1121. ドラキュラZERO
《ネタバレ》 時は中世、ヨーロッパの辺境に位置する小国トランシルヴァニア。かつて串刺し公と呼ばれ敵であるオスマン帝国を震え上がらせたヴラド公が治めるこの地に再び、帝国の魔の手が迫っていた。いまや穏やかな君主となったヴラド公に、皇帝の使いは、侵略されたくなければ千人の少年を差し出せと要求する。それが嫌なら息子である王子を人質として差し出せとまで言うのだった。民衆のために苦渋の決断をした君主は、息子を引き渡すため交渉の場へと向かうことに。たが、息子を深く愛するヴラド公はぎりぎりのところで剣を手に取り、帝国に反旗を翻すのだった。このままでは民衆はおろか愛する妻と息子の命も危ない――。ヴラド公は、山の洞窟の漆黒の闇の中で何百年も前から身代わりを待ち続けていた伝説の魔物の元へと向かうのだった。恐ろしい闇の力を手に入れ、帝国の魔の手から愛するものを救うために……。誰もが知る暗黒の貴公子ドラキュラ、もはや伝説と化している彼がまだ人間だった時代を最新のCG技術を駆使して描く、漆黒のダークホラー・アクション。これまでに小説や映画で何度も何度もそれこそ新しいものはもはや何も残ってないのじゃないかというくらい、何度も取り上げられてきた〝吸血鬼ドラキュラ〟を再び映画化したという本作。さぞかし新しいアイデアや工夫を凝らした見せ方があるんだろうなと今回鑑賞。ところがその内容は、びっくりするぐらい極めてオーソドックスなドラキュラものでいささかビックリしちゃいました。新しいところと言えば、彼が人間だった時代を描いたところだろうけど、それも洞窟での魔物との最初の遣り取りを見て「ああ、きっと主人公は愛する人のためにこの魔物との契約を破り、人間の血を飲んでドラキュラになるんでしょーなぁ。でもさすがにそんなベタベタな展開は恥ずかしくてないよね」とか思ってたら、ものの見事にそんなベタベタな恥ずかしい展開に(笑)。とはいえ、お話の方は最後までテンポもよく、CGを多用したアクションシーンの数々も――暗すぎて若干見難かったとはいえそこそこ迫力あったし、適度な暇潰しとしてはぼちぼち楽しめると思います!6点! [DVD(字幕)] 6点(2015-11-27 22:20:24) |
1122. ジャージー・ボーイズ
《ネタバレ》 1950年代から60年代にかけて、全米ヒットチャートを彗星のごとく駆け抜けた4人組のポップコーラスグループ、“フォー・シーズンズ”。もはやハリウッドの生ける伝説と言ってもいいクリント・イーストウッド監督が新たな代表作ともいえる重厚な政治ドラマ『アメリカン・スナイパー』の前に撮ったという本作は、それとは全く正反対の煌びやかな芸能界で夢をかなえる彼らの姿をゴージャスに描いた青春群像でした。そんな実在したスーパースターの栄光と挫折を赤裸々に見つめたもうびっくりするくらい王道のオーソドックスな伝記映画なのですが、これがイーストウッドのフィルモグラフィの中に収めてみると逆に異色作となるのが面白いですね。『ミスティック・リバー』や『ミリオン・ダラー・ベイビー』といった現実の理不尽さや人間の愚かさを極めて冷徹に見つめてきた老映画監督がいまさらこんなシンプルな青春映画を撮ったということにまずはびっくりです。さて、肝心の内容なのですが、この手の作品は主人公であるアーティストたちにいかに興味を持てるかが重要になると思うのですが、正直に言って僕はこの“フォー・シーズンズ”というグループにほとんど思い入れもないうえに、その全編にわたって使われた彼らの楽曲の数々もいまいちピンとこず、残念ながら僕はそこまで作品世界に入り込むことが出来なかったです。確かに面白いとは思うんですよ。登場人物たちが要所要所でカメラ目線になり観客へと語りかけるという映画では〝禁じ手〟とも言うべき手法を使っているのにそれがアクセントとして小気味よく効いてるところだとか、最後に登場人物たちが全員集まって歌い踊るミュージカル風の気の利いたエンドロールだとか、長年のキャリアに裏打ちされただろうもはや余裕さえ感じさせるその演出手法の数々なんて「さすがだなぁ」と素直に認めるのだけど、僕としてはちょっと物足りなかったです。それは何なのかと自分なりに考えてみたのですが、やっぱりビートルズ出現以前の音楽シーンってこういう誰かに惚れたフラれたというまあ見事なまでに軽い世界をみんなして歌い続けていたのですね。なんだか僕はこのいかにも作られた軽薄な歌の数々にどうにも馴染めなくて、そこが僕が本作にいまいちのめり込めなかった原因のようです。でも、これはもう完全に好みの問題。老境に差し掛かり、イーストウッドもこういう「昔は良かった」的なノスタルジックな作品も撮ってみたくなったのでしょう。フォー・シーズンズのファンはもちろん、あのころのかつてよき華やかな50年代を懐かしみたいという人にはたまらん作品に仕上がっていたと思います。 [DVD(字幕)] 6点(2015-11-24 22:37:35)(良:1票) |
1123. ケープタウン(2013)
《ネタバレ》 2013年、南アフリカ。いまだアパルトヘイトの影響が色濃く残る首都ケープタウンで警部をしているアリは、この国の先住民族である誇り高きズールー族だ。温厚で知性的な紳士であるそんなアリの相棒は、彼とは全く正反対の酒と女にだらしない自堕落なバツ一男、ブライアン。人間としては全く褒められたものではないブライアンだったが、刑事としての腕は一流だとアリは全幅の信頼を置いている。ある日、そんな彼らの管轄で、一人の少女が無残な惨殺死体となって発見されるのだった。すぐに捜査を開始したアリたちだったが、容疑者と思しき男を捜してバラックが立ち並ぶスラム街へと乗り込んだとき、そこにはとてもチンピラとは思えない重装備したギャングたちが待ち構えていたのだった……。一人の少女の殺人事件をきっかけにして炙り出される謎の麻薬を巡る闇社会の抗争、本作は南アフリカにいまだ残るそんな人種差別という名の闇へと立ち向かう全く正反対の2人の刑事の活躍をスタイリッシュに描いたクライム・アクションだ。