1. コンパートメントNo.6
《ネタバレ》 昨今は女が一人でいると怖い事件が多いので、列車が動き出した時から「怖い」「危ない」「やめておけ」の気持ちでいっぱいでした。 気が気じゃなかったですよ。だいたい客室で赤の他人の男と同室になるなんて90年代のロシアだから起こりうるのか?それも見るからに危険そうな若いロシア男。 訴え出ても融通の利かないこと世界一の旧ソ連式サービスの権化みたいなオバサン車掌は何もしてくれないし、わたしもすっかり途方に暮れましたよ。 それがねえ、この物語次々とこちらの読み(警戒心)を裏切っていくんですね。え、コイツの知り合いのとこに行くの?危ないよダメだよ・・ あ、本当に老婦人の住まいだった。猫もいた。寝過ごして置き去りかと慌てたらアイツ薪割ってた。オバチャンも弁当まで持たせてくれた・・。 ワタシの警戒心はその後もロシア人が登場するたびピリピリと発動したのだが、犬についていった先でもらった酒は本当に単なる歓迎の印だったし、ペトログリフまで送ってくれた男たちもむしろ親切だったのだ。なんならあの無愛想な車掌オバサンも若干打ち解けた空気になってたし。 素行不良のヤバい奴と見せておいて中身は5年生なリョーハを演じたユーリ・ボリソフが上手い。人との距離をうまく構築するのが苦手そうなリョーハのこれまでは想像するしかないのだけど、老婦人との関係も含めて興味深い奴だなあと強い印象を残します。 「こういう人だ」という思い込みは現実でも覆されがち。客車の中で出会う裏切りや、意外なとこで築かれる信頼は人生の縮図にも見えます。思い切って列車に乗るとそれまでの人生と違う景色が見えるのかも。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2025-06-25 23:13:46) |
2. NOPE/ノープ
《ネタバレ》 たくさん指摘されているように、ほんとシャマランの感じに似てます。いたって平穏そうな日々の画に不意打ちのように発生する異常事態。その後ずっと続くもやもやした嫌な怖い雰囲気。オチの精度はともかくとして、ストーリー全体が纏うスリラーな空気感は絶妙です。 広大な米国西部の荒野に等間隔に並ぶカラフルなチューブ人形と抜けるような青空、白い雲。~からの巨大クラゲ型エイリアン、と視覚に訴える情報も洗練されています。 でもこの監督のいつものテーマである社会問題については話の中でうまいこと咀嚼されてない。盛り込んだメタファーが多すぎてちょっと良く分かんないな。見下されてたチンパンジーが白人にキレる場面。アジア人の子どもには共感を見せるといったあたりは言わんとすることは分かりやすいけれど。 OJの家が赤く染まったのは聖書の予言通りということ?違うかな単なる視覚効果狙いかな。あと直立してる靴の意味はまったく分からなかったな。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-06-07 15:05:01) |
3. 教皇選挙
《ネタバレ》 ひゃー、(一見)高潔な宗教者らの権力闘争はこちらの期待どおりのえげつなさと生臭さでありました。一人の枢機卿の台詞にあったように「我々は神に仕えているが生身の人間だ」なんですよね。 野心を隠そうともしない者、水面下で地ならししていた者、発言だけは謙虚な者。クセ強なキャラクターが勢ぞろい。 選挙を左右しそうな真偽不明な噂だとか謎の報告書だとか、世俗の選挙と変わりないサスペンスフルな脚本でわくわくしました。 また画ヅラが素晴らしいですもん。格調高い法衣と歴史の重みに圧倒される礼拝堂での投票。投票箱(?)まで銀器(名称はわからない)なのかあ。 主人公の首席枢機卿が一度だけ名誉への色気を抱いたその瞬間に天窓が破壊され天井画と目が合う。「神の怒り」とローレンス氏が感じるように設えた描写は印象的でした。わたしは彼に教皇になってほしかったですが。 なにしろ世界一の格式と重厚感で満ち満ちた舞台。そんな空気に押し負けしないベテラン名優らの演技には圧倒されます。レイフ・ファインズ扮するローレンス枢機卿は作品中99%苦悩してる。亡き法王の部屋で一人男泣きするほどに。そのしんどさは枢機卿といえど中間管理職となんら変わりなく見えて、俗世間の我々としても大いに同情してしまいます。 候補者のスキャンダルや聖職汚職やらをやっとこ片づけて新教皇選出までこぎつけたというのに、今度は前代未聞の事態が出来するとは。 おそらく人脈乏しい新教皇はローレンス氏を今後も近くに置いて頼ることになるのでは。 ああ、ローレンス枢機卿の心の平穏はいつになるやら。私はカソリックじゃないけれど、彼のために祈りたくなりました。 [映画館(字幕)] 8点(2025-05-24 15:55:06) |
