1. バービー(2023)
話題作ということで今更ながら鑑賞しました。正直どこが面白いのか、どこで感動すべきなのかほとんど理解できませんでした。まあもちろん随所にちりばめられているパロディネタや面白セリフ、演者の仕草(や、衣装など)にはクスっとさせられますが、オープニングの2001年ネタが面白いとか、ケンが天下を取った時のシーンが面白いとか、まあその程度でした。ラスト、遊んでくれた家族の元で娘に転生するシーンもちょっと綺麗にまとまり過ぎていて微妙。 個人的にはバービーのMy Dream House!に対してケンの Mojo Dojo Casa House!(魔術の道場カーサ・ハウス)はかなりウケますが、吹替版(ムンムンのムキムキハウス)は全く面白くなっていませんでした。モージョー・ドウジョウで韻を踏んでいますしエロ魔術も掛けているようです。またカーサ(家)・ハウス(家)も同意語だったりして、なかなか結構よく考えられています。対する日本語吹き替え版の”むんむんムキムキ・・”はちょっとレベルが数段低い感じです。 余談ですが、確かにマーゴット・ロビーのバービー&ライアン・ゴズリングのケンはとてもよくマッチしていましたが、しかしちょっと年齢が行き過ぎているように感じたのは私だけでしょうか?もう少し吟味して何とかあと10歳くらい若いキャストを探すことはできなかったのでしょうか、、どうしても年齢問題がちょっと気になっちゃいます。あとグロリア役のアメリカ・フェレーラはアグリーベティーの時の方が10倍素敵でした。お歳を召してイマイチ魅力が無くなってしまったような感じでちょっと残念です。酷評している割になぜかちょっと甘めの採点になっていますがお許しください。 [ブルーレイ(字幕)] 6点(2025-05-02 18:14:49) |
2. モービウス
マーベル作品が大嫌いな私ですが、うっかり間違って鑑賞してしまいました。やっぱり予想通り大して面白く無かったです。物語も理論も見栄えも全てが失笑もんでしたが、そもそも論、子供向けの作品を見る年齢じゃないのに見てしまった自分自身の責任ですよねやはり。 ジャレッド・レトは大好きな俳優ですので、もう少し大人向けのシックでクールな作品を選んでいただきたいです。あと、個人的にはマーベル作品はCGの使い方がいろいろ間違っているような気がします。これ以上自分勝手な御託を並べても仕方ないのでここらへんで止めておきます。「色々金かかってそうだな」という部分に5点全振りな映画でした。ファンの皆さん酷評してごめんなさい。私には合わない作品です。 [ブルーレイ(吹替)] 5点(2025-05-02 18:07:34) |
3. ソウX
《ネタバレ》 無難に仕上がっていますがちょっと都合良過ぎ感強め。そもそも論、これほど複雑かつ巧妙なカラクリ&殺人方法を生み出して、なおかつそれらを水面下で実行することが可能なほどの天才的頭脳の持ち主ジグソウ(ジョン・クレイマー=トビン・ベル)でしたら、この程度の低レベルな医療詐欺を見抜くくらい楽勝だったはず。まずそこからして矛盾してしまってイマイチ楽しめませんでした。 ネタバレになりますが、ラストの「ジグソウさんご一行が騙されたフリ作戦」と、それに続く毒ガス作戦はかなり失笑もんです。中盤でアマンダ(ショウニー・スミス)が気にしていた通り、予定通り上手く進む気が全くしません。。子供が時間通りサッカーを始めなかったり、、悪のカップルが予定通りジグソウお手製の罠を使ってくれるとは到底思えず、むしろ全くうまく進まないほうに全財産を懸けたくなるほど酷いプランでした。ぶっちゃけ、かなり無理があります。 あと、本作で特に気になったのが、いくら生死がかかってるとはいえ数秒の思考だけで自分の足を自分自身で切断したり、モニターを見ながら自分で頭蓋骨を切り開く決断ができるとは到底思えず、やはり3分で勝てるゲームではなく最初からゲームオーバーを狙ったカラクリはズルいと思いました。そういった意味ではガブリエラ(レナータ・バカ)のゲーム(手足の骨を自分で砕いて脱出)は明らかに楽勝すぎておかしいくらいでした。(一応、ストーリー内で彼女のバツが軽い理由は説明されていましたが) 酷評しましたが見て損したとは全く思わず、いつも通りの本シリーズの雰囲気はきちんと出ています。シリーズファンには安心してお勧めできる作品、素人さんはぜひパート1から見始めてください。(個人的には目玉が飛び出る装置は必見でした) 余談ですが、何気に驚くのがセシリア(シヌーヴ・マコディ・ルンド)が映画制作時に約48歳というのにこの若見え感。ガチ美魔女で驚きます。また、同じくらい驚いたのがアマンダとホフマンが「歳くったな~」ってところでしょうか。 [ブルーレイ(吹替)] 7点(2025-05-02 17:57:19) |
4. イコライザー THE FINAL
