1. トレーニング デイ
《ネタバレ》 まさに“トレーニングデイ”ならぬ“アロンゾ・ハリス刑事の最悪の一日”、これが午前5時から真夜中までのわずか19時間の出来事とは信じられないような濃密なストーリーですね。今までゲップが出るほど見せられてきたロス市警の悪徳警官ムービーだけど、さすがデンゼル・ワシントンが演じるとなると一味違った出来になります。彼は本作でオスカー受賞したけれど、正義のヒーローも悪辣な犯罪者も堂々と演じきれるところがこの人の凄味なんですね。いちおうバディ・ムービーのような形式ですが、相方が“ヘタレのプリンス”と呼ぶに相応しいイーサン・ホークなのもいいですねえ。普通のバディ・ムービーならばタイプが正反対な二人が段々と理解しあってゆき悪と闘うという展開なのですが、それをまるっきり逆手にとったようなストーリーテリングが秀逸です。まして主役がデンゼル・ワシントンなんですから、ところどころに挿まれる先輩としての教訓じみた説教があるので、予備知識ゼロで観始めたらきっと騙されるというか衝撃を受けるでしょう。冒頭のワシントンとホークの初対面からしてガツンときますが、この映画はアクションよりも登場人物同士のやり取りの緊張感が強烈です。とくにイーサン・ホークがギャングの家に置き去りにされてポーカーをやらされるところからの緊迫感は、もう半端ないです。これは有名な『グッドフェローズ』でのジョー・ペシがまき散らす緊張感と肩を並べるんじゃないかな。まあいくら悪徳刑事とはいえど警察署にまったく立ち寄らないのはなんか不思議な感じもしますが、デンゼル・ワシントンが演じたキャラは90年代に逮捕された実在のロス市警の警官をモデルにして演技したそうで、ほんとに米国の警察組織はどうかしてます。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2025-01-31 21:24:15) |
2. オーディション(2000)
《ネタバレ》 前半から中盤までは三池崇史の作品とは思えない淡々とした穏やかなストーリーテリング、再婚相手を探すために映画の主演女優募集のオーディションを開催するなんていかにも業界人あたりが考えそうな手口だが、さほど違和感がある設定ではない。ところが世界中の映画人から最凶の評価を得ている本作だから、そんなホンワカとし続ける訳がない。この映画の秀逸なところは、中盤以降に謎の女・麻美の本性や過去が現実の中にカットバックされるところで、これが終盤の悲惨な目に遭う石橋凌にも使われて「これは夢なのか、はたまたパラレル・ワールドなのか?」というまるで悪夢を見せられている様な不安感に突き落とされます。有名な拷問シークエンスはイーライ・ロスがきっと観て喜んだろうなという凄惨さ、これはきついです。あの“足首からキリキリキリ…”は、きっと『ソウ』シリーズ第一作目に影響を与えたんだろうなと確信しました。石橋凌が針をブスブス刺されるところは、逆に『ヘルレイザー』シリーズのピンヘッドのオマージュなのかもしれません。強いて言えば私にはしいなえいひ=麻美の演技力がイマイチで、狂気の果てを飛び越えたような人間の姿が希薄で単なるメンヘラ女にしか見えなかったのは残念でした。 本作が『リング』と並んで『死ぬまでに観たい映画1001本』に選出されているのは妥当でしょう。でも本当に怖いのは、霊じゃなくて人間なんですね。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2024-12-25 21:58:19)(良:1票) |
3. セルラー
《ネタバレ》 これは面白い、いや抜群に面白いと言っちゃいます、20年も前の映画なのに自分はなんで今まで観てなかったのかと不明を恥じるばかりです。まずストーリーテリングのスピードが類を見ないぐらい突っ走っています。この映画の原案はラリー・コーエンですが、ほんとこの人はストーリーを思いついたり脚本を書かせたら天才的な才能を発揮します、なぜか監督させたらどうしようもなくヘボなんですけどね(笑)。オープニング早々いきなり踏み込んできた男たちに拉致されるキム・ベイジンガー、屋根裏部屋の密室で監禁されますが、部屋にある粉々にされた電話機の回線を繋いで外部と連絡を撮ろうとします。高校の生物教師という設定の彼女がなんでそんな機械的な知識を持っているんだろう?と突っ込みたくなりますが、まあそこは良いでしょう。これまたなぜか彼女の電話がクリス・エヴァンスの携帯電話に繋がってしまうのですが、そこからはもうノンストップ・サスペンスの始まりとなります。この映画は脇を固める連中のキャラが立ちまくっているのが特徴。情け容赦ない誘拐グループの隊長挌なのが若き日の“ハゲ無双”ジェイソン・ステイサムなんですよね、というか20年経ってもヘアスタイルや風貌が全然変化してないのがある意味凄い。今や女(男にもか)にモテモテの正義の味方しか演じないスタイルみたいなジェイソンの、希少な純悪役キャラというのは貴重なのかも。