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この作品に関しては、上手く語る言葉を持たない。不用意に「感動した」なんていったら申し訳ない気がする。
原爆で亡くなった女性と、後遺症を受け継いだ世代の物語を、何のてらいも交えずに、ただ静かに描く。イデオロギーとも戦後教育とも距離をおいて、あの時代に生きた人とその血を継ぐ人々をごく普通の人間として、ありのままに語る。 やや話が飛ぶようだけど、たとえば誰かから相談ごとを受けているときや重い打ち明け話をされているとき、自分は単純に励ましたり、通り一遍の言葉で応答しないようにしている。それどころか相槌も満足に打てず、黙って話を聞くことしかできないことが多い。このマンガを読んでいるときの気持ちはそんなときに似ていた。 戦争を扱った作品に接するとき、とくに日本人であれば「反戦」や「平和」といった言葉を使わずに感想を語ることは少ないだろう。もちろんそれが間違っているとは思わない。 けれどもこの作品から感じ取れるのは思想という形をとる前の体験であり、普通の生活を送る人としての感情だ。そうしたものを受け取ってしまうと、実感したこともない決まり文句で感想を述べるのは、難しい。まずは黙って話を聞いて、その気持ちを少しでも共有しようとする、素朴な聞き手でいたいと思う。 肉体的に残酷な描写がないだけに、精神的な痛みが染み入るように伝わってくる。それでいて後味は優しく、朗らかだ。折に触れて読み返したい。読み返さなければならない気持ちがする。それでなにが変わるでもないとしても、彼女達のことを知らなければならないような気がしてくる。そんな作品だ。 【no one】さん 9点(2007-11-18 00:50:20)
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