胸に静かな怒りを秘めた寡黙な中年刑事を演じるのはフォレスト・ウィッテカー、私生活は酒と女で無茶苦茶だが犯罪を憎む情熱だけは誰にも負けない若手刑事にはオーランド・ブルーム。まあベタな組み合わせではあるけれど、殺人レイプ強盗など何でもありの極めて治安の悪いケープタウンという街を舞台にしたこともあって、なかなか緊迫感に満ちた作品に仕上がっていたと思います。特に、柄の悪い黒人たちが大量にうろつくスラム街へと主人公たちが乗り込むシーンなんて、一歩先に何が起こるか分からないから観ていて素直にハラハラドキドキ。南アフリカにいまだ影を落とす人種差別という社会問題の扱い方も、これ以上踏み越えるとテーマとして重くなる一歩手前で絶妙に抑えられていて、僕はエンタメ映画として最後まで面白く観ることが出来ました。ただ…、終盤で明かされる事件の真相がさすがにちょっと無理があったのが惜しい。アリの母親の扱いも、あのクライマックスへと向かわせるために無理やり紡ぎ出した感があってそこら辺もちょっと残念でした。結論。なかなかよく出来たクライム・アクションとして普通に面白かったですけど、あと一歩他の作品とは一線を画す新しい何かが欲しかった。6点。 [DVD(字幕)] 6点(2015-11-23 14:04:45)(良:1票) |
1124. チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密
《ネタバレ》 チャーリー・モルデカイという男、彼自身が業界の暗部だ――。詐欺やペテンなどなんのその、大好きな美術品を手に入れるためならどんなことでもするインチキ美術品の闇ブローカーで、胡散臭いチョビ髭を蓄えた謎の紳士、その名もチャーリー・モルデカイ。自分に忠実な召使いを従え、チャーリーは業界の裏側で飄々と渡り歩いていた。ところが最近は運にも見放され、借金がかさみ破産寸前、愛する妻からも酷い扱いを受けている。そんな中、幼馴染みの警部から彼はとある依頼を受けるのだった。それは美術修復師のもとから盗まれたゴヤの名画を取り戻してくれというもの。大金の匂いを嗅ぎつけたチャーリーは、召使いとともに調査に乗り出すのだったが……。ジョニー・デップをはじめ豪華俳優陣競演で贈るのは、アート業界の裏側で繰り広げられるそんなドタバタを軽妙に描いたスラップスティックなコメディ作品でした。きっとこの監督はデビュー当時のガイ・リッチーみたいな世界をやりたかったのでしょうね(飛行機で世界を行ったり来たりするくだりなんて、まんま『スナッチ』ですもん)。まあやりたいことは分かるのだけど、全体的にスベリ倒していたのが残念でした。散りばめられたネタの数々がちっとも笑えないうえに中途半端に下品なのがもう致命傷。もっと下品にとことん無茶苦茶にはじけてもらった方が良かったと思う。とはいえ、後半ゴヤの名画を巡って様々な組織や人物たちの思惑が入り乱れながらドタバタとオークション会場へと雪崩れ込んでゆくだりは、けっこうテンポも良くてそこそこ楽しめました。モルデカイと女好きの召使いとの遣り取りもぼちぼち面白かったしね。というわけで監督、次はもっと頑張ろう、5点! [DVD(字幕)] 5点(2015-11-18 13:13:05) |
1125. 猿の惑星:新世紀(ライジング)
《ネタバレ》 いまや伝説と化しているディストピアSF映画『猿の惑星』シリーズのその前日譚として製作された前作。とあるウィルスの蔓延によって知能が異常に発達し、それまで当然のように支配してきた人類に反旗を翻した猿たちの闘いを描き、これが詰めの甘い部分が目立ったものの、徐々に拡がっていく猿たちと人間との戦いをサスペンスフルに描いていて、緊迫感溢れるエンタメ映画として僕はけっこう楽しめたんですよ。なので、その後の滅亡の危機にまで追い込まれてしまった瀬戸際の人類と地球の新たな支配者として台頭しはじめた猿たちとの種の存亡を懸けた戦いを壮大に描いた続編として僕はけっこう期待しながらこの度鑑賞いたしました。結果は……、なんですのん、このスケールのちっちゃなお話は(笑)。猿と人間の地球規模の壮大な戦いどころか、けっこう狭い森の中で人間と猿の小規模なコミュニティ同士のダムを稼動させるか否かみたいなこじんまりとした戦いだけで終わっちゃ駄目でしょ。続編なんだから最低限前作のスケールは超えていってくれないと。それに脚本もテキトー過ぎ!人間と猿たちの戦いを描きたいのか、猿のコミュニティでの内部抗争を描きたいのか、軸がブレブレでストーリーがさっぱり盛り上がらない。ダムを稼動させたいという主人公のおっさんも猿の味方なのか人間の味方なのかいまいちよく分かんないから全く感情移入できません。あと、武器庫の門番をしてた人間の2人組、敵の猿が近づいてきたのに、「なかなか愉快な猿だぜ」と意気投合し一緒に酒飲んじゃうとか、普通にアホ過ぎっしょ(笑)。そのすぐ後に、やっぱり武器を奪われちゃって殺されちゃうとかどんなけ緊張感ないね~ん!!そういうテキトーなところばかりがやけに目について、僕はまっっったく楽しめなかったです。前作が良かっただけに残念!! [DVD(字幕)] 3点(2015-11-17 21:12:33) |
1126. 誰よりも狙われた男
