21. 鍵泥棒のメソッド
《ネタバレ》 ヤバい芸能人として名をなす(?笑)香川と広末という取り合わせが絶妙ということに、今や結果的になってしまう。硬直気味だった広末がついに自然な発露で香川と抱擁するシーンは、作品の構成としてよくできている。初見では机上のごちゃごちゃした設計感が多少あるが、見直す(そのつもりだ)とよりシンプルな、人物たちの本当らしい内実ある掘り下げを確認できるだろう。 [DVD(邦画)] 8点(2025-06-30 23:10:15) |
22. キートンのカメラマン
《ネタバレ》 数あるギャグの中でも、絶対に彼女と合流すべく、キートンが圧倒的に駆けて、何の障碍も無かったように涼しい顔をして(いつものポーカーフェイスをさらに涼しくして)目的を達成するというギャグ、これが最高。内容的には、体躯も態度もデカい邪魔者に小柄なキートンが打ち勝つという毎度のパターンのカタルシスが素晴らしい。映画上映ということを扱う『キートンの探偵学入門』(これももちろん名作)と並んで、映画撮影ということがテーマの本作とで、見事な「映画の映画」コンビなのである。 [インターネット(字幕)] 9点(2025-06-29 22:44:42)《更新》 |
23. ブロンコ・ビリー
《ネタバレ》 イーストウッドにしてはたいへん盛りだくさんな感じ(通常はチョイチョイとコンパクトに作品をまとめてしまうような印象?)なのは、昔の作品だからなのであろう。ところで野暮を承知で言うなら、たとえ逆説的であってもあの雨の中の大説教シーンを作りたがるのはケシカランと思う。ああいう独裁の「恐怖政治」にシビれる臣民の「どM」な感性を誰もが即刻卒業していかなければならないのに。小さなコンミューン運動がリーダーの専制になりがちなのはあの80年代に限ったことではない。 [DVD(字幕)] 6点(2025-06-28 22:07:51)《更新》 |
24. コントラクト・キラー
《ネタバレ》 ジャン・ピエール・レオは、忙しく饒舌な割には筋への影響力の乏しい役柄が多そうだが、それとは真逆なのが、寡黙で無表情にみずからの死に向き合うこの作品。その同じ無表情が、カノジョの出現に温むように見えるのが、クレショフ効果のよう。じわり映画の構造自体にある愉しさなのである。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-28 14:38:06) |
25. グレン・ミラー物語
《ネタバレ》 筋には通常、嫉妬、対立、裏切り、離反等々のネガティブな因子が随所に仕掛けられて、その克服のうねりに観客は不可抗力的に翻弄されるわけだが、この映画は、ほんとうに仲のいい夫婦のハナシだけのことで、起伏には乏しい。そういう映画もありなのだ。音楽がしみじみ良い。 [DVD(字幕)] 7点(2025-06-27 22:20:19) |
26. 人情紙風船
《ネタバレ》 入り浸っていた薄暗い『京一会館』(ローカルな話題で恐縮だが、今はなき名画座in京都)で、あの冒頭の暗い雨に続く眩しすぎる「陽光」にまず瞠目した(そもそも映画館の中の晴天は眩しい)。そして二人の主人公のそれぞれの物語が進行し、やがて次に雨になる時、この二人の主人公にそれぞれ決定的な局面が訪れる。能動的な髪結はのっぴきならない行動に出るし、他方受動的な浪人は士官の道が閉ざされ雨の中に立ち尽くす。その翌日のまた晴れた「陽光」のもと、二人の主人公は、この映画で唯一、同じ画面の中に入る(喧嘩で啖呵を切る髪結の姿と、それを縁側伝いに眺める浪人)、これがなんともいいのである。因みに、中国での小津安二郎とのツーショットが残されている、鬼才山中貞雄の早逝悲しすぎる。 [映画館(邦画)] 10点(2025-06-27 16:08:20) |
27. あなただけ今晩は
