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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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841.  スロウ・ウェスト 《ネタバレ》 
新人監督の長編第一作目ながらマイケル・ファスベンダーとベン・メンデルソーンという信用できる俳優が揃って出演しており(ファスベンダーは製作総指揮も兼任)、低予算ながら光るもののある作品かと思ったのですが、私にはあまり良さが伝わってきませんでした。 情け無用の西部に暮し、「この土地は強くないと生きていけないのだ」と信じてきた賞金稼ぎ・サイラスが、強さとは対極にいるロマンチストの青年・ジェイと行動を共にする中で腕っぷし以外の強さを学んで人間的に成長する物語。そのコンセプトだけを見ると男泣き必至の激熱ドラマを期待させられるのですが、本編はどうにも盛り上がりきりません。そもそもサイラスは登場時点である程度善人であり、殺しに疲れている様子も見せるため、ジェイの存在が決定的に彼を変えるきっかけになったようには見えないのです。ほっといても、サイラスは作品のクライマックスで行き着いた境地に達したように思います。また、このテーマであればサイラスとジェイの価値観の違いや、それに起因する衝突をもっと見せるべきだったのに、二人の間であまりに波風が立たなさ過ぎていることも、作品からドラマ性を奪っています。 さらには、基本設定に納得いかない部分が多かったことも、ドラマへの没入感を阻害しています。被害者の親族であるジェイが許している中で、ローズ親子に賞金を懸けていたのは一体誰だったのか。ジェイは、なぜローズ親子の潜伏先を知っていたのか。サイラスは、なぜジェイについていけば賞金首のローズ親子に辿り着けることを知っていたのか。あまりに情報が端折られすぎていて、話がよくわからないことになっています。また、だだっ広い西部で登場人物が容易に出会うことができるというご都合主義も、作品の説得力を奪っています。 そんなメタメタな内容でしたが、唯一胸に刺さったのが移民親子による強盗のくだりでした。ジェイとサイラスが立ち寄った雑貨店に男女二人組の強盗が押し入ってくるのですが、明らかに不慣れな様子なので容易に反撃に遭い、彼らは撃ち殺されてしまいます。その後、ジェイとサイラスは店の外で待たされている子供二人を発見。このことから、男女は子供を食わせるために仕方なく悪事を働いたということが明らかになります。彼らは死ぬか奪うかの他に選択肢がないというところにまで追いつめられていたのです。また、子供が外国語を話していることから、この親子はつい最近アメリカに移住してきたということが推測されます。夢を抱いてアメリカに渡ってきたものの、弱肉強食の世界に飲まれてしまった移民の馴れの果て。サイラスは、俺らではこの子達を救えないのだから、そもそも手を差し伸べる必要はないという態度をとります。そして、冷酷ではあるがそれが事実である以上はサイラスに従わざるをえないジェイ。単純な善悪では割り切れないこの非情な展開は、当時の西部の混乱状態を見事に表現していたと思います。
[DVD(吹替)] 5点(2017-01-13 00:23:05)
842.  不屈の男 アンブロークン
原作に不適切な表現があったことから反日映画とのレッテルを貼られて大変なバッシングに遭った不幸な作品ですが、作品内容は極めてフェアーなものだったと思います。本編は個人と個人のぶつかり合いに終始しており、決して日本を批判するものでもありません。さらには、日本に対する無差別爆撃の被害状況など通常のアメリカ映画が避けて通る描写にも果敢に挑んでおり、私生活でも平和活動に積極的なアンジェリーナ・ジョリーは作品にも一本筋を通しています。また日本人として面白かったのは、主人公の乗る爆撃機がゼロ戦に襲われる場面の恐怖心の演出であり、アメリカさんから見た戦争はこんな感じだったのかと興味深く感じました。 ただし、映画としては面白くありません。元から強いメンタルを持っていた主人公がただひたすら虐待に耐えるだけの内容であり、そこにドラマがないのです。主人公、主人公に暴力を振るう看守、凄惨な現場を眺める他の捕虜達、これら全当事者の誰にも何の変化もなく、これでは残酷描写を売りにしたゲテモノホラーと大差ありません。 この点については、アンジーの個人的な思想が作品にとってマイナスに働いたように感じます。アンジーはいわゆる進歩的な文化人であるため、アメリカ万歳映画にはしないという意図を持って本作を製作したと考えられます。それゆえに、主人公の持つ愛国心という重要なファクターが丸ごと落とされているために、話の通りが悪くなっているのです。主人公はなぜ暴力に屈服しなかったのか、日本当局からの懐柔案にも乗らなかったのか。それは愛国心ゆえのものだったのに、アンジーはあくまで個人のドラマとして本作を製作したために、暴力を振るう側も振るわれる側も何やってんだかよく分からない内容になっているのです。 また、歴史映画でありながらリアリティの造成にも失敗しています。前述した東京大空襲やゼロ戦の描写など、表面的な事実を描くことには一定の成果を挙げている一方で、本編においては実際に起こったことならではの生々しさというものがないのです。例えば、渡邊伍長が狂人の如く振る舞っている最中に、他の日本人看守達は一体何をしていたのか。虐待に参加するでもなく、上層部に告発するでもなく、無味無臭でそこに存在しているだけ。こうした細かい部分に演出の目が向いていないために、全体としてリアリティを感じられない話になっています。
