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プロフィール
コメント数 2382
性別 男性
自己紹介 〈死ぬまでに観ておきたいカルト・ムービーたち〉

『What's Up, Tiger Lily?』(1966)
誰にも触れて欲しくない恥ずかしい過去があるものですが、ウディ・アレンにとっては記念すべき初監督作がどうもそうみたいです。実はこの映画、60年代に東宝で撮られた『国際秘密警察』シリーズの『火薬の樽』と『鍵の鍵』2作をつなぎ合わせて勝手に英語で吹き替えたという珍作中の珍作だそうです。予告編だけ観ると実にシュールで面白そうですが、どうも東宝には無断でいじったみたいで、おそらく日本でソフト化されるのは絶対ムリでまさにカルト中のカルトです。アレンの自伝でも、本作については無視はされてないけど人ごとみたいな書き方でほんの1・2行しか触れてないところは意味深です。

『華麗なる悪』(1969)
ジョン・ヒューストン監督作でも駄作のひとつなのですがパメラ・フランクリンに萌えていた中学生のときにTVで観てハマりました。ああ、もう一度観たいなあ・・・。スコットランド民謡調のテーマ・ソングは私のエバー・グリーンです。


   
 

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1.  明日に向って撃て!
ニューマン&レッドフォードは映画史に残る鉄壁のコンビですが、意外なことに本作と『スティング』だけなんですね。やはりその中でもこの映画が最高で、彼らとキャサリン・ロスの三人こそベスト・オブ・三角関係と呼んであげたい(対抗馬は『冒険者たち』でしょうかね)。 この映画はよくニュー・シネマ西部劇と言われますが、ニュータイプのウェスタンかもしれないけど私は決してニューシネマじゃあないと思っています。まあ主人公が最後に死ぬということぐらいがニューシネマらしさで、ときにはコミカルそしてノスタルジックな撮り方はニューシネマという範疇を超えていますし、ジョージ・ロイ・ヒルの映画監督としてのセンスの良さを存分に愉しめます。バート・バカラックのサウンド・トラックも彼の最高傑作で、最初に観たときの感動は今でも忘れられません。 映像も音楽も今観直しても全然色あせていない、珠玉の傑作です。
[映画館(字幕)] 10点(2014-08-02 22:52:27)
2.  アメリカン・ビューティー 《ネタバレ》 
いやー、ここまで凄い映画だとは思ってませんでした、間違いなく傑作です。 冒頭のモノローグでスペイシーが殺されるのは判りますが、果たして誰が彼を殺すのかというサスペンスが良い緊張感を生んでぐいぐい観客を引っ張てゆく脚本の巧妙なこと! スペイシー家を含めて並んだ三軒の家のファミリーがみんなそろって変態であったり心の闇を抱えていたりと巧妙な人物造形なのがいいですね(あのゲイのカップルが一番まとも)。スペイシーの演技はあまりに絶妙で、まるで素でカメラの前に立っているみたいです。劇中にはストーリー上のトラップがかけられているのですが、ミーナ・スパーリのロリータぶりにはすっかり騙されましたよ。計算された脚本とカメラのシンクロも見事で、オスカー撮影賞受賞も納得です。本作のシチュエーションはウディ・アレンが撮ってもおかしくない様な題材ですが、ここまでグロテスクに昇華されれば、とんでもない結末とは言え本作は非常にソフィスケートされたコメディであることは間違いありません。
[ビデオ(字幕)] 10点(2010-12-17 22:06:13)
3.  アンダーグラウンド(1995) 《ネタバレ》 
この映画の味付けはコテコテのどろソース風味ですが、奇想天外なプロットを重厚な悲喜劇として見せてくれて、やはりこの監督クストリツァは天才です。彼の映画に欠かせない祝宴シーンは三十分に一度の割合で出てきますが、ヨヴァンの結婚式で花嫁が空中浮遊する場面は素晴らしかった。そしてラストでひょうたん島のように河辺が流れだすシーンには、内戦の果てに消滅していったユーゴ・スラビアという国への惜別がひしひしと伝わってきます。本作は自分にとって『奇跡の映画』です。
