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S&Sさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 2381
性別 男性
自己紹介 〈死ぬまでに観ておきたいカルト・ムービーたち〉

『What's Up, Tiger Lily?』(1966)
誰にも触れて欲しくない恥ずかしい過去があるものですが、ウディ・アレンにとっては記念すべき初監督作がどうもそうみたいです。実はこの映画、60年代に東宝で撮られた『国際秘密警察』シリーズの『火薬の樽』と『鍵の鍵』2作をつなぎ合わせて勝手に英語で吹き替えたという珍作中の珍作だそうです。予告編だけ観ると実にシュールで面白そうですが、どうも東宝には無断でいじったみたいで、おそらく日本でソフト化されるのは絶対ムリでまさにカルト中のカルトです。アレンの自伝でも、本作については無視はされてないけど人ごとみたいな書き方でほんの1・2行しか触れてないところは意味深です。

『華麗なる悪』(1969)
ジョン・ヒューストン監督作でも駄作のひとつなのですがパメラ・フランクリンに萌えていた中学生のときにTVで観てハマりました。ああ、もう一度観たいなあ・・・。スコットランド民謡調のテーマ・ソングは私のエバー・グリーンです。


   
 

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221.  ライトスタッフ 《ネタバレ》 
孤高のパイロットで初の超音速飛行に成功したチャック・イェーガーと、彼とは対極の生真面目・堅物な海兵隊パイロットだったジョン・グレンらマーキュリー計画の七人の宇宙飛行士たちを対照的に描くストーリーテリングです。この映画のチャック・イェーガーこそが、そりゃ美化されている部分もあるでしょうけどまさに漢の中の漢と呼ぶに相応しいんじゃないでしょうか、とにかくカッコいいんだなこれが。実物の彼も第二次大戦ではドイツ占領下のフランスで撃墜されるが敵地を突破してスペインに逃れて復帰、その後P-51マスタングを駆って一日で5機のドイツ機撃墜を果たして 米軍初の"ace in a day"の称号を得るという伝説的な戦闘機乗り。超音速飛行に成功したⅩ‐1もこれまた凄い飛行機で、ロケットに翼をつけて(しかも後退翼じゃなく直線翼)水平飛行させたような代物。開幕から音速飛行に成功するまでの二十分は虚実を織り込みながらも劇的かつ感動的でここだけで一本の映画を観たような気分になります。パイロットとしての誇りに満ち溢れたイェーガーがモルモットのような存在だったマーキュリー計画の宇宙飛行士に志願するわけもなく、ここから政治に翻弄される宇宙飛行士たちと人生が分かれてゆくことになるわけです。 実際のイェーガーはベトナム戦争では作戦部隊を指揮して将軍になるぐらいですから決して破天荒なだけの人物ではなく、でも演じるサム・シェパードがあまりにカッコいいんでこれはこれでアリでしょう。マーキュリー計画のグダグダな進行ぶりはかなり揶揄した描き方で、とくにジョンソン副大統領はこれでもかと醜悪さが強調されていて面白かったです。マーキュリー・セブンの面々は政治に翻弄されたと見ることもできますが、忘れちゃいけないのはマーキュリー計画こそが政治そのものでジョンソンの道楽だったわけじゃありません。ロケットの開発はICBMを実戦化するためのソ連との軍拡競争そのもので、この辺りをまったくスルーしているのは違和感がありました。テキサスで七人がジョンソンの政治ショーで道化を演じさせられているシークエンスに、イェーガーが高度記録を破ろうと単独でNF-104を飛ばすシーンをカットバックする編集にこの映画が訴えたいことが濃縮されているんじゃないでしょうか。墜落寸前で彼が見た星空には、イェーガーこそが誰のサポートも受けずに単独操縦で宇宙に達した唯一の人間だったんだ、という訴えが込められているような気がします。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-08-30 22:27:21)(良:1票)
222.  アパートの鍵貸します 《ネタバレ》 
その昔、明石家さんまがトレンディドラマに出ていたころ、有名な“テニスラケットを使ったパスタ水切り”をそっくり再現というかパクっていました。名優ジャック・レモンの伝説的なパフォーマンスをパロっちゃうとは、さんまというか演出家はいい度胸してるなと感心した思い出があります。 初めて観たとき、「NYってラブホが無いのかよ?」というのが強烈な違和感だった記憶があります。いくら一等地にある部屋だといっても、知り合いが住んでいる部屋に女の子を連れ込みますかね、それも急にムラムラしてきたってわけじゃなく一週間以上前から予約しておくなんてねえ。まあそれを言っちゃあ話が進まないので深くは掘りませんけど、貸しているジャック・レモンも出世のための苦行だと割り切っている俗物キャラなのがイイですね。シャーリー・マクレーンの演じるフラン(ファミリーネームがキューブリックというのが凄い)に関しては、“純情そうに見えるけどヤルことはヤッテいる女”という感じがするし、ほとんど極悪非道といっていい人格の部長に離婚させて後釜に収まろうとするちょっと嫌な女。でも最後の最後で突然目覚めてレモンのもとに飛び込んでゆくラストは、それまでほとんど彼女に感情移入できなかっただけに鮮やかな脚本だと感心します。 言ってみればこのお話しは典型的なシチュエーションコメディなわけですが、そこに微妙なさじ加減でペーソスが味付けされている、まさにジーン・ワイルダーじゃなきゃ撮れないラブコメだと思います。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-08-27 22:14:14)(良:1票)