[インターネット(字幕)] 5点(2017-01-09 13:36:13)
843.  トリプル9 裏切りのコード
多数の人気俳優を持て余すことなくそれぞれから良質の演技を引き出しており、同じくスター共演作だった『欲望のバージニア』と同様に、ジョン・ヒルコート監督は良い仕事をしています。特に、マフィアのボス役を演じたケイト・ウィンスレットの迫力や凄みは非常に素晴らしく、彼女は作品の要としてきちんと機能しています。また、見せ場もかなりこだわって作り込まれており、強盗団がちゃんと優秀に見えていた点も評価できます。 ただし、各構成要素はよくできていても全体としては面白くなっておらず、映画としては残念な出来でした。ひとつひとつの構成要素は良いものの、量があまりに多すぎることと、それらを捌くには尺があまりに短すぎることからすべてがアッサリと流されている状態であり、もはや消化試合のような有様となっています。観客に何を感じ取って欲しいのかという観点から全体を構成し、描くものをより絞り込むべきだったと思います。 本作の山場は、トリプル9発動のために相棒・クリスを殺すことに決めたマーカスのドラマにあったと思います。当初は、まったくソリの合わない相棒なんてぶっ殺しても構わないと思っていたものの、その後ヒスパニック系ギャングとのいざこざを契機に仲良くなり、殺しづらくなってしまう。二人の関係性に焦点を絞れば映画に一本筋が通ったと思うのですが、残念ながら監督はこのドラマもアッサリと素通りしてしまいます。これは本当に残念でした。さらには、この部分を重視しなかった結果、一応は主演であるはずのケイシー・アフレックが居ても居なくてもどっちでもいいような状態となっています。これはさすがにマズイでしょ。
[ブルーレイ(吹替)] 5点(2017-01-07 21:01:27)
844.  グランド・ブダペスト・ホテル
監督のスタイルや美意識が全面に出ており、ドラマの高揚感やリアリティなどは意図して切り捨てられていることから、見る人を選ぶ作品だと言えます。そのビジュアルセンスの良さや、何か深いことを語っていそうなインテリな雰囲気から、「この映画が好き!」と積極的に言いたくなるようなオーラが漂っており、それゆえにウェス・アンダーソン作品には一流俳優がこぞって出演したがるのだろうと思うのですが、私にはピンときませんでした。
[インターネット(字幕)] 5点(2017-01-07 04:31:53)(良:2票)
845.  エリザベス:ゴールデン・エイジ
英国史に馴染みのない人にとってはハードルの高かった前作からは一転して、本作はアルマダ海戦という大きな山場に向かって一直線に走る内容だったので、かなり見やすい作品となっています。物語は徹底的にシンプルにまとめられており、エリザベス女王の苦悩を描き出すことのみに専念。さらには、王族出身者ならではの苦悩という特殊事情は控えめとし、仕事をバリバリこなしているもののプライベートでは孤独を抱える女性という切り口に徹して現代の観客にも共感可能なドラマを目指しており、観客にかなり配慮して作られた作品だということが伝わってきました。 しかし映画とは難しいもので、こうした配慮が概ね裏目に出ており、かえってドラマ性が薄まっています。イングランドを王族同士の婚姻を通じて飲み込もうと迫ってくる周辺諸国と、「結婚する気はございません」の一点張りでのらりくらりとかわすエリザベス。彼女が背負っていたものは現代のキャリアウーマンのそれとはまるで異なるため、これを大衆的な価値観で理解しようとすることにはそもそも無理があったのです。ここは定石通りに当時の国際情勢や、彼女の母・アン・ブーリンが辿った末路といった切り口から彼女の心情に迫る方が分かりやすかったはずなのに、おかしな形で一般化しようとしたためにかえって感情移入が難しくなっています。 また、ウォルター・ローリー卿と侍女・ベスとの三角関係にも、特に感じるものがありませんでした。自由に恋愛ができないエリザベスは、侍女の恋愛話を聞くことで自分自身の欲求をごまかしていたのですが、その侍女の一人がよりにもよって意中のローリー卿に手を出した。彼女からすればやってられない状況なのですが、前述した通り「なぜエリザベスは恋愛をしないのか」という政治的な背景が描かれていないために、パブリックな立場とプライベートな感情の間で板挟みになった彼女の苦しみがピンとこないのです。 当時の国際情勢が描かれていないため、山場となるアルマダ海戦にもさほどの興奮が宿っていません。弱小国だったイングランドが、世界最強のスペインから仕掛けられた喧嘩に受けて立って大勝利したというドラマチックな戦だったはずなのに、当時のスペインがいかに強かったかという煽りや、イングランド側が戦いを受けて立とうと決意するまでの過程、絶望的な戦力差の中でいかにしてアルマダを破ったのかという戦略面での説明などがことごとく抜け落ちているのです。これは勿体ないと思いました。
[ブルーレイ(吹替)] 5点(2016-12-26 19:08:31)
846.  エリザベス 《ネタバレ》 
父・ヘンリー8世と母・アン・ブーリンの愛憎劇を描いた『ブーリン家の姉妹』がなかなかの面白さだったので、その子・エリザベス1世の初期統治を扱った本作も連続で鑑賞しました。 いつ殺されてもおかしくない状況からの女王就任に、宗教問題で分断された国家の統合、王位簒奪を狙う周辺国家との駆け引き、国内最有力貴族による反逆未遂など、映画として面白いイベントてんこ盛りのエリザベス治世なのですが、これが実に盛り上がりに欠けるという残念な内容となっています。どうやら本作は当然に英国史を知っている人たちを対象として作られているようであり、各イベントについては観客の側で脳内補完してもらえることが前提となっているため、英語文化圏以外の観客にとっては各登場人物の行動原理が分かりづらい、大した煽りもなく大事がさらっと流されていくという不親切な仕上がりとなっています。 また、エリザベスのメロドラマが作品の横軸となっているものの、物語開始時点ですでにエリザベスとロバートとの関係性が出来上がってしまっているため、こちらも感情移入が難しくなっています。 美術や演技など見どころは多いものの、アカデミー作品賞ノミネートの割にはドラマ部分に力がなく、「名物に旨い物なし」を地でいくような仕上がりとなっています。
