1. シュトロツェクの不思議な旅
《ネタバレ》 なんかもう可哀想だなあ。心が塞ぐなあ。 生きるってこうもキビシイもんかな。塀の中の方がまだ人間味があったよ。出所祝いをくれたり。 何のためにアメリカまで来たのやら。邦題のほんわかしたイメージとは真逆の厳しいだけの現実。 この主人公はいわば社会的弱者で、弱い者がいたぶられるのを見せられただけの後味の悪さ。 ラストの動物の描写もちょっと伝わらなかった。 年を取ってくるとシニカルなだけの冷たい作品はしんどい。あまり好きな映画じゃなかった。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-07-21 23:09:03)《新規》 |
2. 潮風とベーコンサンドとヘミングウェイ
《ネタバレ》 ああ、良いですねえ。名優お二方の滋味あふれる演技にはシビれちゃうな。デュヴァルは年齢を経てもダンディだし、リチャード・ハリスのはっちゃけぶりも尊敬しちゃう。そうそう、S・マクレーンの“ぶっきらぼうだけど根は優しい人”な感じも絶品。 現役世代にはほぼ出会わなかったであろう爺ちゃん二人。生活圏も趣味も教養も違い過ぎるもの。年取っていい具合に枯れて、「相手との会わないトコ」をいちいちあげつらって戦うエネルギーが減ってこそ成り立つ友情関係なのかな(まあ一回大ゲンカはするんだけど)。こんな風に人と出会える人生って良いなあ。 潮風がいつも吹き渡るようなロケーションや、夜空に打ち上がった花火がこぼれ落ちるそのキラキラを背景にしたデュヴァルの横顔など、強い印象を残す美しいシーンがいっぱい。 若いサンドラ・ブロックも話を邪魔していないし、作品のニュアンスを掬い取った邦題も絶妙。 良いなあ大好きな映画です。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2025-07-16 23:48:33) |
3. シングルス(1992)
《ネタバレ》 92年か!や、なんだかあの頃の空気感が懐かしい。住んだことないアメリカだけど。 駆け引きに振り回されたり、深読みしたりの独身あるあるエピソードがセンス良く脚色されてて可笑しい。 この頃って「リアルな」とか「赤裸々な」ドラマがちょっとしたムーブメントでしたよね。 ケータイが無いから電話。それも留守電。コミュニケーションのスピードが今よりずっと遅くて、だから男も女も考える時間が取れた。今は創作のドラマも昔より展開が早くなっているから、脚本家もそのあたり苦労しているのだろうなあ。 90年代初頭のアメリカ。今と比べるとずっと明るくて豊かで呑気なことにしみじみしました。メイン出演者が白人ばかりというのもちょっと古さを感じるけれど。 “ビデオデート”なる商売があったんだね。出演陣のなかでも「やり過ぎ」担当のデビーの奮闘ぶりには笑いました。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2025-06-14 23:19:53) |
4. ジョン・ウィック:コンセクエンス
シリーズ4作目にしても揺るがぬコンセプト。数多の人間がゲーム画面のように派手に散り、演出から舞台設定から全てがサバイバルアクションのため。いかになぎ倒すか蹴散らすか、どの角度で撮れば効果的に人が吹っ飛ぶか。この熱意、熱量の大きさもう脱帽。 けれんみと犬。この辺の原点回帰も変に律儀。 観てるだけで体力使っちゃった。疲労した頭の片隅で「真田広之がいなくなったら美しい剣技を誰が受け継いでくれるのかなあ」などと考えていました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-03-06 22:48:33) |
5. 17歳の瞳に映る世界
《ネタバレ》 なんとも胸が痛かった。オータムをこんな目に遭わせたのは一体誰なの。妊娠させた男どこ行った出てこい。 彼女の周囲はほんと暖かくない。高圧的な継父。妊娠を相談できない母親。お母さんさあ娘まだ17なのにもっと気遣ってやれないもんだろうか。バイト先の店長も何なん。具合悪いって言ってんのに。たった2時間じゃねえよ。学校の男子どもったら。女の子に意地悪するその性格がもうダサい。 窮地のオータムに寄り添ってくれるのは従妹のスカイラーだけ。身を張って当座の資金を得てくれる彼女。この娘の友情の深さはこの話のオアシス。泣いた。 アメリカってこんなんなんだね。地域の色が違い過ぎる。女子はないがしろにされ権利を取り上げられる所もあれば、場所を移せば相互扶助の社会システムが機能している。 オータムとスカイラーがつないだ手。どうかその手をずっと放さずにいてほしい。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-10-23 19:23:51) |
