1201. バウンド(1996)
《ネタバレ》 ウォシャウスキー兄弟のデビュー作ですが、彼らのテクニックが低予算を感じさせない切れ味のよいアクションに仕上がっています。そもそもこの設定の脚本では、基本的にマンション内の2ルーム内での展開で登場人物も少ないので予算が必要ないのですが。ラストの白ペンキのシーンは、「ミュンヘン」でスピルバーグが最初の暗殺シークエンスでパクッてますね。「ミュンヘン」ではミルクに代わってますが、それだけ白ペンキのシーンはインパクトがあったのですね。 [DVD(字幕)] 7点(2009-01-31 12:47:59) |
1202. ズーランダー
《ネタバレ》 この馬鹿馬鹿しさ好きです。オ―エン・ウィルソンがPCからファイルを盗もうとして四苦八苦するところが個人的にはバカ受けでした。しかしここまでファッションモデル業界をコケにして、クレームが来なかったのでしょうか。カメオ出演が豪華でしたが、デビッド・ボウイの登場するところだけクレジットがでるのが面白かったです。 [DVD(字幕)] 7点(2009-01-31 12:45:30) |
1203. エレファント
《ネタバレ》 実際にあった事件をテーマにしていますが、事件自体がアメリカの歴史に残るくらい衝撃的なので、監督は逆に思いっきりテンションを下げた映像と演技で淡々と描写したかったのだと思います。私はこの手法は成功したと思います。たとえば後半事件がおこらず、ただ高校生のある1日を撮りましたという映画だったらと仮定すると解りやすいでしょう。何も予備知識持ってなかったら、観はじめても「あの事件」の映画だとわかりませんよね。ここまで徹底して淡々とした映像で撮りきってしまうということはある意味立派です。 [DVD(字幕)] 7点(2009-01-17 21:52:26) |
1204. 愛と追憶の日々
《ネタバレ》 この映画はコメディタッチで始って、最後はいわゆる「難病もの」で終わるのですが、全編通して穏やかな雰囲気で演出しているところが良かったです。デブラ・ウィンガーのご臨終場面など、今まで見た映画のなかで最もあっさりした主役の死亡演出でした。「えっ、これで死んじゃったの」っていう感じですが、こういうのもいいなあと思います。日本の映画監督やTV演出家たちよ少しは見習ってください。俳優の演技がじっくり見れる映画です。 [DVD(字幕)] 7点(2009-01-08 20:52:37) |
1205. イブの三つの顔
《ネタバレ》 この映画は、多重人格を米国で初めて学会で報告した精神科医のノンフィクションが原作です。イブ・ホワイトは小さい娘がいる内気で平凡な主婦でしたが、派手で高価なドレスを買ったり、ひとりでナイトクラブに出かけて男と遊んだりし始めます。夫はそのたびに妻を問い詰めますが、彼女にはその間の記憶が全然ありません。堪りかねた夫は、精神科医の診療を妻に受けさせますが、催眠療法によって彼女とは正反対の享楽的な人格イブ・ブラックが出現します。この映画は、冒頭解説者が登場して「この物語は実話に基づき、劇中の会話も記録どおりです。」と説明する昔よくあった構成で始ります。演出は平板で、サブストーリーもなく、言わばワイドショーの再現ドラマを丁寧に作りこんだような感じです。しかし、イブを演じてアカデミー主演女優賞を獲得したジョアン・ウッドワード(故ポール・ニューマンの奥さん)の演技は鬼気せまるものがあります。特殊メイクもなしにワンカットでイブ・ホワイトからイブ・ブラックに人格が変わりますが、顔つきが変わってとても同一人物が演じているとは思えません。さらにラストでは、ジェーンという第三の人格まで出てくるのですから。女性版ジキルとハイドと言えば解りやすいですね。映画はジェーンが出現してハッピーエンドで終わりますが、「私はイヴ」という自伝を読むと、実際にはこの時点では全然治っておらず、その後20年近く様々な人格が出現したそうです。この本にはこの映画が制作された時の舞台裏も書かれていて興味深かったです。 [DVD(字幕)] 7点(2008-12-19 18:03:08) |
