1. 剣鬼
剣三部作の中で一番娯楽性に富んでて面白かったです。犬と人の間に生まれたと噂される男、園芸に才があり、走ればまるで犬の速度と持久力。そんな超人的で才能に恵まれた男が剣を握った日にはどうなるのか、という切り口には「のった!」と心の中で膝を打ちました。悲哀と怨根取り巻く斑平の半生が描かれているのでジャンルとしては悲劇になると思いますが、中盤までは「犬の子」と蔑まれていた斑平が城内で能力を買われみるみる出世するサクセスストーリー仕立てになってるので痛快でした。斑平が犬と人との子であるという話はあくまで人の噂話の範囲で留めてあり、「もしかしたら」という可能性を残しているのでかすかにファンタジー性の香りがありますが、そのブっとんだ設定が斑平に謎めいた魅力と超人的であることの説得力を与えています。結果を完全に見せないラストもどこかやり切れない余韻を残してていい感じ。ただライバルっぽいキャラが意味深に登場した割にあっさり退場したのは肩透かし、あのやりとりをやりたかっただけなんじゃないの。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2016-01-17 17:57:03) |
2. 斬る(1962)
話は何がいいたいのかよく分からん、っていうかつまらんのですが、映像が放つ緊張感にはつい息を呑みます。剣を構え合う動きのない場面でもその迫力には釘付けにされました。肌の白さや空の青が冴える映像美も印象的で、スローモーションの演出も非常に効果的。こうなってくると話のツマラナサがいよいよ心残り。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2016-01-10 20:05:34) |
3. 剣
《ネタバレ》 剣道部団体優勝のため機械のようなストイックさと禁欲主義を貫く国分の人となりと、「そんな国分でもただの男」と認めたがろうとする賀川の嫉妬を描くお話。「国分だってスカートの中に手くらい入れるよ。だって人間だもの」というのが賀川の願いであり、国分という偶像を切り崩す手段。技術は完璧でも人格まで完璧な人間がいるはずがない、という考えで賀川は安心したかったわけですね。しかし国分さんは本当に完璧主義の完全無欠な男でした、というのが本作のオチ。飛べなくなった鳩を哀れんで絞め殺そうとするなど、自分なりの哲学が完成していた国分さんには、色香の誘惑など通じなかった。通じなかったどころか最後には自分の監督不行届のために自決を選ぶ。綺麗なものが綺麗なままでいられないなら死んだほうがマシ。もはや賀川なんぞには敵うはずもないほど、国分の精神は高みに達していた、というわけですね。ちょっと死というもの美化しすぎかなという気もしますが、エンディングには、国分を理解してやれなかった部員たちの悔しさが静寂な部室にあふれ出し、悲痛な余韻が染み渡ります。主人公の提示が遅れてるため物語前半がやや退屈に感じるのが難点。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2016-01-10 19:35:41) |
4. 大怪獣ガメラ
核でガメラを目覚めさせて一応反核のメッセージは入れときましたよ、的なオープニング。と思いきや、ガメラを迎撃する際には軽いノリで「核撃っちゃおう」と提案しちゃう安易さ。それに唐突で無意味なロマンスや、行き当たりばったりなZ計画のあれこれなど、おいおいとうなだれそうになるポイントが多数あるシナリオです。しかしまあ、セリフというセリフから、頭の悪さというか、推敲の足りなさがボロボロこぼれまくっているので、いちいちとやかくツッコむのもバカらしくなるというものでございましょう。むしろ「笑ってあげられるおバカなシナリオ」としてこれはこれでアリだな、と。それよりも、この意外に良質な特撮の仕上がり。合成技術は、ヒトの子供とガメラを対比させることでガメラのスケール感を具体的に表現できていますし、ガメラのスーツは、皮膚のシワや甲羅のトゲトゲしさの質感が伝わってきます。なにより街で暴れ大海を突き進む巨体の迫力はなかなか侮れないものです。 [DVD(邦画)] 6点(2015-05-18 21:32:56)(良:1票) |
5. 秋刀魚の味(1962)
《ネタバレ》 ハハハ。本当にまっ正面からなんですねえ。想定線の上に堂々と居座る無遠慮なカメラアングル。最初は違和感で仕方なかったんですが、思えばそれが引き金だったんでしょう。気がつけばもう小津ワールドの世界観にドップリ。まるでこちらに向かって話しかけられているような臨場感。「そうなんですかあ」と言われると、こっちがうっかり「そうなんですよ」と返してしまいそう。 さて、ストーリーは、娘を嫁がせる父親の心模様がテーマになっており、前半と後半で内容が別れています。 前半は特に事件も起こらず話も進みませんが、様々な「父」と「娘」が映し出されます。今まさに結婚生活を送っている義娘、未だ娘を嫁がせずにいることを引きずっている恩師、娘に先立たれた過去を持つも今ではすっかり立ち直っている海兵時代の部下。それぞれの形で今日を生きる父娘たち。その「それぞれ」を象徴するように、その時々に食べ物が出てくるのも印象的です。義娘の結婚生活はぶどう味、恩師の心境は鱧の味、と言わんが如く。 そして、後半は、そんな様々な父の一人である主人公がついに娘を嫁がせようと思い立ちます。娘がいてくれた方が便利だけど、娘の幸せを想えばこそ。娘をと嫁がせずにいることを悔いている恩師と、娘を亡くしていながらも笑顔で過ごしている元部下の存在が、その決心に踏み込ませたのでしょう。しかし、嫁がせたあとに待っていたのは、娘がいなくなった家。ラスト2分、もぬけの殻となった部屋や階段が次々と映し出され、主人公は、今にも泣き出しそうな表情を。薄暗い部屋で一人さびしく茶をすする後姿からは、娘の幸せの代償を背負う父親の哀愁が染み渡ります。 [DVD(邦画)] 7点(2015-05-17 08:57:32) |