やっぱこのおっさん、悪党面ですよね。当然のごとくにラストでは射殺される訳ですが、映画の中でこの人が殺されるのは後にも先にも本作だけじゃないかな。あと定年間近で妻とスパ・サロンを開店することにしか興味が無さそうなウィリアム・H・メイシー、観てて「きっとこのボンクラ警官が最後には活躍するんだろうな」と容易く予測出来たけど、それでも終盤は胸がすくものがありました。ラストでキム・ベイジンガーに「あなたに何かお礼ができることないかしら?」と尋ねられて「それじゃあ、二度と僕に電話しないでくれ」と返すクリス・エヴァンス、洒落てますよね。それにしても映画に登場するLA市警は悪徳警官とボンクラばかりいる印象、これも実態を反映しているのかな。これまたびっくりしたのが携帯の画面を使ったエンド・ロール、こんな斬新なアイデアを思いつくとはこれもラリー・コーエンの功績なのかも。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2024-12-19 21:41:55) |
4. サンシャイン 2057
《ネタバレ》 この映画では2050年には太陽がなぜか活動が弱まって地球が凍り付くという設定だが、太陽という恒星は水素がヘリウムに変換される核融合によってエネルギーを放出しており、一説ではその燃料が枯渇する63億年後には赤色巨星となって消滅するそうです。その燃料となる水素の減少によって逆に太陽からの放射エネルギーは徐々に増大していて、5億年後には地球は焼け焦げた惑星と化して生命が存在できない環境となるだろうとの予測もあります。まあ今からたった50年後に太陽が活動縮小するなんてことはあり得ないことですが、そこはSFだから全然ありですね。 ほぼ宇宙船内だけでストーリーは展開し登場人物はモンスターと化すマーク・ストロングを含めても9人こっきり、イカロス2号の乗員たちは8人中3人が東洋系でわれらが真田広之が船長!でも序盤であっさり退場しちゃったのは残念でした。イカロス2号の外観や船内はよく造りこまれていると思いますが、“地球の核物質をすべて使って製作したマンハッタン島ぐらいの大きさの核爆弾”というのが宇宙船のどこに装着されているのか不明。ラストで太陽に打ち込まれるその爆弾はどう見ても普通(?)の大きさで、ちょっと大風呂敷を広げ過ぎじゃない(笑)。本作はダニー・ボイルと脚本アレックス・ガーランドの最後のコンビ作だけど、その後監督業に進出したガーランド作品の暴走ぶりを考えると、ボイルは彼を良くコントロールしていたなと思います。でもこれだけは言っておきたいんですよね、この映画は中盤以降の展開はその10年前に撮られた伝説の怪作SF『イベント・ホライズン』とそっくりなんですよ。なぜかモンスターと化したイカロス1号の船長マーク・ストロングの登場は、ここに由来していたとしか思えません。とは言え『イベント・ホライズン』ほどのモンスター風味は薄く、ガーランド脚本特有の哲学趣味というか臭みが濃厚だったのも確かですけどね。 けっきょく登場人物は全員死んでしまったが、人類は救われる(のかな?)という結末は陳腐ではあるけどラストカットはダニー・ボイルらしさがあって良かったと思います。彼は本作でよほど苦労したらしく「もうSFは二度と撮らない」と語ったそうですが、それは確かに正解だと思いますよ(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-12-10 22:06:28) |
5. バッド・ルーテナント
《ネタバレ》 ハーヴェイ・カイテルがフルチンで怪演する『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』も昔観ていますけど、薄れた記憶を辿ってみてもヤクと博打の依存症な悪徳刑事が主人公ということ以外は、全然関連性がないと言っても過言じゃないでしょう。これじゃリメイクとは言えないんじゃないかと思うんだけど、実は監督のヴェルナー・ヘルツォーク自身も「この映画はアべル・フェラーラ作品のリメイクじゃないよ」と言っているし、じゃあ誰がリメイクと言い出したのかな? フェラーラ作品でのハーヴェイ・カイテルの怪演は有名だけど、本作のニコラス・ケイジの迫真の演技はそんなもん遥かに凌駕しています。ヴェルナー・ヘルツォークと言えばクラウス・キンスキーとの因縁コンビが有名だけど、実はニコジーとの相性も負けず劣らずだったんじゃないかな。ニコジー自身は本作の後の借金に追われて薄利多売の身に陥る10年以上続く低迷期の直前で、彼の全盛期の凄味が判る最後の輝きが本作だったんじゃないかな。ヤク中寸前で博打にも負け続きで首が回らなくなっている悪徳刑事テレンス・マクドノーは、まさに当時の彼自身の分身だったのかもしれません。 これはマクドノーの幻視だったんでしょうが、部屋でなぜかイグアナが動きっ回ったり射殺されたはずの男がブレイクダンスしたり、いかにもヘルツォークらしい演出だったと思います。どんどんドツボに嵌まってゆき自滅してゆくマクドノー、ところがラストにかけて急展開してゆきまさかのハッピーエンドとは、これぞまさにこの映画最大のサプライズでした。まあ考えてみれば悲惨な末路を迎えるマクドノーを見せても何の面白味がないでしょうし、自分としてはこれが正解だったんじゃないかと思います。最近は得てして揶揄の対象になりがちなニコラス・ケイジという名優の才能を、再認識するには最適の作品じゃないでしょうかね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-11-05 22:58:56) |
