1. マイ・ブルーベリー・ナイツ
《ネタバレ》 十数年ぶりの再鑑賞です。香港の映画作家が、アジア系のミュージシャンを主演にして米国でロードムービーを撮るとなれば、何かしら特別な意味を期待してしまうけど、残念ながら、そのようなものが見出せる映画ではありません。 物語は、限られた場所での会話から登場人物の背景を想像させるスタイルで、いわば短編小説のような味わいですが、さほど中身のない話をお洒落にカッコよく撮っただけともいえる。メンフィスの話も、ラスベガスの話も、要するに「失ってはじめて大切な存在に気づく」ってことだけど、それほど独創性を感じさせるエピソードともいえない。 テキサス出身でニューヨークを拠点に活躍するノラ・ジョーンズにとっては、米国を縦断するロードムービーに出演する意義もあろうし、その土地にまつわる音楽を選ぶ意義もあろうけれど、残念ながら、王家衛の脚本や映像には米国の土地に対する関心が感じられません。とくにメンフィスのエピソードは、あえてメンフィスを舞台に選ぶ必然性をまったく見出せない。メンフィスの風景が映し出されるわけでもなく、歴史が垣間見えるわけでもなく、黒人と白人の関係性が浮き彫りになるわけでもない。ネットの情報によれば、たんに予算の制約からロードムービーを撮ることになっただけらしい。 ノラ・ジョーンズをはじめとして俳優陣の演技は悪くないと思います。オマケの7点。 [インターネット(字幕)] 7点(2025-06-17 05:38:10)《新規》 |
2. ジュラシック・ワールド
《ネタバレ》 映像にも設定にもリアリティがあって面白かったです。 遺伝子操作の結果、《保護色&赤外線抑制&高い知性》などの能力をもった怪物が出来上がってしまったのですね。もちろん、それに起因する事故は「想定外」ではなく、適正に情報を共有していれば防げたことですが、日本の福島原発を見ても分かるとおり、個々の利害に囚われて情報共有や危機管理が後回しになれば、こういう事故はいつでも起こるりうるわけです。CEOがインド系で科学者が中国系なのもありえそうな話だし、恐竜を殺人兵器として利用しようとする発想が、かつて白人が黒人を奴隷化したことの隠喩になっていたのも的確です。 ヒロインや兄弟などの主要人物が善玉すぎないのもリアルでした。登場人物に安易な共感をさせないことで、勧善懲悪的なベタな話になるのを避けているわけなので、それが作品の欠点だとは思いません。インドミナスとティラノサウルスの対決シーンを長回しの移動撮影に組み合わせた映像もよく出来てました。 ただし、インドミナスとラプトルの知性の高さが極端すぎて説得力に欠けます。すでに共食いをしていたインドミナスが、なぜラプトルのことを「同種」と認識して共闘するのか不可解だし、そのラプトルたちは、なぜ人間に攻撃されてもなお主人公を襲わずにインドミナスのほうを裏切るのでしょうか? その行動原理が飛躍しすぎてて理解しにくい。 [地上波(字幕)] 8点(2025-05-04 00:37:11) |
3. MEG ザ・モンスター
《ネタバレ》 ちょっと高めの7点。前半は「5点くらい」と思って観てましたが、後半の展開がけっこう興味深かったです。 前半は、コスチュームがダサいし、セットやマシンは安っぽいし、美魔女みたいな中国人女優は老け顔だし、なんだか半世紀前のSFテレビシリーズを見てるみたいで、ついついアジア資本映画の"後進性"ばかりが鼻につきました。 でも、2匹目のサメが現れてからは、そういう問題は一気に吹き飛びました。物語のなかでも、欧米とアジアの優劣やら差異といったものが意味を失っていきます。それまで英語で喋っていた中国人は勝手に中国語で喋りはじめるし、白人も、黒人も、アジア人も、なりふり構わずにわめき出します。中国人だけでなく、あらゆる人種が見すぼらしく惨めになって、ハリウッド映画にありがちな人種ごとの類型的な役割分担もなくなってしまう。つまりは、圧倒的な脅威の前で、すべての人間がまるごとコケにされてしまうのです。その感じが面白かった。