761. ソウ5
《ネタバレ》 『5』は監督も代わって少し持ち直して来た感もありますが、率直に言って『4』と『5』はやっぱつなげて整理して一本の映画にした方が良かったんじゃないでしょうか。思うに本作はあのゲームを見せたいがために撮ったような感じで、そういやこのシリーズは「一作につき一ゲーム」という製作者側のこだわりがあるように見受けられます。基本的にはストーリー自体はホフマン刑事とFBI捜査官の対決が主題であって、実は本作でのゲームはそれとは無関係に進行していくところが、はっきり言って失敗だったと感じます。あの5人のゲーム参加者とホフマン刑事にどういうつながりがあったのかと、不思議に思いませんか?FBI捜査官が自分の正体を暴きにかかっていると判っているんだから、ゲームを仕掛けて遊んでる場合じゃないでしょう。 ラストのFBI捜査官の最期は絵面としては地味ですけどシリーズ中屈指の悲惨な死にざまでした。彼は冒頭の水槽ヘルメットを被せられた時点でアウトだったのに荒業を使って生き延びたぐらいですから、監督としてはあれぐらい完膚なきまで肉体を破壊しておかないと、安心できなかったのかな(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2017-12-28 22:46:44) |
762. ソウ4
《ネタバレ》 いきなりジグソウの脳みそパッカーンの解剖シーンが始まるのに、なんで警官リッグがジグソウの声に操られてゲームをするの?ジグソウは生前にそこまで準備してたのか(こいつは神か)?とこっちの脳みそこそパッカーンになりそうだったのに、なんと前作と同時進行ストーリーのパラレル・ムーヴィーでした。つうか、このストーリーテリングになんの意味があるんでしょうか、謎かけにもなってないし単に観客を混乱させただけです。要は製作者としては『3』の断片をつないで『5』に繋げるインターミッションのつもりだったのかとも、勘繰ってしまいます。本作辺りからまるで連続TVドラマをぶつ切りにしたような展開になって来て、途中から観ることをきっぱり拒否するような撮り方になってきます。いっそのこと『3』から『ファイナル』までを一本の映画にまとめたらよかったのにと思ったりしますが、そんな長大な映画は誰も観たいとは思わないですよね(笑)。 まあ新しい展開と言えば妙にガタイのいいホフマン刑事と、ジグソウの元妻ジルが前面に出てきたってことでしょうか。あとセシルにさせたゲームが、ジグソウの最初の犯行つまりビギニングだったわけですね。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2017-12-26 22:41:54) |
763. 大侵略
《ネタバレ》 はぐれものを集めた特殊部隊が砂漠を突っ切ってドイツ軍の基地を襲撃するというプロットは、『トブルク戦線』とまんま同じ、作戦を命じる上官を演じるのがどっちもナイジェル・グリーンというのは、実に紛らわしい。でもあの大味な戦争アクションと違って、こっちはいかにも英国製戦争映画らしい諧謔味にあふれたくせ玉です。まさに原題通りの“Play Dirty”なストーリー展開であります。 マイケル・ケインが隊長なんですけど、その部下たちが彼の言うことを聞かないことに関しては、数ある特殊部隊もの戦争映画の中でも屈指の曲者ぞろいです。なんせ筆頭部下がナイジェル・ダヴェンポートですからねえ、この人は初代ジェームズ・ボンドの候補だったぐらいで、その男くささはマイケル・ケインを圧倒しちゃってます。他にも部下には異常に仲が良いアラブ人コンビ(つまりホモ達)がいたりして、いくら何でも捻り過ぎだろ!苦労して燃料基地にたどり着いたのに、実はそこは…(ネタバレ過ぎるので以下自粛)つまり『マッドマックス2』みたいなお話しだったわけです。そこでめげずにマイケル・ケインはみんなをベンガジまで引っ張って行って大暴れを図るけど部下は全滅、ケインとダヴェンポートの二人は生き残るけど実に皮肉な最期です、こんな結末ハリウッド映画じゃ絶対あり得ない! ということで、自分的にはスマッシュ・ヒットだなと思うんですけど、『大侵略』という邦題だけは許せません、チンギスハンの映画じゃないんですからねえ。でもこの映画ユナイトが配給したみたいだし、ひょっとして邦題の名付け親はあの水野晴郎だったのかも? [CS・衛星(字幕)] 7点(2017-12-24 23:42:50) |
