521. アイガー北壁
《ネタバレ》 登山をネット中継して賞賛を得るために無謀な挑戦をして命を落とした若者のNEWSを思い出した。その時は「誰が彼を追い込んだのか」という事が話題になった。その後も「中継」を目的とする登山事故が相次いでいるようである。本作の4人も自分の意思で登山しているわけで誰かに強制されたわけではない。当人たちにも当然の事ながら承認欲求があっただろうし、そういう意味では「自己責任」ではある(「自分のために登る」と言っていたトニーは「付き合い」で登った側面もあるが)。 ただし、その背景にはナチスの国威発揚に迎合し「挑戦」を煽るマスコミと現代さながらの「実況中継」がある。そして4人は「挑戦」を重ねて失敗し、最終的に下山を決意するも悲惨な結果を招く。という展開から、当初は煽っていた女性カメラマンが終盤に命の大切さに気づくという心情変化が本作のメインストリームになるのだろうが、救出行動までするのは過剰演出だろう(史実かもしれないが)。 登山場面は緊迫感はあるものの、ありきたりでもあり、どこかで見た事あるような映像が続くので多少の退屈感はあるのだが、無謀な挑戦の背後にある様々な構造を色々考えながら見ると、現代にも通じる示唆に富んでいるように思える。 [CS・衛星(吹替)] 6点(2020-09-17 12:32:40) |
522. 2ガンズ
平凡でありきたりな刑事モノ?かと期待しないで見たら、テンポがよくて多少のヒネリもあり結構楽しめた。コメディなせいか危機感が薄いので、もうちょっと硬派にして2人がもっと追い込まれた方がよかったかも。 [地上波(吹替)] 6点(2020-09-16 17:13:51) |
523. 黄金(1948)
《ネタバレ》 3人の騙しあい・裏切りといった心理戦の展開になるのかと思ったが(この辺は自分の心が荒んでいるのかも?)、主人公以外の2名は基本いい人で、どこかで聞いたことのある「日本昔ばなし」的な道徳の教科書のような因果応報的なオチになってしまったのが残念ではあるが、シンプルでわかり易くまとまってはいる。欲に囚われた人間が疑心暗鬼だけでなく正常性バイアスにも陥る場面や、他人は騙せても自分は騙せず「良心」に悩まされる点は興味深かったので、この辺をもっと丁寧に描いてくれれば大人向けの作品になりえたのではないかと思う。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-09-16 11:47:15) |
524. 図書館戦争 THE LAST MISSION
「表現の不自由展」の騒動やSNSの言論規制等、表現の自由が問題となっている。という意味では「メディア良化法」が制定されてもおかしくはない状況でもないとは言えないわけで、非常に重要なテーマを扱っている作品ではある。しかしながら、中途半端な戦闘シーンばかりで問題の核心には迫っていない。国民の表現の自由への無関心と図書館隊の無力感をもっとしっかり描くべきではないか。原作未読なのでわからないが、戦闘ばかりしてるわけじゃないだろう。それじゃあ小説にならないし。基本的な対立構造としては国家組織と地方組織の武力衝突になっているわけだが(ここが荒唐無稽過ぎていくらフィクションとは言えリアリティーがなさすぎるという難点があるのだが)、あいちトリエンナーレでも問題になったように国家と地方の問題も重要なテーマであり、これらのテーマをしっかりと映像化すればとても興味深い作品になりえたと思うが。 [地上波(邦画)] 4点(2020-09-16 01:04:47) |
525. マッドマックス 怒りのデス・ロード
荒廃した未来における資源争奪戦というのが本シリーズの基本的なモチーフだと思うのだが、そこに女性解放や障害者活躍といった現代的な社会テーマだったり、魂の再生といった宗教テーマだったりと倫理的問題も盛り込んでしまった結果、本来のテーマ性が薄れてしまって全体的な世界観がボヤけてしまった印象。好意的に見れば現代風に世界観をアレンジしたといえなくもないが、正直マッドマックスシリーズに倫理問題を持ち込むのはどうかと思う。マックスの存在感のなさは女性の抵抗運動に奉仕する役割でしかない事の証左だろうし、宗教的カリスマ(ジョー)への忠誠心から「仲間」への自己犠牲といったウォーボーイズ(ニュークス)の心情変化も荒廃した世界観の中ではウェットでミスマッチな印象を受ける。とはいえ、アクションは進化しているので、テーマ等は考えずに単純な「鬼ごっこ」として楽しむ分にはいいのかもしれない。 [地上波(邦画)] 6点(2020-09-15 17:44:04) |
526. アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング
《ネタバレ》 自己評価は高いと傲慢になるし、低いと卑屈になるし、かといって「ありのままの自分!」と開き直る事にも問題がある。結局のところは何事も「中庸」が大事ということだろう。ちなみに、傲慢と卑屈の中庸は「謙虚」だが、これが結構難しいわけで・・・。だから、本作の開き直り系オチには少々問題があって、この手の作品には結構多い展開ではあるのだが、そういった問題点に気がつけるかどうかがポイントなのかと。 [地上波(字幕)] 6点(2020-09-15 12:06:55) |
527. スナッチ
欧米のおバカ映画なんだろうが、こういうのが面白いと思える人とは生きてる世界が違うんだろうな。 [CS・衛星(字幕)] 1点(2020-09-15 11:45:14) |
528. ネバダ・スミス
《ネタバレ》 親殺しの復讐劇で冗長な所はあるものの、終盤に神父との出会いで何かが変わり始める(ここで殺すのは止めるんだろうなというオチがわかってしまうのが難点ではある)。聖書から得た教訓は「目には目を」であるという主人公が、ラストではトドメを刺さない。本作のポイントは、これをどう解釈するかでしょう。「悪人に手向かってはならない。だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい」と改心(回心?)したとは思えないし、慈悲の心が芽生えたとも思えない。神父の教えに従って復讐の連鎖を断ち切ろうとしたのかどうかも微妙。「殺す価値もない」と単純にバカバカしくなったのか・・・。ただし、神父や聖書との出会いで何かが変わった事は間違いなく、宗教パワーを感じさせる不思議な余韻が残る作品ではある。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-09-14 12:16:32) |
529. あゝひめゆりの塔
《ネタバレ》 現代から見れば「戦時中は不幸だった」と言えるだろう。しかしながら戦時中には戦時中の青春がある。そこにはその時代なりの喜びや幸せがある。そういう視点に立てば、戦争映画でありながらも青春映画でもあるという日活らしさがよく出ているとは思う。が、逆に言うと戦争の負の側面の描き方が少々弱いというか基本的に出てくる人々が皆善人で悲惨さというものがあまり伝わってこない。もっと過酷で厳しい状況があったり裏切りや憎しみ等々もあったのではないだろうか。また、50年以上前の作品でもあるし仕方ない部分ではあるが、戦史研究も進んでいないせいか軍部組織との関係や兵器の描き方も不十分や間違いが散見される(ちなみに毒ガスは使用していないようである)。ラストの崖での自決も演出としては大袈裟に思えた。とは言え、やはり伝わってくるものはあり、冒頭のシーンにあるように、生まれる時代は選べないものの、どういう時代に生まれるかによって、「青春」というものは違ったものになるという事を思い知らされる作品ではある。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2020-09-12 14:30:31) |
530. ジョニーは戦場へ行った
《ネタバレ》 人間の生死の境目となる定義は何か?それは意識の有無である。法的には。だから脳死はモノ扱いされる。冒頭で医療チームが意識はないと判定していたので、主人公のジョー(ジョニーではない)が独白しているのはある種のファンタジーであって、自分はずっと意識はないんだと思っていた。よって、ラストまでの思い出話的展開は冗長に感じたのだが、最後の最後で意識があり、意思疎通ができる事が判明する。そして「カネを稼ぐために」見世物にしろと要求する。さもなくば殺せと。しかし、結果的にはどちらも実現せず、医療の発展のためのサンプルとして生かされ続ける事になる(これはこれで「役に立つ」ことなのかもしれないが)。 昨今、「生産性」だとか「意思疎通ができない(だから生きる価値がない、死んで当然)」といった事や、難病患者の尊厳死(嘱託殺人?)等が話題になったりしているが、このラストシーンは人間の尊厳とは何か?をあらためて考えさせられる重いシーンである。という意味において、本作は単なる反戦映画に留まらず、もっと普遍的な生命倫理的テーマへと昇華しているように思える。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2020-09-12 10:03:23)(良:2票) |