《ネタバレ》 ドイツ、ハンブルク。2001年、911の実行犯がこの港湾都市で計画を練って以降、それを察知できなかった現地の情報機関は躍起になってテロ対策を加速させていた。そんな国際都市にある日、ロシア当局に拷問を受けた過去があるチェチェン人青年イッサが入国してくる。そのことを察知したテロ対策諜報員バッハマンは、彼が大手銀行員と接触したがっていることを知り、全容を解明しようと彼をしばらく泳がせることを決断する。だが、バッハマンの思惑など意に関せず、国の上部機関、警察、現地のイスラムネットワーク、さらにはアメリカのCIAまでが絡んでき、事態はさらに複雑な様相を呈していくのだった。そんな折、イッサを支援していた女性弁護士の手筈で彼がドイツの街中で失踪してしまう……。名優フィリップ・シーモア・ホフマンの遺作となったのは、ドイツの国際都市を舞台にテロ対策の最前線をリアルに描いたスパイ・サスペンスでした。スパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレの原作を映画化しただけあって、この全編に漲る息を呑むような緊迫感はなかなか凄かった。派手なアクションやスキャンダラスな設定で観客を煽るのではなく、あくまでもリアルで地味なストーリーなのに最後まで見せきる本作のスタッフたちの手腕は大したもの。そんな無差別テロという悪魔の所業を阻止するために誰も知らないところで彼らのような人が日夜、神経を磨り減らすような情報戦を繰り広げているのかと思うと本当に頭が下がる思いです。特に、何処にでも居るサラリーマンのようないでたちでありながら、それでも時折その隠し切れない狂気性を垣間見せるF・S・ホフマンの熱演は見事でした。権謀術数渦巻くテロ対策という問題の難しさに翻弄され、自分の無力さを思い知らされた彼の魂の咆哮とでも言うべき最後の雄叫びは胸の奥深くに突き刺さってくるようでした。つくづく惜しい人を失くしたと残念でなりません。奇しくも昨日(2015/11/14)、フランスのパリでイスラム国と見られる組織によって大規模なテロが発生してしまいました。あらためて、本作のラストに漂う無力感に胸が引き裂かれる思いです。本作の主人公バッハマンのような人たちがそれでもテロという悪魔の所業に決して負けず闘い続けてほしいと、今回のテロで亡くなった人々のためにそう願わずにはいられません。 [DVD(字幕)] 7点(2015-11-15 22:00:09) |
1127. イントゥ・ザ・ストーム
《ネタバレ》 のどかな田園風景が拡がるアメリカのとある田舎町。気のいい純朴な人たちがのんびりと暮らすそんな平凡な田舎町だったが、最近は地球温暖化の影響か、以前では考えられないほどの強大な竜巻が何度も発生するようになっていた。いつ何時強大な竜巻が発生するか分からないこの町にその日、様々な思惑を抱えた人々が乗り込んでくる。竜巻を追う女性気象学者、大金を得るため竜巻の映像を撮ろうと目論むフリーのカメラマン、卒業式を目前に控えた高校生の兄弟、彼らの父親で生徒の規律をもっとも重んじる教頭、そして何も考えずにただ目立ちたいという理由だけでユーチューブに画像をアップする馬鹿二人組――。史上最大規模にまで膨れ上がった竜巻によって彼らの平凡な生活は無残にも破壊の限りを尽くされるのだった……。最新のCG技術を駆使して描かれる本作は、そんな王道のパニック・アクションでした。もうそのストーリーを聞いただけで内容のほぼ大半は予想できる典型的なB級作品なのですが、こういう頭空っぽにして最後まで安心して観ていられるエンタメ映画もけっこう嫌いじゃないんで、今回ビデオ屋さんでレンタルしてきました。とまあ、ほとんど期待せずに観始めたのが功を奏したのか、けっこう面白かったです、これ。カメラマンが撮った映像や携帯の動画撮影、監視カメラの映像等々、POV手法を要所要所に差し挟む演出が抜群に利いていて、造り込まれた迫力のCG映像も相俟って、なかなか緊迫感溢れる展開に最後までけっこう釘付け。「すぐそこまで竜巻が迫ってきてるぞ!お前ら、早く逃げろー!」と思わず町の住民になったかのように胸の中で叫んじゃってましたし。所々、「これって完全に『ツイスター』のパク…、オマージュやん!」ってシーンがあるのはご愛嬌(笑)。親子の確執や人のために働く気象学者と大金を得たいだけのカメラマンとの対立など、人間ドラマとしてもそこそこよく出来ています(まあ、超ベタですけどね)。というわけで、完全なるB級エンタメ映画として僕は最後まで面白く観ることが出来ました。うん、7点! [DVD(字幕)] 7点(2015-11-09 13:50:36) |
1128. サード・パーソン
《ネタバレ》 パリ、ニューヨーク、ローマ。時代の先端をゆくそんな人種の坩堝のような3つの国際都市には、今日も様々な事情を抱えた男女が集い出会いと別れを繰り返してゆく。ある男女には新たな愛が芽生え、またある男女は疑念と嫉妬によって心をぼろぼろにされ、そしてまたある男女は辛い別れを経験してゆく……。本作は、そんな3つの国際都市を自在に行き交いながら、そこに生きる様々な男女の出会いと別れを静謐な雰囲気の中に描き出してゆく群像劇。自分の不注意から最愛の子供を失ってしまった作家は若い女性との不倫に溺れ、ストレスから自らの子供を虐待してしまった母親は引き離された息子との面会を果たすため必死になって生活を立て直そうとし、街のカフェで移民の女性と偶然知り合った男は彼女の奪われた子供を取り戻そうと金策に駆けずり回る。一見無関係に見えるそんな3つのストーリーが、物語の進行とともにまるで縺れた糸のように絡み合い複雑に交錯していく――。同じく群像劇の秀作『クラッシュ』でアカデミー賞の栄誉に輝くポール・ハギス監督の最新作は、そんないかにも彼らしいミステリアスで魅惑的なヒューマン・ドラマだった。登場人物の数も多く、各々のストーリーもかなり複雑なのに、この監督の演出力は相変わらず冴えわたっている。極めて分かりやすいストーリーテリング、それぞれに個性豊かな登場人物たち、詩的で美しく時には官能的ですらある映像、そして観る者を深い迷宮へと誘うように魅惑する壮麗な音楽……。挙げていけばきりがないほど、画面の端々にまで才気が漲っている。親子間であれ男女であれ深く愛するがゆえに憎み傷つき、それでも愛されることを求めてもがき苦しみながらも必死になって生きていこうとする主人公たちに最後まで釘付けだった。特に、ミラ・クニス演じる若いシングル・マザーが直面する苦悩には深く胸打たれた(ホテルの一室で他人の幸せの象徴である白い百合の花を無茶苦茶にするシーンは、最近観た中では息を呑むほど印象的で美しいものだった)。ただ、ほとんど謎を残したままで終わる本作のラストはやはり賛否の分かれるところだろう。こういうメタ・フィクション構造は夢オチと同じでよほど丁寧に扱わないと何でもアリとなってしまうので、多くの場合観客を興醒めさせてしまうもの。本作もその例に漏れず、やっぱりそんな〝興醒め〟感から逃れられていない。こんな奇を衒った構造などせず、直球の群像劇として終わらせていれば『クラッシュ』を超える傑作になりえたかも知れないと思うと、つくづく惜しいと言わざるを得ない。とはいえ、静謐な空気に満ちた上質のヒューマンドラマとして最後まで惹き込まれたことは確か。充分鑑賞に耐えうる良質の作品と言っていいだろう。 [DVD(字幕)] 7点(2015-11-08 19:05:13) |
