901. コードネーム U.N.C.L.E.
《ネタバレ》 実に手堅いリメイクですが、プロットはかなり再構築されていてシリーズ化する気は満々とお見受けいたしました。ダニエル・クレイグになってからの007シリーズがマッチョでハードボイルド路線になっていますので、この軽いノリで観られるスパイものはけっこう需要があるんじゃないでしょうか。オリジナルのTV版は実は観たことがないんですけど、CIAとKGBのエースがコンビを組むという設定はなかなか面白いと思います。 監督はガイ・リッチーですから、彼にとってはこれぐらいは当たり前という仕上がりです。登場人物の発言をちょっと後で時間をさかのぼって解き明かすという話法が多用されていますけど、これはなかなか新鮮な語り口かと思います。あとスプリット・スクリーンのショットも使われていますが、これはセンスの悪い監督だと無残なことになるのにさすがガイ・リッチーですから効果的ですね。強いて難点を挙げるとすると、悪役夫婦のキャラが弱かったところと、デヴィッド・ベッカムがカメオ出演してるらしいのに「えっ、どこに出てたの?」って感じだったことでしょうか(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-11-29 16:18:23) |
902. マイ・ファニー・レディ
《ネタバレ》 『ラスト・ショー』や『ペーパー・ムーン』などの映画史に残る名作を70年代撮ったピーター・ボククダノヴィッチ、いつの間にか名前を聞くことがなくなりましたが、あの頃の勢いを考えるとウディ・アレンと並んで現代アメリカ映画界を代表する名匠になっていてもおかしく無かったんですけどね。彼が失速し始めるのと同時期にアレンの快進撃が始まったという事実も、なんか皮肉なことですけど。 久しぶりに観たボクダノヴィッチ映画はオープニングの雰囲気やスートーリーテリングはウディ・アレンにそっくり、おまけに主役がオーウェン・ウィルソンですから、「なんかどっかで観たような…」とデジャヴ感が満開です。お話しはブロードウェイの舞台製作をめぐるいわゆるシットコムです。演出家のウィルソンが遊んだコール・ガールが女優の卵で舞台のオーディションにやって来て…という展開なんですけど、まずこのコール・ガール役のイモージェン・プーツがなかなかのキュートでよろしい。この娘と演出家を巡って、「おいおい、いくら何でもそこまで世間は狭くないだろ」というほとんどドタバタコメディと言っていいぐらいのお話なんです。冷静に考えると実にくだらないストーリーとも言えますが、ストーリーテリングの軽妙洒脱さと役者たちのそれぞれのツボにはまった演技のおかげで、これはけっこう愉しめました。かつてのボクダノヴィッチ作品のミューズ、シビル・シェパードとテイタム・オニールがちょい役で顔を見せてるのも見逃せません。シビル・シェパードは予想通りの劣化ぶり(演技の方じゃありません)でしたが、ウェイトレス役でちらっと出てくるテイタムちゃんにはびっくりさせられました。そりゃおばさんなのはしょうがないですけど、あんなムッチリでしかも巨乳になっていたとは、ほんと我が眼を疑いました。まさか特殊メイクじゃないでしょうけど(笑)。でも最後の最後で登場するタランティーノの方がやっぱサプライズ度が高いでしょう、こんな使い方ってアリ? 最後にネタバレされますけど、劇中でオーウェン・ウィルソンが使う口説き文句が実はエルンスト・ルビッチの『小間使い』でのシャルル・ボワイエのセリフだったというオチ、こんな洒落はシネフィルであるボクダノヴィッチらしくてほっこりさせてくれる終わり方です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-11-28 20:21:34)(良:2票) |
903. ナイトクローラー
