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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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21.  スキャナーズ 《ネタバレ》 
税務上の損金処理の関係で脚本が完成する前に撮影を開始し、かつ2か月以内に映画を完成させなければならないという無理なスケジュールで制作された作品のようで、その生い立ちに起因する粗さは随所に見られます。 人間ドラマはほぼ壊滅状態で、ベイルとルース博士の間の信頼関係や、ベイルとキムの恋愛関係など、本来は描こうとしたと思われる要素がほぼ死んでいます。ついに相まみえたレボックとベイルのやりとりは噴飯もので、レボック「俺はお前の兄だ」、ベイル「そんなもん知ったことか」で式次第通りに開始される超能力バトル。兄を殺さねばならないことの躊躇も、殺した後の後悔もなく「はい、勝った勝った」でアッサリと終わってしまうので、これでは兄弟設定を置いた意味がまるでありません。 ただしそれでも凄いと思うのが、博士が善の超能力者を刺客として鍛え上げて悪の超能力者軍団を追跡させるという、もはやマンガとしか思えない内容を至極真面目にダークに映像化できていることであり、私たちが知らないだけでこういう人たちが実在しているのではないかと観客に錯覚させるような雰囲気もあって、SF映画としては成功しています。『ザ・フライ』でも感じたのですが、生化学や生物学を専攻していたクローネンバーグはサイエンスとフィクションを繋ぐことに非常に長けた監督だと思います。 また、序盤の頭ボーンやラストの血管浮き出しバトルなど映画のキーとなるヴィジュアルを見事ものにできているし、その特徴的な見せ場を登場させるまでの仰々しい雰囲気や演出上の溜めも効いており、効果的なタイミングで物凄いものを見せるという映画監督としてもっとも重要な仕事ができていることには感心させられました。
[インターネット(字幕)] 6点(2018-06-09 17:40:35)(良:2票)
22.  ウォー・ドッグス
一応はコメディに分類されているものの、笑える場面はまったくありません。テーマがテーマだけにストレートに描いてしまうと怒っちゃう人もいるので、監督も俳優も「コメディで~す」と表面上は道化を装っているだけで、かなり真剣に作られた作品だと感じました。 軍需産業は金になる上に、有象無象が出入りするおかしな業界らしい。アンドリュー・ニコル監督の『ロード・オブ・ウォー』でも扱われていたテーマですが、このテーマは映画としては面白くなるようです。秘密の多い業界の内幕を垣間見ることができる上に、若者が一発逆転の大成功を収め、そして自滅していく様がドラマティックであり、盛り上がるポイントがとにかく多いのです。 また、当事者たちのモラルが低下していく様もうまく描かれています。主人公も彼女も「私は戦争に反対している。武器を売るなんてことに加担できない」と言っていたのに、武器取引で自分たちの懐にどれだけの大金が入ってくるかを教えられると、商売を肯定してしまうんですね。彼女に至っては、「武器を売ることではなく、私に相談がなかったことを批判してるの」とよく分からない論点のすり替えまでを始めます。大金を見せられればたいていの思想信条はひっくり返る。人ってそういうものだと思います。 ただし、前述した『ロード・オブ・ウォー』と比較すると仕掛けがひとつ足りておらず、実際に起こった事件の顛末を描くにとどまった内容になったことが、本作のリミッターになっています。よくできた良作というところでしょうか。
[インターネット(吹替)] 7点(2018-06-09 17:33:50)
23.  ゴーストバスターズ(2016)
オリジナルは人気が絶頂に達していたサタデーナイトライブのメンバーを中心にやや脱力系の笑いを取り入れながらも、ルーカスやスピルバーグが使っているのと同等レベルのVFXがそこに同居し、コメディだからと言ってまったく手抜きはしていない、センスの良い大人達が締めるべきところはきっちりと締めながら作った楽しい娯楽作という点に特徴があったと思います。クライマックスのマシュマロマン登場なんて、笑いとテクノロジーとスペクタクルが高い次元で融合した見せ場となっており、作り手もノリノリだったことが画面越しにも伺えました。 リメイクの本作もサタデーナイトライブの人気者をメインキャストに配置しており、オリジナルと同じ方向性を意図した作品であることは分かるのですが、80年代特有のユルさのままいくのか、それとも今の感性で再構築するのかを決め切れておらず、こちらは作り手の迷いが透けて見える作りになっています。女性コメディアン達はレイティングを気にしてか毒を吐ききっておらず、本業が役者であるはずのクリス・ヘムズワースがほとんどの笑いを取りに行っているという有り様。ただしそのヘムズワースの存在も断片的な笑いをとっているに過ぎず、映画全体をパっと明るくし、全体に勢いを与えるという方向では貢献していません。 そして致命的だったのが、もはやゴーストを描いたところで観客は驚かないほど映像技術が飽和状態にあるということ。オリジナルの評価には「これだけ凄いものを見せてくれてありがとう」という感動が相当含まれていたのですが、そもそも本作はそこで勝負できない作品だったというわけです。そして案の定、スペクタクルとしては何のサプライズもない仕上がりとなっていました。21世紀の観客の度肝を抜くような何かがあれば良かったのですが。