1206. つぐない
《ネタバレ》 脚本が秀逸です。ラストの展開は「やられた!」と唸ってしまいました。セシーリアとロビーの交情をブライオニーの主観で見せ直すなど工夫が感じられます。難点は、ロビーが逮捕される“レイプ(?)”事件の展開です。いくら70年前とはいえ、あんな子供の証言ひとつで有罪になるかよって突っ込みたくなります。連行されるシーンから4年後の戦場シーンへの移り変わりがなんだか唐突感がありました。もともと裁判・有罪というシークエンスがあったが、編集でカットされたのかなと思ったぐらいです。その点が私としては残念です。 [DVD(字幕)] 7点(2008-12-14 12:42:21)(良:1票) |
1207. ファニーゲーム
《ネタバレ》 初投稿がまさかミヒャエル・ハネケとは何というめぐりあわせでしょうか。夫役のウルリヒ・ミューエはどこかで観た顔だなと思ったら、「善き人のためのソナタ」のヴィースラー大尉を演じた人なんですね。残念ながら2007年に癌で亡くなっています。ちなみに、妻役のスザンネ・ロタールとは実生活でも夫婦でした。感想は、世間の評判は聞いていましたが、計算された狂気の演出に良い意味で圧倒されました。エロもグロも意図的に抑制されて肩すかしを喰わされるのに、観る者の神経を逆なでさせる様な絶望感を味わせるなんてハネケの才能はすごいですね。観客に語りかける手法は、「アルフィー」のマイケル・ケインを思いだしましたが、この俳優にやらせるところが観る者を不快にさせるのでしょう。例の巻き戻しシーンに至っては、これはハリウッド映画のパロディのつもりかなと感じました。ハネケは舞台を米国に移してこの映画をリメイクしてますが、予告編で観たカット割りがオリジナルとそっくりでびっくりしました。決して人に勧める映画ではありませんが、7点は献上します。ちなみに地元のTUTAYAでは、「人に薦めたくなる名画100」の棚にこの作品がありました(笑)。 [DVD(字幕)] 7点(2008-12-09 01:39:36) |
1208. アルプススタンドのはしの方
《ネタバレ》 甲子園出場の地方大会に義務的に動員された生徒たち、本気で熱くなっている応援席から離れたアルプス席に逃げ込んだJK二人と野球部を途中脱落した男子生徒の会話が面白い。野球のルールが全く判らない二人の会話に元野球部が突っ込みを入れるところが延々と続くが、これがグラウンドを全く見せないから試合の進行を観客に説明する仕組みにもなっている。私らの世代と違って最近の子供たちの野球離れが話題になったりしているので、野球に興味がなく基本的なことも知らないJKがいてもちっとも不思議じゃない世の中になってるんですねえ。 良くも悪くも高校演劇部には相応しいストーリーだったかなと思います。でも色んな意味でしらけた高校生活を送っていた四人が、高校野球の応援を通じていつの間にか熱くなってゆくところには、素直に共感できました。イマイチ感情移入できなかった自分ではありますが、青春映画としては良作だと思います。ただ「人生は送りバントだ」みたいな陳腐なことをドヤ顔で言うあの鬱陶しい教師の存在と、どう考えてもいらん付け足しだったと思うエピローグのせいで、マイナス一点! [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-04-21 23:00:59)《新規》 |
1209. オースティン・パワーズ:デラックス