764. ミッドナイト・アフター
《ネタバレ》 あまりにふざけた内容(言いたくはないけど、監督の名前からしてフルーツ・チャンとは…)に驚きましたが、原作が一応あってそれが香港の携帯小説なんだそうです。それで無茶苦茶なストーリーのわけを何となく納得しました、国は違えども携帯小説って代物にはほんとロクなもんがないですね。私が今まで観た映画の中でもツッコミどころの多さではほとんど最高峰に位置しちゃってます。でもプロットと言うかストーリーのつかみは、すごくイイと思います。『アイ・アム・レジェンド』や『28日後...』の様な人類滅亡後の無人の大都市に取り残されるというプロットが、なんか好きなんですよ。でもバスの乗客以外は消え失せてしまったはずなのに、ぽつぽつとビルの窓に灯りが点いているって可笑しいだろ、ってあたりからは伏線にもならない単なる矛盾の連続でラストまで突っ走ってしまうとは予想外でした。挙句の果てにはフクシマまで引っ張り出して来て、さすがに「中国人、日本を舐めんなよ!」となってしまいます。 まあバカの創作した携帯小説ごときにいきり立ってもしょうがないですけどね。 [CS・衛星(字幕)] 2点(2017-12-22 22:35:50) |
765. 日本沈没(1973)
《ネタバレ》 原作は驚愕ものの高度なシミュレーション・フィクションで、日本SF小説の最高峰と言っても過言じゃありません。「地殻変動によって日本列島を消滅させる」という荒唐無稽な思考実験を、当時の地球物理学者たちと最先端の理論を駆使して起こりえると納得できる物語にまで昇華させています。また日本列島に生きる1億1000万人と日本人というアイデンティティがどうなってしまうのかという壮大なテーマも、政治的・文化的・国際的な視点から緻密に分析されています。この小説が当時の社会に与えた影響は絶大で、巨大地震の予知プロジェクトや耐震設計技術の研究などは、この小説が影響を与えたんじゃないでしょうか。 この社会現象を巻き起こしたベストセラーに東宝は当然のごとく飛びついたわけですが、やはり「完全映画化は不可能」と言われた題材なので、なんか総集編を見せられたような感は否めないところです。まあそれでも健闘したかなとは思います。天変地異の大災害は東京を襲う大地震と富士山噴火のシーンにほとんどの精力をつぎ込んだ感がありますが、特技監督が「爆破の中野」の異名を持つ中野昭慶ですからコンビナートの爆発や大火の描写は迫力満点。でも小松左京は関西人だけあって、原作ではこの後におきる近畿地方の壊滅が壮絶を極める地獄絵図なんですが、そこは映画ではほとんどスルー状態。東京地震と噴火で予算を食い潰しちゃったんでしょうかね。また役者たちが藤岡弘を筆頭に暑苦しい演技を繰り広げるのが、ちょっと鬱陶しいぐらいです。演技力に難があってセリフ棒読み状態のいしだあゆみが上手く見えるぐらいですからねえ。でもこれだけみんなで大芝居をやってくれると、いつもの丹波節なんだけど総理大臣がすごく印象に残ってしまうのが皮肉です。よく見ると脚本はあの橋本忍なんですね、名脚本家もこのあたりから腕が落ち始めていたのかもしれません。 できれば監督・本多猪四郎、音楽・伊福部昭で撮ってくれていたら、もっと出来が良かったのかもしれません。 [映画館(邦画)] 5点(2017-12-20 23:45:36)(良:1票) |
766. 探検隊の栄光
