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41.  火の鳥2772 愛のコスモゾーン 《ネタバレ》 
子供のころに最後まで見ず、大人になって初めて通して見た。石ノ森章太郎の009はピノキオが下敷きになっていると聞いていたけれど、この作品もやはり「ピノキオ」が出てくる。火の鳥の存在はまるで、無機質のものに命を与えるブルー・フェアリーだ。さらに、これに輪廻を絡ませているから、壮大な地球史を見せられているようなスケールさを感じる。  そもそも、なぜ今頃この作品を見たくなったかというと、『her/世界に一つの彼女』を見たから。プログラミングされただけの仮の命(サマンサ)に惹かれる男の物語で、いつかどこかで似たカップルを見たと視聴中ずっと考えていた。やっと、『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』のゴトーとオルガだと思い出した。両作品の共通点は、絆は失ったときに初めてその価値に気づくというもの。たとえば、介護施設でパロちゃん(アザラシ型のセラピーロボット)に慣れ親しんだお年寄りが、突然そのアイドルを取り上げられたらどんなに寂しい気持ちになるか。愛車、人形、ペット、命があろうがなかろうが、愛する対象を失ったときの喪失感に、人はときおり打ちのめされる。その切なさに、深く共感せずにはいられない。
[インターネット(邦画)] 8点(2018-12-21 01:21:16)
42.  ブリッツ 《ネタバレ》 
皆さんの評が低いのでびっくり。面白かったけどなあ。粗暴で、喧嘩っ早く、眼付きの鋭い暴力刑事は、基本的に同性にはやりたい放題無作法を押し通すのに(タレこみ屋やバーテンダーなど)、女性には一様に穏やかなまなざしを向ける。相棒になるゲイのナッシュにも、一度としてすごんだりせず、まあまあ普通に話をし、拍子抜けするほどすんなりコンビを組む。それが、ひとたび悪党を相手にすると、手の付けられない野獣と化す。そのギャップが面白かった。  ブラントは上司には持て余されていたかもしれないが、クレイグといいロバーツといい、署内では意外にもそこそこ良好な人間関係を結んでいる。最も印象的だったのは、ワイスを釈放するシーン。署員たちが横一列にずらっと並ぶど真ん中に、ぎらぎらとしたオーラを放つブラントが立っていた。粗暴で不器用かもしれないが、彼は仲間たちを誇りに思っている。そして署員たちも、お荷物になりがちなこの暴力刑事を決して否定していない。彼らのあの一体感は、途方もなくかっこよかった。  ワイスを捕獲するときもブラントは寸でのところで仲間に制止をかけられたし、釈放もせざるを得なかった。彼の鬱憤はたまるばかり。だからこそワイスのラストは大体ああなるだろうなという予想はしていた。ただ、白になったワイスの幸運を逆手にとるしたたかさには驚いた。一見真面目そうなナッシュも、一応キレた過去を持つ男。なるほど、ブラントと息が合うはずだ。  また、舞台が舞台だけに、イングランドやアイルランドの事情も少しは関係あるかもしれない。人種の微妙なニュアンスは、日本人としては感じ取るのが難しい。  細かいつっこみどころはたくさんあるけれど、「持つのは鉛筆じゃねえ」など、ブラントの骨太のセリフがいちいちかっこいいし、ロケ地も見ていて楽しかった。ドアを開けると、下に降りる階段があり、意外に奥行きの広いフラットの部屋の様子も、労働階級と中流階級の各部屋の違いも、石造りのモノクロのロンドンの街なかで、真っ赤なダブルデッカーがさっと通り過ぎる様子などなど、見どころがたくさんあった。もう一度見てみたい。
[インターネット(字幕)] 8点(2018-08-11 00:16:50)(良:1票)
43.  ペコロスの母に会いに行く 《ネタバレ》 
 のっけから衝撃だった。オレオレ詐欺の電話で笑いをとっているが、笑えるどころか愕然とした。認知症の人よりも、逆にもっとしっかりした人(通帳や印鑑など貴重品の扱いがスムーズにできる人)が被害に遭う確率が高いのか!と。これは盲点だった。  物語が進むにつれ、少しずつ痴呆が進んでいく母。初めは声をあげて笑っていたのに、目に宿る光が次第に弱くなっていき、ついには何も見ていない、焦点の定まらない穴のような目になってしまう。その推移が赤木さんの神がかった演技でとても生々しく表現されていて、鳥肌が立つような心細さ、老いの残酷さを痛感した。  私にも認知症の親がいるので、とても他人事とは思えない。若い人には、この作品は退屈、ありきたりと思えるかもしれないが、当事者にとっては、些細なことでもいちいち「ぐさっ!」と胸に突き刺さる。子供が親を施設に初めて置いて帰るとき、ことのなりゆきを理解できない親は、子供に捨てられた気分を味わうに違いない。その代償に、子供は親に忘れられる。認知症の悲劇は、双方の絆が1つずつ時間差をもって切れること。ペコロスの涙の切なさに、「自分はこんな涙とは無縁でありますように」と願わずにいられない。  それにしても、親が子供を忘れる話は、身の回りでもよく耳にする。現実に、私の亡き祖母は息子(父)を忘れたにも関わらず、嫁である母を最期までしっかり認識していた(恐るべし嫁姑関係)。しかし、こんなやりきれなく辛い話はない。映画の母もペコロスを忘れ、かわりに自身の幼いころや夫や親友の残像に囲まれて満たされる(はあー・・・なんとやりきれない)。それでも息子は、たとえ自分がそこに含まれていないとおぼろげに感じていても、微笑む老母を「よかったなあ」と祝福する。無償の愛の形を見た気がした。