[インターネット(吹替)] 4点(2018-06-01 11:54:36)(良:4票)
24.  パルプ・フィクション 《ネタバレ》 
リアルタイムでの衝撃に加えて後世に与えた影響も大きく、もはや語り尽くされた感もある本作を今更レビューすることはなかなか難しいのですが、私が感じた素直なところを書きます。 まず本作が型破りなのが、登場人物達が本筋とほぼ無関係な会話を延々と繰り広げており、話の流れが遅いどころか、流れが完全に止まっている時間すらあるということ。タランティーノはキャラクターを作った後にその人物が喋りそうなことを延々と書き連ねていったのかもしれませんが、本筋に対してキャラクターが従属するという通常の関係性を逆転させ、まずキャラクターありきで彼らを自由に動かし、本筋を二の次にしたという辺りが斬新でした。 だからと言ってキャラクター劇に終始しているわけではなく、一見すると無関係なエピソードを並べることで「これらがどんな終わり方をするのか」という強い関心を観客に抱かせつつ、時間軸の解体という荒業によってこれらをもっとも効果的な形で見せており、本筋は本筋で十分に凝った作りになっている点も見事なものでした。特に驚いたのは、主人公であるビンセント・ベガが上映時間の半ばでアッサリと死亡するということ。彼はトイレから出てきた不意を突かれ、見せ場もセリフもないまま死亡しますが、通常の映画では主人公がこんなタイミングでこんな死に方をすることなんてまずありえないので、観客もまた不意を突かれるわけです。しかも彼の死がその後の展開に何らの影響を与えることもないのですが、こんな話の動かし方はかつてなかったと思います。 また、これだけ高度なことをやりながらも、まったく肩ひじの張ったところのない雰囲気が独特な魅力に繋がっています。例えば前述したベガの末路などは、直前に方向転換したジュールスとの対比で如何様にも深い意義を与えることができたのですが、タランティーノはあえてそれをやっていません。一応考える素材はあるので、その死から意義を感じ取りたい観客には深く考える余地は与えられているものの、映画に教訓なんて求めないと思っている観客にはそこを素通りする自由も与えられている。こんなスタイルの作品には滅多にお目にかかれません。 最後に、キャスティング面にも楽曲選びにもセンスが感じられることが、本作が愛される大きな要素となっています。大スター・ブルース・ウィリスやオスカー俳優・クリストファー・ウォーケン、当時伸び盛りだったティム・ロスら当然主役に選ばれるべき人達を差し置いて、10年ほど表舞台から姿を消していたジョン・トラボルタを選んだという意表を突いたキャスティングや、これまた数十年ほど忘れ去られていたミザルーの曲調を作品のメインテーマに据えた点など、陳腐化してダサくなって一旦廃れたものを一周回ってかっこよく見せるというリメイクの技術が極めて洗練されているのです。【ひのと】さんもレビューしておられますが、この映画を作った人のセンスを自分も理解できるんだと言いたくなるような雰囲気が本作には確かにあって、その後のタランティーノ作品と比較しても本作が唯一無二の存在だと言えるのは、この部分が突出しているためだと言えます。 公開当時から斬新で、しかもその方向性の作品でいまだにこれを超えるものはないと言えるほどの完成度の異常さや、直接的・間接的に影響された作品が膨大な数に及ぶということを考慮しても、映画史上の最重要作の一本であることは間違いのない作品だと思います。
[インターネット(吹替)] 9点(2018-05-28 19:37:29)(良:1票)
25.  GODZILLA 怪獣惑星
ゴジラをアニメ化するのであればSF設定でやるくらいの冒険は必要とした東宝の判断は間違っていないし、何を作っても批判を受けることは百も承知のうえでこの企画に挑んだクリエイター達の心意気も買いたいのですが、そんなおおらかな心をもってしても、本作はダメな映画だったと思います。 この手のチャレンジ企画はオリジナルをどれだけイジろうが面白くさえできれば勝ちなのですが、結局面白くできなかった。これが最大の問題ではないでしょうか。感情移入のできないキャラクター、作戦概要の説明がくどいほどなされる一方でイマイチ戦況の伝わってこない戦闘描写、脅威の対象が怪獣である必要をまるで感じない見せ場作りなど、ほとんどの要素で失敗しています。 また、怪獣云々以前の問題として、SF映画としてもまともに成立していません。人類の大半を怪獣に殺され、わずかな生き残りも地球を出ざるをえなくなり、しかもその過程では異星人との接触もあった。そうした大イベントを背景とした世界なのであれば人々の価値観や社会風俗も様々な影響を受けているはずなのに、その変化がまるで見て取れないために世界観は面白みに欠けたものとなっています。 さらには、人類を絶滅寸前にまで追い込んだゴジラというトラウマに再度対峙するきっかけとして、宇宙船内の飢餓や先の見えない航海への絶望感が挙げられていましたが、そうした苦しみの描写が致命的に欠けているために、地球奪還作戦の切実さが観客の側に伝わってきませんでした。また、地球奪還の急先鋒となる主人公の動機付けもイマイチで、いくら親の仇とは言え、核兵器を何発使っても傷一つ与えられなかったほどの超越的な怪獣が個人的な復讐の対象になるものだろうかと、その行動原理には疑問符しか浮かびませんでした。 本作は三部作構成とのことですが、残る2作で巻き返しが図れるのかかなり不安なスタートとなりました。
