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1.  牧野物語 養蚕篇 -映画のための映画- 《ネタバレ》 
映画の中で木村サトさんから養蚕を学ぶ小川プロのスタッフ、白石洋子氏が次第に手馴れていき、カメラの前で解説する言葉も より流暢に、頼もしくなっていくのが感動的だ。 当初は標準語交じりで固い感じだった木村さんの話し言葉も次第にお国言葉が出て打ち解けてくる。  長年の試行錯誤から導かれただろう養蚕の知恵や経験則が詳細に綴られるのにも、ぐんぐんと成長する蚕の生命力にも圧倒されるが、 真摯に作業に取り組むスタッフと、農家の方との協働と交流から深まっていく関係性が画面から滲み出て来るのに打たれる。  陽の当たる庭先で木村さん母娘と白石氏が並んで語る、その前を白い蝶がすっと横切る幸福感。
[DVD(邦画)] 8点(2017-01-20 19:06:40)
2.  人生劇場(1972) 《ネタバレ》 
『加藤泰、映画を語る』によると、当時は田宮二郎の吉良常の評判が悪かったらしいが、監督も誉めているように田宮二郎は大健闘だと思う。 時に愛嬌を、時に哀愁を、そして凄みを滲ませる芝居は絶品だろう。彼が病臥して以降のドラマが少し長く感じられるきらいもあるが、 シネスコ画面をフルに使った低位置カメラよって特権的なまでに長々と横臥する終盤の彼の芝居は独壇場である。  屋敷の縁側と、その遠景にミニチュアの機関車を走らせて見事な奥行きを表現したセット撮影の技。 随所に挟まれる特徴的な橋と水路、あるいは路地の情景の味わい。 その川縁を手を取り合い走って駆け落ちしてゆく賠償美津子と香山美子のショットが素晴らしい。
[DVD(邦画)] 7点(2016-12-12 23:54:19)
3.  野性の少年 《ネタバレ》 
トリュフォーが演じるイタール博士が幾度か立ち寄るレムリ一家は、クロード・ミレール監督一家のカメオ出演だという。 そのクロード・ミレールが、ヴィクトール少年(ジャン=ピエール・カルゴル)にせがまれ手押し車に乗せて遊んでやるシーンがあるのだが、 そこでの彼はちょっと強張ったようなぎこちない表情を見せる。職業俳優なら間違いなくもっと楽しそうな笑顔を演じるところだろうが、 逆にその芝居気無しの無骨な表情が何ともいい味を出しているのである。あわせて、夫人の素朴な佇まいも生来的だろう清楚さを醸し出している。  自然と文明を区分するかのように、窓辺や玄関戸といったルノワール的ショットが頻繁に登場し、ヴィクトール少年はその境界の窓辺に立って窓外を見やる。 ミルクを意味する「レ」をようやく少年は発音する。その感動的なシーンを引いた位置から見守るカメラの慎ましさがいい。
[DVD(字幕)] 8点(2016-10-27 21:46:44)
4.  あゝ野麦峠 《ネタバレ》 
鹿鳴館で社交ダンスを踊る婦人のドレスの裾とクロスカットされる、雪の中を歩く女工らの足。 そこから続く峠越えシーンのロングショットが『アギーレ 神の怒り』にも引けをとらないほど圧巻のスケールである。  撮影スケジュールとしては逆なのだろうが、ラストの秋の峠もまたヒロインを労わるような情緒があり素晴らしい。  工場内の再現も本格的であり、工場群のミニチュアのショットも精巧に手掛けられている。 さらに感心するのが、女優達の手作業を捉える横移動のショットである。糸をとる作業の様子は非常に高度な技能を要するものであることが わかるが、これを多くの女優らがそれぞれ実演するのをバストショットで丁寧に披露していく。 女工になりきった女優たちの真剣な表情、佇まい、本格的な手捌きが非常に美しい。 現在なら、本職の方が作業する手元のショットと、女優の表情のショットを別撮りするしかないだろう。  そうした作り手の心意気の滲むこの横移動ショットは、ラストの舞踊と再びクロスカットされてさらに情感を煽る。  一方では心中のエピソードの直後に祭りの明るいシーンが入れたりと、ウェット一辺倒な作劇は回避しようとしているのがわかる。 大竹しのぶらがみせる「生き生きとした青春の輝き」(『私の映画人生』山本薩夫)に救われる。
