941. 憂鬱な楽園
ホウ・シャオシェン監督としては珍しい「現代」を舞台にした作品。 彼の作品といえば、「過去」や「想い出」を映像化したものがほとんである。 「現代を舞台にした作品を撮るのは苦手」と、ホウ監督自身もインタビューの中で語っている。 実際、彼の作品の中で広く一般的に評価を受けている作品は、「過去のある時代」が舞台となったものばかりだ。 逆に現代を扱った『珈琲時光』などは、高い評価を受けているとは言い難い。 (もっとも、私が一番好きなホウ監督の作品は『珈琲時光』だが。) 「現代の東京」を描いた作品が『珈琲時光』ならば、「現代の台湾(台北)」を描いたのが本作だ。 私としては期待しないわけがない。 本作の撮影担当は『夏至』のリー・ピンビン。 クリストファー・ドイルの映像も個性的で大好きだが、リー・ピンビンの映像もそれに勝るとも劣らないくらい素晴らしい。 リー・ピンビンの撮る映像はドイルと比べれば控えめな印象はあるものの、透明感があって瑞々しさに溢れており、とても美しい。 “熱帯の緑鮮やかな台湾をリー・ピンビンが撮っている”というだけで観る価値のある作品である。 そして音楽。 メニュー画面にも流れている、この作品の「テーマ曲」がある。 その他、車で郊外へ飛ばすシーンや、バイクで山をぐんぐん登るシーンなどで使われている。 テクノ調の曲なのだが、本作を見終えた後もかなり耳に残っていた。 元々、テクノ調な曲が好きってのもあるけど、テーマ曲に関してもかなり気に入った。 映像と音楽が自分の感性とぴったり合っていて、観ていてとても心地良かった。 途中、「置時計」がかなり長い時間をかけて撮られているシーンが出てくる。 ストーリーとは全く関係のないワンシーンなのだが、とても透明感があって美しかった。 それも印象的だ。 しかし、ストーリーはなんてことはない。 だらだらと台湾のチンピラの生活が描かれているだけだ。 でもそんなことはどうだっていい。 ホウ監督の映画でストーリーを追ったっていいことはない。 台北の夜景、熱帯の緑鮮やかな風景、美しい置時計に、美しい女性歌手、そして強引に挿入されるテクノ音楽。 そしてそれらとコラボするリー・ピンビンの創り出す映像世界。 そういったものを楽しむべき作品である。 [DVD(字幕)] 7点(2007-09-01 21:30:25) |
942. サヨナラ COLOR
《ネタバレ》 新文芸坐の「気になる日本映画達〈アイツラ〉2005」に本作が含まれていたので行ってみた。 竹中直人の監督5作品目にあたるラブストーリー。 ヒロインは、竹中直人がプライベートでも憧れていたという原田知世。 竹中作品は、今まで『無能の人(1991)』『119(1994)』『東京日和(1997)』の3作品を観てきた。 その中でも、本作『サヨナラCOLOR』は、自分的に一番のお気に入り作品となった。 世評では、“竹中直人の独りよがり的な映画”という厳しい意見も聞かれたが、私はむしろその点が気に入ったのだ。 癌におかされた未知子(原田知世)は、かつてのクラスメートだった正平(竹中直人)の病院に入院してくる。 そこで彼女の主治医となったのが正平だった。 だけど彼女は彼のことを憶えていないと言う。 学生時代からずっと想いを寄せていた正平はそれを聞いてショックを受けるが、学生時代には相手にもされなかったクラスのマドンナと、こうしていつでも話しができるのが嬉しくてたまらなかった。 そして日ごと打ち解け、手術前には逆に彼女からのプロポーズを受けたのだった・・ しかし実は正平も癌だった。 そして彼女を熱心に診たがために、命を落とすことになる。 悲しさに涙を流す未知子。 かくして、未知子にとって正平は永遠の存在となったのだ。 これはまさに男にとっての理想の死に方である。 自分がずっと憧れてきた女性に最後はプロポーズされ、そして死んだ後も彼女の心の中にずっと存在し続ける。 だけど、残された女性の立場からすればたまったもんじゃない。 