531. キングダム/見えざる敵
《ネタバレ》 今日は911だがそれに合わせての放映なのか911後も続く復讐の連鎖の話。当時はまだビンラディンが生きているという状況だったので復讐熱が高くこういう作品が作られたのかもしれない。内容の方だが、出だしのテロシーンは迫力あるし、政治的問題も絡んできて期待が持てたのだが、現地に着いてからは各々のスペシャリストを派遣したにも関わらず、ロクな捜査もせずに銃撃戦で決着つけるという平凡な展開。手振れカメラも見難くて仕方ない。もうちょっと各々の特性を生かした捜査や謎解き、敵対者との心理戦みたいなものがあった方が見応えあるし、オマケ程度に大使は出てくるものの国際政治も絡めた外交関係の描写がもっとあってもよかったのではないか。FBIがあっさりとサウジに受け入れられて現地の判断だけでこれほど好き勝手に行動可能な事に違和感もあった。FBIに協力したサウジの警察官の存在感も薄く、結局は「アメリカの正義」を強調しただけの作品にしか思えなかった。 [地上波(吹替)] 4点(2020-09-11 17:54:47) |
532. 太陽の季節
原作は話題となり衝撃作だったらしいが、映像化には色々と制約があって不向きな作品に思われる。そもそも芥川賞作品って映像化に不向きだし。当時の若者のエネルギーや反道徳を描いた風俗モノなのだろうが、長門裕之に存在感も魅力もないので結果的には地味な作品になってしまったような。若者気質に関しては、性と暴力という点では昔も今もあまり変わらないようには思えるが、やはりネットの有無がコミュニケーション面での大きな違いではあるんだろうな。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2020-09-10 14:14:46) |
533. キャプテン・フィリップス
序盤は結構よかったんだが、船長が拉致されてからはギャーギャーわめき散らすだけの救命ボート内の出来事と、緊迫感のない事務的な軍の動きの2拠点中継みたいになって、ありきたりな救出劇になってしまった。音楽も大げさで逆に安っぽくなってしまったように思う。これが実話なら仕方ないのだが、映画として製作するなら大胆に脚色してしまって、序盤を展開する形で船内の心理戦の攻防に特化した方が緊迫感があって楽しめたと思う。 [地上波(吹替)] 5点(2020-09-09 13:53:32) |
534. パッセンジャー(2016)
《ネタバレ》 前半は楽しめた。が、折角の面白い設定なのに後半はシステムトラブルの解決とそれに伴い和解しちゃうという陳腐な展開で失速。「置かれた場所で咲きなさい」的なオチも萎える。そもそもポイントとなるネタバレをアンドロンドがあっさりしゃべっちゃうというのもどうなのかと(えっ!しゃべっちゃうの?と声を出してしまった)。 ネタバレには女が次第に疑い始める等々もうちょっと盛り上げがあってもよかったのではないか。そして、ネタバレ後は三つ巴+1の心理的駆け引きで展開していった方がよかったように思う。 様々に料理のし甲斐がある設定でもっと滅茶苦茶やれたハズなのに、こじんまりと終わってしまい色々と残念な作品ではある。 [CS・衛星(吹替)] 5点(2020-09-08 20:02:45) |
535. 20センチュリー・ウーマン
監督の実体験に基づいているようだが、俗な言い方をすればひと夏の経験として15歳の少年に性教育をする話。高尚な言い方をすればフェミニズムを教え込む話とでも言えばよいだろうか。基本的には女性向けで、米国現代史や女性史にある程度の知見が必要だし、70年代の西海岸の田舎町の雰囲気を理解するのは困難でもあり、内容的には日本人向けではないように思える。少なくともコメディとは思えないのではないだろうか。 このような特殊性の中から普遍性を見出すとすれば、母ひとり息子ひとりの親子関係という事になるのだろう。当然の事ながら人は自分の生きた時空しか体験する事ができないし、例え時空を同じく生きたとしても世代によって価値観も異なる。母には母の生きた時代や価値観があるだろうし、息子には息子の生きる時代や価値観があるだろうし、そういった「ズレ」のようなものは感じるし、2人の「教育係」の女性が媒介役になっているのだろうが、基本的に男不在・男排除している事に偏りがあるし、イデオロギー色が強くて説教くささを感じる部分が多々あり、その分ドラマ性には乏しくて共感までには至らなかった。 [地上波(字幕)] 4点(2020-09-08 11:30:25) |