[インターネット(邦画)] 4点(2018-05-24 18:44:24)
26.  手紙は憶えている 《ネタバレ》 
【注意!猛烈にネタバレしています】 ルディ・コランダーを名乗る人物は北米に4人おり、そのうちの一人がアウシュビッツの元看守なので一人ずつ訪ねてターゲットを探し出すという『ターミネーター』みたいなお話に、奥さんが死んだことすら覚えていられない主人公という『メメント』みたいな設定がくっついた映画なのですが、本物のボケ老人にしか見えないクリストファー・プラマーの熱演もあって、この復讐行脚がなかなかの緊張感でした。 ただし、襲い掛かってくる元ナチの息子とその犬を急所直撃の見事なガンさばきで撃退した辺りから大オチの察しがついてしまい、そこから先は答え合わせのような見方しかできなくなってしまった点は残念でした。 また、これはおかしな見方なのかもしれませんが、アウシュビッツの元看守とは言え、国家からの指示で動いたことで個人が罰せられる。しかも事件から70年も経った後に自宅を訪問され、娘や孫の前で処刑されるということが、果たして正義と言えるのかという点には違和感を覚えました。その善悪を説いた作品でないことは承知なのですが、それにしても一方的すぎる正義だなぁと。
[インターネット(吹替)] 6点(2018-05-24 18:43:26)
27.  ザ・ギフト 《ネタバレ》 
人が死なないどころか暴力沙汰も流血沙汰もほとんどなく、サスペンスとしてはかなり大人しい作風ながら、終始張り詰めた緊張感のある良作でした。 前半は、普通の夫婦がおかしな奴に目をつけられて平和な日常を侵食されていくというよくあるタイプのストーカー映画ながら、ジョエル・エドガートン演じる挙動不審な男・ゴードの不気味さや、人とズレているために何が彼の心のスイッチになるのか分からないというサスペンスで、見るものに終始嫌な汗をかかせます。 一転して後半はゴートの正体とともに主人公・サイモンの本性も暴かれ、善と悪が逆転し、さらには観客に対するサプライズもあるというかなり動きの激しい展開を迎えます。静から動への転換や、真の悪人が制裁を受けるというある種痛快な展開など、このパートでも観客の心をガッチリ掴む仕掛けが多くて感心させられました。  【注意!ここから大きくネタバレします】 また、オチを見てから前半に戻ると、サイモン夫妻とゴードの噛み合わない会話が、初見時とはまるで別物に見えるという細かい作りにもなっています。 サイモンと共犯関係にあったもう一人の同級生・グレッグが、ゴードの名前を聞いただけで顔を強張らせたことを考えても、ゴードがサイモンに対して抱く感情は誤解や逆恨みではなく客観的にも正当なものであったことが分かるし、二人の間で起ったことは数十年経ったからと言って忘れてもいいレベルの内容ではありませんでした。 この情報を踏まえて前半の会話を見ると、ゴードはあえて切り出さないが、過去のイジメを前提にした発言を何度もしています。どう考えたってこの二人は青春時代のイジメの件をまず話さないといけない間柄にあるし、ゴードは辛抱強くサイモンからその発言が出ることを待っている。それどころか、自分は過去を水に流しているから安心して話していいよという気遣いまでを見せているのに、サイモンはそんな重大な件を忘れてしまい、今の話ばかりをしているのです。 ゴード宅(実は彼の雇い主の家でしたが)にサイモン夫妻が招かれた夜の件も同じくで、ここでもゴードは過去の総括を期待していたのに、サイモンは「うちの嫁が美人で親切だからと言って、ちょっかい出して来てんじゃねぇよ」とまったく見当違いのことを言い出します。初見時にはゴードの方がおかしいように見えていた会話が、実はサイモン側がおかしかったという細かい作りになっていたことには驚かされました。 ジョエル・エドガートンは本作を監督しただけでなく自ら脚本も書いていますが、ここまで芸の細かい作品を作り上げた手腕には恐れ入りました。
[インターネット(吹替)] 8点(2018-05-19 02:49:39)
28.  孤狼の血