[インターネット(邦画)] 8点(2018-08-04 00:28:44)(良:2票)
44.  小さいおうち 《ネタバレ》 
 初め、タキは東北弁を話す板倉が初恋の相手だったのではないかと思った。時子の手紙を板倉に届けなかったのは、平井家への忠誠心というよりは、自分の恋心から2人を会わせたくなかったから。相思相愛の彼らが生き別れになってしまった責任を強く感じて、独身を通し罪悪感を抱き続け、贖罪の意で自叙伝を書き、辺りをはばからず号泣したのだろう、と。それにしては、彼女が生死を強く案じていた相手は板倉ではなく、夫妻だったし、30のキムリンさんのご指摘のように、時子の素足を手で触る行為が描かれている以上、タキの思い人は、時子だったのだと思う。小さいおうちの中、つまり、広く世間に出て異性との愛を知ることなく狭い世界の中で青春を過ぎてしまったタキの物語、という作品なのではないか。   そう解釈したら、この映画もそう悪くはない。確かに心には残った。ただ、やはり山田洋次監督作品は、私には肌が合わず何度も苛立った。健史の描き方があざとい。勉強もバイトも恋人とのデートも自由にできる。平和な治世となり、人生で最も好奇心に満ちた大学時代を送る彼が、直系の身内でもない一人暮らしの高齢者が書く自伝を、早く書け書けとせがむなど、年寄り目線もいいところだ。同じような雰囲気で始まる『ジョゼと虎と魚たち』の妻夫木聡の興味の対象は、少なくとも同世代の女性だった。寂しいことではあるけれど、新しいものを吸収するのに忙しい若者は、高齢者のセピア色の話など聞く耳を持たないものだ。それを老監督はこれっぽっちもわかっていない。『風が吹くとき』の絵本をチラ見させているシーンも不自然極まりなく、作り手のメッセージがこれ見よがしだ。例の手紙に至っては、最重要アイテムであるにもかかわらず、健史が無責任にもぺらぺら読み上げ、繊細な余韻が台無しに。むしろ、彼が時子の息子に封書を転送、恭一本人が自身の目で直接読んで文章の意味や未開封の理由を理解し、母ではなくタキの墓参りに行けば、もっとずっと深いラストになった。
[インターネット(邦画)] 6点(2018-06-06 11:23:25)
45.  容疑者Xの献身 《ネタバレ》 
石神の人となりが最もよく表れていたのは、湯川から託された問題を解くシーン。背中を丸めて一点に集中する姿は、逆に他のことは目に入らない、つまり極端に視野が狭いことを暗示しているよう。それでも旧友の寝姿にはちゃんと気づき、風邪をひかないか心配する優しさもある。不遇の親のため夢を諦めて仕事に就く孝行心もある。石神は、自分に少しでも関心を持ってくれる人間に対しては危害を加えることはできないが、自分に無関係な人間、例えば、数学に関心がない生徒たちやホームレスには、彼ら自身に五感があることすら忘れているようだ。このシーンには、ヒントになるメッセージがたくさん込められている。  花岡母子のために、明確な殺意をもって石神は湯川を冬山に誘った、にもかかわらず、旧友をどうしても殺せなかった。冬山のシーンはそう解釈したい。ホームレスの男性には容赦なく石で顔をつぶせたことの対比となって、石神の屈折した複雑な人間性が垣間見える。  もし、石神に柔軟なコミュニケーション能力があり、社会的に広い視野が効き、自分に自信のある人間だったら、隣室で乱闘の気配を察した時点で警察を呼ぶか、部屋へ飛び込み、被害者の蘇生をして救急車を呼び、母子を殺人者にしない配慮をしたはず。 それが最も正しく彼女たちを救う手段だ。なのに、数学には解答へのいくつもの道があると言いながら、事件に関して彼は選択肢を1つしか持たなかった。 なぜなら、彼女たちの悲劇のヒーローになりたかったから。 彼の犯行は、見た目には母子への捨て身の献身だが、私にはやはり相当歪んだエゴに見える。 自分の得意分野で、好きな女のヒーローになりたいというエゴがあるからこそ、彼女たちの正当防衛を証言する気はさらさらなく、目的のために無関係な人間も殺害できた。 ただ、巧妙にアリバイを作ることはできても、靖子が自分に無関係な死者を出されたことを知ればどんな気持ちになり、どういう行動に出るかという、いわゆる「人の心」が読めなかった。