81. ふるえて眠れ
《ネタバレ》 映画館で凍えるほどの怖さであるが、日常的なレヴェルと繋がった怖さだからである。父の反対する恋路に執着したせいで父が殺されたことがヒロインを強烈な罪意識のなかに収監する(こういう罪意識は程度こそ違えそこらじゅうにある)。精神的に寄る辺のない状況にあるヒロインの家に侵入する者との闘争、これまた息苦しいまでにリアルである。 [映画館(字幕)] 8点(2011-03-13 20:22:46) |
82. フェリーニのアマルコルド
《ネタバレ》 こういう映画は映画館の中で居眠りしたとしても、意義ある居眠りというか、スクリーンとの楽しい同調ということになろう。充実した足し算の回想。 [映画館(字幕)] 8点(2011-03-13 15:15:55) |
83. 欲望(1966)
《ネタバレ》 緑の公園の木々のざわめきのなかでシャッターをきりまくる。写真の中に映り込む殺人事件。引き伸ばし(Blow Up)作業だけで見せる映画は、いうまでもなく、コギト主義的な認識のあり方に対する根本的な反抗(こういうナイーヴな表現も似合う時代の映画)である。 [映画館(字幕)] 8点(2011-03-11 22:59:37) |
84. 気まぐれな唇
《ネタバレ》 ゆきずりの恋の映画に「なってしまった」というように見せて、不思議な充実感を放つ。映画館に足を運ぶというあたりまえのことが報われる典型例の映画。ホン・サンスの作品のなかでも白眉。 [映画館(字幕)] 8点(2011-03-06 22:13:03) |
85. 還って来た男
《ネタバレ》 自主上映の催しで、はるばる大阪まで足を運んだ甲斐のある映画だった。この映画にはまさに足を運びたいのであって、路上で人同士が「偶然に」出逢うことの多い映画なのである。「雨男」も居るし、道案内(これが主役の男女カップルの縁、「こっちです」との案内がきっかけ)もある。「こっちです」に観客も引っ張られるしかない。なんともほのぼのとした味の締めくくりとしてラストの石段シーンがある。ここでも「偶然に」出逢ったくだんの男女、男のプロポーズらしきものも含んだ長広舌がだらだらとあるなかで「終」マーク。この終わった感じのしない終わり方が良かった。いい映画だと思う。 [映画館(邦画)] 8点(2011-03-02 19:45:14) |
86. ジャンゴ 繋がれざる者
《ネタバレ》 この作品の構成には媒介項が不可欠である。まずは、黒人の味方をする白人が筋を引っ張る(黒人主人公と助力白人が捜索の旅に出る)→それを、白人の体制に忠実な黒人が妨害する→とうとう主人公の黒人の大活劇。プロップの『昔話の形態学』における、説話の必勝パターンのことを考える。 [DVD(字幕)] 7点(2016-05-28 21:57:43) |
87. 奇跡(1955)
《ネタバレ》 いきなり窓外へのPOVを連続させる。もうこれで観客を映画の中に引き入れる。単純な造りなのに、観客を捕まえて離さない。捕まえて離さないためにはロミオとジュリエット的なネタは有効だが、じつは世俗組織(教会等)を痛烈に無化するようなレヴェルに観客を対峙させる映画であろう。「裁かるるドライヤー」となるようなレヴェル。 [ビデオ(字幕)] 7点(2016-02-29 15:04:00) |
88. 大鹿村騒動記
《ネタバレ》 阪本順治のよさで、なんとなくいい感じの出来に仕上がっている、ただただなんだかいい感じの映画、そんな映画があってもいいではないか。メリハリの利いたおもしろいストーリーの展開とかなんとかそんなものこの場合必要ない。手法的に印象的なのは、突如逆サイドからのショットが効果的に入ることがしばしばであることで、それは映画である以上当たり前のことであるかのようだが、舞台ものである分、おのずとそれとの差異化をはかっているとも思える。 [DVD(邦画)] 7点(2016-02-21 19:04:49) |
89. 犯罪河岸
《ネタバレ》 「フランス版フィルム・ノワール」なる呼称自体が奇妙ということになるが、モノクロの美しさ、殺人理由のリアルな偶発的些末さ、遊び心のある重厚さ、つまり立派な「フィルム・ノワール」作品である。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-11-01 11:28:31) |
90. 召使
《ネタバレ》 主と奴。奴であった者にカメラが貼り付いていたのに、主と奴の逆転とともにカメラの同情も逆転して、主であった者に向かったりする。英国階級社会を諷刺したとかもあるのだろうが、揺れる観客の視点こそが映画的モンダイ。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-10-26 20:05:19) |