『この世界の片隅に』のレビューでも申し上げたのですが、私は呉出身です。GWで帰省した際には地元が本作で大変盛り上がっており、できれば呉ポポロで鑑賞したかったのですが、公開がGW後ということで都内の映画館での鑑賞となりました。とりあえず初日・朝一の回という気合で見に行きましたが。 内容は、それほど高まった期待値を軽く超えるほどの熱量と勢いであり、目を見張るほど面白い作品となっていました。呉でロケをしたことや、俳優達に呉弁・広島弁を喋らせているという細部へのこだわりは素晴らしいレベルに達しています。私のようなネイティブが聞いても特に違和感を覚えないほどみなさんの方言は上手だったし、呉の雰囲気も出ています。よくよく考えてみれば無茶な展開も多かったのですが、時代や舞台の再現度の高さによって現在の日本とは別世界を作り上げることに成功しているために、細かいアラは気にならないという恩恵もありました。 原作未読ということもあって、全体の構成にはかなりの意外性がありました。ヤクザの抗争を背景にして暴力刑事が暴れまわる映画かと思いきや、作品は前半と後半で真っ二つに分かれており、後半より「正義とは何ぞや」という点を結構真剣に突いた作品へと変貌していきます。演出は常にトップギアというわけではなく、緩急をつけてちゃんとドラマ部分を見せようとしており、基本はヤクザ映画でありながら、様々な見方のできる内容になっています。この点には良い意味で驚かされました。 演技面では、どちらかと言えば物静かな役柄の方が合うことの多かった役所広司が暴力刑事役に抜群にハマっており、常に大声で怒鳴りながらズンズンと進んでいく様には拍手喝采したくなりました。また、呉の組の若頭役の江口洋介の異常なかっこよさや、広島の組長役の石橋蓮司の古狸ぶりなど、ヤクザ者は皆魅力的でしたね。一方で、その受け手となる松坂桃李はこの異常な世界と観客の意識の橋渡し役であるため見せ場が少なく、やりたい放題やっている他の役者さんと比較すると損な役回りのようにも見えたのですが、繊細な演技で作品の基礎部分をしっかりと担っていました。こちらも良かったと思います。 呉の人間は『仁義なき戦い』を誇りに思っているのですが、まさかその精神を受け継ぎ、日本を代表する俳優達を大挙して出演させた新作を見られる日が来るとは思っても見ませんでした。最高です。
[映画館(邦画)] 9点(2018-05-12 14:06:38)(良:3票)
29.  ウォーカー(1987) 《ネタバレ》 
伝記映画と見せかけつつ、自国の利益のためであれば他国の主権を平気で侵害している80年代当時のアメリカを批判した作品。オリバー・ストーン監督の『サルバドル/遥かなる日々』と同一のテーマを扱った作品ではあるものの、『サルバドル』が強力なドラマ性によって時代に囚われない価値を有していることと比較すると、本作は今見ると古臭さを感じさせられました。 主人公・ウィリアム・ウォーカーは代表的なフィリバスターであり、作品は彼が私設の兵を用いて勝手にソノラ共和国を作った後に国軍により鎮圧される場面から始まります。独特の真っ赤な血糊やスローモーションの使い方がサム・ペキンパーっぽいなぁと思っていたのですが、後から調べてみるとアレックス・コックスはペキンパーの大ファンということでした。 その後、本国で裁判にかけられるも無罪となり、また彼の履歴に注目した富豪から、運河が通ると噂されているニカラグアの政権を取ってこいとの話を受けるウォーカー。彼を引き留めていた聾唖の婚約者もコレラで亡くなり、ウォーカーは再び中米に戻ることを決意します。この通り、序盤の段階でまぁいろいろ起こるわけですが、ここまでドラマ性ゼロ。監督は話を前に進めることのみに専念しており、ウォーカーの心情に触れようという気はビタ一文ないわけです。ソノラ共和国の挫折からウォーカーはどうやって立ち直ったのか、また婚約者の言葉を彼はどう消化していたのか、そもそも彼はなぜ他国への軍事介入をライフワークとしているのかなど気になる点は多いのですが、そこにまったく触れてくれないのでドラマに入り込めませんでした。 中盤以降もウォーカーの心情にはほぼ触れられず総合的には失敗した映画だと思うのですが、他方で司祭のような黒服を着て、銃撃戦の最中でも気にせず大通りのド真ん中をズンズン歩いていくウォーカーの、自殺願望があるんだか神の使いか何かだと勘違いしてんだかよく分からない姿などは妙に印象に残りました。どちらにしてもウォーカーはイっちゃってる人ではあるのですが、これにエド・ハリスが実によくはまっています。常にまっすぐ前を向いてはいるものの、どこに焦点を合わせているのかはよく分からない視線の動かし方や、ほとんど中身のないことを自信タップリに話す様など、信念を持ったキ〇ガイ演技がなかなか堂に入っているのです。 傀儡政権がどうも言うことを聞かなくなったということでこれを処刑して自ら大統領に就任したり、部下の反対にも耳を貸さずに奴隷制を復活させたりと問題行動が目立つようになったことから、ウォーカーは最終的にアメリカ政府からも富豪からも切られるのですが、ウォーカーの人となりは冒頭から何ひとつ変わってはおらず、問題が大きくなるまではこんな異常者を重宝していたアメリカの政府や財界こそがおかしかったのではないかという結論で映画は締めくくられます。時代劇でありながらリムジンやヘリを登場させる場面には、これが現在のアメリカの物語であることを示すための演出意図があったとのことですが、これらの演出がどうにもあざとすぎるように感じました。また、制作時点から30年以上経った今となると、これらのメッセージも古臭く感じられました。
[DVD(字幕)] 5点(2018-05-08 19:02:51)
30.  レディ・プレイヤー1 《ネタバレ》 