4. スイング・ステート
《ネタバレ》 現代アメリカの選挙狂騒っぷりを真正面からぶった切ってて面白かった。 民主党VS共和党という構図だけじゃなく、中央にいいように利用されて小馬鹿にされてきた地方の逆襲という筋書きもナイス。 お金なんですねえ、とにもかくにもこの民主主義社会は。 お金様が独り勝ち、というラストが直球すぎグロテスクすぎ。 S・カレルとローズ・バーンがやり過ぎなくらいにはっちゃけた怪演を見せてます。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2025-05-12 23:44:00) |
5. ニトラム/NITRAM
《ネタバレ》 実際に起きた事件で、実在の犯人の名MARTINを逆さ読みしたのがタイトルなんだとか。 こんな話を聞くと出口がなくてやりきれなくなる。 ニトラムの犯した罪は裁かれるべきだけど、知能レベルの低い彼をこの行いに追い込んだと思われる原因が見当たらないんですよね。 両親は精一杯やっていたように見受けられるし、篤志家の存在などは普通に願っても得られないレベルの僥倖でしょう。ヘレンはさすがにフィクションかと思ったけれど、彼女もちゃんと実在したらしいです。 ヘレンの死や事件の犠牲者を出さないためには何ができたのかしら。ニトラムの母を演じたジュディ・デイビスの疲れた顔。中盤以降は息子に対して遠慮がちになっているその辛さがぐさぐさと刺さって切なかった。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-04-12 23:35:45) |
6. ブラック・フォン
《ネタバレ》 安いホラーかなと根拠なく値踏みしての鑑賞だったけど、これがなかなか良く出来たジュヴナイル作品でした。 主人公のメイソン君がちょっと陰のある魅力的な15歳(くらい?)で、その妹がまた健気で肝っ玉座ってて大変好ましい。 誘拐された先でも、観る側の嫌悪感を掻き立てるような悪趣味な怖がらせをしない演出が好印象。友人や、街の不良先輩らの手助けを得てギリギリの環境下で心の成長を遂げる主人公が瑞々しくて、まさにジュヴナイルの世界線。 冷凍庫を裏からぶち抜いてもねえ表の扉がかんぬきではねえ。まったく不良ってバカなんだからもっと有用なアドバイスをしてちょうだいよ、とあの場面ではワタシも主人公と一緒に泣いてしまったがまさかラストに効いてくるとは。舌を巻いてしまいました。 友情と勇気で成長するお話ということで、そう少年ジャンプみたいです。もっとずっと暗めでえげつないですけど。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2025-04-05 23:19:46) |
7. ドント・ウォーリー・ダーリン
《ネタバレ》 この世界線が崩れそうになった時、アリスの夫が主張するんですよ「ここだったら僕らは完璧だ」って。50年代の、アメリカがグレイトだった時代を模した妙にペカペカした世界が。君にとっても理想の生活だろう?と。 びっくりしちゃうな。たとえ激務でへとへとのドクター職であろうと、アリスは自分の人生を生きていたんだよ。 自己決定力を取り上げられてもその安寧に甘んじられる人間とそうでない者といて、前者はアリスの夫でアリスは後者だった。なんでこの二人がカップルでいられたのかと不思議に思うくらいだわ。アリスの懐が深かったからだろうな ヒモ男を養うくらいには。「ドンウォーリー・ダーリン」て言ってくれて。 見ていた世界の皮がべろんとめくれて裏返ったら、仲の良い夫婦に見えていたのはエゴ全開の無能男とその犠牲になった女だった。なかなか衝撃で胸の悪くなる仕掛けでありました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-03-13 23:28:23) |
8. ジョン・ウィック:コンセクエンス
シリーズ4作目にしても揺るがぬコンセプト。数多の人間がゲーム画面のように派手に散り、演出から舞台設定から全てがサバイバルアクションのため。いかになぎ倒すか蹴散らすか、どの角度で撮れば効果的に人が吹っ飛ぶか。この熱意、熱量の大きさもう脱帽。 けれんみと犬。この辺の原点回帰も変に律儀。 観てるだけで体力使っちゃった。疲労した頭の片隅で「真田広之がいなくなったら美しい剣技を誰が受け継いでくれるのかなあ」などと考えていました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-03-06 22:48:33) |
9. モガディシュ 脱出までの14日間
