141. カランジル
《ネタバレ》 実際に囚人虐殺事件が起こったカランジル刑務所を舞台にして撮影されており、ラストはその刑務所が爆破される場面を映し出して終わるという、凄まじい映画。 そんな「本当に事件が起こった刑務所で撮影している」という強みゆえか、劇映画とは思えないほどのリアリティを感じ取る事が出来ましたね。 特にラスト30分の虐殺風景は圧巻の一言であり、観ている間、単純な嫌悪感だけでなく「ここまで凄い映像が撮れるものなのか」という、恐怖なのか感動なのか良く分からない感情まで芽生えてきたくらいです。 ・収容可能な人数は四千人の刑務所に、七千五百人もの囚人が押し込まれている。 ・選挙が近いから、警察側は暴動を徹底的に鎮圧して政治的アピールを行いたかった。 ・囚人にはエイズ患者が多数存在しており、鎮圧部隊には彼らに対する差別意識と偏見があった。 などなど「虐殺が起こった理由」について、丁寧に描いている点も上手い。 その為、観ている間も「どうしてこんな事が起こってしまったんだ……」という戸惑いに包まれる事も無く「これは、起こるべくして起こった悲劇なんだ」と納得した上で、より深く諦観と絶望を味わう事が出来たように思えます。 囚人のカップル(両方とも性別は♂)の結婚式を描き、幸せなムードに浸らせた後、囚人同士の殺人事件→暴動→虐殺と、段階を踏んで観客を負の世界に誘っていく構成になっているのも、お見事でした。 聖書とイエスの肖像画を手にして無抵抗だった男が躊躇なく射殺される場面も印象的でしたが、その一方で「息子に似ているから」という理由で警官に見逃してもらえた囚人や、咄嗟に死体の振りをして助かった囚人など、虐殺の中にも微かな「救い」があるというか「何とか助かった人もいるという安堵感」を与えてくれる作りになっているのも、嬉しかったですね。 特に、上述の「結婚式を挙げたカップル」が助かった事には心底ホッとさせられましたし「生存者となる人物を予め重点的に描いておき、観客に少しでも救いを与えるようにする」という作り手の配慮が窺えるかのようで、凄くありがたい。 「実際に起こった虐殺事件だから」と開き直り、ひたすら陰鬱で救いの無い話に仕上げる事だって出来たでしょうに、そこを踏み止まって「奇跡的に生き延びた喜び」も感じられる作りにしてくれた事には、大いに拍手を贈りたいです。 人間の死体まみれな刑務所の中で、犬と猫とが静かに見つめ合い「犬と猫は種族が違えど争ったりしないのに、同じ人間同士で虐殺を行っている」という皮肉さを醸し出している場面なんかも、実に味わい深くて良いですね。 「鎮圧部隊、万歳!」と連呼させながら囚人達を中庭に連れ出し、全員を裸にして整列させる場面なども圧倒されるものがあり、ここまで来ると一種の「悲惨美」すら感じちゃうくらいです。 比較するのは適当では無いかも知れませんが「虐殺を芸術的なまでに凄惨に描いた」という意味合いにおいては、かの高名な「オデッサの階段」に近しいものがあるんじゃないか、とすら思えました。 ただ……そんな「オデッサの階段」を描いた「戦艦ポチョムキン」と同じように、本作にも「虐殺の場面は衝撃的だが、映画全体としては退屈な場面も多い」という欠点があるように思えて、そこは残念でしたね。 虐殺が起こるまでの「刑務所の日常」が長過ぎて、二時間近くも「前振り」を見せられては流石に飽きて来ちゃうし、主人公である医師が不在の間に虐殺が起こる形になっているのも、ちょっと拍子抜け。 後者に関しては「実話ネタだから仕方無い」「その医師の著書が原作なんだから仕方無い」って事は分かるんですが、やはり映画として考えるとマイナスポイントになっちゃうと思います。 「囚人達の多くは、少しも罪悪感を抱いていない」と分かった上で、それでも医者として彼らを救うべきかと悩む姿などは良かったですし、診察の合間に囚人から身の上話を聞く件なども面白かったので、医師を主人公に据えたのが間違いって訳じゃないんでしょうけどね。 (出来れば医師の他にもう一人、虐殺の現場に立ち会う主人公格のキャラクターを配置しておくべきだったのでは?)と、そんな風に考えてしまいました。 そういった諸々を含め、総合的に判断すると「面白い映画」「好きな映画」とは言い難いものがあるのですが…… 本作が「一見の価値あり」な映画である事は、間違い無いと思います。 [DVD(吹替)] 7点(2019-06-11 00:56:22)(良:1票) |
142. スーパーバッド 童貞ウォーズ
《ネタバレ》 これは友情ではなく、愛情を描いた映画ですよね。 同性愛の一歩手前というか、とにかく仲が良過ぎて単なる友情では片付けられない二人の絆を描いたストーリーなんだけど、青春映画としても綺麗に纏まっており、非常に観易く仕上がっている。 特に「卒業祝いのパーティーに必要なお酒を集める為、奔走する主人公達」というプロットは王道な魅力があり、誰が観ても楽しめるんじゃないかな、って思えました。 ただ、自分としては「イケてる男子や美女が集うパーティー」なんかより、冒頭にて回想される「冴えない男友達同士で馬鹿やってる土曜の夜」の方が、よっぽど楽しそうに感じられたのですが…… 多分これ、意図的にそう描いていますよね。 ラストシーンにて、念願叶って美女と上手くいきそうなのに、どこか寂し気に親友を見つめている主人公セスの姿も、それを象徴している気がします。 憧れていた「美女とヤッちゃう事」「人気者が集まるパーティーに参加する事」なんかよりも、実際は「美女とヤリたいと親友相手に駄弁る日々」「パーティーには参加出来ず、内輪の友達だけで盛り上がる日々」の方が楽しかったんだと気付き、それでも「世間が認めるような一人前の男」になる為、楽しかった過去に別れを告げて、流れに任せるがまま大人になる。 そういう切なさ、子供時代からの卒業という寂寥感が「エスカレーターを挟んだ別れの場面」から伝わってきました。 序盤は、友達のフォーゲルの悪口ばかり言っているセスに共感出来ず(嫌な奴だなぁ……)とゲンナリさせられたのですが、後に「親友のエヴァンをフォーゲルに取られたくなくて、ヤキモチを妬いていたから」と、その理由が明かされる構成になっているのも上手かったです。 セスの言動の陰には「エヴァンを失ってしまう」「エヴァンに見捨てられてしまう」という恐怖心と焦りがあったんだと分かり、これまで俯瞰で眺めていた主人公に、一気に感情移入出来るようになっているんですよね。 当初は「常識人の主人公エヴァン」「傍迷惑だけど憎めない相棒のセス」という組み合わせなのかと思わせておいて、実はセスの方がメインなのだと明かされる形になっているのも、程好いサプライズ感があって良かったです。 第三の主役と言うべきフォーゲルと警官二人組が友情を育むパートも面白くって、自分としてはこちらの方が好みなくらいでしたね。 元々本作はセス・ローゲンとエヴァン・ゴールドバーグの少年時代を参考にして作られた「実話ネタ」でもあるそうなのですが、セス・ローゲン当人が「大人になった今でも、馬鹿騒ぎやっている警官」を楽しそうに演じているというのも、非常に興味深い。 本作のラストシーンは「愛し合ってる親友同士が、大人になる為に仕方無く別れてしまう」という悲劇を連想させる物なんですが、そんな切なさを与えてくれる一方で「いやぁ、大人になっても男友達同士で楽しくやれるもんだよ」と、セスがもう一つのメッセージを送ってくれているんですよね。 少年を卒業した瞬間のセスと、大人になった後のセス、その二人を一つの物語の中で同時に描く事に成功しているし「一見するとビターエンドだが、将来的にはハッピーエンドになる」という含みを持たせているしで、本当に絶妙な配役だったと思います。 そんな本作の難点としては、女性との恋愛描写が希薄であり、どうして美女二人がセスとエヴァンに惚れているのか理解出来ない点が挙げられそうなんですが…… まぁ、その辺は「オタク映画」だけでなく「ラブコメ映画」のお約束でもあるので、ツッコむ方が野暮なんでしょうね。 本作の主題は、あくまでも「男友達同士の愛情」なのだし、それに比べれば異性愛なんてアヤフヤなものという描き方をされているのは、むしろ自然な事であるようにさえ思えてきます。 劇中におけるエヴァンの台詞「皆に知って欲しいな、人を愛する気持ちは世界一綺麗だって」も、凄く印象深いですね。 その言葉通り「人を愛する気持ち」を全力で肯定し、観客に見せびらかしてみせたような…… 色んな意味で、子供っぽい青春映画でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2019-05-02 17:29:23)(良:1票) |
143. パラサイト