223.  天然コケッコー 《ネタバレ》 
全校で小中学生が七人だけという過疎地の学校生活が、観ていてとても癒されます。小学校と中学校はいちおう教室が別ですけど、給食の時間になると小学生は机と椅子を持って中学教室に移動してきて、先生を含めてみんなでお昼ごはんとはなんか自分が思う理想の学校生活なんですね。こんなド僻地の学校にまでセンターから給食が毎日配達されるって、考えてみれば日本ってすごい国なのかもしれません。また中学生を教える唯一の男性教師がほんわかしていていいんだな、こういう先生に出会いたかったものです。そんな世界に舞い降りた鶴(?)のような美少女そよ、これが初主演である夏帆の透明感あふれる存在は新人賞を総舐めしたのが納得です。一人称が“わし”というのもなんか胸キュンです。「行って来ます」が「行って帰ります」になる石見弁も初めて聞いたので面白かった、なんか全体的に九州の方言と似ている気もします。そよがさっちゃんの家にお見舞いに行くシークエンス、「ごめんね」と謝るそよにさっちゃんが抱きついてくるシーンは、もう泣きますよ。原作漫画は大人びたタッチで描かれているんですけど本作は終始ほんわかムード、完全に山下敦弘ワールドに染め上がっていました。こういう自然が豊かな田舎で育つというのは子供にとっては最高の環境かもしれませんが、ミニマムな人間関係ですので大人にはけっこうキツいんじゃないでしょうか。そこら辺も、さりげなくですが見せてくれる脚本だったなと思います。 そよが通う学校は木村中、受験する高校が森高校でその近隣にあるのが草薙高、「ひょっとして」と調べたら原作設定では“S県香取郡木村稲垣”がそよの家がある村落で、隣町は“中居町”、なんと原作者くらもちふさこはSMAPオタでした(笑)。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2021-08-21 22:41:25)
224.  マルコヴィッチの穴 《ネタバレ》 
自分が今まで観た中で、あまりの奇天烈なストーリーにぶっ飛ばされた三本の映画の一つです。脚本を書いたチャーリー・カウフマンはこの後もヘンなテイストのホンを書き続けてオスカー受賞まで果たしちゃうけど、やはり本作を凌駕するようなストーリーは産み出していないのも事実。 まずフューチャーされたのがジョン・マルコヴィッチというのが絶妙すぎます。ここはトム・クルーズやブラピはムリにしても、ヘンテコな映画に喜んで出演しそうということで『ニコラス・ケイジの穴』とか『ゲイリー・オールドマンの穴』なんてのは十分アリだと思いますが、その変なキャラと大物ぶりからしてマルコヴィッチを選択したのは絶妙すぎます。というよりも、よくマルコヴィッチもOK出しましたよね、やっぱ本人も相当変わった人なんでしょうか。マルコヴィッチが自らマルコヴィッチの穴に入って見てしまうあの「俺が悪かった、もう止めて~」と思わず叫びたくなる「もし全人類が男も女もマルコヴィッチの顔だったら」ワールドは、もう悪夢のような映像としか言いようがなかったです。だいたい、マルコヴィッチの頭の中に入り込んだ時点で普通は出落ちみたいなもんですが、それだけで留まらない奥行きがあるストーリーなのがこの映画の特徴でもあります。ジョン・キューザックが完全にマルコヴィッチの肉体を乗っ取って人形使いとしての名声を得るという展開は、世間はパフォーマンスの良し悪しなんて演者の知名度頼りで判断しているだけじゃん、という辛辣な皮肉にもなっています。キャメロン・ディアスが実は隠れレズで、マルコヴィッチに入り込んでキャスリーン・キーナーと疑似SEXをするというのは、LGBT全盛の現代を20年先取りしていた感じがするぐらいです。もっともキーナーが「マルコヴィッチの肉体に15分だけ入り込める穴がある」というキューザックの荒唐無稽としか言いようがない話しを、ほとんど疑問を持たずに信じてすぐビジネスにつなげる展開だけは、ちょっと雑な感があります。そう言えば、彼女だけは一度も穴に入ってゆかなかったですね。そのキーナーがマルコヴィッチの肉体を使って身籠るという展開は、それは心情的にはディアスの子なのかキューザックのタネなのかというややこしい展開でになりますが、しょうじきここまで来るとどうでも良くなります。キューザックは最後には産まれてきたエミリーの中に封じ込められてしまったみたいですが、実はこの映画のテーマは輪廻転生だったのかもしれません。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-07-24 22:53:09)
225.  家族ゲーム 《ネタバレ》 