《ネタバレ》 前作の時は「こんな酷い吹き替えは初めてだ(下ネタのことで声優の演技ではない)」と嘆息していた自分だけど、麻痺してしまったのか耐性が付いたのか、本作では意外と吹き替えが心地よく(?)なってしまったのが恐ろしい。そりゃあネタの下品さは相変わらずですが、字幕で鑑賞したら伝わらないセンスなんだけど、セリフを日本的なギャグに近づけようとしている努力の跡は伺えます。やっぱ海外のコメディは、的確な演出の吹き替えで観るのが正解なんでしょうね。 期待通りの下品さですけど、腹立つほど音楽のセンスは良い。タイトル・バックに流れるのは完全にシャーリー・バッシ―が歌った『ゴールドフィンガー』の完璧なパロディだし、なぜかマドンナが歌っている主題歌はゴールデングローブ賞にノミネートまでされている。おまけにバート・バカラックとエルヴィス・コステロの超豪華なコラボが、ワンシーンだけどあります。今回は『ムーンレイカー』と『タイムトンネル』を元ネタにしてパロったという感じだけど、『ID4』や『SW』からのネタもありましたね。「どっかで見た顔だよな~」と気になっていましたが、大統領がティム・ロビンスだったとは最後まで気づきませんでした。立って動き回るシーンがあれば間違いなく判るんだけどね(笑)。まあはっきり言って今作は次作『ゴールドメンバー』への繋ぎ的な意味合いが強かったと思うけど、それなりに愉しめました。 しかしマイク・マイヤーズは一人で三役、考えてみると90分あまりの上映中ほとんどの場面で登場していたんじゃないかな?『ゴールドメンバー』ではこれが一人四役になるからもう出ずっぱりじゃん(笑)。 [CS・衛星(吹替)] 6点(2024-04-09 23:22:59) |
1210. 大菩薩峠 完結篇(1959)
《ネタバレ》 カオスの権化の様な大伝奇物語もいよいよ終盤、というか原作は中里介山の死去により決着がつかないストーリーの大漂流のうちに未完、それを映画としてどのように閉めるのかに興味が湧きます。 前二作に続いて相変わらずの怒涛の様に進行するストーリー、でも今作では新規の登場キャラがあまり多くないのでまだ判りやすいかなと思いました。駒井能登守=東千代之介の暗殺を謀る大悪役の神尾主膳=山形勲に雇われ机龍之介=片岡千恵蔵、その機会を狙って待機中でも入手した名刀を試したくて辻斬りに励む、ほんとこの人ビョーキです。今回も神尾主膳の悪辣ぶりはキレまくっていて清々しいほどでしたが、駒井能登守謀殺に失敗して失脚してからは全く出番が無くなってしまいます。この三部作ではいろいろなキャラが登場するのですが、どの人物も中途半端にストーリーから消えてゆくのはどうなのかなと思います。逆にこの物語は宇津木兵馬=中村錦之助の成長物語の要素が強かったのかなと思いますし、ラストではあれほど憎んでいた龍之介を因縁から救ってやらねばという親鸞聖人みたいな心境にまで達しますが、その手段はやはり斬ることだとなるところは、さすがブレません。対する時代劇史上で最悪級の怪物キャラ机龍之介ですが、暇になれば辻斬りが趣味の様なサイコパスキャラもブレなかったですね。そんな龍之介も終盤では黄泉の国の幻影に苦しんだり捨てた我が子への思いに苦しめられたり、因果応報が襲ってくる仏教的な描写が目立ちます。この三部作では肝心の龍之介のキャラの掘り込みが浅く、観る者にはこの男を理解するのは困難なわけですが、それがかえって龍之介の怪物性が濃くなる効果が出ちゃったのかなと思いました。 未完の原作なのでラストは当然オリジナルなわけですが、もうこれしかない、という幕の閉め方でした。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-04-06 22:51:16) |
1211. 江分利満氏の優雅な生活
《ネタバレ》 直木賞受賞作の山口瞳の原作は、短編小説のコンピレーションというかどちらかと言うとエッセイに分類されるような作品。それを江分利満氏=山口瞳を主人公にして彼のそれまでの人生を落とし込んで脚色した感じです。勤務先だったサントリー宣伝部をそのまま江分利氏の勤め先にして、“アンクルトリス”の産みの親であるサントリー宣伝部に在籍していた柳原良平=天本英世も登場している。この江分利氏=山口瞳は自分の亡き父親と同年産まれなので、なんか親近感がありますね。 ストーリーテリングは特に前半は軽妙洒脱、柳原良平のアニメを使ったりして、岡本喜八じゃなくて市川崑が撮ったんじゃないかと思うようなリズム感があります。実際のところ、始めは川島雄三の監督作として企画され本作とは違う視点でのオリジナル脚本が完成していたけど、川島雄三の急死で岡本が監督することになったそうです。