6. シング・ア・ソング! 笑顔を咲かす歌声
《ネタバレ》 留守宅を守る軍人の奥方らの親睦会の様子が、人間関係含め面倒くさくて厄介で洋の東西問わず普遍的なんだなあと思いました。楽しい人らだけが楽しい、というほとんど我が国のPTAやら町内会と一緒なのに変に共感しましたね。 「軍人の家族」というくくりで一つにされてもそこは年齢も考えも違う人たちの集まりなわけで、その辺の対比を若手リーダーのリサとベテランかつ夫が高位のケイトに凝縮させているのが巧くて、ちょっとひりひりしました。 やっぱりリサの方が若い感性で支持を集めるわけですよ。ケイトも年代のギャップを受け入れようと懐の深さを見せ続けるのだけど、ベテランとて心が病まないわけはなくクローゼットには未使用の通販グッズの山。 そして終盤にはついに暴発してしまう。やー、この場面あまりの言葉のとげとげしさにリサとの関係修復など不可能ではと思ってしまった。仲直りしてたけど。時々思うけど英語圏って言葉が荒くて攻撃的。そしてわりと水に流すイメージ。不思議。日本人(というか、わたし)が根に持つタイプということなんかな。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-09-02 23:55:02) |
7. シャドウ・イン・クラウド
《ネタバレ》 エンドロールに流れる40年代当時の従軍女性兵士の映像から察するに、あの男性優位の時代に頑張っていた女性らへのリスペクトを表しているのでしょうけど。 それを映画作品にするにあたって、21世紀の女版イーサン・ハントを撮ろうというアイデアもまあ悪くはないけれど。 だけども何故あんな怪物が必要なのだろう。アイツがいなくたって、クロエの身分詐称疑惑や、女性蔑視の中で孤軍奮闘を余儀なくされるクロエへの共感、敵機襲来と自機の故障、などなど物語の構成要素は盛りだくさんではないですか。 下部銃座に追いやられたクロエ・モレッツの一人芝居はなかなか真に迫るレベルだっただけに、幼稚な怪獣が出現したことで一気に萎えました。クロエファンならば彼女のファイト溢れる漢気(?)にグッとくるかもですが。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2024-04-30 23:26:33) |
8. 小説家を見つけたら
《ネタバレ》 良さげな話なんですが、あいにく類似テーマの先達作品らがすでに感動の輝きを残しているので、この手のネタで勝負するのは分が悪い。それに実際出来も今一つです。 まず主人公の高校生がスーパー過ぎる。詩作の能力もバスケットの才能も大学推薦を軽く得られるレベルで、その才能を幸運にも見出されている。家族・友人とも関係は良好。この時点で彼に悩みなど無いでしょう。‶グッド・ウィル・ハンティング”のマット・デイモンとは環境が違いすぎる。 そして師の役割であるフォレスター氏。彼がジャマール・ウォレスに与えた薫陶がどんなものだったのか、描写足らずに感じます。‶セント・オブ・ウーマン”のアル・パチーノが己の生き様を丸ごと叩きつける形で若い世代に強い影響を与えたような、そういった印象を残すやりとりが老作家と高校生の間でほとんど見られなかったです。ただの仲良しです。 つまるところこの映画は‶セント・オブ~”と‶グッド・ウィル~”と ‶アマデウス”(奇しくもサリエリ氏のF・M・エイブラハムではありませんか)等のエッセンスをうすーく伸ばしてブレンドした、雰囲気映画と思います。S・コネリーの佇まいは良かったですが。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2024-03-31 23:38:20) |
9. ジュマンジ/ネクスト・レベル
《ネタバレ》 出演俳優を、全員前作と同じ顔触れで揃えることができたのですね。これって当たり前のようでいて、でも実務レベルでは結構難しくてそして叶うと地味に嬉しいポイントですよね。 懐かしの名優が二人も登場で、うれしいやらしんみりするやら。 キャラのシャッフルは前回より多めで、これは続編の宿命。あいかわらず小器用に多人格を演じるドウェイン・ジョンソンらを観てるのは楽しいです。前作からの客が見たいものをきちんと提供してくれて、まずまずのクオリティに達していると思います。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-02-21 23:42:00) |
