21. オペレーション・フォーチュン
《ネタバレ》 英国諜報部の凄腕エージェント、フォーチュンとその仲間たちの世界を股にかけた大活躍をゴージャス&エレガントに描いたスパイ・アクション。人気俳優ジェイソン・ステイサムが主演、肩の凝らないエンタメ映画を幾つも撮ってきたガイ・リッチーが監督を務めたという本作、観る前から予想した通りの超王道作品でしたね、これ。良く言えば最後まで安心して楽しめる娯楽大作、悪く言えば新味のないいつものような内容のマンネリ映画。確かに何も考えずに最後までぼちぼち楽しめましたけど、さすがにこれまでと同じようなストーリー&アクションシーンが多すぎて僕は後者の印象の方が強いかな~~。この作品ならではという目新しい部分が一つくらい欲しかったところ。とは言え、ジェイソン・ステイサムのアクションは相変わらずキレが良かったし、天才ハッカー美女をはじめ仲間たちも華があって魅力的だったし、ヒュー・グラントとジョシュ・ハートネットのまるで漫才のような掛け合いも楽しかったしで、そこら辺はまあまあ楽しめました。結論。良くも悪くも3日で記憶から消え去りそうな薄味エンタメ映画でございました。 [DVD(字幕)] 6点(2025-02-07 08:56:37) |
22. ウォンカとチョコレート工場のはじまり
《ネタバレ》 あの摩訶不思議なチョコレート工場の支配人ウィリー・ウォンカが帰ってきた!!カラフルでマジカルでとっても美味しそうなお菓子に苦みの効いた一片の毒を盛り込むあの天才ショコラティエに待望の続編登場、と言ってもこれは彼がまだ工場を造る前、駆け出しの若手職人だったころのお話。ロアルド・ダールの有名な児童文学を原作に天才映像作家ティム・バートンが創り上げた名作『チャーリーとチョコレート工場』が大好きだった自分としては、やはり外せないなと今回鑑賞。とはいえ、実は自分、そんなに期待してはいなかったんですよ、正直。だって監督が僕が大嫌いな『パディントン』を撮ったポール・キングだったから。あの毒にも薬にもならない、ただただ家族で安心して楽しめるほのぼのファンタジーに、「子供は親のゆうことをよく聞くように」みたいな説教臭いメッセージを織り込む作風がすんごく嫌いでした。ティム・バートン版のような、いけ好かない子供はチョコの海に溺れさせたりまん丸に膨らませたり焼却炉に放り込んだりしてた毒の塊のようなブラック・ユーモアはどこへやら。本作も『パディントン』と同じく家族で安心して楽しめるほのぼのファンタジーに仕上がっておりました。でも……、超一流のメンバーをそろえて制作されたであろう本作、ここまで徹底的にエンタメに徹して創られるとちょっと圧倒されますわ~。イントロを聴いただけでワクワクが止まらない音楽に一糸乱れぬダンスアクター、細部まで徹底的にこだわって造られた独自の世界観、そしてウォンカをはじめとする魅力的なキャラクターたち……。今回もやはりそこまで好きにはなれなかったけど、ここまでエンタメ映画としての底力を見せつけられると素直に脱帽です。悔しいけど、この監督の実力はやぱ確かなんでしょうね~。うん、負けました!7点!! [DVD(字幕)] 7点(2025-02-05 11:50:30) |
23. 僕らの世界が交わるまで
《ネタバレ》 彼の名は、ジギー・キャッツ。毎週末、自身の動画チャンネルで生配信を行い、投げ銭で小銭を稼ぐのが生きがいの普通の高校生だ。アコースティックギターを手に自分の率直な想いを歌い上げる彼の動画は世界中に2万人のフォロアーを持ち、遠く離れた中国にもファンがいる。もはや自分はいっぱしのスターなんじゃないか。学校では地味な存在で特に人気者でもないけど、待ちわびているだろうファンのために今夜も彼は狭い自室から世界に向けて歌声を披露している――。DV被害から逃れた女性や子供のためのシェルターを運営する彼の母エヴリンは、そんな息子に呆れながらも社会的弱者の為に忙しい毎日を過ごしている。夫や家族からの暴力に傷ついた人々を救うという崇高な目的に日々忙殺される彼女の楽しみは、大学教授の夫が提供してくれる安定した家でそこそこ豪華なディナーとワインをたしなむこと――。お互い充実した人生を満喫していると信じ込んでいるそんな親子だったが、最近何か物足りないものを感じているのも事実だった。こんなに頑張ってるのに、なんか社会は自分を過小評価してるんじゃないのか。そんな思いに捉われた2人は、ある日偶然知り合った自分とは全く価値観の違う人を振り向かせようと暴走してゆく……。人気俳優ジェシー・アイゼンバーグが初監督を務めたという本作は、そんな意識高い系親子をコミカルに見つめた青春ドラマでした。やりたいことは分かるし役者陣のナチュラルな演技も好感持てるしポップな世界観も楽しいしでけっして悪くはないんですけど、僕はいまいち嵌まれなかったですね、これ。理由を考えてみるに、この親子があまりに自己中過ぎてそこまで感情移入できなかったのが主な原因かな。「こーゆーよくいる承認欲求強めの人、周りから見たらバカみたいだけど、なんか憎めなくてほっとけないよね」とはならなくて、「ここまで自意識過剰だとさすがに鬱陶しすぎて、自分の周りにいたら真っ先に距離取りたいわ~」となっちゃいました。特に後半、息子が同級生の詩に曲をつけた歌を勝手に動画配信に使って、「僕のフォロワーに評判良かったよ」って自慢気に言ってきた時はさすがにキレそうになったわ。シェルターの貧しい青年に自分の理想の息子像を無理やり押し付けようとする母親もかなり胸糞悪いし(演じたジュリアン・ムーアが上手すぎてもう!笑)。ラストの尻切れトンボ感も大いにマイナス。全体的な雰囲気やポップな音楽などはけっこう良かったので、次作に期待ってことで。 [DVD(字幕)] 5点(2025-02-05 10:54:06) |