IMAX 3Dにて鑑賞。世界観を説明する導入部や前半の見せ場であるカーレースでは3D効果の高い見せ場があるものの、後半にいくにつれてだんだんと3Dは雑になり、2Dでもいいっちゃいい状態になっていきます。 かつては娯楽作の帝王だったスピルバーグも今や70代。そういや21世紀に入って作った娯楽作で本当に凄かったのは『マイノリティ・リポート』と『宇宙戦争』くらいで、あとは社会派作品ばかりになったスピは過去の監督だと思っていたのですが、ごめんなさい、見くびってました。演出の緩急の付け方や見せ場に入るタイミングなどでは熟練した技が炸裂し、スピはいまだ現役バリバリの娯楽監督であることを見せつけられました。レースでのゴール場面や、ピンチにおける味方の救援など、来ることは分かってるのにそれでも興奮させられるという、この演出のキレは凄いと思います。 物語は紋切り型です。オタク青年の成長物語と夢追い人だったクリエイターの人生をたどる物語が平行して描かれるのですが、これが70年代から繰り返し見せられているスピルバーグの自己投影映画であり、特に新鮮味なし。また主人公の育ての親であるおばさんが殺されるという展開は、あくまで観客に対して敵はそれくらいやってくる奴ですよという説明をするためだけに存在しており、主人公の物語にはまるで影響を与えないというアッサリ仕様。要はビジュアルを見せることに映画のすべてを集中させており、そのためにドラマパートは極力簡素にとどめているというわけです。この豪快な刈り込み方とか、見ようによってはツッコミどころ満載の内容なのに、見せ場の勢いで乗り切ってみせたスピの力って、やっぱりすごいと思います。 もうひとつスピが見せた実力と言えば、膨大なキャラの権利関係の調整だったと思います。本作に登場する古今東西のキャラクターはとんでもない量であり、画面の片隅にチラっとえらいものが写ったりするのですが、これだけのキャラの使用権を獲得できたのは、世界中のクリエイターからの敬意を受けているスピルバーグが本作の看板になっているからだと思います。他の監督ではこうはいかなかったでしょう。
[映画館(字幕)] 8点(2018-04-21 03:15:32)(良:2票)
31.  ストレイト・アウタ・コンプトン
ヒップホップには疎いのでN.W.A.も本作の登場人物たちのこともほとんど知らず、映画でよく見るアイス・キューブって本業でもここまで優秀な人だったんだと本作を見た初めて知ったようなレベルなのですが、それでも本作は楽しめました。 実際のヒット曲を使っているだけあって楽曲には力があるし、監督のF・ゲイリー・グレイは90年代にアイス・キューブやドクター・ドレーのMTVを手掛けてきた人物であるだけに、それらの楽曲の見せ方をよく心得ています。さらには、それらの楽曲がどのような背景で作られたのかがドラマで語られていることから、すでに彼らのファンである人だけでなく、初心者の入門編としても楽しめるようにできています。音楽映画としてかなり優秀なのです。 また、最初はみんなでワイワイ楽しみながら曲作りをしていた仲良しメンバーが、金や地位が絡み始めたことから険悪になっていくという物語は内幕ものの基本ではあるのですが、これがドラマの黄金律に当てはめてきっちりと作りこまれているため、やや長尺の上映時間でも一気に見せてしまうjほどの力があります。ヒップホップに疎い私ですら楽しめたのですから、N.W.A.のファンの方には堪らない映画ではないのでしょうか。
[インターネット(字幕)] 8点(2018-04-08 12:00:45)
32.  シャイン
偏屈な性格なのでなかなか定職に就けず、他に誇るべきことがないので過剰なまでに家族に執着して狭い世界の中で余計に偏屈度合いが加速していくという、無職オヤジの負のスパイラルが見事に描かれた前半部分は最高に楽しめたのですが、このオヤジが出てこなくなる中盤以降は、普通の良作になってしまったという印象です。 アカデミー賞をはじめとして世界中で多くの受賞歴があるだけあってジェフリー・ラッシュの演技は素晴らしいものの、実はラッシュが出ている中年期が一番面白くありません。父親との関係の清算、後に奥さんとなる占い師との出会い、トラウマを乗り越えてのカムバックなど、このパートは構成要素が盛りだくさんのはずなのに、そのすべてがあっさりと流されてしまうためにほとんど感動がなく、ジェフリー・ラッシュの名人芸を楽しむだけのパートになっています。
[インターネット(字幕)] 6点(2018-04-08 11:59:04)
33.  キング・オブ・エジプト
『クロウ/飛翔伝説』や『ダークシティ』など闇の描写を得意としてきたアレックス・プロヤスが、太陽さんさんの古代エジプトを舞台にした単純娯楽作を撮れるのだろうかと鑑賞前は不安だったのですが、案の定、ダメな映画でした。 デビューからほぼ一貫してSFアクションを撮ってきた(一本だけ青春コメディがありましたが)プロヤスとは思えないほどVFXを用いた見せ場が雑で、神様や巨大建造物がいかにもCGですという感じで実在感ゼロ。映画のCGというのはポリゴンのような粗い状態から始まり、監督がこだわってディティールをどんどん追加させるという作り方をするのですが、どうもプロヤスはほとんどこだわらずにOKを出してしまったのではないでしょうか。15年も前の『ロード・オブ・ザ・リング』よりも落ちるクォリティのVFXは、さすがに問題だと思います。 物語の方は、非力な人間の青年が恋人を救い出すために大冒険に挑むという王道の冒険談と、傲慢な王様が試練の中で人間味を身に着けていくというこちらも王道の成長談が組み合わされており、アドベンチャー作品としてはおそらく意図的に紋切り型に徹しているのですが、紋切り型過ぎて特に何も感じるところがありません。また、この世界では生死の取り扱いが軽いし、死を司る神・アヌビスも良い奴なので、死んでもどうせ生き返るんでしょという無用の安心感があるため、戦いに緊張感がありません。