《ネタバレ》 政情不安の国っておっかないなあ。うっかり大使館も置けないなあ。 韓国もダイナミズムあふれる経験が多いねしかし。ここ半世紀ほどを眺めても映画のネタになる実話が尽きない、というか。 脱出モノのセオリーどおりの安定したハラハラ感な作りで上手いです。隠れる「静」と銃撃戦を展開しながら逃走の「動」。そこにかの国ならではの事情、「北」も絡んできて話に厚みを持たせます。「あの人たちって素手で人を殺せるらしいわよ」とは韓国側の大使館職員の台詞。北に対する韓国の見方をちょっと垣間見た一瞬でした。 もっとも、北とのあつれきは若い男二人が取っ組み合いする程度の描写止まり。政治レベルのネタは描けないことが多かったのかも。 お金次第で動く現地警察、人助けする余裕の無い他国の大使館、撃ってくる反政府ゲリラ。リアルなその場の事情は経験者ならではの生々しさでした。 リアルといえば本を車体に貼り付けて防弾にしようというアイデア!いかに現場が切羽詰まっていたことか。ゴリラテープ何巻き使ったのかなあ。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2025-03-03 22:59:44) |
10. ヒトラーのための虐殺会議〈TVM〉
《ネタバレ》 説明なしに物語は始まる。 湖畔の瀟洒な屋敷に顔を揃える高官ら。議長のもと会議は進行する。各担当部署の代表らが集まったらしく、縄張り争いがあったり好かない奴への小さい嫌がらせがあったり、とサラリーマンのそれと何ら変わらない。 対象物のあまりの多さに輸送方法でまず一山あり。だがそこは有能な執行武官が良案を出してなんとかパス。 留め置く場所をめぐって「ウチばかり負担が多くないか」と公平分担を主張して引き下がらない管轄部署がいれば現行法の遵守を強く訴える役人もいる。 任務遂行に当たるドイツ軍人のメンタルに配慮する役人もいて、一見福利にも目配りができている。 場が紛糾すれば一旦ブレイクを取り、その間はあちこちの固まりにて行われる根回し。 ちょっとの意見の相違があっても全員がミッションの完遂に向けて意志は一つにまとまっているのだった。有意義な会議である。一見。 が、しかし。有能で効率的ゆえに観ているこちらは震えが止まらない。イヤイヤイヤ、なんでそんなに冷静かつ明瞭に論旨を述べるの。 誰も突っ込まないんだ。この場にいるんだから当然だけど。 こんなんなってしまうんだろうか。戦時なら。任務なら。怖すぎる。人間が。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2025-02-12 23:46:56) |
11. RRR
《ネタバレ》 濃い、くどい、過剰。インド映画の特質を際限まで盛り込んだ3時間。人の心の機微というものを、例えば小津映画やミニシアター系作品が何層にもなって構成されていると描き出したのに対し、本インド映画の人物らは三種類(怒り・喜び・悲しみ)ほどしか感情を発露しないのですね。単純明快、これこそインド映画の不文律。 加えて何事も大きく描くのでアクションシーンは人体としてあり得ないほど跳躍するうえ、スタミナは続くしイギリス人統治者らの極悪非道ぶりは悪鬼のごとし。 勧善懲悪を柱に友情や民族独立の大義までぶっ込んで実ににぎにぎしい。ご都合主義という言葉がかすむほど圧倒的な「我らの英雄が勝てば万事オッケー」な映画です。 これだけのボリューム。3時間の長尺をもってしても飽きさせない猛烈な展開に、制作陣の強靭な体力を感じました。私は終盤へとへとでしたが。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-02-08 10:29:37) |
12. MEMORY メモリー
《ネタバレ》 お話は凡庸で今さら、という内容。展開は浅いしまあこうなるだろうなと思ったとおりの落ち。ニーソンの認知症という設定もさほど活きてないし、ターゲットを同じくする元殺し屋とFBIの邂逅という本来ならヒリつく場面もあんまり盛り上がらない。 各キャラがありがち過ぎ。ニーソンはいつものニーソンだしピアースの「保身的な組織に反発して干される正義感強めの人物」キャラはこれまで何十人見てきたかしら。モニカの巨悪感も限りなく薄い。 大仰にメキシコだテキサスだと地名を表示するけど、そこを押さえておく必要も特に無い。平坦に話が進む。しばらくしたら間違いなく内容を忘れるであろうと思われる。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2025-01-17 23:14:18) |
13. トゥモロー・ウォー