《ネタバレ》 筋のキモは、存在しない人物になりすますことが、その存在しない人物に嫉妬することになったり、やがてその殺人犯にさえなってしまう成り行きである。その存在しない人物を殺していない証明はなかなかにムツカシイのである。実は存在してもいた?というラストシーンのイタズラもまたドキッとさせる。とにかく力作だ。洒落も活劇もすべて大変真剣な熱量だ。 [DVD(字幕)] 7点(2025-06-26 22:48:00) |
28. ラスト・シューティスト
《ネタバレ》 ジョン・ウェインはまさにガン(核実験の西部を仕事場としたためにという説もある)でなくなったのだった。西部劇の殉教者なのである。それはそうと、シブくまとまったいい映画である。ローレン・バコールは良い役だが、これぐらいの気位の高さは持ち前だったのだろう。赤狩りの時の姿勢でわかる。 [DVD(字幕)] 7点(2025-06-24 22:10:31) |
29. イースター・パレード
《ネタバレ》 中期アステア40年代。盛りだくさんな、立派なもの。ジュディー・ガーランドは歌声良し。ダンスシーンは当然ながら正面性(舞台劇の枠組み)を離れないが、観客席をも見せるこのミュージカルは徹底的に映画なのだと告げている。そういえば、通常スピードのバックダンサーの前のアステアの動きだけがスローのシーンは、ステッキの存在がなければ、スローの演技を信じてしまうところだ。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-24 07:36:33) |
30. ナイアガラ
《ネタバレ》 生きていたジョセフ・コットンがマリリン・モンローを追いかけるクロス・カッティングのみを問題にしよう。観客をハラハラさせて引っ張り込むこの追いかけの並行編集という技法は、まさに当のフィクションの登場人物たちを呑み込む罠である。誇張を承知で言うのだが、この技法が、ベルトコンベアのごとく人物(ジョセフ・コットン)の理性を押し流す、復讐の殺人へと。ほんらい「普通に」妻を告発して投獄するという手があってそのほうが自らは無傷でいられるところだ(笑)。 [ビデオ(字幕)] 7点(2025-06-22 22:54:23) |
31. オットーという男
《ネタバレ》 駅のホームの線路に人が落下、のシーンで、みなが救出よりもスマホの撮影の方に気を取られるのはアイロニカルだし、youtubeのチャンネルもどきによる実況中継シーンというのも今日的。というわけで、何やら古めかしい感じのハナシが今日的なSNSの問題とコラボ。 [DVD(字幕)] 6点(2025-06-21 23:26:21) |
32. 白昼の通り魔
《ネタバレ》 「恋愛は無償」という小山明子のごもっともの台詞が耳に残っている。この作品世界において、戦後民主主義のひ弱な部分が思い切りシゴキ直される感じだ。正しく美しい題目だけでは、弱い。実質的な力が必要だということ(どんな力?)、それには工夫が要るにしても(どんな工夫?)。とにかく「全体」の圧力をできるだけ押し遣って、なんとか個々人の視点や事情を打ち出していくことを諦めてはならない、とは、大島映画の最後の最後に残る読み方だと思う。 [映画館(邦画)] 8点(2025-06-21 17:41:11) |
33. あいつと私(1961)
《ネタバレ》 鬼才中平康の裕次郎映画である。浮ついた日活青春映画の枠を脱していないな、とか、裕次郎は滑舌が明瞭ではないな、とかは、やはり感じるものの、そこは中平、あの嵐の中のキスシーンの描き方などは特に巧妙である。大島『日本の夜と霧』の後で60年安保を扱ったシーンを撮るとは、大変な勇気(?)だが、中平という監督はほんらいそのくらいの志のある人だったのだろう、『その壁を砕け』(1959)とか。 [DVD(邦画)] 7点(2025-06-20 22:41:53) |
34. 東京戦争戦後秘話
《ネタバレ》 木が風にかすかに揺れている。それだけの映像を映画館で見るのが極上の気分である。そういう受容がこの時代の映画にはあった。政治の季節が一段落して、個々人が内的アイデンティティの模索へと突き返される時代の映画受容。大島映画はジェンダー論的に現在の鑑賞に耐え得ないところがあるのが惜しいが、その70年代初頭までの映像的凄みは今も圧倒的。 [映画館(邦画)] 8点(2025-06-20 08:49:53) |