[インターネット(吹替)] 5点(2018-04-08 11:58:10)
34.  キング・アーサー(2017)
アーサー王をテーマにした作品はいくつか見ているのですが、いきなり巨大な象が登場するロード・オブ・ザ・リングのような本作の冒頭ではかなり意表を突かれました。その後も仰々しいモブシーンやエクスカリバーを振るうシーンなどオリジナリティに溢れた見せ場が多く、丁寧に作られた娯楽作品であることはよく伝わってきたのですが、他方でガイ・リッチーの余計な演出がダイレクトな興奮を阻害しているという問題もありました。 例えば、見せ場に入る前にはアーサーの立てた作戦や、舞台の位置関係などが説明されることが多いのですが、ここで一度話の流れが止まってしまいます。出来のいいアクション映画は流れの中で説明的な描写を自然に入れてくるのですが、ガイ・リッチーにはそれができないのか、説明のための描写をわざわざ入れてくるのです。しかも結果を見せてから原因部分に遡ったり、早送りとかスローモーションを組み合わせたりといかにもガイ・リッチーらしい見せ方をするのですが、これが大仰な史劇に全然馴染んでいません。アクション以外の部分がとにかく余計なのです。 最後まで見ると、どうやら本作は序章に過ぎず、ここから有名なアーサー王伝説が始まるということがわかるのですが、この出来では続編の制作は厳しいのではないでしょうか。
[インターネット(吹替)] 5点(2018-04-08 11:56:55)
35.  愛と哀しみの果て
美しい撮影や壮大なロケーションに支えられた重厚長大な時代劇。オスカーを獲るために作られたんじゃないかと思うようなザ・ハリウッドな作品であり、その思惑通りに同年のアカデミー賞では主要部門を独占したのですが、これが名物に旨い物なしみたいな仕上がりとなっています。 冒頭から確かに見ごたえはあるものの、まったく心に刺さらない時代劇がダラダラと長時間続くわけです。見ていることがここまで苦痛に感じる作品も久し振りであり、最後まで完走できた自分が誇らしくなりました。 あと、邦題がおかしくありませんか?確かに愛も哀しみもあったけど、それがすべての映画でもないような。
[インターネット(吹替)] 2点(2018-03-24 03:12:16)
36.  この世界の片隅に(2016) 《ネタバレ》 
実は私は呉出身なのですが、ここ数年の邦画ではダントツの評価を得た本作が地元の話であったことから過剰に身構えてしまい、鑑賞時期を逃しているうちに結局Netflixの配信で見てしまうという、何だかよく分からん状態での鑑賞になってしまいました。 まず驚いたのがネイティブかと思うほどうまい広島弁と、地元出身者ならおおよそどの地区のことなのかの察しがついてしまうレベルで呉市街地や山あいの集落が表現されていることです。さらには、一瞬映る盆灯篭など、広島県民ならピンとくるが他の地域の人には分からないような風習までが表現されているのですが、これ見よがしではなく本当に些細な描写でこれらを見せてくるため、物凄く気が利いているように感じました。 また地域性の再現度だけでなく、時代性の再現度も非常に高いレベルであることが本作の特色となっています。例えば、しばしば本作の類似作として挙げられる『火垂るの墓』などは顕著なのですが、主人公・清太は完全に戦後の価値観で動いているわけです。私のような細かい人間はそうした部分にウソ臭さを感じてしまうわけですが、本作については登場人物全員が当時の価値観で動いており、後知恵で善悪等を判断していないことが、他に類を見ないリアリティに繋がっています。配給が減って生活が苦しくなっても国や政府に対して不満を口にする者はいないし、隣組や軍事教練といった戦後社会においては異様とされてきた戦時体制についても、みんな当然のこととして受け入れています。これらのことが良いか悪いかという判断は置いといて、当時の人がどう生活していたのかという点にこだわり色を付けない描写とした辺りに、作り手側の善意を感じました。 玉音放送の受け止め方も、ユニークだが真を突いていると思いました。放送が終わると「あ~、長かったねぇ」なんて言ってみんな平静を装って日常に戻っていくフリをするのですが、各々隠れた場所では感情を爆発させています。しかもそれが怒りとか悲しみとかというありきたりなものではなく、今までさんざんガマンして苦労して、多大な犠牲を払ってまで戦争という国家事業に参加してきたのに、「負けました」では気持ちの整理がつかない、やるせないという感情なのです。この切り口には驚かされると同時に、ある種の説得力も感じました。 その他、軍艦や戦闘機といった兵器のかっこいい描写があったり、美しさを伴った破壊があったりと、ただただ悲惨にというベクトルで戦争映画が作られることの多い日本映画界では例外的に、ミニタリー要素も充実しています。とにかくさじ加減がうまいのです。 海外では「戦争をテーマにした日本のアニメにはずれなし」との定説もあるようなのですが、本作はその頂点に君臨しうる重要作だと思います。