[ビデオ(字幕)] 10点(2010-01-07 00:02:56)(良:2票)
4.  悪魔のような女(1955) 《ネタバレ》 
有名な作品だけどほとんど題名だけしか知らず予備知識なしで観ましたが、これがなんと驚愕レベルの大傑作であることに気づかされました。 小規模なブルジョワ家庭の男児だけを預かる全寮制の私立学校(小学校か)。教師は四人しかいなくて女性教師は二人、そのうち一人(ヴェラ・クルーゾー)は実質学校のオーナーで、そのいけ好かない夫が校長だが彼は実業家タイプで教師ではない。もう一人の有能な女教師(シモーヌ・シニョレ)はなんと校長の愛人、つまり妻妾同居というわけです。生徒はともかく他の男性教師や使用人はその関係を知っているという、実に不思議な空間というか学校なんです。横暴極まりない校長は二人の女性を日常的に虐待していて、二人は共謀して校長殺害を計画して実行する。首尾よく彼を溺死させて水死を装うべく学校のプールに沈めますが、自然に発見されるはずの死体はプールの底から消えてしまった… 心臓病を患っていて終始弱気なヴェラ・クルーゾーと、颯爽とした金髪ボブカットで沈着冷静なシモーヌ・シニョレのキャラ造形の対比が見事です。この映画は死体が消えてしまった後半からの展開は、まさに息も尽かさぬという表現がドンピシャリなんです。「これはサスペンス映画のはずだ」と判っているはずなのに、クリーニング屋や集合写真の背景の窓に映る影の件などが続くと「まさかオカルトもの?」と劇中のヴェラ・クルーゾーと同様に観てるこっちまで疑心が湧いてきてしまいます。このストーリーテリングの特徴は、絶対にこれは伏線だと思うようなシークエンスを散りばめているのに、それがみな観客を惑わす地雷になっているところでしょう。こうなると、騙すテクニックに関してはヒッチコックをクルーゾーが凌駕していると考えざるを得ません。 ラストのどんでん返しの展開も、近頃の映画で観られるしつこい説明過多が無くて余韻が強烈です。それにしてもヴェラ・クルーゾーの死にざまは、実際に自分は見たことはないけど、心臓麻痺で死ぬ人はこんな感じなんだろうな、というリアルさでした。そしてラストシーンの子供の言葉、これはホントにゾッとしますね。このテイストはやっぱヒッチコックには無いものなんだよなあ。
[CS・衛星(字幕)] 9点(2023-04-19 22:44:53)
5.  アメリカン・ハッスル 《ネタバレ》 
この映画を観た人は誰しもが納得するところだと思いますが、ワン・シーンだけなんですがデ・ニーロが登場してから緊張感が高まりテンポがすごく良くなるんです。そこまではどちらかと言うとモタモタした展開だっただけに、これは監督が狙ったのか映画の神に愛されているデ・ニーロだからこそ成し得る御業なのか、面白いところです。そしてクリスチャン・ベイル、あそこまで醜く肉体破壊してまで役作りに励む役者魂は、彼こそデ・ニーロの後継者たり得る人物なのかもしれません。良く観察してみると、この映画での彼の演技はなんか若いころのデ・ニーロを彷彿させるものがありました。 終わってみれば主要キャラはみなルーザー(負け)でカタルシスのかけらもないし、映画の登場人物に感情移入出来ることを求める人には耐えられないお話しでしょうね。でも俳優の演技を愉しむという観点からは、主要キャラ四人が全員オスカー・ノミネートというのも納得の逸品だと思います。
[DVD(字幕)] 9点(2015-03-03 23:45:10)(良:2票)
6.  網走番外地(1965) 《ネタバレ》 