24. ロスト・フライト
《ネタバレ》 それはいつものように平凡なフライトになるはずだった――。シンガポール発東京行きのLCC航空の旅客機。新年を明日に控えた大晦日の夜、14人の乗客を乗せたその機体はいつものように空港を出発する。このフライトを終えたら休暇を取り久しぶりに娘と会う予定のトランス機長のもと、当初は順調に航路を進んでいた。たがフィリピン上空に達したところで予期せぬハプニングに見舞われるのだった。激しい嵐に巻き込まれた機体が運悪く落雷に遭い、なんとすべての電源が落ちてしまったのだ。トランス機長の咄嗟の判断で何とか胴体着陸に成功した飛行機。だが、そこは政府の力も遠く及ばない反政府ゲリラが支配するジャングルの真っ只中だった。飛行機は電源が落ちてしまって飛ぶことは出来ない。このままここに留まっていれば、身代金目的のゲリラに捕まり命の危険にさらされることは明らか。責任を感じたトランス機長は、偶然同機で護送中だった犯罪者で元軍人の男とともに、助けを求めて険しいジャングルをゆくのだったが……。嵐に遭いジャングルへと不時着してしまった航空機の機長やCA、そして乗客たちの決死の脱出劇をノンストップで描いたサバイバル・アクション。主演を務めるのは、男臭い演技には定評のあるジェラルド・バトラー。もうお話をちょっと聞いただけでどんな内容なのかほとんど分かるような超ベタなお話なのですが、エンタメ映画としてのポイントはそれなりに押さえられており、自分はそこそこ楽しめました。当初は順調と思われていたフライトが一転、今にも墜落する危機的状況に陥ってしまう機内の緊張感とか、それなりに良かったですし。その後、見ているだけで汗が滲んできそうなジャングルを舞台に繰り広げられる、凶悪なゲリラとの攻防もリアリティがあってそれなりに見応え充分。乗客の為に男気をみせるジェラルド・バトラーさんもそれなりに華があって、最後まで見ていられます。まぁあまりにもベタすぎて驚きや感動などは一切ありませんが、暇つぶしで観る分にはそれなりに楽しめるんじゃないでしょうか。って、感想の枕詞に全部〝それなり〟がついちゃうのが本作のレベルを端的に表してますね。それなりに楽しめるそれなりの映画でございました。 [DVD(字幕)] 6点(2025-01-31 12:17:13) |
25. ドミノ(2023)
《ネタバレ》 見たものは何も信じるな――。娘を目の前で誘拐され懸命な捜査にも関わらず未だ行方不明という事実に苦しむ刑事ローク。長年のカウンセリング治療の甲斐もあって、今回現場へと復帰することになった彼はさっそく強盗計画のタレコミがあった銀行へと向かう。久々にタッグを組む相棒とともに現場へと到着したロークだったが、何故か拭いきれない違和感を覚え始めるのだった。初めて訪れた現場なのに何度も来たかのような既視感、何者かに操られているような言動を繰り返す警官や行員、何もかもを知っているような目で自分を追ってくる謎の男、そして貸金庫の中には何故か行方不明となった娘の写真が保管されていた。果たしてこれはどういうことなのか。情報をタレ込んだというタロット占い師とともに娘の行方を追う彼はやがて、巨大な陰謀へと巻き込まれてゆく……。エンタメ映画界を牽引するヒットメイカー、ロバート・ロドリゲス監督が新たに挑んだのは、そんな観るものを深いラビリンスへと誘うかのような挑戦的アクション作品でございました。初っ端から理屈も状況設定もどんどんすっ飛ばして文字通りノンストップで進んでゆく、彼の円熟味を増したストーリーテリングには素直に脱帽。何が本当で何が嘘なのか、観客に考える隙も与えないまま躍動的に語られるストーリー、スタイリッシュで迫力満点のアクション、やがて明かされる驚愕の真実にただただ圧倒されるばかり。まぁ内容的には『インセプション』以来散々つくられてきた、夢と現実が曖昧となる超現実世界のお話で新味はないのですが、演出のキレの良さに自分は普通に楽しんで観ることが出来ました。特に謎が明かされる中盤の展開は、予想の範囲内とは言え、やはりワクワクしちゃいますね。途中、『インセプション』とまったく同じシーンが出てきたときはさすがに笑っちゃいましたが。惜しいのは、肝心のことの真相が明らかとなるクライマックス。さすがに大風呂敷を広げ過ぎたのか、うまく畳むことが出来てません。なんか分かったような分からないような感じで、いまいち納得感が得られなかったです。ここらへん、もう少し頑張ってほしかったかな。とはいえ、90分と尺も短いし、映像も迫力あったし、役者陣もみな華があったしで、僕はぼちぼち楽しめました。 [DVD(字幕)] 6点(2025-01-29 11:39:37) |
26. ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ
《ネタバレ》 街の郊外に佇む、潰れて荒れ果ててしまったとあるピザ店。人々から忘れられ今や酔っ払いや不良、浮浪者ぐらいしか訪れることのないこの寂れた店にはとある秘密があった。かつて子供たちから大人気だった店のマスコットキャラクターのぬいぐるみたちに何故か命が宿り、夜な夜な何も知らない侵入者たちを血祭りにあげるのだ――。幼い頃に弟が目の前で行方不明となったトラウマに苦しむ青年マイク。両親もなくし職にもあぶれてしまった彼は、まだ幼い妹を養うためになんとか自分でもできる仕事を見つけだす。それはこのピザ店をふとどきな侵入者から守るという夜間警備員。もう潰れてしまったピザ屋を守るなんて何の意味があるのか。そう思いながらも生活の為に夜になると店へと向かうマイク。だが、彼はすぐに気づくのだった。本当の脅威は侵入者ではなく、店の中にいるカワイイぬいぐるみたちだということを。人気ゲームを基に、孤独な青年と命を宿した殺人着ぐるみたちとの血みどろバトルをノンストップで描いたホラー。原作となったゲームのことは何も知らないのですが、同じゲームを基にニコラス・ケイジ主演で映画化した『ウィリーズ・ワンダーランド』がかなりぶっ飛んだ快作だったので、その流れでこちらも鑑賞。いやー、『ウィリーズ~』と比べると面白さでは雲泥の差でしたね、これ。ぶっちゃけて言うととにかくつまんなかったです!潰れてしまったピザ店で殺人着ぐるみたちと戦う警備員(掃除人?)という設定は一緒なのに、こちらは暗いだけでさして面白くもない人間ドラマをけっこう分厚めに放り込んでくるものだから、設定のバカバカしさとのギャップが半端ない。人間関係もそこそこ複雑だし、時系列も無駄にいじくっちゃってるし、意味不明な夢のシーンがしつこく繰り返されるしで、そちらに意識がいっちゃって肝心の着ぐるみとのバトルが全然楽しめなかったんですけどー。何もしゃべらないニコラス・ケイジがひたすら掃除してその合間に殺人着ぐるみたちと戦い時間になったらピンボールマシンで休憩するという、もはや清々しいくらい中身がないのにあれだけ面白かった『ウィリーズ・ワンダーランド』の素晴らしさに改めて畏敬の念を抱いた次第です、はい。 [DVD(字幕)] 3点(2025-01-29 10:40:24) |
27. イノセンツ
《ネタバレ》 とある地方都市に建てられた集合住宅を舞台に、そこに住む不思議な力を持った4人の子供たちのバトルを濃厚に描いたサイキック・スリラー。日本のSF漫画界のレジェンド、大友克洋の名作『童夢』からインスパイアされたということで今回鑑賞。てか、インスパイアどころかこれてまんま『童夢』じゃないですか。さすがにここまでおんなじだと原作なり原案なりでクレジット入れとかんとダメでしょー。自分は、『AKIRA』が全盛期だったころにその流れで『童夢』も読んだんですが、その緻密な画の力に圧倒されてかなり衝撃的で今でも思い出深い一作。観ながら、「あぁ、こんなんやったわ、懐かしい~」とはなったものの、残念ながら作品としての完成度は雲泥の差でした。とにかくテンポが悪いし、魅力的な登場人物もいないし、画も小汚いし、最後までダラダラダラダラ……。これで人間ドラマがしっかりしていれば良かったんですが、そちらもさして深みもないし、猫殺したり親が子供を刺し殺したりとただ胸糞悪いだけのシーンが延々続くし……。身も蓋もない言い方をすると、つまんない映画でした。取り敢えず、久々に『童夢』を読みたくなりました。 [DVD(字幕)] 4点(2025-01-29 09:44:12) |
28. DOGMAN ドッグマン(2023)
《ネタバレ》 不幸な者のいるところ、あまねく神は犬を遣わされる――。ある夜、冷たい雨が降り注ぐ大都会の片隅で、謎の男が警察に逮捕される。派手なメイクを施し、頭にはゴージャスなかつら、何故かボロボロになったドレスを身に纏った彼は、全身傷だらけの酷い状態だった。そして、彼が運転するトラックの荷台には十数頭にもおよぶたくさんの犬が乗せられていた。明らかに異常な事態。果たして彼は何者なのか?真相を探るため、警察はすぐさま優秀な精神科医デッカーを呼ぶことに。そうして始まった彼とデッカーとの二人きりのカウンセリング。ダグラスと名乗る彼は、煙草を吸いながらこれまでの自身の半生を語り始める。それは、にわかには信じがたい血と暴力に満ちた壮絶な生い立ちと何よりも深い彼と犬たちとの絆だった……。社会から疎外され孤独に生きてきたある一人の男と犬たちとの壮絶なドラマを濃厚に描いたピカレスク・ロマン。監督は、軽いノリのエンタメ映画を量産するリュック・ベッソン。これってアレですよね、数年前にその反社会的な内容にもかかわらず大ヒットし社会現象にもなった問題作『ジョーカー』のドッグブリーダー版ですよね。暗い部屋の一室で主人公が、派手な衣装を身に纏いながら奇抜なメイクをするシーンなんてまんまじゃん。ここまでおんなじ雰囲気&世界観だとさすがに二番煎じ感が拭えない。んで、本作の感想なのですが正直僕はさっぱり嵌まれませんでした。『ジョーカー』と比べて、良くも悪くも軽いんですよね、内容が。