《ネタバレ》 ある日未来から援軍要請が来る。子孫のために戦地に赴く現世の老若男女。コンセプトは斬新だし、「まだ起こってない危機に対して命を差し出す」ことへの“not my war"デモが発生したり、自己矛盾が生じるのを防ぐために派兵される年齢を中年以降に設定していたりと、なかなか細部まで目配りのきいた脚本だなと感心しました中盤までは。 未来と現世を行き来するタイムワープSFの世界観を深掘りしてくれたら傑作になったかもですが、中盤以降は良くある怪物退治モノになって失速した感があります。 家族間のドラマも横糸に織り込もうと頑張りましたがあまり成功してない。父と娘まではともかくJ.k.シモンズの役どころは不要に感じます。 とはいえ映像は気合と資金が大量に投入されていて大画面でこそ映える大作です。コロナ禍で上映叶わず配信へ下ろさなければならなかったとは、制作陣の無念は察するに余りありますねえ。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2025-01-14 22:59:21) |
14. スティルウォーター
《ネタバレ》 タイトルから内容が皆目見当がつかない類の映画。なので全くの丸腰での鑑賞となりました。なんだスティルウォーターって地名かあ、と序盤で分かるのですが、その単語が話のなかで大きな仕掛けとなっていたとは。気づいた終盤には唸ってしまった。 ちょっと長めの尺を使って人間関係を丁寧に描いてます。なんせ主演はM・デイモンですし他の役者も上手いのでダレずに観られました。マットと女の子のやり取りがとても良かった。べたべたし過ぎない距離感。気の合う二人が単語をレクチャーし合いながら一緒に作業する様子が微笑ましい。 サッカースタジアムでのシーンや警察がアパルトマンに踏み込むシーンは半端なくどきどきしました。物語の緩急のつけ方が実に上手い。 事件そのものを我々は父親の目線で追ってきたけれど、明らかになる事実は彼が信じていたものとだいぶ違っていたし、フランス人母娘との絆もまた思い描いていた方向とは違う形で着地してしまった。 娘は冤罪が晴れて帰ってきたのだからハッピーエンドには違いないけれど、こうも苦い味が残るとは。人生てこんなものだよなあ。「思ってたんと違う」これに尽きるよなあ。ねえビル。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2025-01-05 12:34:21) |
15. バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー
《ネタバレ》 己を笑うフランス人の諧謔理解度の深いこと。自国の大統領から大ヒット感動映画作品からあげく修復の済んだ至宝ノートルダム大聖堂までバカな小ネタにしてしまうシマツ。 こりゃオリンピックの開会式に首を抱えたマリー・アントワネットだって登場もしますわな。 しょーもない下ネタもぼちぼちあるけど、バカのセンスすら洗練されている(?)感じがあって、バカだけど下品を逃れている。ふふっ、と笑える連続で楽しかったです。でもトム・クルーズには一応謝っといたら? [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-12-23 00:21:52) |
16. X エックス(2022)
《ネタバレ》 「パール」を観てからこちらに来ました。パールのその後の人生がどうなったのかな、と。 本作で見る彼女の人生の終末はやっぱり満たされてなくて、しかも色ボケまで発症していては救いのない感じ。でも、夫が復員後の例の惨状を目にしてもパールと暮らし続けてたことが驚異。パールにとって、そこ人生で一番のラッキーだったのではないかな。 ホラー作品としては70'sへのオマージュと謳っている通り、馬鹿な若者らの殺されっぷりが定番のスプラッターでした。それよりも監督はむしろ老人の肉体の衰えとか枯れること無き性欲の醜悪さを描くことで嫌悪感を掻き立てる方に熱心なようで。老夫婦の行為なんて目を背けたくなるよね普通。 パールの老いさらばえ方も悪意を感じるほど。あんな全身にシミが出るもんかな。 こちらを先に観ていたら次作のPearlは観なかったかも。三作目は後日譚とのこと、マキシーンのその後はちょっと楽しみです。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2024-12-08 23:19:07) |
17. FALL/フォール