ひとえに、視野が狭かった。 また、自殺を厭わぬ者と、娘を守って生きねばならない者という、両者の生の執着の差も、齟齬の出た原因の一つだろう。 ラストで石神が号泣したのは、靖子が自分を救うために名乗り出てくれたことよりも、自分のひそかな誇りが台無しになってしまったからだ。 他者への優しさとそれ以上に自己犠牲の陶酔が混在した、そんな石神の涙と、石神を理解できないにもかかわらずむせび泣きながら謝罪する靖子の涙は、全く質が違う。  小説・映画は道徳的である必要はないと私も思う。石神のように、良かれと思ってしたことがただの偽善にすぎず、不条理な結果を生む事例は、現実にいくらでも転がっているし、悪人だけで成り立つ魅力的なドラマもたくさんある。 問題は、湯川が登場しているにもかかわらず、その不条理(特にホームレスの殺害)に充分な光が当てられていないこと。 湯川が石神を哀れむだけで激しい怒りを感じなければ、彼の正義など、何ほどのこともない(『相棒』右京のキャラクターと比較すれば一目瞭然)。 話は面白くて深いのに、小説も映画も、この辺がとても弱い。そのため、石神や母子の登場するシーンは強く惹きつけられたが、湯川や内海は、物語の進行を促す程度のキャラクターにしか見えなかった。
[インターネット(邦画)] 7点(2018-05-13 22:26:09)(良:5票)
46.  アイアン・スカイ
『サウルの息子』を見てまだその深刻な印象が冷めやらない後日、何の先入観もなく本作を見てしまった。うわうわうわ、こっちを先に見て、『サウルの息子』を見た方が、順番としてはまだ割り切れた・・・・・・? とにかく鍵十字が目に入るたびクラクラしてしまって、笑えるどころじゃない。ナチスが笑いのネタとしてふさわしいはずがない、途中で何度も視聴をあきらめかけたけど、ヒロインのレナーテが可愛くて可愛くて、ついに最後までもってかれた。あの天然ぶりは、こっちの女優さんなら綾瀬はるか? ヨーロッパの人たちは、日本人とは違って、悲惨な過去は笑いに変えて乗り越えるという文化があると聞くけど、なるほどこういうことなのか(日本の原発事故を風刺画で茶化した仏メディアにはムカッ腹が立ったけど)。それにしてもドイツが本作の制作国として参加しているって本当に? 日本も長らく自虐趣味が続いていたし、何のかんのといいながら日独って似てるなあ・・・・・・いやいや、この映画の自虐ぶりは相当なもの、ドイツ人のメンタルすごすぎる。 さらに、女性の米大統領がサラ・ペイリンそっくりで、演出家が狙ったとしか思えない。アメリカの映画館はさぞかし大爆笑だったろうな。この映画は、女優さんたちがみな存在感がハンパなく、気が付いたら、ヒロインを初め女性ばかりに目がくぎづけになっていた。
[インターネット(字幕)] 6点(2018-04-28 00:12:38)
47.  サウルの息子 《ネタバレ》 
皆さんの評価が低いのでびっくりした。主役のすぐ後ろにカメラマンが始終ついて回っていたはず、その不自然さを一切感じさせない一体感だった。サウルの向こう側で起こっている惨劇がぼやけたり、一部しか見えないのは、彼自身が全身全霊かけてそれを見ることを拒絶しているからだ。作業上、物理的に目こそ開けてはいるが、心の目が頑なに閉じている。それでも防ぎきれない惨劇の気配が、わずかなアングルを狙って画面の隅にするっと潜り込んでくる。この演出は、視聴者の怖いもの見たさの好奇心を刺激するのと同時に、サウルが五感の拷問を受けていることを示唆している。不完全な映像は、生死の悲鳴のようなメッセージに満ち溢れている。最小限の表現の巧みさに、本当に驚いた。    サウルが頑として放さない少年の遺体は、『キャスト・アウェイ』のウィルソン(バレーボール)のように思えた。川に入って遺体がサウルの手から流れていったとき、そのイメージは決定的になった。ぎりぎりの正気を保つために、彼には息子に見立てた少年の体が必要だったのだろう。   視聴中、気になったことが2点ある。1つは、筋の通らない奇妙な行動をとっているコマンドがサウルだけだということ。この状況下でラビにこだわり続ける彼の極端に狭い思考、言動は確かにおかしい。ただ、当人たちは気も狂わんばかりの腐臭を四六時中浴び、衣服も身体も臭気が染みついている上、いずれ我が身も殺される運命とわかっている。満足な休息もないままの過酷な肉体労働に、精神的拷問の連鎖・・・・・・視聴が進むにつれ、正常な理性を保っている他のコマンドたちの方が、かえって不自然のように思えてきた。  2つ目は、シャワー室へ先導されるユダヤ人たちが、なぜ無抵抗だったのかということ。現代では、衣類や壁に付着した煙草の副流煙ですら取りざたされている。ましてや大量殺戮後の死臭や吐瀉物、ガスの残り香などは、コマンドたちがどんなに洗い清めても落ちるものではない。なぜ誰一人、シャワー室行きを疑わなかったのか。惨事の予感はなかったのだろうか。子連れのユダヤ人もいただろうに、何の命乞いもなく渋々命令に従う彼らが、腑に落ちなかった。本を読めば多少事情がわかるだろうか。   とはいえ、サウルのように非人間的な任務を負わされ、殺害されていった人々が、歴史に埋もれることなく、映画によって光を当てられたことに大きな意義を感じた。同じ人間の一生とは到底思えない、ファシズムがもたらす狂気の恐ろしさを存分に味わわされた。