主人公が犬小屋に閉じ込められて育った幼い頃のシーンとか、確かにあまりに壮絶なんですけど、その後助けられてからは普通に施設で暮らして恋なんかしちゃってるし。んで、その後フラれて職も失い犬たちと暮らし始める青年期も、なんか知らん間に犬たちが人間の言葉を解するくらい優秀になっちゃってるし。自分を見捨てた社会に復讐するかのように、ほとんど虐待に近いくらいの勢いで犬たちを調教するシーンとかがあればもっと僕の心に響いたと思うんですけど……。自分を裏切り疎外しどん底へと突き落とした社会を心底憎むあまり、奇矯なメイクと怪しげなスーツを身に纏うことで悪のカリスマへと変貌する、あの『ジョーカー』の主人公が宿していた圧倒的な凄みと比べるとあまりに軽い。こればかりは好みの問題なのかもしれませんね。 [DVD(字幕)] 4点(2025-01-24 10:48:54) |
29. モアナと伝説の海
《ネタバレ》 自然豊かな南の島で暮らす、平凡な女の子モアナ。魚やココナッツなど豊富な食べ物に恵まれ、襲ってくる敵もいない、自然災害などもほとんど起きないこの平和な島で平穏に暮らしていた彼女たちの村をある日悲劇が襲う。なんと海の女神の心が何者かによって奪われ、そのせいでほとんど食べ物が採れなくなってしまったのだ――。村の首長の娘であるモアナは将来、村人たちを率いてゆく義務がある。島に残されていた伝説の船を見つけだしたモアナは、父親の反対を押し切り、広大な大海原へと旅に出るのだった。不思議な海の力に導かれるように激しい海流を越えた彼女は、なんにでも姿を変えられる半神マウイと出会い、ともに女神の心を返すために旅を続けてゆくのだが……。エンタメ映画界を牽引するディズニーが新たに挑んだのは、そんな南の島を舞台に描かれる一人の少女の波乱万丈冒険活劇でした。さすがハリウッドのトップを独走するディズニーだけあって映像と音楽は素晴らしかったです!特に、宝石のようにキラキラと輝くような海の描写は見ているだけでワクワクしちゃいますね。あの有名な歌のシーン(♪空と海が出逢うところーが~)は普通に鳥肌立つくらいのクオリティで思わず拍手!!何気に、マウイの身体のタトゥーが自由に動き回るとこも好きでした。ただ……、肝心のお話の方は……、とっても微妙(笑)。王道っちゃ王道で最初は集中して観てたんですけど、後半はさすがにベタすぎてなんかもうどうでもよくなっちゃいました。相棒のマウイが最後凄くいい奴みたいな感じで描かれてましたけど、「そもそもこいつが女神の心取らんかったら良かったんじゃね?」とか思ったり。このマウイというキャラにいまいち魅力を感じなかったのも嵌まれなかった要因の一つ。もう少し魅力的なキャラがあと2、3人くらい欲しかったかな。と言う訳で、僕が好きだった『リメンバーミー』や『インサイドヘッド』などと比べるといま一歩な感じの作品でございました。あと、あのおつむが弱いというレベルを通り越して、食欲以外の感情がないもはやゾンビのような存在のニワトリが普通に怖かったんですけど(笑)。 [DVD(吹替)] 6点(2025-01-22 10:46:42) |
30. オッペンハイマー
《ネタバレ》 オッペンハイマー。それは原爆と言う悪魔の兵器を創り出し、全ての戦争の形を一変させた科学者の名前。彼は、このまま日本と本土決戦に突入したら双方に膨大な戦死者を出したであろう第二次大戦を早期に集結させた稀代の英雄なのか、それとも何十万にも及ぶ何も知らない無辜の民を一瞬にして焼き殺した残虐な殺人鬼なのか――。本作は、そんな天才物理学者の知られざる半生を淡々と見つめた伝記映画だ。監督は同じく天才の名をほしいままにするハリウッドの寵児、クリストファー・ノーラン。3時間にも及ぶ地味で難解な内容なのにもかかわらず、同時期に公開された『バービー』とともに大ヒットを記録し、同時に評論家からの評価も高く、同年のアカデミー作品賞をはじめ主要部門を独占、だがその極めてセンシティブな内容から長い間日本公開がなされなかったいわくつきの本作を今回鑑賞してみた。なるほど、原爆をテーマとした映画にも関わらず広島長崎の被爆直後の惨状を一切描かななかったことに批判が出るのも分かる。だが、監督はそれは本作のテーマではないと敢えて描かなかったのだろう。それは、ユダヤ人であるオッペンハイマーが原爆制作の初期動機となったナチスによるユダヤ人虐殺という重要な事実も同じように敢えて描かなかったことにも表れている。この物語で重要なのは、科学と政治との切っても切れない関係を極めて冷徹に見つめたところにある。オッペンハイマー、彼は本当にただ優秀な一科学者なのだ。自分が作り出したものが世界をどのように変えてしまうのかなどと言う倫理的責任は、彼の科学的探究心の前では無に等しかった。ただただ彼は、これまでこの世界になかったものを自分の優秀な知性と類い稀なる努力とによって作り出したかっただけなのだろう。その結果、何十万人にも及ぶ無実の民が殺され、人々はいつ世界の終わりが訪れるのかという不安を抱えながら生きざるを得なくなった。彼が戦後、どれだけそのことを後悔しようともその事実は変わらない。だが、そんな科学者の存在が人間を進化させてきたのも事実。問題は、その力を政治家――およびその政治家を生み出した社会がどのように使うかなのだ。