レッド・バロン(1971) の やましんの巻 さんのクチコミ・感想

Menu
 > 作品
 > レ行
 > レッド・バロン(1971)
 > やましんの巻さんのレビュー
レッド・バロン(1971) の やましんの巻 さんのクチコミ・感想
作品情報
タイトル名 レッド・バロン(1971)
製作国
上映時間99分
ジャンルドラマ,戦争もの,伝記もの
レビュー情報
実際にジョン・フィリップ・ローなど役者を操縦席に座らせた複葉機が、大きく空中で一回転する。と、役者の真正面に据えられたキャメラは、その表情とともにバックに広がるヨーロッパの田園地帯の風景をも映し出す…。

この「究極のリアリズム」の前には、もはやどんな最新のCG映像も太刀打ちできまい。もちろん空中戦のシーンでも、本当に役者が空を飛ぶ飛行機上で“演技”している。つまり彼らは、その時「本物のパイロット(もちろん、操縦しているのは別人だろうけれど)」として、画面の中で君臨(!)しているんである。そう、彼らは、第一次世界大戦の“空の勇者”を演じるというより、その生身(なまみ)でもってパイロットが見た・感じたままの“現実(リアル)”を「再現」しているのだ。

ロジャー・コーマンの映画は、一連の“エドガー・アラン・ポーもの”をはじめゲテ物と蔑まれるようなB級映画であろうと、ロケーションと美術セットに対する感覚において際立ったものを持っている。彼の監督作を見たなら、そこに映し出される森や池、古い城壁それ自体がドラマを暗示し、見る者をその作品世界へといざなっていくものであることを誰もが認めるだろう。さらに、どんなに低予算であろうと、登場人物以上に「物語」を雄弁に語るあの美術セット。…そう、コーマンは決して役者たちの演技やセリフによるのではなく、あくまで“画”によって恐怖を、悲哀を、官能を、憎悪を、狂気を、…そう言った人間の内面の「闇(=病み)」を描く術において卓越しているのだ。

そんな彼の資質が、この生涯で唯一(?)の大作においても遺憾なく発揮されている。19世紀的騎士道精神を生きる“レッド・バロン”ことリヒトホーフェンの驕慢さと、その背後に隠された「滅びへの意志」。一方の、英国軍パイロット、ブラウンにおける徹底した上流階級に対するルサンチマンとその「破壊衝動」。その相対立する葛藤劇を、コーマンは、役者を複葉機に乗せて飛ばす全編にわたっての空中シーンという形で“画”にしている。言い換えるなら、役者たちというフィジカル(肉体)な“実体”を用いて、メタフィジカル(形而上的)な“精神”を描くこと。そこにこの映画における「野心」があったことを、ぼくは信じて疑わない。

…監督としてのロジャー・コーマンを、今一度ぼくたちは再評価するべきだ。
やましんの巻さん 10点(2004-11-04 16:13:10)
やましんの巻 さんの 最近のクチコミ・感想
投稿日付邦題コメント平均点
2021-05-18ワンダーウーマン 198410レビュー5.85点
ワンダーウーマン10レビュー6.52点
2016-03-29アメリカン・スナイパー10レビュー6.94点
2014-10-29マネーボール10レビュー6.88点
2014-10-28ホワイトハウス・ダウン10レビュー6.58点
2014-10-22カウボーイ&エイリアン7レビュー4.73点
2014-04-05ラッシュ/プライドと友情10レビュー7.48点
2014-04-02ゼロ・グラビティ6レビュー7.63点
2013-11-22ペコロスの母に会いに行く10レビュー6.76点
2013-11-20三姉妹~雲南の子10レビュー7.75点
レッド・バロン(1971)のレビュー一覧を見る


© 1997 JTNEWS