観直して何となく感じたところですが、ディティールがどこか川島雄三の『しとやかな獣』に似ている感じがするんです。団地の一室が主な舞台だし、戸外の生活音が強調されて観客の耳に入るような音響設計、そしてラストのヘリコプターの轟音を訝しんで窓を開けて外をうかがう由紀さおり、ここは『しとやかな獣』ではパトカーか救急車のサイレンでしたね。沼田一家が住む団地も渡し船で訪問しなければならないベイ・エリアで、この立地条件も『しとやかな獣』と一緒。森田芳光は後年に『椿三十郎』を全く同じ進行でリメイクしたりしてるから、昭和の邦画に思い入りが深かったのかもしれません。 食卓のシーンやラストのカオスに陥る会食のシークエンスはあまりに有名ですが、この映画は「おっ、日本のルイス・ブニュエルが登場か」と当時思わされたぐらいのシュールさです。もちろん原作小説があるのですが細かいところはかなり改変されており、まさに森田芳光ワールド全開といった感じです。他にもいろいろ気になるディティールが満載で、松田優作がいつも持っている子供むけ図鑑(?)のようなものはなんなんだろう?沼田家では在宅中は玄関をロックしないので外部の人間がスーッと家に上がり込んでくる、昭和三十・四十年代じゃあるまいしこの規模の集合住宅でそんな不用心あるかい!等々。いっさい音楽が効果音としても使われない演出、慎一が母親に聞かせる『マイ・フェア・レディ』のサントラ(多分曲は『I Could Have Danced All Night』)も無音(もっともこれは著作権の権利金が発生するからかも)、松田優作と阿木燿子がいちゃついているシーンで電話に出る阿木燿子のセリフも無音(意図不明)と徹底しています。 家族やコミュニティーに異分子の人間が入り込んで人間関係をグチャグチャにするというプロットの映画は珍しくはないですけど、本作では松田優作の大暴れで切れかかっていた一家の絆が逆に修復したハッピーエンドとして捉えるべきなのでしょう。キッチンで割れたお皿や散らばった料理を片付ける四人の姿がそれを象徴していましたね。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2021-07-12 23:37:51)
226.  現金に手を出すな 《ネタバレ》 
古いモノクロ映画と敬遠するなかれ、ギャング映画好きなら絶対見逃してはならない一本です。わたし、恥ずかしながら “グリスピ”というのはジャン・ギャバン=マックスのファミリーネームだとずっと思っていましたが、実は“カネ・あぶく銭”みたいな意味の仏語スラングなんだそうです。これを“現ナマ”とルビ付きで邦題にした配給会社の担当者のセンスはたいしたもので、水野晴郎とは偉い違いです。貫禄を擬人化したようなジャン・ギャバンは渋いだけじゃなく女性に対する洒脱さがまた魅力的で、これでモテないはずがないじゃないですか。弟分リトンを隠れ家に招き入れてラスクを肴にワインを飲んで、二人ともお行儀よくパジャマに着替えて歯を磨いて寝るところまで丁寧に見せるリアリズムは、さすが名匠ジャック・ベッケルです。一部の隙もなく抜け目ない暗黒街の大物なのに相棒のヘマで窮地に陥るというのは、この後のジャン・ギャバンの演じるキャラの一つのパターンとして定着した感があります。こういうエスプリが効いたキャラは、ハリウッドのギャング映画や日本の任侠ものではまずお目にかかれない、フランス映画ならではのお楽しみなのかもしれません。リノ・ヴァンチュラは本作がデビュー作だし、ジャンヌ・モローも日本ではスクリーン初登場、そういう歴史的意義もある一編です。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-06-30 23:32:19)
227.  ジョン・ウィック:パラベラム 《ネタバレ》 
シリーズも三作目となると大抵は息切れが目立ってくるものですが、さすが『ジョン・ウィック』、予想を裏切るパワー・アップぶりでした。前作のエンド・シーンからほぼ繋がる形で物語がスタート、第一作でジョンが暴れ出してから本作が始まるまでが実は一週間の出来事だったということが明示されますが、いくら何でも一週間で人殺し過ぎでしょ、ジョン・ウィックさん!追われる身の辛さで、アンジェリカ・ヒューストンのもとにたどり着くまでひたすら戦いながら逃げるばかり、でも馬に乗ってバイクとチェイスするなんてこれは斬新すぎます。今回新たに登場するキャラはそれぞれにキャラ立ちが凄くて、その中でもゼロさんが率いる寿司職人軍団がやっぱ最高でした。ホテルでいきなりジョンのわきに座ってきて「ファンです」と告るところなんて、思わずのけ反ってしまいました。ラストの鏡の間みたいなところでの寿司職人軍団との決戦は、やはり『燃えよドラゴン』のオマージュなんでしょうね。ゼロと決着つける前の一番弟子・二番弟子との闘いですが、二番弟子はあのヤヤン・ルヒアンなんですよ、なんと贅沢なことか!この二人もやっとこさでねじ伏せますが、止めを刺さずに「また会おう」と爽やかに去ってゆくジョン・ウィック、シリーズ中で敵を殺さなかった珍しいケースです(一作目のロシアン・マフィアのボス以来かな)。 今回で主席連合なるものの実態がまた明確になってきましたが、この組織のトップはあのベドウィン族の首長みたいな人物でいいのかな?でも「主席のうえにいる人」というジョンのセリフもあるし、謎が深まるばかりです。ジョンがエンコ詰めまでして再び主席連合への忠誠を誓うという展開には「へ?」となりましたが、ウィンストンに迫られて誓いを反故にしちゃう展開にもびっくり。そしてそのウィンストンまでもが最後に主席連合に寝返ってジョンを裏切るとは、これぞ二転三転のジェット・コースター状態です。こうなってくると、主席連合に最後まで突っ張ってなめし斬りにされてもへこたれなかったバワリー・キング=ローレンス・フィッシュバーンがじつはいちばんカッコいいキャラだったってことになりますね(笑)。 一目瞭然ですが、このシリーズはまだまだ続くみたいです。次回作は、あの中途半端な退場からするとハル・ベリーの大暴れが期待できそうです、ジョン・ウィックと愛犬を殺された同志でね。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-06-12 22:28:06)