[DVD(字幕)] 8点(2018-04-24 23:55:07)(良:1票)
48.  髪結いの亭主 《ネタバレ》 
日本の民話「天女の羽衣」や、デンマークの「あざらしのお母さん」を思い出す。男が異形の女に惚れて結婚し、相思相愛にもかかわらず妻は夫の元を去っていく。天女もあざらしも、天や海に帰るために必要なアイテム、羽衣や毛皮を見つけてしまうのがきっかけだが、マチルドの場合は、夫との些細な喧嘩がそれにあたる。幸いすぐに仲直りができたからよかったものの、今後、どんなトラブルに見舞われて夫婦生活に亀裂が入るかわからない。仲の良い夫婦生活をずっと続けていきたかった彼女は、大きな不安に襲われたのだろう。アントワーヌと同じくマチルドも彼に一目ぼれしたのだと思う。容姿の好みや性的嗜好も完全に一致した夫婦は、はた目から見ると羨ましい限りの幸せぶりだ。それなのに、妻は入水してしまう。映画では多くは語られなかったが、結婚するまで孤独を愛してきたマチルドは、過去に悲惨な性的虐待を受けた、あるいは愛する男の子供を堕した経験があったのかもしれない。膨らみようのない腹という言葉からも、不妊のにおいがする。彼女の寂しそうな笑顔は、常に秘密を抱えているせいだ。過去を一切語らない妻を、夫アントワーヌは丸ごと愛して子供すらも欲しがらなかった。マチルドは、そんなアントワーヌにいつか愛想をつかされることに、死ぬほどおびえていたのだろう。民話の哀しい妻のイメージが、どうしても彼女について離れない。アントワーヌも、マチルドも、深く心にしみこんだ。
[インターネット(字幕)] 8点(2018-04-13 22:46:31)(良:2票)
49.  あなたを抱きしめる日まで 《ネタバレ》 
フィロミナは赦すと言うが、ジャーナリストであるマーティンは、彼女の言葉に折れることなく「許せない」と言いきった。神の名のもとに行われていた人身売買が、告発もされず見過ごされていいはずがない。フィロミナが体験した男女間の愛の営みを、カトリックでは罪であると断罪するのなら、同性と交わり業病に侵された彼女の息子は、シスター・ヒルデガードの目にはどんなふうに映ったろう。カトリックのあまりにも狭い視野には、いつも辟易させられる。  放蕩息子やよきサマリア人など、聖書の有名なたとえ話を若い頃から読み親しんできたが、隣人愛を説くはずのキリスト教が、どうしてこれほどに狭義の枠の中でしか人間を認めないのだろう。右の頬を打たれたら左の頬を差し出しなさい、という類の教えを学んでいるはずの聖職者たちが、なぜ「人を愛する」ことを知らないのか。聖書に記されたイエスの言葉を読めば読むほど、この宗教でひと悶着起こしている各国の歴史は一体どうなっているのかと、信者でもない私は、本当にわけがわからない。少なくとも、この映画の修道者たちは、人の命の重さを犬猫ぐらいにしか扱っていない(今やペットのお墓だって人間並みに手厚くなっているというのに)。修道院は神の家とよく言われるが、全く悪い冗談だ。
[インターネット(字幕)] 8点(2017-11-18 23:23:42)
50.  シングルマン 《ネタバレ》 
同性愛の偏見が強い時代の割には、いとも簡単にそれらしい相手に遭遇できるのが不自然だった。パートナーにはなかなか巡り合えないゲイだからこそ、相手に先立たれるショックははかりしれないと思うのだけど、次から次へといい男が向こうからやってくる。それこそバスのように。この辺の違和感が少し引っかかったが、上質ないい映画を見たという余韻があった。 別れた元妻は、今でも心の友。マイノリティであるゲイと知りながら、師のために銃をわが身に隠す美しい教え子。渋いなあ・・・。口数の少ない主人公をコリンが抑えた演技で演じているから、画面から彼の気持ちがにじみでているように思えた。
[インターネット(字幕)] 8点(2017-11-14 00:25:39)
51.  ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
ものすごくうるさくて、ありえないほど近いのは、トラウマを引き起こす要因がいたるところに散らばっている「街」そのものではないかと思う。人々の声、交通機関の振動や騒音、異臭や見えないテロリストの気配に満ちた街。それはまた、オスカーが訪ね歩いた人々が住んでいる街であり、ドアマンのスタンが暮らし、自分を愛する祖父母や母が寝起きする街でもある。深刻なトラウマを抱えたアスペルガーの少年にとってストレスだらけの街は、そして大好きな父がかつて住んでいた街だ。愛とは、ものすごくうるさくて、ありえないほど近いもの。少年を包みこむニューヨークは、決して少年を独りにはしない。