[DVD(吹替)] 5点(2016-12-05 15:29:18)(良:1票)
847.  クリムゾン・ピーク 《ネタバレ》 
おぞましくも美しい美術はさすがのデル・トロであり、十分に目を楽しませてもらいました。ティム・バートンの角がとれた今、このジャンルの先頭に立っているのはデル・トロであるということは間違いないようです。 ただし映画として面白かったかと言われると、それは微妙。物語の舞台がクリムゾン・ピークに移るまでに1時間もかかっている展開の遅さや、幽霊話と殺人事件がうまく絡んでいないという構成のまずさ。また、クリムゾン・ピークに移る前から主人公は怪奇現象を経験していることから、クリムゾン・ピークとおばけ屋敷のインパクトが相対的に薄まっているという点もいただけませんでした。おばけ屋敷ものにするのであれば、怪奇現象はそこでしか起こってはいけないと思います。 本作の制作にあたってデル・トロはキューブリックの『シャイニング』を意識したと言っており、確かに幽霊よりもキ○ガイの方が怖いというオチにはなっているものの、閉鎖空間でキ○ガイと過ごさねばならないことの恐ろしさの描写がいま一歩足りていません。ルシールが絶対的な強者ではなく、かつ、イーディスが絶対的な弱者でもなく、それどころか二人の間にいるトーマスはどちらかと言えばイーディス側に寄っているため容易に逆転可能な勢力図になっていることがその原因であり、そのために主人公側の絶望感が絶対的に不足しています。 そのトーマスはトーマスで、煮え切らない態度をとるのでイライラさせられます。敵は姉一人であり、男が本気を出せば力で押さえ込むことは容易なはずなのに、彼がウジウジと悩んでいる間に状況がどんどん悪化していくのだから困ったものです。真相に気付いて屋敷までやってきたアランを殺したと見せかけて実は急所を避けていましたという偽装工作にも、一体何の意味があったのかわかりません。あの場でトーマスとアランが力を合わせてルシールを押さえにいけば誰も死なずに済んだはずであり、彼の不合理な行動の数々が映画のテンションを下げています。 あとお母さんの幽霊、ヤバそうな雰囲気で登場して「クリムゾン・ピークに近づくな~」となぞなぞみたいな警告の仕方をしないでね。あれでは絶対に伝わりません。「結婚詐欺に気を付けて~」と言えばよかったのに。
[インターネット(字幕)] 5点(2016-11-11 12:29:29)(良:1票)
848.  最強のふたり
異色コンビの物語であれば「反発→共感→対立→和解」というプロセスを辿ることが一般的なのですが、本作が特殊なのはドラマにそうした起伏がほとんどないことであり、主人公二人に人間的なぶつかり合いはなく、喧嘩のひとつもしません。後半にて二人は一旦離れることになるものの、それにしても二人の関係性を揺さぶるような深刻なトラブルがあったわけではなく、「ドリスにも家族や生活があるのだから、住み込みでの介助はそろそろ限界ですね」という中でお互いに空気を読み合った結果の判断であり、それは円満退社のようなものでした。 本作に唯一あった山場とは、障がい者としての姿を見せずに関係性を維持できていた文通相手の前にフィリップが今の姿を見せるかどうかというものでしたが、それにしても大した葛藤が描かれるわけではないので見ごたえに欠けました。押しつけがましさを徹底的に排除した作風には好感を持つものの、やはり一波乱くらいはないと映画としては盛り上がらないのです。また、以下の点も気になったのでドラマへの没入感も低くなりました。 ・フィリップは、ドリスの何が気に入って採用したのかが分からない。面接時点では無資格・無教養で言葉遣いの悪い盗っ人でしかなかったんだし。 ・フィリップがさほど気難しそうに見えない ・ドリスが来る前から屋敷にいたイヴォンヌやマガリーがフィリップの性格に手を焼いている様子がなく、また、彼女達もサバサバとした性格でフィリップに対して過度な遠慮をしている様子がないために、フィリップとその周囲の人たちがドリスのような変化球を求めていたという背景が弱い。 ・ドリスがフィリップから与えられたものは豪邸での生活や高級車の運転といった金銭面での驚きのみであり、人格面での影響を受けていないことから下世話な内容になっている。さらに、介護のめんどくさい点、見栄えの悪い点が端折られていることもあって、途中から王様に雇われた道化の話に見えてしまう。
[インターネット(字幕)] 5点(2016-11-11 12:28:17)
849.  キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け 《ネタバレ》 