良く考えてみると脱獄してからの展開は『手錠のままの脱獄』のパクリみたいなもんですが、そんなことを微塵も感じさせない痛快な作品です。広大な国土のアメリカと違って日本では脱獄は自殺行為だと思ってましたが、こういう風に北海道の最果てなら成功して逃げ切れそうな説得力があります。 いつも通りのストイックで家族思いの高倉健なんですが、この映画の健さんは饒舌とまではいかないにしても良く喋るんです。入浴のシークエンスではハダカで阿波踊りまで見せてくれるんですから、びっくりです。でも随所で流される健さんのナマ歌『網走番外地』には、なんか荘厳な響きすら感じて震えちゃいました。 監督の石井輝男を始めとしてアラカンや丹波哲朗といった新東宝の残党メンバーたちの底力がこの作品を傑作にまで高めたのかもしれませんね。アラカンの鬼寅はさすがの迫力でしたし、丹波が最後までイイ人だったというパターンも珍しい。この映画は本来二本立て興行のBプロとして撮られた小品なんですけど、これでも新東宝の予算じゃ決して撮れない企画なんだから石井輝男も思い残すことなかったでしょう。
[CS・衛星(邦画)] 9点(2015-02-10 20:16:10)(良:1票)
7.  雨に唄えば
これぞまさしく“ザッツ・エンターテイメント”、やっぱ本作が史上最高のミュージカル映画と言うことになるんでしょうかね(個人的には『キャバレー』がトップなんですが)。“Singin’in the Rain”という曲は、『ザッツ・エンターテイメント』のオープニングを観ればMGMのミュージカルで何度も使われてきたことが判ります。でももちろんジーン・ケリーの躍動感あふれるダンスに勝るものはないし、本作以降のミュージカル映画でも彼のパフォーマンスは越え難い壁となって挑戦を跳ね返している気がします。コメディとしても秀逸ですし、「ミュージカル映画は苦手だ」とおっしゃるあなたも一度は観ておくべきですよ。
[CS・衛星(字幕)] 9点(2013-12-01 21:44:22)
8.  悪の階段 《ネタバレ》 
大金を強奪した5人の男女が仲間割れというありふれたプロットなのに、不思議なほど引き込まれる魅力を持った作品です。キャスティングだけでこの映画の評価の8割は決まったとも言えます。山崎勉は『天国と地獄』の竹内銀次郎からさらに人間的感情を削ぎ落してもっと冷酷にした様なはまりキャラです。西村晃がこういう役をするのは別に珍しくはないけど、きっちり期待以上の演技を見せてくれます。一味の中に加藤大介を入れるというのがまた絶妙で、彼としては珍しい犯罪者役ですがやっぱこの人は上手いわ。そしてあの東宝きってのお嬢様女優である団令子が崩れた悪女だというのが驚きです。こういう役は、彼女のフィルモグラフィ中でも唯一ではないでしょうか。 不動産屋の中にほぼ画面が限定される後半は、二階と地下に昇り降りする階段を意識した画面造りには拘りを感じさせます。でもあの水筒のシークエンスはちょっと不自然で、だいいちあんな水筒、お店で売ってないでしょう(苦笑)。それまで山崎勉があまりに怜悧だったから、このシーンにももっと裏があるんじゃないかと勘ぐってしまって拍子抜けしちゃいました。でもこの映画の持つ独特の雰囲気はフレンチ・ノワールを東宝映画調に昇華させることに成功しており、まさに隠れた傑作と呼んで過言は無いでしょう。
[CS・衛星(邦画)] 9点(2013-10-20 20:05:30)
9.  愛のむきだし 《ネタバレ》 
まったく先が読めない展開のストーリー、確信犯的なVシネマチックなB級テイスト、そして忘れたころになって突然出現するメイン・タイトル、いやはやとんでもない映画を観てしまったみたいです。「聖母マリア」「盗撮」「ボッキ」、この三つのキーワードを使って映画を撮るなんてほとんど暴挙と言えるんだけど、破綻しそうなストーリーが最後には感動させてしまう園子音のオリジナリティは、TV局と広告代理店が企画した駄作のオンパレードだったゼロ年代の邦画界にあっては奇跡の様な偉業に違いありません。満島ひかりが“コリント人への手紙”の一節をシャウトするシーンは、この先永く語り継がれることでしょう。そして安藤サクラ、まさに彼女こそ“女でんでん”だ!