だからといって彼にまったく罪がないと言えるか。これはそんな人間の歴史を大きく変えながらも、自らもまた歴史の大きな流れに翻弄された一科学者の苦悩を深く見つめた物語なのだ。自らの才能と類い稀なる努力、そして作品に命を吹き込む俳優陣や多くの優秀なスタッフ、利益を得るために自らに投資してくれた出資者、その他多くの利害関係者に支えられながらこれまで幾多の傑作を生みだしてきたクリストファー・ノーラン監督の思いが、このオッペンハイマーと言う孤独な科学者に託されているような気がしてならない。自分の人生を懸けた最初の核実験が成功するのかしないのかを固唾を呑んで見守る彼の姿など、まるで公開初日を迎えた映画監督のようではないか。何もないところから一から作品を生み出し、その結果、多くの観客から毀誉褒貶の声を受けようとも、それでも自らの才能で映画の世界を変えてきた監督の新たなる傑作の誕生を素直に喜びたいと思う。 [DVD(字幕)] 8点(2025-01-08 07:49:58)(良:1票) |
31. デ・ヴィル家への招待状
《ネタバレ》 芸術家を目指しニューヨークで孤独に生きる若い女性イヴィー。唯一の肉親であった母親を病気で亡くしてから、彼女は天涯孤独の身となってしまった。そんな中、DNA鑑定を実施しあなたの知らない親戚を探し出してくれるというサイトを見つけたイヴィー。興味を惹かれた彼女は、自分のDNAを提出し調べてもらうことに。結果は、海を越えたイギリスに遠い親戚がいるというものだった。思わず連絡を取ってみると、なんといきなり明日行われるという結婚式に招待されてしまう。怪しいものを感じながらもイヴィーはさっそくイギリスへと向かうのだった――。辿り着いた先は、森の奥深くに幽玄と佇む豪邸だった。百年以上も前に建てられたというこの歴史ある建物に住むのは、何代も続く由緒ある貴族デ・ヴィル家。自分は高貴な血を受け継ぐ上流階級の一員だったのだ。何十人もの親戚たちに歓待され、執事や使用人にまるでお姫様のように扱われ、すっかり有頂天になるイヴィー。だが、肝心の新郎新婦だけは何処にも見当たらない。いつしか彼女は、親戚のみなが自分を物欲しそうな目で見つめてくることに気づく……。都会で鬱屈した日々を送っていた平凡な女性がある日招かれた上流社会、そこで体験する恐怖の一夜を濃厚に描いたゴシックホラー。とにかくこの細部にまで拘ったであろう、創り込まれた世界観は大変グッド。メインホールや廊下、階段に置かれたいかにも歴史を感じさせる家具調度品、手摺や窓枠に施された精巧な彫刻、各部屋に繋がる電気のない時代に作られたであろう呼び鈴……。まぁ新味はないですけど、このおどろおどろしい雰囲気はなかなか好みでした。そこに集うデ・ヴィル家の面々もみな、怪しさ爆発でちゃんとそれぞれにキャラ立ちしてるのも良かったですね。ただ、肝心のお話の方は恐ろしく普通。ぶっちゃけて言うと『トワイライト』シリーズ系のいわゆる女性向けヴァンパイアもの。とにかく最初から最後まで何処かで見たようなシーンのてんこ盛りで驚きというものが一切ない。いつも胸元はだけた白いワイシャツを着こなし、ジゴロのように主人公を口説いてくる当主の男も笑っちゃうくらいベタだし。生成AIに「吸血鬼もの映画の脚本を書いて」とお願いしたら5分で完成しそうな超ベタベタな内容でございました。さすがにもうちょっと一捻りというか、この作品ならではという新しい部分が欲しかったですね。あと、全体的に画面が暗くて見辛い点も大いにマイナス。せっかくここまで美術を頑張ってるのにすごく勿体ないです。とは言え、最後までそこそこ楽しんで観られたのは確か。暇潰しで観る分には充分及第点だったんじゃないでしょうか。 [DVD(字幕)] 6点(2024-11-15 09:34:31) |
32. シック・オブ・マイセルフ
《ネタバレ》 芸術家を目指し、都会で長い下積み生活を送る若い女性シグマ。だが思うような結果が残せず、いまだカフェでバイトしながらただぼんやりと毎日をやり過ごしていた。周りを見れば友達誰もがみんな楽しそうで、SNSでは充実した毎日を送る人がそんな自分を見せびらかしている。同棲している同じく芸術家である彼氏も、近々個展を開くことが決定している。自分だけ、どうしてこんなにも上手くいかないんだろう――。そんな思いに捉われた彼女はある日ネットで、副作用から皮膚に強い疾患が起こるという違法薬物を目にするのだった。原因不明の皮膚病を発症したもののそれでも困難に負けず活動する若手アーティスト。そんな自分をSNSで発信すれば、自分はもっと注目を集めるかもしれない。そう直感したシグマは、誰にも内緒でその違法薬物を手に入れ、密かに服用し始めるのだった……。何の予備知識もなく今回鑑賞してみたのですが、いやはや、なんとも人をイヤ~~~な気持ちにさせる映画でしたね、これ。映像はすごくキレイで洗練されていてクラシカルな音楽も品が良いのに、語られるエピソードはどれも不快感マックスなものばかり。そのギャップが人をなんとも言えない気持ちにさせる。なんなんですか、この感じ(笑)。色んなとこからモノを盗んできてそれを勝手に作品にして芸術だと言い張る彼氏も意味不明だし、犬に噛まれた人を助けた時の返り血を浴びたままバスに乗って帰る主人公も訳わかんない。