228.  アウトロー(1976) 《ネタバレ》 
“建国200周年記念映画”と銘打たれていますけど、輝かしい勝利を謡った『ミッドウエイ』と違って、西部劇とは言え南北戦争当時の合衆国史の暗部を取り上げているところがイーストウッドらしい。彼が撮った西部劇には一癖も二癖もあるのが特徴です。 彼が演じるジョージ―・ウェルズは、とても農夫だったとは思えない『荒野の用心棒』の名無しの男みたいな無敵のガンマン。もっとも銃を撃ったより毒液の様な唾を吹いた回数の方が多かった感じです(笑)。この物語は先住民チーフ・ダン・ジョージと出会ってからのバディムーヴィー風味が強くなってきます。政治的には保守のイーストウッドですが彼の作品はマイノリティに暖かい視線を向けることが多く、本作ではアメリカ先住民を人間として勇士として扱う敬意を強く感じました。そして忘れられないのがあの“お尻ペロリ”シーンのソンドラ・ロックでこれがイーストウッド映画の初出演、そしてこの後皆さまご存知のようにイーストウッドを生涯悩ませる女となるわけです。でも本作の彼女は可憐だったのは確かでイーストウッドが惚れたのも無理ない、というか、後に結婚したフランシス・フィッシャーもそうだし彼はこういう細いタイプが好みみたいですね。 本作は妻子を殺された男の復讐劇なんですけど、隠れテーマは“和解”なんです。もちろんこの映画の戦争は南北戦争ですけど、やはり製作時期を考えるとヴェトナム戦争を意識せざるを得ないんじゃないでしょうか。ラストのジョン・ヴァーノンの「戦争は終わったと告げよう」というセリフには、ヴェトナム戦争とウォーターゲート事件でボロボロ状態だった当時のアメリカ社会へのメッセージだったんじゃないでしょうか。これこそイーストウッドが建国200周年で訴えたかったことだと感じました。
[映画館(字幕)] 8点(2021-05-13 23:24:35)
229.  ゾンビランド 《ネタバレ》 
ゾンビ+コメディ+ロード・ムーヴィー+バディムーヴィー、って感じですかね。でもそれぞれのジャンルが高いレベルでバランスを保っていて、ゾンビものとしては特筆すべき面白さ。ジェシー・アイゼンバーグとウディ・ハレルソンという組み合わせが実現できた時点で、この映画の成功は約束されたようなものです。エマ・ストーンとアビゲイル・ブレスリンの姉妹も良い味出していますけど、たしかにエマはゾンビランドを彷徨っている割にはメイク濃すぎですよね(笑)。やたらと映画の小ネタが使われていますけど、最大の映画ネタはビル・マーレーのまさかの登場。しかもあんなバカげた退場の仕方をするなんて、こんな使い方ってアリ?実際のビルの家もあんな豪邸だったりして。でもゾンビランド化してしまったのに、どうして電気が途切れることなく供給されているのかな?きっとゾンビ化した発電所職員たちが、かすかに残った人間だったときの本能に従って保守してるんですよ、絶対そうだ(笑)。タラハシーが車のドアに“3”という数字を書き込むのはどうして?何かのおまじない?トゥインキーってそんなに美味しいの?コロンバスの“サバイバル・ルール”は全部で幾つあるの?知りたい。とまあ愉しくなる要素が満載の一編でした。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-04-24 20:34:05)
230.  ジョン・ウィック:チャプター2 《ネタバレ》 
前作の異世界の出来事のような不思議な世界観は後退してNYやローマと言った具体的な舞台設定が明確にされてますけど、ジョン・ウィックが属する世界的な犯罪ネットワークについてはさらにスケールアップした描かれ方になりました。どうもこのネットワークは“コンチネンタル”と呼ばれているみたいで、NYにある不思議なホテルはローマやたぶん世界各国に存在して、そこには銃のコンシェルジュや防弾スーツのテーラーなどが稼業のお手伝いをしてくれるみたいです。ジョンはそのネットワークの有力者と誓印という恐ろしい誓いを交わしてとりあえず引退することができた。まあだいたい以上のような事が判ってきました。 今作の敵はマフィアより凶暴なカモッラでございます。今回のジョン・ウィックはいきなり愛車をスクラップにされ(まあ自分でやったんですけどね)家は焼かれてホームレス状態。でも、あいかわらず殺しにかけてはブギーマンで、前作で語られていた伝説の“鉛筆殺法”まで披露してくれます。キアヌ・リーヴスのガンアクションにはマーシャル・アーツ的なスタイルが盛り込まれていて、監督がスタント・コーディネーター出身ということが活かされています。随所でセリフのキーワードだけがテロップで表示されるスタイルは面白かったですね。キアヌのアクションは相変わらず満身創痍になるガメラ・スタイルで、だいたい上映時間の三分の二は血糊が付いた顔で通したってのは、ある意味で凄い。キーパーソンとなるキャラはみなあっさりとした最期でしたが、ジアナやカシアンの死にざまにはちょっと意表を突かれてしまいました。でも唖者の女性ボディガードのキャラだけは、『ザ・レイド GOKUDO』のハンマー・ガールをパクったんじゃないの(笑)。 いい意味で型にはまらず予想を外してくるストーリー展開は、次作『パラベラム』にも期待が持てちゃいます、私このシリーズに嵌ってしまったみたいです。やっぱジョン・ウィックは21世紀最強のガンファイターですね(今のところは)。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-03-21 22:44:56)