[CS・衛星(邦画)] 9点(2012-01-31 01:35:22)
10.  アザーズ 《ネタバレ》 
私の大好きな60年代の英国ゴシックホラーに通じる雰囲気を見事に現代的な映像で再現してくれています。脚本はプロットが秀逸で、舞台を第二次世界大戦で唯一ドイツ軍に占領された英国本土領土であるジャージー島に設定したところなど良く考えられています。霧で周囲とは切り離された屋敷の外は英国ですらなかったという怖さ、当然ドイツ軍は敗戦で撤退したはずなのにキッドマンは劇途中から「まだ戦争は終わっていない」と言いだしたり、復員してきたはずの夫が「戦っている仲間のもとに戻る」と去って行ったり、この辺がオチへの伏線になっているのでした。ニコール・キッドマンは本作あたりから演技力・表現力が飛躍的に伸びてきた感じがします。当たり外れはもちろんありますが、現在スパニッシュ・ホラーがいちばん面白いと感じる今日この頃です。
[CS・衛星(字幕)] 9点(2011-05-14 21:25:55)
11.  甘い生活 《ネタバレ》 
近年、フェリーニの評価がだんだん下がってきた様な気がしますが、50年前に撮られた本作を観直して改めてため息が出ました、「あんたやっぱり凄いよ、フェリーニさん」。 ストーリーなぞあってなき様なものですが、ひとつひとつのエピソードが独立して一編の映画に出来そうな濃厚さです。 マストロヤンニを見てると、50年経とうが500年過ぎようが人間の本質は変わらないのだなと思います。 きっと誰もが腐った魚と隣り合わせで生きているけど、なかなかそれに気づかないものなのですよ。
[ビデオ(字幕)] 9点(2010-08-04 20:48:12)
12.  アラビアのロレンス 《ネタバレ》 
実際のロレンスとは違うという批判があることは承知していますが、歴史上の特異な人物をここまで説得力を持って描いたデヴィッド・リーンの手腕は見事です。なんと言って良いのか迷うとこですが、この映画にはオーラのような迫力があることは確かです。どのシーンも切り取れば一幅の絵画になるような素晴らしい映像の乱れうち、後半のダマスカスで開かれるアラブ国民会議のシークエンスは何度観てもルネッサンス期の宗教画のごとき濃密な映像に感嘆します。ピーター・オトゥールの演じるロレンス像は、歴史上の人物としてはジョージ・C・スコットのパットン将軍、ケイト・ブランシェットのエリザベス1世と並ぶ「他の俳優が演じることが考えられない」名演技だと思います。ロレンスは現在の中東情勢には直接責任はないのですが、イスラエルで彼はどの様に評価されているか興味があります。
[CS・衛星(字幕)] 9点(2009-03-29 13:28:44)
13.  赤毛 《ネタバレ》 
製作当時はもう五社協定は雲散霧消しているわけですが、こうやって岩下志麻や乙羽信子が東宝映画で三船敏郎と共演しているのが観れるというのは珍しいことです。明治維新のときの赤報隊の史実をもとにしたオリジナル・ストーリーですが、穿った観方かもしれないけど70年安保闘争をカリカチュアしたような脚本であるような気がしてなりませんでした。官軍=佐藤栄作政権という図式で、宿場に突入してきた官軍が村人と対峙する絵面はまるで機動隊と衝突する学生デモ隊が彷彿されます。その村人たちも代官に反抗していたのは女郎屋の女たちと老師に扇動された若者だけで、半分以上の住民がこの騒動を眺めるだけの野次馬だったというのも意味深です。けっきょく赤報隊として官軍に利用されて果てる権三=三船敏郎なのですが、若者たちに詰め寄られて「理想と現実は違うものだ」と逃げを打つ老師=天本英世のセリフを聴くと、70年安保闘争後の無残な学生運動の成れの果てを予言していたようにすら感じます。 前半はとくに岡本喜八節が快調で、岡本映画常連の伊藤雄之助だけでなく三船敏郎までもがコミカルな演技を見せてくれます。