6. ボウリング・フォー・コロンバイン
《ネタバレ》 “世帯数が1,000万のカナダには700万丁の銃が存在するが、銃による殺人は米国の百分の一である”この映画の中ほどとラストのチャールトン・ヘストンのインタヴューで言及される事実だけど、この驚愕の数字こそがマイケル・ムーアがこの映画で訴えたかったことの核心なんじゃないでしょうか。さすがに彼にもあからさまには言えなかったけど、要は「俺たちアメリカ人はちょっとおかしいんじゃないか?」ということなんです。先住民たちを殺しまくって国土を拡大させてきた上に国内にいる多数の元黒人奴隷とその子孫たちが怖いので銃が手放せないんだ、と言うのは通説なのかもしれないが、そもそも“市民が武装する権利”なんてものを憲法に明記している国家なんて他にありますかね?こんな狂気を秘めた国家を攻撃したらどんな目に遭うかは日本は身に染みているはず、なんせ真珠湾を空襲したために最終的には三百万人近くが殺されて原爆を二発も落とされたんですからね。奇しくも9.11の犠牲者と真珠湾で死んだ兵士はほぼ同数、その結果アフガンと巻き添えを喰らったイラクは国家が消滅するほどの攻撃を受けたってわけです。 『進め!電波少年』のネタ元となった取材方法で一世を風靡したマイケル・ムーアですから、彼のそれまでの突撃アポなし取材の集大成として彼のキャリアのエポック・メイキングとなったのは周知のとおりです。ドキュメンタリーといっても彼の問題意識と怒りが軸となっていますから、やらせとまでは行かないまでも後に問題視された編集があることも確かです。まあ社会問題を扱ったドキュメンタリーは、観る者がその問題にどのような関心があるかで感想が違ってくるものですが、巧みな語り口なのでとくに米国人以外の観客には共感を得やすいんじゃないでしょうか。確かに自分にも「なるほど」と納得さてくれるところが多々あり、とくに全米ライフル協会とKKKが同年に設立されたという事実には、なんか背筋が寒くなるところがありました。 悪意のある編集をされたみたいだけど、言ってることはともかくとしても堂々とマイケル・ムーアのインタヴューを受けたチャールトン・ヘストンの姿勢は評価したい。でもムーアがヘストン邸を去る際に門脇に置いた学校で射殺された六歳女児の写真がどうなったかと考えると、ちょっと胸が痛みます。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2024-10-28 21:59:25) |
7. ニュースの天才
《ネタバレ》 アメリカでは『The New Republic』誌は政治問題を主に扱ういわゆる高級誌という位置づけなんだそうだが、例えとしては適当じゃないかもしれないが一昔前の朝日ジャーナルみたいな感じなのかな。その雑誌の若い20代の記者が書いた捏造記事のお話ですが、日本でも最近(自称)高級新聞の誤報(ほとんど捏造というのが正解)事件があったので興味が惹かれる題材です。この映画を観れば判るけど、この記者が捏造した記事は、お堅い政治記事が並ぶ同誌の中では暇ネタに分類されるような面白さを追及した記事です。こう言ってしまうと身もふたもなくなるが、国益を損なうというか国際問題にまでつながった(自称)高級新聞のやらかしとはスケールが違います。『The New Republic』誌の事件はあくまで記者個人がやらかした捏造で社の組織的な関与が疑われる日本のケースとは別種ですが、捏造された数十本の記事を解明してきちんと謝罪したこの雑誌の姿勢は見習うべきでしょう。 ヘイデン・クリステンセンが演じる捏造記者は、彼の爽やかなイケメンぶりにも関わらず終始反吐が出るほど嫌なキャラです。編集長から追及されている時には逆切れして彼に無茶苦茶な論旨で責任転嫁し、クビになって弁護士同席で査問されるまで非を認めないというクズっぷり、もっと初期に「ごめんなさい、捏造しちゃいました」と謝罪すれば良かったのにねえ。実に幼稚なサイト捏造や手製丸わかりの名刺、おまけに弟まで使って偽物を演じさせる、あれで何とか切り抜けられると思っていることに観ていて腹立たしくなってしまいます。こういう逆感情移入とも言うべき効果を観客に与えていること自体が、この映画の秀逸なところなんでしょう。彼を追いつめてゆく編集長ピーター・サースガードの、真相を知るにつれてどんどん無表情になって口数が少なくなってゆく演技、本当に怒った大人って確かにこうなりますよね。対するクリステンセンは追い込まれると被害者ぶって部屋の片隅でうずくまって同僚に媚びを売る、これはもう大人と子供の物語という感すらありました。 卒業した高校で成功した先輩が職業体験授業をしているという語り口が並行するストーリーテリングですが、ラストでそれがクリステンセンの妄想(捏造)だったという幕切れも秀逸でした。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2024-10-13 22:24:33)(良:1票) |