《ネタバレ》 観る者を不快にさせる映画としてよく『ファニー・ゲーム』が引き合いにされますけど、私にとっては『ファニー・ゲーム』なんてかわいいものに感じるぐらい、今までに観た今世紀の映画で最悪に不快にさせてもらえた映画でした。この映画のたちの悪いところは『ファニー・ゲーム』の例の巻き戻しシーンと違って決定的に観客が席を立ちたくなるような破断点がないことで、かく言う自分もこのゲス野郎に最後は正義の鉄槌か天罰が下ることを願いながら観続けたのに、まさか最後はサクセスストーリーだったとは…最高に後味悪しです。でも映画としての完成度は高いことは間違いないです。ジェイク・ギレンホールの見事な役作りにも完敗しました。確かに『タクシー・ドライバー』のトラヴィスを彷彿させるところはありますけど、本作のルー・ブルームと決定的に違うところはトラヴィスには他者が見て「善」と感じられなくもないものを心の中に持っているところでしょう。このルーという人間には「心」がないんですよね。劇中ディレクターと助手以外の人間との自分からの接触はほとんど皆無、そしてセミナーなんかでよく使う怪しげな経営理論を妙に落ち着いた口調でまくし立て続けるのもたまらなく不愉快です。レネ・ルッソの演じるディレクターとは肉体関係を持ったことはセリフのやり取りから判りますが、映像としてはいっさい二人の関わりを見せないところなんて実によく練られた脚本だと思います。 よく出来た映画だと思いますが、難点としては「二度と観たくない」と軽いトラウマになってしまうことですね(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-11-25 20:59:48) |
904. カットバンク
《ネタバレ》 アメリカ映画の中でもいわゆる“スモール・タウン”ものは最恐のジャンルじゃないかと自分は思っています。本作もその“スモール・タウン”のひとつですが、観てのとおりで『ファーゴ』によく似た物語です。 舞台となるのはカットバンクというスオール・タウンで、売り文句が「全米で一番寒い町」というど田舎ですが、町の入り口に変なモニュメントが建っているところは『ファーゴ』とそっくりです。誘拐と殺人の違いはありますが事件が主人公の狂言であるところは一緒、共犯者がネイティヴ・アメリカンというところも共通です。『ファーゴ』でフランシス・マクドーマンドが演じた役柄に相当するのがジョン・マルコヴィッチのシェリフというわけです。ビリー・ボブ・ソーントンは『ファーゴ』のハーヴ・ブレスネルと似たようなキャラということになりそうです。でも『ファーゴ』と決定的に違うところは、ストーリー・テリングにオフ・ビート感が皆無なところでしょう。その代り狂言が狂い始めてからは、ちょっと予測しがたい展開になってきます。そこに登場してくるのがダービー・ミルトンという不気味なオタクじみた男で、此奴が実に気持ちが悪い。演じるマイケル・スタールバーグは素顔はごく普通のイケメンなんで、これはかなりの演技力の持ち主とお見受けいたします。この男に届くはずだった小包が狂言殺人のせいで行方不明になってしまったのが、主人公の計画が狂い始めるきっかけとなります。 この映画の難点はいろいろとスモール・タウン的な要素をちりばめてはいますが、これが有機的な効果を上げていないところになるでしょう。主人公の植物人間化した父親やガールフレンドのミスコン挑戦など、伏線として使えるプロットなのにどうも上手く生かされていないし、オリヴァー・プラットの郵政監察官なんてひどくストーリーから浮いていた気がします。 ラストは『ファーゴ』と違ってちょっと救いがありますが、これはこれで良かったかなと思います。でも全体的に中途半端な脚本のせいもあり、これだけ芸達者を揃えているのでもう少し何とかならなかったのかと残念です。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2016-11-25 17:55:00) |
905. 赤い天使
《ネタバレ》 なんでも増村・若尾コンビは全部で20本ああるそうですが、たぶん本作がその最高傑作というか極北に位置することは間違いないでしょう(全部観てるわけでもないのに偉そうですが)。だってほんと凄いんだもの、現役の映画作家ではその描写のエグさ・凄まじさはとうてい真似できないと思います。そりゃエグいスプラッターは日本でも撮られていますが、両腕を切断された兵士の性処理をナースがしてあげる描写なんて、当たり障りのない題材にしか手を出さないを製作委員会方式が幅を利かせている現状では絶対にありえません。まるで魚を捌くように手足を切り落としてゆく野戦病院、そして「俺は人命を救っているんじゃなくて〇〇〇を量産しているようなもんだ」と自嘲する軍医、ここら辺は『ジョニーは戦場に行った』に通じる不条理があって究極の反戦映画とも言えそうです。若尾文子もいい思いをさせてもらった男はみんな黄泉の国へ引っ張って行っちゃう、これじゃまるで“死の天使”ではございませんか。芦田伸介と二人で兵隊コスプレで始まるどう見たっての変態プレイはちょっと異様ですけど必見です。 増村作品の若尾文子はブレるところはあっても一途な女性というパターンが多いけど、それは本作の西さくらが完成形でしょう。ここは好みが分かれるところかもしれませんが、自分は川島雄三作品の若尾文子も捨てがたい魅力があると思ってます。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2016-11-14 23:29:10) |