《ネタバレ》 結構良かったです。三作目もシリーズ原則に乗っ取って勧善懲悪に徹したシンプルなスタイルは花マルでした。映画は判り易いというのが一つの正しいスタイルでもありますし、シンプルな本作スタイルに主人公のインテリジェンスな雰囲気や世界一美しい風景もマッチしていて”見たら忘れる系”の他作品とは一線を画しています。 しかし丁寧に描かれている主人公側のドラマに対して悪人側のドラマはかなり浅く、全体的にお手軽感が強めに感じてしまったのは少々マイナスでした。シンプルといえば聞こえは良いのですが、オープニングのシチリア系の大親分はサクッと9秒で終わりますし、メインストーリーの悪人側の兄弟(これは契りを交わした義兄弟?)の関係性の説明もお手軽。ラストも「10分くらいで終わったんちゃうか?」というくらいお手軽に兄貴が粛清されてしまいます。まあこれに関しては映画という2時間枠の企画の限界を感じますが、もうちょっと意味づけしてくれないとあまりにもお手軽すぎました。 今回は謎の女エマ・コリンズ(ダコタ・ファニング)が割とフューチャーされていますが、ラストの種明かしをされても全く判らず。で、Webで検索して事情を理解してもなお全くもって思い出せません。Webでは一作目に主人公を助けてくれた元同僚の娘とのことですが、それを確認するために一作目を再鑑賞する気も起きず・・ あと、少しだけ粗を指摘しておくと、中盤ロバート・マッコール(デンゼル・ワシントン)が手を上げて出てきた時に、悪人側はすぐ射殺するか両足でも撃っておくべきでした。序盤の悪人側の鬼の所業を考えると、一斉にライブ中継されていたとしてもそのまま尻尾を巻いて逃げ帰るのはあまりにも予定調和的すぎました。 色々と文句も書きましたが、シンプルかつスマートで良い映画でした。シリーズ初見の方でも見て損のない作品です。 [インターネット(吹替)] 7点(2025-05-02 17:31:59) |
5. フェラーリ
個人的に期待していた作品でしたがイマイチでした。いえ決して悪くはないのですが、近年見た「ハウス・オブ・グッチ」などと同様、よく出来た凡作といった感想が一番しっくりきそうな映画でした。 評判が良いラウラ(ペネロペ・クルス)がちょっとウザ目立ちし過ぎているように感じました。エンツォ・フェラーリ(アダム・ドライバー)のシックな立ち居振る舞いと並べてしまうと一人浮いていたように感じます。ここは無名俳優のほうが本作のドラマ部分にもっと集中できたような気がします。ただ、本作のメインプロットとしてはエンツォ自身のキャリアで最も試練が多かった1957年を描きたいという流れで、そうなると正妻ラウラとの関係も密接に描かざるを得ず、ペネロペ・クルスを高く評価している批評家の意見も判らなくもないところでしょうか。 本作の車に関しては一貫して硬派で泥臭く描かれていて見ごたえは十分でした。事故の惨劇もかなりリアルに描かれていますが、これが現実でしょうからシッカリ描いているは正解だと思いました。車といえば個人的には1957年でしたら250カリフォルニア(スパイダー)が見たかったところですが、時系列的にはこの映画の後に発売されたモデルでしょうし、レースとは基本的に関係ないモデルですよね(笑) 映画の題材が史実を元にしている以上、全ての物事がミッレミリアの事故に向かって突き進んで行くドラマは少々重たく、時限爆弾的かつ予定調和的でもありました。ここをどう評価するかで意見も分かれそうですが、少なくともマイケル・マンが監督する作品ではなかったのかもしれません。決して悪くはないのですが、、よく出来た凡作の域を出ない仕上がりになってしまったような気がします。期待していただけに少々残念でした。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2025-04-29 18:01:58) |
6. グランツーリスモ
《ネタバレ》 本作が実話ベースだというのだから驚きますが、本編のレースシーンもほとんどがCGを使わずに実写撮影されているという事実には本当に驚きました。レースは終始ゲーム画面のような構図で進みますが、まさかこれがほとんど実写であったとは・・ 私はほとんどがCGだと思い込んでいただけに余計に驚きました。 で、本編ストーリーの方は極めて無難かつトントン拍子に進みます。この辺りは2時間枠の映画の限界を感じますが、TVゲームを一切プレイしない層にはちょっと現実離れしすぎていて、よく理解できないままアカデミーのシーンに突入してしまいます。ぶっちゃけ、5歳の時からモータースポーツに憧れていたのであれば、普通の感覚ならゲームにのめり込むのは明らかに道を誤った行為で、違法な公道レースなりゴーカートに明け暮れるなりしているほうがよほど正常な思考回路といえます。この辺の描かれ方が浅いせいで、ゲームをプレイしない層にはチョットついていけないストーリーラインになってしまっています。(私は親友は映画とゲームだけですが) ただし、アカデミー以降はきちんと正常なレースドラマになっていて、無理がない流れは万人に受け入れられるストーリーとなっています。事故のシーンもリアルだし、その後の精神的な葛藤も綺麗に描かれています。FIAライセンスを取得するまではとても上手く描かれていますが、その後がちょっと突飛。シムレーサー(ゲームオタク)だけでルマン3位はあまりにも映画的過ぎます。個人的にはほろ苦いラストであっても十分ドラマチックなので、無理のないシナリオに仕上げたほうが良かったような気がしました。 個人的にはツンデレの鬼教官ジャック・ソルター(デヴィッド・ハーバー)の出来がすこぶる良くて、本作の陰の主役であったように感じます。彼の過去も素晴らしいし、現在の境遇も最高でした。それらを経て主人公と共に勝利を手にするなんて胸アツすぎます。映画自体は凡唐な作品でしたが、真実の物語であったこと、レースが実写撮影であったこと、(脚色)鬼教官が大活躍であったこと、これらのおかげでかなり面白い映画に昇華した珍しい作品です! [ブルーレイ(吹替)] 7点(2025-04-29 17:58:27) |
7. 十二人の怒れる男(1957)
