1. 花とアリス殺人事件
《ネタバレ》 快作だ。実写のような動きのアニメだが、アニメだから可能なアクロバティックなシーンがけっこうあるし、無礼すれすれの軽口のやりとりもアニメだからこそ見事にハマっている。 [DVD(邦画)] 8点(2025-07-17 23:13:09)★《新規》★ |
2. バーン・アフター・リーディング
《ネタバレ》 死体の処理はなかなかたいへんなものだろうが、国家がらみ、CIAがらみだと、実にスムーズに台詞のやり取りで「片付け」られて「観客の目に触れない」。コーエン兄弟の、人間関係の物象化を見据えるブラックなユーモアが冴えている。「物象化」の土台は、いうまでもなく人の関係が金銭のそれに覆われ破壊されていることで、ブラピとフランシス・マクドーマンドが国を売って一攫千金を企むのはその最も分かりやすい部分に過ぎない。とにかく愛という真面目な直接性は嘲笑されてしまう。 [DVD(字幕)] 9点(2025-07-11 14:17:38)《更新》 |
3. 白昼の通り魔
《ネタバレ》 「恋愛は無償」という小山明子のごもっともの台詞が耳に残っている。この作品世界において、戦後民主主義のひ弱な部分が思い切りシゴキ直される感じだ。正しく美しい題目だけでは、弱い。実質的な力が必要だということ(どんな力?)、それには工夫が要るにしても(どんな工夫?)。とにかく「全体」の圧力をできるだけ押し遣って、なんとか個々人の視点や事情を打ち出していくことを諦めてはならない、とは、大島映画の最後の最後に残る読み方だと思う。 [映画館(邦画)] 8点(2025-06-21 17:41:11) |
4. バンド・ワゴン(1953)
《ネタバレ》 ちょっとこれはなんだかゴチャゴチャしているのが(ハナシの構造上やむなし)惜しい(だからか、のちの『絹の靴下』はスッキリまとまっている)。とはいえ、シドはいい、不思議に切ない気持ちにさせるのはなぜなのだろう。あの細いウエストと、ダイナミックな動きのかねあいが。 [DVD(字幕)] 6点(2025-06-17 21:46:05) |
5. 晴れて今宵は(1942)
《ネタバレ》 鎧姿が一瞬出てきて、極めて当たり前ながら、それとは逆のミュージカルのしなやかな身体性を浮き彫りにする。この身体性と音(音楽)のコラボが、かつてトーキー化の必然性の後押しをしたのだった。リタ・ヘイワース、頑張ってるなぁ。踊れるフィルム・ノワールの女、なのである。 [DVD(字幕)] 7点(2025-06-13 21:51:51) |
6. パリのランデブー
《ネタバレ》 ロメールの人物は戸外を歩く(小津なんかと比べれば圧倒的に歩く)。で、特に第二話は、なんと戸外を歩くしかない設定。この話の終わり方、アナタはメインのカレの補完存在なのだからメインと切れればアナタの存在理由も自動消滅よ、とはなんとも面白い。こういうリクツやアイロニーやパラドックスが必ず仕込まれているのがロメール味。まさにそのために若者たちを使うのが主で、いつまでも若者たちの生態に興味があったとしてもそれは従だろう。 [DVD(字幕)] 8点(2025-05-25 05:18:13) |
7. パリでかくれんぼ
《ネタバレ》 無関係の三人の女性をいきなりばら撒く、するとこの三人がどこで出遭うのだろうかというミステリアスな関心が湧く。映画の並行編集の妙である。歌ありダンスありで、豊穣に作り込まれた痛快な織り物だ。面白い事例を一つだけ挙げると、女性の一人が盗みを働いた際その現場を偶然にとある男に見られたとのではないかと疑心暗鬼である(実は男は目撃していないことを観客は知っているのだが)ゆえ、男に近づき「目撃したかどうか」を確かめたいが果たせない(問題の性格上絶対に不可能である)のを、映画が決して説明的にならないでひたすら見守ること。 [DVD(字幕)] 8点(2025-05-19 08:52:01) |
8. her 世界でひとつの彼女
SFではなくすでに現実に近い世界を地道に(リアルに)作品化した感じ。この映画を観てちょっとデカルトのことを考えた。AIは思考はできるが身体がないということが、まさにデカルトを批判するメルロ=ポンティの指摘する点である。AIはまだ今のところは「我思う」だけのデカルトだが、まさに身体的に(ぎこちないロボットのレヴェルではなく)「我存り」となる未来も遠いことではないだろう。 [DVD(字幕)] 6点(2025-05-15 23:08:51) |
9. 犯罪河岸
《ネタバレ》 「フランス版フィルム・ノワール」なる呼称自体が奇妙ということになるが、モノクロの美しさ、殺人理由のリアルな偶発的些末さ、遊び心のある重厚さ、つまり立派な「フィルム・ノワール」作品である。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-11-01 11:28:31) |
10. パニック・ルーム
《ネタバレ》 立場が逆転して、監視システムの画像を今度は犯人側が見るというのが最大のアイロニーで、これは、フーコーのパノプティコンを連想させる、監視の二役である。つまり誰もが監視の二役を演じる近代以降の社会というもの。 [ビデオ(字幕)] 6点(2015-08-30 00:24:46) |
11. バーバー
《ネタバレ》 寡黙な主人公がナレーターを兼ねて、ナレーションも寡黙気味だ。弁護士を擁して、真犯人たるナレーターの側から真犯人を捜すかのようなスタイルをとっており、当たり前のことだが、何も判明しはしないし、とくべつ名案が浮上するわけでもない。アイロニカルなすべてがいいのは、いつも通りのコーエン兄弟。 [ビデオ(字幕)] 8点(2015-04-03 08:32:59) |