人から注目集めるためだけに顔中できものだらけになった主人公が嬉々としてネットに画像をアップしまくり、後で反応を確かめてうっとりするとかシュール過ぎて…。この監督、そうやって人を不快にさせながらも何故か人を惹き付ける絶妙なラインの画作り、お話作りがすごく上手い。彼女と専属契約する障碍者専門のモデル事務所の社長が、あえて雇った目の見えない秘書をこき使うシーンなんて、そーゆーことに最近やたらうるさいポリコレ信者を爽快にぶっ飛ばしてます(笑)。んで後半、いよいよ顔面が崩壊し、もはや周りがドン引きしてるのにそれでもまだ認めてもらいたいと嘘を重ねる主人公。アホやなと思いながらも、どこかちょっと気持ちが分かるように描いてるのも良いセンスしてる。そんな中、主人公が夢見る理想の自分をときどき妄想で描くのも、このイヤ~~な感じをますます増幅してますね。この監督、性格悪すぎだわ。でも、このキレイな映像と胸糞なお話のギャップがクセになって、最後はもはや心地良くなってる自分がいました。監督はこの後、同じく胸糞映画界の俊英アリ・アスターに見出され、ニコラス・ケイジ主演でハリウッドデビューを果たしたとのこと。今度はどこまで嫌な気持ちにさせてくれるやら。胸糞映画界の新たなる才能の出現を素直に喜びたいと思います。 [DVD(字幕)] 8点(2024-11-12 11:12:16) |
33. レンフィールド
《ネタバレ》 彼の名は、ロバート・モンタギュー・レンフィールド。パワハラ・モラハラ当たり前のとんでもないモンスター上司に苦しめられる今どきの若者だ。上司からくだされる無理難題に日々心をすり減らしながら、それでも辞めることが出来ないでいる。何故なら、彼の上司は、かの有名な吸血鬼ドラキュラだからだ――。百年近く前、ドラキュラに半ば強制的に悪魔の血を飲まされ、永遠の命と引き換えに絶対服従の誓いを立てさせられたレンフィールド。以来彼は、食料となる善良な人間たちをさらってきてはドラキュラのために献上してきた。今夜も彼は、更なる獲物を求めて夜の街をを駆けずり回っている。「こんな生活もう嫌だ!」。我慢の限界に達したレンフィールドは、一大決心して召使を辞める決意をするのだった。当然、ドラキュラはそんな彼を容易に解放するわけもなく……。今も様々な分野に影響を与え続けている怪奇小説の古典『吸血鬼ドラキュラ』、その中に登場する召使レンフィールドを主人公にしたホラー・コメディ。今回ドラキュラを演じるのは、もはやB級映画界の帝王の名をほしいままにする名優(怪優?)ニコラス・ケイジ。ちゅーわけで完全なるB級なんですけど、良い感じに力の抜けた感がけっこう面白かった。なんといっても、横柄で自己チューで部下に無理難題を押し付けるとんでもないパワハラ上司なのに、何処か憎めないドラキュラを演じたニコケイがまさに嵌まり役!吸血鬼ハンターとの闘いで痛手を負った彼が、「力を取り戻すためにもっと善良な者の血を!バスいっぱいのチアガールの血があればすぐに私は復活できる!」とか言い出した時は思わず笑っちゃったよ。「出来るか!」とふて腐れながら飲み屋にやって来たレンフィールドの前に、何故かチアガールたちがバスいっぱい乗り込んできた時は、バカバカしすぎてもう爆笑。そんなご主人様に振り回されるニコラス・ホルトのヘタレ具合も負けず劣らず嵌まり役でナイスでした。切られたお腹からはらわた振り乱しながら街のチンピラたちとバトルするシーンは、適度なグロさとキレのいいアクションで終始テンション上がりまくり。特に中盤、アパートでの血みどろグチャグチャバトルは、これぞB級って感じのはちゃめちゃっぷりで思わず拍手!敵の両手を引き抜いて振り回して武器にするとか、どんな発想やねん(笑)。いやー、良いですね~、このくだらなさ。唯一の難点は、ヒロインを演じた小太りのアジア系女優が若干ミスキャストなとこかな。最後のオチもベタながら爽快感抜群!いや~~、大変楽しい90分を過ごさせていただきました。7点! [DVD(字幕)] 7点(2024-11-12 10:12:32)(良:1票) |
34. インスペクション ここで生きる
《ネタバレ》 ゲイであることを理由に、狂信的なまでに保守的な母親に捨てられ、以来何年もホームレスとして暮らしてきた黒人青年フレンチ。そんなどん底を這い回るような惨めな生活を変えようと、彼はアメリカ海兵隊に入隊することを決意する。必要な書類を貰うために数年ぶりに会った母親からは相変わらず邪険に扱われながらもフレンチは無事、海兵隊に採用されるのだった。早速始まる数週間にも及ぶ新兵訓練プログラム。厳しいしごきに耐え、日夜罵倒をくりかえす上官たちにも我慢しながら、フレンチはただ人並な人生を取り戻そうと努力していた。だがある日、彼がゲイであることがバレると上官や同僚たちの彼の見る目が途端にかわってしまい……。本作がデビュー作となる監督の実体験をもとに、ただゲイであるというだけで様々な困難に直面する一人の青年の自立と再生を描いたヒューマン・ドラマ。確かに描きたいテーマも分かるし、淡々としながらも最後まで観客を惹き付けるこの監督のセンスの良さも充分に認めるところなのですが、正直、自分はいまいち嵌まれませんでした。