1. 国宝(2025)
《ネタバレ》 見せ方がうまい。ショットの確実な切り取り、安定した画面処理など、もはや巨匠の域に達した李監督の円熟の演出が冴えまくっていました。 とくに舞台の場面では、2006年の出世作において、自家薬籠中の物としたステージパフォーマンスを捉えるカメラワークがさらに進化していて、 歌舞伎の魅力を余すとこなく描写。寄りのショットのモンタージュなども圧巻で、映画という表現形態がもたらすカタルシスに酔ったしだいです。 ◇ ところで、私の先輩で松竹に長年勤められて、歌舞伎座にも関わったことのある方がいらっしゃって、今作についてのレビューに触れることができました。 松竹で歌舞伎を間近に見てきた方ならではの視点で論評されています。若干長いですが、ご参考に紹介させていただきます。 -------------------------------------------------------- 「歌舞伎ファンタジー映画の傑作」 二人の歌舞伎俳優を描いたファンタジー映画としての傑作だと思う(ただし、2回観た後の評価)。 ちなみに初めて観た後の感想は「長尺を感じさせない力作・佳作」って感じだったから、2回観て評価がアップ。 何故かと言うと、 〈一つ目の理由〉 初めて観た直後はポジティブな満足感とともに、いろんな「こだわり」も小骨のように引っかかってしまった。 例えば、 ①劇中のクライマックスの歌舞伎シーンはキラキラの音楽盛り盛り、ど派手映像で、俳優のアップの多用が映画的ダイナミズムを感じさせる一方で、「引き」のショットもあまりない。こちとら長唄、常磐津、清元、竹本が耳に馴染んでるし、当たり前だけど、劇場の客席から観る舞台はいつも「引き」の視点なんだよ、とか。 ②渡辺謙があまり歌舞伎俳優の雰囲気じゃないなぁ、とか。 ③わざわざ襲名披露の口上の場で血を吐かせるのか(原作がどうあれ、監督の演出がどうあれ、歌舞伎の興行者の立場として、あるいは歌舞伎ファンとしては、なんだか舞台を汚された気分で不快)とか、 ④年老いて引退した人間国宝の元女形・万菊が最晩年になんであいりん地区(?)の簡易宿にいるのか、とか、 ⑤あと、映画の評価とは関係ないケチくさいグチを承知で言えば、歌舞伎400年の歴史のうち、130年にわたってその伝統を守り、発展させてきた松竹へのリスペクトが足りへんなぁ、エンドクレジットに「協力:松竹株式会社」くらいあっても罰は当たらんやろ、東宝はん!とかね。 ただ、これらの諸々は歌舞伎ファンで歌舞伎の製作・興行会社の元社員としてのバイアスが利き過ぎていたかなと。 そして、何より、この映画は歌舞伎、歌舞伎俳優をめぐるファンタジーと割り切った瞬間に、ネガティブなこだわりが霧消した。 とくに①については、歌舞伎観劇の客には見ることの出来ない、映画としての特性を存分に活かした視覚的、音響的効果として素直に受け入れることが出来た。言うまでもなく、観客の視点ではなく、役者からの視点がダイナミックに描かれていたと思う。 ただ、④については、田中泯演ずる人間国宝の老女形(歌右衛門そのもの)が簡易宿で最期を迎えなければならないのは、ファンタジー映画としても、腑に落ちない。 〈二つ目の理由〉 一度目を見終わって、映画としてのレベルの高さを感じつつも、登場人物の心情やドラマの進行・物語の展開が大胆に省略されていて、人物の心の動きや事象の流れがスッと入ってこないなぁって思ってた。 ただし、2回目を観終わって、ああ、これってあえてそういう演出なんだなって。説明的にならず、客観的というか、メタ的にクールに撮ってるのかぁ、って。そう言えば喜久雄の描写もどことなくクールである。多くのものを切り捨て「芸」一筋に歩んで来た、そして人間国宝になった。 フラッシュバック的に頻繁に現れる紙吹雪の舞うカット。その背景は常に暗闇だった。喜久雄はその暗闇に代わる景色を探し求めていたのだろう。 ラストで喜久雄は圧倒的な「鷺娘」を踊ったあと、客席の彼方を見て「きれいやなぁ」とつぶやく。その先には暗闇ではない明るい色のついた、ただし、空っぽの空間があった。喜久雄は空っぽの空間の彼方に何かを見たのか。それは雪景色の中の父の死に様だったのか。 それとも芸を極めた無我の境地果ての空っぽの空間を、「きれいやなぁ」と表現したのか。いずれにしても、2回見てまだいろんな解釈の余地があるのは、やはり傑作なのかな。 -------------------------------------------------------- [映画館(邦画)] 10点(2025-07-21 18:52:45)★《新規》★ |
2. 新幹線大爆破(2025)