10. ジェイコブス・ラダー(1990)
《ネタバレ》 ネタバレ! ちょっと前の作品になるんですね。やっぱりある種の映画は封切り当時に観ておく方が吉だなあと思いました。後発作品がもっと洗練されていくので、そっちを先に観てから先発作に触れると「なあんだ」と不当な評価をされがち。 本作も高評価ゆえ期待度が高すぎて「えっ なあんだ」となってしまった。全体の99%が夢でした、とは今では反則にも感じる・・。わたしは真面目に考えながら鑑賞してたんですよ、どこの部分が現実でどこが妄想なのか。あまりに読みを覆してゆくので、これ納得のいくラストになるのかしらと不安になったくらい。 今際の際に脳内にあった軍への不信とか末息子への想いとか、ちょっといいなと思ってた郵便局の娘とかがミックスされたジェイコブス氏の夢を見せられただけかあ。 オチでずっこけはしたけど、つまんなくはなかったですけどね。カルキン君はすごく愛らしいし。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-02-17 23:28:17) |
11. ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル
《ネタバレ》 映像技術の力で大いに楽しませてくれる一本。TVゲームの中に入ったらこうなる、という約束事を生身に反映させることのシュールさとか可笑しさを上手に娯楽化できていると思いました。決まり台詞以外喋らない案内人とか、自分の得意分野が明文化されて浮かび上がるとか。CGが進んだおかげで実に滑らかに鑑賞できて楽しいですねえ。 それに役者も巧い。ジャック・ブラックは完ぺきに女子高生だし筋肉無双のロック様が鳥の羽音とかにいちいちビビる、その姿だけで笑いが取れるというもんです。(比べる必要もないけどドウェイン・ジョンソンにあってヴィン・ディーゼルに無いものはこういうコメディセンスだと思うよね) 皆で力を合わせたことで人間力が上がったひと夏の思い出。ジュヴナイルものの定番テーマもきちんと押さえているのにも感心。 ところでわたしはシンディ・クロフォードと同時代を生きてきましたので久々にその名を聞いてちょっと上がりました。ほんと、あの頃は彼女全米一イケてましたからねえ。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-01-09 23:41:53) |
12. 白い巨塔
TVドラマの唐沢財前版は観てましたので、「本家」のこちらはどの程度ドロドロしてんのか、と大いに興味を抱いての鑑賞です。 映画版はやはりドラマより展開が早い、というか忙しいな。台詞説明も多いし。でも大学病院という高みで展開する権力争いのえげつなさはいかんなく描写され尽くしてて、わかっていても充分げんなりしました・・。 時代が古い分、洗練されることなきむき出しの欲望と言いますか、財前の義父は特に大迫力でしたねえ。 やっぱり古さが感覚に合わない部分もありまして、女優陣の演技やキャラ付け、台詞回しはもう絶滅した仕様のものですね。そして何気にホステスもお嬢様も強烈に毒舌。なんでなの笑。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2023-12-11 22:52:13) |
13. ジーパーズ・クリーパーズ
《ネタバレ》 見たことない役者ばかりで見るからにB級ホラー。なのにコッポラの名前が製作総指揮(まあこのポジションて名前貸しのことが多いけど)に据えられてるじゃないですか。それに釣られた数多の客のうちの一人になってしまった。 つまんなかったなあ。実際の事件から思いついた(らしい)アイデアを色んなホラーやスリラーから拝借してツギハギに仕上げてるので既視感だらけ。後ろからトラックで煽られるとか、逃げたくても必ずエンジンのかかりが悪いとか、事件のひとつは警察署内で起こるとか、他作品をパクってばかりの演出にうんざりしました。 また主役2人の行動に理性も整合性も無いんだ。「あなたダリーね!」と突然現れる霊能者のオバサンはタイミング良すぎでコントみたいだし。 まあ主演の二人がカップルでなく姉弟なのが目新しいかな。でもこれだって必然性はないし。コウモリ男の扱いや造りも雑でクリーチャーに対する愛も感じられないや。どうにも脚本も志も偏差値の低いなんじゃこりゃな作品でした。 [CS・衛星(字幕)] 2点(2023-09-21 00:02:46) |