[インターネット(邦画)] 9点(2018-03-24 03:03:37)(良:7票)
37.  マンチェスター・バイ・ザ・シー 《ネタバレ》 
主人公・リーが人を拒絶しながら生きている現在パートと、快活な性格で友人も多かった過去パートが交互に映し出され、リーを変貌させたものは一体何だったのかというミステリーが提示される序盤の引きはかなり強く、また2つの時制の物語が両方よくできていることから、前半はかなり集中して見ることができました。 しかし、ミステリーの正体が明かされ、時制も一本化される後半は間延びしており、実際の上映時間以上に体感時間を長く感じました。リーとパトリックの関係性がこのパートのメインであるものの、両者にさほど変化がないまま似たようなイベントが何度か起こるだけなので、とても単調なのです。 ただし、ラストは意義深く感じました。リーが心を開いて終わりかと思いきや、パトリックのことは好きだしなるべく要望には沿ってあげたいけど、それでも過去が重すぎてマンチェスターでの生活は無理だわと言って去って行くのですが、人間の感情はそう簡単に折り合えるほど単純なものではないというある意味での真理を突いたオチとなっています。 あと本作で失敗だったのは、配信が字幕版のみだったので字幕での鑑賞になってしまったことで、会話はリアリティを重視してか、ある人物が話し終わらない時点で他の人が話し始めたり、複数の人物が同時に話していることもあったりと、字幕の情報量が原語の情報量をまったくカバーできておらず、吹替版を選択できるメディアで見ればよかったと後悔しました。
[インターネット(字幕)] 6点(2018-03-24 02:17:59)
38.  グレイテスト・ショーマン 《ネタバレ》 
IMAXにて鑑賞。 頭から尻尾まで歌とダンスの迫力と楽しさで貫かれたザッツ・エンターテイメントな作品であり、音響に恵まれたスクリーンで見る価値が充分にありました。とにかく楽しくてずっと見ていたいほどの幸福感があって、良い意味で実際の上映時間よりも体感時間の長い作品でした。 さらに驚かされたのは観客に余計な頭を使わせないよう無駄が徹底的に削ぎ落とされ、情報量がコントロールされた脚本の質です。例えば、生涯続くこととなるバーナムとチャリティの精神的なつながりの強さを序盤における以下の3つの描写で説明しきっています。 ・下層の出身だからという理由でチャリティの父親から蔑まれるバーナムと、そのバーナムに寄り添おうとするチャリティ ・海岸での二人の密会 ・廃墟の邸宅をファンタジーの世界に変えるバーナムの想像力とパフォーマンス、そして、それに魅了されるチャリティ さらには、その後のバーナムのすべての行動はこの3つの描写に象徴される彼の個性【上流階級に対する反骨精神】【男性としての魅力】【自分の夢に他人を取り込む力】を源流としたものであり、人物描写を実に簡潔に終わらせているのです。 全体的な構成も恐らく意図的に紋切り型を通しているのですが、そのことによって状況説明がほぼなしでも映画として成立するという効果が上がっています。歌が始まると物語の進行がピタっと止まってしまい、詰め込める情報量に限界があるというミュージカルの欠点を考慮した構成なのだろうと思いますが、これほど直感的な理解が可能な映画も珍しいと思います。  ただしこれって諸刃の刃で、製作者が意図的に切り捨てた深みという要素が本作の欠点にもなっています。鑑賞後数日経過してからこのレビューを書いているのですが、鑑賞直後には「傑作中の傑作!ここ何年間で最高の作品!10点満点!」と思っていたものの、現時点では私の頭の中に驚くほど何も残っていません。 後々振り返ってみると、ネタふりだけで明確な回答が出されていない要素もいくつかありました。ひたすらに上を目指して止まらなくなるバーナムと、今の成功を充分としてここに留まることを願う周囲の人々との間で起こる軋轢や、フリークスの味方として成功を収めたバーナムが無自覚のうちに差別者側に回る件については、当事者達がどう納得して元サヤに戻ったのかがはっきりしていません。 確かに放火や破産という大イベントはありましたが、でもそれってバーナム側の事情ですよね。重要なのは一時期バーナムに不快な思いをさせられた人達がいかにしてバーナムを再度受け入れるかなのに、彼らが心情面でどう折り合ったのかが見事に誤魔化されています。もしこの辺りをうまく扱えていれば美談の中の良いスパイスになった可能性もあったのですが、全体のテンポを重視してこれらが切り捨てられたために、どこか絵空事を見せられているような後味になっています。 この手の人生讃歌的な映画って、見たことが人生のプラスに働くほどの強烈なパワーを持ってこそ傑作だと言えると思うのですが、本作はそのレベルには達しておらず、よくできた娯楽作に留まっています。どこかに強烈なサムシングが宿っていれば問答無用の傑作になったかもしれないのですが、本作は鑑賞後数時間でほとんどの要素が流れ去ってしまうのです。批評面での苦戦も、この辺りに原因があるのではないかと思います。