せっかく好きになったと思ったら、先立たれてしまうのだから。 ずっとこれから彼の面影を背負っていかなければならないわけだし。 この日、同時上映された作品が『トニー滝谷』という作品だった。 この作品は本作とは全く逆で、“愛する女性を失い、その面影をずっと追い続ける男”の話だ。 女性の方に勧められて観たのだが、辛いだけであまりいい印象は残らなかった。 女性にとってはいい映画にうつるかもしれないけど、男の私からしたらあまりに切なすぎて後味が悪すぎるのだ。 『サヨナラCOLOR』と『トニー滝谷』という、男女の立場が全く正反対な作品を同時上映。 このスケジュールが意図的に組まれたのだとしたら、“新文芸坐恐るべし”だ。 [映画館(邦画)] 7点(2007-09-01 21:28:39) |
943. 太陽に灼かれて
ロシア人監督、ニキータ・ミハルコフによる1994年の作品。 主要人物“コトフ大佐”を監督自らが演じ、その娘役も監督の実の娘が演じた。 最初はその事実を知らないで観たので、父娘の自然で爽やかな演技に驚いたが、実の父娘なら確かにうなずける。 これがもし赤の他人同士だったら、この娘役を演じた天才子役にさぞ驚いたであろう。 しかし、それを考慮に入れたとしても、この子役の演技は素晴らしかった。 自分の中では、『ミツバチのささやき(1973)』や『都会のアリス(1973)』の子役に並ぶ、“ベスト オブ 天才子役”となった。 ストーリーが仮にどうであったとしても、この子役と父とのやりとりを観ているだけで、感動したに違いない。 尺についてだが、136分と少し長め。 しかも前半部分は、後半の悲劇との対象性を強調するが為に、村の穏やかで平和な日常をかなり時間をかけて描いている。 その為、観ていて少し退屈になってしまった。 ただ中盤からは、どんどん話に吸い込まれいった。 後半の悲劇性を体現する上で、前半の演出は必要だったのかもしれないが、後半が良かっただけに少しもったいないと私は感じた。 全体的にもう少しコンパクトなら、みんなに堂々と勧められる名作だったのだが、全体の長さがかなり観る者を選んでしまうだろう。 ゆっくりとした展開と130分を超える尺が気にならない「戦争悲劇・ヒューマン・ラブストーリー好き」の方に向いている作品だ。 それにしても、「平和な雰囲気」の前半部分と、「戦争の残酷さとシビアさを描いた」後半部分とのコントラストが衝撃的だった。 娘の知らない大人(戦争)の世界では、恨み辛みの中で悲劇が交錯する。 しかし、娘の目にはそこに登場する人々は悪人の様には映らないし、その裏で渦巻く悲劇など知る由もない。 その“陰と陽”、“裏と表”をうまく描ききった監督の手腕には驚きだ。 [ビデオ(字幕)] 7点(2007-09-01 20:43:33)(良:1票) |
944. カンタベリー物語(1972)
《ネタバレ》 パゾリーニだが、この『カンタベリー物語』を観るまでは、イマイチ好きになれなかった。 この作品もいわば「義務的」にやっつけるつもりだったのだ。 しか~し、これが何とも面白い作品で、見事にハマってしまった。 この作品は『デカメロン』『アラビアンナイト』と並ぶ、P.P.パゾリーニ“艶笑三部作”の一つでもある。 何個もの挿話から成り立っており、オムニバス作品の様な形式で話が進んでいく。 つまらない挿話もあるにはあったが、これがなかなかの粒揃い。 基本的に映画で笑わない(笑えない)この私が、思わず吹出してしまう挿話が何個もあった。 その中でも笑いまくってしまったのが、ニネット・ダヴォリがちゃらんぽらんな主人公を演じた三番目の挿話である。 ニネット・ダヴォリは、P.P.パゾリーニの作品では常連の俳優だ。 いつも訳のわからん役ばかりだが。 でも、今回の作品における彼の演じる青年は、殊のほかオカシイ。 なんだか分からないけど、常に“ニヤニヤ”しているのだ。 