《ネタバレ》 所謂「ボディ・スナッチャー」系の映画なのですが、舞台を高校とその周辺に絞ってティーン・ホラーとして成立させているのが上手いですね。 なんせ「盗まれた街」の映画化に限っても四回以上は行われている訳であり、どうしても陳腐な内容となりそうなところを、演者と舞台設定によって新鮮に思わせる事に成功してる。 イライジャ・ウッドとジョシュ・ハートネットの共演が拝めるのも楽しいし、冒頭に流れるオフスプリングの曲をはじめとして、今観ても「若々しいセンスの良さ」を随所に感じる事が出来る、時代を越えて愛されるタイプの映画だと思います。 ただ、自分としてはヒロイン格であるデライラに魅力を感じなかったもので……ラストで主人公ケイシーが彼女と結ばれても、全然祝福する気になれなかったのが残念でしたね。 見た目は物凄い美人なのですが、性格が「嫌な女」としか思えなかったというパターン。 寄生される前から「ガリ勉じゃ私に釣り合わない」なんて言い出す傲慢さだし、ラストにて「学園のヒーローになったケイシー」と結ばれたのも「これでようやく私に釣り合う存在になったから付き合ってあげた」と言わんばかりの態度に思えちゃうしで、どうも好きになれなかったです。 もう一人の主人公ジークと、女教師のエリザベスとの関係性は好みだったので、もっとそちらにスポットを当てた構成だったら、印象も違っていたかも。 あとは、体育館の巨大な座席が閉じる仕組みを駆使してラスボスを倒すのは痛快だけど、事前に伏線を張っておいて欲しかった(座席が閉じるシーンを見せておいて欲しかった)という事。 コーチに誘われていたのはケイシーで、メアリーベスと因縁があったのはジークの方なので「ジークがアメフトを始める」「ケイシーがメアリ―ベスを倒す」というオチの付け方は、互い違いじゃないかと思えてしまった事……と、気になるのはそれくらいでしたね。 自分の好みを言わせてもらうなら「コロッと態度を変えて言い寄って来たデライラを袖にして、ケイシーはアメフトを始める」「ジークは自らがトドメを刺したメアリ―ベスに憐れみを感じながらも、エリザベス先生と結ばれる」って着地の方が良かったんじゃないかと思えますが、実際の終わり方も、そこまで嫌いじゃなかったです。 とにかく、細かい不満点が色々あったとしても、それらを吹き飛ばすくらいに「好きな部分」が多いもんだから、観ていると気にならなくなるんですよね。 特にジークがファーロング先生を倒す場面は恰好良くて、少年時代に観た時は、本当に痺れちゃったのを憶えています。 オタク少年だった自分にとって、ジークは理想的なアウトローだったし、いじめられっ子なケイシーも等身大で感情移入出来る存在だったしで、この二人が主人公ってだけでも、もう「好きな映画」になっちゃうんです。 「僕は目にペンでも刺すかな」というファーロング先生の台詞など、細かな伏線が効いている作りなのも良い。 「貴方は優しくしてくれた。嬉しかったわ、とても」というメアリ―ベスの台詞は演技ではなく、本音だったんじゃないかと思える辺りとか、妄想の余地を与えてくれる脚本なのも良かったですね。 主人公グループの中に裏切者がいるんじゃないかと疑心暗鬼になる件は、今になってみれば「遊星からの物体X」が元ネタだって分かるけど…… 初見の際には知らなかったもので、凄くドキドキしながら観賞出来たし、元ネタを知った今観ても、ちゃんと面白かったです。 完成度は高くないし、物凄い傑作という訳じゃありませんが、色んな世代の「映画好き」に観てもらいたくなる。 そんな、オススメの一本です。 [DVD(吹替)] 7点(2019-04-10 07:22:33)(良:1票) |
144. O〔オー〕
《ネタバレ》 「古典を現代の学園ドラマに置き換えてみました」ってタイプの映画は色々ありますが(「小悪魔はなぜモテる?!」「恋のからさわぎ」など)その中でも最初に観たのが本作であった為、非常に新鮮な気持ちを味わえた思い出がありますね。 そういった「初見補正」のようなものが存在する事、主演が贔屓のジョシュ・ハートネットである事などを含めて考えると、自分の評価は甘々になっているのかも知れませんが…… それでもなお本作に対しては(意外と良く出来ているんじゃないか)っていう想いが強いです。 まず、騙されるオセロ=オーディン側ではなく、騙すイアーゴー=ヒューゴが主人公となっている点が面白い。 ダブル主人公って感じでもなく、完全にヒューゴ目線で物語が進行する為、元ネタの「オセロ」の粗筋を知っていたとしても、目新しい気分で観賞出来るんですよね。 軍人=スポーツ選手という置き換えも自然にハマっているし、合間合間にバスケの試合シーンが挟まれる事も、良いアクセントになっていたと思います。 白と黒、白人と黒人という「オセロ」ならではの対比もキチンと描かれているし、オーディンが抱える悩み、ヒューゴが抱える悩み、どちらも観客に理解出来るよう作ってある。 特に「逮捕歴のある不良少年だったが、スポーツ特待生として、金持ちの白人だらけの名門校に入学出来た黒人」というオーディンの設定は非常に分かり易く、感情移入もしやすいですよね。 だからこそ、彼の側に尺を取る事無く、ヒューゴ目線の映画として成立させる事が出来たんじゃないかな、って思えました。 ヒューゴと父親の間にある「心の溝」も丁寧に描かれており、基本的には「嫌な奴」のはずなヒューゴにも、自然と同情出来る形になっている。 オーディンをMVPとして表彰する際に「この青年を心から愛してる。息子のように」と言ったりする父親には(それ、実の息子の前で言う台詞じゃないでしょうに……)とヒューゴが可哀想になるし「ここでメシ食うの久し振りだね」と、ヒューゴが父子の対話を望んでいるような場面でも、父親はオーディンの事ばかり気にしているというんだから(そりゃあ息子は傷付くし、歪んじゃっても仕方無いよ)と、納得させられるものがありました。 オーディンを騙す件の演出も良くて、実際は「ブランディ」について話しているのに「デジー」について話していると思い込ませる話術には、特に感心。 元々「オセロ」には「もっと妻と直接対話すれば、不貞の疑惑なんて簡単に解けたんじゃない?」っていうツッコミ所が存在している訳ですが、本作はそれをなるべく緩和するという意味でも、かなり頑張っていたと思います。 ニガーという差別用語も巧みに活用されており、自分とは肌の色が異なる彼女を信じられなくなってしまうオーディンの心理にも、ちゃんと説得力があったかと。 「君は俺の全てだ。友達なんてもんじゃない、兄弟だ」と囁きかけるヒューゴの台詞など、オーディンに対する同性愛めいた想いが描かれている点も「悲劇」に相応しい背徳的な趣きがあって、良かったと思います。 そんな具合に、色んな長所が備わっている映画なのですが…… 肝心のクライマックスで失速しちゃうというか、あまりにも展開が滅茶苦茶になり過ぎて、観ていて醒めちゃうのが欠点なんですよね。 「終わり良ければ総て良し」の逆を行く形であり、ラストの辺りは、本作が好きな自分でも褒めるのが難しい。 特に、ヒューゴが持っていた拳銃がオーディンの手に渡る流れは凄く雑で、そこはもうちょっと格闘させるとか、ボールの奪い合いはオーディンの方が上手いので拳銃も奪われちゃったとか、そういう感じに仕上げても良いんじゃないかって思えました。 主人公の心が壊れ、狂人になってしまった事を示すかのような最後のモノローグも、ちょっとわざとらしく、自己陶酔が強過ぎて、ノリ切れない感じ。 オーディンが自殺する際の「俺がこうするのは、黒人だからじゃない」という涙ながらの訴えは良かっただけに、凄く勿体無いですね。 いっそ、あれを最後の台詞にして、あとは静かな音楽と共に護送されるヒューゴを描くだけの結末にした方が、余韻も生まれ、綺麗に纏まっていたかも。 優等生ではあるけれど、スポーツの世界では一番になれず、完全犯罪を計画しても失敗してしまった主人公。 そんな「あと一歩で成功しきれない」という主人公に相応しい「あと一歩で傑作に成り切れなかった佳作」という感じの、どこか物悲しい一品でした。 [DVD(吹替)] 7点(2019-04-01 23:09:44) |
145. ゾンビ・ヘッズ 死にぞこないの青い春