とくに靴だけが歩き回って会話するというシュールなカットには驚きました。登場キャラでは破天荒かついい加減極まりない江分利氏の父親=東野英治郎がやっぱ光ってましたね、ほんとこの人は上手い。ストーリー自体は江分利氏が大酒を飲みながらもなんとかサラリーマン生活をこなし、ひょんなことから雑誌に連載を載せることになり直木賞を受賞するという山口瞳の半生をテンポよく描いているのですが、ラスト近くになって江分利氏が戦中派としての心情を延々と十分にわたって同僚・後輩に語るという展開は、明らかに作品のテンポを壊してしまった感があります。その語り口も軽妙さは無くてほとんど演説みたいな感じで、こりゃ聞かされる方も堪ったもんじゃありません。こういうことは他の岡本作品には見られなかったところですが、江分利氏と同世代の岡本の真情が迸ってしまったんじゃないでしょうか。この真情が後の『日本のいちばん長い日』『肉弾』『沖縄決戦』などを手掛けるエネルギーの源泉だったのかもしれません。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-03-29 23:07:20) |
1212. ザ・フォッグ(1980)
《ネタバレ》 ジョン・カーペンターの初期ホラーとしては、本作がいちばんまとまっているんじゃないかと自分は思います。もくもくとまるで煙の様な海霧が町を襲ってきて中から亡霊が復讐に現れるなんて、もう王道の怪談噺なんですよ。すでに80年代になってスプラッター系のホラーが主流になりつつあるときに、グロさを抑えた演出で勝負しようとしたカーペンター親父の心意気を買ってあげようじゃないですか。と言いつつも、イマイチ脚本が判りにくいのと雑なところのも事実。亡霊たちはけっこう殺しまくってた印象があるけど実際は100年前に自分たちをハメた連中の子孫6人だけ、意外と節操がありますね(笑)。この映画ではヒロインと言っても良い様な三人の女性キャラ、ラジオのDJ=エイドリアン・バーボー、町長=ジャネット・リー、ヒッチハイカー=ジェイミー・リー・カーチスが結局なんの交差もなくただその晩に町にいただけという展開は失敗でしょう。少なくともジェイミー・リー・カーチスは必要ないキャラだったんじゃないかな、まあこれは元祖絶叫クイーンである母親ジャネット・リーを引っ張り出すための戦略だったのかもしれません。もっとも本作ではジェイミー・リー・カーチスは絶叫するシーンはなかったですけどね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-02-23 23:07:25) |
1213. ケロッグ博士
《ネタバレ》 近年天に召されてしまったけど、エリザベス二世からサーの称号を授けられたアラン・パーカー、名匠というよりも鬼才と呼ばれるような評価の人だったが、こんなおバカ映画を撮っていたとはねえ。ありふれたB級コメディ的な安っぽさがなく予算もかけたしっかりとした撮り方は、いかにもサー・アランの仕事ですな。しかもお尻・オッパイ・浣腸と下ネタのオンパレード、貴方は中坊かよってツッコミをいれたくなります。でもこういう大真面目に撮られたおバカ映画は、私は大好物です。レクター博士とニクソン大統領を演じる合間にこんなバカバカしいキャラを嬉々として演じるアンソニー・ホプキンスも、懐が深いのか来る役は拒まずがポリシーの人なのか判断に苦しみますね。実際のケロッグ博士は90代まで生きて天寿を全うしてるのであんなに若死(?)していないし、コーンフレークのバチもんでひと山当てようとするジョン・キューザックが後にコカ・コーラの創業者になるなど、まあジョークとして大らかに笑い飛ばしましょう。まるでカルト教団の教祖のようなケロッグ博士だけど、煙草の害をあの時代に説くなどまともな面もあったみたい、でも下半身に関することはねえ… [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-02-05 23:09:33) |