[インターネット(吹替)] 7点(2017-09-23 00:04:11)
52.  コロンビアーナ 《ネタバレ》 
『悪の法則』を見たときは、麻薬組織のあまりの残酷さに数日ショックを引きずったものだけど、本作を見て、あれ? 『悪の法則』ともしかして、逆?『悪の法則』では、ワルのメインキャラたちが、神出鬼没で現れるメキシコの麻薬組織に追い詰められ、次々と悲惨な目に遭わされる。本作はコロンビアの組織を相手に、たった1人の女性が透明人間のように神出鬼没で現れ、大暴れ。どこから降ってわくかしれない敵というのは、確かにハンパなく怖い。愛する身内を殺されて、鬱憤ばらしのようにマシンガンをバリバリ打ちまくっているカトレアを見て、不覚にも、「か・い・か・ん・・・」と往年のセリフが脳裡で聞こえた。女性が男性並みに闘うときは、体を回転させて遠心力を利用するんだなあ。男性はそんなアクションなしでパンチを繰り出せるから、女性は相手以上に素早く動かなきゃ大変だ。(それにしても、あんなに激しく股間に蹴りを入れられて倒れ込まない男っているの?)ラストの死闘はなかなか迫力があって楽しめた。  ともかく『ニキータ』『レオン』とほぼ同じフォーマットで話が進んでいたので、細かい矛盾点は気にせず、割り切ってカトレアの復讐劇をシンプルに楽しんだ。 小さなカトレアを追う男たちのバイクにある「HONDA」の文字が何度も映り込んでいたし、エミリオが殴りダコのある大きな手で姪っ子を抱き寄せるシーンが印象的だった。3分署のシャーリの顔芸も面白かったし、人の不幸は他人事という連鎖も皮肉たっぷりだ。カトレアの身内の不幸を淡々と聞いていたFBIは、自分の身内を脅されて初めて動揺し、FBIの悩みを歯牙にもかけなかったCIAは自身の命を狙われて、初めて怯える。この一連の流れは人間心理のさもしさを見せつける。  で、ストーリーが終わった。エンドロールが長々と流れる。それをぼうっと見ていたら、supplier(小道具供給者)の文字が。テクニカル・ビークルとか、ボディガード(!)、ユニフォームレンタル、スカルプチュア・ワークショップ(シャーリの付け爪ってここから来たのかな)、フィルム・ストックはコダックだって。そのうち、「ディレクター一同、感謝申し上げます」という言葉が流れて来て、撮影に協力したホテル名やフランス、アメリカ各大使館などの紹介が続く。そこへ、「SPECIAL THANKS TO」という言葉が上がってきて、私たち日本人にはなじみのある「HONDA」のロゴマークがでかでかと!!! それもエンドロールのほぼラストのタイミングで来た。映画は製作年が2011年だというし、このサプライズはすごく嬉しい。
[DVD(字幕)] 7点(2017-09-14 01:21:19)(良:1票)
53.  メメント
見始めて1時間までは何ともなかった。しかし、徐々に体調が悪くなってきた。胸がむかむかし、画面を見続けるのが辛くなってきた。見始めて1時間半ごろ、ついにディスクを一時停止して、トイレに駆け込む。強い吐き気があったが、しばらくすると治まったため、恐る恐る再び視聴。見終わると、倒れ込むようにして就寝、吐き気をまぎらわせるために、ラジオをつけて眠りについた。  後で考えると、あの症状は画面酔いだったとしか思えない。視覚から入る情報と体感している感覚のずれから起こる「酔い」という症状。各エピソードの推移が前後に激しく揺さぶられたので、話についていこうと躍起になっているうち、吐き気が起こってきたものらしい。体調不良を引き起こす映画なんて、びっくりだ! 本作の話をじっくり見て考えたいのに、再視聴するにはものすごく勇気がいる(涙)。もし『リング』の呪われたビデオが現存して、それを視聴したら、こんなふうに体調不良を引き起こすんだろうかと妙な方向に連想してしまった。
[DVD(吹替)] 8点(2017-09-03 14:05:06)
54.  フィフス・エレメント
観た直後はただただ呆れ返って、2か3と思っていたけど、一晩経って思い返してみたら、5点、いや7点でもいいかなと。ストーリーはメチャクチャなのに、出てきた全キャラクターが強烈に印象に残ってる。野生ネコのようなキレキレの動きをするミラがすごく可愛かったし、常にぎょろ目で喜怒哀楽を爆発させる黒人DJも最高に楽しかった。たった1日経っただけで、こんなに印象が変わる映画も珍しい。それにしても、私の中ではあの『グレート・ブルー』を撮った監督という神々しいイメージが、途中で崩壊しそうで大変だった。北野武に傾倒している外国人がビートたけしを知った衝撃って、こんな感じかしら?