1129. インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌
《ネタバレ》 1961年、ニューヨーク。売れない若手歌手ばかりが集うカフェで夜な夜なフォークギター片手にステージで歌う男、その名もルーウィン・デイヴィス。いずれ有名になることを夢見ていた彼だったが、コンビを組んでいた相棒を自殺でなくしてからは酒と女に溺れる鬱屈した日々を過ごしている。そんなある日、彼はひょんなことから知り合いの大学教授の猫を預かることになる。とはいえ彼はその日泊まる家すらままならないどん詰まりの毎日だ。一日だけでも泊めてもらおうと友達夫婦の家に向かうルーウィン。だが、応対に出た奥さんは彼のことを見るとかんかんに怒りだしてしまうのだった。「私、妊娠したみたいなの!きっとあなたの子よ!」――。そう告げる彼女の言葉に心当たりのあるルーウィンは、ちゃんと中絶費用を払うと約束するのだが、どう捻出したらいいかすら分からない。音楽活動も一向に芽が出ず、友達とも喧嘩ばかり、さらには預かっていた大切な猫さえ逃げ出してしまい……。そんなどん底を這いずり回るような日々を過ごす彼の人生に、果たして光は差すのか?いまや重鎮の風格さえ漂うコーエン兄弟の新作は、そんな愛すべき駄目男のどうしようもないトホホな日々を描いた佳品でありました。彼らの相変わらず冴えに冴えわたった演出はもはや抜群の安定感。女にも金にも酒にもだらしないどうしようもない駄目男の日常に、コーエン兄弟お得意のユーモアとペーソスが絶妙なバランス感覚で配合されていて観ていて大変微笑ましかったです(実際に知り合いにこんなヤツがいたら迷惑千万なんですけどね!笑)。もうやることなすことことごとくが裏目裏目に出てどんどんと不幸になっていくのですが、そのほとんどがまぁこのルーウィン・デイヴィスというアホ男の自業自得なので全然同情しなくて済むという設定が秀逸。特に、ジョン・グットマン演じる超胡散臭い男とのロードムービー的展開になるトコなんてあまりにも馬鹿馬鹿しすぎて何度も笑っちゃいました。そんな徹底的に駄目な男なのに、それでも音楽に対する情熱と自殺した元相棒に対する友情だけは決して失わないところがなんとも魅力的。僕は最後まで彼に好感を持って観ることが出来ました。「君は確かに巧い。音楽に対する情熱も素晴らしい。ただ、君の音楽には心に響くものがまるでない」。劇場のオーナーにそうとどめの一言を言われてしまった彼の人生に、それでもこれから先ほんの少しでも光が灯ることを願ってやみません。自分にとってはつらい毎日でも、客観的に見れば面白い人生なのかもしれない。そう思わせてくれる佳品でありました。 [DVD(字幕)] 7点(2015-11-06 22:52:09) |
1130. アイ・フランケンシュタイン
《ネタバレ》 1795年、冬、俺は命を与えられた。俺は魂のない生きる屍。8体の死体を繋ぎ合わされ、電気ショックによりこの世に甦ったのだ。俺を生み出したのは、ヴィクター・フランケンシュタイン博士。そう、俺は神をも畏れぬ狂った科学者によって創られた、孤独なモンスターだ――。時は流れ現代、フランケンシュタイン博士によって生み出されたそんな魂なき稀代のモンスターは、辺境の地で年老いることなくずっと孤独な日々を過ごしてきた。200年にわたってそんな平穏な日々を過ごしてきたある日、長年彼のことを捜し求めていた悪魔の手先が現れる。難なく悪魔たちを撃退した“モンスター”は、真相を探るために久し振りに街へとやってくる。すっかり様変わりした人間の暮らしに戸惑いながらも、彼はそんな人間に知られることなく夜の闇の中でずっと戦い続けてきた天使と悪魔の壮大な争いに巻き込まれていくのだった……。こういう頭空っぽにして観るべき、B級ゴシックホラーアクションってたまに観る分にはけっこう好きなんですよ、僕。なんで、「なんか面白い映画ないかなぁ」とビデオ屋さんでうろちょろしていたら、本作のパッケージが目について今回レンタルしてきました。感想は…、「は、ははは……(苦笑)」。さすがにこれ、いくらなんでもストーリーがしっちゃかめっちゃか過ぎるっしょ!!頭空っぽにして観るべき超王道B級アクションとはいえ、ストーリーに突っ込みどころが多過ぎて、ちょっと僕は乗り切れませんでしたわ。本作の脚本家は、どうして主人公フランケンシュタインと天使(ガーゴイル)と悪魔という三つ巴の戦いにしたんでしょう。そうやって設定を複雑にしちゃったから、話が破綻しまくりでもう目も当てられない。単純にこのフランケンシュタイン対悪魔(もしくは主人公と天使が仲間になって、悪魔と戦うとか)にしといたら、勧善懲悪エンタメ映画としてすんなりと楽しめる作品になりえただろうにね。うーん、残念!ただ、最後までストレスなく観られたのとCGを駆使したアクションシーンはなかなか迫力あったので5点あげとこう。 [DVD(字幕)] 5点(2015-11-02 00:47:54) |
1131. シン・シティ 復讐の女神