《ネタバレ》 いろんな意味で緩すぎるけど、こういうのは嫌いな題材じゃないです。テーマにしている『川口探検隊』シリーズは実際にはもっといい加減で煽情的な番組だったけど、たしかに当時には落ち目だった川口浩が捨て身のロケで起死回生を果たしたという事実は上手くパロっていますね。時おりアーカイブから引っ張ってきたような熱帯カットを挿入してますが実は国内でロケ撮影したのは見え見えなんですが、かえって本家の『川口探検隊』が漂わせていたチープ感を上手く再現することにつながっている気がします。何でもかんでも「ド~ン」とかの擬音で済まそうとするユースケがツボにはまった適役で、もっと彼に活躍して欲しかったぐらいです。藤原竜也のコメディ演技もなかなかのもので、新境地を開いたかもしれません。まあ予算も製作者の熱意も大して高くない企画なので酷ですけど、較べてみると『トロピック・サンダー史上最低の作戦』がいかに傑作だったか再認識させられました。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2017-12-16 23:14:56) |
767. 1941
《ネタバレ》 これぞまさしく、スピルバーグ版『みんな~やってるか!』と命名させていただきます。もうほんとに何をとち狂ったのか、北野映画と違ってバジェットは半端じゃないですからこれでハリウッドから追放されてもおかしくなかったところです。でもすぐに立ち直って同じ失敗は二度繰り返さなかったのは、スピルバーグは常人ではありません。ギャグがまたしつこくていわゆるユダヤ風というやつなんでしょうか、さすがに笑えるところは一つもありませんでした。脇のキャストがまた三船敏郎を筆頭にムダに豪華なキャスティングの見本の様相を呈していて、可哀想に映画が終わってみればみんなうっすら損をしていました。 CG以前の作品なのでアナログなVFXと実物大プロップが使われていますが、さすがカネをかけているだけあってよく出来ています。たぶん実物なんでしょうけど、M3リー戦車がボギーの出ていた『サハラ戦車隊』以来の大活躍を見せてくれたのは眼福でした。でもいちばん凄かったのはラストの家の大崩壊で、おバカ映画の掉尾を飾る大愚行を見せられた感がひとしおです。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2017-12-14 23:36:48) |
768. 扉の影の秘密
《ネタバレ》 ドイツ表現主義の雄フリッツ・ラングがメガホンをとって“光と闇の貴公子”スタンリー・コルテスを撮影監督に起用されれば、これぐらいの映画は余裕でできちゃうんですね。特に舞台がアメリカのお屋敷に移ってからは、その陰影の濃い映像とミステリアスなストーリーテリングに引き込まれてしまいます。さんざん引っ張っておいてあのラストはなんだという非難は当然かもしれませんが、これは『飾り窓の女』にも通じる当時のハリウッドでのお決まりなんですから、大目に見てやってください。でもマイケル・レッドグレーヴは本当に殺人者ではなかったのか?という疑問は当然残りますけど、何でもかんでも種明かししてしまう昨今のヘボミステリー映画では味わえない感覚は貴重であります。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2017-12-11 23:07:39) |
769. 硫黄島からの手紙
《ネタバレ》 当たり前ですけどほとんど全編にわたって日本語オンリーのセリフ、こんなハリウッド映画は前代未聞だったそうでゴールデングローブ賞では外国語映画賞を受賞しているぐらいです。俳優も渡辺謙をはじめ名が知れた面々も起用されており、中でも二宮和也はイーストウッドのお気に入りみたいで、今でも日本のジャーナリストから取材されると「二宮は元気でやってるか」と聞くそうです。確かに彼は本作に出演してから俳優としても一皮むけた感じがしますし、現在の活躍は皆さんご存知の通りです。 『父親たちの星条旗』と比べると戦闘場面の壮絶さはやや薄めの感じはしますが、その分守備する日本軍の内情がかなり突っ込んで描かれています。どうしても呆れてしまうのが海軍の無能さで、これは史実でも栗林大将が東京への電報で嘆いている通りです。