8. ウォーク・ザ・ライン/君につづく道
《ネタバレ》 正直なところ、ジョニー・キャッシュやジューン・カーターはかろうじて名前を聞いたことあるぐらい、ジェリー・リー・ルイスに至ってはこの映画で初めて知った程度の予備知識でした。この当時のヒットソングは、カントリーミュージックなのかロカビリーなのか区別しにくい感じのサウンドで、自分がイメージするロックンロールよりも泥臭い感じがします。そんな50年代からのレジェンド・シンガーであるジョニー・キャッシュとジューン・カーターの伝記映画なのですが、ホアキン・フェニックスとリース・ウィザースプーンという癖が強いキャスティングですのでけっこう胃もたれがするような映画になったかなと思います。なんせあのホアキン・フェニックスですから、観ていていつキレだすかドキドキしてしまいますが、かえってこれが妻との不和や薬物中毒に溺れるエンターテイナーとしての迫真の演技につながっています。リース・ウィザースプーンはその癖のある顔つきで日本では人気があるとは言い難いし自分にも苦手な女優の一人ですが、オスカーをゲットするのは納得の熱演です。そして演技以上にすごかったのは二人の歌唱力で、これがプロ歌手の吹き替えじゃないってのは信じられないぐらいです。ほんとにハリウッド俳優たちは、音楽については芸達者な人が多いですね。ホアキンが演じるキャッシュは幼いころに兄を事故死で失ったトラウマや父親との不和など根性がねじ曲がりそうな要素があることは判りますけど、あまりに自己中的な言動が目立ってとても感情移入できるキャラではなかったですね。実話なのかは知らいないけど、コンサート中に途中で歌唱を中断して「結婚を承諾してくれなければ、もう歌わない」とジューン・カーターにプロポーズするなんて、いやこれはプロとしてはやっちゃいけないことでしょ(笑)。劇中にも登場するキャッシュの最初の妻との娘は、自分の母親の描き方が酷いと激怒したそうですが、たしかに前妻ヴィヴィアンは夫に理解のない嫌な女という観方になってしまう撮り方でした。関係者が存命なうちに製作する伝記映画には、いろいろと厄介なことが付きまといますね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-09-15 22:49:59) |
9. リトル・ミス・サンシャイン
《ネタバレ》 ロードムービーではその物語の根幹を造る旅の目的が重要なプロットになるけど、ドン詰まってバラバラな関係となってしまった家族と親族の六人がおんぼろマイクロバスに乗ってカルフォルニアのチャイルドミスコンを目指すというというのは、よく考え抜かれた脚本だと思います。実質この六人だけで進行するストーリーだけど、六人が皆で素敵な演技のアンサンブルを見せてくれます。アメリカと言う国は異常なまでに勝者と敗者に拘る社会なんで、人々は”敗ける”ということには屈辱と恐怖を持ってしまう傾向が見られます。日本のようにいわゆる判官贔屓というような感情はアメリカ人には無さそうですね。本作のオリジナル脚本家は、知事時代のシュワちゃんが「私がこの世で一番嫌いなものは負け犬だ、私は彼らを軽蔑する」と高校生相手にドヤったことに腹がたったのがこの脚本を執筆するきっかけだったそうですが、その後のシュワちゃん自身がケネディ一族の妻から離婚されてからは転落していまや負け犬になってしまったのは皮肉なことです。 やっぱこの家族の中でいちばん光っていたのはエロ・ヤク中爺さんのアラン・アーキンであることには異論がないでしょうが、それでも特定のキャラに重点を置かずに個性派俳優たちの演技の化学反応を愉しませてくれる演出が秀逸です。とくにミスコン会場に到着してから家族総出で舞台に上がってダンスするクライマックスへの流れは脚本が上手過ぎて感心しました。2000年代以降に撮られたロードムービーとしては、今のところ最高傑作なんじゃないかと思う次第です。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2024-09-06 23:08:44)(良:1票) |
10. リプレイスメント