[DVD(邦画)] 7点(2016-07-11 23:58:21)
5.  ジャンヌ・モローの思春期 《ネタバレ》 
月の満ち欠けのアバンタイトルに続いて、フランス国民祭の賑わいが窓外から響いてくる。窓辺に佇む少女。  隣りの部屋の窓から身を乗り出す少女と交わされる短い対話によって、戦争が間近であることがわかる。 果たして、通りの嬌声に交じって軍用機の爆音も部屋の中に入ってくる。  美しい田園風景の中を走るバスのロングショットにヒロインのモノローグが被さる。12歳の夏休みにフランス中央部にある父方の田舎に出かけること。 そしてそれが1939年の夏であること。  つまり、フランスが宣戦布告する直前の夏、戦争前夜である。  納屋の干し草に埋もれながら田舎の友達とはしゃぐ。祖母(シモーヌ・シニョレ)と添い寝する。年上の青年にほのかな恋情を抱く。 単に女優の回顧録としても、それらの他愛ないエピソードが夏の光と共にノスタルジーをかきたてるが、 そののどかな暮らしの中ににじり寄る大戦の影(それらはラジオ放送であったりと、さりげない。)が 情景のかけがえのない美しさをより印象付ける。  少女によって開け放たれたオープニングのドアと、祖母によって閉ざされるエンディングのドアが対照を為す。
[ビデオ(字幕)] 7点(2015-12-19 15:20:46)
6.  帰郷(1978) 《ネタバレ》 
チャップリンの『独裁者』の演説がカメラに正対してのもの(つまり映画を見る観客も含めた聴衆に対してのメッセージ)であるのに対して、ジョン・ボイトのスピーチを映し出すカメラはあくまで語りかけられる海兵隊志願の若者達と、語りかける彼の横顔とが中心となる。  同時に、そこでは無言のブルース・ダーンが軍服を脱ぎ捨て海辺に入水するシーンが対比的にクロスカッティングされ、 その慎ましい寸断によってスピーチは抑制的でより深みのある響きを獲得する。 同時にそこでは波打ち際という古典メロドラマ的モチーフが印象的に補強される。  そのスピーチもこう締めくくる。「there's a choice to be made here.」  これら品のある演出によって、そのメッセージ性も押し付けがましくなることなく心に響く。  全編に流れる歌曲は逆に少し雄弁だが。
[DVD(字幕なし「原語」)] 7点(2015-11-29 23:25:20)
7.  地の群れ 《ネタバレ》 
映画に登場する海底炭鉱跡地のロケーションが、モノクロフィルムの質感と共に生々しい存在感をもって迫る。 金網の向こう側に米軍潜水艦が停泊している佐世保軍港を歩く鈴木瑞穂を撮った移動ショットは明らかに盗み撮りだろう。 ここでも物々しい空気がフィルムを通して伝わってくるようである。 被爆者部落の中を縦移動していくカメラの静かなリズムが、それだけで息詰まる迫力を生んでいる。 ところどころに鳴り響く米軍機の爆音もまた観る者の緊張を決して解かせない。  北林谷栄を襲う投石の雨。それをカメラは傍観しない。 暗闇の中からカメラに向かって飛んでくる石礫。トラックのライトに浮かび上がる彼女に、カメラ側から投げつけられる石礫。 両者の軸線上にカメラは位置し、双方に同化する。 観客もまた、石を投げつける側であり、投げつけられる当事者であるということだろう。