[インターネット(吹替)] 7点(2017-08-05 11:12:48)(良:1票)
55.  ニュースの真相 《ネタバレ》 
 非常にまじめに作られた印象はあるが、どうしても『インサイダー』と比較してしまう。メアリーの情報提供者に対する責任の負い方は、ローウェル・バーグマンのそれとは比べようもないほど軽い。自分を信用して危険なネタを打ち明ける一般人を、己の首をかけて守り抜こうとするローウェルの仁義は本当に素晴らしかった。  残念ながら、メアリーからその感動を得るのは難しい。話したくないと渋る情報提供者の口を、無理やりこじ開けさせ、後にその証言の価値が疑われると、後手後手に回りながら、何とか修正を図ろうとする。その辺の動きが見苦しくて、残念だった。彼女は一体何をもって、「あなたを必ず守ります」と確約していたのか。一情報提供者に対して誠実な対応を怠るのであれば、彼女は何に対して誠実さを捧げるのだろう。些細なことを調査委員会がつつきすぎると言うが、私は共感できなかった。放送前に、メディア側で是と非のチームを作り、資料を突き合わせ、充分双方で意見を戦わせるべきだった。それをしてもいないのに、「○○ありき」で証拠を全力で探していれば、それに添えられそうなネタが上がってきても不思議はない。情報提供者との中途半端な対応に加え、些細なこと、つまり「詰め」をないがしろにする彼女に、誠実さを感じることができない。  そうした違和感を覚えつつラストを迎え、ダン・ラザーが降板のため大物アンカーらしい華ある幕引きとなったのを見て、さらにがっかりした。やはり個人的には『インサイダー』の寂しく苦いラストの方が、深く心を打つ。
[DVD(字幕)] 6点(2017-08-02 23:33:37)
56.  悪の法則 《ネタバレ》 
あまりに面白くて立て続けに3回観た。まるで、1枚の画像がところどころ虫食い状態になっていて、見えない部分は「想像して足してくれ」と挑発しているようだ。  『運命のボタン』という作品を思い出す。ボタンを押せば、見知らぬ誰かが1人死ぬが100万ドルが手に入る、という究極の選択を迫られる話。カウンセラー役に当たるヒロインを、偶然にもキャメロンが演じている。本作では、カウンセラーが「一口乗る」と意思表示しただけで、つまり捕らぬ狸の皮算用、まだ何一つ始めもしないうちから破滅するというカッコ悪さ(彼が新婚生活を楽しむためには、予算内のダイヤを購入するだけでよかった)。どちらの作品も、選択と結果が大きくものをいうタイプだ。  麻薬ビジネスでのし上がり、ライバルはことごとく潰してきたと豪語するライナーが、恋人の開脚ごときで動揺するなど実にヤワい。女性の股間から赤子を取り上げ、悪露を処理するカタギの産科医の方が、よほど肝が据わっていることになる。俗に、出産に立ち会った夫は、妻を女として見られなくなることがあると聞くが、「婦人科みたいでセクシーじゃなかった」とぼやくライナーも、まずその口だろう。マルキナ役が妻のペネロペでなかったのは、バビエルのためにラッキーだった。  ボリートを使ったのは、マルキナの配下。つまりライナーは、恋人から寝物語にボリートの話を聞いた可能性が高い。マルキナは、「私を甘くみるな」と電話で誰かを挑発するが、その相手はラストで会食を共にする投資アドバイザーのマイケル? 彼女の身を案じてあれこれおせっかいを焼き、逆に不興を買ったのかもしれない。組織の気配だけでビビりぬいている男3人に比べると、最新式の武器を備え、陰から積極的に組織を翻弄する彼女は、悪党の格が圧倒的に違う。ただ、ブツは結局組織に出し抜かれる。彼女は代価としてウェストリーの資産を奪うが、組織にとってはウェストリーの災難など、痛くも痒くもない。一矢報いぬまま米国やメキシコを捨て、香港に拠点を移すというのは彼女の敗走に見えなくもないので、ここが話の流れ上ちょっと弱い。またマルキナは、雇い人として唯一報酬を受け取らなかった女に、「(あなたは)あてになる」と矛盾した言葉をかけている。国を出る前に女を消すぐらいのことはするだろう。  街の有力者に諭され、絶望して戸外をさまようカウンセラー。そのとき、街の住人たちが犯罪率の多さを嘆き、世に訴える様子が背景に映り込む。ライナー一味の麻薬の悪事などが、そもそも住人たちの生活を脅かす起因であることを考えると、彼らの窮地に同情など必要ないことをこの短いシーンで気づかされる。  2頭のチーターは、マルキナが絶賛するほど野生美は持ち合わせていない。人間に飼われ、時に獲物を追う様子は、まるで家猫が鼠を追うように幼稚だ。何の威嚇もせず、飼い主(ライナー)の死を憐れむ様子まで見せ、雌は呆気なく死ぬ。とにかく弱々しい。会食のシーンで、マルキナが滔々と語るチーターの礼賛は的外れだ。