中村獅童が演じていたあの肝心な時にはヘタレ野郎だった将校も、海軍大尉でした。陸軍の中でも命令を無視する旅団長がいて、こんな組織でよくアメリカと戦争したもんだと感心するぐらいです。そこはアメリカ軍とは大違いですね。考えてもみてください、そもそも硫黄島攻略は日本本土空襲の航空基地を造るのが目的だったわけです。つまり陸軍航空隊のために海兵隊がすりつぶされたわけで、当たり前の様な事ですけど陸海軍が最後までいがみ合っていた旧日本軍では考えられないことなんです。大局的に観ると、旧日本軍とは下士官・兵は優秀なのでどんな国と戦っても苦戦を強いらせることができるが、国力が貧弱なうえ軍上層部が無能なので戦争に勝つことはできない軍隊だったと言えるでしょう。 総じてイーストウッドらしい淡々とした目線で描かれた地獄絵図だったという印象でした。でも彼はアメリカの敵国兵たちも“祖国を守るために必死に戦って死んでいった”ということをきちんと描いていて、それは海兵隊の戦死者と何ら相違はないんだと訴えている気がします。これこそが彼の“硫黄島プロジェクト”の目指したことだったんだろうな。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2017-12-08 21:47:00) |
770. 鬼戦車T-34
《ネタバレ》 いろんな意味でこれはとんでもない映画であることは、間違いないです。 まず、フルシチョフの時代にはスターリン時代とは打って変わってかなり自由な映画製作が可能になりましたが、それにしても捕虜が主人公でヒーローとなる映画は前代未聞だったことでしょう。第二次大戦のソ連では投降して捕虜になることは明確な犯罪行為とみなされており、帰還できてもほとんど全員が処刑か強制収容所送りになりました。そんな“裏切者にして社会の敵”がたとえどんな形であろうと映画の主人公になるなんてことは絶対あり得なかったわけです。でもその捕虜が戦車を奪ってドイツ国内で大暴れするというのは、痛快な逆転プロットの傑作だと思います。 次にこれほど実物の戦車が走り回る映画も滅多にないということです。使われているのは有名なT-34ですが、今でも現役で使っている国もあるぐらいの長砲身の後期型ではなく、珍しい中期型です。この型は丸いハッチが砲塔に2個並んで配置されていて、両方を開けるとまるでミッキーマウスの耳みたい見えるのが特徴です。捕獲されて研究に使われていた車両という設定なので、車載機銃は外され大砲はあっても弾薬がない、つまり走り回るしかないわけです。でももともと機動力がウリのT-34ですからスピードは出るし、中戦車とはいえ体当たりすれば家なんか軽く突き破るし車なんかでもぺっしゃんこにしちゃいます。撮り方自体もソ連映画界がお得意のアヴァンギャルドなモンタージュが多用されていて、逃げるT-34とドイツ軍の追っかけっこを見せるカット割りは斬新の極みです。 でもラストだけはソ連映画らしいというか、「赤軍兵士はヒューマニストです」という演出なのは臭いところです。強制労働させられているロシア女性たちがT-34を見て助けに来てくれたと歓喜するといった胸が締め付けられるような素晴らしいシーンもあったので、この締め方は残念でした。 [DVD(字幕)] 7点(2017-12-02 22:49:01) |
771. ファイナル・デッドコースター
《ネタバレ》 いよいよ三作目ともなると製作陣も頭がマヒしてきたのか、まるっきり“死神くんの殺しの手口博覧会”といった様相を呈してきました。これまで恒例だったヒロインたちの“死神出し抜き大作戦”はすっかり脇に追いやられてしまいましたが、訳が分からん屁理屈を聞かされるよりはこの方が潔くてすがすがしいですね。その手口としてはシリーズ中でも屈指の人気(?) を誇る “日サロトースト殺法” が満を持して登場、これは『ザ・グリード』のモンスターに喰われるのの次ぐらいに嫌な人生の終わり方です。死神がフェイントをかけるのはすっかりこのシリーズ愛好者にはバレバレですけど、本作ではちょっとした現象が積み重なって死につながってゆく “ドミノ倒し殺法” の美学に拘りを見せてくれました。死神を出し抜いたヒロインたちを最後に地下鉄で始末をつけてエンドですけど、これは一作目・二作目で取りこぼしを出してしまった死神の、反省の結果なのかな(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2017-11-30 22:16:59) |