あげくの果てに、そのちゃらんぽらんさが災いして、“ギロチンの刑”に処されることとなるのだが、首を板にはめ込まれた後でも“ニヤニヤ”である。 この終始馬鹿にした様な彼の振る舞いに、見事に引き込まれてしまった。 処刑されるわけだから、かなりシビアなストーリーであるはずだ。 だのに、それだのに・・・ それを微塵も感じさせない彼の“ニヤニヤ”は、もはや神がかり的でさえある。 この挿話によって、ニネット・ダヴォリ、そしてP.P.パゾリーニにハマってしまいそうだ・・・ そして、この作品が、ベルリン映画祭の最高賞(金熊賞)を獲っているのだから凄い。 何たることだ。 [ビデオ(字幕)] 7点(2007-09-01 20:42:11) |
945. 夜霧の恋人たち
《ネタバレ》 ジャン・ピエール・レオ扮する主人公は、監督であるフランソワ・トリュフォーの分身であり、監督の自伝的作品である。 『大人は判ってくれない』『アントワーヌとコレット』に続く“自伝シリーズ”の三作目でもある。 相変わらずダメダメな主人公。 だけど、『大人は判ってくれない』の時の少年時代よりもかなりたくましくなってはいる。 まあ、大人になったわけだから当たり前だけど。 軍隊に志願して入隊するも、すぐに除隊。 その後、知り合いの紹介でホテルの宿直の仕事に就くが問題を起こして即クビ。 そして辿り着いたのが「探偵」の仕事だった。 探偵の仕事も決して順調にはいかず、失敗続き。 しかしそんな主人公にも「友達以上恋人未満」的な女性がいた。 これがなかなか可愛いのだ。 ダメダメな主人公にはもったいないくらいの女のコ。 しかし、主人公はここでもダメダメで、どうにも男女の仲が発展していかない。 デートで女のコの方から手を握られても、なんのきっかけも得られずじまいなのだ。 こんなところが私に似ていて、とても共感をおぼえたりした。 そんな時、主人公は探偵の仕事の一環として、ある会社に従業員として潜伏するよう命ぜられる。 そして、その会社の社長婦人に恋をしてしまうのだ。 主人公に気のあるかわいい女友達がいるというのにだ。 そしてこの社長婦人がとてもエレガントで綺麗なのだ。 私は主人公と同じ様に惚れこんでしまった。 ここでも共感をおぼえた。 この社長婦人役の女優さんを調べてみたところ・・・ デルフィーヌ・セイリグというらしい。 この映画に出演した時は36歳くらい。 こんな30代中盤の女性が身近にいたら確かになぁ。。 っていうか、いいなー主人公・・・ ・・・とまあ、とても魅力的なデルフィーヌ・セイリグ。 姿勢も綺麗だし、足がとっても綺麗。 控えめな雰囲気ながら、確かな魅力を放っているのが凄い。 この作品、おはなし自体も十分楽しめるし素晴らしい作品なんだけど、なんといってもこの女優さんの印象の方が強く残っている。 皆さんも、「映画の中身より女優(俳優)」っていうお気に入り映画があるんじゃないでしょうか? 私にとってこの作品は、そういう意味でのお気に入り映画となったわけなんです。 [ビデオ(字幕)] 7点(2007-09-01 20:29:50) |
946. ソドムの市(1975)
欧州の著名な映画監督の、1950年代~1970年代にかけての作品を必死になって観まくっている昨今であるが・・・ この作品を落とすわけにいかぬ・・・という事で、意を決して『ピエル・パオロ・パゾリーニ ソドムの市』を鑑賞。 最初は避けて通ろうと心に決めていた作品であったが、意識すれば意識する程、観ずにはいられなくなってしまった。 しかし、それだけ魅惑的で、金字塔的な作品であるのは確かである。 さて感想だが。。 まあ、「汚い」ということで。 でも、それだけでは終わらない作品でもあった。 これは予想外。 とにかく人間の究極の欲望を追求した作品だ。 恥や外聞、道徳心、そういったモノを一切排除し、欲望の限りを尽くす“主人公”達。 しかし、現在の日本においては、「その手」のビデオや雑誌は簡単に手に入る。 ただ単にお下劣で下品な映像を観たいのならば、この作品を観る必要なんかないと思う。 ただ単に気持ちの悪い映像を追求しただけの作品ではないからだ。 それよりこの作品は、人間の奥底に眠る、もしかしたら誰しもが持っているかもしれない“変態的欲求”を表現しているのだ。 そういう観点で観れば、ただ単に「汚い映画」では終わらず、何かを発見できる作品となる「かも」しれない・・・ [ビデオ(字幕)] 7点(2007-09-01 20:24:20) |