906. 1984(1984)
こんなに有名な原作なのに、いままで映画化されたのは50年代のハリウッド映画と本作だけというのは意外です。でも影響を受けた映画となるともう数知れずで、『未来世紀ブラジル』なんてもう完璧な『1984年』のパロディですからね。 さて『1984年』の唯一の完全映像化作品となる本作ですが、名優リチャード・バートンの遺作でありまたわが国で初めてヘアー解禁された劇場公開映画として知られています。ジョン・ハートにリチャード・バートン、陰鬱なストーリーには持って来いの二人ですからこの映画のキャスティングとしてはハマりすぎです。ヒロインはほとんど無名の地味な女優だし、これじゃ気分が上がる要素は皆無ですね(笑)。また全体主義体制の社会がマジで「こんな世界に生まれていなくてほんとに良かった」と安堵させられる代物で、昔のソ連や東欧諸国ではこんな映画を上映したら処刑か収容所送りは間違いなしでしょう。“ビッグ・ブラザー”はスターリンのカリカチュアとして有名ですけど、物語の中では実在するのか不明な存在として描かれているところはなかなか深いものがある思いました。 でもね、この映画を観て愉しめるかというと、それは全くの別問題。いろいろ考えさせられることも多かったですが、気分が落ち込んでいるときに観てはいけませんよ。 [ビデオ(字幕)] 5点(2016-11-12 22:18:59)(良:1票) |
907. バッド・テイスト
素人感丸出しの俳優たちの下手な演技にまるでカーペンター親父みたいにチープな音楽(でもラストに流れるロックはちょっとカッコよかったな)、おまけに画面には女優が一人も登場しないといういかにもマニアが撮った自主製作映画という風情です。エイリアンもどっかのゆるキャラみたいな不格好さで、後半の救出劇はSWAT対テロリスト、というよりも好きものが集まってサバゲ―をやってる感じでしょうか。でもスプラッター描写だけは半端なくて親玉エイリアンを人間串刺し殺法で始末するところなんかは、こんなこと思いつくなんてやっぱピージャクは頭がおかしいとしか言いようがないです。完全に狂ってるデレクをあんだけ嬉しそうに演じてるのを観ると、これが後年オスカー総なめする大作を撮る人になるとは想像すらできないですよ。やっぱピージャクはオタクの輝ける星です。 [ビデオ(字幕)] 5点(2016-11-08 23:36:50) |
908. ピーター・グリーナウェイ 81/2の女たち
《ネタバレ》 この監督は、自分の撮っている映画の前には観客というお客様がいるんだぞ、ということを微塵も考えないタイプの映画作家なんです。まあそういうところは画家に似ていると言えなくもないです。そういえば映画の前半で主人公のフィリップがモンドリアンのただの幾何学模様にしか見えない有名な絵に講釈を垂れるシーンもありまして、グリナウエイもそこらへんは自覚しているのじゃないですか(笑)。 大富豪が妻の死を忘れるために世界の美女を集めてはハレムを作る話と予備知識を持って観てしまうと、ものの見事にノック・アウトされてしまいます。そのために集めた女優も中にはそこそこにネーム・ヴァリューがある人もいますが、ほとんど脱ぎもないというのはちょっと致命的。お話はもちろんわけが分からない代物なんですから、せめてそれぐらいのサービスはして欲しかったな。あとこの監督は日本びいきだということでやたら日本文化(というかなぜかパチンコ屋)がモチーフにされてますけど、けっきょくは日本という国は雨が降るみたいにしょっちゅう地震がおきるところだということに落ち着きそうです。これってもちろんジョークですよね… [ビデオ(字幕)] 3点(2016-11-06 22:50:46) |
909. 回転