[ビデオ(邦画)] 8点(2015-10-29 22:30:49)
8.  軍旗はためく下に 《ネタバレ》 
左幸子が波打ち際に突っ伏し、波をかぶりながら悶えるように嗚咽するショットに激情が迸る。 それは、ラストで砂浜に突っ伏して動かない丹波哲郎のショットとも対になる。  時折入るキャメラを傾けた不安定な構図も、様々な証言に翻弄される彼女の心情とシンクロして効果的だ。  現在パートをカラー、戦中パートをモノクロで分けているが、飯盒に入った肉塊の肌色や米兵処刑シーンの土色、 小隊長殺害シーンの血の赤色など、過去パートにもインパクトのある色彩が不意に飛び込んできて生々しい。  「天皇陛下--」。銃殺の瞬間に(「抗議のよう」に)絶叫する丹波は何を訴えたかったのか。  『大日本帝国』(1982)での篠田三郎の台詞「天皇陛下、お先に参ります。」は脚本家:笠原和夫の巧妙な「逆手」(昭和の劇)だが、 こちらも少々生硬ではあるが新藤・深作・長田なりの痛烈な「一種の高等手段」だろう。  随所でストップモーションをアクセントとするこの映画。ラストは正面を見据える左幸子の表情である。
[DVD(邦画)] 9点(2015-09-10 01:04:00)
9.  ボクサー(1977) 《ネタバレ》 
『あしたのジョー』と『ロッキー』を折衷したような定番物語に 自らのルーツである演劇的な空間も採り入れつつ、 木場等の下町的ロケーションも意欲的に活用する。 当時の現役・元現役プロボクサーの記録映像的な趣向もあれば、 試合シーンに風音を響かせて心象化する実験的試みもある。 (成功しているとは云い難いが) そのごった煮で雑然とした印象が、魅力といえば魅力か。 当時のハングリースポーツ、ボクシングの泥臭さと哀調が強調されていて 独特の風情がある。  清水健太郎のファイトシーンも頑張っている。
[DVD(邦画)] 7点(2015-07-09 23:59:29)
10.  花と龍(1973)
船着場のシーンなどでは海面すれすれからのショットも数多く、相当撮影には 苦労したのではないだろうか。低位置撮影の徹底ぶりには頭が下がる。  映画の中盤、荷役船から陸へと着物の裾を翻しながら軽やかに飛ぶ女の 足元がその水面すれすれからのローアングル&スローモーションで鮮やかに捉えられる。 二役:倍賞美津子の鮮烈な再登場シーンだ。  そして彼女と香山美子がそれぞれ仁義を切る見事なシーンへと続いてゆく。  年月の隔たりが、面影そのままの倍賞と石坂浩二の二役を配することによって よりエモーショナルに印象付けられるのだ。  または渡哲也のメイクの変貌以上に、妻として母親として香山が次第に身に纏っていくタフネス・逞しさとして表現されるのも感動的である。  時に泣き、動揺しつつも、正念場では男たちを諌め、馬を駆り、 ラストでは悠然と煙管を燻らす。  それら彼女の凛々しく健気な表情と佇まいが要所要所で輝いている。 
[DVD(邦画)] 8点(2014-11-09 22:21:16)
11.  トラス・オス・モンテス
夕暮れどき、真直ぐに伸びる一本道を父親が去っていくのを見送る少女。 夕陽を背にした彼女の影が長く伸びている。 父親が小さな点となり、その姿が見えなくなるまで、 彼女は延々と立ちつくしながら何度も手を振る。  その何度か繰り返される小さな身振りと光の推移が、寡黙な時の流れを意識させる。  ラストの宵闇の中を走る列車の望遠ショット。  薄暗い画面の中に列車の吐く白煙が拡がり、滲んでいく。  ショットの長さがそうさせるのか、それとも静寂ゆえか、 寡黙な本作の中でもこの二つのイメージは特に鮮烈で忘れ難い。  ポルトガル北部の山岳地帯。 機織りのリズムや、川遊び、寺院での祈祷など、 映される風土、風物、衣装はそれぞれ極めてローカルでありながら、 同時にその情景は時代と場所を超えた普遍のノスタルジーをもって迫ってくる。 
