541. ディヴァイド
《ネタバレ》 なんの説明もなされないまま、いきなり冒頭から核戦争(らしき?)カタストロフィが巻き起こり、マンションの地下室へと追い込まれてしまった種々雑多な人々。地上に出るべきか、このままここで救助を待つべきか、各々に葛藤を重ねていたら、突然に現れた防護服姿の男たちによって唯一の扉が溶接されてしまう。「どうせ、低予算で作られた、よくあるB級SFじゃろう」くらいの心持ちで鑑賞してみたら、これが意外や意外、なかなか良く出来た密室劇で良い意味で僕の期待を裏切ってくれました。追い詰められて次第に獣性を剥き出しにする男たち、心の弱さからそんな男に引き摺られる婚約者、子供をさらわれ次第に狂気に捉われる母親、そしてそんな極限状況の中で必死に理性を保とうとする主人公エヴァ。確かに脚本上の瑕疵が目立つ作品ではあるけれど、それを補って余りあるセンス溢れる映像(ビニールで包装された無機質な通路や、銃を手に入れようとする時の変幻自在なカメラワーク、何より自らはなった業火に身を焼かれる狂った男の最期等)と、過剰なまでの暴力描写によって人間心理の深い闇を垣間見たような気がします。お金がかかっていそうなのは冒頭と最後のCG描写だけで、あとはずっと薄汚れた地下室だけで物語が進むという明らかな低予算映画なのだけど、監督の映像センスと役者陣の熱演、そして何より人の心を打つような映画を創ろうという情熱さえあれば、いくらでも面白い映画が創れるという見本のような作品でした。この監督の次回作にも期待したい。 [DVD(字幕)] 7点(2013-10-17 22:37:33) |
542. THE GREY 凍える太陽
《ネタバレ》 極寒の雪山に飛行機が墜落、生き残った男たちが、襲いくる狼の群れから逃れ決死の脱出を図るお話。以上、終わり。という、超シンプルイズベストな映画でした。場面の98%が雪山と森で、可愛いおねーちゃんどころか女性は一人も出てこず、放送禁止用語を連発し下ネタばっかり話すむさ苦しい髭モジャの中年男ばかりが出演(もう画面から加齢臭が臭い立ちそう笑)という、それだけ聞くととてもつまらない映画のように思えるけれど、やっぱり映画って優れた脚本と演出力さえあればいくらでも面白くなるという見本のような作品でした。極限状況に置かれ、時には反発しあいながらも力を合わせて必死に困難を突破しようとするのだけど、人間は常に弱い生き物で周りの困難ばかりか己の弱さによって身を滅ぼしてゆく男たち。美しい自然がもたらす脅威、人が生きる理由、そして神の不在。エンタメ映画として充分な水準を保ちながら、そんな深淵なテーマをも内包したなかなかの秀作だと僕は思います。 [DVD(字幕)] 7点(2013-10-04 22:40:31) |
543. 人生の特等席
《ネタバレ》 メジャーリーグのスカウトマンとして長年活躍していたのだけど、緑内障を患ってしまい引退の瀬戸際にいる老スカウトマン・ガス。ガスの娘でいまは敏腕弁護士として活躍するミッキー。過去の出来事が原因で今も確執を引き摺るそんな親子が、とある事情により田舎へと選手をスカウトするため旅にでることに。最初は反発していた二人だったが、のどかな田園風景が拡がる田舎で一緒に仕事をするうちにお互いの心のわだかまりが解きほぐされていく。正直、こんなベッタベタなお話は苦手だし、野球にも全く興味がないのだけど、グラントリノでも見せたイーストウッドの頑固ジジイっぷりが良い感じにさまになっていて、最後までけっこう楽しんで観れました。やっぱり格好良いよ、イーストウッド!シブいぜ!!だからこそ、彼の出ていないシーンのところどころに正直「うぅ~ん」てトコはありましたけど(特に都合よく出てくるダイヤの原石ピッチャー笑)、イーストウッドのシブさに免じて+1点。 [DVD(字幕)] 7点(2013-09-28 18:57:13) |
544. フランケンウィニー(2012)