947. ラヴソング
《ネタバレ》 こちらは、1996年香港の作品。 ジャンルはラブストーリー。 映画系Blogをのぞいていたりすると、結構みかけるこの作品。 ラブストーリーものとしては、映画通をうならせる名作のようであるからして、是非、観てみたいと思っていた。 香港といえば、アジアきっての映画大国。 私もウォン・カーウァイ作品を筆頭に、いくつかの香港映画を観てきた。 香港映画って、日本と同じアジア映画なのにどこか日本人にとって、とっつきにくいところがある。 (最近は私も香港映画を観慣れてきたので、その様なことはなくなったが。) それはひとえに、名前と顔の分かりずらさじゃなかろうか。 名前の発音はややこしいし、顔も日本人からするとやはり見分けがつきにくい。 だから、香港映画観始めの頃って苦労した。 恥ずかしいけど、それこそ一人ずつ俳優・女優の顔と名前をおぼえていったものだ。 トニー・レオンの顔をおぼえて、レスリー・チャンの顔をおぼえて・・・みたいな感じに。 そんな感じに、一作観る毎に俳優や女優の名前と顔をおぼえていき、そして、どんどん香港映画が好きになっていった。 そして満を持して、映画通にも評価の高い『ラヴソング』を鑑賞したわけだ。 ネタバレしがちなので、今回は気を遣って書くとすると、香港映画にありがちな“偶然の出会い”には、「それはないだろ、おいっ!」モードに入りつつも、最後にはスッキリと感動でき、心地よいまま観終えることができた。 特にこの作品、「名シーン」の連続で、非常に心に残る映画だった。 主人公二人が初めてキスをするシーンや、主人公の女性が車の運転席で思わずクラクションを鳴らしてしまうシーン、、、などなど、素晴らしいシーンの数々。 皆さんがこの映画を推す理由を理解できた。 さて、「ラブストーリー(恋愛モノ)」と聞いて、拒否反応を起こす人(特に男)が多いが、これは非常にもったいないことであると、この作品を観て改めて思った次第である。 これは映画に限らず何事にも言えることだが、「先入観」ってのは、何かを楽しんだり素晴らしいものと出会ったりする上で、邪魔にしかならないってことである。 今後、どんどん色んなジャンルの映画を観ていく予定だが、そういう愚かな「先入観」はできる限り捨て去っていきたいと思う。 [ビデオ(字幕)] 7点(2007-09-01 20:21:49) |
948. オーディション(2000)
《ネタバレ》 「怖い映画だと知った上で観ていると、いつ怖いシーンが出てくるのだろうか?とか、そういう警戒心みたいなのを持って観ていると、そういう観客の想像力を膨らませる様な見事な演出が随所に散りばめられていて、ますます怖くなってくる。」 怖い映画という先入観は、上記のう様な現象を巻き起こす。 そういう観ている者の恐怖心を、煽り立てる演出が、誠に素晴らしい! この映画の恐怖は、まさにこの部分に集約されているのだ。 怖かったけど、さすが三池!!って感じで、満足できた。 前半の「恋愛映画のような」部分も楽しめたし、控えめなトーンの映像も素晴らしい。 三池作品の中では、間違いなく傑作の部類に入ると思われる。 個人的に一番、怖かったシーンは、最後のシーンではなく、 「ヒロインの住む、めちゃくちゃ汚なくて古いアパートの一室の映像に突如切り替わり、BGMには風が吹く音の様なゴォーーーーという非常に気味の悪い音が流れ、異常に汚い畳の上に、意味不明な大きな麻の袋が置いてあり、その横でヒロインの女性がうなだれたまま、身動きひとつしない。」 というシーンだった。 三池作品によく出てくる、「異常に汚いアパート」の空間も怖いし、BGMもめちゃくちゃ怖かったっす。。 余談だが、オーディションを行うシーンの中で、 「タルコフスキーの映画は観たことがありますか??」 と、質問をするシーンがあるのだが、妙にツボにハマってしまった。 ちょうど、タルコフスキーの作品を観まくっている最中なもんで。。 [ビデオ(邦画)] 7点(2007-08-31 00:12:37) |