1214. LIFE!(2013)
《ネタバレ》 『虹を掴む男』のリメイクかと思ったら全然違うストーリーでした。もうこれは完全に紙媒体のLIFE紙の廃刊という実際の出来事をネタにした脚本で、ウェブ版に移行する際の社内リストラがけっこう赤裸々に描かれていて、買収先の企業が良く許容したなというレベルです。『朝日ジャーナル』や『週刊朝日』の休刊の内部事情をえげつなく映画化することを朝日新聞が大目に見るなんて、日本じゃ到底考えられないことです。前半のベン・スティラーの妄想は確かに派手にCGを使っているので判りやすいのですが、ショーンを追いかけてグリーンランドなどで冒険するところは妄想に入るところが曖昧で、自分は観終わるまであの冒険はスティラーのファンタジーとしての実際の活動だと思ってましたよ、まあ映画なんだからそれもアリでしょう。冒頭から“ショーンを捜して”というストーリー展開なので「ショーンって誰なんだろう?」という興味を否が応でも観客に持たせてくれますが、それがショーン・ペンだと明かされるところでは「なんだ、そのまんまじゃん」と苦笑してしまいました。とは言っても冒険パートでの雄大なロケ映像の数々、これだけでもこの映画を観る価値はアリでしょう。まだまだ元気そうなシャーリー・マクレーンを観れたのも、嬉しかったです。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-01-19 22:26:13) |
1215. マーガレット・サッチャー/鉄の女の涙
《ネタバレ》 まあ確かにマーガレット・サッチャーは政治家としては毀誉褒貶が激しい人ではあるけど、どう見ても英国は“サッチャー以前/サッチャー以後”と区別できるほど国家として変貌を遂げたことは確かでしょう。そんな人物をメリル・ストリープに演じさせたということは、冗談ですけどそりゃ反則ですよ。正直なところ扮装自体はさほどサッチャーに似ているとは思わないけど、その話しぶりや仕草などはサッチャーそっくりなんだそうです。認知症を患っている引退後のサッチャーと亡霊のように彼女の幻視に現れる亡夫デニスとの対話を通じての回想というある意味オーソドックスなストーリーテリングなんですが、双子の子供のうち娘のキャロルだけを登場させて問題児のマークを出さなかったところはさすがに忖度でしょうか。『鉄の女の涙』という邦題の割には劇中メリルが涙を流す場面は皆無だったような気がしますが、「サッチャーが泣くところなんか誰も観たくないだろ」と考えたかもしれない脚本は正解だったと思います。実際のところサッチャーが公の場で涙を見せたのは、息子マークがバリ・ダカール・ラリーに出場して一時行方不明になった時だけだったそうです。デニス役のジム・ブロードベントとメリルの掛け合いはさすが名優同士だけに見応えがありましたが、その印象が強くてなんか舞台劇を見せられたような感もあります。そういうところが、ある意味でこの映画の弱いところなのかもしれません。 驚くべきはこの映画が製作されたときはまだマーガレット・サッチャーは存命だったということでしょう。公人だったとはいえ、その認知症を患っている姿まで赤裸々に描くとは、腰抜け揃いの日本映画界では考えられないことです。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-01-13 22:42:08) |
1216. 張り込みプラス
《ネタバレ》 意外と皆さん低評価なんですねえ、私はけっこう愉しめましたけど。前作『張り込み』から6年後の続編製作だけど、劇中もきっちり6年後という設定。シリーズもの(もっともこのシリーズは二作しかないけど)あるあるで、“二作目は派手に”という鉄則は踏襲されており、冒頭の家の爆破シーンはこれでもかと言うド派手さ、もう『リーサル・ウェポン』かよ(笑)。前作観ている人には丸わかりの、冒頭でのリチャード・ドレイファスの異臭まみれはお約束。今回の張り込み捜査は判事の別荘をアジトにして、麻薬取締局の女性検事と三人親子という展開。