《ネタバレ》 「フランケン・ウィニー」この同じ名前を冠した映画を、20年以上の月日を隔てて再び鑑賞出来たことに思わず感傷的になってしまった。まだ無名だったころのティム・バートンが撮った、白黒実写映画である前作を知ったのは、映画館での「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」鑑賞時に同時上映されていたのをなんとなく観たから。その、社会の多数派と上手く馴染むことが出来ないマイノリティの視点から描かれる、暗くグロテスクでありながらどこかにピュアな切なさを感じさせる独特の世界観は、まだ十代だったころの僕の感性を見事に揺さぶってくれました(僕も社会と上手く馴染めず登校拒否児だったもので)。そして、今ではすっかりメジャーになった彼が、最大限の愛着を持ってクレイアニメとして自らリメイクした今作もやっぱり楽しい。普段は猫派な僕でも、スパーキーの可愛さにはキュンときました。でも、期待が高かったせいか、ほんのちょっと不満もあります。それは、スパーキーがいまいち活躍してなかったこと。もっとあの亀のモンスターとかシーモンキーとかを、コミカルに颯爽と倒していくスパーキーの雄姿を見たかったなー。それでも、相変わらずの唯一無比のグロメルヘンな世界観は充分楽しめました。スパーキー、ほんと可愛かったしね。それに、部屋に引きこもって独りぼっちで映画ばかり観ていたあのころの自分のことを思い出して、ちょっぴり泣きそうになっちゃいました。久し振りに、オリジナルの実写版のほうも観てみようかなー。 [DVD(字幕)] 7点(2013-09-21 23:24:54) |
545. ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー
《ネタバレ》 前作のB級感溢れるテイストながら、全体を覆う重厚でモダンな独特の雰囲気が面白かったので、そのまま続編である今作も鑑賞。前作のクトゥルフ神話&スチームパンクナチスというモチーフから、今作はもろロードオブザリング&スターウォーズというがらりと雰囲気の違う作風へと思い切りシフトチェンジしているのだけど、ちゃんと続編として違和感なく観れるところはさすがギレルモ・デル・トロ監督。序盤の、大量の歯の妖精が人間たちを一瞬で喰い尽くすという、この監督らしいシーンから、徹底的に拘り抜いて描かれたトロール市場へと雪崩れ込む展開は、相変わらずゾクゾクさせてくれる。そして、そのテンションを落とすことなく物語は一気にクライマックスへ。面白い。個人的には、一作目の(ストーリー的には完全に破綻していたけれど)オカルティックな雰囲気のほうが好みだけど、こちらも充分に楽しめた。 [DVD(字幕)] 7点(2013-08-01 13:41:58) |
546. ファミリー・ツリー
《ネタバレ》 事故で昏睡状態となった妻が余命幾ばくもないと知った夫に、さらに追い討ちをかけるような事実が知らされる。妻が浮気をしていて自分と別れてその男と結婚するつもりでいたらしい。夫は、娘たちを連れてその浮気相手に会いに、死にかけで昏睡状態の妻をほっぽり出してハワイ島を奔走する…。という「おいおい」って設定の映画なのだけど、ハワイの美しい情景と夫役のジョージ・クルーニーのダンディで大人な演技のおかげで、不思議と最後までほのぼの観れるロード・ムービーの佳品に仕上がっておりました。この「トホホ」な家族の雰囲気、僕は結構嫌いじゃないです。でも、これを大阪の岸和田あたりを舞台に岸部シロー主演とかでリメイクしたらとんでもなく鬱な映画になるんだろうな(笑)。 [DVD(字幕)] 7点(2013-05-30 14:58:12) |
547. アメリカン・ヒストリーX
《ネタバレ》 アメリカ社会に根深く残る、人種差別という重いテーマを真正面から扱った社会派ドラマ。確かにこの重厚なテーマを、現代と過去を交互に語る構成で最後まで見せきったところは賞賛に値するけど、個人的にはちょっと甘いのじゃないかと思った。兄貴の説得にあんなに簡単に改心する弟って、人種差別の根深い闇を描く作品としては、やっぱり甘いと思う。それでも、狂気を抱え込んだ男を圧倒的な存在感で演じきったエドワード・ノートンはやっぱり凄い。というか、彼なしにはこの映画は成立しえなかったんじゃないかというくらいの熱演。そんな彼の見事な格好良さに+1点で。 [DVD(字幕)] 7点(2013-05-20 12:35:06) |
548. ミザリー
《ネタバレ》 誰もが楽しめるエンタメ映画の優等生監督ロブ・ライナーが作った、誰もが楽しめる優等生エンタメスリラー映画。それはそれで魅力的だと思うのだけど、僕にはちょっと物足りなかったのも事実。だって同じスティーブン・キング原作で、密室劇の古典的名作『シャイニング』に比べたら(ってそんな作品と比べるのがそもそも間違いかもだけど)、明らかに薄味だし。本当は原作では、アニーが斧で主人公の足を切り落とすことになっているのだけど、それがハンマーでただ折るだけに変更されていたのも、やっぱり僕には物足りない。それでも、キャシー・ベイツ演じるアニーの狂気だけは迫力があったので7点。 [DVD(字幕)] 7点(2013-05-13 19:16:06) |