権三が吃音気味というキャラ設定のおかげで、三船は普段は聴き取りにくいセリフ回しなんですが切れ切れに喋るおかげでいつもより耳に入りやすかったです。そして全編で効果的に使われるのが“ええじゃないか”節で、あの踊り狂う群衆の迫力は後年の珍作『ジャズ大名』の前振りみたいに感じました、もちろん今村昌平の『ええじゃないか』よりもずっと早いですね。コミカルな前半から打って変わって悲劇的な結末を迎えるわけですが、後半はちょっとテンポがもたつく感はありました。宿場に潜入していた幕府側の遊撃隊のエピソードは、ちょっと詰め込み過ぎた脚本のような感じでもたつきの原因だったと思います。とは言え個人的には珍しい三船敏郎のコメディ演技は堪能できたかなと思います。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2024-02-11 22:09:40)
14.  アメリカン・ヒストリーX 《ネタバレ》 
恐ろしく重いテーマで、考えさせられることの多い作品でした。28年も前の映画なのに、まるで現在のアメリカ合衆国の社会状況が描かれている感すらあります。これは米国社会が進歩していないのではなく、白人至上主義が実は建国以来綿々と引き継がれている裏の国是というか宿痾だからなんでしょう、残念ながら形を変えようとも今後も続いていくだろうと思います。考えてみればナチス・ドイツや南アフリカのアパルトヘイト政策が誕生する20世紀中盤までは、米国が世界最悪の人種差別国家だったんですからねえ。 言うまでもなくエドワード・ノートンの演技は、彼の今までのフィルモグラフィ中で最高の演技であると確信いたします。いつもは知的な優男チックなキャラを演じている彼が、タトゥーだらけの暴力的なスキンヘッド男を演じていることことからして驚き。でもやっぱり刑務所のヤカラみたいな囚人たちと較べると、線の細さを感じてしまうのは止むを得ないところでしょう。だけど彼の演技の真骨頂はネオナチ集団をアジる弁舌の凄い切れ味、こりゃあちょっとおつむの弱い輩なら簡単に洗脳されるのはムリ無いかもという説得力です。また出所後の髪を伸ばしたいつものノートン・キャラとの演じ分けも見事です。 脚本も秀逸で、ノートンに係る二人の教師の対比も印象深いところです。エリオット・グールドが演じるユダヤ系の教師にはやはりあのネオナチ思想を持つ人間は受け入れることが出来なかったけど、黒人の校長には白人vs有色人種という対立構造を何とかしたいという思いで彼を受け入れていこうという姿勢が見えます。もっとも利用というかノートンのまだ持っているカリスマ性を頼りに説得させて抗争を鎮めようとするのが本音だったかもしれませんが。「いや、君が蒔いたタネだ 逃げてるだけじゃ本当の平和は来ないぞ」と迫るこの校長は、本当はノートンを許していないのかもしれません。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2023-03-22 23:30:30)
15.  アメリカを売った男 《ネタバレ》 
ジェームズ・ボンドものとは違い、実話をもとにしたスパイ映画はホントに暗いお話しが多いですね。“名が知られたスパイは、失敗したスパイだ(もちろん例外もあるけどね)”という名言もあるくらいですけど、クリス・クーパーが演じるロバート・ハンセンは私が今まで観たスパイ映画のキャラでもっとも闇落ちした人物です。決して善人役が回ってきそうもないご面相なのに、まるで爬虫類が人間に化けたような顔つきでしかも熱心なカトリック信者、そしてド変態ですからねえ。でもこれこそ彼にしか演じられない当たり役だったんじゃないでしょうか。ラスト、エレベーターのドアが開いたらいきなりライアン・フィリップとクーパーが鉢合わせする場面、「私のために祈ってくれ」と呻いて暗転する幕の閉じ方は鳥肌ものでした。ライアン・フィリップが演じるFBI職員のキャラは実在人物なのか架空のキャラなのかは判りませんが、知らないうちにスパイ容疑者の監視役を命じられ真相を知って苦悩が深まる過程はリアルでした。