《ネタバレ》 名作と名高い本作、私もやっと見ることができました。結論から申しましたら本当に素晴らしい映画でした!狭い部屋の中で12人のオッサンがグダグダと議論しているだけの映画でこれほど面白いものは他にありません。ただし脚本に関しては、後出しじゃんけんのように徐々に核心を突く情報が出てくるので、いかようにも転ばせられるズルさは感じました。それでもそれを差し引いて余りある構成力とプロットの素晴らしさだったと思います。 ウマいのは私たち観客側に与えるファーストインプレッション。「ナイフが得意なスラムの若者」「折り合いが悪い父の胸にはナイフ」「複数の目撃者がいる」こうなると観客も明らかに有罪だと感じる訳ですが、証言を一つ一つ細かく分析していくと途端に粗が見えてくる流れが本当に素晴らしいです。しかし前述の通り、仮に全ての情報が最初から提示されていたとすれば、私たち観客も推定無罪の方向に傾くのが妥当で、そういった意味ではかなり危うい脚本であったのもまた事実です。 本作は12人の男たちが見せる多様な価値観も見どころの一つで、複数回鑑賞すれば奥深さが増す素晴らしい作風になっています。一見すると8番の正義感は文句のつけようがないように感じますが、彼はかなりズルいテクニックを多用します。最初に「たった5分で人の死を決めてしまっていいのか」というド正論でブレーキを掛けますが、実はこれは無罪かどうかには全く関係ない論点ずらしテクの典型です。またそれに続く流れも「有罪の証明は検察側にあり、合理的な疑いがある限りは推定無罪であるべき」を貫きますが、これも無罪の証明には全くなっておらず、8番のズル賢さ(というか強引さ)が垣間見えたりします。8番はこれらの詭弁を堂々かつ平常心で語っており、これが彼の上手さでもありました。 それにしても非常に面白い作品であったことは疑いようのない事実です。理屈っぽい方は是非一度お試しください! [DVD(吹替)] 9点(2025-04-29 17:54:59) |
8. DUNE デューン/砂の惑星 PART2
パート1に続き、本作もまあとにかく面白くなかった。私自身、心底ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が嫌いなことを確信しました。。しかし監督が嫌なだけではなく、本作のバックボーン自体も難し過ぎるところがあり、にわかファンやただのSF好き程度では全く話についていけません。まあ100歩譲って「砂の惑星」は良しとしても、旗の振り方や服装、宗教色、フレメンの価値観などなど、、なんとなく某○○国みたいで嫌でした。結局この映画の骨組みはあの地域の世界観なんだろうなというところが垣間見えてしまいます。(勘違いがあったらごめんなさい) 個人的にはやはりスパイスよりはフォースのほうがまだ分かり易くて良かったです。まあしかしデューンもスターウォーズもあまり好きな作風ではないのでどっちでもイイ訳で・・ 原作本にハマっているファン限定の作品かなといった印象が強い作品でした。壮大な映像美に免じて少々甘めの点数といたします。 [ブルーレイ(吹替)] 5点(2025-04-29 17:53:55) |
9. マッドマックス:フュリオサ
同時に見たミッションインポッシブルレッドレコニングに迫る収録時間ですが、本作は時間の長さを気にすることなく楽しめました。むしろ本作は2時間28分でベスト、捨てシーン一切無しといったところです。とにかく、、ジョージ・ミラー監督はヤバイ。80歳にもなって前作よりずっと面白い作品を生み出すとは本当に驚きです。正直、イーストウッドより全然偉大な監督さんとして認定したいくらいです。(個人の感想です) 前作怒りのデスロードではキャラの生い立ちがよく判らず「そういうものですよ」といった押し付け前提でしたが、本作ではフュリオサ(シャーリーズ・セロン)の背景が全て判明します。また、本作初出のディメンタス将軍(クリス・ヘムズワース)もキャラの描き方が丁寧で分かりやすかったです。若きフュリオサ(アニヤ・テイラー=ジョイ)が、前作のフュリオサ大隊長にあまり似ていませんでしたが、しかしながらこの眼力を見せつけられちゃうと全然許せちゃいますね。むしろアニャ版のフェリオサは素晴らしかったです。 物語の構成的にも本作は良く練られていて、子供時代からバランスよく丁寧に描かれています。他の方もおっしゃっているように、本作のおかげで前作怒りのデスロードがより面白く感じられるくらいウマい物語を描いています。宿敵ディメンタス将軍のラストもこれはこれで正解だったと思います、嫌いじゃない。次作はぜひイモータン・ジョーと人食い男爵の生い立ちと成り染を見せていただきたいところです。 本作にはマックスは出てきませんが、パート2に並ぶ面白さだったと思います!(厳密にはマックスらしい人がワンカットだけ映りますが) 最後になりましたが、やはりジョージ・ミラーが撮る映画はとにかくカメラワークが最高!ということだけ付け加えたいです!文句なしに面白かった! [ブルーレイ(吹替)] 8点(2025-04-29 17:50:16) |
10. ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE
《ネタバレ》 「普通だった」そんなありきたりな感想が一番に出ました。最近流行りの上映時間が長い作風で、本作は二部構成のうちのパート1に当たり、本作だけでも収録時間が2時間43分もありました。正直、長くて込み入っている割にストーリーは面白くありません。MIシリーズも主人公イーサン・ハント(トム・クルーズ)の年齢を考えるとさすがに限界なのかもしれません。 長い割りには特筆すべき点は少なく、何となくダラダラと最後まで見てしまいました。イルサ(レベッカ・ファーガソ)から入れ替わりのグレース(ヘイリー・アトウェル)はベテランクラスの女優さんですが、イマイチ華が無いてインパクト弱めでした。ヨーロッパ系美女を集めるのがトムの趣味なのか映画のステージ上のリアリティなのかは謎ですが、色んな意味でさすがのトム・クルーズもしんどそうな印象です。(なんだかんだいっても60歳のオッサンですし) いつものお決まりで、IMFやCIA各陣営その他TOP連中のゲスさは100%健在でしたが、それもさすがに飽きます。今回の敵はAIな訳ですが、これも手垢が付きまくったネタで、次作でどう決着をつけてくれるのか気になるところです。今回出色だったのは二人の美女で、ホワイト・ウィドウ(ヴァネッサ・カービー)とパリス(ポム・クレメンティエフ)らのシーンは目を引くシーンが多かったです。彼女らのラストも二人ともにそれぞれがイケてたと思います。 個人的な意見ですが、トム・クルーズといえば「レインマン」や「7月4日に生まれて」など、若い時から性格俳優もきちんとこなせる俳優でした。無理にアクションに振らなくても年齢相応の落ち着いた作品もチョイスして欲しいです。続き物ですので次作も見ないと終わりませんので一応は見ますが、、まあでもそれだけの映画かもしれません。余談ですが、グレースはなぜ仮想通過を受け取らなかったのでしょうか?ここちょっと謎ですね。。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2025-04-29 17:46:17) |
11. エル・スール
世間の評判から察するに批判的なことを書くのは少々勇気がいりますが・・ とても期待していましたがイマイチでした。喪失・異性・他者との距離感などなど、普遍的なテーマが沢山あることは理解できますが、それでも本作を見るにあたっては特別な前提条件が必要だったように感じました。 語弊を恐れずに書くとすれば、、「娘の親であること」だったり「自身が娘という立場であること」だったり、または性別関係なく「一度でも親になった経験があること」など、家庭を築く過程で得る喜びや悲しみ、また苦労などを知っていないとより深くは楽しめない作品だったように感じます。私は男でかつ結婚経験がありませんので、この映画の中で最も立場が近いのは父アグスティン(オメロ・アントヌッティ)が若いころにその父(祖父)と対立した部分くらいでしょうか。このシーンは言葉だけで終わってしまいますが、この会話の中にはスペイン内戦(市民戦争)の影響による家族内対立など、非常に深刻な問題があったことは理解できます。しかし戦後世代の日本人には市民が二分された内紛の本当の悲惨さまではちょっと理解が及びませんし、言葉だけのシーンを想像で補うには限界を感じました。 私自身、結婚生活は知りませんが長い同棲生活やその相手との別れ、何度かの婚約失敗などは経験しましたので、そういった意味ではイレーネ・リオス(オーロール・クレマン)のパートは少しだけ理解できたかもしれません。しかしそれも南編(後半部)がごっそり抜け落ちてしまっているため、過去の恋愛に関する謎は謎のまま物語が終わってしまいます。長距離電話の相手もわからずじまいです。後半パートが無かったことで情緒的な雰囲気を醸し出している一方、本作をより難解な作品にしてしまったような気もします。 今まで映画内で主人公の性別を意識したことはあまりありませんが、本作においては圧倒的に主人公の立ち位置が狭く、”部外者お断り”的で感情移入を許さない敷居の高さを感じました。裏を返せば本作の状況にピタッとハマる人は最高の映画になり得たと思います。だだし、父アグスティンに感情移入してしまうと、どうも少し変になってしまうようです。理想論かもしれませんが、自分の家庭内に他者の存在(しかも異性)を匂わせてしまうような父親像は、、やはり親として失格だったと感じてしまいます。ここに感情移入できない時点でちょっと厳しいかなと思ってしまいました。 私など独身男性にとってはあまりにも対局にありすぎる作品だったように思います。折を見て何度か再鑑賞してみようと思っていますが、現時点では少し厳しめの点数といたします。(ただ、映画の雰囲気や風景、撮影手法等は本当に素晴らしい作品だったと思います) [DVD(字幕)] 6点(2025-04-21 18:02:21) |
12. 瞳をとじて(2023)
今自分の中では”エリセ週間”ということで本作「瞳をとじて」をレンタルしてみました。あとエリセ作品で未見なのは「マルメロの陽光」だけになりましたが、こちらはレンタルされておらず購入するかどうか悩みます。。 率直に申し上げて、本作に関しては時間の長さが気になってしまいました。あと、自分より年上になったアナ(アナ・トレント)は見たくなかったかもしれません。エリセ監督の今までの作風と比べると本作は圧倒的にセリフが多く、ほとんど字幕を読んでいただけという印象が残る残念な作品でした。 本作は明らかにエリセ監督自身の半生を振り返った物語で、画面のあちらこちらからその片鱗が見られます。”二作目で未完の作品”といえばエル・スールですし、主人公ミゲル・ガライ監督(マノロ・ソロ)が”22年間映画を撮っていない”のも明らかにエリセ本人のことでしょう。 