549. 秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE ~総統は二度死ぬ~
《ネタバレ》 吉田戦車の不条理ギャグ漫画が大好きな自分は、この馬鹿馬鹿しい低予算のアニメも昔から大好きだった。でも、大人になって日々の忙しさに忙殺されているうちに、この『鷹の爪団』のこともすっかり忘れていたのだけど、最近たまたま同じ作者による島根県の自虐カレンダーが売れているというニュースを知り、「あぁ、懐かしい……」と思わずこの作品をツタヤでレンタル。うーん、馬鹿馬鹿しい……(笑)。良いですね、このまったく意味なんかない下らない面白さって。大人社会のストレスで圧殺されかかっていた僕の心が、大分癒されました。吉田くんのひねくれ方って大好き。そして、大家さんの燃え上がる女の部分に大爆笑。まぁ、社会の大多数の大真面目な人たちには全く受け入れられないだろうけど。ぜひ、宮崎駿さんに観てもらってその感想を聞いてみたい(笑)。 [DVD(字幕)] 7点(2013-05-13 17:34:53) |
550. コンタクト
《ネタバレ》 無限大の宇宙に対する、ちっぽけな人間の畏怖と、それでもロマンを追い続ける主人公たちの情熱を、徹底的に科学的に考察された設定と美麗なCG技術で魅せる壮大なSFドラマ。この全編をおおう知的で上品な雰囲気は大好きです。そしてそんな主人公を演じるジョディ・フォスターもとっても魅力的。ちょっと最後に宗教色が強くなり過ぎたところは残念だけど、この科学者たちのあくなきロマンは何度観ても面白いです。同時期に撮られた、ローランド・エメリッヒのお馬鹿SF作品とは好対照だね。 [DVD(字幕)] 7点(2013-05-09 13:34:02) |
551. キャスト・アウェイ
《ネタバレ》 何不自由ない生活を送っていたトム・ハンクス演じる会社社長が、無人島に流れ着いて独りでサバイバルする映画(こうやって説明すると、なんだか身も蓋もない感じだけど笑)。ほとんど全編にわたってトム・ハンクスの独り芝居になるのだけど、そこはさすがに現代の名優。最後まで飽きずに観ることが出来ます。特に、映画史上、初となるであろう、人間とただのバレーボールの別れのシーンをここまでの説得力を持って演じられる役者なんて世界広しと言えどもそうは居ないはず(日本の役者がやったら確実に笑っちゃうもの)。そして、帰り着いた後の切ない人間ドラマも魅力的。ややオーソドックス過ぎるきらいはあるものの、良作です。 [DVD(字幕)] 7点(2013-05-09 13:21:45) |
552. プレシャス
《ネタバレ》 貧困と暴力とセックスによりこれ以上ないくらい崩壊してしまった家族のなかで生きる、太った黒人の女の子・プレシャス。夢も希望もないような境遇のなか、それでも自分がテレビのなかの華やかな世界に生きるという、とっても〝本当にとてもささやかな〟妄想だけを糧にして生き抜こうとする彼女の姿が哀れで思わず涙ぐまずにはいられない。重たい作品だけど、多くの女性に観てもらいたいと思った。この世の中でもっとも醜いものはやはり弱いものに向けられた大人たちの暴力です。 [DVD(字幕)] 7点(2013-05-04 20:24:02) |
553. アンフィニッシュ・ライフ
《ネタバレ》 ハルストレム監督らしい、未完成な人生を生きる市井の人々の苦悩や哀歓を惚れ惚れするくらい美しい自然の風景のなかに描いた心温まる名品。誰もが生きていくうえで傷付き傷付けられ、そして時には他人も傷付けてしまう。でも、それでも必死に生きていく人々、だってそれが人間なんだもの。普通の監督が撮れば、確実に説教臭くなったり宗教っぽくなるだろうそんなテーマも、彼にかかればこんなに愛らしい映画になってしまうのだから素敵。余談だけど、この映画を観てアメリカから銃がなくならない理由がよく分かりますね。だってあんな男(元夫)がいつ襲ってくるか分からない社会なんだもの。 [DVD(字幕)] 7点(2013-05-04 19:34:08) |
554. HACHI/約束の犬
《ネタバレ》 べつにこんな分かりきったベタなお話って個人的に嫌いなのだけど、でも僕の大好きなラッセ・ハルストレム監督の作品ということで鑑賞。うん、確かにお涙頂戴なベタなストーリだけど、そこはやっぱりハルストレム・マジック!全く嫌味なところのない自然で美しい映画に仕上がってて良かったです。ハチも健気で可愛かったしね。さすがにリチャード・ギアが「ハァァチィ」と違和感たっぷりに呼ぶ姿には苦笑しましたけど。 [DVD(字幕)] 7点(2013-05-04 19:18:33) |