[映画館(字幕)] 7点(2012-12-11 22:14:05)
12.  群れ
れっきとした劇映画だが、アンカラへ向かう列車から撮られた風景の点描や、 アンカラ市内のゲリラ撮影的な街頭ロケが土着的な音楽の数々と共に非常に生々しい。  手狭な列車内などでは人工照明も不十分なため、 明度も様々な粗い映像となって即物的なリアルを浮き上がらせる。  街中を行進する羊の群れと民族衣装を纏う主人公たちに好奇の眼差しを向ける 市民の表情やリアクションは、演技ではないだろう。 強盗によって喉を掻き切られる羊のショットなども強烈だ。  そうした、フィクションの中に度々介入してくるノンフィクション的なショットとの 絡み合いの構造が、同時代の批評となると共に被写体に緊迫した存在感を与えている。  口をきけなくなりながらも夫を慕う病弱の妻の身振り、籠の中の鳥を慈しむ姿。 長旅によってさらに衰弱したその彼女を背負い、人混みの交差点を彷徨う 夫の献身の姿。そして彼女の死を侮辱され半狂乱となる痛切な姿もまたそこで際立つ。  具体的に提示される羊の数、貨幣の金額もこの映画では重要な要素だ。    
[ビデオ(字幕)] 8点(2012-06-15 23:56:40)
13.  地獄のバスターズ
中盤の城砦戦では城壁の垂直空間を駆使したアクション、そしてクライマックスは鉄橋の高低と列車の水平運動と、火薬量だけでなく空間的広がりも充実した活劇である。  ペキンパー・オマージュのスローモーションもジョン・ウーのような見境無しではなく、節度とメリハリがあっていい。  マイケル・ペルゴラーニの駆るオートバイが立てる水飛沫。爆発による火炎と土埃と、爆風で投げ出されるゲリラなど。しかるべき使いどころが心得られており、効果的にディティールと情感を伝達している。  列車アクションでは、フレッド・ウィリアムソンによる高架から列車天井への飛び降りや、ピーター・フートンによる列車から監視塔への乗り移りなど、俳優の実演をワンカットで捉える気概が頼もしい。  そうしたアクションの素晴らしさもさることながらそれ以上に、キャラクターの多国籍性と言語コミュニケーションの不全がもたらす悲喜劇の妙味を活かした脚本が魅力だ。 タランティーノが惚れたのもそこだろう。  実際、『イングロリアス・バスターズ』で主として活かされるのはこの言語の不自由性という設定のみといっても良い。  ドイツ女性軍人の水浴びシーンや、ボー・スヴェンソンらがドイツ軍用列車に公然と乗り込むシーン等での「言語」をめぐる緊張とユーモアの同居が絶妙だ。 
[CS・衛星(字幕)] 8点(2011-11-14 20:57:47)
14.  0課の女 赤い手錠
作り手が統御し得ない火、水、風の要素が画面内で不定形に狂乱する。  水飛沫をたてながらバスタブに後ろ向きに突っ込んで悶死する一等書記官と、バーのマダム。 泥水の水溜りも、ことごとく画面に飛沫を撒き散らすために配置される。 水責めとバーナー責めの拷問や、真っ赤に噴出する血飛沫、ススキ野原、櫓の炎上もまた然り。 何より眼を奪うのは、クライマックスで過剰なまでに散乱する紙片(即ち、風)の凄まじさだ。 激しく舞い踊る紙片の狂騒ぶりが理由もなく活劇的に映画を盛り上げる。  杉本美樹の無表情、室田日出男や郷英治の神経症的な顔面を際立たせるネオン照明の照り返しも秀逸だ。  ヒロインの受ける拷問、傷跡、バスタブ、風、そして破り捨てられる警察手帳は、 どことなくイーストウッド譲りといった趣。 
[DVD(邦画)] 8点(2011-07-15 23:08:18)