[映画館(字幕)] 7点(2018-02-28 09:49:59)(良:1票)
39.  レゴバットマン ザ・ムービー 《ネタバレ》 
「会社のロゴ、どーん」だの、「黒から始まる映画は傑作」だのと、映画のキャラに関係しないはずの本編の外郭部分へバットマンがツッコミを入れまくるという序盤から遊び心の連続。前作『レゴ・ザ・ムービー』同様、権利関係にいくら金使ったんだと気になるほどのキャラクターの洪水に(バットマンを打倒するためにサウロンとヴォルデモートとエージェントスミスとキングコングとグレムリンがゴッサムシティに攻め込んできます)、スピーディかつ思考を凝らした見せ場の連続と、メタ的な遊びと王道の娯楽が混ざり合ったハイレベルな作品となっています。 また、本作で特筆すべきはバットマンについての真剣な考察がなされている点であり、かつて両親を亡くした強烈なトラウマから、そもそも人と関わらなければ別離の苦しみを味わうこともないという回避行動を無意識のうちにとるようになり、さらにはマスクの影に隠れる内に、もはや他人を求めているという自覚すら失った悲しいモンスターとして描かれています。その異常性は明らかな狂人であるジョーカーをも上回るレベルであり(ジョーカーは己の感情をある程度把握できている)、バットマンが抱える精神疾患がかなり丁寧に扱われています。ティム・バートン版や『ダークナイト』でもバットマンという非現実の存在に現実味を与えるべくその心理への考察はある程度なされていましたが、バットマンの心の闇をテーマに丸々一本映画を撮ったのは本作が初ではないでしょうか。前述した直感的に楽しい部分だけでなく、こうしたじっくり考えさせる部分もあって、かつ両者のバランスの取り方も絶妙なものであり、アメコミ映画としては理想的な完成度となっています。 うちの子供達も本作を楽しんでいましたが、この子達が大人になって本作を見返せば、この映画はこれほど深いことを語っていたのかとまた新たな驚きがあるはずです。そう考えると本作はめちゃくちゃに賞味期限の長い映画で、好きになれば一生付き合えるほどの情報量を持っています。レゴを題材としたファミリー向け映画であっても子供だましの作品にはせず、一切手を抜かずにこれほどのこだわりを持って作りあげたクリエイター達の志の高さも含めて、本作は愛せる作品になっています。 最後に、公開時には署名運動まで起こった芸人による吹き替え問題ですが、小島よしおは予想外に上手で、意外なことに作品の雰囲気を壊していません。自分のギャグをちょいちょい挟んでくる点はちょっとめんどくさかったし(当人の判断ではなく配給会社の指示に従っただけなのでしょうが)、吹き替え版の想定顧客と考えられる子供達には古すぎて伝わらないんじゃないかと心配になったりもしましたが、こちらも作品の品質を毀損するほどのノイズにはなっていません。最近では配給会社も慎重に人選するようになったのか、かつてのように作品全体を崩壊させるレベルのダメ吹き替えはなくなってきているように感じます。
[インターネット(吹替)] 7点(2018-02-28 00:13:43)(良:1票)
40.  パージ:大統領令 《ネタバレ》 
密室劇の『パージ』→街全体を舞台にした『パージ:アナーキー』の繋がりには正当進化という趣があり、『アナーキー』の満足度は実に高かったのですが、舞台が拡大しきった『アナーキー』の焼き直しにならざるをえなかった本作『大統領令』は、シリーズ内における立ち位置の時点で分が悪かったと言えます。実際、ヴィジュアル面での新鮮味がなく、第三弾にしてこのシリーズは失速を始めています。 また、『アナーキー』のレビューでは政府と反政府組織の対立という要素をまるで扱いきれていない点を指摘しましたが、本作でいよいよ物語の中心にやってくるこれらの要素にほとんど魅力がなかった点も、本作の評価を下げる要因となっています。パージ制度を創設した独裁政権・これを倒そうとする野党の大統領候補・レジスタンス的な活動家という三者が登場するのですが、パージ法という独創的な着想と比較するとこれらの要素は紋切り型で面白みに欠けており、むしろ物語のテンションを下げる方向に作用しています。 また、『アナーキー』には完全武装で人殺しをレジャー化する富裕層と、満足な自衛手段を持てない貧困層という分かりやすい対立構造があって、圧倒的に不利な状況にある貧困層が富裕層を返り討ちに遭わせるという点にマンハントものの伝統的なカタルシスが宿っていたのですが、本作ではスーパーの店主vs万引き女子高生に代表されるように「貧困層vs貧困層」「有色人種vs有色人種」の図式が挿入されたり、貧困層側もある程度団結して自衛手段を講じるようになっていたりと、せっかく前作にあったカタルシスを得やすい構図がわざわざ崩されています。これは残念でした。 本作は興行的に大成功し、第4弾やテレビシリーズ化の企画もあるようなのですが、本作でこの企画のポテンシャルの限界は見えてきたかなと思います。
[インターネット(吹替)] 4点(2018-02-23 20:03:34)
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