この検事役がロージー・オドネルというコメディエンヌなので、けっこうドレイファスとエステベスの二人は喰われてしまった感じかな。監視対象の証人=キャシー・モリアーティが、前作のマデリン・ストーと違って銃をふりまわすかなり凶暴なキャラなのも特徴。サスペンス・タッチのドキドキ感はかなり薄くなってコメディ要素がさらに強まった感じでもある。ラブコメ要素はドレイファスとストーの喧嘩別れの危機で引っ張ってゆくけど、もう結末は予想通りでした。それにしてもけっこう出番があったのに、マデリン・ストーがノン・クレジット出演なのは摩訶不思議です。 まあ安心して観れるけど、前作のような独特な空気感が欠けていたことは否めないですね。良くも悪くも、普通のコメディ調刑事アクションという感じでした。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2023-09-08 23:06:17) |
1217. オペレーション・ミンスミート ナチを欺いた死体
《ネタバレ》 「事実は小説よりも奇なり」をまさに地で行くような実話の映画化。ジョン・マキンタイヤーの原作ノンフィクションは既読です。登場人物やエピソードはほぼ原作通りなんだけど、コリン・ファレルとケリー・マクドナルドの三角関係や、“マーチン少佐”の本当の姉や彼とそっくりの米軍兵士のエピソードはフィクションです。それにつけても、英国人のスパイや謀略好きにはほんと呆れてしまいますね。 “マーチン少佐”を実在の人物にするための手紙や財布の中身そして恋人の創造まで、もう愉しんでやっているとしか思えないぐらいです。彼ら謀略部隊の親玉である提督の副官があのイアン・フレミングであるのも面白いです。 ジョン・マッデンが監督ですから、もう捻りもない正攻法での映画化という感じですかね。戦争映画なのに兵器や戦闘シーンがほぼ皆無なストーリーなので、コリン・ファレルとケリー・マクドナルドの恋愛模様などを織り込まないと地味すぎるという判断があったんでしょうが、それが上手くいったかというと疑問ですね。作戦が成功するかというハラハラ・ドキドキ感を、もっと強調した方が良かったと思います。そう考えると、もしヒッチコックが現代に生きていて監督していたら、きっと傑作になっただろうな。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2023-08-27 22:10:33) |
1218. ウルフ
《ネタバレ》 コッポラが『ドラキュラ』をリメイクしてそれに刺激されたようにデ・ニーロがフランケンシュタインを演じたと思ったらジャック・ニコルソンは狼男、90年代はモンスター界の三大スターのリメイクが揃ったわけです。ジャック・ニコルソン版狼男は意外と王道的なストーリーテリングです。でもよく考えると、この作品ではニコルソンの変身シーンが無いんですよね。せいぜい顔に毛が生えまくるぐらい、これはもう一人の敵役狼男であるジェームズ・スペイダーも同様です。そもそもニコルソンに狼男を演じさせること自体が反則技みたいなもので、あの顔と演技力からするとメイクなんかしないでも迫力の獣人ぶりでした。昼間のリストラに苦悩するくたびれた中年男から日が暮れてからの精力に満ち溢れた狼男ぶりを、多少のメイクだけの表情の演技だけで余裕でこなしちゃうところは、さすがニコルソンです。ミシェル・ファイファーもまだこの頃はギリで全盛期の美貌を保っていたので、見ごたえがありました。でもお話し自体は意外とミニマムな展開で、非情なオーナーのクリストファー・プラマーやお守りのペンダントをくれた老人との絡みが膨らんでいかないのは、イマイチな感がありました。ラストの展開には、どこか『キャットピープル』のオチを彷彿させるものも感じさせられましたが、出演俳優が豪華な割にはやっぱB級感は否めなかったですね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2023-08-21 22:39:11) |
1219. 街のあかり