《ネタバレ》 アメフトのことは全然判らない自分ではあるが、力士をアメフトの選手にしたら最強なんじゃないかと思ったことがありました。もちろんある程度走ることが出来たらばという前提だけど、相撲取りは実はけっこう短距離ならダッシュ力が凄いんだそうです。そんな妄想がまさか映像として観れるとは、でもそいつはフミコという名前で「ナンデスカ!」というのが口癖のヘンな奴でした(笑)。 もうこの映画は誰が観たって『メジャーリーグ』のアメフト版なんですけど、80年代青春映画の巨匠ハワード・ドイッチェが監督ですから実に爽やかな仕上がりとなっています。コメディ度合いは『メジャーリーグ』ほど強くはなくて、所詮代理選手なので正規メンバーに席を譲らなければならないほろ苦さもきちんと描くところが、さすがドイッチェらしいところです。プレーオフ進出を果たしたのに翌日には元の生活に戻ってゆく代理選手たちが、ラストで懐かしの“恋のサバイバル”に合わせてダンスするところでは、ちょっとジンときました。アメフトに詳しかったらもっと愉しめただろうなと感じましたが、そんな門外漢でも楽しめるということはこの映画が良作だということでしょう。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2024-06-13 21:25:28) |
11. アポカリプト
《ネタバレ》 ハリウッドきっての変態映画作家メル・ギブソンのまさに本領発揮と言えるでしょうな。実はほとんど予備知識なしで観ていたため、ラストを観るまででっきり有史以前のお話しだと思っていました。実はスペインが来襲してくる直前のマヤ帝国のお話しだったんですね。こちとら日本人だから始めから字幕で鑑賞するタイプなのでどうってことないですが、全編セリフがマヤ語とはさぞかしアメリカ人の観客は戸惑ったことでしょうね。上映時間の半分ぐらいは密林の中で撮影された映像、滝つぼに飛び込むところを含めてこれは『アギーレ/神の怒り』に匹敵する様な過酷な撮影だったんじゃないでしょうか。男は皆ふんどし一丁みたいな半裸なのに、女はいちおうワンピース形の衣装で露出が少ない。これは多少はコンプライアンスを意識した結果なのかもしれないけど、違う要素でR指定を喰らってんだからこりゃ世話なしです(笑)。でも血生臭い描写にはこだわりのあるメル・ギブソンにしては、本作はそれでもおとなしめだったような気がします。ストーリー自体は尺が三分の二を過ぎたぐらいから急展開ですが、これを指して町山智浩氏は「コーネル・ワイルドの『裸のジャングル』のパクりだ」と指摘しているけど、『裸のジャングル』も観たことがある自分としては、これはちょっと的外れの様な感があります。たしかにマン・ハント劇としては一緒だけど、本作はただの殺し合いで『裸のジャングル』のラストで観られるような狩る者と狩られる者の融和と言うような要素がありません。かなり強引な解釈の様な気がします。 ラストのスペイン人たちの上陸には主人公たちを苦しめたマヤ文明の滅亡が暗示されていると思いますが、メル・ギブソンのことだからキリスト教徒の到来によって文明開化がもたらされるという啓示が意図として含まれているかもと、勘ぐってしまいたくなります。これからマヤ人たちはスペイン人と彼らが持ち込んだ天然痘によって、ほとんど死滅しかけるような惨状に追い込まれてゆくわけです。主人公とその妻子たちに待ち受ける未来は、さらに悲惨なことになるんでしょうね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-05-18 22:22:05) |
12. オースティン・パワーズ ゴールドメンバー
《ネタバレ》 ひょっとして…と思ったらやっぱそうでした!このシリーズ、三作すべてが0点から満点まで満遍なく評価が分かれるという前人未到の偉業を成し遂げました、おめでとうございます(笑)。 前二作がかすむ豪華なカメオ出演の顔ぶれ、マイク・マイヤーズとトム・クルーズが前髪たらしてベッコウ眼鏡をかけると顔面相似形だったとはとにかくサプライズ!トムは前からちょこちょことおバカ映画に変なキャラでカメオ出演したことがあったけど、他の豪華な顔ぶれを眺めると、このシリーズはハリウッド業界では愛されていたみたいですね。相変わらずシャレたオープニングでしたが、続く本編は中坊でも呆れるような下ネタのオンパレード、期待通りでした。今回は特にウンコやオシッコのスカトロ・ネタが強烈で、お約束の影絵ネタに至ってはバカバカしさを通り越してシュールの領域に達していました。マイク・マイヤーズは驚異の四役、実際のところこの四つのキャラがどれも画面に映っていなかった時間は、上映時間中10分、いや5分もなかったんじゃないでしょうか、ほとんど彼のワンマン映画だと言えます。この人日本の映画ファンにはけっこう嫌われているみたいだけど、私は嫌いじゃないしこの芸達者ぶりはもっと評価されるべきじゃないでしょうか。ドクター・イーブルの潜水艦やセットなどはけっこうカネをかけているのも好感が持てるけど、ゴールドメンバーのキャラだけは、けっきょく彼だけが悪役を通したわけだけど、イマイチ意味が判らない存在でした。そして“お声が掛かればどんな映画でも出演する男”マイケル・ケインが当然の様に顔を見せてくれるのも嬉しかったです。20年余り前の映画だけど、この頃のマイケル・ケインはまだまだ若々しかったんですね、ほとんど70歳だったとはとても見えませんね。 [CS・衛星(吹替)] 7点(2024-04-27 22:06:16) |