制作者がそういうことも計算ずくで作っているのを感じました。 もちろん巨大ザメの描き方こそがいちばん大事なはずですが、わたしとしては「多様な人種のキャラクターをどう描いてるか」という点に最大の見どころを感じました。アジア側にかなり配慮してる面はあるけど、この作品が商業的に成功したということは、欧米をふくむ映画市場もけっこう懐が深かったのだなあと思います。いまやスクリーンのサメに食われるのは欧米人だけではない、という時代の変化が、意外に新しいスタイルを作っていくのかなと思う。 …以下は蛇足ですが、サメが、巨大な躰のくせに浅瀬にまで侵入してきたり、グルメなくせに固くて不味い潜水艇に何度も食いついたり、音と臭いに釣られる深海魚のくせに弱点が「目」だったりするのは、たぶんツッコミどころなのだろうと思う。さらに、わたしが変だなと思ったのは、プラスチックが頑丈なくせに金網がもろいこと、それからイカのくせに足がタコっぽいことでした。 [地上波(字幕)] 7点(2020-08-09 09:27:32)(良:2票) |
4. キングコング: 髑髏島の巨神
《ネタバレ》 前半部分は、70年代のワシントンやサイゴンの雰囲気が良かったし、前作『GODZILLA』との作風の違いも楽しめたし、軍用ヘリが嵐に突入していくあたりのスペクタクルにも迫力がありました。 ただ、相変わらずトルーマンの水爆実験を正当化している前提や、わざわざ白人を正義にして黒人を悪者にしている図式や、自然界を善悪に分離するような設定が出てくると、根本的な違和感を拭えません。そして、やっぱりガッツ石松が登場するやいなや、その表情や動作があまりにも人間的すぎて、リアリティを失ってしまう。島の原住民の描き方も、あまりに紋切り型すぎて安っぽいです。 そもそも、人間が飼い慣らしでもしない限り、自然界の生き物が自主的に人間の味方をするはずがないですよね。むしろ人間の側こそが、生態系とどうやって折り合いをつけるべきかを模索しなきゃならないはず。そのあたりの基本的なコンセプトが本質的に間違っているし、あまりにも漫画じみている。日本の漫画でさえ、これほどバカな認識で自然のことを描いたりはしないと思います。 今後、このシリーズには、ゴジラだけでなく、モスラやキングギドラも出てくるのでしょうか? かなり日本のことを意識していますよね。冒頭にも日本兵が出てきましたが、ちょっとジャパニメーションっぽかった。今のハリウッドは、日本のアニメや映画の雰囲気を醸し出すのがカッコいい、みたいな価値観をもってるのでしょうか。そのくらい日本のアニメや映画は一定の文化的支配力をもってるのかもしれませんが、そこで日本がどんな風に表象されているかについては、注意ぶかく見ていくべきだと思います。 ストーリーは4点ぐらい。スペクタクル要素に加点して6点です。 [地上波(字幕)] 6点(2020-06-28 18:56:13)(良:2票) |
5. 芙蓉鎮
約20年前に見た映画で記憶からこぼれていましたが、監督が亡くなったこともあり、ふたたび思い出して見る機会を得ました。とにかく骨太ですね。映像も骨太なら、物語も人物描写も骨太です。物語には善人も悪人も登場します。しかし、もはやそうした善悪を超えて、なんだか生きる人々の力強さそのものに心打たれてしまう。もう日本では見かけることのない、全力で生きることに立ち向かう人々の姿。とにもかくにも「人間を見た!!」という思いにさせられます。物語は歴史的背景を負っていますので複雑ですが、人物の描写はある意味で非常に単純明快だといえる。けれど、そうした単純な人々の生きざまと、それが織りなす社会のうねりを目にすると、かえって「個人の複雑な内面性」なんてものを描くことのほうがチャチで胡散臭いものに思えてくる。この映画には、台湾や香港映画ともまた少し違う、清濁すべてを併せ呑むような独特の豪快な手応えがあります。初見のときはあまりのボリュームにやや疲れてしまったのですが、何度みてもいい映画でした。 [映画館(字幕)] 9点(2011-10-14 03:31:05)(良:1票) |