14. 処刑人
《ネタバレ》 シリアス寄りのクライム・ムービーと思って観始めたんですよ。見目スタイリッシュな兄弟、クラシックを聴きながら現場を検分するクセ強そうなFBI、マフィアが殺られてこれは血で血を洗う惨劇に発展するのだろうな、おっかないな・・・と。 いや、シリアス目線を捨てたのはどのあたりだったかな。デフォーが床を共にした相手(男)に「このオカマ野郎」(!!)と言い放ったトコだったかな。ここで点になったわたしの目はその後ずーっと点々のままでした。 わりかしすぐ殺られる悪役マフィア、キレいまいちのアクションシーン、主人公兄弟二人の狂気度の低さ等、バイオレンス分野最高峰のタランティーノレベルには及ばない。及ばないものの、怪方向へ振り切れたW・デフォーの貢献もあって、おやなかなか良いんじゃないかこの映画、と私的評価はうなぎ上りに。 デフォー、凄いもん。どんどん加速度増しの怪演だもん。仕草も表情もどんどんと。セルフパロディまでかますのかあ、そこがピークかと思いきや血も凍る女装ときたもんだ。参りました。 正直デフォーが凄すぎて兄弟側の主張「悪への社会的制裁」の是非についてはけっこうどうでも良くなっちゃった。 Pコートの着こなし方のお手本とW・デフォーの最高の仕事が観られる、わたしにはコレはそんな映画です。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2023-03-09 17:58:27) |
15. ジェントルメン(2019)
《ネタバレ》 初期のガイ・リッチー作品好きな方にお待ちかねの一本。わたしもその一人。 ちょっと真っ当じゃない色んな職業や立場の連中が次々関わりあって事態をくるくるとあらぬ方向へ転がしてゆく。先の読めなさとお話の饒舌ぶりは初期のガイ・リッチー味健在で楽しいです。語り手がヒュー・グラントってのもまたぴったり。無責任にじみ出るチャラい演技は、彼のお手の物ですからね。 ギャングものですので物騒な話には違いないのだけど、ガイ・リッチーはいつもトボけた筆致なのでそこが好き。強面のおっさんたちも脚の速さでは悪ガキに翻弄されてしまって、スーツと革靴で汗だく。一見正義の人に見えるコリン・ファレルは困惑顔しながら、やってることはエゲツないし。相続した建物の莫大な維持管理にいっぱいいっぱいの現代貴族事情もシナリオに織り込んでるあたり、英国の香りがふんぷんとしますね。 鑑賞者にとって生き残ってほしいキャラがきちんと勝ちを収めるのも大変喜ばしいです。勧善懲悪では決して無いですが。 最後にどんでん返しが2,3あるのですが個人的にはちょっと返しすぎに感じてしまったな。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2022-12-27 15:02:54) |
16. 獅子座
《ネタバレ》 ロメールといえば、若い男女の恋バナ、という先入観をみごとにひっくり返されました。監督が初めて手掛けた長編作品という今作はメタボ気味の中年のおっさんが主人公なものだから、とても驚いてしまった。のっけから体毛ボーボーの四十男の上半身はだかの画ですもん。 ヌーヴェルヴァーグの影響を受けているとの指摘がたくさん見られるけれど、ゴダールとかあの辺の小難しいノリが苦手な人でもしんどくないと思います。 ロメール作品によく出てくる長々した哲学会話もありません。その代わり丹念に主人公の凋落していく様をカメラは追っかけます。初期のロメールは言葉でなく映像で訴えていたのかあ。 悪態をパリの街につき散らかしながらさまよう男と、冷たい世間と皮肉にもあちこちに目立つリッチでリア充な人々。切符は落とす、犬まで吠える、会いたい人らは片っ端から不在。 冒頭から男がちょっとお調子者で危ういなあと描写されてはいるのですが、あまりの容赦ない現実に同情を禁じ得ないところ。が、なんというラスト。まさかの一発大逆転とは、すなわちこれ獅子座。ほんとかね笑。まあ川に身を投げて‶FIN”が浮かんでくるよりは良いです。ヌーヴェルヴァーグってやりそうじゃん。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2022-11-10 19:03:46) |
17. 幸せへのまわり道(2019)