むしろ、彼女の手の内で振り回された男女4人が、見えない首輪をつけたペットに見える。生き残ってアリゾナにいる雄チーターは、唯一の生存者で妻を亡くしたカウンセラーを暗示しているようだ。これらのちぐはぐさが、上映中最も気になった。  ラストの会食で、投資アドバイザーのマイケルに、「手を引いて。感謝して」と命じるマルキナの意図は、「香港マフィアを相手に大暴れするから、あなたは手を引いておかないと危ないわよ。ヤケドしなくてすむんだから、この提案に感謝して」というところか。「臆病者ほど残酷」というのは香港マフィアを指し、「これから始まる殺し合いは凄惨を極める」というのは、たった1人(バイカー)を殺しただけで悪が悪を駆逐する流れを作り出した手腕を、彼女はまた現地でも振るう気でいるのだろう。マイケルはそんな彼女の名が敵に知れることを案じている。このシーンを見ても、男の方がまだウェットな部分を持っており、マルキナには、男がアドバイザー兼セックスフレンドとして「有能だから」手放したくないというドライさがありそうだ。世界で2番目に危険な場所(メキシコの都市、シウダー・ファレス)が舞台の話として、悪の狂気がてんこもりの作品だった。
[DVD(字幕)] 9点(2017-07-31 01:05:36)
57.  バンク・ジョブ 《ネタバレ》 
うわ、これって本当に実話!? 舞台はロンドン、ベーカー街、地下を掘って銀行の金庫室へ・・・って、まるっきりシャーロック・ホームズの、ある作品に出てくるクレイ一味そっくり。 なによりすごいと思ったのが、三つ巴の思惑が絡んでいながら、刻々と変わる主人公たちの窮地がどういう状況なのか、もつれることなく手に取るようにわかること。全ての勢力がバランスよく引き合い押し合いしていて、その真ん中にテリー一味がいる。ここら辺の拮抗具合が妙にシェークスピアっぽい。イギリスが誇る2大文学のテイストが感じられて、うーんすごい、これ、本当に「イギリスで」あった話なんだと唸りつつ、かなり脚本が練られていると思った。  ただ、この作品に対する矛盾点が3つほど。 一味は素人集団かもしれないが、テリーの手腕はハンパじゃない。さすが元裏社会で生き抜いてきただけあって、どの勢力のプレッシャーにもつぶされることなく相手の弱みを鋭く突き、かえって有利な交換条件を相手側に呑ませるあたり、駆け引きがうまい。それに、緊急時に別の車を用意しておくなど隙がない。これだけ企画力があって、交渉術にたけ、リスク回避の勘どころも冴えている。臨機応変に動けて、ここぞというときの決断を下す度胸もある・・・・・・ビジネスマンとしては最高の人材だと思われる。しかるに、なぜ本業の中古車販売が繁昌しない? 表の仕事ちゃんとしろよ、テリー! それに、厄介な写真ネタを世間に公表しないための騒動が起こったというのに、今さら王女の実名をあげてエンターテインメントに仕上げるって・・・・・・どうなの? 薨去後に映画化しているから時効ってことかもしれないけれど、現代風にいうなら、完全にリベンジポルノでしょこれ? でも、その作品に9点も計上する私も私か・・・・・・
[インターネット(字幕)] 9点(2017-07-28 23:06:08)
58.  パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊
このシリーズ作をよく知らないまま、劇場で本作を鑑賞。 ジャック船長がぺらぺらしゃべるから初めは気が付かなかったけれど、ジョニーの軽快なアクション、表情が豊かでありながら笑わない目、切れのある演技、次第に誰かと雰囲気がそっくりだと思うようになってきて、帰宅してから、ああ、笑わない喜劇役者で有名なバスター・キートンだと思い出した。特に、三枚目風の走り方がそっくり。 アクションがただただ圧巻で面白かった。ただ、もう一度劇場で見たいかというと、うーん、ストーリーがちょっと厳しい。あっさりと船長を見限ったり、金でやとわれて戻ってくるクルーたちを見て、「彼らはこんな関係なのか」と白けたのが一番痛い。さんざん振り回されて苦労しながらもイカれた船長を憎み切れない、愚かで愛すべきクルーたちを見たかった。単独でジャックが派手な活躍をするのもいいけど、仲間たちからの信頼がもう少し厚くてもよかったと思う。
[映画館(字幕)] 7点(2017-07-18 00:53:10)
59.  イントゥ・ザ・ストーム