《ネタバレ》 罪の街、シン・シティ――。そこに集うクズどもの悪と悲哀に満ちた生き様を、これまでにない斬新な映像で魅せたバイオレンス・ノワールの待望の続編。そのあまりにも漫画チックで荒唐無稽なストーリーに賛否両論分かれた前作ですが、僕はあの他の追随を許さない独創的な世界観がけっこう気に入っていたので、本作も期待して今回鑑賞してみました。うーん……、期待が高すぎたのか、あらゆる意味で前作よりスケールダウンしちゃった感が否めなかったですね、これ。確かに映画としてある一定の水準に達してはいるのですが、前作での冴えに冴えまくっていたサイコーにかっちょ良い演出が今回は少々おとなしめ。こういうあまりにも馬鹿馬鹿しい荒唐無稽なお話は、もっともっと極限まではじけてもらわないとやっぱり観ていてちと辛い。エヴァ・グリーン演じる超絶悪女――そういえば彼女、同じくフランク・ミュラー原作の「300」の続編でも同じような超ドSな悪女を演じてましたね。うん、何度見ても良いおっぱいだ(笑)――は確かに魅力的だったのだけど、そんな彼女に翻弄されるジョシュ・ブローリンがあまりにもアホ過ぎてちっとも魅力が感じられなかったのも残念。とはいえ、猥雑な熱気に満ちた、この唯一無二の独創的な世界観は個人的に好みなので、ちょっぴりおまけして6点あげとこう。 [DVD(字幕)] 6点(2015-11-01 00:48:52) |
1132. グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札
《ネタバレ》 王族との結婚を夢見る人々は、その本当の意味を分かっていない――。ハリウッドで名実ともにトップクラスの人気を誇っていた名女優、グレース・ケリー。モナコ公国の王子と恋に落ちた彼女は、多くのファンから惜しまれつつも引退し、伝統と外聞をもっとも重んじる王族の一員となったのだった。本作は、そんな煌びやかな女優の世界から権謀術数渦巻く政治の世界へと身を投じた彼女の苦難に満ちた半生を描いた伝記映画だ。というわけで、グレース・ケリーというもはや伝説と化した人気女優役をこれまた現代ハリウッドでトップクラスの地位にいる二コール・キッドマンが演じたということもあり、なかなか興味深いものを感じてこの度鑑賞してみました。観想は……、いやー、これがもう見事なまでに底の浅ーーい凡作でありました。駄目な伝記映画の典型的な例が見事なまでに揃っていて、もう目も当てられません。駄目な点①史実として起こったことをただ時系列順に並べただけで映画として観客に伝えたいテーマがまったく絞られていない。グレース・ケリーという一人の女性の人生とはいったいなんであったのか。優れた伝記映画は、彼女の人生の本当の意義を観客に分かりやすく伝えるための明確なテーマが強固としてあるのだけど、本作にはそれがいっさいありませんでした。これじゃ事実を再現しただけの映像を単に羅列しただけに過ぎません。駄目な点②主人公の人生の転機となる重大な選択に説得力がいっさいない。本作でいえば、グレースがヒッチコックの新作映画への主演を諦め公妃としてそして母としてモナコに仕えることを決意するシーンがそれにあたるのですが、それがほとんど葛藤もないままにあっさり心変わりするものだから観客としては「え、そんな簡単に決めちゃうん?」と興醒めすること半端ない。駄目な点③物語のクライマックスとなる主人公の最後の演説の言葉がまったく心に響かない。彼女の苦悩がほとんど描かれていないのに、結論が「愛が私を強くしたのです!」って…。思わずずっこけそうになっちゃいました(笑)。という訳で、どこからどう見ても完全に凡作です。お年を召しても相変わらずお美しいニコール・キッドマンの美貌に免じて+1点。 [DVD(字幕)] 4点(2015-10-31 20:47:54) |
1133. チョコレートドーナツ
《ネタバレ》 「そうよ、あの子を引き取りたいの。もちろん簡単じゃないことは分かってる。だからといって放り出せと言うの?麻薬依存の母親も自分が他の子と違うこともあの子が望んだわけじゃない。なぜ、あの子がこれ以上苦しまなきゃならないの、何も悪くないのに」――。1979年、カリフォルニア。場末のゲイバーでダンサーをしているルディと地方検事局で検事をしているポールは、ほとんど一目惚れに近い形で恋に落ちたゲイカップル。今月の家賃の支払いすらままならないルディは、ある日、隣で麻薬依存の母親とともに困窮した生活を送る一人の少年と出会う。彼の名はマルコ。ダウン症で知的障碍もある特別な男の子だ。だが、自堕落な母親は彼のことをほったらかしにして、夜な夜な男と麻薬漁りに繰り出すのだった。心配を募らせていたルディだったが、とうとう母親が麻薬不法所持で捕まってしまう。「マルコをあの最低な養護施設に放り込むなんて許さない!」。義憤に駆られたルディは、そんな不幸な少年を引き取ることを決意する。同棲相手であるポールの協力のもと、何とかしてマルコを引き取ろうと奮闘するのだが、世間の差別や偏見の目はそんな彼らの前に大きく立ち塞がるのだった……。障碍を抱えた一人の不幸な少年と一組のゲイカップルの本物の親子のような深い繋がりを描いたヒューマンドラマ。ちょっとあまりにも作りが優等生過ぎるきらいがあるものの、なかなか見応えのある良品でしたね、これ。何が良いかって、まずは俳優陣のナチュラルな演技でしょう。特に、実際にダウン症を抱えたこのマルコ役の少年のキラキラと輝くような目にはすっかりやられちゃいました。そんな彼を引き取ろうとする2人のゲイカップルも、実際に何年も一緒に暮らしたんじゃないかというほど深い愛情を感じさせて何とも微笑ましい。彼らの迫真に満ちたドラマに最後まで終始釘付け。ただ、僕はずっと実話を基にした作品だと思って観ていたのですが、観終えたあとにこれがほとんどフィクションに近いと知って、ほんの少しですがあざとさのようなものを感じたのがちょっと残念(特に、手紙を巡る最後の展開は賛否が分かれるところ)。それでもこの作品に終始貫かれる、差別や偏見という人間の悪意に最後まで戦う覚悟のようなものに僕はいたく共感できました。ゲイだから、障碍を持っているから、貧困家庭に育っているから、だからきっと自分たちとは違う世界の人間だ……。そんな誰の心にももしかしたら眠っているかも知れない悪意の芽に立ち向かうことの大切さを、この作品から改めて教わったような気がします。うん、なかなかの良品でありました。 [DVD(字幕)] 7点(2015-10-19 14:12:04) |
