥いたり、男児犯してジャイアントスイングで殺害とか今だったら撮影不可能だ。最初見たときは社会主義礼賛かと思ったが、極端な政治思想に支配されると、賢さを放棄した労働者層の不満が爆発して対極の思想に傾くのはどの国もどの時代も同じか。ドパルデュー、デ・ニーロ、ドミニク・サンダが物語の中心にも関わらず、ドナルド・サザーランドの怪演が衝撃的すぎて彼しか印象に残っていない。いずれにしても今日の大作より、真に大作していた。もう色んな意味で似た映画が撮られることはないだろう(モラル的な意味で)。 [ビデオ(字幕)] 7点(2017-07-03 19:35:49) |
304. ダム・キーパー
《ネタバレ》 「親父は暗闇から身を守る方法を教えてくれなかった」。最後のナレーションが象徴しているように、こういう状況が過去に一度もなかった(かつて忘れ去られた)のだろう。温かい手触り感の残る映像と残酷な現実との対比、主人公が置かれている状況とダムで守られている平和な町との対比が、当たり前のように暮らせている尊さとすぐ壊れてしまう危うさとは紙一重なんだと。転校生のキツネに裏切られたと思っていたことが、実は彼のために闘っていたということも紙一重。替えの利かない存在の大切さを誰かが気付いたとき、彼の明日が少しでも打開されていくことを願わずにはいられない。 [地上波(吹替)] 7点(2017-06-19 21:28:48) |
305. 息子のまなざし
《ネタバレ》 多くの親なら自分の子を殺した未成年が目の前にいたら迷わずに殺すだろう。 大抵のフィクションは復讐してはいけないと綺麗事を発してやめさせるが、 むしろ復讐に徹した方が観客に受けるし清々しい。 では、ダルテンヌ兄弟ならどうするか? 悪く言えば、言葉を濁してどちらかにジャッジを下すかはしない。 あまりにも居心地の悪い関係をじっくり映し出すことに専念する。 物語を映像で語り、少しずつ地図が出来上がっていく。 「あの少年はもしかしたら、俺の息子を殺したんじゃ…」 それを象徴するのがサッカーゲームであり、少年の独白である。 本当は殺すつもりはなかったとしても、彼を更生させて真っ当な家庭を築かせることが、 息子の人生を奪われた男にとって耐えられるだろうか。 結局復讐は未遂に終わるが、それでも少年が男についていくラストが胸を打つ。 たとえ無音の漆黒のエンドロールが流れ、想像の中で再び少年に手にかけるとしても。 [DVD(字幕)] 7点(2017-06-08 19:12:00) |
306. ソウ
「もしかして来るか、来るか・・・」と思ったら、予想通りの結末。凄いと思いつつも改めて考えればツッコミどころ満載。荒削りだけど若さ故の勢いもまた良作としての要素だろう。何度も見たいと思わせる深みとギミックがあれば8点くらい。ところが本作にはそれがなかった。残酷描写だけがエスカレートしていく2以降は見る気すら起きない。 [DVD(字幕)] 7点(2017-06-08 19:01:41) |
307. スノーピアサー
《ネタバレ》 ポン・ジュノのハリウッドデビュー作というより、ハリウッドスターが出演する韓国映画という表現が正しいか。でなければ、ソン・ガンホも娘役のコ・アソンも、キャプテン・アメリカと最後まで活躍しないだろうし、ねちっこい暴力表現も、どこか珍妙な味わいもなかっただろう。フランスの劇画が原作とは言え、荒唐無稽な設定で、別に列車を走らせなくてもいいような・・・そんな部分を許容してしまうのは、次の部屋に何が待ち受けているのかのワクワク感に、維持し続ける社会システムの暗喩というのもある。踏みにじられた者たちの反逆という王道のテーマを掲げながらも、行き着く先は倒される権力側になってしまう皮肉さ。恐らく黒幕が作り上げた"ユートピア"を破壊し、新世紀のアダムとイブが現れても同じことが繰り返されるのだろう。現状維持が良いか、リスク覚悟で未来を変えるか、そんな現代社会と折り合いを付けるしかない。副大統領役のティルダ・スウィントンが儲け役。面白い。これほど滑稽で活き活きと演じている彼女が一番楽しそうだ。 [映画館(字幕)] 7点(2017-05-29 19:37:46) |
308. 棺の家
《ネタバレ》 50年前にも関わらず、古臭さをまるで感じさせないセンスの塊。アニメと言うよりは部分的に使用するだけの指人形劇で、表現方法に制約が出てしまうが、後の『ジャバウォッキー』で飛躍するまでにそこからどう捻り出すかの模索が垣間見える。「人を呪えば穴二つ」をコミカルに描き、嵐のように破壊尽くされた舞台装置に一匹残された渦中のモルモットは素知らぬ振りで去っていく皮肉な結末が印象に残る。 [インターネット(字幕)] 7点(2017-05-11 00:17:22) |
309. ロード・トゥ・パーディション