772. リンダ リンダ リンダ
《ネタバレ》 ガールズ・バンドを題材にした邦画としては文句なしの最高峰でしょう。 オープニング、いかにも意識が高い高校生と言った感じのカメラに向かっての主張に、「うん、あったよね、こういう青春の恥って」と思わずうなずいてしまう人が多いんじゃないでしょうか。男女高校生たちのやり取りがまた自然な感じで、とてもリアル。どう見ても田舎の地味な高校に韓国人留学生がいて、その音楽素人の娘がなぜかバンドのヴォーカルになるという不思議なプロットなのに、その留学生がぺ・ドゥナだからそれだけで納得させられちゃうんです。あの“妄想MC”はこの映画で屈指の名シーンでしたが、ラストで突然盛り上がる体育館の観客たちも実はぺ・ドゥナの妄想がなせる業だったのかも(笑)。 香椎由宇は“こんなJK田舎の高校にいるかよ、でもほんとだったらかなり嬉しい…”と妄想させてくれるほどビジュアル的には光って(浮いて?)いました。でもバンドのベースはBase Ball Bearの関根史織だったので、演奏の見た目としてはかなり様になっていました。そしてME-ISM の山崎優子が謎の金髪先輩役で出演していて、弾き語りで歌う場面は圧巻でした。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2017-11-27 23:54:05) |
773. 東京上空いらっしゃいませ
《ネタバレ》 それまで剛腕をたよりに数々の異色作・問題作を撮ってきた相米信二も、90年代に入って円熟味が出てきた感じがあります(もっとも彼の人生はその後10年余りでしたが)。そして本作は彼が手掛けた最後のアイドル映画で、相米アイドル・ムーヴィーの完成形でもあります。 ストーリーは大島弓子の『四月怪談』をモチーフにしたようなファンタジーですけど、やはりこの映画の魅力は初演技だった牧瀬里穂の存在に集約されるでしょう。正直いって最初は彼女のキンキン声のど下手なセリフ回しは引いてしまいますが、そのあまりに豊かな表情と瞳に引き込まれてしまって、「これもありかな」となってしまいます。そんな素人同然の新人女優が相米監督に長回し撮影で撮られたのだから、かなりハードな経験だったことでしょう。ハンバーガー屋では、殺到する注文を受けて一人で飲み物を準備しおまけに肉を焼いてハンバーガーを完成させるまでをワンカットで演技させられるんですから、こりゃ大変ですよ。名曲『帰れない二人』を、四人のシンガーにそれぞれのスタイルで歌わせるセンスはさすがです。吹き替えですけど、中井貴一のトロンボーンに合わせて牧瀬里穂が歌い踊るシーンは、懐かしの90年代の雰囲気にあふれていました。そして自分が大好きなのはラスト・シーンで、あのマウスピースを買いに来た女子高生はきっとユウの霊なんだろうなと思います。でも現世の中井貴一にはそれがユウには見えないんです。何かしらを彼は感じ取っているのは確かなんでしょうけど… 余談ですけど、鶴瓶は本作から相米映画の常連になりましたが、実はその後の出演作ではギャラは一銭ももらっていない友情出演だったそうです。 [ビデオ(邦画)] 8点(2017-11-26 23:27:28) |
774. ハドソン川の奇跡