カウリスマキの“敗者三部作”の掉尾を飾るわけですけど、作を重ねるたびに悲惨になってきた主人公も、ついにここまでの境遇になってしまったかと嘆息してしまいます。三作の主人公の中でも本作のコイスティネンが最も無表情というか無感情の様に思えます。時は21世紀に入りフィンランドもEUに加盟していて通貨もとうぜんユーロになっています。それなのに10年前の第一作当時から時が止まってしまっていたような社会の状況、銀行は相変わらずゲス対応だしノキアの国なのにスマホどころかガラケーすら誰も使っていない。コスティネンは家族も友人もいなけりゃ職場の同僚からも嫌われている。挙句の果てには女に騙され宝石店泥棒の片棒を担がされて刑務所行き。出所して女と黒幕ギャングを見つけて復讐しようとするが、哀れ返り討ち。こんだけひどい目にあってようやく自分を理解して救ってくれそうな女性が身近にいたことに気が付いて呟くのは、「ここじゃ、死なない」、なんか最後にようやく希望が湧いてくる一言でした。 描き方によってはいくらでもダウナーになるストーリーなんだけど、カウリスマキ・マジックにかかると不思議とほんわかした映画になるのは不思議です。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2023-08-12 23:09:33) |
1220. 怒号する巨弾
《ネタバレ》 『怒号する巨弾』なんとも凄まじいタイトルですけど、これはっきり言ってストーリーとは何の関係もないんです。なんでもサイレント映画時代にこの題名の海外映画があり、当時は活動弁士として活躍していた新東宝社長の大倉貢の印象に残っていて、内容とは関係なく「これを使え!」となったそうです。まあ新東宝のタイトル詐欺にはもう慣れっこですけどね(笑)。 戦時中にスパイ容疑をかけられて獄死した父親の復讐のために、息子の天知茂が戦後15年たって冤罪をでっちあげて父の会社を乗っ獲った政財界の大物を抹殺してゆくというのが大まかなストーリーです。冒頭とラストには轟音を響かせて飛ぶ米軍戦闘機、そしてタイトルバックには街角で慈悲を乞う傷痍軍人(現代の人間に異様な風景に見えるでしょうけど、昭和生まれのわたくしには幼い頃こういう人たちを見た記憶がたしかにあります、歳がばれますね)を映すと、妙に太平洋戦争敗戦を観る者に意識させる撮り方です。主人公の警視庁警部・宇津井健も戦争で自分以外の家族が全滅したという設定で、この映画の独特の暗い雰囲気に貢献しています。天知茂は戦後に名前を変えて美術商になり三ツ矢歌子とは恋人関係になりますが、彼女の父親こそ天知親子を拷問した特高警察の幹部で現・警視総監、天知の最後の標的というわけです。 この映画の天知こそが“ザ・天知茂”という典型的なキャラで、その暗い影を引きづった立ち振る舞いには、惚れ惚れとさせられます。対する宇津井健は融通の利かない超真面目人間で、根本的に大根である彼の演技力には最適のキャラでした。脚本は末期の新東宝としてはマシな方です。天知が美術商のはずなのにいかつい手下どもに君臨するギャングのボスみたいなのは、どう見てもヘンテコですけどね。そしてラストで天知と宇津井がライフルVS拳銃の決闘を繰り広げるのは新東宝映画に不慣れな人には?でしょうが、これは新東宝アクション映画では有りがちな展開でしょうじき「ああ、またか」という感じでしたね。でも撮影は新東宝にしては凝っていて、下から煽るように映すショットの多用や深作実録ヤクザ映画のような街頭での無許可ロケやそこをビルの屋上からの鳥瞰視点で撮っているなど、当時としてはけっこう斬新です。もっと印象深いのは、新東宝唯一の巨匠・渡辺宙明の音楽で、時には即興ジャズ風のキレのある演奏もあり、そしてそのメロディが耳に残る“天知茂のテーマ”(これは私の勝手な命名です)は名曲です。この映画の劇伴は、新東宝映画群の中でもトップクラス、いや間違いなくトップでしょう。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2023-07-25 23:26:09) |