949. ユメノ銀河
この作品、あんまり期待していなかったのだが、期待していなかっただけに意外にも楽しめた。 それと、今回、この作品の原作者である「夢野久作」っていう人の名を初めて知った。 それがちょっとした収穫。 今まで知らなかったのがちょっと恥ずかしいが。 さて、内容であるが・・・ 全編モノクロで描かれている。 でもそれがいい効果を生み出している。 昭和の陰気な感じが出てて、かなりよろしい。 乱歩もそうだけど、こういう、昭和のくら~い感じは独特の雰囲気があって結構好き。 そして特筆すべきは、浅野忠信のかっこよさ! 浅野忠信扮する主演の男性がバス会社に転勤してくるのだが、その登場シーンがかなりかっこいい。ものすごく印象的だ。 ただ、その登場シーンの後は、比較的落ち着いてしまい、神秘的な感じが持続されていないのが惜しいが。 少なくとも、前半の30分くらいまでは、 「おぉ~、この映画、なかなかいい味出してるぞぉ・・・」 って思わせてくれる映画である。 それだけでも十分、楽しめると思う。 [ビデオ(邦画)] 7点(2007-08-31 00:00:08) |
950. ソウ
この映画が公開中の時から、何となく惹きつけられ、映画館で見ようかとチェックしていたくらいだった。 色々あって、見に行く機会が持てず、主要な映画館での公開も終わってしまったので、昨日、レンタルしてきた。 画像の通り、陰気くさい部屋で、物語は進行されていく。 古びた、やけにだだっ広いバスルームなのだが、その廃れ具合がまた、最高だ。 その廃墟チックな画像にひきつけられ、ずっとこの映画を見てみたいと思っていた。 スリリングなストーリー展開は、最後まで見る者を虜にする。 しかし、好みの点から言えば、やはり、こういった「疲れる」映画はそんなに好きではない。 しかし、「陰気」な雰囲気は最高で、バスルームの質感も最高。 そういう意味では、好みな映画とも言える。 なので、結局、好きなんだか嫌いなんだか、自分にとっては微妙な映画だった訳だが、とりあえず楽しめたので、見て正解だったと思う。 (ただ、個人的に、こういう系統の映画を頻繁に見たいとは思わないが・・・) [DVD(字幕)] 7点(2007-08-30 23:40:15) |
951. ワイルド・アット・ハート
“鬼才”デヴィッド・リンチの比較的初期の頃の作品。 リンチ作品の中では『マルホランド・ドライブ』や『エレファント・マン』と並び、非常に評判の良い本作。 しかし、映像的には特別みるべきものはなく、リンチ後年の美しい作品群と比較すると、かなり雑な印象を受けた。 また、リンチ独特の緊迫感もなし。 そしてエログロさも弱い。 しかし、だからといって本作がダメというわけではない。 というより、後年の作品群と比較するという考え方自体が間違っている。 なぜなら、本作は後年の作品群の基礎となった作品であるといえるからだ。 つまり本作には、リンチ風味のエッセンスが凝縮されているのだ。 荒削りだが、その輝く原石のまばゆさに、きっと目を奪われるであろう。 主演はニコラス・ケイジ。 この頃のニコラス・ケイジには、まだ頭髪がタップリあった。 そして、この頃から既に“ダサカッコいい”。 蛇皮のジャケットが奇妙にハマっている。 そしてその相手女優に若き日のローラ・ダーン。 身長180cmでスレンダー、そして出るところは出ていて、抜群のプロポーション。 個人的には理想の体型だ。 