536. パットン大戦車軍団
好き勝手に自由にモノが言いたいが、誰からも批判される事なく認められたい、そして組織の指揮官として活躍したい。これらの欲求を全て満たすには独裁国家のTOPに立たなければならない。ヒトラーのように。しかしながら、主人公は中間管理職でしかないし、「一応」自由と民主主義の国のアメリカ国民なので不当な言動は周囲やマスコミから叩かれる。とはいえ、戦争や軍隊と人権とは相性が悪いというかそもそも両立するのかという疑問もあり、本音とタテマエも見え隠れする。勝負には強いパワハラ指導者が身内である選手やその父兄からは人気があるのも類似系であろう。 ただし、上司部下が逆転したり主人公が次々と閑職に追いやられる過程は軍隊と言えどもというか、軍隊だからこそ「協調性」が要求される故だろう。結局こういう我が道を行くタイプは個人として自由に生きる分にはいいが、組織では出世しないという現実を突きつけられる。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-09-06 11:03:56) |
537. アジャストメント
《ネタバレ》 決定論と自由意志の対立を描いているが、最終的には議長の裁定?が下っているので、結局は自由意志などなく決定論からは逃れられないという結論で終わったような。となると、終盤の「運命の扉」を開け続けるのは自由意志のようでいて実は決定論だったという事になるが、アメリカではそう描くしかないのかもしれない。 本作で興味深かったのは結婚相手に恵まれるとそれで満たされてしまって職業的には大成できないという所。男の方は大統領より女を選んだ(選ばされた?)格好になったが、女の方は男の選択はした(させられた?)が、それによって著名なダンサーへの道を失う事は知らないので、後からあんな衝動的な事するんじゃなかったと後悔するのか、それとも幸せな結婚生活で満足するのだろうか。幸福感といった内面にまでは神の意思は働かず、自分の考え方次第という事になるとは思うが、強固な決定論だと行為だけではなく思考までも決定論により左右されてしまうのかもしれない。 [地上波(吹替)] 6点(2020-09-04 15:39:44) |
538. クレイジー・リッチ!
全体的には成金系の趣味の悪い作品だとは思うが、好意的に見れば格差婚の克服を題材にアジア系アメリカ人を賛美する作品なのだろう。という意味では所詮「アメリカ万歳」でしかないわけだが。 とはいえ、オールアジア系のキャストでそれなりのヒットをしたという事が話題になる事の是非と、邦題からは「アジア」を外したという事の是非をどう評価したらよいのか。この辺に「アジア」をめぐる屈折した感情が未だにあるのではないかと思うのは考えすぎだろうか。 [地上波(邦画)] 5点(2020-09-04 11:45:08) |
539. 嵐を呼ぶ男(1957)
石原裕次郎の最高傑作は『陽のあたる坂道』か『あいつと私』だと思っているが、代表作はコレなんだろうな。確かこの前年に「もはや戦後ではない」との白書が出されたハズだが、敗戦から10数年でここまで復興している事に驚かされると共に、日本が第2の青春時代を迎えて高度成長期へと進んでいくその象徴としての石原裕次郎の躍動に時代の熱気とエネルギーを感じる作品ではある。ただし、こういう時代は二度とやってこない。この種の作品を見て育った高齢政治家達はその事がわからずに、昔を懐かしむだけではなく、取り戻そうとするので厄介ではある。その代表者が裕次郎の兄貴なわけだが。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2020-09-03 14:27:31) |
540. わたしは、ダニエル・ブレイク
《ネタバレ》 当時のイギリスの状態がどのようなものだったのか知らないので、どの程度事実に迫っているのかわからないが、訴えたい事は理解できる。ただし、この種の告発系の映画はドキュメンタリーを乗り越える必要があるのだが、映画らしい見せ場はスプレー缶ぐらいしかなくて、物足りなさは残る。全体的には単調なのでもうちょっとドラマ性が欲しかった。他方、フードバンクで食べちゃう場面は過剰演出に思えるし、ラストで主人公を殺してしまうのもちょっとヤリスギな気もしてバランスの悪さも感じる。申し立ての場で本人が堂々と訴える方が、伝わるものが大きかったのではないだろうか。 [地上波(字幕)] 6点(2020-09-03 12:18:59) |