この映画、とにかく暗いんですよね。画も暗ければ音楽も暗いし、登場人物も暗い人たちばかりだし、主人公なんて最後までほとんど笑わない根暗の極みみたいな人で自分はまったく感情移入できませんでした。もう少し遊びの部分と言うか、人間臭いとこが欲しかった。なんだか戦争映画の快作『フルメタル・ジャケット』のハートマン軍曹のパートをひたすら真面目にリライトしたら物凄く暗くなっちゃいましたって感じかな。それにしてもベトナム戦争の時代から、アメリカ海兵隊の新兵訓練のやり方ってまったく変わってないんですね。下ネタがマイルドになったくらいで、あのランニング中の歌とかまんまじゃん。そんなわけで、アメリカ軍の内部事情――と言うかアメリカ社会のマイノリティに対する根強い偏見は未だ変わっていないという事実を告発するという点において充分価値は高いのでしょうが、自分の好みとは全く合わない作品でありました。 [DVD(字幕)] 5点(2024-11-02 10:33:02) |
35. ゴジラ-1.0
《ネタバレ》 ゴジラが特段好きというわけでもないんですけど、アカデミー視覚効果賞受賞ということで今回鑑賞。世界を制しただけあって、ハリウッド映画と比べてもなんら遜色ない迫力の映像は凄かった!日本映画にありがちな生活感を必要以上に感じさせる暗くて所帯染みたところもなく、青を基調とした映像はなかなかスタイリッシュ。特にゴジラがいよいよ東京に乗り込んできて放射能をぶちかますシーンは、鳥肌立つくらいカッコよかったです!対してお話の方は……、日本映画にありがちな生活感を必要以上に感じさせる暗くて所帯染みたところがてんこ盛り(笑)。役者陣が悪いのか、監督の演出が悪いのか――恐らく後者だろうけど、なんかみんなすんごく芝居がクサいと感じたのは僕だけなのかな。ここまで全員クサいとちょっとコント感が出ちゃって、自分はいまいち物語に入り込めませんでした。最後の無理やりなハッピーエンドもなんだかなぁ~。とはいえ前述のとおり、映像はすんごく迫力があってそこは充分楽しめましたです、はい。 [地上波(邦画)] 6点(2024-11-02 08:41:20) |
36. デスパレート・ラン
《ネタバレ》 彼女の名は、エイミー・カー。何処にでもいるような平凡な主婦だ。高校生の長男とまだ小学生になったばかりの娘と郊外の静かな田舎町で暮らしてる。ただ、その生活は決して順風満帆とは言えなかった。何故なら一家の大黒柱である夫が一年前、急な交通事故でこの世を去ってしまったから――。父親っ子だった長男ノアはそれ以来精神的に不安定となり、塞ぎこむ日々が増えてしまった。母として何とか生活を立て直そうと努力しているのだが、それでも難しい年頃であるノアとはいつも擦れ違ってばかり。その朝もノアは自室に引きこもり、学校には行かないと言って寝込んでしまった。心配しながらも日課であるジョギングに出かけるエイミー。誰もいない森の散歩道をただひたすら走り続けていたそんな時、彼女のスマホに信じられないような連絡が届く。なんと息子の通う高校で銃乱射事件が起こり、今も犯人は人質をとり教室に立てこもっているというのだ。息子に連絡を取ろうとするも何故かまったく繋がらない。すると刑事を名乗る男から電話があり、「あなたの息子さんが学校にいる」と告げられるのだった……。舞台となるのは閑散とした森の中、登場人物もほぼナオミ・ワッツ演じるこの母親一人のみ、あとはただたすらスマホで色んな人とやり取りするだけでストーリーを進行させるこの作品。思い出させるのは、『オン・ザ・ハイウェイ』や『ギルティ』などのワンシチュエーションスリラーでしょう。こーゆーほぼ一人芝居となる映画って、やはり主役となる役者の演技力がポイントとなるものですが、そこはさすが百戦錬磨の名優ナオミ・ワッツ。愛する息子を救うために奔走する母親を熱演していて大変見応えありました。最初はただ息子の安否を知るために奔走していたのに、刑事からもしかしたら犯人はあなたの息子さんかもと告げられた時の茫然自失となる姿なんか見てらんない。それでも息子の留守電に「もちろん信じてないけど、もしそうなら終わらせて……」と悲痛なメッセージを残すシーンなんて思わずウルっときちゃいました。その後、とにかく愛する息子の為にもはや暴走してしまう彼女には痛々しいと思いながらもいたく共感。ともすれば退屈になりがちお話なのに、最後までずっとハラハラドキドキしながら観られたのは、このナオミ・ワッツの熱演と監督のツボを押さえた演出力の賜物。まぁ突っ込みどころは満載ながら(朝のジョギングに8キロも離れたこんな森の奥深くまでくる?とか、容疑者の母親かもとなったらさすがに警察がすぐ迎えをよこすだろ!とか)、エンタメ映画としては充分及第点。自分は面白く観ることが出来ました。 [DVD(字幕)] 7点(2024-10-30 11:02:21) |
37. カード・カウンター