考察サイトなどもたくさん読みましたが、確かに劇中で映写された映画の画面とドキュメンタリータッチの本編とで撮影方法が異なっているのは流石エリセ監督といったところです。ただ劇中映画も本編もどちらも大して面白くないのはかなり致命的だと感じましたし、そもそも観客に何を伝えたかったのかがよく判らない作品に仕上がっているように感じました。無償の愛が大切ってことでしょうか?親子の愛が大切ってことでしょうか? Wikiによると海外批評家の点数はおおむね高く、総合的に85点程度の作品だそうです。これに関してはチョット信じられませんね。私の価値観や理解が浅いと罵られようが・・ 面白くないものは面白くないです。何度か再鑑賞を繰り返せば良さも見つかるのかもしれませんが、「ミツバチのささやき」のように一度見ただけで観客を虜にさせられない時点で、その作品は傑作ではないと思います。本作はセリフ量も時間も長いわりに大したことが伝わっていないように感じました、正直いってイマイチな作品です。 [DVD(字幕)] 5点(2025-04-21 17:48:09) |
13. フランケンシュタインの花嫁
《ネタバレ》 原作の流れ的には、前作「フランケンシュタイン」と本作「フランケンシュタインの花嫁」の二作品でワンセットだと思います。できればインターミッションで前作と本作をつないで、本作にあった無駄と思えるシーンを省いて一つの作品として世に送り出していただきたかったところです。 本作はかなりコメディ色が強めで、明らかに不要であろう小人のエピソードや、なんなら花嫁爆誕シーンも蛇足でしかなかったかもしれません。しかしながらこれら蛇足と思われるシーンが結構面白いから困っちゃう訳ですが・・ まあとにかく皆さん同様、ラストに出てくる花嫁が1980年代パンクなのはやはり最高過ぎました。90年前にコレはcoolすぎます。。 フランケンシュタインという作品の根底部分にあるのは、やはり「意図せず生み出され、外見のせいで疎外される人間の怒りや悲しみ」だと思いますが、本作のシリーズはそれをとてもよく表現しています。これに関しては怪物(ボリス・カーロフ)の演技によるところも大きいと思いますが、原作の根底にある部分が普遍的かつ王道であるが故だとも感じます。 無責任に怪物を生み出してしまった親の罪と罰の物語でもありますが、そういった意味では前作より本作のほうがより原作に近いかもしれません。ただ個人的には怪物がドリンクを要求したり生みの親を座らせる流れはブラックジョークが過ぎるとは思いましたが・・ でも本質的にこの作品が言いたかったことはそれだろうなとも感じます。そういった意味ではラスト、崩れ落ちる塔から博士と妻が二人でお手々を繋いで逃げるシーンは少々生ぬるいと思いましたが、しかし本作も前作に負けず劣らず素晴らしい映画でした。完全に前作からの続き物ですから続けてみることをお勧めいたします。 [インターネット(字幕)] 7点(2025-04-15 16:50:59) |
14. フランケンシュタイン(1931)
《ネタバレ》 「ミツバチのささやき」と併せて再鑑賞しました。やはり本作には普遍的なテーマがあり、これは90年経った現代でも揺るいでいません。怪物を生み出すまでの流れも素晴らしいですが、やはり怪物が世に出てしまってからのほうがメインです。そういった意味ではやはり続編である「フランケンシュタインの花嫁」とセットで、初めてこの物語は完結します。 じっくり落ち着いて鑑賞してみるとフランケンシュタイン博士(コリン・クライヴ)の薄っぺらさが際立っています。「alive! alive! alive!」と無邪気にはしゃぐ博士が、怪物を生み出した途端に急に怖くなったのか弱気になって彼女の元でメソメソ。これでは生み出されてしまった怪物のほうはたまったものではありません。。対する怪物(ボリス・カーロフ)のほうは、外見から心の動きまでパーフェクトな完成度です。意図せず生み出されてしまった怪物の内面の怒りと悲しみがとてもよく表現されていますし、この怪物の佇まいを見ているだけで彼の哀愁がにじみ出ています。 キリスト圏以外の人にはいまいちピンとこない部分もありますが、それでもやはり人をつなぎ合わせて電気をスターターとして始動させる、一連の様は心底恐ろしいです。2025年に見ても凄まじい狂気を感じますが、ただ、前述の通りフランケンシュタイン博士があまりにも薄っぺらく、怪物に息を吹き込んだ途端に物語がトーンダウンしてしまうのは少々勿体ないと感じてしまいました。後半のペーシングシーンはやはり水辺で少女マリアと戯れるシーンでしょう。映画史屈指の名シーンというだけでなく、とても奥深さもあるシーンです。力加減が判らず間違って少女を放り投げてしまった怪物があたふたするシーンまできちんと描かれていて、やはりこのシーンは相当深い心の動きまで正しく表現されている素晴らしいシーンだと再確認しました。 その後は畳みかけるように物語が動き出します。「志村うしろ―!」の花嫁コントを経て、昔のアメリカ特有の過剰な集団心理で怪物狩りが過激になっていくシーンは別の意味で怖いです。ラスト、業火の中で怪物があたふたするシーンはかなり泣けるシーンの一つです。やはりこのシーンを見てしまうと怪物に感情移入してしまうと思います。ここは本当に悲しい。本作は名作小説としてもあまりにも有名ですが、他のウェルズやヴェルヌなどの古典よりもかなり上手く映画化できていると思います。本当に素晴らしい! [インターネット(字幕)] 8点(2025-04-15 16:29:09) |