《ネタバレ》 子供のころTV放映で観たときはスッゲー怖かった記憶がありますが、改めて見直してみますと違った意味でこれは怖い映画だなとしみじみと感じました。とにかくデボラ・カーの恐怖に取りつかれてゆく演技が凄すぎ、『シャイニング』のジャック・ニコルソンに匹敵するという意見には全面的に賛成です。後半、自分だけに見えている霊と対決するうちにエクソシストと化してゆく過程は迫力あります。この演技が、オスカー演技賞にノミネートすらされなかったというのはちょっと信じがたいです。またマイルスとフローラの二人の子供が全然かわいらしくないところもよく練られています。フローラ役のパメラ・フランクリンなんて後年の面影(ちょっと変な表現かな)が微塵も見られず、女子ってホントに変わってゆくものなんですね。屋敷にまた独特な雰囲気があって、だいたいあの庭は石像がありすぎでしょう、それだけで怖いです。 英文学の歴史では心理小説の金字塔である『ねじの回転』ですが、それに真っ向から取り組んだトルーマン・カポーティの脚本とジャック・クレイトンの演出は評価されるべきでしょうね。ラストのデボラ・カーとマイルスとの対決で、二人の顔に汗がだんだん滲んできます。これは温室の中でのシーンだというわけですが、緊張感が高まる効果的な演出です。ラストがハッピー・エンドかと思わせておいての絶望感、これは渋い終わり方だと思います。 最近はグロい・イタいホラーが全盛ですがこういう渋い心理ホラーもいいもんです。 [DVD(字幕)] 8点(2016-11-04 23:54:21)(良:2票) |
910. ゆすり(1929)
《ネタバレ》 これがヒッチコック初のトーキー作品なんですか。あとから音入れをした(というか最初はサイレント映画として撮った)ということですが、確かに冒頭のシークエンス辺りは、これはサイレント映画なのかなといった画面展開のような感じがします。でもトーキー映画としてはまだ未熟な部分があるかもしれませんが、サイレント映画としてはこのジャンルとしては最高点に到達したといえる超絶的な技巧で、そのままトーキー移行できたのも当然という仕上がりだと思います。ストーリーテリングも完全にヒッチコック印で、単なるハッピーエンドで終わらないところも、後年の甘いロマンチックな作風のサスペンスよりシビアなところがあって興味深いです。ラストでまた出てくるちょっと不気味な道化の絵が、原罪を犯してしまったヒロインをあざ笑っているみたいです。 どうも今まで撮られたことはなかったみたいですが、現代の視点でリメイクして欲しいかなと思う次第です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-10-31 23:41:26) |
911. 下宿人(1926)
《ネタバレ》 主人公が初めて下宿屋を訪れてくるシーンは、その不気味さではけっこう有名なカットで今ではいろんなホラーもの記事で使われているの見覚えがある方も多いはず。それだけでも初期のヒッチコックがけっこう映像派だったことが理解できますが、サスペンスの盛り上げ方もなかなかのものかなと思います。“復讐者”と名乗る切り裂きジャックを彷彿させる殺人犯については単なる狂言回しだったというわけですが、そこが早めにわかってしまえばこの映画のサスペンスが台無しになってしまうわけで、そこはさすがヒッチコックだけあってよく判っておいでです。私の眼には、主人公の容貌が内村光良にしか見えなかったのがちょっと難点でしたが(笑)。 あと気が付いたのは主人公が群衆に追いかけられるところなんかはフリッツ・ラングの『M』にかなり似ているなということです。もちろん本作の方が先ですが、ヒッチコックはあのラングにも影響を与えていたのかと思うと、彼の偉大さを改めて認識する次第です。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2016-10-30 23:57:35) |
912. ムカデ人間3