13. PARTY7
《ネタバレ》 得点分布を拝見しますと綺麗に0~10点にバラけていますねこの映画、強いて言えば5点以下が弱冠多いみたいですな。まあこういう評価になるのもムリ無いかなというのが、私の感想でございます。まるで下北沢あたりの小劇場の演劇を見せられているかの様な典型的なドタバタ劇、これは計算の上で書かれたと思いたい登場キャラたちが繰り広げるバカ丸出しの会話と掛け合い、こういうところも小劇場チックなんですよ。まあこの中でいちばんおバカなキャラかと言いますと、怪優・我修院達也と『アントム・オブ・パラダイス』のウインスローみたいな扮装の原田芳雄か、甲乙つけがたいところです。ストーリーをまともに追ってゆくと途中でほんとバカらしくなってくるので、ラストのカオスがツボかどうかに評価の分かれ目があるんじゃないかな。オープニング・アニメーションは観れば判るように『キル・ビル Vol.1』のアニメパートでそのタッチがそっくり再現されているし、石井克人を起用するぐらいだからタランティーノもこのおバカ映画を観ていたのかな、彼にはウケそうですね。まあ自分もこういうのは嫌いじゃないけど、5点以上はつけられないなあ… [CS・衛星(邦画)] 4点(2024-02-29 21:50:27) |
14. once ダブリンの街角で
《ネタバレ》 どっかで観た顔だなと思ったら、おお、“男”は『ザ・コミットメンツ』のギタリストだった人じゃないですか。この人は元来プロミュージシャンなんで音楽性が高いのは当たり前ですけど、本来はこの役はキリアン・マーフィが予定されていたそうです。実はキリアンももとはロックシンガーだったそうなので、この世界線もちょっと観てみたいです。“女”はチェコのアナ・ケンドリックスという感じの容姿ですが、この時はまだ18歳だったみたいです。でも夫と別居している子持ち主婦という設定にはぴったりで、やっぱちょっと老けてるんだよな。 低予算が丸判りのオール手持ちカメラとロケ撮影の映像には、まるでドキュメンタリーかノン・フィクションの様な雰囲気があります。この映画に登場するキャラは冒頭で“男”のチップをかっぱらおうとする若い男も含めて、男女を問わずイイ人ばかりなんです。“男”の創る曲はフラレ男の元カノへの愚痴とぼやきと未練たらたらの歌詞ですが、確かに曲はイイですね。対する“女”はモーションをかけてくる“男”を頑なに拒むし、最後は“男”はロンドンにいる元カノとよりを戻せそうし、“女”は夫をチェコから呼んで新生活を始めることになる結末。まあこの結末だけじゃ“男”がロンドンでアーティストとして成功するかどうかは未知数って感じだけど、ベタなサクセスストーリーじゃないところに好感が持てます。こういう何の進展もなかった男女の出会いって、自分も含めて経験したことがある人は多いんじゃないかな、人生ってそういうもんよ。因みにこの“男”と“女”を演じた二人は撮影後にほんとに恋人になって同棲したんだとか、もっとももうとっくに別れたみたいですけどね(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-02-20 22:51:54) |
15. マンダレイ
《ネタバレ》 ドックヴィルの集落を住民もろとも地上から抹殺したグレースと父親およびその手下たち、どうしてか相変わらずアメリカ南部をキャラバンの様に彷徨っていて、アラバマでマンダレイという綿花農場を通りかかる。そこでは今だに黒人奴隷が存在しており“意識高い女”系の気の病が再発したグレースはマンダレイに入り込んで奴隷を解放し、黒人たちに彼女が理解している民主主義なるものを教えて啓蒙して元奴隷たちが自立できるコミュニティを築こうと奮闘するのだが… ローレン・バコールやクロエ・セヴィニーなど『ドックヴィル』から続いて出演しているキャストもいるが、肝心のニコール・キッドマンとジェームズ・カーンの父娘など半分はラース・フォン・トリアーのオファーを蹴ったというか逃げられちゃったみたいですね。逃げなかった面々にしても、ほとんどセリフもない影の薄い役だったのは可哀想。『ドッグヴィルの告白』というドキュメンタリーを観ると、キッドマンなんかはもうトリアーのことボロクソに言ってましたな。代わってブライス・ダラス・ハワードとウィレム・デフォーの父娘となったわけですが、とくにデフォーはジェームズ・カーンより良い味出してました。彼はその後もトリアー作品にはチョコチョコ出演しているし、類は友を呼ぶというか気が合ったみたいです(笑)。 この映画は『ドッグヴィル』よりも、アメリカ合衆国というある意味奇妙な国家の闇というか負の歴史を前面に押し出しているところは好感が持てます。