《ネタバレ》 すっかり枯れていぶし銀の風格となったイーストウッドとトム・ハンクス、これが初めてのタッグなんですね。考えるにアメリカほどヒーローに拘る国はないでしょう。そして、さんざんヒーローを演じてきたイーストウッドが、21世紀の世の中で英雄とはどういう人間なのか、また彼はどうして英雄になったのか、ということを問いかけています。 映像には素晴らしい迫真力があり、まるでニュース映像を観ているような錯覚さえ覚えます。こうやって観ると、ご老体の割にイーストウッドはCGの使い方がびっくりするほど上手い映画作家だといえます。また余計に話しを膨らませないシンプル極まりないストーリーテリングも、尺の短さもあって心地よいです。トム・ハンクスが機長ならどんな状況であっても乗客は助かりそうな安心感がありますが、結論の判っている有名な実話なのでこの撮り方が正解なんですよ。救助に駆け付ける人々の映像に感じる温かい視線も、ハリウッド保守の重鎮であるイーストウッドらしいかと感じました。まあそこは、救助隊が転覆しつつある客船を一時間以上もただ眺めていたどこかの国では、ぜったい撮れない映画だとは言えるでしょう。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2017-11-24 23:02:25)(良:1票) |
775. 震える舌
《ネタバレ》 破傷風、この単語には私たちの世代は少なからず恐怖を感じるはずです。小学校のころには普通に破傷風の予防接種をみんな打たれたし(この注射と日本脳炎の予防接種はほんとに痛かった)、たしか同学年には破傷風で死んだ子もいた記憶があるぐらいです。その破傷風との闘病記を“あなたは、この恐怖に耐えられますか!”“彼女はその朝、悪魔とともに旅に出た…”なんてコピーを付けて映画化するんだから、松竹という会社はえげつないです。トラウマ映画としてはあまりに有名ですがとても観る勇気がなくて、今回初鑑賞となった次第です。 主演の女の子の演技が凄まじいというか、監督もよくここまでやらせたな、って呆れかえりました。今のご時世でこんなことさせたら、下手したら幼児虐待で炎上ものですよ。また、劇中でも医師に破傷風菌は唾液なんかじゃ感染しないと説明させてるのに、両親が感染したんじゃないかとほとんどノイローゼになってゆく様を丹念に撮っていて、これじゃほとんどゾンビ扱いじゃないですか。野村芳太郎は『砂の器』でもハンセン病患者団体から抗議を受けてますが、ちょっとリテラシーに欠けるところがありそうですね。まあ短期勝負で致死率の高い破傷風ですから、患者団体なんてなさそうですけど。あと気になったのが昭和50年代の医療体制で、こんなに程度が低かったのかな。それには宇野重吉と中野良子以外の医師やナースがあまりにも感じが悪く無能に見えたこともありますが、絶対安静で光線も遮断しなければいけない破傷風患者を小児科の大部屋病室の隣の病室で治療するなんてあり得ない感じがします。聖路加病院が撮影に協力してロケもしているみたいですので、実際こういうレベルだったんでしょうね。でも容体が急変して渡瀬恒彦が主治医の中野良子を自身で医局を回って探し回るシーンがありましたが、こんなこと大病院であり得ますかね? [CS・衛星(邦画)] 6点(2017-11-21 23:48:54) |
776. 宇宙戦争(1953)
《ネタバレ》 H・G・ウェルズがこの原作を書いたのは1898年、それから55年後に映画化されても十分に通用するストーリーとプロットだということは驚くべきことですね。もちろん、さらに52年後にスピルバーグがさらに進化した映像を見せてくれましたが、その時には誕生から107年たっていたわけです。 冒頭に火星人が侵略先を太陽系の惑星から探して地球に決めるまでが説明されますが、まるで太陽系だけが全宇宙みたいな見方はいかにも19世紀的かとも思います。でもこの感覚は、この映画の製作当時も大して変わってなかったんじゃないでしょうか。スピルバーグ版ではきっちり再現されていましたが、本作では火星人の乗り物(というか兵器)であるトライポッドが角の生えた円盤に変わっています。でもこれが異様にカッコよいデザインで、その後のSF映画に多大なる影響を与えています。トライポッドこそ登場しませんでしたが火星人はなぜか“3”に拘る性質があるのが面白いです。