1134. EVA エヴァ(2011)
《ネタバレ》 「目を閉じたら何が見える?」――。そう遠くない近未来。雪深いスペインの地方都市にアレックスという名のロボット工学者がやってくる。その街には最先端のロボット工学を集中的に研究する施設があり、さまざまなロボットと人間がともに暮らしていた。アレックスは、さっそくこの街でとある研究へと取り掛かる。それは人工知能を有し、自らの感情によって動く子供型ロボットを完成させるというものだった。モデルとなるべき子供を求めて街を彷徨っていたアレックスは、そこでエヴァと名乗る個性的な少女と出会う。大人たちの常識になどまったく捉われず、自由奔放に生きるそんな可憐な少女に、次第に心惹かれていくアレックス。自宅の地下にある誰も居ない研究室へとエヴァを招きいれたアレックスは、彼女をモデルにして究極の少女型ロボットを創ろうと試みるのだったが……。エヴァという可憐な少女の姿をしたアンドロイド、彼女を巡ってさまざまな研究者たちの思惑が入り乱れるSFドラマ。とにかくストーリーが一本調子過ぎて、途中でだれてしまうのが本作の最大の欠点ですね。人型ロボットを創ろうとする主人公とモデルとなる少女との交流が物語の中心となるのですが、これが大して面白くもないのに延々と続き、さすがに途中で「とっととロボット完成させろよ!!」と僕はキレそうになりました。主人公がかつて街を去ることになった理由が、兄と一人の女性を巡る三角関係にあるらしいことを匂わせる展開もあるのですが、これも匂わせる程度で曖昧なまま。この設定を活かして、過去と現代を交錯してみせるとかの工夫があればまだ見れたものになっただろうに、最後まで特に心惹かれることもなくひたすら単調な展開でございました。せっかく奔放な美しい少女に翻弄される孤独な中年男性という魅力的な設定を扱っているのに、それを全然活かせていないのが凄く勿体ない。もっとこの淫靡な世界観を全面的に追求していたら、もしかするとSFロリ映画という新たなジャンルを作ったエポックメイキングな作品になりえたかもしれないのにね。残念!物語の鍵となるエヴァちゃんが僕のロリ心をいい感じで突いてくるなかなかの美少女ちゃんだった(泡風呂の中でお母ちゃんに髪を洗われてるシーンなんて、「もうちょっと肩をあげてくれ~」と思わずエキサイトしちゃいました!)のと冒頭のガラス細工のような人口頭脳作成シーンにちょっぴりセンスを感じたので+1点。それ以外は、完全に凡作です。 [DVD(字幕)] 4点(2015-10-19 09:19:26) |
1135. アンダー・ザ・スキン 種の捕食
《ネタバレ》 イギリス、スコットランド。大きな車を乗りこなし、夜な夜な夜の街を徘徊する“女”は道行く男どもに声を掛け、独り者で急に居なくなってもしばらく誰にも気にされないだろう男を探し求めるのだった。彼女の色香に惑わされて家まで着いてきた男は、皆一様にまるで暗い底なし沼に引き摺りこまれるように彼女に捕食されてゆく。そう、彼女は何処とも知れぬ世界からやって来た捕食者なのだ。次々とその皮の内側にある中身を引き摺り出されていく、捕らえられた男たち。ところが、生まれつき顔の皮膚に障害を持つ醜い青年に出会ったことによって、彼女の冷酷な心にとある変化が起きていくのだった…。当代きっての人気女優スカーレット・ヨハンソンがオールヌードも辞さない姿勢でもって挑んだのは、そんな最後まで淡々と描かれるアート系作品でありました。うん、観終わってすぐの率直な感想を言わせてください。死ぬほどつまんなかったです、これ。この監督の「とにかく意味ありげで思わせ振りな映像を撮って、そこに神秘的な音楽を流しとけば、それだけでゲージツっぽい感じになるんでしょ」と言わんばかりの、観客を舐め切った余りにも独り善がりな唯我独尊的態度に僕は正直腹立ちが止まりませんでした。もうひたすら退屈!!場面が切り替わる度に、ただでさえ弱い因果律がそこでブツリと寸断されるので観ていて凄くイライラさせられます。キューブリックの正当な後継者かもしれないなんて誇大広告もいいところ!!たとえば、キューブリックの『2001年宇宙の旅』という同じような前衛的作品なんて、いくら難解で哲学的な映像が延々と繰り広げられようともそこにはしっかりとした因果律や観客に伝えたい明確なテーマが強固としてあるからこそ傑作たりえているのです。対してこの作品が観客に伝えたかったテーマってなんなのでしょう?「人間はその皮の下に色々なものを隠し持っているので、人を外見だけで判断するのは止めましょう」ってくらいのモンっしょ。薄っぺらいにも程がある!!ホント、ただただ退屈で無意味な2時間弱を過ごしてしまいました。 [DVD(字幕)] 1点(2015-09-09 01:30:17) |
1136. アデル、ブルーは熱い色