還暦過ぎているにも関わらずリチャード・ギアがとにかくかっこよく、年齢が半分の愛人を夢中にさせていることにもまるで違和感がありません。さらには、百戦錬磨の経営者らしい落ち着きや、いざとなればダーティな手段も厭わないという老練ぶり、家に帰れば良い家庭人であり、孫からも慕われている優しいおじいちゃんぶりなど、「これが同一人物なのか」と思うほど幅の広い役柄を違和感なくこなしており、ギアの良いところがたっぷり詰まった作品となっています。 ただし、リチャード・ギア以外の部分の出来があまり良くないのが困ったところで、映画としてはそれほど面白くありませんでした。何不自由ない金持ちに見えるギア社長も実は投資で会社の財政に大穴を空けており、粉飾がバレれば全財産を失う上に刑務所にも入らねばならないというギリギリの状態にいます。そこで彼のとった行動が、問題が明るみに出る前に会社を銀行にM&Aさせようというものでしたが、ここがよく理解できませんでした。M&Aさせるのであれば買い手企業からのデューデリジェンスを受けるはずであり、その過程で隠したい粉飾決算が明るみに出るおそれがあります。粉飾をしているのであれば自力で穴を埋めにいくべきであり、そんな状態でM&Aなどちょっと考えられません。 また、愛人を交通事故死させた件が本編とうまく絡んでおらず、ここだけが別の映画のように見えていることもマイナスでした。さらには、主人公を追いかける刑事がコロンボや古畑任三郎のような腕利きかと思いきや、パラノイア的に金持ちを恨んでいるだけの小物であり、証拠偽造というアホな手段をとって自爆してくれるために、こちらのパートも盛り上がりに欠けました。 唯一面白かったのは、自分の娘が担当する部門に粉飾を押し付けていることであり、親の名前で会社に入っている娘や息子では能力的にも技術的にも未熟で粉飾に気付かないだろうという主人公の魂胆を興味深く感じました。彼は確かに良き家庭人であり、子供達を愛しているものの、ビジネス面では二世の能力を低く評価しているというシビアな面がここから窺えます。
[インターネット(字幕)] 5点(2016-11-07 00:10:35)
850.  ガンズ&ゴールド 《ネタバレ》 
華のある役者が出ているし、テンポは良いし、見せ場は面白いし、さらっと見られる娯楽作としては仕上がっているものの、鑑賞後には何も残らない薄味映画でした。 本作の主題は信頼関係であり、主人公は親分と慕うベテラン犯罪者からは「女を信用するな。犯罪者はたいてい女で失敗する」と言われ、他方で彼女からは「あなたの親分はあなたを利用するだけして、必要なくなれば捨てられるわよ」と言われます。主人公がどちらを信じるべきなのかという葛藤を描けば面白いドラマになったと思うし、両者に対して疑心暗鬼に陥ればサスペンスとしての一山も作れたと思うのですが、そのどちらにも振り切れていないために主題がほぼ死んでいます。さらには、「愛こそ正義」という甘々なオチの付け方も犯罪映画には似つかわしくなくて、もうひと捻り欲しいところでした。 芸達者なユアン・マクレガーは今まであまりやってこなかった役を無難にこなしているものの、実年齢の割に若々しさの残るマクレガーには終身刑を食らうほどのベテラン犯罪者に必要な凄みや、内に秘めた凶暴性が不足しており、もし主人公が彼を裏切れば何をされるか分からないという怖さが表現できていません。ブレイク直前のアリシア・ヴィキャンデルはかわいくて綺麗でおっぱいまで出してくれるので最高なのですが、こちらも裏社会に生きる女特有の手強さを表現できていません。若い観客向けのライトな犯罪映画を目指していることはわかるのですが、怖い人が一人も配置されていないのでは雰囲気が出ません。
[インターネット(字幕)] 5点(2016-10-27 23:10:16)(良:1票)
851.  GONIN 《ネタバレ》 
90年代は日本映画が海外で賞を獲りまくる一方で観客がまるで入らず、良くも悪くも映像作家達が野放しにされていた時代なのですが、そんな時代を象徴する作品のひとつが本作です。豪華キャストを投入した全国公開作品でありながら作りは驚くほど粗削り。石井隆作品らしく印象的な場面が多くて映画全体にパワーと勢いが溢れている反面、監督が興味を示さないパートについてはかなり強引な省略がなされており、唐突な展開が目立ちます。 例えば、根津甚八演じる氷頭と家族の関係。中盤にてヒットマンに家族を殺されたことから氷頭はヤクザに対して弔い合戦を挑むこととなるのですが、その前段階において家族と氷頭との関係性を見せる描写がほとんどないために感情的な盛り上がりを逃しています。それどころか、家族が殺された瞬間にも氷頭は何らの感情も表さず、仲間と合流した後にも家族の死という重大事件に一切言及しないことから、見ている私は「あれ?家族は無事だったの?さっき殺されたのは家族以外の別人だったっけ?」と混乱してしまいました。通常の映画文法ならば当然あるべき描写が足りていないため、本来は簡単なはずの話がひどく分かりづらくなっています。 また、この頃の邦画は録音が悪いのかセリフが聞き取りづらい点もマイナスでした。せっかく素晴らしいバイオレンス描写があるのに、説明不足なお話と聞き取りづらいセリフのせいで興が削がれたことは残念でした。
[インターネット(字幕)] 5点(2016-10-25 17:44:27)
852.  スター・トレック/BEYOND 《ネタバレ》 
IMAX 3Dにて鑑賞。前作『イントゥ・ダークネス』に続いて3D効果を実感しやすい見せ場が多く、3D料金を払うだけの価値はありました。 ただし、内容の方は難ありです。JJエイブラムスが『スター・ウォーズ』の引き抜きに遭って監督選びが難航した新シリーズ第3弾ですが、娯楽作の経験豊かなジャスティン・リン(ここんとこの大作の監督候補にはとりあえず彼の名前が挙がる)という人選が本作では裏目に出ていました。彼の演出は常にせわしなく、じっくり見せて欲しい画を全然見せてくれないのでSF向きではないのです。例えば宇宙基地ヨークタウンなんて実に素晴らしいデザインだったのに、その全体像が見られるのは登場場面のほんの10秒程度。もったいない限りです。戦闘に入るとさらに画面は忙しくなり、もはや誰が何をやっているのかがサッパリわかりません。