231.  グリーンマイル 《ネタバレ》 
あまりにも有名なのに未見だったことに気が付き、今更ながら初鑑賞でした。家族とこの映画を観て号泣したという知人(おっさんです)がいたことが思い出されますが、最近涙腺がすっかり弱ってきた自覚があるけど結果的にはちょっとウルっとした程度でした。でも自分の見聞の限りでは、『ニュー・シネマ・パラダイス』に次ぐぐらい本作は感泣評価が高いような気がします。 結論としては、やはりスティーブン・キングとフランク・ダラボンのタッグには外れがなしってことですね。ダラボンって人は四本しかない監督作のうち三本がキング原作なんだから、考えてみると凄いです。そしてそのうち二本が、数あるジャンルのキング小説でも刑務所ものがチョイスされているところがさすがです。本作は『ショーシャンクの空に』よりもファンタジーよりですが、キングのホラー映画となるとイマイチ乗り切れない自分とすると、キングの刑務所が舞台の作品には他の同ジャンルの映画とは一味違うものがある気がするんです。本作では、トム・ハンクスをチーフとする四人の看守のチームワークになんか心を揺さぶられるんです。とくに大男のデヴィッド・モースが強く印象に残りました。 ストーリーは観進めるうちに「ジョン・コーフィーとは何者なんだ、これはひょっとして…」という疑問がどんどん膨らんできましたが、ラストに現在の老人ホームに戻ってきたところで納得しました。コーフィーはイエス・キリストで、トム・ハンクスはキリストが身代わりになって処刑されたので悲惨な体験をしてもなかなか死ねないバラバだったんですよ。108歳になって歳相応の老人の肉体だけど全然死ぬ気配はなく、愛する人や身近な人が先にあの世に逝ってしまうのを観続けなければならないというのも、想像するだけでも辛そうです。そう考えると、本作はキング作品としては珍しく宗教色が強い映画だと思います。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-01-31 23:00:48)
232.  狂った野獣(1976) 《ネタバレ》 
『暴走パニック/大激突』と同じ76年に二本だけ製作された東映カーアクションものですが、そのぶっ飛びぶりは『暴走パニック』を凌駕している快作です。どっちも渡瀬恒彦が主演でピラニア軍団の川谷拓三と室田日出男が出ているというのが共通点ですが、『暴走』では川谷が警官で室田が犯人、本作では室田が白バイ警官で川谷が犯人と逆のキャスティングになっているのが面白い。 銀行強盗犯の川谷と片桐竜次が路線バスを乗っ取って逃走を図るが、小市民丸出しの乗客の中にグラサン姿の動揺しない渡瀬恒彦がいて、ミステリアスな存在感で観る者の興味を引かせる上手いストーリーテリングです。渡瀬は実は前夜の宝石強盗の犯人で逃走中の身なんですけど、途中から渡瀬が運転するようになってからはひたすら暴走・暴走のまさに『スピード』状態!この役のために大型免許を取ったという彼が実際に運転しているというのも凄いですけど、クライマックスのバス横転まで彼がスタントなしでやったというのはもう開いた口がふさがりません。途中で疾走しているバスの窓から乗り込むというシーンも本人が演じているそうで、この人実は千葉真一に匹敵するスタント能力を持っていたんですね、知らなかった。室田日出男も猛スピードで走るバスの後部にしがみついたり、川谷も画面に映されるわけでもないのに志願して横転するバスに乗り込んだり、この頃の東映俳優たちはムチャしすぎです。バス乗客たちもみなキャラが立っている面々で、とくに女性陣がみな関西のおばちゃん気質丸出しなのが笑えます。終盤のバスとパトカー・白バイのカーチェイスも結構な迫力で、やはり『暴走パニック』よりも本作の方が面白かったと思います。こうやって見ると、深作欣二よりも中島貞夫の方が実はアクション映画の腕前は上だったんじゃないでしょうか。 それにしても70年代東映プログラム・ムーヴィーは、全盛期の新東宝を上回るぶっ飛び映画揃いで侮れませんよ。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2021-01-19 22:13:48)
233.  ストレンジャー・ザン・パラダイス 《ネタバレ》 