でも左遷されて“窓のない部屋”に押し込められて新しい助手があてがわれてきたら、「こいつは俺の監視役だ」と普通は迷わず確信すると思いますけどね。まあフィリップのモデルがいたとしてもかなり脚色されているはず、でも彼が置かれるシチュエーソンがハラハラ・ドキドキを盛り上げてくれるので良い脚本かと思います。ハンセンがスパイに走ったのは、共産主義イデオロギーへの共鳴ではなく自分の能力が評価されないことへのルサンチマンが主たる動機だったみたいです。でもこの映画ではそれに付け加えるように彼のカトリック信仰が強調されていますが、信仰自体はスパイ行為とは関係ないと思います。熱心なカトリック信者が無神論の共産主義国に協力しますかね?人間の内面はそう簡単に割り切れるものじゃないのも確かですが、プロテスタントが主流のアメリカですから、ハリウッドはカトリックをなんか眼の敵にしているような気がしてならないんですけど。そうは言っても、上司がいきなり夫婦で自宅に押しかけてきて宗教勧誘してきたら、そりゃ堪りませんけどね(笑)。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-09-27 23:18:35)
16.  アパートの鍵貸します 《ネタバレ》 
その昔、明石家さんまがトレンディドラマに出ていたころ、有名な“テニスラケットを使ったパスタ水切り”をそっくり再現というかパクっていました。名優ジャック・レモンの伝説的なパフォーマンスをパロっちゃうとは、さんまというか演出家はいい度胸してるなと感心した思い出があります。 初めて観たとき、「NYってラブホが無いのかよ?」というのが強烈な違和感だった記憶があります。いくら一等地にある部屋だといっても、知り合いが住んでいる部屋に女の子を連れ込みますかね、それも急にムラムラしてきたってわけじゃなく一週間以上前から予約しておくなんてねえ。まあそれを言っちゃあ話が進まないので深くは掘りませんけど、貸しているジャック・レモンも出世のための苦行だと割り切っている俗物キャラなのがイイですね。シャーリー・マクレーンの演じるフラン(ファミリーネームがキューブリックというのが凄い)に関しては、“純情そうに見えるけどヤルことはヤッテいる女”という感じがするし、ほとんど極悪非道といっていい人格の部長に離婚させて後釜に収まろうとするちょっと嫌な女。でも最後の最後で突然目覚めてレモンのもとに飛び込んでゆくラストは、それまでほとんど彼女に感情移入できなかっただけに鮮やかな脚本だと感心します。 言ってみればこのお話しは典型的なシチュエーションコメディなわけですが、そこに微妙なさじ加減でペーソスが味付けされている、まさにジーン・ワイルダーじゃなきゃ撮れないラブコメだと思います。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-08-27 22:14:14)(良:1票)
17.  アウトロー(1976) 《ネタバレ》 
“建国200周年記念映画”と銘打たれていますけど、輝かしい勝利を謡った『ミッドウエイ』と違って、西部劇とは言え南北戦争当時の合衆国史の暗部を取り上げているところがイーストウッドらしい。彼が撮った西部劇には一癖も二癖もあるのが特徴です。 彼が演じるジョージ―・ウェルズは、とても農夫だったとは思えない『荒野の用心棒』の名無しの男みたいな無敵のガンマン。もっとも銃を撃ったより毒液の様な唾を吹いた回数の方が多かった感じです(笑)。この物語は先住民チーフ・ダン・ジョージと出会ってからのバディムーヴィー風味が強くなってきます。政治的には保守のイーストウッドですが彼の作品はマイノリティに暖かい視線を向けることが多く、本作ではアメリカ先住民を人間として勇士として扱う敬意を強く感じました。