危険区域にいるのは誰で、その人はどっちを目指さなければならないのかという基本的な情報すら伝わってこないため、スリルも何もあったもんじゃないのです。 お話の方もイマイチです。無軌道な生き方をしていたカークが宇宙での仕事に生き甲斐を見出した前々作、大失敗の後にリーダーとしての本分を見出した前作と、本シリーズはカークの成長物語でもあったのですが、本作ではその要素が弱いために作品を貫く主軸を失っています。一応は、長い航海に飽きが来て転属を希望してたけど、いろいろあってまた仕事の楽しさが分かりましたって話はあるものの、大事なエンタープライズを破壊され、多くのクルーを殺害され、しかも敵は自分自身の将来像かもしれないという鬱展開の多かった今回の冒険でどんな楽しみややりがいを見出したんだよと思ってしまいました。これだけの災難を経験すれば、普通は艦長辞めたくなるでしょ。話の内容とドラマの方向性が一致していないため、こちらでも感じるものが少なくなっています。 また、今回は敵も微妙。「実はジャミラでした」というクラールの正体が明かされた瞬間だけはちょっと面白かったものの、連邦が生み出したテロリストという設定は前作のカーンと重複しているためにその存在意義は薄くなっています。また、終盤まで彼の正体を隠していたために、劇中のほとんどの時間においてその行動原理が不明であったことも作品のテンションを落とすことに繋がっており、監督や脚本家の意図が悪い方向に出てしまっているように感じました。細かい点をつっこむと、中盤にてカーク達が拠点として使用していたUSSフランクリンは敵に場所を知られていないということになっていたものの、そもそもクラールがフランクリンの艦長だったのならその場所を知らないはずがなく、なぜ彼はフランクリンを攻撃しに行かなかったのかと不思議に思いました。 「スタートレックは偶数回が当たり回、奇数回が外れ」と言われていますが、その伝統通り、今回はハズレ回でした。ただし、次回は傑作になるはずなので、新作が出ればまた見に行きます。 それはそうと、前作で意気揚々とエンタープライズクルーになったアリス・イヴは一体どこへ消えたんでしょうか。
[映画館(字幕)] 5点(2016-10-21 22:59:02)(良:4票)
853.  ジェイソン・ボーン 《ネタバレ》 
IMAXにて鑑賞。 『アルティメイタム』で綺麗に終わった話をどうやって再開するのかという点が鑑賞前の不安だったのですが、案の定、完成した作品は語るべき物語を見失って迷走していました。ジェイソン・ボーンのアイデンティティを探る話はまだまだ続くのですが、シリーズ継続のために捻り出された後付けの設定があまりにご都合主義的なので醒めてしまいます。『24』もそうでしたが、エージェントもので実は父親も陰謀に関わっていたという話を出し始めると、いよいよお終いですね。 国家が作り出した殺し屋というものを見たことがある人はほとんどいないため果たしてそれがリアルなのかどうかは分からないが、少なくとも「殺し屋とは、きっとこんな感じなんだろう」と思わせるような説得力ある描写こそがボーン3部作の魅力でした。地下鉄を脱線させろとか、大爆発を起こせとか言ってくるスタジオと喧嘩しながら堅実な作風を守ったダグ・リーマンが本シリーズの基本路線を作り、ポール・グリーングラスがそのスタイルを継承発展させることでボーン3部作は本物志向のアクション映画の太祖となったのですが、一転して本作は『ボーン・アイデンティティ』が登場する前の単純な爆破アクションに先祖返りしています。観客を楽しませたいというサービス精神は理解できるものの、ド派手になりすぎた見せ場にはもはや生身の人間が闘っているという感覚が残っておらず、見せ場が派手になればなるほど手に汗握らなくなるというアクション映画の典型的な衰退サイクルに入っています。クライマックスのカーチェイスなどは『ワイルド・スピード』の新作のような有様であり、本シリーズのファンが求める見せ場からはかけ離れています。そういえば、『ボーン・レガシー』続編の監督にジャスティン・リンが起用されたという話が一時期ありましたが、結果的にボツとなったその企画で考えられていたカーチェイスがそのまんま本作に流用されたのではないか。そんな邪推を生むほど、クライマックスのカーチェイスはシリーズ全体の雰囲気から浮いていました。 見せ場のインフレとともにジェイソン・ボーンはさらに超人化。パンチ一発で格闘家を気絶させるほどの格闘スキルに、プロのレーサーをも超える反射神経とドライビングテクニック、スリのような小手先の技に、電気配線に細工をする技術と、もはや何屋さんなのか分からないほどの多才ぶりを披露します。殺し屋みたいな潰しの利かない職業なんかにはつかず、何かひとつでも特技を極めていればその道で食えていたんじゃないかと思うほどの器用さであり、その多才ぶりゆえに殺し屋というそもそもの設定が没却してしまっています。これもやりすぎでした。 また、敵エージェントとの関係も変質しています。悪いのはラングレーのオフィスにいる上層部であり、現場のエージェントはただその指示に従っているのみ。命を狙われてもボーンは敵エージェントを恨んでいないし、殺し合いを演じつつも互いに敬意を払い合うエージェント同士の武士道のような関係性こそが本シリーズの熱さに繋がっていました。また、そうしたエージェント達の姿がエンディング曲”Extreme Ways”の歌詞と見事にシンクロしていたのですが、一方本作のエージェントは私怨剥き出しでボーンに襲いかかってくるため、戦いの意味合いがかなり変わっています。私としては、従前のエージェント達のプロフェッショナル道が好きだったため、この変更を良いとは思いませんでした。 国家によるSNSの監視や諜報機関OBによる機密情報漏洩などの時事ネタを出してきているものの、こちらもジェイソン・ボーンの物語とはうまく絡んでいなくて不発に終わっています。アクション映画としては及第点ではあるものの、待ち望まれた『ボーン・アルティメイタム』の続編としては期待外れな出来だったと言えます。