“オフ・ビートの貴公子”ジム・ジャームッシュ作品の中でも、ジョン・ルーリーやトム・ウェイツが常連だった初期が自分は大好きです。その中でも本作はオフ・ビート感では最高で、短いシークエンスを繋ぐ暗転の多いことと言ったら、いくら5秒ぐらいでもこれだけあると上映時間の3%ぐらいにはなるんじゃないかな。全編モノクロで撮影されていることから来る印象だけでなく、とてもアメリカが舞台とは思えない風景ばかりが映されるところも狙っていますね。NYはともかくとしてもクリーブランドやフロリダにしてもとてもご当地とは思えない風景、「これがエリー湖だよ」とエヴァが案内するシーンがありますが、ただの白い雪原を見せているだけの感じで、「ほんとにエリー湖なの?」と疑いたくもなります。低予算だし、実はNY周辺の“なんちゃってロケ”で済ましてたりね(笑)。三人の登場キャラの会話は少ないまでは言わないにしても一文が極端に短く、この映画でいちばんしゃべってたのは、ハンガリー語しか話さないクリーブランドのおばさんでしょ(笑)。いちおうこの映画は三部構成、“序・破・急”というか三題噺みたいになっていて、とくにラストはまるで落語のオチですよ。だいたいフロリダの田舎空港からブダペストに直行する航空便なんてあるわけないじゃん(笑)。 とくに何も起こらないけど尺も丁度良い感じで不思議と退屈せずに引き込まれてしまいます。ロード・ムーヴィーならぬ“ロード散文詩”という感じでしょうか。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-01-15 23:27:20)(良:1票)
234.  仁義なき戦い 広島死闘篇 《ネタバレ》 
シリーズ二作目は、北王子欣也=山中正治をストーリーラインのメインに据えた番外編みたいなお話しになり、菅原文太=広能昌三はいわば狂言回しのような役割となります。これはまだ抗争自体が燻っていたのに「二作目は広島戦争にしろ!」という岡田社長の号令に脚本の笠原和夫がビビったためで、いわばアリバイ稼ぎで書き下ろした感じみたいです。その為か山中正治のエピソードはかなり時期的にもずらされており(モデルの人物は昭和23年には死亡)、広能との絡みも創作みたいです。文太は出番の少なさに怒って一時降板を申し出る騒ぎもあり、文太なしでシリーズ四作が撮られていた可能性もあったのは興味深いです。 シリーズ中の最高傑作と評されるだけあり、登場キャラが立ちまくっているし群集劇としても見応えは十分です。中でもシリーズ中人気ナンバーワンのトリックスター、千葉真一=大友勝利の強烈な暴れっぷりと言動には惚れ惚れします。「あれらオ○コの汁でメシ食うとるんでぇ!」「人間うまいもん喰ってよ、マブイスケ抱くために生まれてきとるんじゃないの?」、いやはやこの倫理の欠片もない迷セリフの数々、やっぱ書いた笠原和夫を第一に褒めるべきなんでしょうね。北王子欣也も、銃を構えるところの演技が真に迫っていて、とくに最初の殺人のときのリアクションが実にリアルでした。またこの二作目は、北王子欣也と梶芽衣子の悲恋物語でもあるのですが、この梶芽衣子はシリーズ中で唯一の女性主要キャラとなります。まあこの山中正治というキャラは劇中では単なる鉄砲玉的な行動しかしてなくけっこうおバカな感じですし、梶芽衣子を婚家に戻そうとする村岡組長や若頭の考えもあながち理不尽だと断罪してしまうことも出来にくいんじゃないでしょうか。そう考えると、成田三樹夫=若頭・松永が、本作でもっともカッコよいキャラだったと思います。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2021-01-02 00:18:49)
235.  キサラギ 《ネタバレ》 
自分の中では“期待も予備知識もなく観始めたけど実は傑作だった大賞”ノミネート作です。五人が集まってくるところから幕開けですが、いかにも舞台劇的な展開はちょっと鬱陶しい感じが確かにあります。でも三十分過ぎたあたりからは怒涛の展開、まさに会話劇の真髄といった感じでしょうか。後半で会話に散りばめられた伏線が綺麗に回収されるわけですが、その伏線の置き方も洗練されています。さすがにスネークのキャラがうるさ過ぎてイラっと来ますけど、これはあの小出恵介が演じているのだから我慢我慢です。デブッチャーが実はヤセッチャーだったという展開はちょっと意表を突かれましたが、写真のデブッチャーは本人画像を加工したんでしょうけど、それにしても凄まじい変貌ぶりでしたね(笑)。最後に家元にお話しを収斂させるのが良くて、不覚にもホロっとさせられました。五人の中にユースケ・サンタマリアと塚地武雅という芸能界きってのドルオタがいるところもなんか嬉しいところです。でもやっぱラストだけはねえ…なんで宍戸錠なのかは意味不明ですけど、彼がこの映画に登場すること自体がシュールの極みです。 そりゃあ売れて世間に認知されて欲しいというのがドルオタの共通の望みですが、夢破れて推しが卒業・引退しても残りの人生は幸せであって欲しいと願うものです。そういう観点からはとても悲しくなるお話しではありました。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2020-12-30 21:54:17)(良:1票)
236.  DEAD OR ALIVE 犯罪者 《ネタバレ》 