15.  ジャガーノート
アバンタイトルは、染みのついた白地のぼやけ気味のストップモーション。その焦点が合うと、客船の船体を背景とした「赤」と「青」の紙テープである事が判るという趣向。中盤で犯人が電話をかける電話ボックスの赤と、背後の船舶会社の青による画面分割もまたクライマックスに向けたさりげない映画的伏線といえる。  タイタニックから時を経て、階級差別から人種差別へ、変わらぬ格差社会を料理廃棄の反復とアジア系給仕の悲劇を以ってシニカルに描出する批評性もまたさりげない。 有閑夫人らや、船員同士の何気ない対話もウィットに富んで面白い。  乗客のパニック防止の為に行われる虚ろなパーティを、説話的な必然性のみならず、まずもって処理班の緊張の場との対比として活かした映画的作法も良い。 D・へミングスの爆死が、会場に集った乗客を揺さぶることとなる。  そしてリチャード・ハリスの面構えも独白中継も良いが、曇天と波しぶきの中をローリングする豪華客船現物の重量感と生々しい迫力が断然素晴らしい。 ボートからの仰角視点と空撮を織り交ぜた臨場感あるロケ撮影があってこそ、爆弾処理のサスペンスが各段に引き立っている。 
[DVD(字幕)] 8点(2011-05-07 19:34:20)
16.  ジャン・ルノワールの小劇場<TVM>
フル・セットの河岸の美術と照明が素晴らしい第一話「最後のクリスマス・イヴ」。 富者と貧者の残酷な対置があり、第四話の開放的なロケーションと対照する。  第二話「電気床磨き機」は悲劇と喜劇の融合の究極をいく。きれいに磨かれた床に滑って唐突に死んでしまう夫。生者と死者の語らいが対となり、寒色系を配された人工的な都会の姿もまた、第四話とコントラストになる。  ドレスを着たジャンヌ・モローがシャンソンを歌う第三話「愛が死に絶えるとき」。 ジャンヌ・モローの全身ショットから、顔へのクロース・アップへと移行し、またフル・ショットへと引いていく。 彼女の歌唱を一挙に捉える最もシンプルで最良のワンシーン=ワンカット。  そして、第一・第二話の「死」と対比される第四話「イヴトーの王様」には明るい自然光が溢れ、エロスというルノワール的な主題も浮かび上がらせながら「生」が賛歌される。 ルノワールの父オーギュストも愛した南仏ののどかな田園風景は『ピクニック』(1936)、『草の上の昼食』(1959)以来かわらぬ光と風と色彩でフェルナン・サルドゥーの絶望のみならず視聴者をも癒してくれる。  そして映画は、登場人物すべてが笑い出し、キャメラに向かって整列してお辞儀する、最も幸福で至高の大団円を迎える。  ルノワールが最後の作品で説いたのは、『トレランス』(寛容)だった。  
[DVD(字幕)] 10点(2011-04-16 22:48:45)
17.  原子力戦争 Lost Love 《ネタバレ》 
舞台は、当時から放射能漏れの疑惑を持たれていた福島第一、第二原発。  田原総一朗の原作とATGならではの強みによって、ジャーナリズム問題も絡めながら、電力会社の隠蔽主義を告発する。  ドキュメンタリー出身の故・黒木和雄は初期に『海壁』という東京電力のPR映画を撮ったのち、その贖罪のように本作を撮っている。  電力会社の監視と立ち入り拒否を受けながら撮られたという画面は、映画内容とシンクロしつつ、その画面的制約と不自由ぶりが静かな緊張感を漲らせている。 日中に望遠で撮られた発電所の表層的なまぶしい白と、闇討ちが繰り返される夜間シーンの不気味な黒い画調の対比が特徴的だ。  松林の中を逃げる原田芳雄をカメラが追う中、林の中から幽鬼のように群集が湧き出てくる。そのカメラワークはまるでベルトリッチの『暗殺の森』のようだ。  青く美しい浜辺に打ち上げられ、波を受けながら沈黙する原田芳雄の屍。 その図は三十三年後にして痛烈な象徴性を帯びる。