《ネタバレ》 罪を犯し、長年刑務所に収監されていた孤独な男、ウィリアム。刑期を勤めあげ、ようやく娑婆に戻ってきた彼は誰に会うこともなく、街のカジノへと足を運ぶ。時間だけはほぼ無限にあった刑務所の中でウィリアムはひたすらカードテクニックを磨き、出所後はギャンブラーとして生きていくことを決意していたのだ。人並外れた記憶力を駆使し、ブラックジャックやポーカーで着実に儲けを出してゆくウィリアム。そんな中、カークと名乗る謎の青年が彼に接触してくる。カークは、ウィリアムが刑務所に入ることになった過去の出来事――アブグレイブ捕虜収容所での虐待事件のことを話し始めるのだった。なんとカークの父も同じ刑務所での罪を責められ、以来家庭がむちゃくちゃになったという。「あんたや僕の父に罪を着せ、一人だけのうのうとのさばっているあの元上官に一緒に復讐しよう」。過去は捨てたつもりでいたウィリアムだったが、そんなカークの提案に心搔き乱されてゆく……。ノワール映画の名作『タクシー・ドライバー』の脚本を書いたポール・シュレイダー、彼が監督を務めたという本作はいかにも彼らしい重厚な作品でありました。多くは語らず、都会の夜の空気を濃厚に漂わせる映像とジャジーな音楽とで構築されたこのハードボイルドな世界観、自分はけっこう嫌いじゃない。カジノと言う華やかでありながら何処か闇を感じさせる世界で刹那的に生きる男たち……。いやー、渋い。主人公を演じたオスカー・アイザックのダンディな魅力も相俟って、なかなか見応えのある作品に仕上がっていたと思います。社会に恨みを抱き、ただ復讐のためだけに生きる青年を演じたタイ・シェリダンも負けず劣らず渋い。そんな男臭い世界の中で、主人公に思いをよせるパトロン的な役を演じたティファニー・ハディッシュの存在が良いアクセントとなっておりました。ただ問題は、肝心のギャンブラーとしてのし上がってゆく主人公の物語と復讐に命を燃やす青年の物語が有機的にうまく絡まっていないところ。特に最後、優勝を掛けたポーカーの試合を投げ打って、青年の復讐のために会場を去る主人公の感情がうまく受け取れませんでした。え、どうして今?んでウィレム・デフォー演じる元上官はなんであんな簡単に拷問を受け入れたの?ここらへんをもっと丁寧に描いてほしかった。ダークでスタイリッシュな世界観は好きだっただけに、なんとも勿体ない。 [DVD(字幕)] 6点(2024-10-30 10:43:28) |
38. ダンサー イン Paris
《ネタバレ》 怪我が原因で引退を余儀なくされたバレエダンサーが、療養で訪れた田舎町で様々な人々と接してゆくうちに次第に立ち直ってゆく姿を瑞々しく描いたヒューマン・ドラマ。何の予備知識もなく今回鑑賞したのですが、いやー、いかにもフランスって感じのオッシャレーな映画でしたね、これ。湿っぽい部分なんて一切なし、知的でエレガントな人々が繰り広げるお洒落で洗練された生活を終始キレイな映像とお上品な音楽で彩った内容。確かに、ここまで洗練された世界観を構築できるのは凄いことだと思います。この監督のセンスの良さが随所に光っていて、自分は最後まで心地よく観ることが出来ました。まぁ、誰も彼もがそれなりに幸せになって終わる最後は若干腹立つくらいでしたけど(笑)。 [DVD(字幕)] 6点(2024-10-26 11:22:39) |
39. MEMORY メモリー
《ネタバレ》 若年性アルツハイマーを患う殺し屋とメキシコの人身売買組織、そしてそんな彼らを追うFBI捜査官の三つ巴の戦いを濃厚に描いたクライム・アクション。正直、さっぱり面白くありませんでした、これ。なんかお話のテンポが恐ろしく悪いし、やたらと登場人物が多いからか話が分かりづらいし、肝心のアルツハイマーを患う主人公という設定もうまく活かされてないし……。子供だから殺さなかったターゲットが次の日、やはり殺されていたとニュースで知った主人公が、朦朧とする記憶のせいで「もしかして俺が殺したのか」と煩悶するシーン。「おぉ、なんか面白くなりそうじゃん」と思ったのに、次の瞬間、殺したのは別の殺し屋だってすぐ種明かしするとか、なんでこんな勿体ないことしちゃうんだろうって思いました。そんなわけで自分は最後までいまいち嵌まれなかったです。ただ、お歳を召してますます渋さを増すリーアム・ニーソンは相変わらずかっこ良かった。あと、『メメント』で記憶を失ってゆく男を演じたガイ・ピアーズが今回記憶を失う男を追う刑事役というのは、なんか感慨深いものがあります。ま、そんなとこかな、はい。 [DVD(字幕)] 4点(2024-10-26 11:06:16) |
40. オンマ/呪縛
《ネタバレ》 電気アレルギーを患う母親と二人で暮らす17歳の少女が、ある日体験する恐怖の日々を濃厚に描いたホラー。ぶっちゃけて言うとさっっっぱり面白くありませんでした、これ。タイトルからも分かる通り、韓国系アメリカ人である母子がもはや悪霊となってしまった祖母の呪いに苦しめられるという、何の捻りもない凡庸なお話。驚愕のどんでん返しもないし、エッジの効いた新しい演出があるわけでもないし、一度見たら忘れられないくらい強烈なキャラクターが出てくるわけでもない。唯一新しいかもと思える電気アレルギーを患う母という設定もほとんど活かされてないし、クライマックスなんて画面が暗すぎて何やってるのかすら分からない。ひたすら地味で退屈なお話がダラダラと最後まで続いて、自分はもう眠気と戦いながらなんとか最後まで観終えました。もはや苦行のような80分でした。 [DVD(字幕)] 3点(2024-10-22 09:46:09) |