《ネタバレ》 映像技術の凄みを身体で感じる一本。肝っ玉が縮み上がりっぱなしの画が続き、高所恐怖症の人はラストまで腰を落ち着けて観ていられるのかどうか。 舞台が600m超えの高所かつ二人分が座れる広さしかないので、物語をどう広げるのかなと期待しました。 衝撃の暴露話は定番として、SOSの発信の試みが何度も失敗したり野鳥の攻撃があったり、頼みのスマホの充電にトライしたりと難易度高めのイベントが次々起こります。なかなか上出来の脚本と思います。なかでも友人が実は・・だったというヒネリ技には上手いこと仕掛けられました。おお、と思った。なんでケガをした方がてっぺんまでよじ登るのかしらと思ったんだ・・そういうことかあ。 ところでちょっと本筋から逸れるのだけど、ヒロインの亡くなった夫ね。彼女冒頭から悲嘆に暮れていたじゃないですか。でも実は嫁の親友に手を出すけっこうなカス野郎だった、ということが分かり悲しみを克服するっていうプロットがなんというか大陸的でドライだなあと苦笑いな気持ちになったんですが。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-12-07 23:29:06) |
18. ラストナイト・イン・ソーホー
《ネタバレ》 夢が叶わないことは悲しい。特に60年代を生きたサンディは残酷に夢を踏みにじられ、暴力と搾取の犠牲者。 女子同士の痛みを60年の時を超えてもひしひしと感じ取るエリーを演じるトーマシン・マッケンジーがハマり役。サンディを気遣い、暴力に対して怒りをあらわにするエリーは優しい。対をなすサンディは売れっ子アニャ・テイラー・ジョイ。目力の強い勝気な彼女は夢を叶えたいその一心でエリーとシンクロしたのかも。 アニャ、素敵でした。トップを盛った60年代のヘアスタイルが良く似合って、身体の動きも優美。主演女優二人の存在感と、血の色すら艶めかしく撮り上げた色彩の強さでこの作品は脚本の諸々の粗(殺人犯と思い込むミスリードがやや雑なことやエリーの母親の存在意義が思いのほか薄いことなど)を凌駕しました。 暴力と亡霊とでグロテスク味の強い本作だけども、エリーの彼氏のジョンが献身的な優しさを見せていて息抜きができます。エリーの不安定なメンタルパニックにけっこうな回数巻き込まれているけど彼女を見捨てないでくれている。ジョン優しいな。世の男子はこうであってほしい。「僕のおばさんもそっち系の人なんだ」がたとえ嘘でもかまわないのです。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-11-23 17:31:01) |
19. 岸辺露伴 ルーヴルへ行く
《ネタバレ》 中盤までの雰囲気はすごく良いんですけどね。露伴のアトリエ、年代を経た旅館、山の緑と謎の女。画のレベルがミステリー映画のクオリティとして文句なし。わくわくしました。 でもパリに舞台を移してからは、撮影に制約があったんでしょうか、今ひとつせせこましい演出になってしまってせっかくルーヴルと謳っていても看板倒れな感じです。黒い絵が怨念パワーを炸裂させるシーンも陳腐。露伴さん自前の能力ここでこそ発揮しないと。あれ、使えないの? 時代劇もちょっと長い。あんなに丁寧に謎明かししたら怖くなくなる。昔黒に取り憑かれた絵師がいました、禁忌を犯して処罰されました、とざっくり数カットで収めた方が見る側の想像がふくらんで怖かったような気がする。 オカルトもどきの食い足りない出来になっちゃいましたが、高橋の仕事がさすがです。評判通り。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2024-11-21 22:27:34) |
20. スワンソング
《ネタバレ》 ウド・キアーが数十年ぶりに主演!なんという円熟、いぶし銀な演技でしょうか。いぶし銀というよりはラメ入りパープルといった趣だけども。 人生の終盤に、かつて愛した街を歩くパット。失われた面影の多いことが、世の常なれど寂しい。施設から抜け出て、街の人と触れ合うことで往年の調子を取り戻してゆくパット。彼と歩を合わせるようにして、過去がちょっとづつ見えてくる。恋人も家も失ったし、子どもがいない自分のことなど誰からも忘れられてしまうだろうと思っていたパット。 でも違った。過去の自分が蒔いた種がたくさんの人の心に芽吹いていたことに気づいたし、抱いていた親友へのわだかまりも綺麗に解くことができた。心の整理は自分自身でつけるもの。実に見事な人生の畳み方でした。 旧友と海辺で語る場面、派手めのスーツを見事に着こなす場面、弁護士から必要経費としてむしり取ったお金でワイン飲んでる(しかもチップまではずんじゃってる)場面、電動車いすで渋滞引き起こす場面・・、たくさん好きなシーンがあるけど施設の車椅子の婦人の髪を美しくまとめてあげる場面が一番好き。 サントラもひとつひとつがシーンにぴったりだし、サンダスキーの街並みも素朴でどこか懐かしい。 実在のヘアドレッサーに監督がインスパイアされたという愛すべき一品。大好き。 [CS・衛星(字幕)] 10点(2024-11-06 23:59:54) |