[ビデオ(邦画)] 7点(2011-04-09 23:57:52)
18.  ドリラー・キラー 《ネタバレ》 
盗み撮りを交えたゲリラ撮影的なマンハッタンロケと画像の粗さが、街の猥雑で荒んだ様相を生々しく伝える。 滑稽感すら漂わせる調子はずれのロックグループやホームレス達が醸しだす気だるい停滞感が、カウンターカルチャーの行き詰まりを如実に物語る。 しかし一見ラフにカメラを廻しているようでいて、蒼暗い街路とスポット的な赤(口紅、シーツ、衣類、血)の意識的配置は終始明確だ。  逆光の中に浮かび上がる主人公のシルエットと電動ドリルの芯の鈍い光の見事さ。 主人公の眼窩に落ちる黒い影の凄み。眼の見えない相貌は、生気や理性を感じさせない。 ガラス越しのイルミネーションを背景にしたドリル殺人の鮮烈なイメージ。 夜の街中、路上のホームレスたちに主人公が無差別的に襲い掛かるアクションの俊敏さ。 そして圧巻といえるクライマックスの緊迫感。  主人公が待ち伏せるベッドの側のルームランプを女性が消灯した途端、画商殺害シーンと同様の「赤」が画面を覆う。 赤一色の画面と女性のモノローグ、そして沈黙というほぼ最小限の要素が、最大限のサスペンスを発揮する。 低予算を逆手にとる積極的な消去法が実現した息詰まるラストが鮮やかだ。 
[DVD(字幕)] 8点(2011-02-03 20:12:48)
19.  パリの灯は遠く
カメラは『召使』のように部屋の間を不穏な感覚を伴って移動しながら、深度の深いパンフォーカスで的確に構図を決めていく。画面奥を動く人物、室内の調度品や絵画類、衣装といった情報密度の高い背景と細部は説話とも密接に連携し、ショットの持続が生む緊張感と相俟って最後まで映画は弛緩することがない。二人のクラインを駅ホームの前景・後景で重ね合わせる構図取りの見事さ、鏡や窓への主人公の映り込みや等身大の影(虚像)を多用した主題の視覚的提示等々、あらゆるショットが細心に設計されている。市街を走り周る黒塗り車の動きの異様な不気味さ、鋭角的なパースをもって強調される駅構内やゲットーの威容(美術:アレクサンドル・トローネル)も圧巻である。随所に深い「緑」を配した渋い色調設計も終始徹底され、夜の路地や移送列車のシーンの、闇の深みも素晴らしい。DVD版の画面は少し明るすぎの感あり。ビデオ版の濃厚な暗さのほうが本来志向された画調のように思われる。
[DVD(字幕)] 9点(2010-05-19 19:59:39)
20.  オルエットの方へ
16mmからのブローアップによる画面の微妙な粗さが、ささやかな異世界というべき夏の海辺と陽光のカラーと相俟っていい味を出している。通奏低音となる波音も同様だ。ジャック・ロジエの長編2作目となる本作の設定もまた、3人娘のヴァカンスというシンプル極まりないもの。本作に限らず、この作家はいかなるシーンも物語に従属させることなく、何よりも場の空気を清新に掬い取り、人間関係の微妙な揺れを的確に捉えることに徹しているようだ。嵐の夜のおしゃべりやうなぎ騒動、海辺での戯れ、乗馬の疾走感等々、、本作の優れたシーンの数々は、物語的にはまったく意味が無いが、それゆえにこそ彼女らの生きる場を捉える画面は豊かさと鮮度を増す。とりわけ、ヨットシーンの滑走とローリングの感覚は格別だ。今流行りの3Dにも全く引けを取らない体感度で、スリルと緊張感、そして波と風と光を受け取ることができる。
[映画館(字幕)] 9点(2010-02-13 20:00:38)
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