[映画館(字幕)] 5点(2016-10-08 03:16:24)(良:2票)
854.  コン・ティキ
ノルウェー映画史上最高額の製作費をかけ、本物の海で撮影することに拘ったというだけあって、映像の説得力が違います。また、要所要所ではVFXも使用されているのですが、こちらについても実際の風景との境目がまったくわからないという凄まじいレベルに達しており、よくぞここまでの映画を作ったものだと感心させられました。ビジュアルに関しては完璧であり、本作の監督達が同じく海洋映画である『パイレーツ・オブ・カリビアン』新作の監督に抜擢されたことにも納得がいきます。 ただし、残念ながら内容の方はビジュアルに追いついていません。コンティキ号漂流記を知った人の最大の関心事は、いつ死んでもおかしくない状況下で100日間も大海原を漂流するという大変なストレスをクルー達はどう乗り切ったのかという点だろうし、オスカーを受賞した1951年のドキュメンタリーも存在する中であえてドラマ作品として映画化することの意義は、クルー達の内面描写を充実させることにあったと思います。しかし、本映画化企画はクルー達のドラマをあっさりと流してしまうため、どうにもピント外れな内容となっているのです。このままではイカダが分解して全員死ぬから金属製のワイヤーで船体を固定させてくれと言うエンジニアに対して、航海技術に係る知識のないヘイエルダールが「説立証のためには古代になかった素材は一切使えない」と狂気に近い主張をしてワイヤーを海に投げ捨てるくだりなどは、掘り下げればかなり面白くなったと思うのですが。このあっさり感については、死去するまではヘイエルダール自身も映画化プロジェクトに関わっていたことから実在の登場人物達を悪く描けなかったという制約条件が働いたためだと推測されますが、保守的な描写を選択したために映画化企画そのものの意義が没却したのでは元も子もありません。 クルーは冷蔵庫のセールスマンに無線技士にドキュメンタリーのカメラマンと海の素人揃いで、当のヘイエルダールに至っては幼い頃の事故のトラウマから水恐怖症で泳げないというポンコツチーム。結果から振り返ると、専門家なら絶対にやらないような無謀な航海に無知ゆえの大胆さで挑戦してみたらたまたま成功したという話であり、ならば本作はクルー達の準備不足や不見識を見せることで観客の緊張感を煽るという方向性を志向してもよかったと思うのですが、この航海の困難性の煽りなどが不足しているため、気が付けば目的地に到着しておりましたという感じで冒険映画としても大きな山を作り損ねています。さらには、起こる危機が鮫関係ばかりという点も作品の単調さを助長しており、総じてイベントの詰め込み方が甘いように感じます。
[インターネット(字幕)] 5点(2016-10-07 15:41:31)
855.  ラスト・ナイツ
中世ヨーロッパと思われる国が舞台ではあるものの、アフリカ系、東洋系、中東系、果てはマオリ人までが入り乱れるという多国籍ぶりであり、リアリティとは一線を画した世界観で繰り広げられる時代劇。ただし、監督が日本で製作した2作品のような荒唐無稽な映像表現はなりを潜め、リドリー・スコット作品のような重厚な時代劇として仕上げられており、少なくともルックス面は完璧です。この監督さんは意外と引き出しの多い人なのだと感心しました。 問題は、キャラクターへの感情移入が難しいこと。モーガン・フリーマン演じるバルトーク卿は年齢の割には向こう見ずな性格で、ロクな策もなしに権力者に盾ついて家族も家来も不幸にするのだから、愚かにしか見えません。憎まれ役たるギザ・モットは分かりやすい悪役に徹しているものの、その人物造形にまるで深みがないために、なぜこいつが皇帝から一定の信頼を得て重職を担わされているのかがわかりません。両者には、もっと頭を使わせた方がよかったように思います。 また、日本人にとっては当たり前すぎて気にしたことのなかった忠臣蔵という物語の欠点も、設定と舞台を変えたことから露わになってしまいます。領主を失ったライデン隊長以下騎士団の面々は1年以上をかけて復讐の段取りを整えるわけですが、なぜそんなことに労力を費やしているのかが途中から分からなくなるのです。特にライデンは、残された主君の家族や部下達を不幸にしないよう新生活の構築に全力を挙げるべきなのに、復讐という後ろ向きな目的に突き進むものだから、次第にこちらも愚かに見えてくるのです。 序盤にて、主君と騎士との精神的な繋がりをもっと克明に描いておくべきだったし、騎士という立場を失えば彼らは生きる意欲までを失い、社会にとって有害な野良騎士になるおそれがあったことからライデンは彼らに復讐という目標を与え続けた等の合理的な背景も欲しいところでした。
[ブルーレイ(字幕)] 5点(2016-08-10 13:26:46)
856.  白鯨との闘い 《ネタバレ》 
原作、メルヴィルの『白鯨』ともに未読です。 職業映画を撮らせるとピカイチのロン・ハワードが監督しただけあって、19世紀初頭の捕鯨船の様子が描かれる前半部分はかなり面白くできています。また、エリート家系出身ではあるが経験のなさゆえに見栄を張りたがる船長と、身分は低いものの叩き上げで船員達からの信頼も厚い一等航海士との対立などは月並みながらもよくできており、見せ場、ドラマ、ともに充実しています。 ただし、海難事故を経て漂流が始まる後半になると、作品のテンションは一気に落ちます。職人的な航海士達が知恵を出し合って難局を乗り切るのではなくただ潮に流されているだけなので、ロン・ハワードが得意とする職業映画という領域から外れてしまうのです。飢えの中で人肉に手を出すという展開も作り手が意図するほど衝撃的ではなく、これだけ何もなければ仲間の肉を食うしかないでしょとしか感じませんでした。もっと容赦のない描写ができる監督が撮っていれば後半パートの訴求力はより強いものになったと思うのですが、ロン・ハワードでは無難にまとまり過ぎたように感じます。