《ネタバレ》 やるやると聞いていましたが、ほんとにPARTⅢが世に出てしまいました。今回はPARTⅠとPARTⅡのハイター博士とマーチン君という二大変態が満を持して登場ですが、舞台はテキサスかどっかの刑務所で、まったく違うキャラです。なんとトム・シックスまでもが本人役で出演というのはサプライズでしたが、この稀代の変態監督はずっとグラサンをかけっぱなしでしたがなかなか色男風のダンディなので驚きました。北村昭博も登場してますけど、二作目まで出演していたアシュリン・イェニーちゃんはとうとう顔も出さず、それどころか全編通して女優は一人しか出てこないし、それもブリ―・オルソンというポルノ女優と来たもんだ。 そうなんです、確かにディーター・ラーザーの熱演は鬱陶しいけど、いちばんの問題点は男ばっかり出てくるところでしょう。男の囚人ばっかり何百人もつなげてくれてもちっとも嬉しく(?)ないし、そんな画を見せられても面白くもなんともない。それこそ第一作の男女四人のシンプルなムカデ人間の方がはるかにシュールで衝撃でした。数が多けりゃいいってもんじゃないんだよ! [DVD(字幕)] 3点(2016-10-29 22:59:44) |
913. ムーン・ウォーカーズ
《ネタバレ》 「実はアポロ11号は月面着陸に失敗し、TVにはキューブリックがひそかに特殊撮影で撮った映像が流された」というあまりに有名な都市伝説を大真面目にコメデイにしてくれました。 まずタイトル・バックのアニメがいかにもスゥインギング・ロンドンという感じでセンスがありました。主人公のCIAエージェントにロン・パールマンを持ってきましたが、彼の怪演が想像以上の効果を上げているんじゃないでしょうか。ロン・パールマンにコメデイ演技させるなんて清水の舞台から飛び降りるぐらいの思い切りが要るかと思いますが、往年のジョルジュ・ロートネルの映画に出てたミシェル・コンスタンタンを彷彿させる可笑しさです。またファンならすぐ気が付くところですが、『博士の異常な愛情』や『時計仕掛けのオレンジ』といったキューブリック映画のパロディが随所にちりばめられているのも嬉しいところです。クライマックスのCIA対ギャングの銃撃戦がまさかのスプラッターというのも、なんかヘンかもしれませんが自分にはツボでした。 徹頭徹尾バカバカしいお話ですけど、監督の才気は確実に感じられる掘り出し物だとおもいました。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-10-27 21:02:33)(良:1票) |
914. 海底大戦争
《ネタバレ》 いやー、実はわたくしも小学1年生の時に学校でこの映画を見せられたんですよ。たしか夜の校庭でスクリーンを張っての夜間上映だったという記憶があります。今の眼で見るとなんか滑稽な半魚人サイボーグの着ぐるみですけど、小学1年にとっては刺激が強かったですよ。でも不思議だったのは、なんでこんなゲテモノ映画を学校の授業の一環として子供に見せたのかということに尽きます。そして下の方のレヴューを見て違う学校でも上映してたんだと知ってびっくりした次第です。まさか同じ小学校に同時期に在籍していたってことは、まあ可能性がないわけじゃないですけどね。私が小学1年の時はこの映画の劇場公開と同年で、当時の東映はこういう形で公立小学校にまで営業をかけていたんでしょうか、大いなる謎です。 肝心の内容の方ですが、どう考えても子供向きじゃないのは確かですが、大人の眼で観たってカスです。海中の特撮映像からして、水中で炎や煙が発生するぐらいですから問題外です。半魚人サイボーグは妙に黒目が巨大だったり顎がなかったリして、よく見てみると確かに気味が悪いかなと言えます。でもあのダイヤルを回してサイボーグをコントロールするバカバカしさは、ちょっと発想がぶっ飛んでます。在日外国人の素人をを大挙動員しているところは資本を海外が出しているからなんでしょうが、日本人俳優はほとんど千葉真一だけというのはまた極端です(敵方ザコ役で室田日出男なんかもちらっと出てますけどね)。この外人素人たちの会話シーンが、ほとんど全編にわたって鼻先が10センチぐらいの近さまで顔をくっつけて演技しているのがこれまた奇妙。でもよく見ると監督は『吸血鬼ゴケミドロ』と同じ人だと判り、なんか納得した次第です(笑)。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2016-10-22 19:00:34) |
915. トレヴィの泉で二度目の恋を