扱うテーマが人災と天災では、人間ドラマの厚みにも差が出るのだろうか。 昔見た『タワーリング・インフェルノ』は、言わずと知れた人災のパニック映画。重大なミスを犯して多大な被害を出したメインキャラたちの苦悩や、人命救助に命をかける消防士の決断など、重厚なドラマが魅力的だったし、徐々に炎がビル中に燃え広がる不気味さや絶望感も見ごたえがあった。 しかし天災では、その発生と人間の相関性が薄く、どんなドラマでも好きなように作れるため、どうしても取ってつけたようになってしまう。 天災の規模と人間ドラマの双方で勝負できる作品を作るとなると、脚本が相当難しくなるのではと思う。 いっそ、スピルバーグの『激突!』のように、登場人物たちのセリフを極限まで削ってドラマをシンプルにしていたら、かえってメリハリが効いたかもしれない。 誰もかれもがぺらぺらとしゃべるから見ているこちらはすんなり事情が頭に入って楽だけれど、そのかわり鑑賞し終わったら、「竜巻が圧巻だったね」という思いしか残らない。 それに、「ツイスター」でも感じたことだが、本作も竜巻の破壊力ばかりに力が入りすぎていた。 この天災の特徴は、悪魔が通った道のごとく通過の痕跡が残る。ということは、破壊された家屋と被害をまぬかれた家屋が目と鼻の先という皮肉な事態も起こりうる。人間ドラマを描くのであればかっこうのネタになるのに、どうしてこの理不尽さを描こうとしないのだろう。 また、空に舞い上がったものが全て地面に激突するということもないのでは。運よく風に乗って無事地上に降りられれば、ユニークな絵になったろうにと思う。こんなふうに、竜巻のいろんな「表情」を見せてほしかった。
[DVD(字幕)] 5点(2017-07-15 01:25:09)
60.  探偵物語(1983) 《ネタバレ》 
 若いころにこの映画を見ていたら、多分「角川のアイドル映画だからこんなものかな」と軽く受け止めて、後に何も残らなかったと思う。久々に昭和の邦画もいいかなと思い視聴したところ、かなり新鮮で意外だった。   通常は器用者と不器用者のコンビで、互いに足らないものを補い合って調子を整えるのだろうが、あいにく直美と探偵は不器用者同士。2人ともぎくしゃくして始終波長が合わない。マル被である直美に尾けられたまま元嫁を訪ねる探偵の不恰好さも、見知らぬ男と一緒にホテルへ入る直美の破天荒ぶりも、双方ともに目を覆わんばかりの不器用ぶり。また、二股も辞さない女好きの大学生や、殺人の疑いをかけられた哀れなやくざなど、とにかくこの作品に登場するあらゆる人物が、ひとクセもふたクセもある愚かでややこしい者ばかり。  なのに視聴後には、ほろ苦く、じんわりと胸に温かいものが残る。赤川次郎作品は学生のころ2冊ほど読んだが、そのときは、「軽い大人のおとぎ話」としか思わなかった。今回鑑賞した彼の世界には、市井の人々を見守る原作者の温かい気持ちが、底辺にしっかり流れている。少なくとも、面白ければ何でもいいという無責任な作りには見えなかった。愚かで哀れだけれど、決して書き割りの脇役としてではなく、世間にはこういう類の人々がいるとすんなり納得できるほど、血の通う人物として1人1人がちゃんと演出されている。そういう意味では、メインキャラたちが住む環境は、ドラマ『探偵物語』のbad cityとそれほど違わないのではと思った。   この作品では、カメラワークが面白いなあ!とうなるシーンがたくさんあってここに書ききれないが、中でも直美が最後に探偵の部屋を訪れた場面。双方の凝り固まった気のぶつかり合いがすごい迫力で、まるで喧嘩を売った売られた感が否めない。これが愛の告白シーンとは。八つ当たりのように「寂しかった!」と言い捨てる彼女もすごいが、好きと言われて甘えるなと返す探偵も容赦ない。甘いムードが一切ない、ナイフで突いたら血がにじむような空間。探偵の目はテーブルの下でスカートを揉みしだく直美の拳を見ていないけれど、視聴者にはばっちり見える演出も心憎い。また直美は、浮気が原因で妻に子供をおろされたという探偵の「大人の事情」を知らないが、視聴者だけが内情を知ったままで話が進むと、無口な探偵の人柄がかえって深みを帯びてくる。何とも印象深いシーンだった。   それにしても直美の変人ぶり(ペンダント選択の時点で変人キャラ決定)や、メンタルの強さには舌をまく。当たってくだけろの精神がハンパなく、その結果どんなに傷ついても、そばに誰かがいようがいまいが涙ひとつ見せない。探偵の方は、道義的には命懸けで元妻を助けるほどの行動力はあるが、年の離れた女子大生の愛を受け止めるほどの勇気がない。その2人のラストのキス。台詞が一切ないまま別れるのに、驚くほど不自然さがない。それは、2人のこうした性格が見ている側に十分伝わっているからだと思う。もしどちらか、または双方が何か言えば、どんな台詞も野暮になった。映画の和洋を問わず、大風呂敷を広げた末に強引にまとめるなど乱暴なラストの作品が多い中、これほど粋にまとめた邦画を見たのは、久しぶりだと思う。
[インターネット(邦画)] 8点(2017-06-16 13:53:16)
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