劇中のセリフを拝借すれば、 「やせていて、おっぱいがコンニチハしている女のコ」(訳:戸田奈津子) である。 本作では常に露出も高く、セクシー極まりない。 そしてラブ・シーンもてんこ盛り。 ローラ・ダーン好きの私としては、これだけでも十二分に楽しめた作品であった。 ラストの展開には唖然。 あの“天使”は一体・・・ リンチという監督は、映画を撮り重ねることで洗練されていったんだなぁ、と実感。 全体的にダメダメ感が漂う本作ではあるけれど、決してつまらないというわけではなく、むしろ面白い。 このセンスのイマイチ感と面白さの不思議な融合が、評判の良さの理由ではないだろうか。 リンチ作品の中では、個人的に、『マルホランド・ドライブ』に次いでオススメの作品である。 そしてローラ・ダーン好きの人には絶対に外すことのできない作品だ。 [ビデオ(字幕)] 7点(2007-08-30 11:20:23) |
952. 貸間あり
“初川島雄三”を「フィルムセンター」で体験してきました。 川島作品といえば、『幕末太陽傳』『洲崎パラダイス 赤信号』『しとやかな獣』辺りから入っていくのが無難なんでしょうが、貴重な本作がちょうどフィルムセンターで上映されるということで、行ってきました。 フランキー堺が主演の1950年代喜劇ということで、自分にとってはやや敷居が高かったですが、意外と楽しめました。 主演のフランキー堺、ジャズ・ドラマー出身ということですが、演技うまいですねー。 びっくりしました。 そして変に体格も良いです。 そして脇役で強い個性を発揮していた桂小金治。 こちらも落語家ですが、自然な演技で素晴らしいです。 若い頃も同じ様な顔してたんですね。 ヒロインの淡島千景ですが、個人的には好みに合わなかったです。 なので、男性出演陣に共感できず。 あのパーマは、現代的センスで見てしまうと、ひいてしまいます。 完全におばはんパーマです。 ところで本作、冒頭から凄いハイテンションです。 よほど集中していないと流れについていけないくらいのスピード感。 その後も、ドタバタ喜劇的な色合いのジョークが連打されていき、観ているこっちはノックアウト気味です。 これを「息もつかせぬ笑いの連続」と取るか、「テンション高すぎ、スピード早過ぎで疲れる」と取るかは、ほんと好み次第。 私は両方でした。 笑いのセンスとしては、正直合わない部分が多かったです。 しかし、登場人物が全てクセ者ぞろいで、各キャラクターが実によく作りこまれています。 その為、後半はいつの間にか“川島ワールド”に引き込まれたのも事実。 特にフランキー堺の演ずる主人公が、実に人間味があってよかったですね。 “サヨナラだけが人生だ” 何度となく本作で繰り返される“川島監督の座右の銘”といわれる名文句。 実に奥深い言葉でした。 [映画館(邦画)] 7点(2007-08-24 07:11:26) |
953. 非情の罠
《ネタバレ》 かなり昔のこと、幼少の頃だったが、何とはなしに深夜映画を観ていた。 薄暗い倉庫の様な場所で、不気味なマネキンに囲まれ、二人の男が格闘する映画だった。 その時に観た、不気味な映像が今でも忘れられないでいた。 そんな幼少期のもやもやを払拭すべく、何の映画だったのかを検索した。 そうしたら、かの有名なキューブリックの初期の頃の作品だったわけである。 そこで30を超えた私は、今になって本作をレンタルしてきたのであった・・・ スタンリー・キューブリックの作品を観るのは『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』に続いて3作品目。 本作は67分という短い尺の映画で、モノクロ作品である。 ただ、1955年の作品なので、モノクロとはいっても、とてもシャープで綺麗な映像である。 序盤はゆっくりとした展開で、やや退屈感はあった。 しかし途中からどんどんと緊迫感が増してくる。 これぞサスペンスの醍醐味という感じ。 