《ネタバレ》 ありふれた“ボーイ・ミーツ・ガール”ストーリーの後期高齢者バージョンという感じなんですけど、予想以上にしっとりと見せてくれる映画でした。この “ボーイ”がクリストファー・プラマー、“ガール”がシャーリー・マクレーンという二大名優というところがミソです。マクレーンの住んでいるアパートに妻を亡くしたばかりのプラマーが引っ越して来てそれから…、というのが基本的なストーリーです。マクレーンはどこまでか本当の話かよくわからない虚言癖がある婆さん、もうキャラがぴったり過ぎて笑っちゃうほどです。最近思うにクリストファー・プラマーは老いてからどんどん良い俳優になってきてる気がします。気品ある風貌と演技が品格さえ感じられてきて、同年代のマイケル・ケインとある意味好対照な感じがします。また助演陣がまた豪華で、マーシャ・ゲイ・ハーデンにジェームズ・ブローリン、そして懐かしのジョージ・シーガルまでお出ましとは感無量です。 この映画はフェリーニの『甘い生活』が重要なモチーフになっていて、クライマックスではマクレーンとプラマーがトレヴィの泉で『甘い生活』の有名なシーンをオリジナルとそっくりな衣装で再現するというちょっとウルウルするようなシーンもあります。この二人の残された人生の時間はそう長くはないだろうし、もっともっと映画に出演してほしいしそれを観たいと切に願う次第です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-10-18 19:28:33) |
916. マーターズ(2007)
《ネタバレ》 前半はアート系が入ったような先がまったく読めないストーリー展開。いきなり日曜の一家団欒を楽しんでいた家族を突然の侵入女がショットガンで皆殺し。どてっぱらにあんなでっかい風穴を開けられたお母さんが突然蘇生するところは、そのあり得なさから本作で唯一クスッとさせられるところかもしれません。そしてグールみたいな姿に変わり果てた女が登場するあたりからもう背筋のゾワゾワが止まらなくなってしまいました。カッターナイフやカミソリの刃で人体を切り刻む映像がこんなに不快なものとは想像もしませんでした。日本刀やマチェーテでばっさり斬られる方が絶対いい、もし自分がやられるならね。 ほんとにすごいのは上映一時間を過ぎてから、もうちょっとあり得ないです。なんの救いもないラストもまたひどい。 でもよく考えてみるとこれってホラーなんですかね、サブカルに色目を使った鬼畜映画というのが正しいんじゃないでしょうか。『ムカデ人間』シリーズの方がはるかに後味が良いと感じてしまうほどです。 井口昇や山口雄大といった日本を代表する鬼畜系監督がDVDのコメンタリーをやってますが、口をそろえて「この映画をさすがに人に勧めることはできない、人格を疑われる」「ウン〇みたいな映画」と本音を語っていたのにはちょとびっくりでした。彼らみたいなホラーマニアに言わせると「ホラーにはロマンがあるけど、この映画は…」ということらしいです。 [DVD(字幕)] 3点(2016-10-12 23:53:57) |
917. オー!ラッキーマン
《ネタバレ》 脚本家はルソーの『カンディード』をイメージしてストーリーを書いたみたいですが、どちらかと言えばディケンズやフィールディングのピカレスク・ロマンに近いテイストがあります。10分先はどういう展開になっているか全く予測不能な物語ですけど、節々で挿入される元アニマルズのアラン・プライスの曲と演奏風景が絶妙なアクセントになっています。 ほとんどの出演俳優たちが、マルコム・マクダウェルを含めて二役か三役をこなす演出は戸惑いを感じますが、「世界には自分と瓜二つの人間が三人はいる」という都市伝説があるぐらいですから、まあいいんじゃないですか(笑)。後半マルコム・マクダウェルが刑務所を出所してから妙に信心深い好青年に変貌しちゃうんですが、なんせ『時計仕掛けのオレンジ』のアレックスを知っているだけになんかウラがあるんじゃないかと最後まで落ち着きませんでした(笑)。 最後はリンゼイ・アンダーソンが本人役で出てきてメタな展開、そしてカーテン・コールよろしく出演者一同が踊り狂って終わります(なぜかその中にラルフ・リチャードソンの姿はありませんでしたが)。こうやって振り返ると三時間という尺もほとんど気にならず、個人的には『if もしも…』よりもずっと面白かったと感じました。 やっぱマルコム・マクダウェルはリンゼイ・アンダーソンと組んでこそ輝きます。 [ビデオ(字幕)] 8点(2016-10-11 20:48:40) |
918. ローヤル・フラッシュ
