シェルタリング・スカイ の ramo さんのクチコミ・感想

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シェルタリング・スカイ の ramo さんのクチコミ・感想
作品情報
タイトル名 シェルタリング・スカイ
製作国,
上映時間138分
劇場公開日 1991-03-30
ジャンルドラマ,ラブストーリー,小説の映画化
レビュー情報
《ネタバレ》 ツーリストではなく、トラベラーであり続けたキット。ほとんどセリフもなく、字幕もない後半こそがこの映画の見どころだと思います。一組の夫婦に男がもうひとり絡んで、男女関係云々という前半は、本題を表現するための前フリのようなもので、ストーリーがどうの、と論じる類の映画ではありません。

アメリカに帰れば、タクシーの中で大使館員とタナーを待っていれば、普通に生きることさえ難しい状況からは逃れられますが、キットはその選択肢に背を向け、どこかへ去ってしまいます。私たちが「快適」とする白人社会に戻ってしまえば、キットにとってそれは「ふりだしに戻る」ということだったんでしょう。山のような荷物を抱えて移動する「ツーリスト」から、トランクひとつの「トラベラー」となったキットは、物質第一主義の欧米文化に対する皮肉の象徴なのかもしれません。豊かさの象徴である山のような荷物=しかしそれは生きていく上でのお荷物=そんなものを生み出す欧米文化、ということでしょうか?

その欧米文化の副産物が差別社会。
オープニングのモノクロの映像には、発展していくニューヨークの様子が描かれ、快適、快楽、経済的発展、物質的な豊かさをイメージしたシーンが、都会的な雰囲気のジャズとともに流れます。そして、豪華客船から小さなボートで上陸した先では、一転して土着的な民族音楽。オープニングが終わり切らないここまでのシーンだけで、欧米と対極する文化圏が舞台であることが強調されています。たくさんの荷物を、家のない貧しい子供たちに運ばせるアメリカ人は、大きな荷物から帽子を取り出し、カメラで写真を撮り、スピーカーから西洋音楽が流れる酒場で、ドリンクを飲みながら子供たちに靴を磨かせるなど、アメリカの富裕階級とアラブ圏の当時の事情がくっきりと描かれています。
ラストシーン、タクシーから消えたキットは、最初3人で立ち寄った酒場に現れます。店内にはやはり西洋音楽が流れ、新聞売りの子供など、店の様子は変わらない。変わったのはキットの心。その心が「迷ったのかね?」「人には無限の機会がある」ことを、無言のおっさんから感じ取ります。おっさんの声はキットの感情そのもの。映画はそこで終わりますが、キットがその後もトラベラーとして生きていくだろうということは容易に予想できます。
グランドホテルから出てくるタナーが欧米文化の象徴、かつてはその文化の中で生きてきたものの、別の生き方を模索するキット。この二人のコントラストが、差別社会への批判なのだと思います。オープニングとエンディングを見比べると、この映画の意図がよくわかりますね。

後半の砂漠も、俯瞰的に眺めている私たちにとっては「美しい」風景ですが、そこで生きるアラブの人々にとっては日常の当たり前の風景。「ほ~ら、きれいな景色でしょ」と見せるだけでは、まさにただのツーリスト的映画になってしまいますね。静けさ・美しさと同等の激しさ・重苦しさが伝わってくる、それがこの映画の価値だと思いました。

それにしても、男と女の関係をこれほどまでに描き切ることができるベルトルッチ監督の手腕に、ただただ驚くしかありません。「シャンドライの恋」のラストシーンの衝撃も、なるほど、この監督だからこそ作れたんだと、改めて納得です。
ramoさん [CS・衛星(字幕)] 8点(2017-09-12 21:37:49)
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