リアルタイムで映画館で観ており、久しぶりに再見。同じジャンルのある傑作映画を引き合いに出すつもりはないし、その映画にはそこまで思い入れがないのもあるが、ギャングものとしても家族ドラマとしても十分に楽しめた。善人役が多いトム・ハンクスがギャング役というのも新鮮で不安はあれど堅実に好演。サム・メンデスの作家性、一貫した映像美学も見逃せない。それでも観た印象が薄いのは、質が高くても前作のような新しい発見、突出したものがないことが大きいだろう。普通に良い映画止まり。 [地上波(吹替)] 7点(2017-05-01 12:03:15) |
310. アメリカン・ビューティー
《ネタバレ》 20年近く前の映画なのに、今日のように描かれる普遍性。娘の親友に欲情する父親に、敵視する同業者と不倫しちゃう妻、娘はビデオオタクの隣人と駆け落ちを企て、ゲイに嫌悪する隣人の父親は実は・・・という感じのブラックコメディ的構成でありながら、最後に行き着くのは「失って初めて気付く当たり前のもの」ということ。赤いバラで彩られた夢想シーンはエロティシズムで美しいが、灰色の風景に舞うビニール袋も美しい。前者は手を伸ばしても届かない甘い夢でしかなく、後者は無味無臭の世界に何かを見出せればそんなつまらない人生も悪くないかもしれない。目先のものに囚われ、隣人を巻き込んで崩壊していったある中流家庭の物語は、一歩間違えれば自分達もそうなるかもしれない警鐘を鳴らしている。 [ビデオ(字幕)] 7点(2017-04-28 19:16:38) |
311. 4ヶ月、3週と2日
《ネタバレ》 一見何事もない日常に見える。しかし1987年当時のルーマニアは共産圏で密告も裏切りも絶えない時代。その閉塞感と緊張感が固定カメラの長回しで占める映画全体の空気を引き締める。中絶が禁止されているのなら尚更だ。中絶を望む友人の空気の読めなさ、臨機応変のなさ、曖昧な応対にイライラさせられ、ついに彼女のためにヤブ医者に身体を売る羽目に・・・それでも友人を見捨てなかったのは、自分も同じ立場になったら、友人に頼らざるを得ないということ、そして避妊具がこの国では流通していないことも大きいのだろう。望まぬ妊娠で生まれた子供はやがてストリートチルドレンとして過ごし、凶悪犯罪に手を染めていく。欧州最貧国の一つであるルーマニアに残された負の遺産と傷痕を伝えたのがこの映画だ。無事に一日を終えた二人の表情には安堵と険しさが同居している。数年後、チャウシェスク政権が崩壊することを映画を観ている人は知っている。だが、二人はそれを知らず監視社会に怯え続けなければならないのだ。 [DVD(字幕)] 7点(2017-04-06 23:51:27) |
312. パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち
ブラッカイマー製作とのことで、全然期待していなかったが意外と面白い。アトラクションをそのまま映画化したようなものなので、見ている間は退屈しない。ファストフードのように何も残らないし、クライマックスが冗長すぎる嫌いはあれど、最後はジョニー・デップの妙演に尽きる。続編は・・・見ないかな。これだけで十分完結している。 [DVD(字幕)] 7点(2017-02-28 23:47:27) |
313. こねこ
《ネタバレ》 家族向けの単純で結末も分かり切った物語だが、80分弱で描かれる猫たちの自然な"演技"に、日本でもハリウッドでもこの素朴さと情緒さは真似できない。ソ連崩壊直後の社会情勢と、金の臭いがしない卒業制作ということも功を奏したのだろう。明日も分からない者の悲哀と逞しい猫たちの活躍が違和感なく溶け合わせていた。チグラーシャの物語かフェージンの物語かどっちつかずの感はあれど、完成に2年かけたこともあり、猫に無理矢理なことをさせていない分、猫映画の最高峰というのもよく分かる気がする。危なっかしいシーンがあり、安全に配慮しているとはいえ、メイキングを見てみたい。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2017-02-28 23:45:07) |
314. イレイザーヘッド
リンチの原点であり頂点。育児に追い詰められた男の心象風景を見せ付けられているよう。未体験から引き起こされる強烈な不安、そして悪夢という原液にどっぷり浸かったような気分が味わえる、唯一無二の質感。観賞後、食欲を失くすこと間違いなし。 [DVD(字幕)] 7点(2017-02-28 23:41:46) |
315. アザーズ