三池崇史が撮ったこのトンデモない映画のことはずいぶん前から噂に聞いていましたけど、置いているレンタル屋はなかなかないし、扱ってる店ではいつもレンタル中なうえに気が付けばレンタルビデオ店じたいが身近から消滅してしまいました。今回ようやくCS放送で巡り合うことができて感無量です。 そりゃぶっ飛んでるラストはもはや伝説ですが、開幕からの八分間の映像とサウンドのカッコよさと無茶苦茶ぶりにも痺れます。それにしてもあの“わんこ中華そば”はいったい何ですか、腹に開いた穴から麺を盛大にまき散らせて死ぬなんて、こんな発想が出てくるとは三池崇史は天才か!ハイテンションで始まってもだんだん息切れしてしまうアクション映画がゴロゴロしているのに、テンションを落とさずしかもラストで文字通り大爆発する映画なんて滅多にお目にかかれるもんじゃありません。演出もメリハリが効いていて、無頼漢ながらも家族思いの刑事・哀川翔が良い味出していました。それだけに杉田かおる母娘が誤爆されるシーンはほんと胸が痛みます。竹内力もラストで悟空化してカメハメ波を放出するところでは、あのトレードマークの眼力が消えて意外と可愛い顔になっちゃうのがキュートです。 製作から20年経ったけど、やっぱ三池崇史は本作を超える映画を撮るのはムリみたいですね。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2020-12-18 20:25:19)
237.  グラン・トリノ 《ネタバレ》 
公開当時は“イーストウッド最後の映画出演”と世界が騒めいたけど、12年経った現在では『人生の特等席』そして自作の『運び屋』と二作も主演してるんだからなんともはやです。だいたい、あのハリウッド・レジェンドがそう簡単に枯れるはずないでしょう。それよりも衝撃的だったのは、イーストウッドが劇中で初めて死んだということなんじゃないでしょうか。そういうこともあって“最後の出演作”という伝説に信憑性が付いたんだと思います。 個人的には本作と『許されざる者』『ミリオン・ダラー・ベイビー』はイーストウッドのセルフ・セラピー三部作だと思っています。その中でも本作は彼の内面やジレンマが最も投影されている感じで、ウォルト・コワルスキーこそが変な表現ですけどイーストウッドが感じている自身の内面を擬人化させた存在なんだと思います。演技としても『スペース・カウボーイ』のフランク・コービンに通じる飄々とした頑固ジジイで、毒舌を吐いてもあの表情ですからペーソスすら感じてしまうんです。最後まで狂言回し的な存在だったけど、若い神父もいい味出してました。人種対立と言っても白人キャラはポーランドやイタリア系、信仰はカトリックでいわゆるWASPと呼ばれる連中とは縁遠いマイノリティばっかで、さらにマイナーなアジア系モン族と同じコミュニティだというところがいかにもアメリカ的な現実なんでしょう。 イーストウッドはハリウッドでは少数派のトランプ支持でバリバリの保守なんですが、彼の政治指向は決してタカ派ではなく柔軟性に富んでいて時にはリベラルかと思わせるところもあります。じゃないと『ミリオン・ダラー・ベイビー』や『アメリカン・スナイパー』みたいな作品を撮りませんよ。軍務経験はあるけど実戦に参加したことはないイーストウッドがコワルスキーが苦しむ戦場体験のトラウマに託したことは、スクリーンでは途方もない数の人殺しを重ねてきた自分の贖罪なのかもしれません。それが最後の無抵抗の死になった様な気がしますし、同じ保守でもガチガチのタカ派だったジョン・ウェインが存命だったら決して容認しない結末だったと思います。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2020-11-30 21:03:49)(良:1票)
238.  キューブリックに魅せられた男
「レオンは蛾だ、火に魅入られて自ら羽根を燃やしてしまう蛾。キューブリックはまぶしく輝く光だった。その強い誘惑に抗えずレオンは己が身を燃やしてしまった。」これは冒頭を飾るナレーションで、稀代の天才スタンリー・キューブリックに人生を捧げた男の物語です。 主人公はレオン・ヴィタリ、もとは俳優で『バリー・リンドン』でマリサ・ベレンソンの息子ブリンドン子爵を演じた人です。実はこれが初のキューブリック映画出演で、それまでの俳優としてのキャリアを捨てて撮影後にキューブリックのスタッフに志願しました。彼のパスポートに自ら記した職業は原題でもある“Film Worker”つまり“映画仕事人”で、25年間キューブリックのもとで編集・照明・キャスティングなどすべての製作業務で助手を勤め、出演者への演技指導まで任されていました。あの暴君で知られるキューブリックですからその仕事の過酷さは推して知るべし、キューブリックと同じ屋敷で過ごして24時間一週間休みなし、普通の人ならすぐに逃げ出すこと間違いなしです。でもそのおかげでキューブリック作品に関してはDNAレベルと言っても過言ではないほど精通し、キューブリックの急死後ポスト・プロダクションが残っていた『アイズ・ワイド・シャット』を彼の意図通りに完成させました。 これは天才に魅了されるとその人の人生がどの様に変貌してしまうのかという驚異の物語です。そして『バリー・リンドン』以降のキューブリック映画製作の舞台裏が垣間見れるところも貴重です。キューブリックと言えばポスターやパブリッシングについてもうるさく口を出すことで有名ですが、実は彼の意を汲んだレオンの仕事だったというのはちょっとサプライズでした。逆にキューブリックが映画会社やプロデューサーへ本人の承諾を得ずにレオンの名前で抗議や苦情の書簡を送っていたというのは、笑えないですがいかにもキューブリックらしい話しです。