181. 映画大好きポンポさん
《ネタバレ》 なぜ映画を見るのか? ①暇潰しのエンタメとして? ②粗探しを見つけるための根暗な趣味? ③映画の中にいる自分に投影して、指針として何かを掴むため? ただ、誰もがずっと椅子に座ってはいられない。 映画尺というものがあり、2時間が集中できるタイムリミット。 狂言回しのポンポさんだと90分が限界らしく、 登場人物の人生を描くのであればその時間内で、見せたくても切らなきゃならないときもあるのだ。 本作の"編集"を司るのが、監督に抜擢された主人公のジーン・フィニ。 社会不適合者で映画でしか自分の居場所がない男。 彼をはじめ全員基本的に善人で、話がご都合主義にポンポン進んでいくが、意識的に暗い影を忌避しているようにも見える。 彼とは正反対のアランですら社会的に成功している銀行マンでありながら、自分には何もないと思っており、 じゃあ、真の意味で何者にもなれなかった、何も持ってない人の立場がないだろ。 主要人物ほどデフォルメされて、キラキラしていることからしてもまさに"夢と狂気の世界"しか映されていない。 フィクションと言えばそれまでだが、これも意図的であることは明白。 カットされたシーンには主要人物のドス黒い本性や映画界の闇が映されているのだろうか… そう思うと、編集は何のためにあるのかという本質が見えてくる。 原作を読んだら、メタ的な意味で新しい発見があるかもしれないが、 自分には本作ならではの新しい発見がなかった。 何かを創っている人なら何となく分かるものばかり。 ①と③なら良かったのに、②になってしまったよ… [地上波(邦画)] 5点(2023-02-10 19:38:25) |
182. リコリス・ピザ
《ネタバレ》 題名の『リコリス・ピザ』とは1970年代に南カリフォルニアに実在したレコード店の名前であり、 LPレコードを意味するスラングだという。 1973年のあのときにフィーチャーした一曲一曲の世界観が、15歳少年と25歳女性の恋物語を形作っていく。 近づいたり、すれ違ったり、寄り道したり、想いをなかなか告げられずに…と初々しい。 初主演ながらアラナ・ハイムとクーパー・ホフマンが自然体で体現してみせる。 決して美人ではないのに従順ではないエネルギッシュさを宿すヒロインに少年が惚れないわけがない。 そんな口達者で度胸もあり背伸びしていて幼さを残す少年役のホフマンに名優であった亡き父親の面影を見た。 初期作『ブギーナイツ』と『マグノリア』の軽快さはそのままに肩肘を張らず気楽に見られる、 ポール・トーマス・アンダーソンの演出は円熟味を増している。 彼は二人を未来も分からぬ航海に前に向けて送り出す。 二人は手を繋ぎ、走って、走って、走り続ける。 そのショットが最高に美しく多幸感に満ちていた。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-01-28 20:09:54) |
183. ハリー・ポッターと秘密の部屋
前作より少しダーク寄りになり、子供向けな演出が少し角が取れた分、頑張ればギリギリ大人でも視聴できるかも。 ワクワクさせる新キャラ、新要素が続々と登場して、長時間な割に退屈はしなかったけど、記憶がほとんど残ってない… [映画館(字幕)] 5点(2023-01-23 21:45:53) |
184. 七人の侍
《ネタバレ》 遠い昔に見た。 音声が聞き取れなかったので、字幕にして何となくは理解できた。 改めて思えば、アメリカ西部劇のプロットそのままだったりする。 (だから後の『荒野の七人』として上手くリメイクできたわけ)。 娯楽映画としての要素を全て揃えており、今見ると流石に古臭さはあるものの、 この泥臭さと洗練されてなさが人間の立体感を浮き上がらせている。 動と静の緩急が上手い。 村に平和を取り戻したものの自分たち侍を"負け戦"と称する、 儚さと寂しさと悲哀が漂うエンディングはアメリカでは作れない味わい。 時代の移り変わりに順応できない侍たちは死に場所を求めていたのではないか。 [DVD(邦画)] 8点(2023-01-23 21:37:00) |
185. FLEE フリー