《ネタバレ》 ゾンビを主人公にした映画は何本もありますが、自分にとっての「ゾンビ主人公映画」初体験がコレだった気がします。 正確には「半分ゾンビ」という設定であり、主人公は「人間を食べたい」という欲望は全く抱いていない為「食人鬼の苦悩」的な物は描かれていなかったりするので、その点については拍子抜けでしたね。 他にも「途中で死んだ仲間のクリフはゾンビ化しないの?」「ラストで主人公はヒロインと結ばれたけど、子作りとかは可能なの?」と気になる点が多く、本作における「ゾンビの生態」があまり説明されずに終わってしまうのは、かなり残念。 せっかく劇中にて「ゾンビを研究する集団」まで登場させているのだから、彼らの口を通して、もっと詳しく説明して欲しかったです。 監督であるピアース兄弟の父親は、あの名作「The Evil Dead」(邦題:死霊のはらわた)にスタッフとして参加していたとの事であり、その縁もあってか、劇中のドライブインシアターにて「The Evil Dead」を流したりと、過去のゾンビ映画に対するオマージュ描写が散見される辺りは、同じゾンビ映画好きとして嬉しかったですね。 「主人公はゾンビである」という設定が、劇中でキチンと活かされており「ゾンビを退治しようとする人間達から逃げる主人公」という、通常とは真逆の面白さが味わえる辺りも良かったです。 普通のゾンビ映画であれば、如何にも主役になりそうな黒人青年がゾンビハンターと化して主人公達を追ってくるって点も、面白くて好きですね。 この辺り、主人公のマイクが「冴えない眼鏡のモブ顔」って感じなのに対し、黒人青年は「精悍な二枚目」っていうビジュアル面の対比もあって「普通なら主人公のはずのキャラクターが敵役」「普通なら無数にいるゾンビの中の一人に過ぎないはずのキャラクターが主役」という設定の妙味を、より深く楽しめるようになっていたと思います。 同じ「半分ゾンビ」仲間である相棒のブレンドが、頭の軽いチャラ男と思わせておいて、要所要所で名台詞を吐いてくれるという意外性も、実に心地良い。 ゾンビになった事を悲観する主人公に対し「そりゃあ個性っていうべきだ」と元気付けたり「彼女の気持ちは分からなくたって良い。でも、お前の気持ちは確かなんだろう?」と告白を後押ししてくれたりする様が、凄く良かったんですよね。 彼の他にも、半分ゾンビではない完全にゾンビなチーズに、元軍人のクリフなど、道中で一緒になる仲間達が三人とも魅力的だったりするもんだから、ゾンビ映画としてだけでなく、青春ロードムービーとしても、しっかり楽しむ事が出来ました。 途中までは苦みを含んだ展開が多く(これは主人公とヒロインが結ばれずに終わる可能性もあるかな……)と思わせておいて、意外なハッピーエンドで終わってくれるって辺りも、嬉しかったですね。 上述の通り、細かい点について考え出すと(半分ゾンビの主人公と、人間のヒロインとで、本当に上手くいくんだろうか?)って疑念も湧いてきたりするんですが、そんな野暮な観客に対し「愛さえあれば大丈夫だよ」と言わんばかりに、それまで敵だった人間達にまで二人を祝福させて、有無を言わさず終幕させている。 その強引さと、能天気なほどの人間賛歌&ゾンビ賛歌っぷりに、初見では戸惑う気持ちもあったんですが…… (この映画は、そこが良いんだ)と、今ならそう思えちゃいますね。 明るく、和気藹々としたNG集に至るまで、ゾンビ映画らしからぬ陽性な魅力を味わえた、とても貴重な一本でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2019-03-21 17:22:21)(良:1票) |
146. ロード・キラー
《ネタバレ》 ポール・ウォーカー主演作品なのですが、彼がスターのオーラを全く漂わせておらず「等身大の若者」を演じ切っている点が素晴らしいですね。 同年には「ワイルド・スピード」でタフガイの刑事を演じているはずなのに「寮住まいの大学生」「精神的には、まだまだ子供」っていう主人公像にも、自然と馴染んでみせている。 彼の他作品を考えれば「こんなストーカー紛いの殺人鬼なんて、ポールに掛かればイチコロじゃん」「酒場でポールに因縁付けるとか……たったの三人じゃあ、どうせアッサリ撃退されて終わりでしょ?」となってもおかしくないのに、殺人鬼に怯える姿や、何とか喧嘩せずに場を切り抜けようとする臆病な若者としての姿に、しっかり説得力があったんだから、これは凄い事じゃないかと。 彼の人気の要因は「何処にでもいそうな、気の良い兄ちゃん」という独特の雰囲気にあったのでしょうが、演技力においても確かなものを持っていたんだなって、再確認させられた思いです。 相方となるスティーヴ・ザーンも良い味を出してあり「傍迷惑な兄貴なんだけど、憎めない」って、主人公だけでなく観客にも思わせているんだから、お見事でしたね。 本作は明らかに「激突!」(1971年)が元ネタの作品なのですが、オリジナルの魅力を感じられたのは、彼らが演じる主人公兄弟の存在あってこそ、って気がします。 中年男の孤独な戦いを描いた「激突!」に対し、本作は若い兄弟の掛け合いが主となっているし、ヒロインであるヴェナとの三角関係を交えた「青春映画」としての味わいもありましたからね。 自分としては、この「車での三人旅」になる中盤の件が凄く好きなもんで(殺人鬼とかもう出て来ないで、このまま青春ラブコメ物として進めて欲しいな)と思えたくらいです。 久し振りに再会した兄が「弟のルイスと、ヴェナの関係をあれこれ詮索する」という形で、主人公ルイスとヒロインのヴェナの関係性を、観客にも分かり易く伝えている点。 そして、精神的な恐怖に訴えかける演出であり、血生臭い描写が殆ど無い点など、ライト層の観客に配慮した作りとなっているのも、嬉しい限りでしたね。 本作を初めて観賞したのは、スプラッター映画などに全く耐性の無かった十代の頃だったんですが、それでもしっかり楽しめたのは、作り手側がちゃんと「そういう層の観客でも楽しめるように」と、色々計算した上で作ってくれたお蔭なんだと思います。 今になって改めて観返すと、元カレが「危ない感じ」という冒頭の台詞が伏線じゃなかった事が肩透かしとか、犯人が逃げ延びて終わるのでカタルシスに欠けるとか、欠点も目についちゃうんだけど…… それよりは、色褪せぬ魅力の方を強く感じ取る事が出来ましたね。 感動するとか、強烈な衝撃を受けるとか、そういう類の作品じゃありませんが「軽い気持ちで楽しめる一本」として、オススメです。 [DVD(吹替)] 7点(2019-02-22 20:21:58)(良:1票) |
147. ナーズの復讐 集結!恐怖のオチコボレ軍団
《ネタバレ》 劇中にて「ナーズにも人権がある」という演説が行われるのですが、それが大袈裟でも何でもないくらい、彼らが迫害されている事に吃驚。 観ていて可哀想になりますが、基本的にはコメディタッチの作品なので、陰鬱になり過ぎる事も無く、程好いバランスに仕上げてありましたね。 「いじめ問題」を中心とした、堅苦しい作品となっていてもおかしくなかったのに、娯楽作品であるという線引きを忘れず「ナーズの青春」を感じさせるような、良質な学園ドラマとして完成させている辺りは、本当に見事だと思います。 最初の体育館暮らしの時点で「飛び級してきた男の子」「ゲイの黒人」「不良」「日本人」などの、後にメインとなる面子が、しっかり目立っていた辺りも良いですね。 主人公二人が眼鏡を掛けていて、見分けるのが難しいコンビであったのに比べると、この四人組は視覚的にも分かり易いし、脇役として絶妙なバランスだったんじゃないかと。 如何にも学園のマドンナといった感じのブロンド美女に、地味な眼鏡娘という二種類のヒロインを用意している辺りも、心憎い。 個人的な好みの話をすると、前者のブロンド美女には魅力を感じなかったりしたのですが…… 「互いの眼鏡の度の強さが同じという事に、運命を感じる場面」など、後者の魅力はしっかり伝わってきたし、主人公の一人であるルイスと彼女との恋を、素直に応援出来たんですよね。 こういう具合に、観客の好みに合わせて選べるような形で、タイプの違うヒロイン二人を用意してくれたっていうのは、嬉しい限りです。 学生達だけじゃなく、学長とコーチにも「文化系」と「体育会系」という個性を与えている辺りなんかも、上手かったですね。 それまでコーチの言いなり状態だった学長が、主人公達の演説を受けて奮起し、コーチより精神的に上に立って、見返してみせるという形。 これによって「虐待や阻害やイジメを経験した人は、皆さんの中にもいるはず」という主人公の訴えにも説得力が出るし、最後の「逆転」の構図が分かり易くなっているしで、本当に感心させられました。 そして何と言っても…… 皆がボロ家を大掃除するという「住処作り」の場面が、実に楽し気で良い! 無事に完成させた後の、共同生活している描写(主人公が二階から降りてくると、男の子達が見よう見まねでエクササイズしていたり、ポーカーしたり、本を読んだりしている)も、凄く好みでしたね。 こういうの、青春って感じがして良いなぁ~って、憧れちゃうものがありました。 間抜けな感じの効果音が、今となっては流石に古臭いとか、復讐の一環とはいえ女子寮を盗撮するのには引いちゃったとか、色々と気になる点もあるにはありますが、まぁ御愛嬌。 冴えない主人公の学園物という意味では「ロイドの人気者」(1925年)などから通じる王道路線のストーリーだし、この映画自体が後世に与えた影響もあってか、今となっては「どこかで見たような展開」が多い点に関しても、短所ではなく長所なんじゃないかって思えましたね。 「こいつらはメインキャラだな、と思ったら本当にメインキャラだったという展開」「最後は皆に認められるという、お約束のハッピーエンド」など、予想通りではあるんだけど、それが心地良い。 「先が読めて退屈な映画」ではなく「こうなって欲しいな、という観客の願いを叶えてくれる映画」って感じがして、観ていて楽しい一品でした。 [ビデオ(字幕)] 7点(2019-02-19 21:56:40) |