そして忘れられないのがあの“お尻ペロリ”シーンのソンドラ・ロックでこれがイーストウッド映画の初出演、そしてこの後皆さまご存知のようにイーストウッドを生涯悩ませる女となるわけです。でも本作の彼女は可憐だったのは確かでイーストウッドが惚れたのも無理ない、というか、後に結婚したフランシス・フィッシャーもそうだし彼はこういう細いタイプが好みみたいですね。 本作は妻子を殺された男の復讐劇なんですけど、隠れテーマは“和解”なんです。もちろんこの映画の戦争は南北戦争ですけど、やはり製作時期を考えるとヴェトナム戦争を意識せざるを得ないんじゃないでしょうか。ラストのジョン・ヴァーノンの「戦争は終わったと告げよう」というセリフには、ヴェトナム戦争とウォーターゲート事件でボロボロ状態だった当時のアメリカ社会へのメッセージだったんじゃないでしょうか。これこそイーストウッドが建国200周年で訴えたかったことだと感じました。
[映画館(字幕)] 8点(2021-05-13 23:24:35)
18.  アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル 《ネタバレ》 
トーニャと彼女を取り巻く主要キャラたち、こいつらが揃いもそろってバカばっかりという壮絶さ。この実在のバカたちの、本人たちは大まじめなのにその生きざまを淡々と並べただけでコメディになってしまうというのがある意味凄いところです。トーニャやその母親を始めとする連中の劇中の会話にロジックに基づいた要素が皆無なのには、もう呆れます。だけどインタビューを再現したパートでは、実際に言ったのかどうかは詮索しませんけどトーニャがけっこう含蓄のある発言をしているのは興味深い。どっちにしろこの映画で特に強烈なのは、アリソン・ジャネイの毒母ぶりであることは間違いない。もちろん常人には理解できないこの母親なりの計算があったのは確かだろうが、ホワイト・トラッシュなのに稼ぎをトーニャのスケート費用につぎ込んできたのは、彼女なりの愛なのかもしれない。そうやって何となく彼女を理解できたつもりでいたら、オリンピック騒動が始まってからトーニャを訪ねてきた時の行動をみせられて自分の甘さを思い知らされました。やはりこの女は怪物です。 この映画はとにかく編集が超絶技巧、オスカー編集賞にノミネートされたのは当然の結果です、ぜひ受賞して欲しかった。ボクサーに転向したトーニャがノックアウトされるスローモーションに、トリプルアクセルを決める栄光の瞬間をカットバックで被せるセンスには素直に脱帽です。80~90年代の聞き覚えのあるヒットソングをひっきりなしに流す撮り方も、ストーリーテリングに独特のリズム感を与えてくれています。 これは観て決して損はない佳作だと思います。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2019-08-15 00:03:17)(良:1票)
19.  アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場 《ネタバレ》 
邪道だと判ってますけど、100分程度の映画なのにあまりの緊張感に圧倒され時間をかけて三回にわけて観ることになってしまいました。これを映画館で観ていたら、最後まで席に座っていられる自信は私にはありません。ここまで緊張感で圧倒された映画は今まで『未知への飛行』しかありませんでしたが、よく考えるとこの映画は『未知への飛行』とストーリーテリングに共通しているところがあります。第三次世界大戦勃発の危機を会議室と作戦室だけを舞台にして描いているのが『未知への飛行』ですから、誰からも攻撃を受ける危険のない英米の三か所から軍事作戦を遂行する本作の製作意図が影響を受けていることは間違いないでしょう。さらにこの映画ではハラハラドキドキ要素が強烈なので、緊迫感が半端ない水準にまで強くなっています。そのハラハラ要因は言うまでもなくパン売りの少女の運命ですが、あの結末はハリウッド映画では絶対にありえないでしょう。 