《ネタバレ》 出演者の安全と匿名性を確保するためにアニメーションにする手法は、 アリ・フォルマン監督の『戦場でワルツを』を思い出す(参考にしていたらしい)。 双方ともアニメでワンクッション置くことで、"虚構"が入り混じり、私小説を読んでいるような感覚になる。 カクカクな動きもまた、不確かな記憶という映像の中で想像の余地が広がっていく。 難民を扱った映画は数多くあるが、本作では同性愛者という二重の苦悩を抱えている点である。 国によっては"存在しない"扱いになっており、自分らしく生きられることがどれだけ尊いことか、 先進国で生まれ育った人にはなかなか実感できない。 家族と再会後にゲイと告白し、長兄がゲイクラブに連れて行ったエピソードが印象深い。 ソ連崩壊直後の難民としての生活、そして彼らに対する扱い方は現代の日本でもそこまで変わらない気がする。 もちろん弱者の味方のフリをしてシノギとする団体がいて、不信感として向けられていることは否定できない。 綺麗事だけでは人を助けられない、余裕がない国ほど反動で排他的になるのは仕方ないにしても、 日本もアフガンやウクライナになったらどうするか想像力を巡らしたい。 一般人が国を守るために武器を持って戦うみたいなこと、イザとなったら何もできないから同じ難民になるだけかと。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-01-21 21:24:39) |
186. 漁港の肉子ちゃん
《ネタバレ》 公開時、キャッチコピーで炎上していたが気持ちは分かる。 吉本興業と明石家さんまが関わっているだけあり、どこか偽善的でキャスティングにきな臭さは感じなくはない。 とはいえ意外にも違和感がなく、STUDIO 4℃制作なので世界観のクオリティの高さは折り紙付き。 フレンチトーストやミスジステーキ丼といった料理のディテールに本気が感じられる。 かなり重くなりそうなエピソードもコッテコテの三枚目の肉子のお陰で緩和されていた。 娘の出生の秘密についてはかなり早い段階で分かってしまうし、もう少し意外性は欲しかった。 お互いの想いを打ち明けた血の繋がらない母娘は、これからもこの漁村で終の棲家として、 前を向いて生きていくだろうと思わせる温かな人間模様。 笑いも悲しみも一緒くたに包み込んだ、ザ・人情喜劇と言ったところ。 [地上波(邦画)] 6点(2023-01-06 23:54:58) |
187. バルド、偽りの記録と一握りの真実
バルドとはチベット仏教用語で"中陰"。 「死から転生までの間の魂の浮遊期間」のことを指すという。 アメリカで成功したジャーナリスト兼映像作家のメキシコ人監督が、 祖国に戻っても居場所のない疎外感、メキシコ人としての帰属意識とアイデンティティの揺らぎ、 家族とのわだかまりを描いている辺り、イニャリトゥの半自伝的作品であることは確か。 問題はそのシンプルなストーリーを物凄く難解に(いやストーリーの繋がりすら放棄している)、 現実と空想とメタ演出が曖昧のまま、何の方向性も決まらずに単調でダラダラ描いているだけだった。 これがテレビ司会者の主人公の作品に対する批評と重なる。 要は中身がない。 拝金主義のアメリカに対する風刺やメキシコの抑圧された歴史を盛り込んでも、 知ったところで何の感慨もなかった。 オスカーを4個も取って、「本当の俺はこうではない」とモヤモヤした部分はあったのだろう。 ネットフリックスだからこそ好きなように撮られたそうだが、受け入れられるかは別の話。 (事実、ヴェネチア映画祭で初公開時不評だったようで、劇場公開時に結構削ったらしい)。 金をかけた同人映画の域でしかなく、イニャリトゥのワースト。 [インターネット(字幕)] 3点(2023-01-02 23:49:43) |
188. ライオン・キング(2019)
原作のアニメ版は遠い昔に見たまま。 記憶がほとんど残ってないので比較できないがびっくりするほど原作そのままで、 ディズニーらしいポリコレが一切入ってないのは評価できる。 CGも実写とは見分けがつかない、映像の驚異的な進歩には目を見張っても、 人間社会と同じように高度な会話やミュージカルパートで皮肉にも浮いてしまった。 百獣の王という宿命故の食事事情とかどうするのよ。 無理に"実写化"する必要があったのか、それだけディズニーのネタ切れが凄まじい。 [地上波(字幕)] 5点(2023-01-02 01:18:38) |
189. ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん
《ネタバレ》 探求心の強いおじいちゃん子な少女が、北極点に行ったまま行方不明になった祖父とその船を探す旅路。 貼り絵のように輪郭を排した柔和な絵柄と厳しい環境で突き進むストイックさのコントラストが印象的。 クルーとの恋愛といった余計なドラマは一切なく、極限状況下の諍いがリアル。 最後までロマンチックの欠片のないハードさだからこそ、目的を果たしたサーシャの笑顔が光る。 ちなみに放映したものだと後日談を描いたいくつかの静止画とクレジット後の動画がカットされているという。 あれを載せてまでが一本の映画なのに、教育テレビは何考えているのか。 [地上波(字幕)] 5点(2023-01-02 00:57:52) |
190. 雨を告げる漂流団地
《ネタバレ》 ノスタルジーとジュブナイルとサバイバル。 情緒不安定で話を拗らせるヒロインから逆算して描いたような脚本なので、 人によってはかなりフラストレーションが溜まる。 また、いろんな要素と伏線を詰め込みながらも収束しないまま右往左往に展開し、 120分の上映時間が活かされていない気がする。 終盤の展開なんてヒロインが余計なことをしなければ終わった話だし、 建築物の擬人化である・のっぽが結局何をしたいのか分からなかった。 時代と共に朽ちていくことを受け入れているのに、実は過去に囚われており、 一人逝くのを決心できないまま、6人を身勝手に巻き込んでいるように見えた。 主人公組はともかく4人は完全に巻き込み事故でしょ… 盛り上がるためだけに存在している補欠みたいな感じ。 過去と思い出の場所に別れを告げて、子供たちが成長する話には弱いし、 設定とメインキャラ(ヒロイン除く)は魅力的なだけに、 話はつまらなくはないが、大量の混在した要素を整理していれば佳作にはできただろうに。 キャラデザの良さと世界観にマッチした主題歌・挿入歌に+1点です。 [インターネット(邦画)] 5点(2023-01-02 00:28:04) |
191. ANIMA
《ネタバレ》 ポール・トーマス・アンダーソン色はなく、ほぼレディオヘッドのミュージックビデオの趣が強い。 ひたすら前衛的で、疲れ切った労働者たちの渇望を白昼夢として表現している。 長い長いトンネルの中で足掻き、生きている、人間らしい至福を求めようとする。 深読みすればいくらでも深読みできるが、何を求めているかで意見が分かれる。 確かに撮りたいものを撮れるネットフリックスでしかできない。 とは言え、PTAがメガホンを取らなくても、 有能なクリエイターなら同様の世界観作れるのでは?と考えてしまった。 [インターネット(字幕)] 4点(2022-12-31 23:40:58) |
192. アテナ
《ネタバレ》 スラムのアテナ団地で移民の少年が警察に殴殺されたことをきっかけに一部の住民が暴徒化。 被害者の兄にあたる、ギャングの長男(中立側)、機動隊の次男(体制側)、暴徒を束ねる三男(反体制側)の すれ違いの果ての悲劇を描くネットフリックス映画。 『レ・ミゼラブル』(2019年)を手掛けたラジ・リが製作・脚本に関わったことだけあり、 そのクライマックスを一本の映画にした感じだ。 どう撮ったのかと驚嘆する警察署襲撃から団地にバリケードを構えるまでの冒頭の11分の長回しに引き込まれるが、 それ以降のドラマ自体は薄く、話が一本調子で誰にも共感できないのである。 不安と憎悪がSNSによって増幅され、客観的に物事を見れなくなって、「まあ、そりゃそうなるよね」な分かり切った展開。 扇動によって得しているのがいったい誰なのかが最後に明かされる。 これがフランスの現実だとは真に受けないが、 僅かなトラブルでも誰もが彼らのように怪物になりえる可能性があるということ。 映像表現としては一級(監督は社会派映画の巨匠コスタ=ガヴラスの息子とのこと)。 冒頭のシーンで+1点がやっとだろう。 [インターネット(字幕)] 5点(2022-12-24 21:46:30)(良:1票) |
193. ホーム・アローン2