15. ミツバチのささやき
《ネタバレ》 録画されていたのでスクリーンにて再見、やはりこの映画はよく出来ています。博識な人、そうでない人、またストレートな見方をする人も、、いかようにも解釈可能な映画に仕上がっているのはまさに奇跡の映画といって差し支えないと思います。この作風はフランコ独裁下での検閲回避の妙案だったと思うのですが、結果的にこの回りくどい作風のおかげで50年が過ぎた今見ても色褪せていません。ミニシアター系の先駆けとしてもこの映画は高く評価されていますが、実際、音と字幕を消して映像だけ流してもイケますし、幼い姉妹二人を見ているだけでも99分持ちます。 この映画ではどのシーンも肌寒く寂しいですが、これはやはり市民戦争で国が二分した後に発足したフランコ独裁体制の歪さを表しているのでしょうか。時代設定は1940年と丁度第二次世界大戦真っ只中のヨーロッパ。フランコ政権といえば悪名高きドイツのファシズムに近いものがあったとされており、その恐怖感たるや凄まじいものだったと推察します。 この映画が上手いのはアナ(アナ・トレント)と、姉イサベル(イサベル・テリェリア)らの純粋な表情を正しく記録している点です。例えばアナが映画「フランケンシュタイン」を真剣に見ている表情だったり、キノコの話などを真剣に聞いている表情など心底素晴らしいです。また、アナの精神的な成長と死への葛藤に、映画「フランケンシュタイン」を絡ませた点も素晴らしく、もの心がつくギリギリの頃の幼少期のピュアな感情が上手く表現されています。精霊だと信じたアナが姉の嘘を真に受けて小屋に通い、そして本当に出会うのです。この映画が唯一無二な点がここにあります。畳みかけるようなその後の展開がドラマチックで、毒キノコとフランケンシュタインのエピソードが上手く重なり合い綺麗に伏線回収されます。 子供らのシーンは本当に素晴らしく、ここに書ききれないほど。列車のシーン、猫のシーン、火のシーン、アナが井戸の周りで行う儀式めいたシーン、石鹸のシーン、ミルクを飲むシーン、もちろん小屋でアナが隙間から精霊をのぞいているシーンの愛らしさったら! 子供への演出もさることながら、大人のほうもフランコ独裁を声高に否定せずとも静かにかつ情緒的な演出が上手く使われています。序盤、母テレサ(テレサ・ヒンペラ)が手紙を書いて自転車で駅へ向かうシーンはとても印象深いです。手紙の内容は明らかに負けた側の視点で、逃げ延びた友人か家族か同志に宛てた手紙であることが判ります。終盤返事が届いた手紙を読んで不自然に封筒へ戻したうえで燃やすシーンも、【K&K】さんご指摘の通り確かに切手が見えるように燃やしていますので何かの意図があるようです。また、父フェルナンド(フェルナンド・フェルナン・ゴメス)がミツバチの研究という体で詩的な録音を行っていますが、こちらもメーテルリンクの書物から慎重に言葉が選ばれていて意味深です。書いた文字を横線で無造作に消すシーンも、、まあ・・そういうことなのでしょう。 序盤は寝たふりをしていた妻が、終盤旦那を労わるシーンで前向きな印象を受けますし、同時にラストのアナの強いまなざしもまた未来への希望を抱かせつつ、この映画は幕を閉じます。本当に文句のつけようがない素晴らしい作品です。 [地上波(字幕)] 10点(2025-04-10 12:52:12)(良:1票) |
16. ドクトル・ジバゴ(1965)
三時間越えの超有名大作映画が複数録画されており、意を決して「風と共に去りぬ」「ライトスタッフ」と立て続けに鑑賞。トリを飾るに相応しいであろう”壮大な映画であった”とすこぶる評判の良い「ドクトル・ジバゴ」を、飲み物とポテチを準備して勇んで取り組みました。結果あっさり撃沈。私にはあまり合わない映画でした。。(合唱) 随所に素敵な風景、雄大な風景、美しい女性が大写しになります(自宅ですが一応100インチ2.1チャンネル)が、とにかく退屈な映画であったというのが私の率直な感想です。むしろ3時間がほぼ拷問&睡魔との闘いでした。なんとなく物語のかみ合わせが上手くなくて、イマイチ全体像がまとまっていないような印象も受けましたし、そもそも、序盤前のめりになった人探し感は一体何だったのか。50分が過ぎても寒さとドロドロした人間関係みたいなものばかりで辟易してしまいました。ただ、これに関しては私自身が独身であるせいか、男女間の複雑な人間模様についていけていない部分もあったのかもしれません。要するに、、私自身がおこちゃま過ぎて、この映画に向き合うほどの男女の経験を重ねていないということなのかもしれません。 「ドクトル・ジバゴ」→「ライトスタッフ」→「風と共に去りぬ」の順番に見るべきでしたが、反対の順番に見てしまったようで、これに関しては完全にプランニングを間違ってしまったようです。とにかく、私にとってはちっとも面白いとは感じられませんでしたので、もしかすると私の感性が間違っているのかと考察サイトも読みました。賢い考察者が多く考察内容からは面白い映画のように感じさせられますが、実際に見た私自身の心の中では、ぶっちゃけ年に10本の指に入る「苦痛映画」認定となりました。ファンの皆様、本当にごめんあそばせませ・・ [地上波(字幕)] 3点(2025-03-30 14:18:56) |
17. ライトスタッフ