148. 俺たちダンクシューター
《ネタバレ》 ウィル・フェレル主演作の中では本作が一番好き……と言いたいのですが、ウディ・ハレルソン演じるエドの方が実質的な主人公に思える内容な為、ちょっと困っちゃいますね。 とはいえ「途中で主役交代しちゃう出鱈目な映画」ではなく「ギャグパートの主人公はウィル演じるジャッキー・ムーンであり、シリアスパートの主人公はエドというダブル主人公物」だと解釈すれば、良く出来た品だと思います。 バスケシーンも意外と本格的だし「観客を増やす為に色んなショーを行う主人公達」という場面が、試合の合間の良いアクセントになってる。 チャンピオンリングを掴んだベテラン選手だけど、優勝の際にはずっとベンチウォーマーだったというエドの設定も良いですね。 彼が「試合に出てなくても、俺はプロとして戦った」と演説し、チームの意識改革を行うシーンはグッと来たし、完全なギャグ路線かと思って観ていた自分に、心地良い不意打ちを与えてくれました。 そんなエドと、チームで一番才能がある若者のクラレンスとの衝突と和解が描かれ、次第に二人が師弟関係のようになっていく展開も良い。 クライマックスではリーグの首位チームであるスパーズに勝利する訳だけど、当時は戦術として確立されていなかったであろうアリウープを駆使したお蔭で勝利出来たって形になっているのも、上手かったですね。 1970年代の世界を2000年代に描くという利点をフル活用している感じで、ちょっとズルいけど説得力がありました。 クラレンスがスパーズの誘いを振り切る形で、主人公チームのトロピックスを選ぶ場面を劇的に描いたのに、試合後には結局スパーズを選ぶのは拍子抜けとか「背の低い人々には、この世に生きてる理由がない」なんて曲を楽しそうに唄う場面は引いちゃったとか、欠点と呼べそうな場面もチラホラあるんだけど…… 「おふざけギャグ映画かと思ったら、意外としっかりしたバスケ映画だった」というサプライズも含めて、満足度は高めでしたね。 劇中曲の「ラブ・ミー・セクシー」も、最初に聴いた時には何とも思わなかったはずなのに、エンドロールにて流れた際には(もしやコレって、名曲なのでは?)と思えたんだから、全くもって不思議。 それと、ラストの台詞「どこかな、クマちゃん?」は最初意味が分からなかったんだけど、今になって考えるに、あれは映画館だからこその「映画館の中に、劇中で逃げ出したクマがいるかも知れないよ」という、上映中の暗闇に包まれた観客に対しての、恍けたメッセージだったんでしょうね。 その辺も含めて(これは、出来れば映画館で観たかったなぁ……)と思えた、意外な掘り出し物の一本でした。 [DVD(吹替)] 7点(2019-01-30 11:02:20)(良:1票) |
149. ライジング・ドラゴン
《ネタバレ》 「アジアの鷹」シリーズの第三弾……なのですが、ちょっと毛色が違うというか、外伝のような印象も受けましたね。 それというのも、本作の主人公は「JC」と呼ばれており、彼が「アジアの鷹」であると判明するのは終盤も終盤、クライマックスの空中戦においてだったりするのです。 自分としては観賞前から「プロジェクト・イーグルの続編」という気持ちでいたもので、その辺ちょっとチグハグというか、ノリ切れないものがあって残念。 多分これ、作り手側としても意図的に「主人公の正体は不明」にしておき、ラスト間際にて「主人公は、あのアジアの鷹だった」と種明かしして、驚かせる構造にしていたんじゃないでしょうか。 過去二作における主人公のトレードマック「ガムを食べるシーン」が登場するのがラスト三十分ほどになってから、というのもそれを裏付けており、ここで(あのガムの食べ方は、もしかして?)と観客に思わせた後(やっぱり、そうだった!)というカタルシスを与えるつもりだったんじゃないかなぁ……と予想します。 基本的には単独で仕事をこなすイメージのあった「アジアの鷹」が、チームワークを活かして盗みを働く存在になっている事、何時の間にか奥さんまでゲットしていた事など、戸惑う展開が多い辺りも困り物。 さながら「プロジェクト・イーグル」と本作の間に何本も作品があって、その間に仲間が増えたり、ライバルの「禿鷹」と出会ったり、結婚したりしたかのようで、置いてけぼり感がありました。 そんなこんなで、中途半端な予備知識が仇となってしまったパターンなのですが……それでも充分楽しめる作品に仕上がっている辺りは、流石という感じ。 「世界に四枚しかない切手」の内の三枚を破り捨て「世界に一枚の切手」にして価値を高めるシーンなど「物の価値とは何だろう」と考えさせる脚本になっているのは、如何にも「アジアの鷹」シリーズっぽくて、嬉しかったですね。 税関を用いた本物と偽物を入れ替えて盗むテクニックには感心させられたし「薔薇を大切にしろよ」という台詞が伏線になっており、それが黒幕の逮捕劇に繋がっている流れも良い。 「戦争によって奪われた国宝を取り戻す」という、やや堅苦しいテーマの作品なんだけど、愛国心やら戦争犯罪やらを訴える役割は新キャラのココが担っており、主人公は「中国という枠組みに囚われず、時には英国贔屓な見解を示す事もある」「昔の過ちを今の考えで裁くなんて不可能だと主張する」という中立的な描き方をしている辺りも、上手いバランスだなと思えました。 全身ローラースーツや、カメラと脚立を駆使したアクション。 それに、画面を華やかに彩る美女達の存在も、忘れず盛り込まれており、このシリーズにおける「お約束」「娯楽性」を忘れていないなと感じさせる辺りも嬉しい。 また「戦っていた敵であっても、目の前で死にそうになると、咄嗟に助けてしまう」「最初は敵対していた相手とも、なんだかんだで仲良しになる」というシーンが印象的に描かれているのも本シリーズの特徴であり、その点はヒューマニズムならぬジャッキーイズムといったものを体現していた気がしますね。 生まれてきた赤ん坊に「世界平和」という意味の名前を付ける辺りも、如何にもジャッキーらしくて好きです。 一作目においては「何よりも金が大事」という考え方だった主人公。 そんな彼が、二作目において「金よりも大事なものがあるんじゃないか?」と疑問を抱くようになり、三作目において「金よりも家族が大事だ」という結論に着地する。 三つの映画を使って、少しずつ主人公の考えが変わっていく様を描いてきたからこその感動があり、妻と仲間に囲まれて幸せそうな「アジアの鷹」を描いて終わる本作は、やっぱり嫌いになれないです。 アクション大作からの引退を決意しての、記念すべき一品という事で、主人公の妻役にジョアン・リン(=私生活においてもジャッキー・チェンの妻である女優さん)を起用する遊び心なんかも「そう来るか!」という感じがして、ニヤけちゃいましたね。 自分としては(妻になったのは誰? メイ? エイダ? エルサ? 桃子?)と、過去作の女性キャラクターを色々思い浮かべていただけに、完全に意表を突かれた形。 この「主人公の妻」のチョイスに関しては、それだけ「アジアの鷹」というキャラクターがジャッキーに愛されており、文字通りの意味で「ジャッキーの分身」と呼ぶに相応しい存在である事を証明してくれたかのようで、ファンとしては感慨深かったです。 妻だけでなく、ジャッキーとしても、これまで頑張り続けてきた自分に「お疲れ様」と伝えてあげる……そんな意図があった映画なんじゃないかな、と思えました。 [ブルーレイ(吹替)] 7点(2018-10-18 11:43:47)(良:2票) |
150. U.M.A レイク・プラシッド
《ネタバレ》 数あるワニ映画の中でも、最も好きな一本。 「面白い」ではなく「好き」なタイプの映画である為、感覚的なものを伝えるのは難しいのですが……とにかく定期的に観返したくなる魅力があるんですよね。 監督さんが「ガバリン」や「ハロウィンH20」「フォーエヴァー・ヤング」という、自分好みな品を色々手掛けている人なので、波長が合うのかも? 何気ない場面や、ちょっとした音楽にも(あぁ、良いなぁ……)と感じてしまうんだから、とことん自分とは相性の良い作品なのだと思われます。 典型的な「誤解を招く邦題」である事。 作中での牛の扱いが可哀想である事。 メインとなる登場人物達が皮肉屋揃いで「良い子ちゃん」とは掛け離れている事。 などなど、欠点と呼べそうな部分は幾らでもあるんですが、それより長所の方に注目したい気分になるんですよね。 雄大な自然を捉えた空撮画面が美しくて、それを眺めているだけでも楽しいし、川辺でキャンプして焚き火したりと「レジャー」「アウトドア」的な魅力を味わえる辺りも嬉しい。 一応、作中で死人も出ているんだから、シリアスな空気になっても良さそうなものなのに、どこか皆ノンビリしていて「楽しいワニ釣り」めいた雰囲気すら漂っている。 それは「緊迫感が無い」という短所でもあるんでしょうが、自分としては「そこが良いんだよ」って思えました。 