《ネタバレ》 能年さんがサニー千葉ばりにガスバーナーとか持ってもっと活躍してくれてたら、9点でした。 また、東映オリジナル作品のリンクとして、丹哲の息子さんが出たとこがめちゃ受けました。 総じて、ウエルメイドなエンターテインメント作品なんですが、 犯人がわかってからが失速しました。 背景説明になると、Change of paceになるのである程度しかたないですが、 9人になってからが少しまだるっこしかったです。 往年のパニック映画を夢見た大スペクタクル巨編としては物足りなさはあったものの、 現場で地味に頑張る職業人たちの矜持が描かれていてぐっときました。 ラスト、「ダイ・ハード」的ロングショットでつよぽんさんや能年さんを鉄道仲間らが ねぎらう大団円シーンに感動しました。 [インターネット(邦画)] 8点(2025-04-23 22:44:38)(良:1票) |
3. ゴジラ-1.0
《ネタバレ》 あのー、奥田瑛二さんの娘さんなんですが、復員してきた主人公にべんらんめい口調でなじるのが板についてなくて残念でした。演技派で鳴らす彼女にしては、もう少しなんとかならなかったんでしょか。 ヒロイン役の女優さんは他作品ではうっとりするくらい美人なんですが、今作では顔の輪郭がぼやけ、まぶたも腫れ、全体的にむくんでいる印象であんまりきれいじゃなかったです、すいません。寝不足で疲労がたまった状態で撮影したんでしょうか。あるいは、終戦直後の悲惨な境遇を表現するために、美しさを封印したのでしょうか。 そして、他の出演者ですが、 船長さんと学者さんは「今、私こういう演技をしてるんですよ」感が鼻についてしまって、しんどかったです。 「衝撃に備えろ!」の艦長さん、足を痛めた整備工さん、そしてヘタレの主人公あたりが及第点の演技だったと思います。 とくに、ヘタレさんが独特なフォルムの戦闘機を操縦しながら、若干うれしそうに外を見るところが好きです。 全体的に満足しましたが、1点だけすいません。 ラスト近くでタイトルロールに対して敬礼するのはどう考えてもおかしいですよー。 だって、東京で大殺戮を犯したわけでしょ。 大勢の人を死においやったそんな対象に敬礼なんかできますか、普通。 敬礼してる人の中には、親せきや知人が銀座で巻き込まれて命を落とした人もいるかもしれませんよ。 自分の親しい人を殺した犯人に敬礼なんかできますかって言うんですよ。 失礼いたしました。 [映画館(邦画)] 7点(2024-05-09 12:08:46) |
4. インディ・ジョーンズと運命のダイヤル
いや、もう、全然いけてますやん! 公開前にディスるようなレビューがあったから不安でしたが、 いつもの素晴らしい出来(前作以外)で最高に楽しめました。 活劇場面の連続性がすべて機能していて、高揚感に包まれること請け合いです。 風光明媚な世界の観光スポットに疑似的に行ける楽しさも再認識しました。 やはり当代一流のスタッフが創り上げた極上のエンターテインメントに間違いありません。 最後の空想科学的展開は、私の好きなネタでしたので、すっぽりその世界観に移行できました。 いやー、映画ってこんなファンタスティックなことができるんですねー。 もう、ワクワクしてしまってこの展開をもっと長く観たかったです。 女性主人公は見ごたえのある演技で大変よろしかったのですが、 終盤の活躍が荒唐無稽すぎて、そこだけなぜかリアル目線になって、 いやあー、それはちょっと無理でしょってな感じでしたわ。 そして、あのキャラクターの登場で目頭が熱くなり、 メインテーマ炸裂で少しだけ水分で濡れました。 [映画館(字幕)] 10点(2023-07-03 09:50:35) |
5. ケイコ 目を澄ませて
昔のATG作品を観ているようでした。やはりフィルム撮影はいいですね。被写体の質感、輪郭、色合いなどデジタルカメラでは表現できないですね。(精鋭感のあるデジタル撮影のカリカリ映像ももちろんいいところはあります) 大阪のシネマート心斎橋で見たんですが、この日は館内がちょっと寒くて、体調がよくなかったこともあって、もう一つ作品世界にのめりこめなっかたです。すいません。 鬼龍院花子の少女時代を演じた方が小野洋子さんに見えてしまったのが印象的でした。百恵さんの旦那さんなんですが、インタビューを受けてるときの演技は非常にいい味を出していました。しかし、帽子を主人公に被せる場面などは2人の関係性を描写する素敵な絵なのに、演技をしています感が出て、微妙な感じでした。すいません。 一番好きなシーンはリングの横で舞う埃がかすかに写るところです。うーん、いい写真撮ってます。 [映画館(邦画)] 8点(2023-03-30 10:26:46) |
6. シン・ウルトラマン