後半では、ニューヨークの古いビル街での“追い駆けっこ”が繰り広げられる。 これが相当に面白い。 興奮する。 そして、そのロケーションが抜群に良い。 主人公がビルの非常階段を駆け上って必死に逃走するシーンがあるのだが、この非常階段が独特で面白い。 シーソーの様な造りになっていて、二階部分に上った人間がつっかえ棒の様なものを外すと、その階段が平行になってしまい、下からは昇れなくなるというものだった。 これが巧みに、逃走シーンの中に織り込まれていて、妙に興奮する。 その階段を昇った後、今度はビルの屋上に出るのだが、ここでの演出もなかなか憎いくらいに上手い。 景色も遠めにブリッジ(ニューヨークの有名な橋)がさり気なく映っていたりもする。 余談だが、この屋上でのシーンは、許可なく撮影したという。 そして何と言っても、本作の見所はラストシーン。 ラストバトル! 既に書いたが、マネキン倉庫での格闘シーンだ。 不気味なマネキン達に囲まれての壮絶な死闘。 マネキンの手が上からぶら下がっていたりする。 マネキンを投げつけたり、マネキンで殴ったり、マネキンで防御したり・・・ これは迫力もあるし、不気味だし、そして何より興奮する。 67分という軽いテイストのサスペンス・アクション映画だが、十分に楽しめる内容である。 [DVD(字幕)] 7点(2007-08-24 06:52:31) |
954. 河内山宗俊
本作『河内山宗俊』は、夭折の天才監督、山中貞雄の現存する数少ない作品の一つである。 他の現存する2作品である『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』と『人情紙風船』は鑑賞済み。 したがって、現存する山中貞雄作品はこれで全て観たことになった。 本作『河内山宗俊』は、『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』や『人情紙風船』の2作品と比べると、少し知名度や一般的評価が低い気がする。 そんな中、最後に観たので、それほど期待していなかった。 しかし、なんと、山中貞雄作品の中では、個人的に一番のお気に入りとなった。 かなりの傑作である。 本作のメインキャストとして、河原崎長十郎と中村翫右衛門の二人が出てくる。 この二人は『人情紙風船』や、溝口健二の『宮本武蔵』と『元禄忠臣蔵』でもコンビを組んでいた。 そんな中で、本作における二人は最も魅力的だった。 二人とも最高の俳優である。 まずは河原崎長十郎。 冒頭での将棋シーン。 最初はお茶らけている河原崎長十郎。 しかし、最後に真顔で凄んでみせる。 この時の迫力にゾクゾクした。 そして中村翫右衛門。 相変わらずのひょうひょうとした自然な演技。 素晴らしく魅力的だ。 ラスト近く、口にくわえた爪楊枝を捨て、原節子演じる娘を救うため、立ち上がる。 この時の男意気。 しびれるねぇ・・・ 本作には、小津安二郎作品でお馴染みのミューズ、原節子がヒロイン役で出演している。 ちなみに本作は、原節子の最も若い頃を見ることのできる貴重な作品らしい。 小津作品に出まくっている頃の原節子と比べると、当たり前だが大分若く、純情可憐な感じ。 小津作品では比較的大柄に感じられる彼女だが、本作では小さく見えた。 この時、彼女は15歳だったらしいが、二人の男を振り回す魅惑的な少女として、十分に存在感を発揮していた。 先にも書いたが、本作における河原崎長十郎と中村翫右衛門の二人の掛け合いは、絶妙で素晴らしい。 そして全編に渡って「男意気とは何たるか」を堪能できる素晴らしく良くできた傑作である。 山中作品はどれも素晴らしいが、私は特に本作『河内山宗俊』を高く評価したい。 82分という短い尺の中に凝縮された、いつの時代にも共通する「男の生き様の何たるか」を堪能できる作品である。 [DVD(字幕)] 7点(2007-08-14 13:30:46)(良:1票) |