巨大ワニが実は二匹いたというオチにして「殺さずに捕獲出来た達成感」「ミサイルで派手に吹っ飛ばした爽快感」を、それぞれ一匹ずつ味わえる形になっているのも良いですね。 (そりゃあ無事に捕まえられたら一番だけど……保安官が持ち込んだ小型ミサイルの伏線もあるし、どうせ殺すんでしょう?)と予想していただけに、適度な意外性を味わう事が出来ました。 そして何といっても、最初は喧嘩ばかりしていた主人公四人が、一連のワニ騒動を通して仲良くなっていく姿が微笑ましいんですよね。 それも、物凄く強固な友情が生まれるとかじゃなくて「病院に付き添う」「一緒に飲みに行く」程度に留めているのが、程好いバランス。 最後も「まだまだ赤ちゃんワニが沢山いた」というバッドエンドのはずなのに、妙に明るく〆ているのも良かったです。 ワニを飼ってるお婆ちゃんは、そりゃあ道義的に考えれば「悪」なんだろうけど、彼女にとってワニは「可愛い子供達」な訳だし、それが全て奪われずに済んだという、一種のハッピーエンドにも感じられました。 この後、続編映画が色々と作られて、最終的には「アナコンダ」とクロスオーバーした「アナコンダ vs. 殺人クロコダイル」なんて品まで生み出す事になる本作品。 シリーズ化されるのも納得な、確かな魅力を備えた一品でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2018-06-08 09:37:39)(良:2票) |
151. LOST ISLAND ロストアイランド
《ネタバレ》 こういう家族旅行を題材とした映画、好きですね。 一応、無人島でのサバイバル生活が主となっているのですが、緊迫感なんて欠片も無し。 終始のんびりとしたムードが漂っており、誰かが死んだりする事も無く、安心して楽しめる作りになっています。 子連れの女性と同棲中で、この旅行の間にプロポーズしようと考えている主人公。 そして、彼女の連れ子である年頃の娘と、幼い息子という四人組構成なのも、非常にバランスが良い。 子供達は「肉体派の姉であるインザ」と「頭脳派の弟であるマックス」という形でキャラ分けされているのですが、このマックスの方がとにかく優秀で「水源を見付ける」「火を起こす」「発電機を作って、無線で救助を求める」と大活躍しちゃうのも、如何にもファミリー映画って感じがして、良かったですね。 姉の方も思春期の娘らしく「いずれ父親になるかも知れない他人」である主人公に対し「最初は冷たい態度を取っていたが、徐々に心を開いていく」という、お約束の展開を繰り広げてくれるのだから、嬉しい限り。 「ファミリー映画なら、こういう要素が欲しい」と思える部分が、しっかり備わっている訳だから、それだけでも満足度は高くなるというものです。 予算の関係なのか「トカゲを仕留める場面」や「蛇に噛まれる場面」を直接映像として見せてくれないのは寂しいし「何故か皆して同じ島に流れ着く」「毒蛇に噛まれてもアッサリ解毒出来ちゃう」など、脚本にも粗が目立ちます。 でも、そういった諸々の欠点よりも…… ・フリン船長に子供達が懐いてしまい、主人公がヤキモチを妬いて空回りする。 ・ラストシーンにて、主人公がマックスを「私の息子です」と誇らしげに紹介してみせる。 という、好きな場面の方に注目したくなるような、独特の愛嬌があるんですよね。 優れた映画、完成度の高い映画、という訳では決してありません。 正直、面白い映画だったと言うのさえ躊躇われます。 でも、好きな映画であるという一点に関しては、疑う余地が無いですね。 「無人島での冒険を通じて、仮初めの家族が本当の家族になれた」と感じられるハッピーエンドまで、楽しい時間を過ごせました。 [DVD(吹替)] 7点(2018-03-29 13:06:27) |
152. もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
《ネタバレ》 高校野球を題材にした映画としては、良く出来ていると思います。 才能はあるけど問題児なエース、苦労性で縁の下の力持ちな正捕手、足だけが取り得の代走屋、少女のように華奢で小柄な遊撃手と、漫画的で分かり易いキャラクターが揃っているし、マネージャー三人も「元気な子」「内気な子」「病弱な子」と色分けされている形。 ブラスバンドの演奏にはテンション上がるものがあるし、九回裏に先頭打者が凡退して悔しがる姿なども、きちんと描いている。 試合前に円陣を組み「程高、勝つぞぉっ!」と皆で叫ぶ場面も、気持ち良かったですね。 投球フォームやら何やらに違和感があるし、ヒロインが重そうに金属バッドを振っているのに「フォンッ」と鋭く空を切る音が聞こえちゃう場面なんかは頂けないけど、まぁ仕方ないかと納得出来る範疇でした。 でも、根本的な問題があって…… そういった「王道な高校野球もの」としての部分は面白い反面「ドラッカーのマネジメントを読んで、それを高校野球に活用する」部分が微妙という、困った事になっているんですよね。 タイトルに関しても偽りありというか、これなら「もし高校野球の女子マネージャーが余命幾ばくもない病気だったら」の方が正確だったんじゃないかと。 そのくらい「病弱な子」の存在感が強く、ヒロインの陰が薄かったように思えます。 作中で行われる「イノベーション」の内容についても、どうにも疑問符が多いんですよね。 「部内でチーム分けを行い、競争意識を高める」「吹奏楽部に演奏を頑張ってもらう」などについては(それ、当たり前の事じゃないの?)と思えちゃうし、ノーバント作戦はともかくノーボール作戦に関しては、ちょっと説得力が足りていなかった気がします。 多分、ノーコンで悩んでいた石井一久が「全球ストライクゾーンに投げろ」と言われてから活躍するようになった逸話を踏まえての事なのでしょうし、エースの慶一郎が150キロ左腕なら可能かも知れませんが、そんな怪物投手という訳じゃないみたいですからね。 もうちょっと「この投手なら、全球ストライクで勝負しても抑えられる」と思えるような場面が欲しかったところ。 ・エースの慶一郎=「病弱なマネージャーと良い雰囲気になる」→「仲間を信頼し、最終回のマウンドを他の選手に託す」 ・キャッチャーの次郎=「ヒロインと良い雰囲気になる」→「病弱なマネージャーの為に本塁打を放つ」 ・遊撃手の祐之助=「エースとの間に確執がある」→「ヒロインの話を参考にしてサヨナラ打を放つ」 という形になっているのも、何だかチグハグに思えましたね。 チーム内で色んな人間関係があるのは結構な事ですが、本作の場合は「エースと遊撃手」の二人「キャッチャーと病弱なマネージャー」の二人というグループに分けた方が自然だった気がします。 そうすれば…… ・「エラーを巡って喧嘩していた慶一郎と祐之助が、和解する」→「慶一郎は仲間を信頼するようになり、マウンドを他の選手に託す」→「その心意気に応える為、祐之助がサヨナラ打を放つ」 ・「次郎は幼馴染である病弱なマネージャーと良い雰囲気になる」→「彼女の為に本塁打を放つ」 となるし、後はヒロイン格を「病弱なマネージャー」ひとりに絞りさえすれば、綺麗に纏まったんじゃないかと。 そんな具合に、不満点も多いんですが「仲間にマウンドを託す場面」と「ベンチに置かれた麦わら帽子に手を触れてから打席に向かい、本塁打を放つ場面」の演出は、凄く好きなんですよね。 同監督の作品「うた魂♪」もそうでしたが「観ていて恥ずかしくなるくらいベタな演出なんだけど、やっぱり良い」と思わせるような魅力がある。 最後にセーフティーバントを敢行し「ノーバント」作戦を破る流れについても「そもそも禁止されたのは自己犠牲を目的としたバントなので、問題無い」あるいは「拘りを捨ててでも勝ちたいという強い気持ちがある」と解釈出来て、良かったと思います。 後は……「今年も一回戦負けなので、背番号が全然汚れない」というマネージャーの台詞があったので、決勝戦では「汚れた背番号を誇らしげに見つめるマネージャー」という場面に繋がるのかと思ったら、全然そんな事は無くて拍子抜けしちゃったとか、気になるのはそれくらいですね。 エンディング曲の歌詞は野球と全然関係無かったけど、まぁそれは「熱闘甲子園」などにも言える事だし、明るく爽やかな青春ソングなので、違和感も無かったです。 この後の程高野球部が、甲子園でどこまで勝ち進むのかも観てみたくなるような……劇中のチームに愛着が湧いてくる、良い映画でした。 [DVD(邦画)] 7点(2018-03-09 16:32:40)(良:1票) |
153. コンプライアンス 服従の心理