[ブルーレイ(吹替)] 5点(2016-08-10 00:43:48)(良:1票)
857.  ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]
劇場公開時に一度見たきりのまま、私の心には特に何も残らず忘却の彼方に去っていた本作ですが、2015年のリブート版が良くも悪くも異形の大作となっていたことから、本作の出来がどうだったかが気になって10年ぶりに再見しました。 2005年当時にアメコミ実写化作品の成功作と言えば『X-MEN』と『スパイダーマン』くらいのもので、『アイアンマン』も『ダークナイト』もまだなかった時代。そんな時代に製作された本作には小難しい主張やリアリティへの目配せなどほとんどなく、高い再現度でコミックを実写化するという方向性のみで製作されています。顔だけはヨアン・グリフィスのゴム人間がびにょーんと伸びる様などは相当に素っ頓狂なのですが、お話しの方もマンガレベルなので一連の描写にも特に違和感を覚えず、物語とヴィジュアルがうまく調和しているものだと感心させられました。当時、世界一セクシーな女性だったジェシカ・アルバのお色気ギャグなども見事にハマっており、マンガ映画として求められるレベルには十分に達しているのです。 ただし、何かひとつでも大人の鑑賞に足る要素があれば良かったのですが、そうしたものが皆無であることが作品のリミッターになっています。手の込んだ仮装大会レベルにとどまっているために100分という上映時間が無駄に長く感じられるし、鑑賞後に何も残るものがありません。
[DVD(吹替)] 5点(2016-08-08 20:07:44)
858.  レッド・ライト 《ネタバレ》 
アメリカの大槻教授みたいなシガニー・ウィーバー演じるマーガレット・マシスンが自称霊能力者・超能力者達のウソをばっさばっさと切って回る前半は非常に面白いのですが、中盤で彼女が謎の死を遂げ、主人公がキリアン・マーフィー演じるトム・バックリーに切り替わった辺りから、映画は急激に失速します。後半より科学者が超常現象としか考えられない現象に巻き込まれ始め、「科学vs超能力者」という前半の図式が崩れるのですが、この転換が意図したほど観客の興味を引きつけられなかったという点に監督の誤算があったと思います。 よくよく考えてみれば本作の脚本はよくできています。観客に主題を誤認させることでラストのどんでん返しを鮮やかに決めてくるのですが、見事に伏線が張られているため「ズルい!」とは思わせません。また、ヒールであるサイモン・シルバーについても劇中では合理的な説明がなされています。「超常現象を訴える人間には二つのタイプがある。神が宿っていると本気で信じ込んでいるタイプと、騙してもバレやしないだろうと高を括っているタイプだ」というセリフが、まさにシルバーの本質を説明しているのです。シルバーはニセモノなのですが、劇中ではトムが起こす本物の超常現象に何度か巻き込まれており、本来であればここで矛盾が生じてしまいます。本物の超常現象を体験した時点で、ニセモノは退場しなければならないのです。しかし、先のセリフに当てはめればシルバーは自分を本物だと信じ込んでいるタイプであり(ペテンの部分は、素人目にも分かりやすくするための演出とでも割り切っているのでしょう)、巻き込まれた超常現象は自分の力によるものであると彼の中では処理されたのです。だから彼は退場しなかったし、それどころかより自信を深めて科学者による研究への協力も買って出るようになった。この辺りのロジックの組み方は、本当に見事なものだと思いました。 さらに、超能力・霊能力に対する作品全体のスタンスも非常に良心的であり、前半部分ではインチキを暴いて回りながらも、「本当にそのような能力があれば人を幸せにできるのに」というポジティブな見解も後に示しており、ワンサイドに立って頭ごなしに否定しない点が作品に深みを与えています。マーガレットもトムもホンモノを探し求めているのだが、ホンモノを見極める過程がニセモノを追い詰める結果に繋がっている。こうした点で、作品の主題と人物設定を見事に融合させているのです。本当によくできた脚本だと思います。 問題は、超常現象に巻き込まれ始めたトムを通して「超常現象は実在するのかも」と観客に思わせることができなかったという演出力の弱さでしょうか。その原因はふたつあって、ひとつはトムの内面描写が不十分だったため、観客が彼のドラマに乗り切れていなかったこと。もうひとつはシルバーが終始ペテン師にしか見えなかったため、一連の超常現象は彼が引き起こしたものであるという推測を観客の頭の中で生み出せなかったことにあります。 また、基本的にはよく考えられた脚本であるものの、不思議なことに細部を詰め切れていないため、おかしな点が余計に目立っています。超能力研究機関の責任者らしきシャクルトン博士は、マジシャンがやるような簡単なトリックも見抜けないほどのバカだし、長年超能力を専門に研究していればうんざりするほどニセモノを見てきているはずなのに、なぜか超能力に対して肯定的な立場を崩さず、彼の思考についていけないのです。シルバーの真贋を確認する実験においても、彼が盲目ではないという最大のトリックを信じ込んでいるし(真っ先に疑うべき点でしょうが)、私物の腕時計を着用させたまま実験してまんまと騙されており、科学者としてあまりに無能で参ってしまうのです。