35. 恋の十日間
《ネタバレ》 アステアの添え物ではなく、独立して、役者としての成熟を目指していったジンジャー・ロジャーズが見もの。ダンスシーンが少しあって観客としては興奮しかけたが、たんなる社交ダンスだった。やはり彼女の本格的な軽快なダンスを見たい気になった。ところで、戦時中の作品であり、厭戦的な表現(影あるジョセフ・コットンを配して)が可能であるのは、アメリカの余裕(日本では考えられないこと)。敵国「ジャップ」の挿入されるイメージ画像が人間以前の醜い獣の姿で衝撃的だが、同じく日本の側からは「鬼畜米英」だったのだ。 [DVD(字幕)] 6点(2025-06-19 23:01:23) |
36. バンド・ワゴン(1953)
《ネタバレ》 ちょっとこれはなんだかゴチャゴチャしているのが(ハナシの構造上やむなし)惜しい(だからか、のちの『絹の靴下』はスッキリまとまっている)。とはいえ、シドはいい、不思議に切ない気持ちにさせるのはなぜなのだろう。あの細いウエストと、ダイナミックな動きのかねあいが。 [DVD(字幕)] 6点(2025-06-17 21:46:05) |
37. 静かなる男
《ネタバレ》 まあ単純に楽しめばいいのだろう、歌あり踊りありのインド映画のようにロマンティックに。ロマンティックとはこの場合、それが束の間のことであっても、近代的個人が共同体との和合を回復し、孤独を解消するようなことである(ジョン・フォードにとっての「故郷」アイルランドへの帰還)。が、敢えて無粋を承知で言うなれば、これはまさにホモソーシャルな三角形の見本のような映画。「女性の交換」をめぐり、みずからすすんで瑕疵のない交換物たろうとして持参金にプライドをかけて固執する花嫁、この花嫁を挟んで対立する花嫁の兄と花婿。やがて、マッチョな「暴力」を介した男同士の相互承認関係で「ハッピーエンド」。あくまで男社会の支配なのだな。 [DVD(字幕)] 6点(2025-06-16 21:39:07) |
38. コット、はじまりの夏
《ネタバレ》 原題が The Quiet Girl、明らかに、同じくアイルランドを舞台にしているフォードの有名作『静かなる男 (The Quiet Man)』に因んでいるのだろうから、『静かなる少女』という邦題でいけただろう。満点の映画だが、このザンネンな邦題と、ラストシーンが事の重大な成り行きを敢えて放置していることで、一点減点。キャメラが美しく無駄なく(多い省略も有効)、俳優陣も瑕瑾なし。主演の少女のまさに抑制の効いた演技には、濱口竜介ふう演出の良きものを感じる。本当にいい映画だ、あの乱暴な『静かなる男』なんかより遥かに。比較ついでに、少女もの比較で『ミツバチと私』(2023)を参照すると、いかに『コット、はじまりの夏』の画面に快い緊張が溢れているかが感得できる。 [DVD(字幕)] 9点(2025-06-15 21:26:03) |
39. トップ・ハット
《ネタバレ》 あの『マダムと女房』の如く、冒頭から、サイレンスの要求とそれに対する騒音(タップの!)の挑発というかたちで、もはや遅ればせながらもトーキー化を高らかに宣しているのであろうか。何にも縛られない「自由」を口にしながら気ままに踊り出すアステアの音(タップと音楽)と共にある身体は、トーキー映画の意欲的な前途そのものを告げる。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-15 09:52:17) |
40. 晴れて今宵は(1942)
《ネタバレ》 鎧姿が一瞬出てきて、極めて当たり前ながら、それとは逆のミュージカルのしなやかな身体性を浮き彫りにする。この身体性と音(音楽)のコラボが、かつてトーキー化の必然性の後押しをしたのだった。リタ・ヘイワース、頑張ってるなぁ。踊れるフィルム・ノワールの女、なのである。 [DVD(字幕)] 7点(2025-06-13 21:51:51) |