《ネタバレ》 これ、とんでもない話ですね。 実話ネタという予備知識が無い状態で観ていたら、流石に呆れて「リアリティに欠ける」とツッコミを入れちゃっていた気がします。 この手の「異常な状況下における人間心理」を描いた映画は過去にもありましたが、舞台となるのが大学やら疑似刑務所やらではなく、身近な場所であるファーストフード店であるという点も面白い。 それゆえに、被害者である店員達が等身大に感じられるし、日常の中で起こった事件の異常性も、より際立ったように思えます。 恐らくは映画オリジナルの要素として、冒頭部分に ・「従業員を、ちゃんと教育していない事」を責められる女性店長 ・「今クビにされると凄く困る」と同僚に話す被害者女性 ・両者には「婚期を逃した年増女」と「恋人が複数いる若い女」という溝がある という伏線を張ってあるのも上手い。 ただでさえ現実味の無い事件なのだから、そういった細かい部分で少しでも物語に説得力を持たせようという、作り手の心配りが感じられました。 被害者だけでなく、悪戯電話を行う犯人側の描写も、これまた丁寧で、いやらしいんですよね。 「全ての責任を負う」「出来れば穏便に済ませたい」という台詞を、如何にも頼もし気に口にしたり、かと思えば「君なら警察官になれるよ」「店長の鑑だな」と煽てたりして、被害者達を巧みに操ってみせている。 特に呆れたのが「誰がこんな事、好きでやるか。そんな奴どこにもいない」と、好きでやっている犯人自身が言い放つシーン。 とびきり皮肉が効いている演出であり(本当に酷い奴だなぁ……)と思わされました。 観客としては、そんな犯人が早く捕まってくれるのを望む訳ですが、中々そうは行かず、ついに「性行為の強要」という決定的な犯罪が行われ、気分がドン底に落ち込んだところで、颯爽と「冷静な第三者」であるハロルドが現れ、場の空気を一変させてくれる流れも良いですね。 揺れ幅の大きさが快感になるというか、本当に安堵させられるものがあり「おい、あの男の命令はおかしいぞ」とハロルドが言い出した時には、もう拍手喝采したい気分になりました。 その後「犯人には幼い娘がいて、家庭では良き父親である」「今回だけでなく、同様の事件が他の州でも起きていた」「犯人はセキュリティ関係の仕事をしている人間だった」と、衝撃の事実を次々に明かしていく訳ですが、ここであまり時間を掛け過ぎず「ようやく犯人から解放された」という安堵感の余韻を残したまま、最短時間で終わらせる構成も見事。 欲を言えば「果たして店長は加害者だったのか? それとも被害者だったのか?」という問題提起だけでなく、犯人に決定的な厳罰が下される場面も欲しかったところですが、そこは実話ネタの悲しさ。 逮捕を匂わせるシーンだけで終わっており、勧善懲悪のカタルシスを得られなかったのが、唯一残念でしたね。 同事件を元ネタにした作品としては「LAW&ORDER:性犯罪特捜班」というドラマの第二百話「権力と羊」が存在し、そちらでも犯人が曖昧な最期を迎えたりするので、実にもどかしい。 せめてフィクションの世界では、スッキリと事件解決させて欲しかったものです。 [DVD(吹替)] 7点(2018-03-01 08:33:59)(良:1票) |
154. バレンタインデー(2010)
《ネタバレ》 普通ならクライマックスに発生するだろう「プロポーズの成功」が冒頭にて起こる為(これは、どんな話になるんだ?)と興味を引かれる構成になっているのが上手いですね。 パターンとしては「その後なんやかんやあって破局しそうになるが、何とか無事に結婚する」「幸せの絶頂にあった主人公だが、プロポーズした相手と別れる事になってしまう」という二通りの展開がある訳ですが、本作は後者の方。 ただ、肝心の「プロポーズを受諾したはずの女性が、断ってみせる理由」が弱いように思え、残念でしたね。 よりにもよって「仕事人間だから、自分のキャリアを捨てられない」って……身も蓋も無い言い草ですが(じゃあ最初からプロポーズ受けたりするなよ)とツッコみたくなります。 他の登場人物については「実は○○だった」という形で素敵なオチが付いていたものだから、この「プロポーズを断った女性」にも「種明かし的なオチ」が付くんじゃないかと思っていたのに、中盤以降は全く絡んで来ないというのも拍子抜けです。 ここに関しては、もうちょっと何とかして欲しかったところ。 と、そんな不満点もありますが、全体的には面白かったし、何よりも「バレンタインデーらしい、幸せな気分に浸れる」という、素敵な映画でしたね。 何気ないシーンの合間にも、恋人同士でキスする姿が描かれていたりして、なんとも微笑ましい。 上述の「実は○○だった」オチについても「幼い少年が恋心を抱いていた相手は、仲の良い同世代の女の子ではなく、ずっと年上の先生だった」「軍人の女性が会いに行く相手とは、離れ離れで暮らしている息子の事だった」という形になっており、凄く良かったと思います。 アメフトの選手が引退会見をするのかと思ったら「僕はゲイです」と記者達の前で告白し、それによって別れていた恋人と復縁する流れなんかも、綺麗に繋がっていたかと。 この辺りの「登場人物の運命が、少しずつ交差して繋がっていく快感」については、同監督作の「ニューイヤーズ・イブ」よりも優れていた気がしますね。 印象的な台詞も幾つかあって、それがロマンティックな代物だけじゃなく、コメディタッチな面白い台詞もあったりするんだから、嬉しい限り。 子犬を抱いたオバサンの「一分で着替えてくるから、私も交ぜて」って一言なんて、本気なのか冗談なのか、もう気になって仕方ないです。 「バレンタイン大嫌いディナー」に集まった女性陣が「結婚してやがった」「同じ男だった」などと恋人に対する怒りを呟きながら、憂さを晴らすべく騒いでみせる姿なんかも、凄く好き。 ロマンティックな台詞としては……色々あって迷うけど「その美女って、お婆ちゃんだったんだ?」「お婆ちゃんは今でも美女だ」という孫と祖父とのやり取りが、一番良かったと思いますね。 この孫というのが「年上の女教師に恋した少年」「久し振りに母親と再会出来た息子」と同一人物だったりする訳だから、数多くいる登場人物の中でも、特に印象深い。 可愛らしいルックスだし、言動も健気だし、花屋の男性との不思議な関係性も良かったしで、本作のMVPには、彼を推したいくらいです。 ラストの恋人同士のキスシーンにて「イマイチだった」という一言を漏らす女性には(おいおい、最後の最後でそれかよ)と落胆しかけたのですが、その後しっかり「だったら練習しなきゃ」とフォローが入る形になっており、再びキスしてハッピーエンドで終わってくれるのも、嬉しかったですね。 NG集における「プリティ・ウーマン」を連想させる発言は微妙に思えちゃいましたが、まぁ御愛嬌。 念願叶って、バレンタイン当日に観賞する事が出来たし、満足です。 [DVD(吹替)] 7点(2018-02-14 22:49:32) |
155. Mr.&Mrs. スミス
《ネタバレ》 ヒッチコックの「スミス夫妻」を連想させるタイトルですが、特に関連は無し。 それを知って少々拍子抜けする気持ちもあったのですが、内容はといえば、素直に楽しめる娯楽作品でしたね。 後に実生活でも夫婦になったという主演二人の掛け合いも息ピッタリで、銃を用いての夫婦喧嘩や、情熱的な仲直りの風景なんかも、楽しく、面白く、魅力的に演じられていたと思います。 二人で射的遊びをして、ムキになって全弾命中させてしまうという「殺し屋の夫婦」らしいやり取りと、カーテンの好みが合わないという「普通の夫婦」らしいやり取りを、等しく描いている点も上手い。 どちらか片方のみに偏ってしまうと「殺し屋である必要が無い」「余りに一般人とかけ離れているので、感情移入出来ない」という形になっちゃいますからね。 その点、この主人公夫婦は非常に親しみやすく、それでいて有能な殺し屋である事も、しっかり伝わって来る。 妻のジェーンは「思い出のぬいぐるみを破かれて、嫌そうな顔をする」「エレベーターを部下に爆破された際には、思わず夫の身を案じてしまう」という場面が非常にキュートだったし、夫のジョンも何処か惚けた魅力があって、同性から見ても嫌味に感じないんですよね。 嘘みたいな設定と、嘘みたいに整ったルックスなのに、これほど親近感を抱かせてくれるのは、やはりスターであるアンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットだからこそ、と思えます。 赤ん坊を抱っこするシーンが意味深だったので、伏線かと思ったら全然そうじゃなかった事。 ヴィンス・ヴォーン演じるエディが良い味を出していたのに、主人公夫婦に警告を発する場面を最後に、出番が無くなる事。 「二つの組織を敵に回してしまった」という悲壮感を醸し出していたにも拘らず「気が付けば、襲い来る敵を全員倒していた」という呆気無いオチは如何なものかと思える事。 等々、欠点と呼べそうな部分も幾つか見つかるんですが「面白い」「良い映画だ」と思える部分の方が、ずっと多かったですね。 緊迫したカーチェイスの最中に、二人が「前にも結婚した事がある」「結婚式に呼んだ両親は偽者」と互いの秘密を告白し合い、喧嘩しつつも、しっかり敵を撃退しちゃう場面なんて、特に好き。 結局、ラストにおいても二人は「第一陣」を撃退したのみであり、今後も巨大な組織相手に戦い続ける日々を送るのかも知れませんが(この二人なら、まぁ何とかなるだろう)と思えちゃいますね。 組織の方が白旗を上げて、二人を夫婦と認めて復職させるか、あるいはエディや元部下達の協力も得て、二人が組織の方を壊滅させちゃうか。 描かれていない先のハッピーエンドまで、自然と思い描けてしまう、楽しい映画でした。 [DVD(吹替)] 7点(2018-02-02 14:06:20)(良:1票) |