91. 最高殊勲夫人
《ネタバレ》 増村って、強弱がなくて、強強強の連続である。疲れる、が、一生懸命の細部演出の積み上げは感取できるし、ゴージャスな映画である。 [ビデオ(邦画)] 7点(2015-09-12 23:28:06) |
92. アルファヴィル
《ネタバレ》 いまとなってはゴダールにしては甘口である。が、我が国の国立大学を「役に立つ」学部のみにしていこうという例の「改革案」とかは、まさにアルファヴィル的だと思わせる作品。とりわけ、アルファヴィルでは深く問う概念というものがどんどん変更・抹消されていく、という設定に、ゴダールの真面目な主張が見える。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-08-28 23:48:45) |
93. カップルズ
《ネタバレ》 この監督の並行編集癖は、突出した特徴だ。誰が主人公というのではない、あるとき偶然の切り取りで、とりあえずの主人公が産み落とされる。とはいえ、この映画では、ヤクザに追われる実業家の息子というのが一応中心人物だったはずだ、が、激烈な行為に及んだあと、映画の終わりの段階では妙に除けられる。とにかく、並行編集がこの監督の魅力だ、と再度。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-05-09 23:33:41) |
94. トカレフ(1994)
《ネタバレ》 長回しだ、長い、魅力的に長い。相米慎二との違いってなんだろう、と考える。阪本監督のほうがまだ説話的かな、相米はもう破れている味なので。それにしてもこの主人公が死ぬ必要はないわけでね、しぶとく生き抜ぬくべき、説話的なカッコヨサの要請に背いても。 [ビデオ(邦画)] 7点(2015-04-21 23:50:56) |
95. アーティスト
《ネタバレ》 トーキー映像部分(映画内映画)をもサイレントで描くという破天荒な試みもある(トーキーに慣れ切っている状況をあらためて相対化してみるのも悪くはない)。さて突然声が出なくなるというサイレント俳優の悪夢は、サイレント映画の中ではまさに声を根こそぎ奪われた感を表出する。 [DVD(字幕)] 7点(2015-02-20 13:21:23) |
96. 暗黒街(1927)
《ネタバレ》 スタンバーグの繊細さは特別だ。ボスの情婦の首回りに揺れる羽毛、情婦がボスの手下を誘惑するシーンのクロースアップの神秘的な美しさ。 フィルムノワールの白黒のコントラストで突き進むなんてことはしない、陰影に富む。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-02-03 00:25:30) |
97. 兄とその妹(1939)
《ネタバレ》 主人公は正義を貫いて潔く会社をやめる、そして「外地」(満州)に移る。この「爽やかな」決断が拡張主義的時代に支えられているわけだ。松竹小市民映画のモダニズムが戦争の犠牲になるというよりはむしろ同じ枠組みを積極的に共有していたとは、小津や成瀬(→PCL)でも。 [ビデオ(邦画)] 7点(2015-01-26 20:23:14) |
98. 暗黒街の弾痕(1937)
《ネタバレ》 あのドイツ時代の『M』の暗さからすれば、すっかりスッキリした画面に変貌したラングである。そのうえこの映像はとくにスタイリッシュな美しいものである。 [DVD(字幕)] 7点(2015-01-19 09:44:02) |
99. 風花(2000)
《ネタバレ》 フラッシュバックが説明的に煩瑣に入って来て相米には珍しい作りだ。長さ(けだるさ)による不経済な語りという相米流は抑制され気味だが、やはりおおいにある。封切りの映画館ではさっぱり感動しなかったが、いま見直せば良さはある。 [映画館(邦画)] 7点(2015-01-14 11:06:33) |
100. ブルーベルベット
《ネタバレ》 観客の分身としての探索者を襲うデニス・ホッパーがほんとうに怖い。その怖さは、ホラー映画などとは異なって、目を閉じたら看過できるしろものではない、何をするかわからない他者の怖さなのである。イザベラ・ロッセリーニの鮮烈過ぎて痛々しいような露出は、映画史的な事件である。そもそも母バーグマンがロッセリーニのもとに走ったのは、映画の中心がハリウッドの外に移ること象徴する事件、映画史的な事件だった。 [DVD(字幕)] 7点(2015-01-11 13:08:29) |