意識高い系の女・グレースの思考原理は学校で教えてもらったデモクラシーの理想そのもので、砂嵐の件など現実を見ようとしない理想論の欠陥が皮肉たっぷりに描かれています。黒人たちにしても俗にいう奴隷根性が丸出しで、”しいたげられた者は清く正しい“というステレオタイプを徹底的にコケにしています。実は“天敵がいなくて食糧・水にも不自由しない環境ではネズミはどこまで繁栄できるのか?”という事を研究した“ユニバース25”実験のことを思い浮かべてしまいました。これは4ツガイのラットが最高で2,200匹まで増えたけど日も経たずに全滅してしまったという有名な実験で、ネズミと人間を同一視するのは不適切かもしれないが、まさにこの映画でのマンダレイはネズミの天国と似たようなものなのかもしれません。またグレースの行動原理とマンダレイの関係は撮影当時の進行形だったイラク戦争の縮図そのものとも言えて、やっぱ欧州人じゃないと撮れないテーマだなとしみじみ感じました。 ラストで完全にドックヴィルの様に父の助けを借りてマンダレイも地上から抹殺しようとしていたグレイスだけど、15分遅れていた唯一の時計のせいで虐殺は回避されます。この時計は劇中で多数決で時刻合わせしたので遅れていたわけで、けっきょく民主主義が住民の生命を救うことになったというわけです、でも決して住民たちはそのことに気づくことはないであろうというのがある意味で痛烈な皮肉ですがね。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2023-12-29 23:07:26) |
16. スパイダー パニック!
《ネタバレ》 ノリはもう『トレマーズ』という感じのB級モンスター映画の王道です。細かい理屈はともかくとして、巨大化した蜘蛛たちが田舎の町を群れとなって襲撃!というシンプルな構成ながらもスピーディな展開で飽きさせない面白さがあります。アサイラムあたりのZ級とは違って人物設定などもきちんと造りこまれているのも良し。巨大化したと言ってもタランチュラ以外はせいぜいセントバーナード犬ぐらいで、蜘蛛としての分別は守ってすぐ殺せるのも好感(?)がもてます。でも群れとなって追っかけてくるところなんかは蜘蛛嫌いには卒倒ものだろうし、集合体恐怖症の方も要注意です。オスがメスに贈り物をして気を引くというコガネグモの習性を上手くストーリーに取り入れたりして、この監督きっと蜘蛛好きなんだろうな(笑)。ティーンのころのスカヨハが出ているところも得点が高い、今じゃ彼女がB級やインデペンデント映画に出演するなんてとうてい考えられなくなりました。所々に仕掛けている映画ネタや陰謀論ネタも、センスの良さが感じられます。けっこう死人が出ているのになんか笑えちゃう、ってところも『トレマーズ』風味がありました。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2023-11-18 23:32:17) |
17. マンディ・レイン 血まみれ金髪女子高生
《ネタバレ》 ヤリたい盛りの男女ハイスクール生が人里離れた別荘にバカンスに行って謎の殺人者に一人ずつ狩られてゆく、まあ言ってみれば典型的なB級スプラッタームービーなわけです。典型的な低予算映画で、序盤以降で別荘に着いてからは男女六人と別荘管理人の元海兵隊員(プラス殺人者)の八人でお話しを廻してゆきます。割と早いところで殺人者の正体が判明するので緊張感は皆無でしたが、セオリー通りなら元海兵隊員が銃を持ってるし活躍するところなのに、こいつが全然役立たずなのがちょっとしたサプライズでした。もちろん最大のサプライズはラストの展開となるわけですが、途中で観るのを止めようかというぐらいつまらないストーリーを多少なりとも救ってくれた功績は認めましょう。でもこの犯人の動機がまったく理解不能なのは困ったところで、けっきょく「なんじゃこりゃ」という感想になってしまいました。スプラッター映画としては描写は大人しめで、一部『悪魔のいけにえ』をオマージュというかパクったような映像もありました。まあアンバー・ハードのファンなら観ておいても損はないかな、という程度の出来です。 この映画は最初に出る製作会社のロゴは“ワインスタイン・カンパニー”、そうあのハーヴェイ・ワインスタインのプロダクションなんですね。ワインスタインは御存じの通り今は塀の中、下手すりゃ死ぬまで娑婆に戻ってこれないかもしれません。現在我が国でも某芸能事務所の創業者の犯した性犯罪で激震が走り、この事務所のタレントが出演したCMやドラマがどんどん中止に追い込まれています。もちろん製作された映画・俳優・スタッフには罪がないけど、“ワインスタイン・カンパニー”のロゴが出る映画は、もちろん新作があるわけじゃないですけど旧作も今後放映や配信に影響があるのかもしれないとふと思いました。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2023-09-26 22:46:21) |