156. ニューイヤーズ・イブ
《ネタバレ》 前々から観たいと思っていたタイトルを、待ちに待って大晦日に観賞。 この手のオムニバス形式の映画だと、観賞後には「どのエピソードが一番好きだった?」という話題で盛り上がりたくなるものですが、自分としては「仕事を辞めた女性と、メッセンジャーの男性」の話がお気に入りでしたね。 年明けを目前として「今年の誓いリスト」を次々に達成していく様が痛快であり、ベタな表現ですが「これ一本で映画にしても良かったな」と思えたくらいです。 「ハイスクール・ミュージカル」などで、ティーンズの印象が強いザック・エフロンが、髭を生やして働く若者を演じているのも初々しくて良かったし「私、貴方の二倍の歳よ?」なんて言っちゃうミシェル・ファイファーも、実にキュート。 豪華キャストの中でも、この二人が特に光っているように感じられました。 その他のエピソードとしては「新年最初の赤ちゃん」と「エレベーターに閉じ込められた男女」が印象的。 前者にて「新年最初の出産を迎えた夫婦に贈られる賞金」を巡り、争っていた二組の夫婦が、出産後には和解し、片方がもう片方に賞金を譲る形で決着を付ける辺りなんて、とても良かったです。 後者に関しても、男女のロマンスとしては、一番綺麗に纏まっていた気がしますね。 男性が女性を追い掛け「忘れ物」と言ってキスをするシーンなんて、観ていて照れ臭い気持ちになるけど、ベタで王道な魅力がある。 他にも、様々な形で複数のカップルが結ばれており、誰もが幸せになるか、あるいは「悲しみを乗り越えて、一歩前進する」という結末を迎えており、非常に後味爽やかな作りなのも、嬉しい限り。 ・年明けのカウントダウンが主題となっているのに、時間経過が分かり難い。 ・個々のエピソードの繋がりが弱く、複数の流れが一つの大きな結末に収束していく快感は得られない。 ・ラストのNG集は、無くても良かったかも? なんて具合に、気になる点も幾つかありましたが、作品全体を包む優しい雰囲気を思えば(まぁ、良いか……)と、笑って受け流したくなりますね。 大晦日というベストな環境で観られたゆえかも知れませんが、満足度は高めの一品でした。 ……それと、自分の「2018年の誓いリスト」には「バレンタイン当日に『バレンタインデー』を観る事」と書かれている訳ですが、果たせるかどうか。 二ヶ月後を、楽しみに待ちたいと思います。 [DVD(吹替)] 7点(2017-12-31 21:21:26)(良:3票) |
157. バトルシップ(2012)
《ネタバレ》 「レーダーで捕捉出来ない敵との艦戦」という、元ネタのボードゲームを再現した作りに感心。 特に、戦闘のテンポがちゃんと「ターン制」である事なんかは「映画でそれをやるか!」という感じがして、凄く嬉しかったですね。 「味方のターンなので味方が砲撃する」「敵のターンなので敵が反撃してくる」って感じの戦闘描写である為、ワンパターンで飽きてくるという欠点もあるんですけど、ターン制のゲームが好きな身としては、どうにも憎めなかったです。 説明を極力排し「とにかく謎の異星人が敵なんだよ」というシンプルさで押し切ったのも、良かったと思います。 「敵の目的は何?」「なんか侵略してきたわりに戦意が乏しくない?」など、ツッコミ所もあるんだけど、作中でも「人類にとって理解不能の異星人達」として扱われている為、それほど気にならない。 敵艦のデザインやギミックが「トランスフォーマー」を連想させるというだけでなく「ファンタズム」や「ランゴリアーズ」的な球型兵器まで登場して、大いに暴れてくれるもんだから、それらを眺めているだけでも楽しかったです。 地球外生命体をコロンブス、地球人を先住民に喩えるブラックユーモアや、チキンブリトーを盗む場面で「ピンク・パンサーのテーマ」をBGMに流すというベタベタなセンスも、好きですね。 全体的に「王道」「お約束」を大事にした作りとなっており ・「義足の軍人は元ボクサーだと語られる」→「その後に異星人と殴り合う」 ・「臆病な博士がアタッシュケースを持って逃げる」→「土壇場で戻って来てくれて、アタッシュケースで異星人を殴りヒロイン達の窮地を救う」 といった感じに、分かりやすく場面の前後が繋がっている事にも、ニヤリとさせられました。 ラストには、残り一発の砲弾が決定打となって勝つというのも「そう来なくっちゃ!」という感じ。 退役軍人達が集結し、記念艦となっている旧式のミズーリを動かして再戦を挑む流れも熱かったし「皆いつか死ぬ」「だが今日じゃない」という主人公の台詞も恰好良かったですね。 浅野忠信演じるナガタが副主人公格なのも嬉しかったのですが、作中での「サマーキャンプで射撃を習った」という台詞は「夏祭りの射的」の事で良いのかな? と、そこは少し気になったので、答え合わせが欲しかったかも。 他にも「主人公の兄が死亡するシーンが、あんまり劇的じゃない」とか「エンドロール後の続編を意識したかのようなシーンは微妙」とか、細かい不満点も多いんですけど、作品全体の印象としては、決して悪くないですね。 中弛みしているのは否めないけど、終盤のミズーリ復活からの流れは文句無しに面白い為、欠点も忘れさせてくれるようなところがあります。 米国以上に日本での人気が高く「バトルシッパー」なる言葉も生み出したほどの本作品。 カルト映画になるのも納得な、独特の魅力を備えた品でありました。 [ブルーレイ(吹替)] 7点(2017-11-22 15:23:31)(良:3票) |
158. アリゲーター(1980)
《ネタバレ》 「元祖ワニ映画」というよりも「ジョーズの便乗映画」という印象の方が強い一本ですね。 襲い掛かる時のBGMまで似ているし「怪物に襲われたと思ったら、人間による悪戯だった」と判明する場面なども踏襲している形。 これだけ書くと、如何にも粗悪な劣化コピーのようにも思えちゃうのですが、然にあらず。 中々面白く、しかも「JAWS/ジョーズ」には無い本作独自の魅力まで感じられたのだから、嬉しかったです。 主人公が頭髪の薄さをネタにされる件なんて、最初はクスリともしなかったのに、その後も繰り返しネタにしてくるもんだから、つい笑っちゃう。 とうとうワニを倒した後のハッピーエンドの場面でさえ「ママもハゲが好きなのよ。家系らしいわ」とヒロインに言わせて終わるんだから、本当に徹底していましたね。 この主人公のキャラ造形って「真面目な刑事」「過去に相棒を死なせたトラウマがある」「動物好きで優しい」といった具合に、かなり王道なもんだから、ともすれば印象が薄くなりそうなものなのに、この「ハゲ」弄り効果によって、色濃く記憶に残ってくれました。 特撮も現代基準だと結構拙いんですが、頑張って巨大に見せようと撮っているのが伝わってくる為、憎めなかったですね。 小さな車や街の模型を作り、そこを普通のワニに歩かせるシーンなんて(あぁ、こういうの好きだなぁ……)と、しみじみ感じちゃったくらい。 ワニの巨大な眼も不気味に描かれていたと思いますし、子供相手でも容赦無く殺す残忍さも良い。 マンホールの下からワニが飛び出し、咆哮するシーンなんかも「怪獣映画かよ!」とツッコませてくれて楽しかったです。 昔の映画らしく、全体的にノンビリした展開なのですが、そんな中「新しい相棒になるかと思われた若い警官」「鳴り物入りで登場したワニ退治の専門家」などの重要キャラが、あっさり殺されるサプライズも用意しており、観客を飽きさせない作りになっているのですよね。 特に後者は、ワニの糞を見つけ「これはでかい」と大喜びするシーンがコミカルで印象深かっただけに(こりゃあ最後まで殺されないで生き残る立ち位置だな)と予想していたところを、裏切られた形。 あえて欠点を挙げるなら、冒頭にて赤ん坊時代の「ラモン」を飼っていた子が成長してヒロインになった訳だから、人を殺しまくっている巨大ワニが「ラモン」であると、彼女が覚るシーンがあっても良かったかも知れませんが、気になったのはそれくらいでした。 クライマックスにて「爆弾のカウントダウン」と「マンホールから脱出する主人公の姿」を一秒毎に交差させつつ描くシーンなんかは、特に素晴らしかったですね。 ここで気分を最高潮に盛り上げてもらい、そのまま爆発によってワニ退治成功→「悲劇は再び繰り返す」な下水道のワニの赤ちゃんを映してエンドロール突入という、実に綺麗な終わり方。 ラスト五分ほどで、一気に作品の印象を良くしてくれた気がします。 正直あまり期待していなかっただけに、意外な掘り出し物でした。 [DVD(字幕)] 7点(2017-11-07 12:25:47)(良:1票) |
159. 吸血鬼ゴケミドロ