3機一組で必ず行動する円盤、三角形描くような攻撃パターン、そして肉体的にも瞳孔が3つある、これは原作通りなのか製作者の意図なのか興味が湧くところです。 製作者は平和主義者だったウェルズの死後ということもあって、火星人を明らかにソ連のメタファーとして当時の冷戦状況を煽るような撮り方だなと感じます。原作が持っていたウェルズの思想的な考察はハリウッド映画人たちには理解すべくもなく、格好の好戦プロパガンダにされてしまったわけです。もっとも映画人たちは政府から命令されたり援助を受けて撮っているわけではなく、あくまでこういう単純な扇動が大衆に受けるからSF侵略ものを題材としてチョイスしていただけなのです。50年代のこういうハリウッドの風潮が、SF映画というジャンルの発展に多大なる悪影響を与えていたのは、残念なことです。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2017-11-20 11:42:06) |
777. ハンバーガー・ヒル
《ネタバレ》 訴えたいことは違えども、その鮮烈な戦場感覚は『プラトーン』を遥かに凌ぎ、ベトナム戦争を描いた映画ではもっともリアルな作品ではと思うぐらいです。監督のジョン・アーヴィンはのちに傑作『プライベート・ソルジャー』を撮ることになる人で、知られざる戦争映画の名匠と呼ぶにふさわしい監督です。 “ハンバーガー・ヒル”と兵士たちに恐れられた高地を攻めるアメリカ第101空挺師団の実話をもとにしたストーリーです。本編がスタートして30分以降はラストまでひたすら戦闘シーンの連続、それもジャングルの中から這うようにして高地を攻めあがってゆく苦しい戦いで、米兵たちが文字通りミンチにされてゆくところがこれでもかと見せつけられます。あの『バンド・オブ・ブラザーズ』の精鋭101空挺師団とは思えない冴えない戦いっぷりは、まあ史実だからしょうがないんでしょうね。これは兵士の質と言うより、当時の米軍司令部の無能ぶりが原因として指摘されるでしょう。確か十人以上いたはずの分隊が、ラストに頂上に生きてたどり着いたのはわずか三人になってしまう無常な結末、しかもこれが戦史にも残らない無名の戦闘ですから嫌になります。私の持論では「この戦場に自分がいなくてほんとによかった」と心底感じさせるのが優れた戦争映画なんですが、その意味では本作は三本の指に入る出来です。終盤の斜面を泥だらけになり滑り落ちながらバタバタ死んでゆく兵士たちの姿を観ていると、「負け戦の次に悲惨なのは勝ち戦だ」というウェリントン公爵の至言が心に浮かびました。 激戦の割には斜面をただ上ってゆくだけの単調な絵面と、ヒロイズムやヒューマニズムが皆無のストーリーテリングですので「退屈だ」という批評は当然あると思います。でも登場人物たちの個性は丁寧に描かれているし、ドラマとしては良くできていると感じます。 [ビデオ(字幕)] 8点(2017-11-17 23:28:59) |
778. バイオハザード(2001)
《ネタバレ》 やはりゲームの映画化作品としては、これがもっとも成功した一編ではないでしょうか。私はこのゲームをプレイしたことはないですが(もちろんその存在は知っています)、『トゥーム・レイダー』や『ストリート・ファイター』などは「もとはゲームだな」と意識させられる不自然さがつきものなのに、本作はそこを意識させない独自の世界観の構築に成功しています。ミラ・ジョヴォヴィッチにしても、このシリーズのアリス役が最大の当たり役だったことは認めることでしょう。なんせ彼女の最初の登場カットがあの素晴らしいブルーの瞳の大写しなんですから、この監督、のちにミラを嫁にするぐらいですからよく判ってらっしゃいます。のちのシリーズでどんどん超人化してしまうんですが、この第一作ではいきなりハダカでしかも記憶喪失という状態で登場、まだまだ人間味があるキャラです。前半のテンポとサスペンスの盛り上げ方はB級色を吹き飛ばす爽快さもあり、尺の短さもあって中盤のダレ場も振り切ってしまうパワーがこの映画にはあります。そして“SF映画ブラック企業四天王”の一角を占めるアンブレラ社の極悪非道ぶりがある意味突き抜けていて痛快でもあり、やはりアンブレラ社が史上最凶と認定させていただきます。 あの衝撃のレーザー・ソードのアイデアは実は『CUBE』の方が早くて、そこにリスペクトを捧げて隊長を“立方体カット(つまりCUBEですね)”で仕上げたのかと思います(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2017-11-14 22:37:38) |