《ネタバレ》 光の国からの超人が大、大、大好きで、 史上最高に近い期待感を持って、初日に観ました。 もう、死ぬかと思うほど待って、待って、やっと観れました。 TOHOシネマズなんばスクリーン2:IMAX(画角は全編普通のシネマスコープサイズ)。 老人25%、中年60%、若者15%くらいの割合で満席でした。 結論。 最高に面白かったです。 こんなに血湧き肉躍りながら楽しんだのは久しぶりです。 本当に長いこと待った甲斐がありました。 このくらい頑張って作っていただいたら、大満足です。 ありがとうございました。 まず、オープニングのタイトルの出方ですでに泣きそうになりました。 そして、それに続くTVシリーズ前作の有効的転用と怒涛の圧縮展開。 あっと言う間に懐かしさと幸福感で満たされました。 心の中で拳をにぎりしめ、「よっしゃー、許す!」と叫びました。 タイトルロールが登場。その佇まいの美しさにまいりました。 2つの対象と対戦するときの動きがカッコよくて、TVと同じBGMも 相まって、ついに泣きました。 小学生のとき、白黒TVで見てたときの興奮が蘇りました。 このシーンだけでも観た甲斐があったというもんです。 また、オリジナルへのオマージュの数々がどれも好きです。 ただ、役者さんたちの演技に?マークがつく点が残念でした。 <不合格>(ご本人及び関係者の方々、どうぞお許しください) ・専従組織の非粒子物理学者 ・専従組織の汎用生物学者 ・専従組織の分析官(ぎりぎり不合格) ・専従組織の班長(ぎりぎり不合格) ※演技しました感が拭えませんでした、すいません <合格よ、chu!> ・専従組織の室長(この人はうまい) ・外星人第0号 ・専従組織の作戦立案担当官 ・サプライズ出演の政府要人 あと、CGが微妙でした。 予告動画のとき、CGがチープだという指摘に 監督さんは、デジタル処理過程でデコードがうまくいかなかったのかな、 本編ではそんなことはない、などとおっしゃていた気がしますが、 本編でもやはり予告と同じようにヌメーッとしてて、ソフビ感としていました。 TV放映のときのぬいぐるみ感とか、手作り感を出すためにわざとチープなCGにしたんでしょうか。 冒頭の、TVシリーズ前作の転用のときはCGの質感が現実っぽかったように思います。 そのクオリティで統一してやってほしかったです。 でも、それもこれも作品総体の素晴らしさの前には、重箱の隅をつつくような所業です。 その素晴らしさは、ぜひ、銀幕でご自身の目でお確かめください。 映画って、本当にいいもんですね。 また、ご一緒に楽しんでまいりましょう。 [映画館(邦画)] 10点(2022-05-14 16:26:29) |
7. パワー・オブ・ザ・ドッグ
Netflixで観ました。 はじめはかったるい西部劇(?)だなと思ってましたら、心理サスペンスと言いますか、スリラーに近い感じに展開していき、最後は敬服しました。 行間を読ませるように説明描写を極力省いてますので、わかりにくいところもありますが、卓越した演出の素晴らしさで見応えのある作品となっています。 自然景観の撮影に魅了されますので、できるだけ大きい画面で鑑賞されることをお勧めします。私は100インチスクリーンにHDプロジェクター投影して観ました。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-12-20 13:23:06) |
8. ドライブ・マイ・カー
《ネタバレ》 シネマート心斎橋で観ました。 3時間あるけど中だるみしないというふれこみですが、 韓国人夫婦の家での手話による会話の場面 と 終盤、献花を一本ずつ放り投げる場面 以上の2か所が長く感じました。 そして、ラストは車名をタイトルにした東森監督作品のラストと 同じテイストでした。 [映画館(邦画)] 7点(2021-12-15 19:19:48) |
9. シン・エヴァンゲリオン劇場版:||
《ネタバレ》 アマゾンのプライムビデオで100インチスクリーンに投影して観ました。 非常に複雑で難解でした。終盤、精神世界て言うんですか、登場人物たちの置かれたシチュエーションがどんどん移り変わっていって、頭が変になりそうでした。バトルなどのスペクタクルシークエンスよりも、昔の同級生らと過ごす山村場面など、普通のドラマのパートの方が幾分か理解しやすく、ホッとして良かったでした。また、女性のキャラクターが美人さんばかりでうっとり見とれました。最後、二人で駅の階段を上がり、駅舎を出て行くところに歌がかぶさった時点で、作者の意図やストーリーは全然理解できませんでしたのに、なんかこう気持ちが幸せになり、大変不思議でした。それと、途中でボーマン船長らが食べていたペースト状の食べ物が出てきて、うれしくなりました。 [インターネット(邦画)] 6点(2021-08-24 12:50:04) |