18. 街のあかり
カウリスマキの“敗者三部作”の掉尾を飾るわけですけど、作を重ねるたびに悲惨になってきた主人公も、ついにここまでの境遇になってしまったかと嘆息してしまいます。三作の主人公の中でも本作のコイスティネンが最も無表情というか無感情の様に思えます。時は21世紀に入りフィンランドもEUに加盟していて通貨もとうぜんユーロになっています。それなのに10年前の第一作当時から時が止まってしまっていたような社会の状況、銀行は相変わらずゲス対応だしノキアの国なのにスマホどころかガラケーすら誰も使っていない。コスティネンは家族も友人もいなけりゃ職場の同僚からも嫌われている。挙句の果てには女に騙され宝石店泥棒の片棒を担がされて刑務所行き。出所して女と黒幕ギャングを見つけて復讐しようとするが、哀れ返り討ち。こんだけひどい目にあってようやく自分を理解して救ってくれそうな女性が身近にいたことに気が付いて呟くのは、「ここじゃ、死なない」、なんか最後にようやく希望が湧いてくる一言でした。 描き方によってはいくらでもダウナーになるストーリーなんだけど、カウリスマキ・マジックにかかると不思議とほんわかした映画になるのは不思議です。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2023-08-12 23:09:33) |
19. 過去のない男
《ネタバレ》 極寒の地であるために、ロシア語は口をなるべく開けずに発語できるように進化した言語だという説を聞いたことがあります。まさかフィンランド人も、なるべく無表情で生きて寒気に適応してきたのかな?そんなわけあるはずがない(笑)。なんていう妄想が浮かんでくるぐらい、少なからぬ登場人物がいるのに全員がほとんど無表情で、驚くべきことに誰一人笑顔すら見せない。ストーリー自体は、決してオフビートではないけどかと言ってシリアスというわけでもない、なんとも絶妙なバランスなんです。フィンランドの蟹江敬三と岸田今日子の淡いラブストーリーといった趣きなんですけど、やはりテーマは“敗者の人生やり直し”ということでしょう。過去のない=記憶がないというのが重要なプロットですけど、このフィンランドの蟹江敬三氏がほんとに記憶喪失なのかという伏線が埋められていて、あえてそれに回答を与えないカウリスマキの不思議なストーリーテリングはホントに彼らしい。冒頭の病室で、心肺停止したのに突然蘇って脱走するところからして「これは寓話です」と監督が宣言している感もあります。ホームレス状態から立ち直ってゆく過程も、決して平坦ではなく一歩前進・二歩後退という感じのもどかしさ。どん底に落ちた人生はあとは上がってゆけるもんだよ、と言ってもそんなに簡単なもんじゃないということなんでしょうが、ここは能天気なハリウッド映画とは一線を画する視点じゃないでしょうか。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2023-07-19 22:05:46) |
20. ディボース・ショウ
《ネタバレ》 日本でも大竹しのぶで『後妻業の女』なんてストーリーがあったけど、本家ともいえるコーエン兄弟作品ではセレブの世界のお話しとは言っても潔いまでカネがすべてでカラッとしています。ゼタ=ジョーンズの亭主も殺されたり病死するわけでもなく別れるわけですが、考えてみれば夫側弁護士のジョージ・クルーニーおかげで一銭も得られず、この映画の中ではそのあくどい戦略は成功したとは言い難かったんじゃないかな。まるで下手なラブコメみたいな終わり方といい、けっきょく彼女は悪女というキャラではなかったという事ですね。ゼタ=ジョーンズはこの頃はその美というか魅力が頂点に達していたので、こういう役作りは正解だったんじゃないでしょうか、コメディですからね。これをマジで撮ったら、『ゴーン・ガール』のロザムンド・パイクになっちゃいますよ(笑)。 まあこの映画は、ジョージ・クルーニーの顔芸を愉しめるかが評価の分かれ目と言えるかもしれません。コーエン兄弟はその後に『バーン・アフター・リーディング』や『ヘイル、シーザー!』などでクルーニーの顔芸コメディをエスカレートさせるわけですが、本作のような初期のころはまだバランスがとれていたような感じですね。やたらと歯並びを気にするところがまた傑作で、やはり彼はこういう気取ったセレブのような役柄が似合っているみたいです。所々にヘンテコなキャラが登場するのはいかにもコーエン兄弟らしいのですけど、驚いたのは冒頭でサイモン&ガーファンクルの『ボクサー』を口ずさみながら爽やかに(?)登場するジェフリー・ラッシュの使い方で、いやはや、なんと豪華なムダ遣いでしょうか。まあ所々でチクチク刺さるものがありましたが、コーエン兄弟らしくないラブコメだったというのが感想です。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2023-05-31 21:50:15) |