《ネタバレ》 もう少し先に作られていたら、二番煎じとか短絡的なコメントを浴びずに済んだかもしれない不遇の佳品。序盤の展開がスローで退屈に感じたが、夫が戻ってきたあたりから引き込まれる。ゴシックで上質な雰囲気作りが良く、難病の子供の設定を突いた"白"の恐怖演出が光る。白目の老婆の正体ですら最後まで騙そうとするあたりも然り。ただ音で驚かせる安易な演出はやめてほしい。とにかく、この映画は一歩先を進んでいる。人間が幽霊を怖がるように、幽霊も人間を怖がっている。世界全体が逆転するあたりが本作のキモなのだろう。ああいう回りくどいことをしないと、声を失ったメイドがいるから尚更。運命を受け入れて、"平穏"な生活をこれからも続けていくのだろうかと思うと切ない。家族愛を感じさせるも哀しすぎるホラーだった。 [映画館(字幕)] 7点(2017-02-16 00:07:56) |
316. ノーカントリー
《ネタバレ》 老人の住む国などない。 どの時代も「昔は良かった」とか「最近の若者は」と嘆いていただろう。 80年代のアメリカですら、常に理不尽な暴力で満ち溢れていた。 アントン・シガーは、まさに己のルールで遂行するアメリカの影の象徴だ。 目的のためなら道行く人ですら銃を向ける死神である以上、 殺害シーンが次第に省略されていき、ある種の諦めを受け入れさせる。 一方、大金をくすねたカウボーイは主人公のように思えるが、 終盤でいきなり死体で再登場する無情さ。 そして理屈を捏ね繰り回すも何も出来ない老保安官。 徹底的に行間で描かれる諦観と閉塞感がアメリカの病理を浮き彫りにさせる。 二度シャツを買うシーンが出てくるが、 もし少年たちが大怪我したシガーからお金を貰わなければ、 ひたすら物質主義に邁進する現在のアメリカに希望はあったのだろうか? 現代アメリカに警鐘を鳴らした本作の教訓が生かされることなく、 『血と暴力の国』は斜陽に突き進む。 [映画館(字幕)] 7点(2017-01-31 23:48:24) |
317. ベアーズ・キス
冒頭、しんしんと降り積もる雪原を歩く少女と熊のアニメーションに、その物語に引き込まれた。章ごとに挿入されるその演出が、お伽噺であることを一層強調する。青年に変身できる熊と少女の寓意に満ちた情愛と対比するように、厳しい現実によるサーカスの衰退が影を落とす。ある終焉を迎えた熊と少女の選んだ顛末が、「そうきたか」とこれまた寓意的で不思議な余韻が残った。 [DVD(字幕)] 7点(2017-01-27 00:39:42) |
318. レヴェナント 蘇えりし者
《ネタバレ》 憎悪が彼を生かしている。レフン監督の『ヴァルハラ・ライジング』という映画があるが、本作は金を掛けてそれに近いことをやっている。憎悪の如く、凄い映画を撮ろうとしている執念と狂気がスクリーンから漂い、2時間半の長尺をものともしない。激痛の中、火薬で治療する。生きた魚を、牛の内臓を食う。馬の死体の中で寒さを凌ぐ。生きるために命を奪う。それは当たり前のことだが、グラス率いる開拓者はキリスト信仰を盾にもっともっとを求めてさらなる略奪を繰り返す。グラスもフィッツジェラルドもエゴの塊。それがアメリカの歴史なのだ、と。媚びない映画を撮り続けるイニャリトゥ、荘厳な映像を収めたルベツキ、グラスに取り憑かれたディカプリオ、それぞれにとって重厚な代表作になるだろう。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2017-01-01 15:03:32) |
319. プライベート・ライアン
《ネタバレ》 初見の衝撃は想像を絶する。 痛覚を刺激する無残な戦闘描写にしろ、 一人の若き二等兵を救うために築かれたような死体の山と血の海にしろ、 戦争という不条理をそのまま突き付ける。 しかしこれは反戦映画ではない。 かと言って好戦映画でもない。 戦争そのものをただ描いたにすぎない。 名のある一兵士の他につまらないことで死んでいく無常の人もいるだろう。 それでもどういう境遇にしろ多くの犠牲によって現在の平和がある。 過去を忘れない。 それこそが戦死した名もなき兵への鎮魂歌であり、被害を拡大させない抑止力ではないか。 平和は憲法で守られるほどタダではない、必ずどこかで綻びができる。 最初と最後の星条旗にアメリカに問い続ける。 本当の正しさを問い続ける。 [DVD(字幕)] 7点(2016-12-09 23:24:04) |
320. 最高の人生の見つけ方(2007)
《ネタバレ》 オーソドックスで深刻なテーマながらも、手軽に手堅くまとめた佳作。この手の話は予定調和で締めるが、冒頭のナレーションで鑑賞者をミスリードしたり、「最高の美女にキスをする」の顛末も粋だったりと、脚本のお手本を魅せてくれる。一番はジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンの対照的な二人。映画と現実の人生を交錯させるような、肩の力を抜いた深みのある好演が映画全体の質を向上させている。賛否両論はあれど邦題は好き。 [地上波(吹替)] 7点(2016-12-09 23:18:51) |