779. ソウ3
《ネタバレ》 “ソウ・マラソン”を数年ぶりにリプレイしておりますが、『3』でようやく“ジグソウ死す”というところまでこぎつけました。ここら辺から自分の感覚がマヒしてしまっているのか、数々のグロ拷問シーンをほとんど覚えていませんでした。強いて言えば判事が出てくるシーンでのフックで次々運ばれてくる豚の死骸ぐらいでしょうか、これだけは強烈でしたから自分にとっては。 ネタバレすると、けっきょく『3』はアマンダのゲームだったというわけです。どおりでジェフのゲームと拉致されたリンのドラマがかち合わず、すごく冗長に感じたわけです。確かに『3』はシリーズで最長の上映時間ですからね。まあここで三作目までの伏線というか観客に見せてこなかった部分を綺麗に整理した感もあるので、これで“ソウ三部作”として完結させるのが普通の映画製作者ですけどね。まさかこれが七作シリーズの三本目だったとは、当時の観客は予想しなかったでしょう。 と言うわけで、飽きてくるのはしょうがないとしてもグダグダ感が少ないのは、このシリーズで褒めるところでしょう。本作で特に疑問に思ったところは、本筋には全然関係ないオープニング・アクトの様なゲーム犠牲者と、女刑事までゲームに巻き込まれて負けてしまうところでしょうか。この刑事殺しは、ジグソウが関与しないアマンダの個人的な犯行ということでしょうか。ドニ―・ウォールバーグの前作からの末路も明らかにされてますけど、これじゃゲームに勝ってもルールが守られてないじゃん、まさしく「ゴールポストが動いた!」ですよ(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2017-11-11 22:35:49) |
780. 映画に愛をこめて/アメリカの夜
《ネタバレ》 初めて観たトリュフォー映画でした。私のその頃のミューズであるジャクリーン・ビセットがお目当てでした。作品には恵まれた方ではなかった女優ですが、この映画は文句なしに彼女の最高傑作、その美しさは今こうやって観直してもため息が出ます。英仏ハーフだからフランス語に堪能で、フランス映画に出演する英国女優と言う設定を活かして両国語を自在に操る演技が愉しませてくれます。トリュフォーは惚れた女優を美しく撮る名人ですけど、ゴダールとトリュフォーの決定的な喧嘩別れはジャクリーン・ビセットがダメを押したという説もあるくらいです。 さて映画の中身ですけど、これほど映画への愛情が詰まったバックスクリーン・ストーリーはないでしょう。トリュフォー自らも映画監督役で出演(自分だけ飛びぬけて真面目でいい人と言うのは、ちょっとずるいかな)、他のスター役で出演しているヴァレンティナ・コルテーゼやジャン・ピエール・オーモンも自らや他のスターのキャラを投影したキャラになっています。ジャン・ピエール・レオなんて、ほとんどセルフ・パロディでしたね。そんな「駅馬車の旅(映画製作の苦労を例えたフェラン監督の言葉)」を進行させる監督や裏方スタッフの悪戦苦闘も丁寧に描かれています。実際、この作品を観て初めて映画製作の手順をわたくしは知ったぐらいで、それまでは舞台劇のように映画も準撮りするものだと思ってましたから。 プロデューサーのセリフにあるように、映画というものは沢山の人間が集まって愛しあい憎しみあいながら一つのものを創り上げてまた別れて散ってゆく、そう、人生そのものなんですね。 [映画館(字幕)] 10点(2017-11-08 22:28:39)(良:1票) |