この世界の片隅に(2016) の はち-ご= さんのクチコミ・感想

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この世界の片隅に(2016) の はち-ご= さんのクチコミ・感想
作品情報
タイトル名 この世界の片隅に(2016)
製作国
上映時間129分
劇場公開日 2016-11-12
ジャンルドラマ,コメディ,戦争もの,アニメ,漫画の映画化
レビュー情報
《ネタバレ》 妻投稿■

私は安倍首相が集団的自衛権を容認する憲法解釈をしようが9条改正しようが、日本が再び太平洋戦争と同じ惨禍に見舞われることはないと思う(もし世界戦争に巻き込まれるとしたら今の憲法のあるなし関係ないだろう)。でもクロ現の貧困女子高生がまさしく非国民みたいに(政治家も悪乗りして)日本中から集中攻撃され、憲兵隊気取りの活動家の恫喝にビビってはだしのゲンが閉架となり、「人工透析患者は日本にとってよくないから殺せ」という報道従事者のブログを半分位の人間が支持している現状を見れば、(戦争をリアルでは知らないから何とも言えないが)「ひょっとしたら今の日本は(徴兵制がブラック企業に変わっただけで)もうとっくの昔に戦前に戻っているんじゃないか」という気分になることがある。そういう意味ではこの映画は“自業自得”な「火垂るの墓」と比較して、今の日本人にウケ易い「模範的な戦時下の人たち」の物語にも見える。多分すずさんの逞しさを社会弱者を説教するのに使う人間もきっと出てくるだろう。

でもそんな私のクソみたいな考えをよそに、すずさんはとても楽しそうだ。結婚から食事を作る場面まで…。憲兵隊に長時間説教される場面。今の時代の人間なら「私は諜報なんてしていない」という自分の記憶の方を疑いだすだろう。でも彼女たちはそれを笑ってしまうのだ。食事の場面もジブリとは対極的に食事かクソ不味そうだ。しかし映画を見終わったあとに最初に私が食べた茶碗いっぱいのご飯。それが物凄くご馳走に見えた。こんな昭和20年を舞台にした映画(普通なら飯食う気もなくす)は初めてだ。

でもそんなすずさんですら壊れる事件が唐突に起こる。それでも日常が回っていき、そして戦争が終わったとき、娘を失った義理の姉もすずさんも号泣するのだ。戦争が理不尽で無意味なものだという現実が終わってみて初めて襲ってくる。胸が締め付けられる場面だ。そして原爆の描写。あれを見てからYouTubeで流れているロシアの隕石落下の瞬間を見るのが怖くなった。そのくらいの戦慄の演出。すずの両親が死に妹も原爆症に冒されているという現実を後から知る場面。感情表現ではなくシークエンスだけで観客をすずさんと一緒に呆然(絶望)とさせる。

そこにあのラストを持って来るのだ。右腕を失い、家族と自分の大切な個(絵描き)を奪われたすずさん。そのすずさんの右手は存在しないにも関わらず一人の戦災孤児の少女の手を取る。この演出は時限爆弾を生き残ったすずさんを全面肯定するものだ。おそらくその少女は「マイマイ新子と千年の魔法」のような平和な昭和30年の風景で楽しい思春期を過ごすのだろう。すずさんが立派な反戦家ではなく世界の片隅にいるほわほわな女の子だからこそ、このエンディングの絵は今を生きる人を肯定するものとなるのだろう。人生は誰かの正義や思想の為に否定されていいものではない。この映画は左右(右の人も反戦の人は多い)思想の「模範」である事を拒否し、人間の人生を肯定すること(義姉の生き方も肯定されていた)から戦争を描いた作品なのだ。

DVDを見ての追記■■■■■■■■
北朝鮮の核兵器が落ちてきたとき。私が住む田舎には落ちては来ないだろうが…あんな光と地響きに遭遇し、遠くに見えるキノコ雲を見るんだろうか。
はち-ご=さん [映画館(邦画)] 10点(2017-01-14 01:36:03)(良:5票)
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