《ネタバレ》 「ねえ、エマ。初めて味わったのは何歳のとき?」「何を?」「女の子」「女の子?それは私が女の子といつキスしたかってこと?それとも食べたかってこと?」「キスよ、もちろん…。その先のことは後で教えてもらうわ」「14歳のときよ、アデル」「そう…、エマはやっぱり女の方が好き?」「両方試した、男も女も…。それでもやっぱり女の方が好き。アデル、絶対よ」「エマ、私もあなたとキスしたい」――。17歳の女子高生アデルは何処にでも居るような平凡な女の子。毎日バスで学校に通い、退屈な先生の退屈な授業を受け、休み時間は女友達とのどうでもいい恋バナをして、そして家に帰るといつものように家族揃ってご飯を食べて…、という平穏な日々を遣り過ごしている。そんな毎日に物足りなさを覚えたアデルは他の女友達のように彼氏を作ってデートをし、セックスだってしてみるのだけど、それでも心の空白を埋めることが出来ないでいる。「何かが違う」。そう感じたアデルは、彼氏とも別れ、友達に連れてこられたゲイバーで“彼女”に出逢ってしまうのだった。髪の毛を鮮やかなブルーに染めた彼女の名は、エマ。そう、彼女こそアデルが街中で偶然擦れ違ったとき、自分の心の深い部分に火を点けるような衝撃を与えて去っていった女の子だった。偶然の再会に、何か運命的なものを感じたアデルは、そんなエマと何もかもを捨ててもいいほどの情熱的な恋に堕ちてゆく…。自分の殻を破れないでいる平凡な女の子アデルと芸術家肌の奔放なレズビアンの女の子エマとの数年間にわたるそんな濃厚な愛の日々を詩的な美しい映像で綴るカンヌ映画祭パルムドール受賞作。とにかく、この監督は人の顔をアップで撮るのが好きみたいですね~。3時間という長い上映時間のほとんどがこのアデルとエマの顔のどアップで占められておりました。もう冒頭から、主人公アデルのスパゲッティやらケバブやらをくちゃくちゃ食べるシーンが延々と繰り返されるのですが、普通、そんな挑戦的な演出はものの見事に失敗するのだけど、この監督さんの映像センスは素晴らしいですね。このアデルという何処にでもいる平凡な女の子の等身大の魅力を見事に引き出していたと思います。そんな彼女を虜にしてしまう青い髪のボーイッシュな少女エマとの濃密なベッドシーンも全然下品じゃなく、かといって必要以上に綺麗に美化されている訳でもなく、この絶妙なバランス感覚は凄く良かったです。後半、互いの生活のすれ違いから2人は破綻に至るわけですが、そこで描かれるアデルの心理は女と女という狭い枠組みを超えた普遍的なもの。辛い失恋を経験した男女なら誰もが共感できる、切ないものでした。僕もちょっと過去の色んなことを思い出して思わず泣きそうになっちゃいました(笑)。ただ、いかんせん長い!!このストーリーなんてほとんどあって無きが如しお話に3時間弱はさすがに長すぎます。2時間弱くらいに収めてくれたらもっと完成度の高い傑作になり得ただろうに。そこらへんがちょっぴり惜しかったですが、充分見応えのある納得のカンヌ映画祭パルムドール受賞作でした。 [DVD(字幕)] 7点(2015-09-07 02:30:31)(良:2票) |
1137. ブランカニエベス
《ネタバレ》 むかしむかし、カルメンシータという女の子がおりました。年老いた祖母と平穏に暮らす彼女の父親はかつての天才闘牛士アントニオ・ビヤルタ。だが、父は獰猛な雄牛との競技中に事故に遭い全身麻痺という悲劇に見舞われて、さらには愛する妻をも失ってからずっと心を閉ざしてしまったのでした。幼い彼女を遠ざけ、欲深き悪女であるエルカンナと再婚した父を、それでも待ち続けていたカルメン。祖母の死をきっかけにとうとう父と念願の再会を果たします。ところが、迎え入れられた父の屋敷には継母である悪女エルカンナが君臨し、カルメンは虐げられた不遇の日々を過ごすことに。それでも継母の目を盗んで、カルメンは父との交流だけを糧にそんな生活に耐えていたのです。でも現実は何処までも残酷です。カルメンの生きる支えだった父も継母の策略で殺されてしまうのでした。邪魔者となったカルメンも森の奥深くに捨てられてしまいます。辛うじて生き延びることに成功したカルメンは、そんな森の中で「7人の小人闘牛士」を名乗る愉快な小男たちと出会い、数奇な運命に翻弄されていくのでした……。1920年代のスペインを舞台に、『白雪姫』という誰もが知る童話をベースとしながら、そんな女闘牛士として美しく成長していくカルメンの姿を詩情性に満ちた美しいモノクロ映像と情熱的な音楽で綴るサイレント・トーキー作品。ほとんど予備知識もなく、ただゴシック調のパッケージに記されていた「アルモドバルが絶賛!」という宣伝文句に惹かれてこの度鑑賞してみたのだけど、確かにアルモドバルが大好きそうな映画でしたね、これ。3Dやなんやと喧しい現代に於いて、敢えてモノクロサイレントという古風な作風で撮られた本作、その冒頭から漂ってくる並々ならぬ淫靡で独特な世界観に僕は完全にノックアウトされました。主人公カルメンの幼少時代を演じた少女がとにかく可愛くて、そんな彼女が迷い込むことになるおとぎの国の映像美なんて、もう監督のセンスが冴え渡っています。妖艶な悪女である継母の目を盗んで父との秘密の交流を図る一連のシークエンスなども、ぞくぞくするほど美しい。ただ、惜しむらくはそんなカルメンが大人になってからの後半の展開。『白雪姫』という物語に拘りすぎたのか、展開の先が読めるうえに、少々強引な印象が否めませんでした。特に毒りんごを食べてからの運命の人のキスを待つ最後の流れはさすがに無理があったような気がします。とはいえ、他の追随を許さない唯一無二の映像センス、情熱的なのにどこか淫靡な世界観を僕は充分に堪能できました。新たな才能の出現にひとまず喝采を贈りたい。 [DVD(字幕)] 7点(2015-09-05 00:45:38) |
1138. エスケイプ・フロム・トゥモロー
《ネタバレ》 この作品はフィクションです。ウォルト・ディズニー社や実在する企業、団体、人物などとは一切関係ありません――。愛する家族とともにディズニーリゾートへとバカンスへとやって来た会社員、ジム。ところが、旅行最後の日に、彼は会社から掛かってきた一本の電話で解雇を通告されるのだった。妻に心配させまいとそのことを内緒にしたまま、ジムは楽しい夢の国で最後のバカンスを謳歌しようとホテルの部屋を出てくる。無邪気にはしゃぐ幼い息子や娘たちとともに、そんな夢の国へと直行するモノレールへと乗り込むのだが、やはりジムはこれからのことが気がかりで心は落ち着かない。そんな浮かない気分のジムの前に現れたのは、ピチピチした身体で周りに色気を振りまくセクシーな2人の若い女たちだった。辿り着いた夢の国で、子供もそっちのけにしてそんなセクシーな2人組を追いかけ始めるジム。さらには、車椅子に乗った横柄な中年男性や、自分のことを誘惑してくる妖艶な美女といった謎めいた人々が次々と彼の前に現れ、ジムは不穏で淫靡なもう一つの“夢の国”へと迷い込んでいく……。