《ネタバレ》 前作同様、やってることは変わらないのでインパクトはそれほどでもない。 ただ、前作を覚えていると楽しめる要素はあるので、それなりに暇潰しにはなる。 そもそも色んな悪戯を仕掛けられるケビンの賢さなら行き違いで迷子になっても、 空港に留まって連絡すれば家族と再会する手もあっただろうに。 そんなことしたら映画として成立しないし、無理矢理作らされた感は否めないかな。 タイトル詐欺も良いところ(工事中の空き家を使っているからセーフ?)。 多くの人が指摘しているように泥棒コンビが前作以上にこれでもかと痛めつけられ、 笑えるかどうかというあたりレビュアーの時代の変化を感じさせる。 フィクションと言えばそれまでだけど、普通は死にます。 [地上波(字幕)] 6点(2022-12-23 23:35:17) |
194. 天使にラブ・ソングを2
前作に比べたら明らかに質は落ちるが、それでも面白さは一定に保たれている。 やはり歌のパワーは凄いと改めて実感できる反面、ラストを描きたいがための強引でご都合主義な展開が鼻につく。 それでも描きたいなら生徒の個性や心の揺れ動きにもっとフォーカスして欲しかったと。 前作みたいに正体がバレたら生命の危機というサスペンスもなく、 デロリスことウーピーでなくてはならないというストーリーではないのが一番痛い。 [地上波(字幕)] 6点(2022-12-23 23:16:24) |
195. ギレルモ・デル・トロのピノッキオ
《ネタバレ》 原典とディズニーアニメへのリスペクトを散りばめつつ、ギレルモ・デル・トロなりの解釈を加えた、 "ピノッキオの冒険"というよりは"ピノッキオの数奇な人生"に近い。 戦争と死が身近にあったムッソリーニ政権下のイタリアで、 ピノッキオは時代に翻弄されながら権力と運命に屈せず、自分の意思で試練に立ち向かう。 しかも彼は死んでも待機時間と称して、時間が経てば何度も生き返ることができる。 つまるところ、限りある生を持った人間とは違い、永遠の命を持つことの意味を彼は知ることになる。 我々が知っているピノッキオは最後は人間になるが、本作では木の人形の少年のままだ。 ハッピーエンドになっても、いつかは死という永遠の別れが訪れ、ピノッキオ一人が残される。 冒険を通じて、様々な通過儀礼を経験した彼は新たな旅に出て、その先の物語をどのように紡いだのだろうか。 寂しげで儚い終わり方であり、逆説的に言えば、 ピノッキオではない人間はたった一度の生を如何に生きるかを問われていると言える。 国家に言われるがまま、少年兵として散っていくのか? ストップモーションによる表現力もさることながら、隅まで行き届く美術を堪能。 とは言え、友情を育んだ市長の息子の消息が不明のままで、 終盤の興行師との"再会"が偶然すぎたりと、脚本的にもう少し何とか出来たと思うが。 ユアン・マクレガーによる主題歌は必聴。 すごい歌唱力だ。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-12-10 02:02:50) |
196. 人類遺産
アマゾンプライムで配信されていたので視聴。 音楽もナレーションも説明の字幕もなく、果ては人間すら登場しない。 固定カメラでかつての人の営みがあり、やがて廃れていった建造物を切り取る。 置き去りにされ、朽ちていく建造物はあまりにも寂しげであり、かつ詩的で退廃的な美しさを醸し出す。 音楽の代わりに雨の音、風の音、波の音、動物の鳴き声が音響の要として大きく際立つ。 伝えたいメッセージがあるわけでもない。 ただ、そこに何があったのか想像をかきたてる。 原発事故で時が止まったままの福島の帰還困難区域もそう。 確実に眠気に誘われる映画かもしれないが、 映画を見る体力も残ってないときでも気軽に見れる映画でもある。 そのまま彷徨い、力尽きるまでフレームの中で旅してみたい。 [インターネット(字幕)] 5点(2022-11-28 23:00:48) |
197. 劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン
《ネタバレ》 このアニメに関する知識はテレビ版の総集編と外伝を見た程度。 劇場版だけ見ると消化不良になるのは確実なので、最低でもテレビ放映分は抑える必要がある。 ヴァイオレットが行方不明になった恩人のギルベルトを探すエピソード。 余命いくばくもない少年の代筆を引き受けるエピソード。 50年間、誕生日に亡き母から手紙が届いた少女の孫娘が、ヴァイオレットの足跡を訪ねるエピソード。 3つのエピソードが同時進行で展開していき、 先の見える顛末を細かい描写の積み重ねで感動に導く巧さは流石といったところ。 特に死の直前の少年と友人のくだりは確実に止めを刺しに行くレベルに達している。 とは言え、その3つのエピソードが単独同然で終わり、一つに収束するにはあまりにも弱すぎる。 結局、どれをクライマックスにしたいの?という気持ちになる。 単純にヴァイオレットとギルベルトの話だけで良いのでは? 離れた想いを届ける手段が手っ取り早い電話に代わっていき、手紙は時代の流れで廃れていく。 それでも文字が、文体が人の心を震わせるのが手紙の魅力だろう。 多くの人の想いを届けたヴァイオレットは、ギルベルトへの想いが成就し、最後は"人形"から"人間"になれた。 そのシーンが素晴らしかっただけに、複雑な構成は要らないと思った。 [地上波(邦画)] 6点(2022-11-26 00:26:17) |
198. 華麗なる晩餐
《ネタバレ》 人の欲望に底はない。 絶滅危惧種の動物を使ったあらゆる肉料理を汚く貪る富裕層。 床の底が抜けて埃まみれになっても貪り、 理性が崩壊して料理を奪い合い、幾度も底が抜けてどこまでも落ちていく。 彼らをもてなす給仕係不在の世界に何が待っているのか… 「それはあなたが御存知なのでは?」と見透かしたように眼で語る給仕長。 食卓に並ぶ肉でさえ、誰かが屠り捌かないといけない。 上に立つ人ほど謙虚さを持ち、限られた資源を上手く活かしていく。 ただ、痛烈な風刺ほど上の人には届いていないようだ。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-11-18 23:56:22) |
199. グッバイ、レーニン!
《ネタバレ》 息子が母のためにつき続けた"優しい嘘"。 外から見れば、東西統一のドイツは希望と共栄の象徴のように見えるが、 東側の当事者からしたら社会システムが大幅に変わり、職を失い、落ちぶれた人もいた。 反体制寄りの息子が気付けば東ドイツに肩入れしている様は皮肉とも言える。 2020年代、氾濫し押し付けてくるSNSのプロパガンダにうんざりしつつも、 片や本作における当時ならではのアナログな手法で誤魔化す辺りは可笑しくも切ない。 歴史の真実も息子の嘘も知りつつも、母は"こうあって欲しかった歴史"を受け入れていく。 「見たいものしか見ない」という分断が現代社会の陰影を濃くさせていく。 ただ、一番必要なのは巨大な存在に身を委ねない個人の器の大きさそのものだろう。 母の死により家族ははじめて一つの時代の終わりを迎えられた。 東ドイツ時代の郷愁を胸に、山積みだらけの問題を抱えながらも彼らは新しい時代を生きていく。 タイムスリップしたかのように『マトリックス』のTシャツを友人が着ているサービス精神といい、 『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』を見てると楽しめる小ネタあり。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-11-13 23:54:43) |
200. キャメラを止めるな!
《ネタバレ》 ミシェル・アザナヴィシウス監督はかつて007のパロディ映画を撮ったり、 サイレント映画へのオマージュ『アーティスト』でアカデミー賞を受賞するなど、 映画についての映画を描いてきたのに、リメイク版ではそれが上手く活かされていない。 思うに保守的で思い切りの良さに欠けている、オリジナリティがなかったことが露呈されている。 オリジナルを見ている人は仕掛けを知っているわけで、 「日本でヒットしたゾンビ映画(劇中劇)のリメイクを撮る」というコンセプトの中で新しい仕掛けを期待していたはず。 やっていることはオリジナルの設定と物語をなぞっているだけで、リメイク版で変更・追加した部分が空回りしていた。 これが作品のテンポと切れ味を鈍くしている。 家族ドラマとしても希薄だ。 仏実写版『シティーハンター』のスタッフだったら、オリジナルを尊重しつつも革新さを出せたかと思うと残念。 いっそのこと、韓国リメイクやハリウッドリメイクも作って、 シリーズに登場してきた俳優たちが一堂に会する展開くらいは欲しい。 [インターネット(字幕)] 4点(2022-11-12 22:15:29) |