555. アポカリプト
《ネタバレ》 予告編で、ほとんど全裸の未開人がジャングルをぐるぐる駆け巡るだけの予告編を見ていたので、本当に大丈夫かなぁと不安を感じながら鑑賞したのだけど、これが意外に意外、けっこう面白かったじゃないか。そして、内容も予告編どおり、延々ほとんど全裸の未開人がジャングルを駆け巡っていただけだったので二重にびっくり(笑)。前作で、ほとんど全裸のキリストをひたすら痛めつけたメル・ギブソン監督のノウハウが今作で大フューチャーされていて、ちょっと痛々しい。ストーリーは単純そのものだけど、なんだか全編に生きるエネルギーが満ちていて普通に面白かった。 [DVD(字幕)] 7点(2013-05-02 21:55:37) |
556. となりのトトロ
《ネタバレ》 徹底的に子供の視点で描かれた、田舎の自然の美しさと恐ろしさを想像力豊かに描いたメルヘンファンタジー。やっぱり宮崎駿って世界に比肩できる天才だと改めて思う。だって、この作品に登場するトトロや猫バスなんて世界広しと言えども宮崎駿以外に絶対に誰にも考えられないだろうもの。ユーモラスで優しくて頼もしくて、そしてどこかに不気味さも感じさせる数々のもののけ(?)たちはいつ見ても心穏やかにさせてくれる。個人的には、まっくろ黒すけが一番好きかなぁー。 [DVD(字幕)] 7点(2013-05-02 21:05:30) |
557. レイジング・ブル
《ネタバレ》 私生活は徹底的に破綻しているけれど、それでもリングのなかでは輝いていたボクサーの栄光と破滅を描いたボクシング映画の古典。嫉妬と酒に狂ってDVを繰り返す主人公のボクサーの姿は善くもも悪くも強烈!スコセッシとデ・ニーロのまさに黄金時代。白黒映像で描き出される、どこか乾いた狂気の世界はそれでも生きていく男の生々しいエネルギーに満ち溢れている。それに、今では既に伝説と化しているデ・ニーロのあの体重差はやっぱり見事!そこまでするかってくらいの役者魂が、主人公の狂気に見事に憑依している。 [DVD(字幕)] 7点(2013-04-30 16:09:29) |
558. グッドフェローズ
《ネタバレ》 暴力と狂気が支配する裏社会を徹底的にアンモラルに生き抜く碌でもない男たちの生き様を生々しく描いたスコセッシ印のマフィア映画。この独特の狂気の世界観は円熟の域にまで達している。特に、自分の本能のままに生きるジョー・ペシが強烈!ムカついた店員を思わず殺してしまうなんて……。絶対にこんな男と飲みになんか行きたくないですね。狂気と紙一重の世界に生きる男たちの、情熱と悲哀に胸を揺さぶられます。 [DVD(字幕)] 7点(2013-04-30 15:52:15) |
559. シャッター アイランド
《ネタバレ》 愛する妻を失い、いまだその傷心を引き摺るディカプリオ演じる連邦捜査官テディ。そんな彼が、謎の殺人事件を捜査するために乗り込んだ孤島の収容所で嵌り込む夢幻の世界。って、同時期に公開された「インセプション」と色々と思いっ切りかぶってるんですけどー。でもそこはやはりスコセッシ、冒頭のあの仰々しいオープニングに、ディカプリオが迷い込む悲壮感漂う孤独な男の狂気の世界、そしてそこで出会う亡き妻の妖艶な美しさ…。こちらはこちらで、やっぱりゾクゾクするくらい怪しい魅力に満ち溢れておりました。これはもしかして傑作の予感……?と、思っていたら後半の見事なまでの失速ぶりはびっくりですね。残念です。でも前半は好きな雰囲気だったので7点。 [DVD(字幕)] 7点(2013-04-30 15:12:18) |
560. ダーク・フェアリー
《ネタバレ》 僕のこよなく愛する『パンズ・ラビリンス』の監督が製作した、怪しげな妖精たちが乱舞する巨大な洋館を舞台に、今回も大人世界に翻弄される小さな女の子を主人公にして繰り広げられるダーク・ファンタジー。パンズ・ラビリンスに比べると確かに小粒感が否めないけど、それでもやはり独特のモダンで怪しげで時には淫靡ささえ感じられる世界観は秀逸。特に、小さな妖精の群れがハサミや剃刀といった現代的な凶器を手に襲い掛かってくる場面は、子供が観たらしばらくトラウマになりそうなほど怖い。そして、一番善人だった奥さんが最後に奈落へと引き摺りこまれる後味の悪いラストもいい感じ。ただ、残念なのは主人公の女の子。演技力を優先したのか、この子がどうも可愛くない。もっと魅力的な女の子をキャスティング出来ていたら+1点だったのに。 [DVD(字幕)] 7点(2013-04-30 14:51:53) |