6. 用心棒
《ネタバレ》 何言ってるかよく聞き取れないのは相変わらずなんだけども、そんなことより大変なのは、その飛びぬけた映像センス。卯之助の初顔出し。明らかにそれまでに出ていた登場人物とは風格が違います。そう感じるのは、見てくれのせいでもなく、性格のせいでもなく、ローから捉える異質なカメラアングルのせい。アングルだけでなく、空っ風を吹かせることで、さらに画栄えし、卯之助の特異性も匂わせています。そして、アングルと空っ風の演出は、ラストの対峙シーンでも発揮。これがもう圧巻の一言。閑散とした町の中、対峙する三船敏郎と丑寅一派。ジリジリと距離をつめる両者をそれぞれ正面からのショットで捉えます。そして、距離をつめる彼らの動きの「静」と、土煙と音を立てて吹き荒れる突風の「動」とが対比となって、息を呑むような緊張感を生み出しています。この映像の引きの強さがたまらない。加東大介のコメディリリーフは全然ありと思います。 [DVD(邦画)] 7点(2015-05-14 21:29:18) |
7. 椿三十郎(1962)
《ネタバレ》 序盤辺りの「しゃべりすぎ」なシナリオに関してはどうかなあと思います。城代の状態も、菊井の企ても、今陥っている状況も、次にクリアすべき課題も、全てセリフによって補われていくから、具体的なビジョンが見えにくいんですね。三十郎が「俺は城代の顔も菊井の顔も知らねえが」みたいなことを言ってましたが、さすがに視聴者にすらも知らせないというのは、少々困りました。会話だけで話を整理していかなければならないのは、たとえ話がシンプルでも少々骨が折れます。しかしそれでも、「魅力的でそそられる主人公を映そう!」という試みは、全編通して見事にはまっておりました。頼れるんだか頼れないんだか、信用できるんだかできないんだかよく分からないミステリアスな雰囲気と言動。しかし、機転を利かせてピンチを回避する頭の回転と、多勢を相手にできる剣の腕前を兼ね備えたやっぱり頼れる男。その名も椿三十郎。ま、偽名ですけどね。「金魚のうんこみたいに繋がって来られちゃ始末が悪い」とユーモアセンスも完備。そんな椿三十郎の魅力に引っ張られてか、話の面白さも話が進むに連れみるみる調子を上げてきます。敵に椿を流させるプロットから悪漢御用の流れはまさに痛快の一言。ライバル・室戸半兵衛の気圧されるような眼力もこの作品に欠かせない魅力のひとつです。というわけで、やっぱりこれは面白い映画だったのでした。 [DVD(邦画)] 7点(2015-05-13 22:31:29) |
8. 脱走特急
前半はややダレるし、キャラの相関図も弱冠分かりにくいとこもあるが、開始40分の列車を乗っ取って脱走する場面から面白くなり、ラストで一番盛り上がる隠れ良作。しかし最後のあの一文を引き立たせるためにも、コミカルなB級感は抑えて終始シリアスで緊張感のある演出の方がよかった気がする。映像的には年代らしさも感じられるが結構頑張ってる印象。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2012-06-24 22:36:32) |
9. モスラ(1961)
《ネタバレ》 なんといっても特筆すべきは幼虫が街を行進する特撮でしょう。卵からの孵化や成虫の飛翔、ダムの決壊など賞賛すべきシーンは幾多ありますが、やはり素晴らしきは幼虫です。我々の住む空間とほとんど変わらない目線に、幼虫の巨大な顔面が迫ってくるシュールさ。これが、精緻なミニチュア技術と相まって妙な現実味を含んだ不気味な迫力となっています。幼虫特有の「目線の低さ」にアングルを合わせた故の妙味です。人間にさらわれた小美人を救出するためだけに動く「追跡マシーン」としての恐ろしさをより一層膨らませています。シナリオとしては、低年齢層向けの感は否めません。小美人を商品として扱おうとしているヤツが「小美人は商品だ」なんて言いません。こういう、セリフからこぼれる善悪の分かりやすさは、いかにもお子様向けという感じです。しかしそれでも、特撮をはじめ音響演出や映像センスには目を張るものがあるのも確か。日本の古典特撮映画として世界に誇れる作品でしょう。 [DVD(邦画)] 7点(2012-06-18 23:35:49)(良:1票) |
10. テキサスの五人の仲間
《ネタバレ》 オチが語られてる映画だが、オチよりもそれまでのストーリーの方が断然魅力。ヘンリー・フォンダのポーカーにのめり込むあまり大金をつぎ込んでいくダメ人間っぷり、奥さんと銀行当主との駆け引き、色々と一言じゃ言い表せない面白さがある。邦題の「5人」てのもずるい。うまいこと5人で被ってるんですから。しかしこのページでこの映画の存在を知った人は不幸だ。「邦題にトリックがある」ことのレビューを一瞬でも目に入れたが最後、そういう視点で物語を追ってしまうから・・・。 オチについてだが個人的には邦題のことを知ってしまってたので(笑)悔しさが残る反面、蛇足かなとも思った。あの余韻のまま終わっててくれれば最高だった。しかしオチよりもそれまでのプロセスだけでも十分楽しめた。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-06-16 18:40:21)(良:1票) |