《ネタバレ》 本作も作品の長さ故に長年敬遠してきた映画の一つでしたが、ついに見る決心が固まり鑑賞に至りました。個人的には25~30年ほど前にイェーガーに感化されて復刻版のフライトジャケットを買いあさった時期がありました。折しも丁度ビンテージジーンズ、バズリク、マッコイ、レッドウィングなどが流行った時代で、湯水のようにお金を使った苦い思い出が蘇ります。。 さて、本作「ライトスタッフ」(原題:The Right Stuff)という言葉を検索してみると、、「正しい資質」「適性」という意味だそうです。まさに宇宙飛行士やパイロットに対して使う言葉で、序盤からイェーガー(サム・シェパード)を筆頭に泥臭い男たちがわんさか出てきて観客側の気持ちも高まります。序盤こそ頑なに己のみを信じる、まさに「男の中の男」を地で行く脳筋男がワチャワチャと盛り上がりますが、この楽しい雰囲気は早々にフェードアウトします。そして物語はアメリカ初の宇宙飛行士育成の話(マーキュリー計画)にシフトしてしまいます。 前述の通り、若い時に沢山の広告雑誌や専門誌を読み漁りましたのでテストパイロットのことは色々知っていましたし、てっきりイェーガーの映画だと思っていましたので正直テンションはダダ下がりです。テストパイロットの先にあるものが宇宙開発であることはもちろん理解してはいましたが、まさか宇宙の話(マーキュリー計画)がメインになるとは思ってもいませんでした。また、各個別の話は割と面白いものの、それらをつなぎ合わせた全体を見渡すとあまり面白くありません。全体的にはかなり散漫な印象でイマイチ乗り切れないのです。これでしたら普通にNHKのドキュメント番組でも見たほうがよっぽど面白かったかもしれません。 色んな意味でまあまあな作品でしたがラスト、イェーガーの命を懸けた挑戦は文句なしにカッコ良く、結局、色んな意味でイェーガーマンセーに尽きる作品だったように感じます。方向的にはイェーガーの話に集約させてシンプルな脳筋男サイコー映画に仕上げていただきたかったところです。(余談ですが、イェーガー役のサム・シェパード以外ではやはりジョン・グレン(エド・ハリス)が印象的で、、一際スクリーン映えしていました) [地上波(字幕)] 6点(2025-03-28 14:21:13) |
18. 風と共に去りぬ
《ネタバレ》 長いので敬遠していましたが名作を知らずに死ぬのは惜しいということで、ついに鑑賞するに至りました。結論から申しましたら、、予想よりずっと良かったです。ただし主人公に共感できる部分はかなり少なく、やはりメラニー・ハミルトン(オリヴィア・デ・ハヴィランド)、ベル・ワトリング(オナ・マンソン)、レット・バトラー(クラーク・ゲイブル)らがこの映画の真の主人公であったといわざるを得ませんでした。特に彼ら三人の言葉と行動は非常に奥深く、崇高で高貴な人間の本質を知ることができる希少な映画に仕上がっています。これは本当に心底素晴らしい部分で、この映画が名作として名高い理由でもあると思います。 女という生き物の本質なのか、あの時代特有のモノなのか、はたまたスカーレットだけがああなのか・・ この点に関して深く追求する気はありませんが、主人公スカーレット・オハラ(ヴィヴィアン・リー)の価値観や行動原理がイマイチ納得いかない感じでした。でも彼女のバイタリティやパワーは時代を超えて認めるべき部分ではありますし、本来なら10代のおぼこい女の子の時点で友人であるメラニーの内面を理解する努力をし、アシュレー・ウィルクス(レスリー・ハワード)の言葉の本質を見抜き、そして「諦めることの大切さ」を学ぶことができていれば、彼女の人生はもっと豊かで穏やかなものであっただろうと感じます。これは親のしつけの問題なのか、もしくは良い友人に恵まれなかったからなのか、彼女の若さ故なのかはよくわかりませんが、とにかくスカーレットは良い生き方ができませんでした。これはある意味非常に不幸なことだと思いますが、彼女はそれをもはねのける強い心が備わっていて、そういった意味では彼女もまた非常に興味深い人物に仕上がっていました。(まあでもメラニーという素敵な友人が傍にいた訳だし、人生の節目節目にレットという素晴らしい男性もいた訳で・・) 皆さん同様、インターミッション後の流れが少々駆け足過ぎて感情移入を許さなかったのは残念です。ロンドン別居から戻ってくるまでほとんど2カットはあまりにも適当すぎるし、人生の転機であるはずの実子の死やメラニーの死すらあまりにも早足過ぎて・・ これではスカーレットが何に感化され、何を感じてラストに至ったのか観客側は全く理解できません。この適当すぎる演出やストーリーテリングはもうちょっと上手なやり方があったように思います・・ 少し辛口でしたが、全体的に見て良かった(知ることができて良かった)と思える名作映画であったことは事実です。この時代なのにカラーであったこと、また画面の構図などもいちいち素晴らしく、スパルタカス(1960)、十戒(1956)、アラビアのロレンスなどと同様、映画ファンでしたらやはり一生に一度は見ておくべき名作の一つであることは間違いありません! [地上波(字幕)] 8点(2025-03-28 14:04:59)(良:1票) |
19. マルホランド・ドライブ