ペテンであることを暴かれそうになったシルバーがトムを殺そうとするくだりについても、まさに自身の公演真っ最中の会場のトイレで、武器も使わず素手で殴り殺そうとするとか、もうバカかと。作品では明確にされないものの、オチから遡れば30年前にジャーナリストを殺害したのも、マーガレットを殺害したのもシルバーであると考えられるのですが、過去2件の殺人が他殺とも判断されないほど周到だったことに対して、トム暗殺がなぜここまで杜撰なんだと不思議になります。 あと、エンドクレジット後の映像がサッパリ意味不明。この手の暗示は、効果的にやれば解釈の幅を生んで観客に考える楽しみを与えてくれるのですが、正常な読解力をもってしても何だか分からんというレベルでこれをやられると、作品全体に対する印象を悪くしてしまいます。
[インターネット(字幕)] 5点(2016-07-26 20:30:15)(良:1票)
859.  マイ・ブラザー 哀しみの銃弾 《ネタバレ》 
ウォンビンのドラマに、トビー・マグワイアが戦場でおかしくなる話と、『マイ・ブラザー』と邦題の付けられた作品は複数あって非常にややこしく、安直な邦題をつけたがる日本の配給会社には文句を言いたくなります。原題は血縁を意味し、お互いにとって不都合な存在ではあるが、血縁がある以上は逃げることもできない兄弟の愛憎関係が本作の主題となっているのですが、温かみのあるドラマを連想させる邦題はその趣旨からも外れているように感じます。 兄・クリスはかなりのクズ野郎です。ほっとけば社会復帰は絶望的な兄のためにと、弟・フランクが社会的なリスクを冒しながらも住まいと仕事を手配してくれたのに、感謝の気持ちはまったくなし。それどころか、地道に働かねばならない堅気の仕事にはすぐに嫌気がさして辞めてしまい、大した葛藤もなく犯罪者の道に戻っていきます。さらには、警官として一定の社会的信用を持つフランクを自身のアリバイ作りに利用し、無自覚な弟に犯罪計画の片棒を担がせて警官を辞めざるをえない状況にまで追い込んでしまいます。 本作の問題点は、クリス役をクライヴ・オーウェンが演じているためマイケル・マンの映画にでも出てきそうな職人的な犯罪者に見えてしまい、設定ほどのクズ野郎とは感じられないことです。クズ野郎のクリスが、最後の最後で弟のために服役覚悟の人殺しをすることが作品の山場だったと思うのですが、クライヴ・オーウェンがかっこよくてクズ野郎に見えなかったために、この点がアッサリと流れてしまいます。 フランス映画のリメイクであるためかヨーロッパ風にまったりやりすぎて、観客を引っ張るだけの大きな流れを作り出せていない点も不満でした。感情の大きな起伏があるわけでもなく、視覚を楽しませる見せ場があるわけでもなしで、2時間が淡々と進んでいきます。さらには、完成作品を見る限りではミラ・クニスやジェームズ・カーン絡みのエピソードが大幅に切られている様子であり、一部のドラマがうまく流れていないことも問題でした。
[インターネット(字幕)] 5点(2016-07-04 11:49:59)
860.  ラストミッション
ベタな中規模アクション映画に意外性あるキャスティングで特色を出すヨーロッパコープによる作品ですが、今回はケビン・コスナーに手を出しました。90年代後半からの長い低迷期を経て『マン・オブ・スティール』や『エージェント・ライアン』等の大作映画に助演し、全盛期とは違った魅力で再起を果たしたコスナーを主演に迎えての作品ですが、本作でコスナーは抜群の渋さとかっこよさを披露しています。美貌がピークに達していた20代後半のアンバー・ハードと並んでもまったく見劣りしないほどの色気を発し、見せ場での身のこなしは華麗。さらには軽妙なコメディもこなしており、かつてハリウッドのトップにいたコスナーは、歳をとってもなお輝きを保っています。映像派のマックGはそんなコスナーの魅力を十二分に引き出すことに成功しており、スター映画としてはほぼ満点の仕上がりではないかと思います。 問題は、映画としてまったく面白くないということ。コメディを志向した作品であるにも関わらず笑える場面は少なく、スパイ映画としてのスリルは皆無。冒頭をピークに見せ場のテンションは下がる一方であり、印象的な見せ場が皆無というアクション映画としては何とも寂しい状況となっています。 また、設定と物語が整合していない点も気になりました。主人公イーサンがパリでのミッションを命じられたのは、正体不明の大物テロリスト・ウルフの顔を見た可能性があるという理由からでしたが、物語ではウルフの方から勝手にパリへやってきて騒動を起こしてくれるため、そもそもイーサンがこの暗殺ミッションに就いた理由が没却しています。また、イーサンをリクルートしたヴィヴィは病身のイーサンにミッションを任せっきりであり、本当にウルフを殺す気があるのか疑わしくなってしまいます。テロリスト側の殺し屋がイーサンの娘の写真を持っていたことから家族を人質にでもとられるのかなと思いきやそんな展開はないし、ウォッカを飲むことで薬の副作用が軽減されるという特異な設定も本筋にはまったく絡んでおらず、脚本は行き当たりばったり、支離滅裂で安定していません。 家族のドラマとしても月並みであり、特に感動的なものはありません。ヘイリー・スタインフェルドとコニー・ニールセンという贅沢なキャストを揃えながらも定番の域を出ないやりとりに終始するため、こちらでも拍子抜けしました。
[インターネット(字幕)] 5点(2016-06-27 17:39:42)
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