誰もが知る某超有名テーマパーク内で展開されるそんな不条理な世界を、運営会社の許可も得ずにゲリラ的に撮影した映像で綴ったシュルレアリスム劇。はっきり言わせてください!!恐ろしくしょーもなかったです、これ。まず言っておきたいのは、この映画の舞台がディズニーランドである必然性ってなんですか?ただ単に無許可でこのパーク内で撮影したってことをウリにしたかっただけで、このディズニーランドという舞台が一向にストーリーに利いてきませんやん。きっとそうやって撮った映像を何とか頑張って無理やり一つのストーリーに仕立て上げようとして完全に失敗したパターンでしょう。もう独り善がりもいいところ。それに全編白黒で描かれる映像だってただ単に奇を衒っただけの凡庸なもので、1ミリたりともセンスを感じませんでした。中盤あたりからは、この主人公のおっさんのゲロやらうんこするシーンやらが何度か差し挟まれて、汚いったらありゃしない。とにかく不愉快千万!こんなしょーもない映画で観客から金を巻き上げたこの監督は、犯罪者といってもいいくらい酷い。ディズニーさん、今からでも遅くないんでこんなしょーもないクソ映画で金儲けしたこのアホ監督には大弁護団を組んで訴訟を起こしてコテンパンにやっつけちゃってください!! [DVD(字幕)] 2点(2015-08-28 21:34:32) |
1139. カニバル(2013)
《ネタバレ》 初めて獲物を愛してしまった――。普段は仕立て屋として真面目に働き、家では静かな独り暮らしを謳歌している孤独な中年紳士、カルロス。少々変わり者だが、仕立て屋としての腕も良いと近所の人たちからも評判で、教会の司祭からは高価なマントの修繕を頼まれるほど信頼されている。ところが彼はその仮面の下に、誰も知らないドロドロとした醜い欲望を隠し持っていたのだった。そう、彼は生まれついての冷酷な殺人者であり、殺した若い女の肉を夜な夜な食べる恐ろしい食人鬼でもあったのだ。その暗い欲求を抑え切れなくなった彼は、いつものように近所に越してきた女性を殺すと、切り分けた彼女の肉を冷蔵庫へと保管する。ディナーのごちそうとして、カルロスはその肉をワインと共に夜毎味わっていたのだった。そんなある日、彼の犠牲者の妹を名乗る美しい女性が現れる。彼女の名はニーナ。新たな獲物の出現に欲望を抑えきれなくなったカルロスは、「一緒にお姉さんを捜そう」と彼女に提案し一緒に警察署や行きつけの場所を廻り始める。ところが、しばらく一緒に過ごしていくうちに、カルロスはそんなニーナに名状しがたいある“感情”を抱き始めるのだった……。生まれついての快楽殺人鬼とそれを知らない若い女性との間に芽生えたそんな禁断の愛を淡々と綴ったサイコ・ラブ・ストーリー。なんですけど、ホント退屈極まりない映画でしたね、これ。映画が終わるまでほとんど音楽も流れないし、主人公である根暗~~な殺人鬼とコチラも同じく根暗~~なヒロインとの大して面白くもない言ってしまえばしょーもないラブストーリーが延々と垂れ流し。もう5分に一度は強い睡魔が襲い掛かってきて、僕は最後まで観るのが苦痛で苦痛で仕方なかったです。肝心の主人公が食人鬼という設定も、どうして彼がそんな猟奇的な行動に走るようになったのか、生まれついての宿命なのか、それとも過去に経験した強いトラウマが原因なのか、最後まで一切説明されないので物語に全く入り込めません。このおっさん、ただ単にナイフとフォークで、ずーーっと肉喰ってただけですやん(笑)。監督としては恐らく芸術映画を撮ったつもりで良い気になってるんだろうけど、もう独り善がりもいいところ。ホント久し振りに、「時間と金を返せーーー!」と大声で叫びたくなるほどのこんなにもつまんない映画を観てしまいました。 [DVD(字幕)] 3点(2015-08-25 21:40:14) |
1140. GODZILLA ゴジラ(2014)
《ネタバレ》 「ゴジラ」――。終戦直後の日本が生んだ、この世界に誇る大怪獣がハリウッドで、しかも巨額の予算を投入して映画化、しかも当時はアメリカが日本に投下して間もなかった原爆という悪魔に対する怒りをその創作の原動力としていたのに対し、本作のゴジラは大震災後に起きた原発事故によって日本にもたらされた未曾有の危機の暗喩として描かれているということを知り、なかなか興味深いものを感じてこの度鑑賞いたしました。まず最初に言っておくと、僕はずっと昔に記念すべき第一作目である白黒『ゴジラ』を観たのだけど、確かにその優れた脚本やゴジラという特異な魅力に満ちた怪獣の造形美などは充分に認めるものの、そこまで心に残るものを感じませんでした。なので、僕はゴジラというものにそんな思い入れもないまま、基本的にニュートラルな立場で最後まで鑑賞。結果、映画の出来として純粋に評価するならまあ“及第点”というレベルになるのではないでしょうか。2時間、ビール片手にポップコーンでも食べながら頭空っぽにして観るモンスター・パニック・ムービーとしてはぼちぼち楽しめると思います。肝心のゴジラが一向に出てこないやーん!とか、魅力的なキャラクターなり印象に残るシーンなりがほとんどなーい!やら、映画の胆となるべきゴジラ大暴れシーンが暗くて見難いんじゃー!といった本作の欠点もまあ目を瞑れる範囲内であったと思いました。てか、つがいの巨大昆虫ムートーが交尾し卵を産んで子孫を増やそうという極めて自然な営みをしようとしていたのに、そこに勝手にやって来て邪魔するゴジラって、ムートー目線で見たらけっこうヤな奴ですよね(笑)。そんなリア充カップルに執拗に嫌がらせをしに来る非リア充の哀しき男子・ゴジラ君が大活躍するクライマックスに僕は思わず応援せずにはいられませんでした。うん、ゴジラ君にはこの勢いで世の中のムートーみたいなカップルたちをとことん蹴散らしてもらいましょう!!頑張れ、ゴジラ!! [DVD(字幕)] 6点(2015-08-24 00:17:37) |