《ネタバレ》 世に溢れる考察サイトにも書かれていますが、リンチ監督の頭の中(ベティ=ダイアンの頭の中というべきか)が上手く具現化された珠玉の名作だと思われます。いえ確かに、、全体的に脈絡が無く観客視点的には置いてけぼり感強めの作品であるのは事実ですが、しかし不思議なことに妙に熱中してしまうのです。イレイザー・ヘッドしかり、リンチ作品にはなんだかよく判らない不思議な魔力が詰まっているのは確かなようです。 深夜のサンセット大通りの美しいヤシの並木、小指を立てて飲むエスプレッソ、夢の中でしか会いたくない不気味な浮浪者、妙に欲しくなる青い鍵と青い箱、不気味なカウボーイの言葉、深夜のクラブ・シレンシオの司会者etc、、、 とにかく本作には引き込まれる何かがある。リンチ監督は映画体験がどういうモノかよく理解して映画を作っているような気がします。個人的には全てのシーンでの、あの”まどろっこしい間”が本当に素晴らしい。何か出そうな、でも出ないような、待ちかねるような、しかし待ちかねないような、なんともいえない絶妙な間とカメラワークが本当に素敵でした。 で、 この作品を時系列通りに並べてしまうと、、まるで退屈な作品に成り下がってしまいます。そもそも論、ベティ=ダイアン(ナオミ・ワッツ)が失恋の感傷に浸ろうが後悔して妄想を繰り広げながらオ●ニーしようが、見ている観客には割とどうでもよかったりします。しかしこのどうでもいいことを、さも大事なことのように表現されている点がこの映画の肝です。というか、心底素晴らしい点です。(いや、でも冷静に考えたら所詮妄想ネタだし、やはりどうでも良かったりする訳ですが・・) ダイナーで意味ありげに夢の話を繰り広げ、ケシャー監督がアイアンでマフィアの車を襲撃し、秘密結社が妙な電話のやり取りを行い、悪魔のカウボーイとの意味深な掛け合い等々、、これらに一体どれほどの意味があったのか?観客はリンチ監督の手の上でただ単に踊らされているだけなのか・・ 私も一度目の鑑賞時は結局何だかよく判らないモヤついた気持ちになりました。速攻で考察サイトを読み漁り翌日再トライ。内容を理解してしまえば、皆さんが高得点を付けているのがよく解ります。見れば見るほどに各シーンの奥深さが感じられる?のか?少なくともそう感じさせる何か崇高なモノが宿っていると感じます。よく考えたらイレイザー・ヘッドも3日連続で鑑賞することになったし、エレファントマンも素晴らしかった。もしかしたら私はリンチ監督の作風がもの凄く好きなのかもしれない。 ちなみに、大好きなロバート・フォスターの意味深なセリフが無意味だったのが悲しかったです。また、オーディション時にエロい演技でウディ・カッツ(チャド・エヴェレット)を官能的に誘惑するシーンはちょっとしつこかったかなと思いましたし、全体を見渡した時にやはりちょっとグロい映画なので若干減点してあります。 [インターネット(字幕)] 8点(2025-02-06 18:26:49) |
20. フィラデルフィア
お涙頂戴物語なんだと勝手に決めつけていて、今まで本作を手に取ることはありませんでした。録画されていたので落ち着いて鑑賞してみると、意外にも淡々と現実を見せ切る正直路線だったので少々驚きました。トム・ハンクスは沢山の主演男優賞を受賞していますので、一般的に考えればトムハンクス・アプローチは正しいと思いますが、私は彼の過剰表現が嫌いです。しかしながら意外にも本作の彼はそんなに悪くはなかったです。 アメリカという国において、独立宣言が発せられたフィラデルフィアで偏見や差別が行われているのが皮肉として面白いといわれていますが、ソレとコレは別の話のような気がします。そもそも、主人公アンドリュー・ベケット(トム・ハンクス)は大会社の上層部に食い込みたいという野心と情熱があった割に、自身が蝕まれているエイズという特殊な病気のことをあまりにも軽んじていたように思います。彼が考える基本的人権と平等を得たいという感覚や気持ちは理解できるものの、法律に詳しいアンドリューでしたらこの映画のような流れは必然だったように感じます。訴訟大国アメリカにおいて、ゲイであることとエイズ発症を隠して大手法務部に食い込むのはあまりにもリスキー過ぎる行動だったといわざるを得ません。 しかし本作において法廷部分はあまり重要ではないのか、、法廷論争はウマく流れていません。見ている側、特に私に限ってはほとんど中身が入ってきませんでした。アンドリューの痛々しい風体ばかりが目に入って話し合っている中身が入ってきません。他の方がご指摘のように、アンドリューを助ける弁護士ミラー(デンゼル・ワシントン)もイマイチ空気と化してしまっていて、うまく鑑賞者の立場になっているようには思えませんでした。法廷部分に関しては連続ドラマ、アリー・マイ・ラブのほうがずっとドラマチックで面白かったように感じます。 鑑賞後、日を開けてレビューを書こうとするとあまり得るものが無かったように感じます。しいて挙げれば、、この当時はまだまだ世の中は偏見と欺瞞に満ちていて、エイズと聞けば同性愛、不潔、近づくとうつる、感染したら死ぬ等、未知のウィルスに対して偏見の塊で見られていました。現代、体液を介さないと感染しないと判っていても、やはり一緒に食事をするには緊張してしまいます。悲しいかな、ウィルス性の病気にはそういった怖さがずっと付きまといます。 長くなりましたが、ジョナサン・デミ監督が意図したように「独立宣言と差別」「ゲイ問題」など色々絡めてある割にはそれぞれがバラバラに独り歩きしているような映画でした。本作で名シーンの一つに挙がるであろう、マリア・カラスの「ラ・ママ・モルタ」のシーンもくど過ぎて見ていて嫌になりそうでした。。ただ、オープニング曲のスプリングスティーン「ストリート・オブ・フィラデルフィア」と、エンディング曲のニール・ヤング「フィラデルフィア」はそれぞれ名曲だと思います。 [インターネット(字幕)] 6点(2025-01-26 16:28:51) |