「誰もが真面目に職務遂行しているのに、その結果はとてつもなく後味が悪い」というのが両作のエッセンスですが、本作の場合はそこに官僚的な責任転嫁という人間的な弱さも登場キャラの言動に加味されているので、よりリアルです。ここにはヘンリー・フォンダが演じる大統領の様に、途轍もなく過酷な決断を下してその責任を背負い込むような人物は存在しないのですけど、それこそが現実というものでしょう。 現代のハイテク戦争の一端がうかがえるのは興味深かったです。中でも“偵察用ロボ昆虫”には驚きました、本当にこんなメカが存在するんでしょうかね。そして考えさせられたのは、また昔に戻るかもしれないけれど、現在進行中の対テロ戦争はもはや古い戦争という概念が通用しない警察活動に近い代物なんだということです。“非対称戦争”という概念がありますが、敵には殺意いがいは大した武器を持たず低速で飛ぶドローンを撃墜することすらできない。地上兵力を投入して徹底的にやれば必勝ですが、大国は人的損害というリスクがとれないので指揮官だけじゃなく兵士までもが安全な職場から攻撃するわけです。これでは人命になんの価値も持っていない集団と戦っても勝利できるのか疑問です。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2019-03-14 23:20:00)(良:1票)
20.  アウトレイジ(2010) 《ネタバレ》 
北野武の映画がなんで世間では高評価なのかがイマイチ解せない自分ですが、やくざモノを撮らせたら目が覚めるような秀作を撮ることは認めざるを得ません。この映画の優れているところは、ストーリーテリングというか脚本の構成です。会長の池元への叱責がきっかけでまずは大友組の嫌がらせから始まり次は村瀬組の反撃、このテニスのラリーのようなターン交代が徐々にエスカレートしながら上映40分過ぎまで続く。途中カジノ開業のハーフタイムショーがあり、試合再開したらたけしの怒涛の攻撃で村瀬組組長のタマを捕る。しかしこれでワナに落ちることになって、窮地に立たされた大友は池元を葬ってしまい、旧池元組と山王会の連合軍の猛反撃であえなく大友組は全滅。これぞまさしくヤクザ抗争におけるバタフライエフェクトと呼ぶにふさわしいエスカレーション劇、まことに見事な脚本です。この映画で面白いのは、北村総一朗が三浦友和を、椎名桔平が加瀬亮を、そしてたけしが小日向文世をと上位者や先輩が目下の者に恥をかかせたり殴ったりするのですが、三人とも逆襲されて無残な最期を迎えます。アウトレイジな世界でも、行き過ぎたパワハラは禁物ということなんでしょう。 とは言え、「やっぱたけし映画だなあ」と嘆息させられたのも確かです。それは大友が山王会会長に「池本を殺っちゃえ」と唆されるところで、大友が会長の甘言を疑わずに信じていたところです。たけしが自身の映画で演じるヤクザは、どれもお人よしだったり過剰にカッコつけたりなど悪人に徹しきれていないのは彼個人のナルシスト気質が濃厚すぎるからで、これが鼻につくんです。あんだけ無法の限りを尽くした大友が、あんな見え見えの策略に引っかかるようなアホでしたってのは、私には耐えがたいところです。半面、池元演じる國村隼の人間の卑しい面をこれでもかと強調した演技は、もう絶賛しかないです。これは『仁義なき戦い』シリーズの金子信雄を超えちゃったかもしれません。できたら二作目以降も出てほしかったけど、さすがのたけしも死人を蘇らせる(自分が復活するだけで精一杯)わけにはいかないでしょう(笑)。まあこの映画の前日譚を撮るという手もありますけどね。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2019-01-23 20:45:01)
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