そういう汚れ役も引き受けていたので業界ではレオンはけっこう嫌われていたそうで、キューブリックの回顧展が開催されたときは企画にはノータッチでレセプションにも招待すらされなかったというのには同情してしまいます。 レオン・ヴィタリという人は、資金さえあればそれこそ一人で製作・監督・撮影・編集などをこなせるスキルの持ち主なのに、キューブリックの死後も映画製作は手掛けずにまるでキューブリック博物館の学芸員みたいに彼の偉業の数々をメンテナンスし守っているのには、もう崇敬するしかありません。人格には問題あり、と言われているキューブリックですが、一人でもこのような理解者を育てることができたというのは幸せだったんじゃないでしょうか。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2020-10-19 22:02:53)(良:1票)
239.  サザン・コンフォート/ブラボー小隊 恐怖の脱出 《ネタバレ》 
州兵と言っても、集められた面々の顔触れや勤務態度はまるで町の消防団みたいな感じです。軍務経験があるのはピーター・コヨーテの軍曹だけで、ほぼ素人集団である九人の分隊(邦題では小隊としているが明らかに間違い)が湿地帯の森に踏み込んでゆく。経験者と言ってもちょっと頼りなさそうだった軍曹が真っ先に射殺され、完全に烏合の衆と化した八人が地図も磁石も持たずに彷徨する羽目に陥ります。いちおう伍長階級の先任者が指揮を執るけど誰も彼の能力を信頼せず、八人は団結せずにいがみ合い勝手な行動に走ります。そして頭がおかしくなった一人はケイジャンの小屋を爆破するといういちばんやってはいけないことをしでかし、ケイジャンたちから一人一人となぶり殺しされてゆく。軍曹が殺されてからの展開は、もう緊張感が半端ないです。捕虜となった一人以外はケイジャンたちの姿をほとんど映さないという演出がまた怖い。 閉幕十五分前にして生き残った二人はトラックに遭遇してケイジャンたちがお祭りをしている集落に連れてゆかれます。実はこの残り十五分のシークエンスがこの映画でもっとも恐ろしいところで、これは私が選ぶ歴代サスペンス映画の恐怖シークエンスでベスト3に入れたいと思います。豚を銃で屠殺したり絞首刑用のロープが持ち込まれたり、恐怖を煽る伏線が見事に張り巡らされています。私にとってはあの結末はちょっと意表を突かれましたが、10年前のニューシネマ全盛時代だったら絶対違う終わり方だったと思いました。 この悲惨極まりない行軍はヴェトナム戦争の戦闘を暗喩しているのでしょう。でも、実は国内にもヴェトナムが在るのだ、というところがこの映画のテーマなんです。日本では未公開だったそうですが、これは観ておいて絶対損はないと思いますよ。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2020-10-04 20:08:39)
240.  ディストピア パンドラの少女 《ネタバレ》 
迂闊にもゾンビものとは予想だにせず鑑賞、だって邦題は“ディストピア”ですしね、でも内容には“ディストピア”要素は皆無だったし配給会社は“ディストピア”の意味が判ってるのかね? まあ戯言はさておき、これはなかなかの良作で拾い物でした。この作品のゾンビは劇中ではハングリーズと呼ばれていますが、喰いものを見つけたらシティマラソンの群衆ランナーみたいに群れを成してしかも全速力、そうじゃないときは路外でやはり群れになって立ったままお眠りとけっこうユニークです。メラニーたち第二世代が小学校低学年ぐらいの年齢なので、このハングリーズ化現象が始まってからは十年ぐらいは経っているという設定みたいなので、ハングリーズたちも食糧・生肉が不足してきたので新陳代謝を減らして省エネ生活なのかもしれません。これは色んな生物で観察されることで、けっこうリアルで考えられた設定なのかもしれません。主人公メラニーも本能が目覚めると猫や鳥まで貪っちゃう、人間以外を食するゾンビって初めて観た気がします。 冒頭の女教師の話にパンドラの箱が出てきますが、実は箱じゃなくて”パンドラの実“だったというオチにつながり、その実を世界に解き放つのがメラニーだったという結末はかなり強烈です。メラニーという少女、語る言葉はともかくとしても表情に喜怒哀楽が全くないので、本心はどうなのか読めずに不気味です。普通の人間と比してもずば抜けた知能を持ち、軍曹の動作を見てるだけで拳銃の操作を理解してしまうところなんか恐いですよ。 ラストは冒頭とはシメントリーな絵面で、女教師が外気から遮断された箱から第二世代の子供ハングリーズたちに授業するという皮肉のきいた幕引きです。でもラス前のカットで涙を流しているところからも、いくら元気なテンションでもそれは決して彼女が望んだ結末ではなかったと言えるでしょう。その子供たちの中で生活指導係のように振舞っているメラニーを見ていると、ふと『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』のシーザーを思い出してしまいました。彼女は人類亡き後の地球をハングリーズの指導者となって支配することを目指しているのかもしれません。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2020-09-10 22:46:39)
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