12. バートン・フィンク
《ネタバレ》 たったこれだけの設定でこの引き込む力はたいしたものだ。「バートン・フィンク」という固有名詞はユダヤ系だなという台詞とともに意味ありげに急浮上したりするのに(古典的ハリウッド映画はことごとくユダヤ人起業家に支えられていたしこの映画の舞台たる1941年でもまだその事情に大きな変化はなかったはずだとしたら、この映画のハリウッド批判は時代考証的にはちょっと的外れかもしれない)、隣人の親ナチであることがやがて判明する暴力的な大男とはずっと奇妙に共存していたことになる。預けられた小箱の中身がついに明かされないのも作品全体の意図された曖昧さを象徴している。 [ビデオ(字幕)] 8点(2015-02-17 14:36:49) |
13. ハンナ・アーレント
《ネタバレ》 かたやハンナ・アーレントという人が凄いのは判っている。強烈な変化球だ(「悪の凡庸さ」などとたいへん穿った知見だ)。こなた「女性映画」ムーヴメントの中心にいまも居るのであろうトロッタは、しかし、世界を変革しようとするような積極的な「主体」が、皮肉にも映画向きではないことに夙に気がついている筈である。見るジャンル(映画)にあって主体というものはことごとく客体性へと転がされざるを得ないし、転がされてこそ生きる。だからトロッタもまた自覚的に変化球で勝負すべきだろうし、そうならたとえばヘビースモーカーであるアーレントという描き方は、もっともっと生かされなくてはならない。決して、立派な演説が映画なのではない。 [映画館(字幕)] 6点(2015-01-03 15:05:46) |
14. ハートに火をつけて
《ネタバレ》 気位の高いはずの「フィルム・ノワールの女」があっさり殺し屋に従属するのはなさけない。大安売りの暴力なんかより他者性(思い通りには決してならない他者というもの)ほど怖いもはないという描き方でなければ駄目である。遊びの映画ならなおのこと、本質的な他者性のゆえにかるーく凍りつくような感じでなければならない。 [ビデオ(字幕)] 4点(2014-01-19 19:35:14) |
15. 巴里の女性
《ネタバレ》 このヒロインは、恋人をきちんと追求しない。つまらないプライドが邪魔をしているのか、欲望に忠実なのを浅ましいと感じるのか、要するに相手の男をたいして好きでもないのか。親への縛りに苦しむ男に対してつい短気を起こして、「そうならべつにいいわよ」とばかり身を背ける(二度も)。それが本人を含めて皆の不幸になる。 Pride can hurt you, too(ビートルズ) [DVD(字幕)] 6点(2013-08-03 10:30:10) |
16. 万事快調
《ネタバレ》 ゴダールの登場人物にありがちなカメラ目線の意味が、この作品ではなんとも判り易い、という感じ。人物たちはカメラ目線で観客に自分のモンダイを延々と(長い!)訴え、観客はずーっと聞き役、という感じ。しかしながら、撮影カメラの場所に観客は絶対にいないのだ、とはふとぞっとする事柄ではないだろうか。 つまり・・・コミュニケーションに向けるかのような人物たちのふるまいは、たんなるふるまいとして撮影カメラの前で凝固している、それだけのものにすぎない。 [DVD(字幕)] 6点(2013-03-25 16:02:51) |
17. 八月の鯨
《ネタバレ》 老年のリリアン・ギッシュをなんとか確認できるが、ベティ・デイヴィスにいたっては全く同定不可能である、しかし、それはベティ・デイヴィスの知ったことではない。ひとはせっかく長年に渡って対世間用に作り上げたペルソナを老いとともに失っていくというのではなく、老いという名の熟成の時間が「あらためて自分のために深く生きる」顔へと作り直していくのだ(と思いたい)。それは絶対的で神秘的な時間だ。二人の往年の大女優に失礼のない美しい撮影である。 [DVD(字幕)] 7点(2012-12-20 11:43:46)(良:1票) |
18. バーレスク
《ネタバレ》 かつてヘイズコードは、セクシーな踊りや声を抑圧し爽やかなミュージカルに変えたと言われるが、そういう事情が飲み込める作品だ。迫力ヴォイスのセクシーな主役に実力があるのは明瞭だが、映画としては物足りないのは仕方がない。 [DVD(字幕)] 4点(2012-11-26 20:34:53) |
19. バーダー・マインホフ 理想の果てに
《ネタバレ》 ドキュメンタリーにみえるくらいに作り込んでいる。ドイツ赤軍のこんな映画が作られていたこと自体が驚きである。誰が作り、誰が観たのか(客観的な視点から観るということはいいことではある)。こういう度外れな活動がドイツ的な理念主義・ロマン主義の一種であるとするなら、有効性を厳密に目指すことから遠いのもうなずける。が、日本人にそう言われたくないと、ドイツ人は言い返すだろう(現今の原発問題一つとっても)。 [DVD(字幕)] 6点(2012-10-14 10:32:39) |
20. 浜辺の女(1947)
あのルノワールであり、ジョーン・ベネットであり、ロバート・ライアンである。最高の顔合わせで、雰囲気も盛り上がるのだが、スジが足りない、惜しい。フィルム・ノワールの女ジョーン・ベネットの登場で、ルノワールの「ノワール」な部分に触れることが出来るのかなと期待したが、スジ違いの期待であったらしい。 [DVD(字幕)] 6点(2012-10-01 06:38:38) |