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当初は確かに被害者的な立場だったアイリーンも、単なる金が目的の行きずりの強盗殺人犯に変貌していく。そしてその金も、その日暮らしの生活にと言うよりは、むしろセルビーとの関係を繋ぎ止めておく為であるかのようだ。何とも虚しい二人の関係だが、愛に飢えていた彼女にはセルビーが最後の砦だったのだろう。が、そのアイリーンへの曖昧な愛は、ラストの証言台でのセルビーの姿に象徴される。セルビーの描写の希薄さは、そのままアイリーンへの気持ちの希薄さそのものではないだろうか。そもそも、アイリーンの幼い頃に両親が離婚した事。虐待されて男に憎しみをもっている事。娼婦として体を売って一人で生きてきた事。これらの事はよくある話で、さほど珍しくも無い。ただ、彼女が自暴自棄になって男を殺し続ける事とは本来何の関連性もなく、その生きざまにも必然性が感じられない。映画は決して彼女を美化していないし、ほとんど事実に即して描いているのだろうけど、ありのまま描き過ぎて彼女の行動そのものが即物的な印象を受ける。そして愛を知らずに苦悩し彷徨する人間というよりも、男に憎しみと恨みを抱いているという大義名分を振りかざしている人間にしか見えてこない。だから、一度上手くいった事に味を占め次々に罪を犯す彼女にもはや感情移入などできなくなってしまうのである。それにしても、こういった車での道すがら娼婦を買うという行為は、いかにもアメリカ社会ならではの特徴とも言え、そういう意味でも本作は、この国の病巣と人間関係の不毛さをえぐり出した作品だと言える。
【ドラえもん】さん 8点(2004-10-19 17:40:20)(良:2票)
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