《ネタバレ》 舞台は19世紀半ばの各地で革命騒ぎが煮えたぎっていた頃のヨーロッパです。アフガン戦争で、攻められた砦の中でひとり生き残ったがために英雄と勘違いされて有名人になった軽騎兵フラッシュマン大尉が主人公。その主役を張るのがマルコム・マクダウェルですが、意外なことにリチャード・レスターの映画に出演したのは本作だけだったんです。そこにビスマルクやローラ・モンテスそしてバイエルンのルートヴィッヒ狂王など実在の人物を絡めた、この頃のレスターがハマっていたドタバタコメディです。ビスマルク役がレスター剣劇には欠かせないオリヴァー・リードでございます。でもリチャード・レスターはこういうアクション・コメディの演出が下手というかはっきり言ってセンスがなく、最後までなんかモタモタしたまま行ってしまった感が強いです。『三銃士』あたりから始まった傾向ですけど、この監督は大掛かりなお話よりもこじんまりした世界でのシュールな笑いじゃないと本領発揮ができなかったみたいです。こういうところは、あのぶっ飛んだケン・ラッセルの方が上手だったと思えてなりません。 高貴な方のそっくりさんが登場というヨーロッパ王室ものの定番プロットもあり、途中から二役のマルコム・マクダウェルはそれなりに頑張っていたかと思います。この人が善玉というかヒーロー役を演じたのは70年代のこの時期だけだったみたいで、それ以降悪役やアンチヒーローに特化したのは正解だったんじゃないでしょうか。 [DVD(字幕)] 5点(2016-10-09 22:06:06) |
919. 泥棒株式会社
《ネタバレ》 まず言及しておきたいことは、邦題のこと。はっきり言って映画の内容からは程遠いということです。確かに『泥棒株式会社』というネーミングはセンスが良いんですけどね。 簡単に言いますと、ピーター・セラーズたち三人の釈放まじかの囚人が刑務所を抜け出してダイヤモンドを強奪するというのがお話の内容です。そのあと刑務所に戻ってくればいざというときには鉄壁のアリバイになるしすぐに満期出所で大手を振って娑婆に戻れるという寸法なわけです。これに絡むのが彼らが逮捕されたときに一人だけアリバイがあってムショ送りにならなかった仲間の詐欺師、こいつが牧師に化けて刑務所に出入りするところが面白い。またセラーズの恋人や一味の母親までもが一緒になってダイヤ強奪を手伝うというのもなんかとぼけていて可笑しいところです。でも傑作『マダムと泥棒』やアレック・ギネスが主演していたころのイーリング・コメディに比べると、とってもどんくさくてモタモタした印象です。刑務所体制やダイヤを護送する軍隊なんかのお上を徹底的に茶化すところはモンティ・パイソンでおなじみの英国コメディの伝統ですかね。でも肝心のピーター・セラーズが妙におとなしい演技なのがテンションが上がらなかった原因かもしれません。 最近のピカレスクもの映画のようにどんでん返しに凝るということはなくまったりと観れる映画なんですけど、やはり英国コメディにはゲップが出るほど濃厚さが欠かせないなと改めて感じました。 [ビデオ(字幕)] 4点(2016-10-07 23:52:01) |
920. ピエロがお前を嘲笑う
《ネタバレ》 この程度で“驚愕のラスト”なんてコピーはほんと使ってほしくないですよ。誰が観たってこれは『ファイトクラブ』のハッカー版で、とくに終盤の第一の落ちまでの持って行き方は『ファイトクラブ』臭がとっても濃厚です。あそこで終わらせちゃったら“驚愕のラスト”にならないので無理やりに第二の落ちを付けましたって感じがプンプンします。でも観てる方としては「へー、そうなんだ」程度の感想しかわいてこないという現実を真摯に受け止めるべきでしょう。 主役の坊や以外の三人がまたちっともハッカーらしくないというのは困りますねえ。地下鉄の車輌内にたむろする仮面の連中でサイバー空間を表現するというのはこの映画で唯一の褒めどころかもしれませんが、別に彼らがハッカー集団じゃなくても良くね?、という疑問は消えないんですよね。ストーリー構成もけっこう雑というか無理があり、落ちていた入館証を使ってユーロポールに侵入というところは思わず絶句させられました。 ハリウッドでリメイクということらしいですが、よっぽど彼の地もネタ切れみたいですね。でも腕の良い脚本家と監督が組めば、ひょっとしたら傑作になる素質はあるのかもしれません(そんなわけないか)。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2016-10-04 21:54:19) |