《ネタバレ》 この映画の評価が特に本国アメリカで高いのは、アメリカ国民のフレッド・ロジャースという人物への信頼度の大きさによるものではなかろうか。 トム・ハンクス演じるロジャースその人は‶許し”をベースにした人格者で理想の聖職者のようにも見えて、キリスト教義下の国民にはより一層受け入れ易そうだし。 日本人で未熟なわたしには長年にわたる父子の確執が解けていく美しい展開には諸手を挙げて共感とはいかず、そんな上手くいくもんかな人の気持ちは、と思ってしまった。 むしろラストでピアノの低音をバーン、と叩いたロジャース氏のストレスの方に興味があったりします。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2022-10-04 12:26:32) |
18. シティ・スリッカーズ
《ネタバレ》 日々疲れている皆さんへ送る魂のリフレッシュムービー。 下ネタがあるわけではないですが、女子より男子の方に刺さるかもです。カウボーイの人生観だとか野球への偏愛とかがメンズ向き(笑) 老カウボーイの薫陶を受け、命からがらの目にも遭う。予定外のハプニング下に置かれて心の奥底をさらけ出す友人。心をリセットするためには荒療治が必要なこともあるのかも。 息を吹き返した3人のおじさんたちに良かったねえこれからも頑張ろうと声をかけたくなるような、そして遅れてきた青春の息吹もちょっと感じる作品でした。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2022-09-21 23:23:12) |
19. シェルブールの雨傘
《ネタバレ》 なんと美麗なオープニング。甘やかな音楽と小雨に濡れる石畳を行き交う色とりどりの傘。真上からのショット。完成された美意識にのっけから心を掴まれます。色彩と構図に美的センスが全編にわたって貫かれ、傘店の壁紙とジュヌヴィエーヴとその母の衣装の色合わせには圧倒されました。ピンクの壁とオレンジのスーツ。この色配置が悪趣味にならないところがフランス人、すごい。ジュヌヴィエーヴの花柄(壁もワンピも)も素敵でした。 ということでアートな分野では他の追随を許さぬ完璧な画で押してくる作品なのですが、実をいうと総合点では微妙でして。 台詞がオール歌、という決まり事はともかくも大雑把なあらすじ風メロドラマといった趣のストーリーにはかなり引きました。どんなに美しく悲恋を歌い上げられても、ヒロインのあまりに即物的な薄情さには涙の出ようもありませんでした。帰還した男の荒れようにむしろ私は胸が痛みますね。 そもそも台詞がすべて歌だと細やかな心理描写などできようもないですもん。言いよどんだり、声が上ずったり、人の思いって言葉に出るもの。いきおい宝石商のキャラも大変に浅く、こんな男にあっという間に鞍替えするヒロインもまた共感を得るのが難しくなっちゃうのです。 ミュージカルが苦手な原因が自分でよく分かった映画でありました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2022-08-18 23:40:47)(良:1票) |
20. ジョジョ・ラビット
《ネタバレ》 ナチスの時代を背景に、少年の成長譚を描いているのですがこれがもう切り口斬新。外国人から見ると一般的には専制とユダヤ迫害でキツイ印象しかない第三帝国も、その国の少年にとってはヒトラー総統は超絶憧れの人物。だからユーゲントに入るのもおずおずながら希望にあふれ、彼の目を通して見る日常もまあまあ明るいのですね。空想の友達はアドルフだし。 基本明るく軽くナチをおちょくる監督のタクトはとことんふざけているのだけど、突然リアルな残酷をはさんでくる、その塩梅が絶妙です。 「ぼく間違っていたかも」と親友のヨーキーがぽつりとこぼす終盤。ドイツは敗れ街はがれきの山と化し、ジョジョ少年は心の友アドルフを追い出して一段大人へと成長するのでした。D・ボウイの「ヒーローズ」に合わせて踊るジョジョとエルサ。親衛隊から、戦争から、そして子供の時代からの脱却をこんな風に清々しく描写した監督の力量に感嘆します。 大人の役者もみな良いです。あの時代をコメディとして演じるのはとても難しいと思うのですが、ぎりぎりの線で踏みとどまるサム・ロックウェルも悲壮すぎない演技に抑えたスカヨハもとても良い。監督のアドルフは完ぺきにぶっちぎってましたが。(笑) [CS・衛星(字幕)] 9点(2022-03-24 23:58:38)(良:1票) |