955. アワーミュージック
《ネタバレ》 ラスト10分の美しい映像と音楽が、わたしにとってのこの映画の魅力のすべて。 そこまでの思想や民族や戦争の話はほとんど理解できなかった。 この作品でもセリフが多めの内容になっている。 ラスト10分のようにほとんどセリフなしの内容で、美しい映像と音楽だけで最初から最後まで作れば、ゴダールは他の追随を許さない映像作家になっていたのではと勝手に思っている。 それこそタルコフスキー辺りと並び称される程に。 ゴダール晩年の映画には、ゴダール自身の考えが投影されたセリフが多すぎて、映像とか音楽に意識を集中できない。 セリフが私にとっては難解なのでなおさらだ。 [DVD(字幕)] 6点(2024-05-11 22:00:49)★《更新》★ |
956. ゆけゆけ二度目の処女
《ネタバレ》 行き場のない当時の若者。 若いからエネルギーだけはある。 だけど生きたいと思うエネルギーはない。 ひたすら死にたいと思ってはいるが、飛び降りる勇気もない。 一つのビルから決して出ないのは、行き場のない閉塞感を示しているのかな。 ギリギリ1960年代の作品だが、この時代にこの雰囲気の映画を撮ったのはすごい。 上映当時は、かなり先進的というか前衛的な作風だったのだろうと想像できる。 [DVD(邦画)] 6点(2024-05-11 12:00:44)《新規》 |
957. Please Please Me
《ネタバレ》 父親と娘の関係性がとても良い感じだ。 自然な親子の会話という感じ。 アルバイトを辞めて、また別のアルバイトをする。 そう決めた女性を淡々と描いている。 そこにどれだけの意味があるのか。 大した意味はないようにも感じるが、これは私の感受性が悪いせいかもしれない。 そんなに退屈はしなかったけど、心に響く何かもなく。 平穏でフラットな気持ちで見ている内に、すんなりと終わってしまった。 [インターネット(邦画)] 6点(2024-05-08 22:27:30)《更新》 |
958. 回復タイム
《ネタバレ》 何回もクスッとできるシーンがあった。 それだけでも素晴らしい。 この映画の女性のように、日々にちょっと疲れた人には一服の清涼剤になるはず。 [インターネット(邦画)] 6点(2024-05-06 09:56:43)《更新》 |
959. 今夜新宿で、彼女は、
《ネタバレ》 さっきちょうど新宿駅を電車で通過しながら、この映画を見ていた。 そんな訳で、とても身近に感じられる映画だ。 ストーリーとしては取るに足らないが、新宿を舞台にした臨場感やスピード感が見どころだ。 明らかにメンタル病みの女性が主人公で、特別美人でもないし不細工でもない。 これが何気にリアルかもしれない。 田舎から東京に出てきているらしく、田舎の母親から電話がかかる。 何か聞かれても大丈夫、変なことはない、みたいに無問題と答える女性。 大いに問題ありなのだが、田舎の母親には異状なしと答える。 これがなかなか興味深い。 こんなの見たら、田舎の親は安心して娘を東京に行かせられないよ! とまあ、娘を持つ親からしたら、ちょっとしたホラーだね。 監督は女性だが、おそらくリアルな東京、いや、新宿を知っている人なんだろな。 そう感じた次第。 [インターネット(邦画)] 6点(2024-05-02 19:55:58) |
960. 八月の鯨
《ネタバレ》 あのリリアン・ギッシュがかわいいお婆ちゃんに! それだけで何だか感慨深い。 静かな島でゆったりとした時間を過ごしている。 老後としては良いのかな? 私はどちらかといえば賑やかな場所が好きだけど、老齢になったら好みは変わるのかな、それとも人それぞれなのかな。 ベティ・デイヴィスが完全にお邪魔な存在。 あれだけ悪態をつかれるとさすがにきついよね。 難しい事かもしれないけど、やっぱり年老いたら可愛がられる存在でいたいかな。 [DVD(字幕)] 6点(2024-04-28 16:30:50) |