《ネタバレ》 とにかくもう、展開が早い早い。 映画が始まって十分も経っていないのに「旅客機がハイジャックされる」→「不時着する」までを描き、その間にも「血の海のように赤い空」「その中を泳ぐように飛ぶ旅客機」「窓に激突して血みどろになる鳥」と、印象的な場面をバンバン盛り込んできますからね。 「爆弾魔は誰か?」「狙撃犯は誰か?」といった作中の謎も、手早く解き明かし「人間VSゴケミドロ」「人間VS人間」という対立劇に移行する。 その潔さ、割り切りの良さ、実に天晴です。 本作は国内外でカルト的な人気を誇っており、あのタランティーノ監督もお気に入りとの事ですが、その理由の一つは、この「早さ」が心地良いからじゃないかな? と思えました。 作品のテイストとしては、自分の大好きな「マタンゴ」に近いものがあり、ゴケミドロなんかよりも、人間の方がよっぽど恐ろしいと思える作りになっているのも特徴ですね。 日頃恨みを抱いている相手に、喉が焼けて苦しくなると承知の上で、水ではなくウィスキーを飲ませる件なんて、特に印象深い。 また、如何にもな悪徳政治家とその手下だけでなく、金髪美人のニールさんまでエゴを剥き出しにする辺りも、意外性があって良かったです。 ヒロインと並んで「善人側」であると思っていた彼女が、銃を手にして主人公に発砲し、自分だけでも助かろうと足掻く姿を見せてくる訳ですからね。 これは、本当にショッキングでした。 楠侑子演じる法子さんがゴケミドロに操られ「人類の滅亡は目前に迫っている」と語った後、笑って崖から身を投げるシーンも、忘れ難い味があります。 干からびてミイラになり、恐ろしい姿になっていた、その死体よりも何よりも(もしや、最後の笑いと自殺に関しては、操られての事ではなく、自らの意思だったのでは?)と思える辺りが怖いんですよね。 それは人間の意思がゴケミドロに敗北してしまった事の証明、狂気に負けてしまう人間の弱さの証明に他ならず、深い絶望感を与えてくれます。 そんな風に「テンポの良さ」「随所に盛り込まれる衝撃的な場面」などの長所がある為、細かな脚本の粗は気にならない……と言いたいのですが、ちょっと粗が多過ぎて、流石に気になっちゃう辺りが、玉に瑕。 まず、高英男演じる殺し屋は素晴らしい存在感があり、ゴケミドロに寄生されて襲い掛かって来る姿もインパクトがあって良いんですが、これって脚本的に考えると、凄く変なんですよね。 だって彼、最初から主人公達と敵対している殺し屋であり、別に寄生なんてされなくても、元々が銃を使って争っていた相手なんです。 にも拘らず寄生されてからはゾンビや吸血鬼よろしく、ゆっくりと動いて襲い掛かって来るのだから「見た目が怖くなっただけで、むしろ敵としての危険度は下がっている」訳であり、これは明らかにチグハグ。 ベタかも知れませんが、こういった寄生型の場合「本来なら敵対するような間柄じゃなかった相手に襲われてしまう」「善良だった人物が化け物に変わってしまう」という形の方が、よりショッキングだったんじゃないかなと。 もしかしたら「ゴケミドロよりも人間の方が恐ろしい。だからこそ寄生される前の方が危険な存在だった」というメッセージを意図的に盛り込んだのかも知れませんが、それならゴケミドロなんか襲来しなくても人類が勝手に自滅したという結末の方が相応しい訳で、やっぱりチグハグ。 脚本上の難点は他にも色々とあるのですが、自分としては、そこが一番気になっちゃいました。 ただ、バッドエンドが苦手な自分でも、本作の「人類滅亡エンド」に関しては、不思議と受け入れられるものがありましたね。 最後まで善良さを保っていた主人公とヒロインが、直接死亡する描写が無い事。 「宇宙の生物は、人間が下らん戦争に明け暮れている隙を狙って攻撃しようとしている」との言葉通り、戦争批判が根底にある事。 そして何より「人類が戦争を続けていると、何時かこうなっちゃうかも知れないよ」という反面教師的なメッセージが込められているからこそ、観ていて嫌な気持ちにならなかったのだと思われます。 そういった具合に、歪だけど不思議と整っていて、もしかしたら凄い映画なんじゃないか……と錯覚しそうになる。 そんな絶妙な、しかして危ういバランスこそが、本作最大の魅力なのかも知れません。 [DVD(邦画)] 7点(2017-10-28 06:41:00)(良:3票) |
160. 子連れじゃダメかしら?
《ネタバレ》 「最低男と思われた彼が、実は良い奴だった」という意外性ありきのストーリーなのですが、本作に関しては主演がアダム・サンドラーという事もあり「実は良い奴だって事はバレバレ」なのが残念でしたね。 他にも、ヒロインが仕事中に雇い主の服を盗み着したり、文字通り服を持ち出して盗んでみせたりと、ちょっと「嫌な女」に思えてしまう事。 そしてパラセーリングの場面にて、地面にいる動物達が合成映像だと丸分かりで興醒めしてしまった事などは、欠点と言えそう。 「ママの幽霊」「浮気性の元亭主」などの要素についても、完璧な決着が付いておらず、宙ぶらりんな印象です。 でも、それらを考慮しても面白い映画であり、面白さ以上に(好きな映画だな)と感じさせてくれるものがありました。 そもそも、この主演二人の組み合わせの時点で「50回目のファースト・キス」が好きな自分としては、嬉しくなってしまうのですよね。 フランク・コラチ監督に関しても、作品履歴を眺めれば「好きな映画」ばかりなのだから、本作は自分との相性が、凄く良かったのだと思います。 好みじゃない相手とのデート中に、友人から電話を掛けてもらい「緊急事態」と言って逃げ出す作戦を立てていたら、相手側に全く同じ手をやられ、逃げるより先に逃げられてしまったという導入部から、もう面白い。 他にも、全く同じ車に乗っているとか、動きが逐一シンクロしているとか、そういった伏線を丁寧に張っていき「行動パターンの同じ男女二人が、同じように考えて、同じアフリカ旅行に参加する」ストーリーとして繋げてみせるのが、とても気持ち良かったです。 本作はラブコメであると同時に「家族モノ」「旅行モノ」でもあり、三つの意味で楽しめる、贅沢な品に仕上がっているのも良かったですね。 主人公とヒロインの家族は、男親と娘達、女親と息子達という組み合わせであり、お互いに「男同士」「女同士」で仲良くなっていく流れなのも微笑ましい。 アフリカ旅行する楽しさが、しっかり描かれている点も嬉しかったです。 初めてホテルを訪れたシーンでは(うわぁ、良いなぁ……)と感嘆させられるし、朝の訪れと同時に、大欠伸する豹の姿を映すのも(舞台がアフリカだからこそ)と思えて、雰囲気を盛り上げてくれる。 基本的には王道展開であり、主人公とヒロインは無事に結ばれる訳ですが、脇役関連のストーリーについては、結構こちらの予想が外れたりする辺りも、面白かったですね。 ヒロインの雇い主である金持ち家族も再登場するだろうと思っていたけど、そうじゃない。 喧嘩している息子と娘同士が結ばれるんじゃないかと思っていたけど、そうじゃない。 その一方で(これは結ばれないオチだろう。失恋した彼女をヒロインが慰めてあげて、主人公との距離を縮めるイベントにするはず……)と思っていた、主人公の娘と「吸血鬼系男子」との恋が実ったりするもんだから、もう吃驚です。 そういったサプライズがあるからこそ(流石に主人公とヒロインが結ばれないって事は無いだろう)と思いつつも、最後まで程好い緊張感を味わいながら、楽しく観賞出来た気がします。 それと、上述の娘に関してですが、作中に出てくる男共が悉く彼女を「男の子」に間違えるというのは、ちょっと無理がある気もしましたね。 「少女と見紛うほどの美少年」に思えない事もありませんが、それにしても髪型や口紅の色などは、もっと中性的に寄せた方が良かったんじゃないかと。 その方が、髪型を変えて女の子らしくなった時のギャップも際立ったように思えます。 そんな娘と結ばれた彼氏くんの両親も、旅先のホテルの従業員達も、これまた良い味を出しており、お気に入り。 勿論、娘達と、息子達も魅力的であり、特に娘達の方なんてもう、可愛くて仕方なかったです。 父親から「彼女を愛している」という言葉を引き出して、ガッツポーズを取る姿には、思わず(天使か!)とツッコんだくらい。 クライマックスには「少年野球の試合」という山場を用意し、盛り上げてくれるのも良かったですね。 ヒロインの息子が、主人公の応援を受けて、見事にヒット(=ランニングホームラン)を放ってみせる。 そして、勝利の興奮の勢いそのまま、主人公がヒロインに告白して、無事に二人が結ばれる。 その後はもう、アフリカから駆け付けた(?)面々も気球の上から祝福して、エンディング曲は子供達が唄ってくれてと、好き放題やっている感じで、最後まで笑えて、楽しくて、面白い。 色々と滅茶苦茶だし、整合性は取れていないかも知れないけど、そんなの吹き飛ばしてみせるだけのパワーが感じられました。 こういう映画、好きです。 [DVD(字幕)] 7点(2017-10-07 06:51:40)(良:1票) |